説明

活性化可能な遊離型PSAの検出方法、並びに、前立腺の良性病状及び前立腺ガンの診断におけるその使用

【課題】活性化可能な遊離型PSAの検出方法、並びに、前立腺の良性病状及び前立腺ガンの診断におけるその使用の提供。
【解決手段】本発明は、前立腺の良性病状又は前立腺ガンのin vitroにおける診断方法であって、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料中で、活性化可能な遊離型PSAを検出する工程を含むことを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺ガンの診断に関する。詳細には、本発明は、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者において、前立腺特異的抗原(すなわちPSA)の活性化可能な遊離体を特異的に認識可能な結合パートナーを使用することにより、上記病状を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PSAは、おそらく不活性なチモーゲン体の形態でヒト前立腺の腺上皮により産生され(非特許文献1)、活性体の形態で精液中に分泌される(非特許文献2)。精液中におけるPSAの生物学的活性は、精嚢により分泌される主要タンパク質の、タンパク質分解による断片化が限定されていることに関連する(非特許文献2〜4)。
【0003】
PSAは前立腺ガンの主要なマーカーであり、西欧諸国において男性6人中1人が生涯に前立腺ガンに罹る。カリクレインファミリーに属するこのプロテアーゼは主に前立腺上皮から分泌され、患者において、精液中に濃度0.5〜5mg/mlで見られ、血清中にその100万分の1の低濃度で見られる。従って、PSAは通常、血清中において濃度2.5ng/ml未満で見られる。しかし、この濃度は、前立腺ガンが存在する場合、及び、良性の前立腺肥大(BPH)又は急性前立腺炎等の良性の変性が存在する場合に、原則として著しく増加する。
【0004】
PSAのタンパク質配列が決定されている。PSAは、アミノ酸237個のグリコタンパク質である(非特許文献5)。
【0005】
血清PSAの濃度を測定して、これをしきい値(4ng/ml)と比較することからなる診断方法が提案されている。しかし、この診断方法では、4人中3人の患者を誤診することになるため、不都合であるということに留意すべきである。更に、この方法では、治療できる可能性があるために診断が特に望まれる早期段階(腺ガンに限定されるガンの症例の30〜45%を占める)を診断することが不可能である。この方法が比較的不十分であるということについては論文(非特許文献6)にも報告されており、上記論文は、前立腺ガンを早期にスクリーニングするためには、しきい値が4ng/ml未満でなければならないと記載している。
【0006】
更に、血清中において、PSAは、α−1−アンチキモトリプシン(ACT)及び1’α−2−マクログロブリン(A2M)等のプロテアーゼ阻害剤と会合することが分かっている。この会合により、論文(非特許文献7)に示されるように、PSAのキモトリプシン活性の不活性化が生じる。また、この会合から、血清中に存在するPSAが遊離体(すなわち、非会合体)と複合体(すなわち、会合体)のいずれであるかを示すことも可能となった。従って、診断の特異性の改善にあたり、総PSAに対する遊離型PSAの比を使用することが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1は、生検を行わない前立腺ガンの診断方法を記載する。この方法は、患者の血清又は血液中における総PSA量を測定することからなる。この値が2.5〜20ng/mlである場合には、遊離型PSAの濃度についても測定する。次いで、総PSAに対する遊離型PSAの比を算出する。この比が7%未満である場合、前立腺ガンであると診断する。
【0008】
しかし、Leinらの発表(非特許文献8)に示されるように、前立腺ガンの診断においてしきい値を7%とすることについては、多くの著者が異議を唱えている。この発表は総説(非特許文献9)中に記載されており、この中で、上記の比によって前立腺ガンとBPHとを体系的に区別するのは難しいと記載されている。
【0009】
上記理由により、本出願人は、特許文献2において、遊離型PSAのうちPSAの切断体が血清中に存在することに焦点を当てた。ガン又はBPHに罹患した患者における血清PSAの分子形態を二次元電気泳動(化学発光の検出に関連する)によりマッピングすることにより、PSAの全ての形態(すなわち、切断体及び複合体を含めた遊離体)を観察した。
【0010】
前立腺ガンに罹患した患者由来の血清の電気泳動結果は比較的同一で、遊離型PSAの非切断体を実質的に示し、一方、BPHに罹患した個体由来の血清の電気泳動結果は、比較的高い割合の遊離体の切断体、及び、切断体を含まず塩基性がわずかに強いスポットを含む可能性がある。従って、BPHに罹患した患者における、血清中の総PSAに対する血清中の遊離型PSAの比の増加は、実質的に、(酵素的に不活性であり得るためにACTに結合できない可能性のある)遊離型PSAの切断体の存在、及び、(不活性なチモーゲン体PSAに関連する可能性のある、)活性遊離型PSAよりもわずかに塩基性の強い遊離型PSAの存在に関連すると考えられる。
【0011】
これらの観察に関して、本出願人は、遊離型PSAの切断体及び/又は非切断体を二次元電気泳動で分離した後に定量することを含む、前立腺ガンの診断方法、並びに、上記値の使用による診断の確立について以前に述べた。
【0012】
しかし、上記方法は、診断を改善し得うるが、二次元電気泳動を使用する必要がある。結果として、上記方法は極めてコストがかかり、かつ、操作時間が長くなる。
【0013】
上記の操作を避けるため、特許文献3は、不活性な遊離型PSAを特に標的とする新規抗体、及び、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法におけるその使用について記載する。
【特許文献1】WO97/12245号公報
【特許文献2】WO00/02052号公報
【特許文献3】WO01/77180号公報
【非特許文献1】Lundwallら.FEBS Lett.1987
【非特許文献2】Lilja,J.Clin Invest 1985
【非特許文献3】Liljaら,J.Clin Invest 1987
【非特許文献4】Mc Geeら.Biol.reprod.1988
【非特許文献5】“Molecular cloning of human prostate specific antigen cDNA”,Lundwall A.,Lilja H.,1987.FEBS Lett 214:317−322
【非特許文献6】“Prostate Cancer Detection in Men With Serum PSA Concentrations of 2.6 to 4.0 ng/ml and Benign Prostate Examination”、Catalonaら,JAMA,14 Mai 1997−Vol.277,No.18
【非特許文献7】“Enzymatic activity of prostate specific antigen and its reactions with ultracellular serine proteinase inhibitors”、A.Christensson,C.B.Laurell,H.Lilja,1990 Eur.J.Biochem 194:755−763
【非特許文献8】“Relation of free PSA/total PSA in serum for differentiating between patients with prostatic cancer and benign prostate hyperplasia:which cutoff should be used?”
