説明

活性炭の製造方法

【課題】比表面積とメソ孔の総容積がともに大きく、かつ、灰分量が少ない優れた活性炭を低コスト、高収率で製造する。
【解決手段】活性炭前駆体を炭化、賦活して、活性炭を製造する方法において、活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物や、樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂やアルデヒド類を反応させた反応生成物を使用する。また、樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂を混合した混合物を使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材、電極などに好適に使用される活性炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、多数の細孔が形成された比表面積の大きな物質であり、そのような特性を利用して、吸着材、電気二重層キャパシタ用電極などに好適に利用されている。
このような活性炭は、通常、活性炭前駆体を炭化、賦活する方法で製造される。炭化は、通常、不活性雰囲気下で活性炭前駆体を高温に加熱する方法で行われ、賦活は、活性炭の細孔を形成するための処理であって、通常、高温条件下で特定のガスや薬品と反応させる方法で行われる。賦活は活性化と呼ばれることもある。
活性炭前駆体としては、従来、主にヤシ殻、鋸屑、木分、石炭ピッチ、石油ピッチなどが使用されている。また、特許文献1には、オリーブの核などから活性炭を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平03−146412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような方法で得られた従来の活性炭は、比表面積が不十分である場合や、活性炭の性能に大きな影響を与えるメソ孔の総容積が小さい場合があり、活性炭としての特性が十分ではないことがあった。なお、本明細書においては、窒素吸着等温線よりBJH法などの解析法を用いて算出した細孔径が3〜30nmの細孔をメソ孔という。
また、従来の方法で得られる活性炭は、一般に無機成分(以下、灰分という。)を多く含み、そのままでは電気二重層キャパシタ用電極などには使用できないため、このような用途に使用する場合には、莫大な費用を投じて灰分を除去する必要があった。
さらに、活性炭の製造には、上述したように高温での賦活処理が必要で、また、十分な賦活効果を得るためにはある程度以上の処理時間を要するため、消費エネルギーが大きくコストが嵩むという問題があった。また、賦活処理中には活性炭前駆体が高い割合で焼失してしまい、活性炭の収率が低いという問題もあった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、比表面積とメソ孔の総容積がともに大きく、かつ、灰分量が少ない優れた活性炭を低コスト、高収率で製造できる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物や該組成物の反応生成物を使用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の活性炭の製造方法は、活性炭前駆体を炭化、賦活して、活性炭を製造する方法において、活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物を使用することを特徴とする。
前記活性炭前駆体として、前記樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂を混合した混合物を使用することもできる。
また、前記活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物の反応生成物を使用することもできる。
前記反応生成物としては、前記樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂またはアルデヒド類を反応させた反応生成物が好ましい。
また、前記樹皮は、アカシア、ケブラコ、ラジアータパインからなる群より選ばれる1種以上の樹皮であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、比表面積とメソ孔の総容積がともに大きく、かつ、灰分量が少ない活性炭を低コスト、高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の活性炭の製造方法は、活性炭前駆体を炭化、賦活して、活性炭を製造する方法において、活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物や、樹皮抽出組成物の反応生成物を使用する方法である。以下、本発明について、実施形態例を挙げて詳細に説明する。
[第1実施形態例]
本実施形態例の活性炭の製造方法では、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物をそのまま単独で活性炭前駆体として使用する。
