説明

活性物質の全身送達のためのイオントフォレーシス方法及び装置

対象の疼痛部位に対象の循環系を介して1つ又は複数の活性物質を送達するための方法及びイオントフォレーシス装置が提供される。或る種の態様では、活性物質の全身送達は、対象における或る部位での疼痛を軽減し得る。活性物質は、カイン型の麻酔薬又は鎮痛薬から選択され得る。活性物質を送達するための装置は、制御ユニットを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的に、イオントフォレーシスの分野に、さらに特定的には対象の疼痛部位への起電力及び/又は電流の影響下での生体界面を介した活性物質の全身送達に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国仮特許出願第60/722,136号(2005年9月30日提出)及び米国仮特許出願第60/839,747号(2006年8月24日提出)(この記載内容はその全体において参照により本明細書中で援用される)の米国特許法第119条(e)項下での利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
イオントフォレーシスは、同様に荷電された活性物質及び/又はそのビヒクルを含有するイオントフォレーシスチャンバに隣接した電極に小さい電位を用いることにより、活性物質(例えば荷電物質、イオン化化合物、イオン性薬剤、治療薬、生体活性物質等)を生体界面(例えば皮膚、粘膜等)に運ぶために起電力及び/又は電流を用いる。
【0004】
イオントフォレーシス装置は、典型的には、電源、例えば化学電池又は外部電源の反対極又は端子に各々接続される作用側電極構造体及び対向電極構造体を包含する。各電極構造体は、典型的には、起電力及び/又は電流を印加するためのそれぞれの電極要素を包含する。このような電極要素はしばしば、犠牲要素又は化合物、例えば銀又は塩化銀を含む。活性物質は陽イオン性又は陰イオン性のいずれでもあり得、電源は、活性物質の極性に基づいて適切な電圧極性を印加するように構成され得る。イオントフォレーシスは、有益には、活性物質の送達速度を増強するか又は制御するために用いられ得る。活性物質は、貯留槽、例えばキャビティ中に保存され得る(例えば米国特許第5,395,310号参照)。代替的には、活性物質は、多孔性構造又はゲルのような貯留槽中に保存され得る。イオン交換膜は、活性物質貯留槽と生体界面との間の極性選択的障壁として役立つように配置され得る。典型的には、一の特定の型のイオン(例えば荷電した活性物質)に関してのみ透過性の膜は、皮膚又は粘膜からの逆荷電イオンの逆流を防止する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオントフォレーシス装置の商業的受入れは、種々の因子、例えば製造コスト、貯留寿命、貯蔵中の安定性、活性物質送達の効率及び/又は適時性、生物学的能力、及び/又は処分問題によっている。これらの因子の1つ又は複数に対処するイオントフォレーシス装置が望ましい。さらに、適用の局在部位以外の対象における部位に活性物質を送達し得る、且つ/又はその部位で有益作用を提供し得る装置が望ましい。
【0006】
本発明の開示は、上記の1つ又は複数の欠点を克服し、そしてさらなる関連利点を提供することに向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
イオントフォレーシス送達装置の使用による、対象における疼痛部位への1つ又は複数の活性物質の全身送達のための方法が提供される。或る種の実施形態では、本方法は、対象における疼痛部位を特定すること、1つ又は複数の活性物質を含むイオントフォレーシス送達装置を得ること、対象の生体界面を介して1つ又は複数の活性物質を対象の循環系中に経皮輸送するように送達装置を作動すること、及び対象の循環系に、対象における疼痛部位に1つ又は複数の活性物質を送達させることを包含し得る。或る種の態様では、活性物質はカイン類(caine class)の化合物から選択され得る。さらなる態様では、全身送達のための方法は、対象における疼痛部位を与える循環系に1つ又は複数の活性物質を輸送するのに介し得る対象の生体界面上の場所を選択することを包含し得る。或る種のこのような態様では、全身送達のための方法は、対象の生体界面上の上記選択場所を送達装置と接触させることを包含し得る。
【0008】
対象の疼痛部位に1つ又は複数の活性物質を全身送達するためのイオントフォレーシス装置の使用により対象の疼痛部位での疼痛を軽減するための方法が提供される。このような態様では、1つ又は複数の活性物質は、疼痛を軽減するのに十分な時間送達される。
【0009】
対象における疼痛部位に1つ又は複数の活性物質を全身送達するための方法に用いるためのイオントフォレーシス装置が提供される。或る種のこのような態様では、前記装置は、対象における疼痛部位での疼痛を軽減する方法に用いるために提供される。或る種の実施形態では、イオントフォレーシス装置が用いられる方法は、対象における疼痛部位を特定すること、1つ又は複数の活性物質を含むイオントフォレーシス装置を得ること、対象の生体界面上の或る場所を当該装置と接触させること、対象の生体界面を介して1つ又は複数の活性物質を対象の循環系中に経皮輸送するように装置を作動すること、及び対象の循環系に、対象における疼痛部位に1つ又は複数の活性物質を送達させることを包含し得る。或る種の態様では、活性物質はカイン類の化合物から選択され得る。
【0010】
或る種の態様では、対象における疼痛部位は、神経障害性疼痛の部位であり得る。或る種の他の実施形態では、疼痛の部位は、侵害受容性疼痛の部位であり得る。
【0011】