【非特許文献9】Cancer Investigation,16(1),45−49,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本出願人は、患者由来の生物学的試料中に、遊離型PSAの中でも、チモーゲン体(ProPSA)ではないが活性化可能な(すなわち、プロテアーゼ阻害剤との反応性を潜在的に有する)新規形態のPSAが存在し、かつ、この活性化可能な遊離型PSAの検出によって、前立腺の良性病状に罹患した個体と前立腺ガンに罹患した個体とを、優れた特異性及び感度で識別する診断が可能になることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明の目的は、前立腺の良性病状又は前立腺ガンのin vitroにおける診断方法であって、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料中で、活性化可能な遊離型PSAを検出する工程を含むことを特徴とする方法である。
【0016】
患者の精液又は血清等の生体液中に存在するPSAの種々の形態の名称は、著者によって様々であることが多い。しかし、総PSAは2つの形態、すなわち遊離体(遊離型PSA)及びACT等のプロテアーゼ阻害剤と複合体化した形態(PSA複合体)として存在するという考えで一致している。また、遊離型PSAはその大きさによって命名することもできる:ProPSAの形態で産生される場合、更なるアミノ酸(7個又は5個又は4個又は2個)を有する。そのため、チモーゲンPSA又はProPSA−7、ProPSA−5等と呼ばれる。このproPSAは、成熟により更なるアミノ酸を消失した後、完全体又は部分体のいずれかになり得る。後者の場合、PSAの分断体又は切断体という。遊離型PSAの完全体は変性(グリコシル化又は脱グリコシル化)される可能性もあり、この場合、変性体と呼ばれる。従って、遊離型PSAには、チモーゲンPSA、変性していても変性していなくてもよいPSAの完全体、及び、PSAの切断体が含まれる。
【0017】
PSAの種々の遊離体又は複合体は、活性体及び不活性体とも呼ばれる。用語「活性体」は、ACT等のプロテアーゼ阻害剤に結合可能な形態を意味するものである。用語「不活性体」は、このような結合能力を有さない形態を意味するものである。PSA複合体は、既に阻害剤に結合しているために不活性であることが知られている。また、遊離型PSAの切断体及び遊離型PSAの変性体は阻害剤に結合する能力を有さないために不活性である。最後に、阻害剤のチモーゲン体は不活性である。そして、他の遊離型PSAは活性である。これらの活性体は精液又はLnCaP細胞系の上清中に存在するが、プロテアーゼ阻害剤と複合体化しているために血清中には存在しないと一般的に考えられている。
【0018】
本出願人は、予想外にも、これらの遊離体の中でも、患者の生物学的試料中には、活性化可能な遊離体(すなわち、血清中でプロテアーゼ阻害剤に結合し得る形態)が存在し、この活性化可能な遊離体が活性化された後で上記の結合が可能であることを本明細書中に示した。また、この活性化可能な遊離型PSAをアッセイすることにより、前立腺ガン又はBPHに罹患した患者の診断が可能になることも示した。
【0019】
本出願人は、理論上は、この活性化可能な遊離型PSAは、活性化されると、ACTと複合体化する形態のPSAと同等になると考える。この活性化可能な遊離体は、ACT結合部位を閉じ込めたPSAの「閉鎖」体であり、その活性化により、「閉鎖」体を「開放」体に転換して結合部位を解放可能である。
【0020】
本発明の診断方法は、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナー又は活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能な結合パートナーのいずれかを用いて実施することができる。
【0021】
従って、第一の実施形態によれば、本発明は、前立腺の良性病状又は前立腺ガンのin vitro診断方法であって、以下の工程:
i)活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーを、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料と接触させる工程、
ii)活性化可能な遊離型PSAが上記結合パートナーに捕獲されたことを実証する工程、
iii)同一の個体から採取した同じ性質の試料中に存在する、上記活性化可能な遊離体以外の形態のPSAの量に対する、工程ii)で検出された活性化可能な遊離型PSAの量の比を算出する工程、並びに、
iv)工程iii)で決定した比の値と、使用する比の種類及び個々の病状の検出限界の典型に従って選択された所定のしきい値とを比較することにより、患者が前立腺ガンと前立腺の良性病状とのいずれに罹患しているかを決定する工程:
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0022】
本出願人は、予想外にも、本発明の目的に好適な結合パートナーの中でも、配列番号1(DTPYPWGWLLDEGYD)の配列により模倣されるエピトープを認識する結合パートナーが、血清中で、この活性化可能な遊離型PSAに特異的かつ効果的に結合し得、かつ、遊離型PSAの変性体若しくは切断体又はProPSAのいずれにも結合しないこと、並びに、この特異性によって、感度及び特異性が非常に高い前立腺関連病状診断方法の取得が可能になることを発見した。
【0023】
本発明の方法を実施する生物学的試料は、PSAを含む傾向がある任意の生物学的試料である。このような試料の例としては、精液、血液、血清、血漿及び尿を挙げることができ、血清及び血漿が特に好ましい。
【0024】
本発明の目的に好適な、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーとしては、例えば、抗体、抗体断片及びミモトープ(mimotope)が挙げられ、また、この能力を有することが当業者に公知である任意のパートナーも挙げられる。
【0025】
用語「抗体断片」は、本願において一般的に、起源の抗体の特異性(本願の場合、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合する能力)を保持した任意の抗体断片、詳細には、Fab及びF(ab’)型の断片を意味するものである。また、本願において、用語「抗体」は、許容される場合には抗体断片も意味する。
【0026】
本発明の目的のために有用な抗体としては、特に、精製ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体が挙げられる。
【0027】
ポリクローナル抗体の調製及びモノクローナル抗体の調製は、当業者に広く公知であり、以下に、この調製の原理を説明する。
【0028】
ポリクローナル抗体の取得は、対象である少なくとも1つの標的抗原で動物を免疫し、続いて、上記動物の血清試料を採取し、(特に、上記抗体によって特異的に認識される抗原(特に、対象である標的抗原)を付着させたカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーによって)他の血清成分から上記抗体を分離し、所望の抗体を精製した状態で回収することによって実施できる。
【0029】
モノクローナル抗体はハイブリドーマ技術により取得可能であり、その一般的な原理を以下に挙げる。
【0030】
まず動物を、一般的にはマウス(又は、in vitroにおける免疫の場合は培養細胞)を、対象である標的抗原で免疫する。これにより、Bリンパ球が上記抗原に対する抗体を産生できる。次に、このような抗体産生リンパ球を「不死」筋腫細胞(例示におけるマウス細胞)と融合させ、ハイブリドーマを作成する。こうして得られた異種細胞混合物から、特定の抗体を産生でき、かつ、無限に増殖できる細胞を選択する。ハイブリドーマをそれぞれクローンの形態で複製し、それぞれにモノクローナル抗体を作成させ、所望の腫瘍抗原に対する認識特性を(例えば、ELISAによって、一次元若しくは二次元イムノブロッティングによって、免疫蛍光法によって、又は、バイオセンサーの使用によって)試験することができる。こうして選択したモノクローナル抗体をその後、(特に、上述のアフィニティークロマトグラフィー法によって)精製する。
【0031】
用語「ミモトープ」は、上記エピトープと特異的に相互作用するコンフォメーションを模倣することができる任意の合成又は組み換えペプチドを意味するものである。
【0032】
好ましい実施形態によれば、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーは、以下の条件のうち少なくとも1つを満たす:
−配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能である;
−抗体又は抗体断片である。
【0033】
本発明の目的に好適な結合パートナーにより認識される配列番号1の配列は、PSAのコンフォメーション性エピトープを模倣する。
【0034】
本発明の目的に好適な、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能な抗体の例には、Michel S.ら,1999,Clinical Chemistry,45(5):638−650に記載の抗体5D3D11が挙げられる。本発明の方法においてこの特定の抗体を使用するということは予想していなかった、というのは、この文献が、この抗体はPSAの酵素活性を阻害することによりACTの結合を阻害可能であること;言い換えれば、PSAの「開放」された活性な遊離体のみに結合可能であることを示しているからである。本願においては、本出願人は、これが、活性化可能な遊離体、すなわち「閉鎖した」形態にも結合可能であることについても示した。
【0035】
活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナー、及び、活性化可能な遊離型PSAからなる複合体は新規であり、これらもまた本発明の目的を構成する。