ここで樹皮としては、例えば、アカシア、ケブラコ、マングローブ、ユーカリ、ラジアータパイン、スギ、カラマツ、ヒノキ、ヒバ、カシなど種々の樹木の樹皮が使用できるが、比表面積とメソ孔の総容積とがより大きな活性炭が得られやすいことから、アカシア、ケブラコ、ラジアータパインのうちの少なくとも1種の樹皮を使用することが好ましい。また、樹皮抽出組成物にはフラボノイド類などのポリフェノール類が含まれるが、ポリフェノール類の含有量が高く、また、成長が早く入手しやすい点、樹皮抽出組成物の抽出率が高い点などからは、アカシアの樹皮を使用することが好ましい。アカシアには、具体的には、ミモザアカシア、モリシマアカシア、アカシアマンギューム、アカシアアウリカリフォルミス、これらの一代雑種であるアカシアハイブリッドなどがある。
【0008】
樹皮から樹皮抽出組成物を抽出する際には、樹皮の表面積を大きくして抽出効率を高めるために、樹皮をあらかじめハンマーミルなどで物理的に粉砕し、チップ状にしておくことが好ましい。ここでのチップの形状や大きさには特に制限はないが、5〜60メッシュの粒度としたものが好ましい。より好ましくは30〜60メッシュであり、さらに好ましくは50〜60メッシュである。
【0009】
樹皮と溶媒とを混合した混合物を加熱することにより、樹皮中の溶媒可溶成分が溶媒へ移行する。その後、混合物を固液分離し、得られた液体から溶媒を除去することにより、固体の樹皮抽出組成物を得ることができる。
こうして得られた樹皮抽出組成物には、フラボノイド類、タンニン類などのポリフェノール類が少なくとも含まれる他、抽出に使用する溶媒の種類にもよるが、樹皮に元々含まれるカリウム、ケイ素、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リン、イオウ、ホウ素、マンガン、バリウム、アルミニウム、鉄、亜鉛など、灰分の一部も含まれる。さらに、樹皮抽出組成物には、通常、糖類やその誘導体、テルペノイド類なども含まれる。
【0010】
樹皮から樹皮抽出組成物を抽出する際に使用する溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、ヘキサノール、エーテル、アセトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、2−メチルピロリドン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの有機溶媒が挙げられ、これらのうち1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、取扱性などの点から水やメタノール、アセトンを使用することが好ましい。また、水と、メタノールやアセトンとを比較すると、メタノールやアセトンを使用した方が得られる樹皮抽出組成物中における灰分量が低くなり、その結果、より少ない灰分量の活性炭が得られる傾向にある。よって、例えば電気二重層キャパシタ用電極に使用される活性炭のように、より低い灰分量であることが要求される活性炭を製造する場合には、溶媒としてメタノールやアセトンを使用することが好ましい。さらに、メタノールやアセトンを使用すると、水を使用した場合よりも樹皮抽出組成物の抽出率が向上する点でも好ましい。
【0011】
抽出の具体的な方法や使用する装置などには特に制限はないが、還流冷却器を具備した抽出装置を用いて、樹皮と溶媒との混合物を溶媒の沸点程度の温度で加熱し、溶媒を還流させながら抽出する方法が好ましい。抽出時間としては、0.5〜24時間が好ましく、より好ましくは0.5〜3時間である。また、ここで混合する樹皮と溶媒との質量比は、樹皮:溶媒=1:2〜10が好ましい。抽出時間や質量比がこのような範囲であると、効果的な抽出が行える。特に、工業的観点や経済面からは、1:2程度がより好ましい。
また、こうして加熱された後の混合物を固液分離する方法にも特に制限はなく、ろ過、遠心分離などで行えばよい。固液分離により得られた液体から溶媒を除去する方法にも特に制限はなく、蒸発乾固などの公知の方法を採用すればよい。
【0012】
ついで、得られた樹皮抽出組成物を活性炭前駆体として使用し、これを炭化、賦活することにより、活性炭が得られる。
炭化および賦活は公知の方法で実施すればよく、炭化と賦活とを別々に順次行っても、炭化と賦活とを1つの工程で行ってもよい。また、賦活には、薬品を使用した薬品賦活法やガスを使用したガス賦活法などがあるが、いかなる方法を採用してもよい。
例えば、賦活方法として薬品賦活法を採用する場合には、樹皮抽出組成物に塩化亜鉛、リン酸などの薬品や、水酸化カリウムなどのアルカリを含浸させ、不活性雰囲気下、400〜1000℃で数時間程度加熱すればよい。具体的な加熱時間は、活性炭に求められる比表面積などに応じて、実験的に決定すればよい。このような方法によれば、賦活とともに炭化も進行するため、炭化と賦活とが一工程で行える。
また、賦活方法としてガス賦活法を採用する場合には、樹皮抽出組成物を不活性雰囲気下、400〜600℃で数時間程度加熱して炭化し、得られた炭化物を水蒸気、二酸化炭素などの賦活ガスと750〜1100℃、数十分間〜数時間程度反応させて賦活(ガス賦活)すればよい。この際、炭化と賦活とを同一の装置内で連続的に実施してもよいし、それぞれ独立に実施してもよい。この際の炭化時間や賦活時間も、具体的には、炭化物の歩留まりや活性炭に求められる比表面積などに応じて、実験的に決定すればよい。
また、薬品賦活法とガス賦活法を比較すると、灰分量の少ない活性炭が得られる点からは、ガス賦活法を採用することが好ましい。
【0013】
このように樹皮抽出組成物を炭化、賦活することにより、比表面積が1000m/g以上であるとともにメソ孔の総容積が0.1ml/g以上の高比表面積、かつ高メソ孔総容積の活性炭が得られる。