或る種の実施形態では、対象における疼痛部位への1つ又は複数の活性物質の全身送達のためのイオントフォレーシス装置は、少なくとも作用側電極構造体及び対向電極構造体を含む装置である。或る種のこのような実施形態では、作用側電極構造体は、第一の極性を有する電位を供給するように動作可能な少なくとも1つの作用側電極要素及び内部活性物質貯留槽を包含し、そして対向電極構造体は、第二の極性を有する電位を印加するように動作可能な少なくとも1つの対向電極要素を包含する。少なくとも1つの実施の形態では、対象における疼痛部位への1つ又は複数の活性物質の送達は、作用側電極要素に第一の極性を有する電位を供給すること、そして対向電極要素に第二の極性を有する電位を供給することを包含する。
【0012】
或る種の実施の形態では、本明細書中に記載される方法の実行のための送達装置は、制御ユニットを包含し得る。或る種のこのような実施の形態では、送達装置を作動することは、制御ユニットを操作することを包含し得る。少なくとも1つの実施の形態では、制御ユニットは、少なくとも1つのスイッチを包含し得る。或る種のこのような実施の形態では、対象における或る部位への活性物質の送達方法は、スイッチを作動することを包含し得る。少なくとも1つの他の実施の形態では、制御ユニットはプログラム可能である。或る種のこのような実施の形態では、対象における或る部位への活性物質の送達方法は、制御ユニットをプログラムすることを包含し得る。
【0013】
或る種の実施の形態では、本明細書中に記載される方法の実行のための送達装置は、電源を含み得る。或る種の態様では、イオントフォレーシス送達装置を作動することは、電源を電気的に接続して、対象を包含する回路を閉じることを包含し得る。
【0014】
或る種の実施の形態では、本明細書中に記載されるような活性物質の全身送達のための方法は、接着剤を用いて生体界面又は生体界面の一部に送達装置を取り付けることを包含し得る。或る種の実施の形態では、本明細書中に記載される方法の実行のための送達装置は、パッチの形態であり得る。
【0015】
或る種の実施の形態では、生体界面は、皮膚、皮膚の一部、粘膜又は粘膜の一部であり得る。
【0016】
添付の図面中では、同一参照番号は類似の要素又は作用を示す。添付の図中の要素のサイズ及び相対位置は、必ずしもスケール通りには描かれていない。例えば、種々の要素の形状及び角度はスケール通りには描かれていないし、これらの要素のいくつかは、添付の図面を見やすくするために随意に拡大され、配置される。さらに、図示される要素の特定の形状は、その特定の要素の実際の形状に関する何らの情報をも伝えるよう意図されておらず、専ら添付の図面中での認識を容易にするために選択されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
下記において、或る種の特定の詳細は、種々の開示実施形態の十分な理解を提供するために含まれる。しかしながら、実施形態は1つ又は複数のこれらの特定の詳細なしに、或いは他の方法、構成成分、材料等を用いて実行され得ると当業者は認識する。その他の場合、イオントフォレーシス装置に関連した電圧及び/又は電流調整器を含むがこれには限定されない既知の構造物は、実施形態の不必要に曖昧な記述を避けるために詳細に示されても記載されてもいない。
【0018】
文脈から他の解釈が必要とされない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」という語及びその変形、例えば「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」は、公然の包括的意味で、「包含するが、限定されない」と解釈されるべきである。
【0019】
本明細書全体を通して、「一実施形態」又は「1つの実施形態」又は「別の実施形態において」という言及は、実施形態に関連して記載される特定の関連のある特徴、構造又は特質が少なくとも1つの実施形態に包含されるということを意味する。したがって本明細書全体を通して種々の箇所における「一実施形態における」又は「1つの実施形態における」又は「別の実施形態における」という語句の出現は、必ずしもすべてが同一実施形態を指すわけではない。さらに、特定の特徴、構造又は特質は、1つ又は複数の実施形態において任意の好適な態様で組合せられ得る。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数の指示物を包含するということに留意すべきである。したがって例えば「電極要素」を含めたイオントフォレーシス装置への言及は、単一電極要素、或いは2つ以上の電極要素を包含する。「又は」という用語は一般的に、はっきりと別記しない限り、「及び/又は」を含めた意味で用いられるということにも留意すべきである。
【0021】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「膜」という用語は、透過性である場合も、透過性でない場合もある境界、層、障壁、又は物質を意味する。「膜」という用語はさらに、界面を指し得る。別記しない限り、膜は、固体、液体又はゲルの形態をとり得るし、そして明確な格子、非架橋構造又は架橋構造を有しても、有しなくてもよい。
【0022】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「イオン選択膜」という用語は、イオンに対して実質的に選択性であり、或る種のイオンを通すが、他のイオンの通過を遮断する膜を意味する。イオン選択膜は、例えば電荷選択膜の形態をとり得、又は半透性膜の形態をとり得る。