【0036】
一実施形態によれば、本発明の複合体の、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な上記結合パートナーは、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能な結合パートナーである。
【0037】
本発明の診断方法の第二の工程は、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な上記結合パートナーが上記活性化可能な遊離型PSAを捕獲したことを実証することからなる。
【0038】
この工程は、上記結合パートナーと上記活性化可能な遊離型PSAとの間の結合を検出することにより、又は、上記結合パートナーによって免疫捕獲された上記活性化可能な遊離型PSAを溶出した後に、直接実施することができる。上記活性化可能な遊離型PSAを上記結合パートナーによって免疫捕獲した後に溶出したものを、活性化可能な遊離型PSAの免疫精製物と呼ぶ。
【0039】
活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な上記結合パートナーにより免疫捕獲された活性化可能な遊離型PSAの溶出は、pHショック等の当業者に公知の任意の溶出方法により実施することができる。例えば、0.1Mグリシン緩衝液(pH2.8)を使用する酸性ショックが好ましく用いられる。
【0040】
上記活性化可能な遊離型PSAの捕獲の検出は、免疫精製されているか否かにかかわらず、免疫アッセイの分野で公知の直接的検出及び間接的検出等の検出手段により実施することができる。
【0041】
間接的検出(すなわち、検出パートナーによる検出)の場合、活性化可能な遊離型PSAに結合可能な検出パートナーが使用される。この検出パートナーは、活性化可能な遊離型PSAが免疫精製されていない場合に工程i)で使用される結合パートナーにより使用されるエピトープとは異なるエピトープに結合する。この目的に好適な検出パートナーとしては、抗総PSA抗体等の抗体を挙げることができ、これは本発明の一実施形態を構成する。
【0042】
工程i)で使用される上記結合パートナーにより使用されるエピトープとは異なるエピトープを認識可能なこのような抗PSA抗体の例は、上述のMichel S.らによる論文(1999)に記載されている。
【0043】
これらの検出パートナーは、予め標識しておいてもよい。
【0044】
用語「標識する」は、検出可能なシグナルを直接的に又は間接的に発生することが可能な標識の付加を意味するものである。上記標識としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:
・比色分析、蛍光又は発光により、検出可能なシグナルを発生する酵素(例、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、
・発色団(例、発光又は色素化合物)、
・放射性分子(例、32P、35S又は125I)、
・蛍光分子(例、フルオレセイン、ローダミン、アレクサ(alexa)又はフィコシアニン)、及び、
・粒子(例、金粒子、磁性ラテックス粒子又はリポソーム)。
【0045】
例えば、他のリガンド/抗リガンド対による間接的標識システムも使用可能である。上記リガンド/抗リガンド対は当業者に周知のものであって、例えば、以下の対から形成されるものを挙げることができる:ビオチン/ストレプトアビジン、ハプテン/抗体、抗原/抗体、ペプチド/抗体、糖/レクチン、及び、ポリヌクレオチド/このポリヌクレオチドに相補的な配列。この場合、結合パートナーに結合するのはリガンドである。抗リガンドは、上記段落に記載した標識により直接的に検出可能であってよい、又は、リガンド/抗リガンドによりそれ自身が検出可能であってよい。
【0046】
上記の間接的システムは、特定の条件下でシグナルの増幅を生じることとなる。このシグナル増幅技術は当業者に周知のものであって、本出願人の先行特許出願FR98/10084又はWO95/08000号公報又は論文J.Histochem.Cytochem.,(1997),45:481−491が参照され得る。
【0047】
上記結合パートナーにより活性化可能な遊離体の捕獲の直接的な検出(すなわち、検出パートナーによらない検出)は、例えば、血漿共鳴法、又は、導電性高分子を有する導電体上でのサイクリックボルタンメトリーにより実施することができる。
【0048】
直接的検出は、PSAの活性体の酵素活性の特異性によって実施することもできる。この場合、活性化可能な遊離型PSAの活性化を、適切ならば免疫精製後に実施することが推奨されるであろう。実際に、この活性化可能な遊離体の活性化により、酵素基質に結合する部位が解放され、次いで、この部位が酵素基質と反応することが可能になる。従って、検出は、免疫精製されかつ活性化された遊離型PSAの酵素活性を決定することにより実施され、このことは、本発明の特定の一実施形態を構成する。
【0049】
本発明の目的に好適な酵素基質の例としては、キモトリプシン型プロテアーゼ活性を有することが明らかであって当業者に広く公知である任意の基質が挙げられる。このような基質は、例えば、Enzyme System Productsから入手可能である。これらは、PSAにより認識され、かつ、切断されたペプチド配列から構成されており、この配列は発色団基又は蛍光団基に結合するものである。
【0050】
活性化可能な遊離型PSAの活性化は、以下の方法のうち少なくとも1つにより実施することができ:
−上記活性化可能な形態を、少なくとも0.15M、好ましくは少なくともlM、より好ましくは上限2Mの高い塩濃度を有する媒体と接触させる方法、
−活性化可能な遊離型PSAの免疫精製物を、PSAの酵素活性を増強可能な抗体に結合させる方法:、
これらの2つの方法は、任意の順序で、別々に実施することも、同時又は連続的に実施することも可能である。
【0051】
高い塩濃度を有する媒体としては、例えば、1.5M NaClを含む培地が挙げることができ、PSAの酵素活性を増加させることが可能な抗体としては、抗体8G8F5(ビオメリュー社,フランス)が挙げることができる。
【0052】
これらの抗体の、PSAの酵素活性を増強可能な特定の特性のために、これらを本発明の方法に使用することにより、上記方法の感度を改善することが可能になる。
【0053】
従って、一実施形態によれば、本発明の方法は、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーに加えて、PSAの酵素活性を増強可能な抗体、特に抗体8G8F5を使用することを特徴とする。
【0054】
このPSAの酵素活性を増強可能な抗体は、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーを使用して活性化可能な遊離型PSAを免疫精製する場合、ELISAアッセイにおける捕獲パートナーとして使用することができる。これはまた、特に、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーを捕獲パートナーとして使用する場合、検出パートナーとしても使用することができる。
【0055】
配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能な結合パートナー等の活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナー、及び、活性化可能な遊離型PSAを活性化したものからなる複合体もまた新規であり、本発明の特定の一実施形態を構成する。
【0056】
本発明の方法において、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合する、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーは、そのままの状態で使用することができる、又は、そうでない場合には、特に、固相支持体に付着したかつ/若しくは標識に結合した形態で使用することができる。
【0057】
これらの結合パートナーの固相支持体への付着とは周知である。支持体は、吸着特性を有するか又はカップリング剤に付着可能な任意の生物由来の又は合成の固相材料から作製することができる。材料は公知であり、文献に記載されている。吸着によりこれらの結合パートナーを付着可能な固相材料の中でも、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等を挙げることができる。カップリング剤を用いた共有結合によりこれらの結合パートナーを付着可能にする材料の中でも、特に、デキストラン、セルロース等を挙げることができる。支持体は、例えば、円盤、管、ビーズ、ティック(tick)又は板の形状であってよく、特にマイクロタイタープレートの形状であってよい。
【0058】
結合パートナーの標識への結合によれば、上述するように、直接検出の実施も可能であろう。この標識は、上記したとおりである。
【0059】
結合パートナーが支持体に結合していない場合、又は、活性化可能な遊離型PSAが免疫精製される場合、本発明の方法は捕獲パートナーも使用することができる。前者の場合、この捕獲パートナーは、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーにより認識されるエピトープとは異なるエピトープに結合し得る。
【0060】
捕獲パートナーの例としては、上記の抗PSA抗体が挙げられる。
【0061】
本発明の方法において、活性化可能な遊離型PSAをアッセイするために捕獲パートナー及び検出パートナーの両方を使用する場合、これらのパートナーは別々のエピトープに結合し、これらのエピトープは、活性化可能な遊離型PSAが免疫精製されていない場合に、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーにより認識されるエピトープとは異なるエピトープである。
【0062】