また、樹皮抽出組成物を活性炭前駆体として使用した場合、非常に短時間の処理で賦活が効果的に進行する傾向にあり、賦活に要する消費エネルギーを抑制でき、コスト面で好適である。また、樹皮抽出組成物を活性炭前駆体として使用すると、賦活中に焼失する活性炭前駆体の割合が低く、高い収率で活性炭が得られる。
樹皮抽出組成物を活性炭前駆体として使用することにより、比表面積とメソ孔の総容積がともに大きい活性炭を効率的に製造できる理由は明らかではないが、樹皮抽出組成物に含まれるポリフェノール類の骨格構造に起因するものと推察できる。
【0014】
また、このような方法では、活性炭前駆体として樹皮をそのまま使用するのではなく、抽出操作により樹皮に元々含まれる灰分の一部が分離、除去された樹皮抽出組成物を使用するため、灰分量の少ない活性炭が得られる。
さらに、このような製造方法は、従来は廃棄される場合が多かった樹皮を使用する方法であるため、廃棄物の有効利用という観点やコスト面からも好ましい。
【0015】
また、このような方法では、樹皮抽出組成物を活性炭前駆体として使用するにあたって、精製などの煩雑な処理をする必要がない点でも好ましい。ただし、樹皮抽出組成物を炭化、賦活する前に、必要に応じて塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、シュウ酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ホウ酸や、塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属塩のうちの1種以上を酸触媒として使用して、樹皮抽出組成物を常温〜120℃の温度下に保持して、樹皮抽出組成物に含まれるポリフェノール類の少なくとも一部を自己重縮合させる前処理を行ってもよい。このような前処理を行うと、前処理を行わない方法に比べて、比表面積やメソ孔の総容積がやや小さい活性炭が得られる傾向がある。よって、活性炭に要求される特性に応じて、このような前処理を適宜実施してもよい。
【0016】
[第2実施形態例]
本実施形態例では、活性炭前駆体として樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂を混合した混合物を使用する点で、第1実施形態例と異なっている。炭化、賦活の具体的方法としては、第1実施形態例で説明した方法を同様に採用できる。
熱硬化性樹脂としては、レゾール型またはノボラック型のフェノール樹脂、エポキシ樹脂などが使用できるが、フェノール樹脂はポリフェノール類と類似の骨格を有し、均一な混合物が得られやすい傾向にあるため好ましい。
【0017】
このような混合物を活性炭前駆体として使用し、これを炭化、賦活すると、樹皮抽出組成物を単独で活性炭前駆体として使用した第1実施形態例に比べて、比表面積やメソ孔の総容積はやや低いものの、灰分量がより低減された活性炭をより高収率で得ることができる。
樹皮抽出組成物とこれに混合する熱硬化性樹脂との質量比には特に制限はないが、比表面積およびメソ孔の総容積と灰分量などとのバランスからは、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂の混合物100質量%中、樹皮抽出組成物を10質量%以上とすることが好ましく、40質量%以上とすることがより好ましい。
【0018】
[第3実施形態例]
本実施形態例では、活性炭前駆体として樹皮抽出組成物をそのまま単独で使用する代わりに、樹皮抽出組成物に他の物質を反応させた反応生成物を使用する点で第1実施形態例と異なっている。炭化、賦活の具体的方法としては、第1実施形態例で説明した方法を同様に採用できる。
他の物質としては、樹皮抽出組成物中のポリフェノール類と付加反応や縮合反応を起こし、このポリフェノール類よりも高分子量の反応生成物を生成するものであればよく、好適な例としては、アルデヒド類や熱硬化性樹脂が例示できる。また、反応は、無触媒で進行するものもあるが、触媒を使用することがより好ましい。
【0019】
樹皮抽出組成物にアルデヒド類を反応させる場合、アルデヒド類としてはホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルヘミホルマール、プロピルヘミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルヘミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、クロトンアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o−メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒドが挙げられ、これらを1種以上使用できる。これらのなかでは、工業的観点、反応性などの点から、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。
触媒としては、第1実施形態例で例示した酸触媒の他、塩基触媒が使用でき、塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン類が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
これら触媒の存在下で、樹皮抽出組成物とアルデヒド類とをメタノールなどの溶媒中、常温〜120℃の温度下に保持すると、樹皮抽出組成物中のポリフェノール類にアルデヒド類が付加し、さらに付加により生成した付加生成物とポリフェノール類とが縮合する。そして、このような付加と縮合とが繰り返されることにより、より高分子量の反応生成物が得られる。