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「電荷選択膜」という用語は、主にイオンにより保有される極性又は電荷に基づき、イオンを実質的に通過及び/又は実質的に遮断する膜を意味する。電荷選択膜は典型的にはイオン交換膜を指し、そしてこれらの用語は、本明細書中で及び添付の特許請求の範囲において互換的に用いられる。電荷選択膜又はイオン交換膜は、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜及び/又は両極性膜の形態をとり得る。陽イオン交換膜は、陽イオンの通過を実質的に許容し、そして陰イオンを実質的に遮断する。市販の陽イオン交換膜の例としては、NEOSEPTA、CM−1、CM−2、CMX、CMS及びCMB(株式会社トクヤマ)の呼称で入手可能なものが挙げられる。逆に陰イオン交換膜は、陰イオンの通過を実質的に許容し、そして陽イオンを実質的に遮断する。市販の陰イオン交換膜の例としては、NEOSEPTA、AM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH及びACS(同じく株式会社トクヤマ)の呼称で入手可能なものが挙げられる。
【0024】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「両極性膜」という用語は、2つの異なる電荷又は極性に対して選択的である膜を意味する。別記しない限り、両極性膜は、一体膜構造、多重膜構造又は積層膜の形態をとり得る。一体膜構造は、陽イオン交換物質又は基を含む第一の部分と、陰イオン交換物質又は基を含む第一の部分と向き合った第二の部分とを包含し得る。多重膜構造(例えば二重皮膜構造)は、陰イオン交換膜に積層されるか又はそうでなければ結合される陽イオン交換膜を含み得る。陽イオン及び陰イオン交換膜は最初に異なる構造物として出発し、そしてその結果生じる両極性膜の構造中でそれらの弁別性を保持し得るか、又は保持し得ない。
【0025】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「半透性膜」という用語は、イオンのサイズ又は分子量に基づいて実質的に選択的である膜を意味する。したがって半透性膜は、第一の分子量又はサイズのイオンを実質的に通す一方で、第一の分子量又はサイズより大きい第二の分子量又はサイズのイオンの通過を実質的に遮断する。或る実施形態では、半透性膜は、第一の速度で或る分子の通過を許容し、或る他の実施形態では、第一の速度と異なる第二の速度で或る他の分子の通過を許容し得る。さらなる実施形態では、「半透性膜」は或る種の選択された分子のみの通過を許容する選択的透過性膜の形態をとり得る。
【0026】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「多孔性膜」という用語は、問題のイオンに関して実質的に選択的ではない膜を意味する。例えば多孔性膜は、極性に基づいて実質的に選択的でなく、且つ対象の要素又は化合物の分子量又はサイズに基づいて実質的に選択的でないものである。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「ゲルマトリクス」という用語は、三次元網目構造、固体中の液体のコロイド懸濁液、半固体、架橋ゲル、非架橋ゲル、ゼリー様状態等の形態をとる貯留槽の型を意味する。いくつかの実施形態では、ゲルマトリクスは、絡み合い高分子(例えば円柱状ミセル)の三次元網目構造から生じ得る。いくつかの実施形態では、ゲルマトリクスは、ヒドロゲル、オルガノゲル等を包含し得る。ヒドロゲルは、例えばゲルの形態で実質的に水で構成される架橋親水性ポリマーの三次元網目構造を指す。ヒドロゲルは、正味正電荷又は負電荷を有し得るか、又は中性であり得る。
【0028】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「貯留槽」という用語は、液体状態、固体状態、気体状態、混合状態及び/又は遷移状態で、要素、化合物、製剤組成物、診断組成物、活性物質等を保有するための任意の形態のメカニズムを意味する。例えば別記しない限り、貯留槽は、一構造物により形成される1つ又は複数のキャビティを含み得るし、そしてこのようなものが少なくとも一時的に要素又は化合物を保有し得る場合には、1つ又は複数のイオン交換膜、半透性膜、多孔性膜及び/又はゲルを含み得る。典型的には、貯留槽は、生体界面への起電力及び/又は電流による生物学的活性物質の放出の前に、このような物質を保有する役割を果たす。貯留槽は、電解質溶液も保有し得る。
【0029】
対象における疼痛は通常、対象の組織への損傷の自然の結果である。このような疼痛は典型的には急性であり、そして侵害受容器と呼ばれる特定神経終末の刺激により引き起こされる。本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、このような疼痛は「侵害受容性疼痛」と呼ばれる。侵害受容器は、種々の刺激、例えば熱傷、切断、感染、化学的変化、圧力、及びその各々が対象により疼痛として解釈される多数のその他の感覚に応答する。このような侵害受容性疼痛に関しては、一旦原因が排除され、治癒過程が進行中であると、損傷又は他の刺激に関連した圧痛及び疼痛は典型的には消失し始める。
【0030】
代替的には、対象は、明白な損傷又はその他の刺激を伴わない疼痛、或いは慢性である(この場合、それは数ヶ月、数年、又は数十年も存続し得る)疼痛を経験し得る。このような疼痛は主に、末梢又は中枢神経系内の損傷に起因する。神経障害性疼痛は、疑いなく現実であるが、その原因は確定するのが困難であり得る。神経障害性疼痛はしばしば、電撃痛、刺痛、灼熱痛又は焼灼痛として記載される。本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、このような疼痛は「神経障害性疼痛」と呼ばれる。神経障害性疼痛が一般的に関連し得る症状としては、帯状疱疹(帯状疱疹ウイルス感染、ヘルペス感染後疼痛)、癌、化学療法、アルコール依存症、切断(例えば幻肢症候群)、背部、脚部又は臀部の問題(坐骨神経痛)、糖尿病、顔面神経問題(三叉神経痛)、HIV感染又はAIDS、多発性硬化症、及び脊髄手術が挙げられるが、これらに限定されない。慢性疼痛は、任意の既知の損傷又は疾患を伴わなくても起こり得る。