PSAの活性化可能な形態の種々のパートナーを使用して、活性化可能な遊離型PSAが上記結合パートナーにより捕獲されたことを実証する方法は、当業者に広く公知である。例えば、ELISA法等のサンドウィッチ方法、及び、競合アッセイ法等を挙げることができる。
【0063】
本発明の方法の工程iii)は、同一の個体から採取した同じ性質の試料中に存在する、上記活性化可能な形態以外の形態のPSAの量に対する、工程ii)で検出された活性化可能な遊離型PSAの量の比を算出する工程からなる。
【0064】
「同一の個体から採取した同じ性質の試料」との表現は、同じ標本の2つの画分、又は、2つの異なる標本由来であるが同じ性質を有すると考えられる2つの試料(例えば血清試料)のいずれかを意味するものである。
【0065】
活性化可能な遊離型PSA以外の形態としては、特に、PSA複合体、総PSA、総遊離型PSA、遊離型PSAのチモーゲン体、遊離型PSAの変性体、遊離型PSAの切断体、及び、それらの組み合わせ、すなわち、全ての活性な又は不活性な、遊離型又は複合体のPSAが挙げられる。
【0066】
これらの種々の形態それぞれについてのアッセイ、特に特異的抗体を使用する上記アッセイが周知である。
【0067】
PSA複合体は、例えば、WO98/22509号公報に記載の抗体を用いてアッセイされる。
【0068】
総PSAは、例えば、H.Nagasakiら(1999),Clin.Chem.45:4486−496に記載の抗体を用いてアッセイされる。
【0069】
遊離型PSAの種々の形態に結合可能な他の抗体としては総遊離型PSAが挙げられ、これは、中外製薬(日本)、BiosPacific社(エミリービル,カリフォルニア州)及びEuromedex US Biological社(スワンプスコット,マサチューセッツ州)により販売されている。
【0070】
定量は、上記の免疫反応の検出を実証する方法(サンドウィッチ法等)を用いて公知の様式で実施され、例えば、標識化による方法である場合、標識の量を決定することにより実施される。
【0071】
当然のことながら、測定量の比較を意図する場合には、これらの値は比較が可能であるべきである。言い換えれば、上記測定値は、試料と同じ光学希釈率又は濃度と、及び、同じ体積と関連しているべきである。
【0072】
本発明の方法の工程iii)で算出することができる種々の比は、以下から選択することができる:
−活性化可能な遊離型PSAの量/PSAの総量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/遊離型PSAの総量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/PSA複合体の量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/遊離型PSAの切断体の量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/遊離型PSAのチモーゲン体の量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/遊離型PSAの変性体の量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAのチモーゲン体)の量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の量、
−活性化可能な遊離型PSAの量/不活性な遊離型PSA(チモーゲン、変性及び切断)の量、
−これらの比の逆数、又は、
−これらの比の組み合わせ。
【0073】
好ましい比は、(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の量に対する活性化可能な遊離型PSAの量の比、又は、不活性な遊離型PSAの量に対する活性化可能な遊離型PSAの量の比である。
【0074】
本発明の特定の一実施形態によれば、本発明の方法の工程(iii)において、比の算出に使用される活性化可能な遊離体以外の形態のPSAの形態は、遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体又は不活性な遊離型PSAである。
【0075】
上記算出は、以下のように明白に実施される:
−個体から採取した生物学的試料中の活性化可能な遊離型PSAの量は、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーを用いて上記のように評価される、
−PSAの総量、遊離型PSAの総量、PSA複合体の量、遊離型PSAのチモーゲン体の量、遊離型PSAの切断体の量、遊離型PSAの変性体の量、遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体の量、遊離型PSAの変性体+遊離型PSAのチモーゲン体の量、及び、不活性な遊離型PSAの量から選択される量のうちの1つ、又は、それらの組み合わせを、同一の個体から採取した同じ性質を有する試料について評価する、かつ、
−上記比又は上記逆数比又は上記比の組み合わせを決定する。
【0076】
本発明の方法の工程iv)は、工程iii)で決定した比の値と、使用する比の種類及び個々の病状の検出限界の典型に従って選択された所定のしきい値とを比較することにより、患者が前立腺ガンと前立腺の良性病状とのいずれに罹患しているかを決定することからなる。
【0077】
一般的に、免疫アッセイの結果は、使用する抗体の特異性及び親和性に大きく依存すること、並びに、これらの特性は、これらの抗体を用いて測定した値に影響を及ぼすことが知られている。従って、正確なしきい値を得るのは不可能であり、また、使用される各抗体に好適なしきい値は、単純な常套の実験により個々の場合毎に決定することができると想定される。
【0078】
本明細書中でいう用語「しきい値」とは、不連続な値、又は、不確定な領域に対応する値の範囲であることが明瞭に理解されるであろう。当然のことながら、測定値が不確定な範囲に含まれる場合、又は、不連続な値であればしきい値に非常に近い場合は、決定的な結論に到達するのは不可能であるため、更に調査を実施するべきである。
【0079】
当然のことながら、特定の種類の比についてしきい値が決定されている場合は、それから他の種類の比に対応するしきい値を推定することが可能である。
【0080】
活性化可能な遊離型PSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比又は活性化可能な遊離型PSA/不活性な遊離型PSAの比を考慮する場合、上記比を用いて得られたしきい値を超える比を有する患者は、前立腺ガンであると診断することができ、このしきい値未満の比を有する患者は、BPH又は他の非ガン性の前立腺病状(「正常な患者」)であると診断することができる。
【0081】
一般的に、活性化可能な遊離型PSAの量が算出された比の分子である場合、上記比を用いて得られたしきい値を超える比を有する患者は前立腺ガンと診断され、このしきい値未満の比を有する患者は、BPH又は他の非ガン性前立腺病状(「正常な患者」)であると診断されるであろう。一方、活性化可能な遊離型PSAの量が算出された比の分母である場合、上記比を用いて得られたしきい値未満の比を有する患者は前立腺ガンと診断され、このしきい値を超える比を有する患者は、BPH又は他の非ガン性前立腺病状(「正常な患者」)であると診断されるであろう。
【0082】
本発明の方法の実施にあたって、本発明の目的は、以下:
−活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナー、好ましくは、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能な結合パートナー、より好ましくは抗体又は抗体断片、及び、
−活性化可能な遊離体以外のPSAの形態、好ましくは抗体又は抗体断片のアッセイ手段:
を含むことを特徴とする、前立腺ガン又は前立腺の良性病状の診断用キットである。
【0083】
上記キットに使用することができる上記手段は、定量が望まれる形態のPSAのアッセイについて上記したとおりである。
【0084】
本発明の方法は、活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能な結合パートナーを用いて実施することもできる。
【0085】
上記パートナーは、特に活性化可能な遊離型PSAを含む総PSAと結合可能なパートナーであってよい。このようなパートナーの例としては、抗体、抗体断片及びミモトープを挙げることができ、また、上記したように、この能力を有することが当業者に公知である任意のパートナー、特に抗体11E5C6(Michelら,1999,上記)も挙げることができ、そのコンフォメーション性エピトープはPSAのC末端領域を含む(Michel Sら,2001,J.Mol.Recognit.,14:406−413)。
【0086】
活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能なこの結合パートナーは、活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーと共に、上記の本発明の方法において(すなわち、遊離型PSAの免疫精製用の捕獲パートナー等として)使用することができる。
【0087】
しかし、この特定の一実施形態において、活性化可能な遊離型PSAの検出は、PSAの活性体の酵素活性の特異性を用いて実施しなければならない。この場合、活性化可能な遊離型PSAを活性化させることが推奨される。なぜなら、この活性化可能な遊離体の活性化により、酵素基質に結合する部位が解放され、次いで、これが上記酵素基質と反応することが可能になる。従って、検出は、活性化された遊離型PSAの酵素活性を決定することにより実施される。
【0088】
従って、この実施形態によれば、本発明は、以下:
i)活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能な結合パートナーを、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料と接触させる工程、