【0020】
また、樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂を反応させる場合、熱硬化性樹脂としては、レゾール型またはノボラック型のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂およびこれらの共重合体の1種以上などが使用できるが、フェノール樹脂はポリフェノール類と類似の骨格を有し、均一な反応生成物が得られやすい傾向にあるため好ましい。
触媒としては、アルデヒド類を反応させる場合に例示した酸触媒や塩基触媒を同様に使用できる。
そして、これら触媒の存在下で、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂とをメタノールなどの溶媒中、常温〜120℃の温度下に保持すると、樹皮抽出組成物中のポリフェノール類と熱硬化性樹脂とが反応し、より高分子量の反応生成物が得られる。
この際進行する反応は、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した場合には、樹皮抽出組成物中に含まれるポリフェノール類とフェノール樹脂との縮合反応である。
【0021】
このような反応生成物を活性炭前駆体として使用し、これを炭化、賦活すると、第1実施形態例のように樹皮抽出組成物を単独で活性炭前駆体として使用した場合に比べて比表面積やメソ孔の総容積はやや低いものの、灰分量がより低減された活性炭をより高収率で得ることができる。
樹皮抽出組成物とこれに反応させるアルデヒド類との質量比には特に制限はないが、比表面積およびメソ孔の総容積と灰分量などとのバランスや、反応制御の観点などからは、樹皮抽出組成物とアルデヒド類との合計量100質量%中、樹皮抽出組成物を20質量%以上とすることが好ましく、50質量%以上とすることがより好ましい。
また、樹皮抽出組成物とこれに反応させる熱硬化性樹脂との質量比には特に制限はないが、比表面積およびメソ孔の総容積と灰分量とのバランスや、反応制御の観点などからは、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂との合計量を100質量%とした場合、樹皮抽出組成物を10質量%以上とすることが好ましく、40質量%以上とすることがより好ましい。
【0022】
以上説明した各製造方法によれば、比表面積とメソ孔の総容積がともに大きく、かつ、灰分量が少ない優れた活性炭を低コスト、高収率で製造することができる。また、こうして得られた活性炭は、吸着材、電気二重層キャパシタ用電極などをはじめとした種々の用途に好適に使用できる。
さらに、上述したように、活性炭前駆体として樹皮抽出組成物を単独で使用する第1実施形態例の製造方法によれば、より高い比表面積とメソ孔の総容積とを備えた活性炭を製造でき、一方、樹皮抽出組成物の混合物や反応生成物を使用した第2および3実施形態例の製造方法によれば、より灰分の少ない活性炭をより高収率で製造できる傾向にあるため、用途、要求されるグレードに応じた活性炭の設計、製造も適宜可能である。また、目的によっては、活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物と樹皮抽出組成物の反応生成物とを併用したり、樹皮抽出組成物の反応生成物と熱硬化性樹脂とを併用したりすることも可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
アカシア樹皮チップ:600gとメタノール:1800gとの混合物をフラスコに入れ、これをマントルヒーターで65℃に加熱し、メタノールの還流状態を保ったまま1時間攪拌してポリフェノール類を含有する樹皮抽出組成物を抽出するための操作を行った。
ついで、この混合物を常温に冷却後、固体(樹皮)と液体(抽出液)とにろ別し、得られた抽出液をロータリーエバポレータに投入した。なお、得られた液体は赤黒色であった。そして、60℃で減圧状態を保ちメタノールを蒸発させ(蒸発乾固)、固体の樹皮抽出組成物240gを得た。
ついで、この樹皮抽出組成物(活性炭前駆体)を炭化炉に入れ、窒素気流中、常温から900℃まで5℃/分の速度で昇温し、更に900℃で30分間保持して炭化を行い、引き続き、窒素気流中に水蒸気を混合し(水蒸気濃度:33体積%)、50分間のガス賦活を行った。その後、水蒸気の混合を停止し、窒素気流中で100℃まで冷却して活性炭を取り出した。
【0024】
得られた活性炭について、窒素吸着等温線よりBET法を用いて算出される比表面積測定と、BJHを用いて算出される細孔分布解析を行った結果を表1に示す。なお、全細孔容積とは活性炭に形成された全ての細孔の総容積であり、メソ孔容積率とは全細孔容積に対するメソ孔(細孔径3〜30nmの細孔)の総容積の割合[%]である。
また、炭化に供した樹皮抽出組成物の質量に対する得られた活性炭の質量を、活性炭収率として表1に[%]で示した。
さらに、活性炭1gをめのう乳鉢で細かく粉砕したものと1mol/l塩酸50gと混合し、マグネチックスターラーで常温下24時間攪拌した後、活性炭をろ別し、ろ液中の灰分(K、Si、Ca、Mg、Na、P、S、B、Mn、Ba、Al、Fe、Zn)含有量をICP分析法により定量し、灰分量(ろ液中の金属含有量ppm)として表1に示した。
【0025】
[実施例2]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物を使用した以外は、実施例1と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