【0031】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「全身循環」とは典型的には、心臓から身体に含酸素血を運び、そして身体から心臓に酸素枯渇血を戻す心臓血管系の一部を介した血液の動きを指す。心臓血管系のこの部分内では、血液は血管、例えば動脈、細動脈、毛細血管、細静脈及び静脈(必ずしもこれらに限定されない)を通って流れ得る。心臓血管系は、循環系とも呼ばれる。全身循環とは、本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、組織からリンパを集め、そしてそれを心臓血管性循環系に戻すリンパ系を通る流体の動きも指し得る。リンパは、典型的には、心臓血管系から組織内の間隙に漏出する血漿から生じる。「全身送達」とは、本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、全身循環を介して或る場所から別の場所への化合物、例えば活性物質の移動を指す。
【0032】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「活性物質(active agent)」という用語は、任意の宿主、動物、脊椎動物又は無脊椎動物、例えば魚類、哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類及びヒトからの生物学的応答を引き出す化合物、分子又は治療物質を指す。活性物質の例としては、治療用物質、薬学的物質、調合薬(例えば薬剤、治療用化合物、薬学的塩等)、非調合薬(例えば化粧用物質等)、診断用物質、ワクチン、免疫学的作用物質、局所麻酔薬又は全身麻酔薬又は鎮痛剤、抗原又はタンパク質又はペプチド、例えば、インスリン、化学療法薬、抗腫瘍薬が挙げられる。
【0033】
いくつかの実施形態では、「活性物質」という用語は、活性物質そのもの、並びにその薬理学的活性塩、薬学的又は診断的に許容可能な塩、プロドラッグ、代謝産物、類縁体等を指す。いくつかのさらなる実施形態では、活性物質としては、少なくとも1つのイオン性、陽イオン性、イオン化可能及び/又は中性治療薬及び/又はそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。さらに他の実施形態では、活性物質は、水性媒質中で正に荷電され及び/又は正電荷を生じ得る1つ又は複数の「陽イオン性活性物質」を含み得る。例えば多数の生物学的活性物質は、水性媒質中で陽性イオンに容易に転化可能であるか又は正荷電イオン及び対イオンに解離し得る官能基を有する。例えばアミノ基を有する活性物質は、典型的には、固体状態でアンモニウム塩形態をとり、そして適切なpHの水性媒質中で遊離アンモニウムイオン(NH)に解離することができる。その他の活性物質は、水性媒質中で負イオンに容易に転化可能であるか又は負荷電イオン及び対イオンに解離し得る官能基を有し得る。さらに他の活性物質は、分極されるか又は分極可能であり、即ち、別の部分に比して或る部分で極性を示す。
【0034】
「活性物質」という用語は、電気浸透圧流により送達され得る電気的に中性な作用物質、分子又は化合物も指す。電気的に中性な作用物質は、典型的には、例えば電気泳動中の溶媒の流れにより運ばれる。したがって適切な活性物質の選択は、当業者の知識内である。
【0035】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の活性物質は、鎮痛薬、麻酔薬、ワクチン、抗生物質、アジュバント、免疫学的アジュバント、免疫原、寛容原、アレルゲン、トル様受容体アゴニスト、トル様受容体アンタゴニスト、免疫アジュバント、免疫調節物質、免疫応答物質、免疫刺激物質、特異的免疫刺激物質、非特異的免疫刺激物質及び免疫抑制物質又はそれらの組合せから選択され得る。
【0036】
活性物質のさらなる非限定例としては、リドカイン、アルチカイン及びカイン類の他のもの、モルヒネ、ヒドロモルホン、フェンタニル、オキシコドン、ヒドロコドン、ブプレノルフィン、メタドン及び類似のオピオイドアゴニスト、コハク酸スマトリプタン、ゾルミトリプタン、ナラトリプタンHCl、安息香酸リザトリプタン、リンゴ酸アルモトリプタン、コハク酸フロバトリプタン、及び他の5−ヒドロキシトリプタミン1受容体サブタイプアゴニスト、レシキモド(resiquimod)、イミキモド(imiquimod)、並びに類似のTLR7及びTLR8アゴニスト及びアンタゴニスト、ドンペリドン、塩酸グラニセトロン、オンダンセトロン及び他のこのような鎮嘔吐剤、酒石酸ゾルピデム及び類似の睡眠剤、L−ドーパ及び他の抗パーキンソン薬、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、クロザピン及びジプラシドン、並びに他の精神安定剤、糖尿病薬、例えばエクセナチド、並びに肥満及び他の疾患の治療のためのペプチド及びタンパク質が挙げられる。
【0037】