ii)活性化可能な遊離型PSAの活性化後に、活性化可能な遊離型PSAの酵素活性を決定することによって、活性化可能な遊離型PSAが上記結合パートナーに捕獲されたことを実証する工程、
iii)同一の個体から採取した同じ性質の試料中に存在する、活性化可能な遊離体以外の形態のPSAの量に対する、工程ii)で検出された活性化可能な遊離型PSAの量の比を算出する工程、並びに、
iv)工程iii)で決定した比の値と、使用する比の種類及び個々の病状の検出限界の典型に従って選択された所定のしきい値とを比較することにより、患者が前立腺ガンと前立腺の良性病状とのいずれに罹患しているかを決定する工程:
からなる工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法に関する。
【0089】
活性化可能な遊離型PSAの活性化は、以下の方法のうち少なくとも1つにより実施することができ:
−上記活性化可能な形態を、上記のように少なくとも0.15M、好ましくは少なくともlM、より好ましくは上限2Mの高い塩濃度を有する媒体と接触させる方法、
−活性化可能な遊離型PSAを、PSAの酵素活性を増強可能な抗体、特に抗体8G8F5に結合させる方法:、
これらの2つの方法は、任意の順序で、別々に実施することも、同時又は連続的に実施することも可能である。
【0090】
PSAの酵素活性を増強可能なこれらの抗体の特異性によって、これらを本発明の方法において使用することにより上記方法の感度を改善することが可能となり、これは好ましい一実施形態を構成する。
【0091】
従って、この実施形態によれば、本発明の方法は、活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能な結合パートナーに加えて、PSAの酵素活性を増強可能な抗体、特に抗体8G8F5を使用することを特徴とする。
【0092】
これに関し、PSAの酵素活性を増強可能なこの抗体は、生物学的試料由来の、特異的又は非特異的に予め免疫精製された活性化可能な遊離型PSAの捕獲パートナーとして、アッセイにおいて使用することができる。従って、抗体に捕獲された後で活性化された遊離型PSAは、その酵素活性により検出することができ、この酵素活性は蛍光基質の加水分解速度から測定可能である。速度の流れは、蛍光単位で表すことができる。PSAの量における相関は、活性なPSAの量について定めた標準曲線から得ることができる。
【0093】
この特定の実施形態の工程i)〜iv)は、上記に記載の例外を除いては、上述したとおりである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0094】
本発明は、以下の実施例及び付随の図面1〜6からより詳細に理解されるであろう。これら実施例は説明のために記載するものであって、何ら限定を意図するものではない。
【0095】
図1は、抗体5D3Dll(写真A)で、6C8D8(写真B)で及び11E5C6(写真C)で免疫精製されたLNCaP細胞の培地上清由来のPSA 0.5μgを用いて得られた3つの二次元電気泳動ゲルの写真を示す。
【0096】
図2は、抗体5D3Dllで予め免疫精製され、かつ、総PSAについてアッセイした精子PSAを用いて得られたPSA濃度に対する蛍光を示す標準的なグラフを示す。
【0097】
図3は、前立腺ガンに罹患し、放射線療法(RT)、ホルモン療法(HT)又は前立腺切除(PR)により治療された患者由来の血清、ガンに罹患しているが治療が知られていない患者(その他)由来の血清、良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清、及び、正常な患者(PN)由来の血清について本発明の方法で得られた「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値(グラフのパートA)、並びに、これらの同じ血清について、先行技術の方法に従って得られた「遊離型PSA/総PSA」比の値(グラフのパートB)を示すグラフである。
【0098】
図4は、「遊離型PSA/総PSA」比が0.15〜0.25である血清中で本発明の方法を用いて得られた「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値を示すグラフであり、上記血清は、前立腺ガンに罹患し、放射線療法(RT)、(RT)ホルモン療法(HT)又は前立腺切除(PR)により治療された患者由来の血清、ガンに罹患しているが治療が知られていない患者(その他)由来の血清、良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清、及び、正常な患者(PN)由来の血清である。
【0099】
図5は、総PSA量が2.5ng/ml未満である、前立腺ガンに罹患した患者由来の血清及び良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清について、「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値を示すグラフである。
【0100】
図6は、前立腺ガンに罹患した患者由来の血清及び良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清について、活性化可能なPSAの検出用の抗体として抗体5D5A5又は抗体11E5C6を用いて得られた「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値を示すグラフである。
【実施例1】
【0101】
<LNCaP上清を使用する活性化可能な遊離型PSAの検出>
1.1 LNCaP上清の調製
LNCaP細胞系を用い、以下の論文に記載の技術に従ってPSAを合成した:“LNCaP Produces both putative zymogen and inactive,free form of prostate specific antigen”、E.Coreyら,1998,Prostate 35:135−143,“Androgen−Sensitive human prostate cancer cell,LNCaP,Produce both N−terminally mature and tuncated prostate specific antigen isoform”、A.Herralaら,1997,Eur.J.Biochem.255:329−335,“Production of miligram concentration of free prostate specific antigen(fPSA) from LNCaP cell culture:Difference between fPSA from LNCaP cell and seminal plasma”、J.T.Wuら,1998,J.Clin.Lab.Anal.12:6−13。
【0102】
上記のようにしてLNCaP細胞系により産生されたPSAは、遊離型PSAから構成される。更に、上記系の培養は、ACTを含む胎児ウシ血清の存在下で実施するため、一定の割合のPSA−ACT複合体が存在する可能性もある。
【0103】
1.2 上清中における遊離型PSAの結合抗体による結合
配列番号1により模倣されるエピトープを認識する結合パートナーである抗体5D3D11、又は、上記エピトープを認識しない結合パートナーである抗体6D8C8(Michel S.ら,1999,上記)のいずれかを使用する。
【0104】
結合は、以下のように実施する:
抗体5D3Dll又は6C8D8を、当業者に周知の、製造者提供の通常のプロトコルに従って、CNBr活性化セファロース樹脂支持体(ファルマシア社)に付着させた。結合比は、膨潤した樹脂1ml当たり5mgとした。5mgの抗体に付着した1mlの樹脂を、約500μgの総PSAを含む200mlのLNCaP細胞上清のプールに接触させ、Vidas検出装置(総PSAキット、ビオメリュー社,フランス)を用いてアッセイした。アフィニティーカラムを2回通過させた後、結合していないPSAを含む部分(F1と呼ぶ)を保存し、抗体が結合したPSAを、0.lMグリシン緩衝液(pH2.8)で溶出し、引き続いて、2M Tris(pH8)を用いてpH7.2に中和した。このように、遊離型PSAを得、抗体5D3D11又は抗体6C8D8を用いて免疫精製した。
【0105】
1.3 抗体5D3D11又は6C8D8で免疫精製した後の上清中の遊離型PSAのアッセイ
1.3.1. 二次元電気泳動による分析
免疫精製によって得られた種々の画分に含まれるPSAを、二次元電気泳動及びウエスタンブロッティングにより分析した。
【0106】
一次元目における分離の間、デポジット試験片(Immobiline Dry−strip pH3−10,18cm,非線形、ファルマシア社)上に固定されたpH勾配を使用する等電電気泳動(IEF)により、変性及び還元条件下で等電点(pI)に従ってタンパク質を移動させる。0.5μgのPSAを、10%のSDS及び2.3%のDTT(ジチオ−1,4−トレイトール)を含む溶液10μlに添加し、この混合物を、96℃で5分間加熱した。次いで、この試料を、膨潤液(8.3M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、100mMのDTT、2%のServalyt 4−9、1mg/mlのOrange G)を用いて500μlにし、試験片と、長さ20cmのガラス試験管中で接触させた。次いで、全体をパラフィン油で覆い、一晩インキュベートした。100〜3500Vで直線的に増加する電圧下で8時間分離を実施し、6000Vにおける泳動工程を80〜100kVh実施した。
【0107】
次いで、個々の等電点に泳動されたタンパク質を、その大きさに従って、SDS電気泳動により、大型で均一の12%アクリルアミドゲル上でゲル1枚当たり40mAで5〜6時間かけて、通常のタンパク質電気泳動技術によって第二の次元で分離した。