なお、樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物は次のようにして調製した。
まず、実施例1と同様の方法で樹皮抽出組成物を得た。ついで、この樹皮抽出組成物100gをフラスコ中でメタノール100gに溶解した後、この中にホルマリン(ホルムアルデヒド37質量%水溶液)200gを入れ十分に混合し、さらに酸触媒として塩酸0.3gを加え、80℃で1時間還流反応させた。
反応後のフラスコ底部には赤褐色の固体沈降物が確認された。ろ別によりこの固体を得て、さらに105℃のオーブンで固体に含まれるメタノールと水を蒸発させることで樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物:160gを得た。
【0026】
[実施例3]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との反応生成物を使用した以外は、実施例1と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
なお、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との反応生成物は次のようにして調製した。
まず、実施例1と同様の方法で樹皮抽出組成物を得た。
一方、フェノール400gとホルマリン(ホルムアルデヒド50質量%水溶液)440gとを反応容器に仕込み、25質量%アンモニア水74gを加え、60℃で3時間反応させた。その後、80mmHgの減圧下にて、反応容器内の内容物の内温が80℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、さらにそのまま80℃、80mmHgの条件下に保持し、常温では透明液状のレゾール型フェノール樹脂(固形分80質量%)を得た。
ついで、フラスコ中で、樹皮抽出組成物100gとレゾール型フェノール樹脂125gとをメタノール200gに十分に溶解させ、さらに酸触媒として35質量%塩酸0.3gをこれに加えて、約80℃で1時間還流反応させた。
ついで、フラスコの内容物をロータリーエバポレータを用いた60℃の減圧条件下で蒸発乾固し、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との粉末状の反応生成物:200gを得た。
【0027】
[実施例4]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
なお、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との混合物は次のようにして調製した。
まず、実施例1と同様の方法で樹皮抽出組成物を得た。一方、実施例3と同様の方法でレゾール型フェノール樹脂(固形分80質量%)を得た。
ついで、フラスコ中で、樹皮抽出組成物100gとレゾール型フェノール樹脂125g(水分を除いた正味量としての値)とをメタノール100gに十分に溶解させた後、メタノールを蒸発させ、さらに140℃で2時間加熱することにより、レゾール型フェノール樹脂を硬化させ、樹皮抽出組成物とレゾール型熱硬化性樹脂との混合物:200gを得た。
【0028】
[比較例1]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりにレゾール型フェノール樹脂の硬化物のみを使用した以外は、実施例1と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
なお、レゾール型フェノール樹脂の硬化物は、実施例3と同様の方法で得た。
【0029】
[比較例2]
ガス賦活を50分間ではなく、120分間行った以外は比較例1と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例3]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりに、130℃で2時間加熱乾燥された絶乾状態のアカシア樹皮を使用した以外は、実施例1と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、アカシアの樹皮抽出組成物をそのまま単独で活性炭前駆体として使用した実施例1では、比表面積およびメソ孔の総容積が非常に高く、灰分量の少ない活性炭を高い収率で得ることができた。また、樹皮抽出組成物にホルムアルデヒドやフェノール樹脂を反応させた反応生成物を使用した実施例2および3や、樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂を混合した混合物を使用した実施例4では、比表面積およびメソ孔の総容積は実施例1よりもやや小さいものの、より灰分量の少ない活性炭をより高い収率で得ることができた。
一方、フェノール樹脂を活性炭前駆体として使用した比較例1では、比較的高収率で活性炭が得られたものの、その比表面積やメソ孔の総容積は小さく、活性炭としての特性は不十分であった。そこで、賦活時間を延長したところ(比較例2)、比表面積は向上したものの、メソ孔の総容積の点では大きな効果はなく、収率の低下も顕著であった。
また、アカシア樹皮を活性炭前駆体として使用した比較例3では、得られた活性炭はメソ孔の総容積が小さいとともに、灰分量も非常に多かった。