麻酔性活性物質又は鎮痛薬のさらなる非限定例としては、アンブカイン、アメトカイン、p−アミノ安息香酸イソブチル、アモラノン、アモキセカイン、アミロカイン、アプトカイン、アザカイン、ベンカイン、ベノキシネート、ベンゾカイン、N,N−ジメチルアラニルベンゾカイン、N,N−ジメチルグリシルベンゾカイン、グリシルベンゾカイン、β−アドレナリン受容体アンタゴニスト、ベトキシカイン、ブメカイン、ブピバカイン(bupivicaine)、レボブピビカイン(levobupivicaine)、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、メタブトキシカイン、カルビゾカイン、カルチカイン、セントブクリジン、セパカイン、セタカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、プソイドコカイン、クロロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジクロニン、エコグニン、エコゴニジン、アミノ安息香酸エチル、エチドカイン、ユープロシン、フェナルコミン、フォモカイン、ヘプタカイン、ヘキサカイン、ヘキソカイン、ヘキシルカイン、ケトカイン、ロイシノカイン、レボキサドロール、リグノカイン、ロツカイン、マーカイン、メピバカイン、メタカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ネパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセタザイン、パレントキシカイン、ペンタカイン、フェナシン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、ポリカイン、プリロカイン、プラモキシン、プロカイン(ノボカイン(登録商標))、ヒドロキシプロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、カタカイン、リノカイン、リソカイン、ロドカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、ヒドロキシテトラカイン、トリカイン(tolycaine)、トラペンカイン、トリカイン(tricaine)、トリメカイン、トロパコカイン、ゾラミン、それらの薬学的に許容可能な塩、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0038】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「抗原」又は「抗原性の」又は「抗原性」とは、異物として身体により認識される、そして免疫系を刺激して抗体を産生するタンパク質、ポリペプチド又は炭水化物等を指す、本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「抗原決定基」(一般的に「エピトープ」とも呼ばれる)とは、免疫応答を引き起こし、したがって抗原性部位又は構造的に関連する抗原性部位を認識し、それと結合し得る抗体の産生を刺激し得る抗原の表面上の特定領域又は構造(即ち、「抗原性部位」)を指す。本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、抗原の「抗原性部分」は、抗原が由来する生物体に、又は抗原それ自体に感染した個体から得られる血清と反応し得る部分である。
【0039】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、結核菌(M. tuberculosis)抗原上に位置する抗原決定基と「類似の」ものである抗原決定基を含むポリペプチドとは、結核菌抗原により引き出されるものに匹敵する免疫応答を引き出すポリペプチドを指す。
【0040】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「免疫原」又は「免疫原性」という用語は、免疫応答を引き出す任意の作用物質を指す。免疫原の例としては、天然又は合成(修飾を含む)ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、オリゴヌクレオチド(RNA、DNA等)、化学物質又はその他の作用物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「ポリペプチド」という用語は、任意の長さのアミノ酸鎖、例えば全長タンパク質(この場合、アミノ酸残基は共有ペプチド結合により連結される)を包含する。
【0042】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「変異体」とは、ネイティブ抗原の抗原特性が保持されるような保存的置換及び/又は修飾においてのみ、ネイティブ抗原と異なるポリペプチドである。このような変異体は一般に、ポリペプチド配列を修飾し、そして修飾ポリペプチドの抗原特性を評価することにより同定され得る。「保存的置換」とは、或るアミノ酸が、類似の特性を有する別のアミノ酸で置換されることである。概して、アミノ酸の以下の基が保存的変化を表わす:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr、(2)cys、ser、tyr、thr、(3)val、ile、leu、met、ala、phe、(4)lys、arg、his、並びに(5)phe、tyr、trp、his。変異体は、さらに又は代替的には、例えばポリペプチドの構造的特質又は抗原特性に及ぼす最小限の影響を有するアミノ酸の欠失又は付加により修飾され得る。
【0043】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「融合タンパク質」又は「融合ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して単一アミノ酸鎖に結合される2つ以上のタンパク質/ポリペプチド配列を含む。配列は、介入アミノ酸なしに直接的に、又はリンカーアミノ酸配列により、結合され得る。
【0044】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「アレルゲン」という用語は、アレルギー性応答を引き出す任意の作用物質を指す。アレルゲンのいくつかの例としては、化学物質及び植物、薬剤(例えば抗生物質、血清)、食物(例えばミルク、小麦、卵等)、細菌、ウイルス、その他の寄生生物、吸入抗原(埃、花粉、香料、煙)、及び/又は物理的作因(熱、光、摩擦、放射線)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で用いる場合、アレルゲンは免疫原であり得る。