【0108】
第二の次元における分離後に得られたゲルを、CAPS/メタノール緩衝液(3−[シクロヘキシルアミノ]−l−プロパンスルホン酸)中においてPVDF膜(ポリビニリデントリフルオライド;ミリポア)上に、一晩かけて電流1Aで、温度を15℃に維持しながらブロットした。膜を、一晩4℃で、0.05%のTween20及び5%の乾燥スキムミルクを含むTBS(Tris緩衝化生理食塩水、15mM Tris、pH8、140mM NaCl)中に浸した。抗PSA抗体13C9E9(PSAの全形態を検出するために以前に同定されている(Charrier J.P.ら,2001,Electrophoresis,22,1861−1866))を、浸漬用溶液(saturation solution)で10μg/mlに希釈し、膜に添加した。37℃で1時間インキュベートした後、膜を浸漬用溶液で3回(5分)洗浄し、ペルオキシダーゼ結合抗マウス抗体複合体(Jackson ImmunoResearch,West Grove,アメリカ合衆国)を接触させ、浸漬用溶液で5000倍に希釈した。次いで、これを室温で1時間インキュベートし、浸漬用溶液中で3回洗浄した。化学発光基質(Pierce社)を用いて、膜をFluor S中でインキュベートすることにより免疫反応を検出し、画像取得を(試料によって1分〜1時間かけて)実施した。次いで、得られた画像を、Multi−Analystソフトウェア(Biorad)を用いて加工した。
【0109】
これらのゲルの写真を図1に示すが、写真Aは抗体5D3D11を使用した場合に対応し、写真Bは抗体6C8D8を使用した場合に対応し、写真Cは比較用の抗総PSA抗体である抗体11E5C6を使用した場合に対応する(Michel S.ら,1999,上記)。
【0110】
この図は、抗体5D3Dllで免疫精製されたPSAは、抗総PSA抗体11E5C6で免疫精製されたPSAと比較して、切断体又は分断体をほとんど含まないことを示す。一方、これらの形態は、6C8D8抗体で免疫精製されたPSA中には、大幅に多く存在する。
【0111】
1.3.3 PSAのN末端配列決定によるPSAの免疫精製物のチモーゲン体及び成熟体の特徴付け
抗体5D3D11又は6C8D8で免疫精製された5〜8μgの細胞PSAを、還元条件下でSDS−PAGEゲル分離に供し、当業者に周知の技術に従って、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜上にブロッティングした。PSAバンドを、3%TCA(トリクロロ酢酸)中に溶解した0.25%のPonceau Red S溶液で染色し、PSAの成熟体(約30KDa)に対応するバンドを切り出し、Procise 292Aprotein sequence(Applied Biosystems社)によるEdman分解に供した。
【0112】
得られた結果は、抗体5D3Dllで免疫精製されたPSAは成熟体(IVGG...)のみを含んでいたが、抗体6C8D8で免疫精製されたPSAは、成熟体、並びに、proPSA(−7)及びproPSA(−5)を含んでいたことを示す。
【0113】
1.3.4 細胞PSAの免疫精製物の酵素活性の測定
Nunc Maxisorp black ELISAプレート(蛍光検出と適合)のウェルを、ストレプトアビジンを10μg/mlで炭酸緩衝液中に溶解した溶液(pH9.6)100μl中で、37℃において2時間かけて被覆し、2mg/mlのBSA(ウシ血清アルブミン)を含むTBS(50mM Tris HCl、pH7.5、0.15M NaCl)で、37℃で2時間ブロット(blot)した。ウェルをTBS−0.05% Tween中で3回洗浄した後、TBS−BSAで10μg/mlに希釈したビオチン化抗総PSA抗体を100μl添加した。抗総PSA抗体は、PSAの酵素活性を変化させない抗体11E5C6(Michel S.ら,1999、上記)、又は、抗体8G8F5(ビオメリュー社,フランス)のいずれでもよい。
【0114】
37℃において2時間インキュベートした後、ウェルを、TBS−0.05% Tweenで洗浄し、TBS−BSAで2.5μg/mlに希釈した抗体5D3Dll又は6C8D8で免疫精製されたPSAを添加し、4℃において一晩インキュベートした。次いで、ウェルをTBS−0.05% Tweenで再び洗浄し、上記TBS−BSA(0.15MのNaClを含む)又はNaCl濃度を1.5Mに増加させたTBS−BSAのいずれかを用いて15分インキュベートした。次いで、ウェルを空にし、0.15M又は1.5MのNaClを含むTBS−BSAで300μMに希釈した100μlの蛍光基質Mu−HSSKLQ−AFC(Enzyme System Products社、ICNの子会社)と接触させた。次いで、酵素速度を、37℃において2時間(励起390nm、発光510nm;1分間につき1回測定)、Fluoroskan reader(Thermolabs Systems社)を用いて測定した。PSAの酵素活性は、得られた曲線の勾配に対応する。
【0115】
結果を以下の表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
酵素活性は、蛍光単位×1000/分で表す。
【0118】
この表は、抗体5D3D11で免疫精製したPSAが検出可能な酵素活性を有することを示す。この活性は、1.5M NaClの存在下で増加する。抗体8G8F5によるPSAの捕獲によっても、PSAの酵素活性は増加する。
【0119】
一方では、抗体6C8D8で免疫精製されたPSAは1.5M NaCl及び抗体8G8F5の存在下で検出可能な活性をほとんど有さず、このことは、PSAのこの免疫精製物が活性化可能ではないことを示す。
【0120】
この実施例は、LNCaP細胞中のPSAの活性遊離体の中でも、本発明の方法により検出可能な活性化可能な遊離体が見出されることを示す。
【実施例2】
【0121】
<前立腺ガンを有する患者由来の血清を使用する活性化可能な遊離型PSAの検出>
用いた血清のプールは、前立腺ガンを有する患者由来の血清30種から構成される。このプールのPSA濃度:総PSA:71ng/ml;遊離型PSA:12ng/ml(Vidas装置を用いて決定した)。
【0122】
2.1. 血清の免疫精製
パラグラフ1.2に記載の樹脂を、抗体5D3D11及び6C8D8を付着させた固相支持体として使用する。この樹脂50μlを、上記血清のプール1mlに4℃において撹拌しながら一晩接触させる。次いで、チューブを遠心分離し、結合していないPSAを含む画分を保存し、樹脂をPBS−0.5% Tweenで3回洗浄し(洗浄画分は合わせて保存する)、次いで、抗体5D3D11又は6C8D8を結合したPSAを、1mg/mlのBSAを含む200μlの0.1Mグリシン(pH2.2)で5分間溶出し、2M Tris(pH8)でpH7.2に中和した。
【0123】
2.1. 血清から免疫精製したPSAの酵素活性の測定
Nunc Maxisorp black ELISAプレート(蛍光検出と適合)のウェルを、ストレプトアビジンを10μg/mlで炭酸緩衝液中に溶解した溶液(pH9.6)100μlを用いて、37℃において2時間かけて「被覆」し、BSA(ウシ血清アルブミン)2mg/mlを含むTBS(50mM Tris−HCl、pH7.5、0.15M NaCl)を用いて37℃において2時間ブロッキングした。ウェルをTBS−0.05% Tween中で3回洗浄した後、TBS−BSA中に10μg/mlに希釈したビオチン化抗総PSA抗体100μlを添加した。抗総PSA抗体は、以下であってよい:
・PSAの酵素活性を変化させない11E5C6、又は、
・捕獲したPSAの酵素活性を増加させる抗体8G8F5。
【0124】
37℃において2時間インキュベートした後、ウェルをTBS−0.05% Tweenで洗浄し、抗体5D3D11又は6C8D8を用いて血清から免疫精製したPSA100μlを添加し、4℃において一晩インキュベートした。次いで、ウェルをTBS−0.05% Tweenで再び洗浄し、NaCl濃度を1.5Mに増加させたTBS−2mg/ml BSAで15分間インキュベートした。次いで、ウェルを空にし、TBS−BSAで400μMに希釈した、1.5MのNaClを含む蛍光基質Mu−KGISSQY−AFC(Enzyme System Products社、ICNの子会社)100μlに接触させた。次いで、酵素速度を、37℃において2時間(励起390nm、発光510nm;1分間につき1回測定)、Fluoroskan reader(Thermolabs Systems社)を用いて測定した。PSAの酵素活性は、得られた曲線のフロー(flow)に対応する。
【0125】
結果を以下の表2に示す。
【0126】
【表2】

【0127】
酵素活性は、蛍光単位×1000/分で表す
【0128】
*血清から直接(免疫精製なしで)測定した活性は実際よりも少なく見積もられる、というのは、活性化PSAは血清ACTと速やかに複合体を形成するからである。
【0129】
この表は、血清から免疫精製したPSAについて酵素活性の測定が可能であること;従って、血清は活性化可能な遊離型PSAを含むことを示す。
【0130】
抗体5D3D11で免疫精製されたPSAと、抗体6C8D8で免疫精製されたPSAとの間には顕著な活性の差異が常に明確に認められ、このことは、抗体5D3D11が、活性化可能な遊離型PSAを特異的に認識することを示す。
【実施例3】
【0131】
<BPHと前立腺ガンとを識別するための診断試験における抗体5D3D11の使用>
アッセイには、適切なアッセイ試薬を含むように適合しているVidas装置を、供給元(ビオメリュー社,フランス)の指示に従って使用する。
【0132】
3.1 患者由来の血清における活性化可能なPSAのアッセイ
抗体5D3D11を、サンドウィッチアッセイにおいて捕獲抗体として使用する。捕獲したPSAを、アルカリホスファターゼに結合させた抗総PSA抗体5D5A5を用いて検出する。このプロトコルもまた上記したとおりである。
【0133】