この結果から、各実施例によれば、比表面積とメソ孔の総容積がともに大きく、かつ、灰分量が少ない優れた活性炭を高収率で製造できることが明らかとなった。また、各実施例と比較例2とを比較すると、比較例2では、各実施例と同程度の比表面積の活性炭を得るためには長時間の賦活が必要であったことから、各実施例によれば、短時間の賦活で優れた活性炭を得ることができ、消費エネルギーコストが低いことも示された。
【0033】
[実施例5]
ケブラコ樹皮チップ:1500gとアセトン:4500gとの混合物をフラスコに入れ、これをマントルヒーターで56℃に加熱し、アセトンの還流状態を保ったまま1時間攪拌してポリフェノール類を含有する樹皮抽出組成物を抽出するための操作を行った。
ついで、この混合物を常温に冷却後、固体(樹皮)と液体(抽出液)とにろ別し、得られた抽出液をロータリーエバポレータに投入した。なお、得られた液体は赤黒色であった。そして、55℃で減圧状態を保ちアセトンを蒸発させ(蒸発乾固)、固体の樹皮抽出組成物270gを得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表2に示す。
【0034】
[実施例6]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物を使用した以外は、実施例5と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表1に示す。
なお、樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物の調製は、樹皮抽出組成物として実施例5で得たケブラコ樹皮からの樹皮抽出組成物を使用した以外は、実施例2と同じ方法で行い、樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物:160gを得た。
【0035】
【表2】

【0036】
[実施例7]
ラジアータパイン樹皮チップ:1500gとメタノール:4500gとの混合物をフラスコに入れ、以降、実施例1と同様の工程により、固体の樹皮抽出組成物300gを得て、さらに活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表3に示す。
【0037】
[実施例8]
活性炭前駆体として、樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との反応生成物を使用した以外は、実施例7と同様にして活性炭を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定、解析を実施した。結果を表3に示す。
なお、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との反応生成物は次のようにして調製した。
まず、実施例3で調製したものと同じレゾール型フェノール樹脂(固形分80質量%)125gにメタノール50gをフラスコ中で混合し、ついでその中に、メタノール150gに実施例7で得たものと同じ樹皮抽出組成物100gをあらかじめ溶解させた溶液を常温で撹拌しながら1時間かけて滴下し、その後、約50℃で1時間還流反応させた。
ついで、フラスコの内容物をロータリーエバポレータを用いた60℃の減圧条件下で蒸発乾固し、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との粉末状の反応生成物を得た。
【0038】
【表3】

【0039】
表2および3から明らかなように、樹皮としてケブラコやラジアータパインを使用した場合でも、比表面積とメソ孔の総容積がともに大きく、かつ、灰分量が少ない優れた活性炭を高収率で製造できることが明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭前駆体を炭化、賦活して、活性炭を製造する方法において、
活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物を使用することを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記活性炭前駆体として、前記樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂を混合した混合物を使用することを特徴とする請求項1に記載の活性炭の製造方法。
【請求項3】
活性炭前駆体を炭化、賦活して、活性炭を製造する方法において、
活性炭前駆体として、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物の反応生成物を使用することを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記反応生成物は、前記樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂またはアルデヒド類を反応させた反応生成物であることを特徴とする請求項3に記載の活性炭の製造方法。
【請求項5】
前記樹皮は、アカシア、ケブラコ、ラジアータパインからなる群より選ばれる1種以上の樹皮であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の活性炭の製造方法。


【公開番号】特開2007−246378(P2007−246378A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76423(P2006−76423)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】