【0045】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「アジュバント」という用語及びその任意の派生物は、それ自体投与される場合、有するにしても僅かの直接作用である一方で、別の作用物質の作用を修飾する作用物質を指す。例えばアジュバントは、製剤の潜在効力又は効能を増大することができるか、或いは免疫応答を変えるか又はそれに影響を及ぼし得る。
【0046】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「アゴニスト」という用語は、受容体(例えばトル様受容体等)と結合することで細胞性応答を生じ得る化合物を指す。アゴニストは、受容体と直接結合するリガンドであり得る。代替的には、アゴニストは、受容体を直接結合する別の分子と複合体を形成することにより、或いはそうでなければ受容体に直接結合するように化合物の修飾を生じることにより、間接的に受容体と結合し得る。
【0047】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「アンタゴニスト」という用語は、受容体(例えばトル様受容体等)と結合することで細胞性応答を阻害し得る化合物を指す。アンタゴニストは、受容体と直接結合するリガンドであり得る。代替的には、アンタゴニストは、受容体と直接結合する別の分子と複合体を形成することにより、或いはそうでなければ受容体に直接結合するように化合物の修飾を生じることにより、間接的に受容体と結合し得る。
【0048】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「鎮痛薬」という用語は、対象の身体の一領域における神経感覚を減少、緩和、低減、軽減、又は消滅させる作用物質を指す。いくつかの実施形態では神経感覚は疼痛に関連し、他の態様においては、神経感覚は不快感、痒み、灼熱痛、過敏、刺痛、「爬行」圧感、温度変動(例えば発熱)、炎症、疼痛又はその他の神経感覚に関する。
【0049】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「麻酔薬」という用語は、対象の身体の一領域における感覚の可逆的喪失を生じる作用物質を指す。いくつかの実施形態では、麻酔薬は、それが対象の身体の一特定領域のみにおける感覚の喪失を生じる場合、「局所麻酔薬」であるとみなされる。
【0050】
当業者が認識するように、いくつかの作用物質は、周囲の状況及びその他の変数、例えば投与量、送達方法、医学的条件又は医学的処置、並びに個々の対象の遺伝的素質(これらに限定されない)によって、鎮痛薬及び麻酔薬の両方として作用し得る。さらに、他の目的のために典型的に用いられる作用物質は、或る種の周囲状況下で又は特定条件下では、局所麻酔性又は膜安定特性を保有し得る。
【0051】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「有効量」又は「治療的有効量」という用語は、所望の結果を達成するために必要な投与量及び期間の有効な量を包含する。薬学的作用物質を含有する組成物の有効量は、対象の疾患状態、年齢、性別及び体重のような因子によって変わり得る。
【0052】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「ビヒクル」、「担体」、「薬学的ビヒクル」、「薬学的担体」、「薬学的に許容可能なビヒクル」、「薬学的に許容可能な担体」、「診断用ビヒクル」、「診断用担体」、「診断的に許容可能なビヒクル」又は「診断的に許容可能な担体」という用語は、その使用が薬学的か又は診断用かによって互換的に用いることができ、そして通常は薬学的組成物又は診断用組成物を製造するために製薬又は診断産業に用いられる薬学的又は診断的に許容可能な固体又は液体の、希釈又は封入、充填又は運搬作用物質を指す。ビヒクルの例としては、任意の液体、ゲル、軟膏、クリーム、溶剤、希釈剤、流体軟膏基剤、小胞、リポソーム、ニソーム、エタソーム、トランスファソーム、ウィロソーム、環状オリゴ糖、非イオン性界面活性剤小胞、リン脂質界面活性剤小胞、ミセル等(対象に接触するのに用いるのに適している)が挙げられる。
【0053】
いくつかの実施形態では、薬学的ビヒクルは、薬理学的活性物質を含むか及び/又は送達するが、一般的にそうでなければ薬理学的に不活性であると考えられる組成物を指す。いくつかの他の実施形態では、薬学的ビヒクルは、例えば損傷、さらなる損傷又は要素への曝露のような状態からの適用部位の防御を提供することにより、粘膜又は皮膚のような部位に適用された場合に、何らかの治療効果を有し得る。したがっていくつかの実施形態では、薬学的ビヒクルは、処方物中に薬理学的作用物質を伴わずに防御のために用いられ得る。
【0054】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「シクロデキストリン」という用語は、環状オリゴ糖の一ファミリーのいずれかを指す。シクロデキストリン(時としてシクロアミロースとも呼ばれる)は、アミラーゼにおけるように、α−(1,4)グリコシド結合により連結される5つ以上のD−グルコピラノシド単位で構成されるが、必ずしもこれらに限定されない。32という多くの1,4−グルコピラノシド単位を有するシクロデキストリンは、良好に特性化されている。典型的にはシクロデキストリンは、環中に6〜8グルコピラノシド単位(必ずしもこれらに限定されない)を含有し、一般的にα−シクロデキストリン(6単位)、β−シクロデキストリン(7単位)及びγ−シクロデキストリン(8単位)と呼ばれる。これらは、天然であってもよく、又は合成的に製造されてもよい。