アッセイの標準化を、供給元の推奨に従い、抗体5D3Dllで免疫精製して総PSAに対してアッセイした精子PSAを用いて実施した。アッセイの検出限界は、活性PSA/ml当たり0.05ng/mlである。0〜1.5ng/mlの濃度範囲の標準化曲線を、図2に示す。この曲線は直線に近いものであり、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識する結合パートナーを使用してアッセイすると活性化可能な遊離型PSAを良好な感度で検出可能であることを示す。
【0134】
3.2 患者由来の血清中の(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)のアッセイ
抗遊離型PSA抗体6C8D8を、不活性な遊離型PSAを血清上で捕獲するための捕獲抗体として用いたこと、並びに、アルカリホスファターゼに結合した抗総PSA抗体llE5C6を、(この場合、遊離型PSAの切断体及び遊離型PSAの変性体を認識する)検出抗体として用いたこと以外は、上記手順を繰り返した。
【0135】
3.3 前立腺ガンとBPHとをより良好に識別するための、活性PSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)比の使用
PSAを含む、患者由来の血清177種を用いて遡及的(retrospective)研究を実施した。これらの血清は以下に対応する:
−PSAの総量、腫瘍の進行度、Gleasonスコア、及び、引き続いて実施される治療(放射線療法、ホルモン療法、前立腺切除又は未知)についての情報を入手可能であるかどうか、が明確に同定された89の前立腺ガン、
−65の良性の前立腺肥大、
−23の正常な前立腺(PSA量が2.5ng/mlより大きいが、生検は陰性である)。
【0136】
上記アッセイを用いて得られた活性化可能な遊離型PSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比を、血清上で算出し、これらの値を、図3のパートA中のグラフに表した。
【0137】
図3のパートAに示すように、PSAの総量が2.5〜10ng/mlである血清に対してしきい値を0.66とし、活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)の比により、22/33のガン(67%)、19/19の正常な前立腺(100%)及び27/28のBPH(96%)を特徴付けることが可能である。
【0138】
比較のため、2つのVidasキット(総PSAキット及び遊離型PSAキット、ビオメリュー社,フランス)を用いて、供給元の推奨に従って、遊離型PSA/総PSA比を算出する。
【0139】
結果を図3のグラフのパートBに示す。このパートBは、不特定の領域が0.15〜0.25の値に存在することを示す。
【0140】
3.4. 本発明の方法の感度
3.4.1 先行技術の方法の不特定の領域に含まれる血清について
先行技術の方法を用いて得られた不特定の領域の血清28種について、本発明の方法に従って得られた、活性化可能な遊離型PSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比の値を、図4に示す。
【0141】
この図は、遊離型PSA/総PSAの比が0.15〜0.25である血清、すなわち、公知の方法ではガンとBPHとを識別できない血清について、活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)の比が、13/15のガン(80%)、7/7のBPH(100%)及び6/6の正常な前立腺(100%)を特徴付けることが可能であることを示す。
【0142】
3.4.2 PSA量が2.5ng/ml未満である血清について
PSA量が2.5ng/ml未満のガンに罹患した患者(11名)又はBPHに罹患した患者(9名)由来の血清20種を選択し、活性化可能な遊離型PSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比の値を図5に示す。
【0143】
この図は、PSA量が2.5ng/ml未満の血清についても、活性化可能なPSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比を用いた前立腺ガンとBPHとの識別が有効であることを示す。
【0144】
3.5 検出抗体の修飾
血清8種(5種の血清は前立腺ガンに罹患した患者由来であり、3種の血清はBPHに罹患した患者由来である)を用いて、抗体11E5C6(Michel S.ら,1999、上記)を検出抗体として用いた以外は、上記手順を繰り返した。
【0145】
結果を図6に示すが、活性化可能なPSAを検出するための抗体として抗体5D5A5を用いた、活性化可能な遊離型PSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比の値を、曲線のパートAに示し、抗体11E5C6を検出抗体として用いた以外は同じ血清について得られた、活性化可能な遊離型PSA/(遊離型PSAの変性体+遊離型PSAの切断体)の比の値を、パートBに示す。
【0146】
この図は、どの検出抗体を使用したかにかかわらず明確なしきい値が存在し、かつ、しきい値は検出に用いた抗体に応じて変化することを示す。
【実施例4】
【0147】
<生物学的試料中で活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能な結合パートナーを使用する、活性化可能な遊離型PSAの検出>
1. 用いた試料
LiegeのCHU[University Teaching Hospital]から入手した、又は、リヨンのhopital des Armees,Desgenettes[Desgenettes Military Hospital]から入手した、PSAの総濃度が157〜3.8ng/mlである9種の別個の血清を用いた。
【0148】
2. 抗体11E5C6を使用するPSAの免疫精製
2.1. 抗体のビーズとのカップリング
ストレプトアビジンで予め被覆したビーズ10個(Dynabeads(登録商標)M−280ストレプトアビジン、Dynal社)、すなわちビーズ溶液150μl、をチューブの中に入れ、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4、0.15M NaCl、0.1% BSA)に0.5% Tween20を添加したもの(緩衝液D+0.5% T)500μlで3回洗浄した。溶液を均一な状態で維持するために、洗浄は毎回、室温において5分間、回転盤上で行った。
【0149】
10個のビーズと、500μlの抗体11E5C6(ビオメリュー社 マルシー,フランス)20μg/ml(すなわち、抗体10μg)とを、緩衝液D+0.05% T中で、室温において30分間、回転盤上でカップリングさせた。カップリングさせた後、5μlの10mMビオチンを500μlの抗体溶液に添加し、室温において30分間、回転盤上でインキュベートした。
【0150】
次いで、ビーズを、500μlの緩衝液D+0.5% Tを用いて、回転盤上で室温において5分間洗浄し、過剰なビオチン及び抗体を除去した。
【0151】
2.2. PSA結合
PSAを含む1mlの試料(コントロールとして使用される希釈した精子のPSA又は血清のいずれか)を、ビーズ10個を入れたチューブの中に入れ、4℃において一晩インキュベートした。
【0152】
このインキュベート後、結合していないPSAを回収し、アッセイすることによってPSAの残存量を決定した。
【0153】
次いで、非特異的に結合したタンパク質を脱離させるために、濃度0.5%のTween20を有する緩衝液D500μlを用いて、洗浄を3回実施した。
【0154】
2.3. 溶出
PSAを、1mg/mlのBSAを添加した0.2M Tris−グリシン(pH2.2)100μlを用いて、室温において5分間溶出させた。pHが酸性だと、PSA−Ab結合の切断が生じる。溶液が酸性であるためにタンパク質が変性するのを避け、かつ、その酵素活性を保持するため、回収した溶出液を、11μlの0.1M Tris(pH9.6)を用いて中和した。
【0155】
3. 遊離型PSA及び総PSAについての試料のアッセイ
このアッセイは、VIDAS装置(ビオメリュー社,マルシー,フランス)を用い、総PSA(TPSA)及び遊離型PSA(FPSA)を測定するアッセイキットを用いて、供給元の推奨及び以下のプロトコルに従って実施した:総PSA又は遊離型PSAのそれぞれに対する特異的抗体をチップに付着させる。2種のアッセイにおいて、検出抗体は、アルカリホスファターゼに結合した抗体11E5C6であり、この抗体は基質の加水分解により生成物が生じる反応を触媒し、その蛍光は450nmで発光し、測定される。
【0156】
アッセイ1回につき200μlの試料が必要であり、この試料をバーの中に配置し、結果は1時間で得られる。TPSAアッセイは、PSA感度が0.07ng/mlであり、PSAを上限100ng/mlまで検出することができる。FPSAアッセイは、PSA感度が0.05ng/mlであり、PSAを上限10ng/mlまで検出することができる。
【0157】
4. PSAの酵素活性の測定
4.1 捕獲抗体の付着
ELISAプレートのウェルを、炭酸緩衝液(pH9.6)で10μg/mlに希釈したストレプトアビジン100μlで被覆し、37℃において2時間インキュベートした。次いで、非特異的な付着を避け、これによりバックグラウンドノイズを抑制するために、BSAを2mg/ml添加した50mM Tris緩衝液+0.15M NaCl(pH7.5(TBS))250μl(TBS+BSA)にウェルを浸した。0.05% Tween20(TBS+0.05% T)を含むTBS中で3回洗浄した後、100μlのビオチン化抗体8G8F5(ビオメリュー社,マルシー,フランス)を10μg/mlで添加し、37℃において2時間インキュベートした。この工程の後、TBS+0.05% T中で3回洗浄した。
【0158】
4.2. PSAのインキュベート