【0055】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「〜と一緒に」という用語及びその任意の派生物は、さらなる活性物質、ビヒクル、担体等の投与と同時的な、その前の、又はその後の活性物質、ビヒクル、担体等の投与を指す。
【0056】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、「対象」という用語は、一般的に、任意の宿主、動物、脊椎動物又は無脊椎動物を指し、そして魚類、哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類及び特にヒトを含む。
【0057】
本明細書中及び添付の添付の特許請求の範囲で用いる場合、「制御装置」とは、「制御ユニット」と同一であると認識され得る。
【0058】
本明細書中で提示される見出しは、便宜上に過ぎず、当該実施形態の範囲又は意味を説明するものではない。
【0059】
図1A及び図1Bは、対象に1つ又は複数の活性物質を送達するための例示的な経皮薬剤送達システム6を示す。システム6は、それぞれ作用側電極構造体12及び対向電極構造体14並びに電源16を含めたイオントフォレーシス装置8を包含する。作用側電極構造体12及び対向電極構造体14は、イオントフォレーシスにより、生体界面18(例えば皮膚又は粘膜の一部)に作用側電極構造体12中に含入される活性物質を供給するために電源16と電気的に結合される。いくつかの実施形態では、イオントフォレーシス装置8は、任意に、対象の生体界面18にイオントフォレーシス装置8を物理的に結合するための外部接着表面19を包含する。
【0060】
図2A及び図2Bに示したように、作用側電極構造体12は、作用側電極構造体12の内部20から外部22に、作用側電極要素24、電解質28を貯留する電解質貯留槽26、内部イオン選択膜30、活性物質36を貯留する内部活性物質貯留槽34、付加的活性物質40を任意に貯蔵する任意の最外部イオン選択膜38、最外部イオン選択膜38の外表面44により担持される任意のさらなる活性物質42、並びに任意の外部リリースライナー46を含み得る。
【0061】
作用側電極構造体12は、作用側電極構造体12の2つの層の間に、例えば内部イオン選択膜30と内部活性物質貯留槽34との間に任意の内部封止ライナー(図示せず)をさらに包含し得る。内部封止ライナーは、存在する場合、生体界面18へのイオントフォレーシス装置の適用前に取り外される。上記の要素又は構造の各々を、以下で詳細に考察する。
【0062】
作用側電極要素24は、電源16の第一の電極16aと電気的に結合され、そして作用側電極構造体12に配置されて、起電力を印加して、作用側電極構造体12の種々の他の構成成分を介して活性物質36、40、42を輸送する。通常使用条件下で、印加起電力の大きさは一般に、治療的又は診断的有効用量プロトコールに従って1つ又は複数の活性物質を送達するために必要とされるものである。いくつかの実施形態では、大きさは、イオントフォレーシス送達装置8の電気化学的ポテンシャルを操作する通常の使用に見合うか又はそれを超え得るように選択される。
【0063】
作用側電極要素24は、種々の形態をとり得る。一実施形態では、作用側電極要素24は、有益には、炭素ベースの作用側電極要素の形態をとり得る。このようなものは、例えば多重層、例えば炭素を含むポリマーマトリクス及び炭素繊維又は炭素繊維紙を含む導電性シートを含み、例えば同一出願人による係属中の特願2004/317317号(2004年10月29日提出)に記載されている。炭素ベースの電極は、それ自体が電気化学反応を受けないか又は電気化学反応に関与しない不活性電極である。したがって不活性電極は、システムに印加される電位で電子を受容するか又は付与し得る化学種の酸化又は還元により電流を分配する(例えば水の還元又は酸化によりイオンを発生する)。不活性電極の付加的な例としては、ステンレススチール、金、白金、キャパシタ炭素(capacitive carbon)又は黒鉛が挙げられる。
【0064】
代替的には、犠牲導電性物質、例えば化合物又はアマルガムの活性電極も用いられ得る。犠牲電極は水の電気分解を引き起こさず、それ自体は酸化されるか又は還元される。典型的には、陽極に関しては、金属/金属塩が用いられ得る。このような場合、金属は金属イオンに酸化されて、これは次に不溶性塩として析出される。このような陽極の一例としては、Ag/AgCl電極が挙げられる。逆反応は陰極で起こり、金属イオンが還元され、そして対応する陰イオンが電極の表面から放出される。
【0065】
電解質貯留槽26は、種々の形態、例えば電解質28を保持し得る任意の構造をとり、そしていくつかの実施形態では、例えば電解質28がゲル形態、半固体形態又は固体形態である場合、電解質28自体でさえあり得る。例えば電解質貯留槽26は、特に電解質28が液体である場合、パウチ又はその他の容器、或いは孔、キャビティ又は隙間を有する膜の形態をとり得る。
【0066】
一実施形態では、電解質28は、イオン性構成成分又はイオン化可能構成成分を水性媒質中に含むが、これは、作用側電極要素に向けて、又はそれから電流を伝達するよう作用し得る。適切な電解質としては、例えば塩の水溶液が挙げられる。好ましくは電解質28は、生理学的イオン、例えばナトリウム、カリウム、クロリド及びホスフェートの塩を含む。好ましくは電解質は、アスコルビン酸(ascorbate)、フマル酸(fumarate)、乳酸(lactate)及びリンゴ酸(malate)又はそれらの塩から選択される少なくとも1つの生物学的に適合性の酸化防止剤を含む。
【0067】