TBS+BSAで希釈した85μlのPSA(精子PSA又は血清の免疫精製物)をウェル中に添加し、4℃において一晩インキュベートした。次いで、ウェルをTBS+0.05% T中で3回洗浄することによって、結合していないPSAを除去することができた。次いで、酵素を、NaClを1.5Mで添加した基質TBS+BSA 100μlを用いて、37℃において15分間インキュベートした。
【0159】
4.3. 視覚化及びアッセイ
基質KGISSQY−AFCを、NaClを1.5Mで添加したTBS+BSAで希釈した。次いで、この希釈基質100μlをウェルに添加し、37℃においてインキュベートした。発光した蛍光を、37℃において2時間、1分毎に、Fluoroskan装置(ThermoLabsystem社)を用いて測定した。
【0160】
酵素の酵素活性を、速度の勾配を算出することにより決定し、これを蛍光単位×1000/分で表した。
【0161】
5. 結果
結果を、以下の表3に示す。
【0162】
【表3】

【0163】
これらの血清の中でも、前立腺ガンに罹患していることが確認された患者由来の血清1及び血清9は、本発明の方法によってもまた前立腺ガンに罹患していることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】抗体5D3Dll(写真A)で、6C8D8(写真B)で及び11E5C6(写真C)で免疫精製されたLNCaP細胞の培地上清由来のPSA 0.5μgを用いて得られた3つの二次元電気泳動ゲルの写真を示す。
【図2】抗体5D3Dllで予め免疫精製され、かつ、総PSAについてアッセイした精子PSAを用いて得られたPSA濃度に対する蛍光を示す標準的なグラフを示す。
【図3】前立腺ガンに罹患し、放射線療法(RT)、ホルモン療法(HT)又は前立腺切除(PR)により治療された患者由来の血清、ガンに罹患しているが治療が知られていない患者(その他)由来の血清、良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清、及び、正常な患者(PN)由来の血清について本発明の方法で得られた「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値(グラフのパートA)、並びに、これらの同じ血清について、先行技術の方法に従って得られた「遊離型PSA/総PSA」比の値(グラフのパートB)を示すグラフである。
【図4】「遊離型PSA/総PSA」比が0.15〜0.25である血清中で本発明の方法を用いて得られた「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値を示すグラフであり、上記血清は、前立腺ガンに罹患し、放射線療法(RT)、(RT)ホルモン療法(HT)又は前立腺切除(PR)により治療された患者由来の血清、ガンに罹患しているが治療が知られていない患者(その他)由来の血清、良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清、及び、正常な患者(PN)由来の血清である。
【図5】総PSA量が2.5ng/ml未満である、前立腺ガンに罹患した患者由来の血清及び良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清について、「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値を示すグラフである。
【図6】前立腺ガンに罹患した患者由来の血清及び良性の前立腺肥大(BPH)に罹患した患者由来の血清について、活性化可能なPSAの検出用の抗体として抗体5D5A5又は抗体11E5C6を用いて得られた「活性化可能なPSA/(遊離型PSAの切断体+遊離型PSAの変性体)」比の値を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺の良性病状又は前立腺ガンのin vitroにおける診断方法であって、
前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料中で、活性化可能な遊離型PSAを検出する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
以下の工程:
i)活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーを、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料と接触させる工程、
ii)活性化可能な遊離型PSAが前記結合パートナーに捕獲されたことを実証する工程、
iii)同一の個体から採取した同じ性質の試料中に存在する、前記活性化可能な遊離体以外の形態のPSAの量に対する、工程ii)で検出された活性化可能な遊離型PSAの量の比を算出する工程、並びに、
iv)工程iii)で決定した比の値と、使用する比の種類及び個々の病状の検出限界の典型に従って選択された所定のしきい値とを比較することにより、患者が前立腺ガンと前立腺の良性病状とのいずれに罹患しているかを決定する工程:
を含むことを特徴とする請求項1に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項3】
工程i)で使用される前記結合パートナーは、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能である
ことを特徴とする請求項2に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項4】
工程i)で使用される前記結合パートナーは、抗体又は抗体断片である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項5】
活性化可能な遊離型PSAが前記結合パートナーに捕獲されたことの実証は、検出パートナーを使用する、好ましくは抗総PSA抗体を使用する間接的検出により実施される
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項6】
活性化可能な遊離型PSAが前記結合パートナーに捕獲されたことの実証は、免疫精製されかつ活性化された、活性化可能な遊離型PSAの酵素活性を決定することにより実施される
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項7】
活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナーに加えて、PSAの酵素活性を増強可能な抗体を使用する
ことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項8】
前記比の算出に使用される、活性化可能な遊離体以外のPSAの形態は、不活性な遊離型PSA、又は、切断されて変性した遊離型PSAである
ことを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項9】
以下:
−活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナー、及び、
−活性化可能な遊離体以外のPSAの形態のアッセイ手段:
を含むことを特徴とする、前立腺ガン又は前立腺の良性病状の診断用キット。
【請求項10】
前記結合パートナーは、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能であり、好ましくは抗体又は抗体断片である
ことを特徴とする請求項9に記載の診断用キット。
【請求項11】
前記手段は抗体又は抗体断片である
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の診断用キット。
【請求項12】
活性化可能な遊離型PSAに特異的に結合可能な結合パートナー、及び、活性化可能な遊離型PSAからなる複合体。
【請求項13】
前記結合パートナーは、配列番号1の配列により模倣されるエピトープを認識可能である
ことを特徴とする請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
活性化可能な遊離型PSAが活性化されている
ことを特徴とする請求項12又は13に記載の複合体。
【請求項15】
以下の工程:
i)活性化可能な遊離型PSAに非特異的に結合可能な結合パートナーを、前立腺の良性病状又は前立腺ガンに罹患していることが疑われる患者由来の生物学的試料と接触させる工程、
ii)活性化可能な遊離型PSAの活性化後に、活性化可能な遊離型PSAの酵素活性を決定することによって、活性化可能な遊離型PSAが前記結合パートナーに捕獲されたことを実証する工程、
iii)同一の個体から採取した同じ性質の試料中に存在する、活性化可能な遊離体以外の形態のPSAの量に対する、工程ii)で検出された活性化可能な遊離型PSAの量の比を算出する工程、並びに、
iv)工程iii)で決定した比の値と、使用する比の種類及び個々の病状の検出限界の典型に従って選択された所定のしきい値とを比較することにより、患者が前立腺ガンと前立腺の良性病状とのいずれに罹患しているかを決定する工程:
を含むことを特徴とする請求項1に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。
【請求項16】
活性化可能な遊離型PSAの活性化を、PSAの酵素活性を増強可能な抗体を使用して実施する
ことを特徴とする請求項15に記載の、前立腺の良性病状又は前立腺ガンの診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−509379(P2008−509379A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501328(P2007−501328)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050132
【国際公開番号】WO2005/085292
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】