電位が印加されると、不活性の側電極要素が使用中である場合、水は作用側電極構造体及び対向電極構造体の両方で電解される。或る種の実施形態では、例えば作用側電極構造体が陽極である場合、水は酸化される。その結果、酸素が水から除去され、一方、陽子(H)が産生される。一実施形態では、電解質28は、酸化防止剤をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、酸化防止剤は、例えば水より低い電位を有する酸化防止剤から選択される。このような実施形態では、加水分解を生じる代わりに選択された酸化防止剤が消費される。いくつかのさらなる実施形態では、酸化形態の酸化防止剤が陰極で用いられ、そして還元形態の酸化防止剤が陽極で用いられる。生物学的適合性酸化防止剤の例としては、アスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)又はクエン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
上記のように、電解質28は、貯留槽26内に収容される水溶液の形態をとるか、或いは相当量の水を保有し得るヒドロゲル又は親水性ポリマー中の分散液の形態であり得る。例えば適切な電解質は、0.5Mフマル酸二ナトリウム:0.5Mポリアクリル酸:0.15M酸化防止剤の溶液の形態をとり得る。代替的又は追加的な成分は、アスコルビン酸、フマル酸、乳酸などを含み得る。
【0069】
内部イオン選択膜30は一般に、このような膜が装置内に含まれる場合、電解質28及び内部活性物質貯留槽34を分離するように配置される。内部イオン選択膜30は、電荷選択膜の形態をとり得る。例えば活性物質36、40、42が陽イオン性活性物質を含む場合、内部イオン選択膜30は、陰イオンを実質的に通し、そして陽イオンを実質的に遮断するように選択的である陰イオン交換膜の形態をとり得る。内部イオン選択膜30は、有益には、電解質28と内部活性物質貯留槽34との間の望ましくない要素又は化合物の移動を防止し得る。例えば内部イオン選択膜30は、電解質28からのナトリウム(Na)イオンの移動を防止又は阻害し、それによりイオントフォレーシス装置8の移動速度及び/又は生物学的適合性を増大し得る。
【0070】
内部活性物質貯留槽34は概して、内部イオン選択膜30と最外部イオン選択膜38との間に配置される。内部活性物質貯留槽34は、種々の形態、例えば活性物質36を一時的に保有し得る任意の構造をとり得る。例えば内部活性物質貯留槽34は、特に活性物質36が液体である場合、パウチ又はその他の容器、或いは孔、キャビティ又は隙間を有する膜の形態をとり得る。内部活性物質貯留槽34はさらに、ゲルマトリクスを含み得る。
【0071】
任意的に、最外部イオン選択膜38は一般に、作用側電極要素24から作用側電極構造体12を通って向かい合って配置される。最外部膜38は、図1及び図2に図示した実施形態のように、イオン交換膜の形態をとることができ、当該イオン選択膜38の孔48(図を分かりやすくするために図1及び図2では1つだけが示されている)はイオン交換物質又は基50(図を分かりやすくするために図1及び図2では3つだけが示されている)を有している。起電力又は電流の影響下では、イオン交換物質又は基50は選択的に、活性物質36、40と同じ極性を有するイオンを実質的に通し、一方、反対極性を有するイオンを実質的に遮断する。したがって最外部イオン交換膜38は、電荷選択的である。活性物質36、40、42が陽イオン(例えばリドカイン)である場合、最外部イオン選択膜38は陽イオン交換膜の形態をとり、したがって陽イオン性活性物質の通過を許容する一方で、生体界面、例えば皮膚に存在する陰イオンの逆流を遮断する。代替的には、活性物質36、40、42が陰イオンである場合、最外部イオン選択膜38は陰イオン性の活性物質の通過を許容するアニオン交換膜の形態を取り得る。
【0072】
最外部イオン選択膜38は、任意的に活性物質40を貯蔵し得る。理論に縛られずに考えると、イオン交換基又は物質50は、起電力又は電流の非存在下で活性物質の極性と同じ極性を有するイオンを一時的に保持し、そして起電力又は電流の影響下で同様の極性又は電荷を有する代用イオンと置き換えられる場合、それらのイオンを実質的に放出する。
【0073】
代替的には、最外部イオン選択膜38は、サイズに選択的である半透性又は微小孔膜の形態をとり得る。いくつかの実施形態では、このような半透性膜は、有益には、例えば外部リリースライナーが使用前に取り外されるまで、活性物質40を保有するために除去可能で取り外し可能な外部リリースライナーを用いることにより、活性物質40を貯蔵し得る。
【0074】
最外部イオン選択膜38は、付加的活性物質40、例えばイオン化した又はイオン化可能な薬剤又は治療乃至診断薬、及び/又は、分極化された又は分極化可能な薬剤又は治療乃至診断薬を任意に予備装荷し得る。最外部イオン選択膜38がイオン交換膜である場合、相当量の活性物質40が最外部イオン選択膜38の孔、キャビティ又は隙間48中のイオン交換基50と結合し得る。
【0075】
物質50のイオン交換基と結合できない活性物質42は、さらなる活性物質42として最外部イオン選択膜38の外表面44に付着し得る。代替的には又は付加的には、さらなる活性物質42は、例えば噴霧、フラッディング、コーティングにより、静電的に、蒸着により、及び/又は別の方法で、最外部イオン選択膜38の外表面44の少なくとも一部分の上に積極的に堆積及び/又は付着され得る。いくつかの実施形態では、さらなる活性物質42は、外表面44を十分に被覆し及び/又は十分な厚みを有することで明確な層52を形成し得る。他の実施形態では、さらなる活性物質42は、その語の通常の味での層を構成するほどには、容積、厚み又は被覆面積において十分でない場合もある。
【0076】
活性物質42は、種々の高濃縮形態、例えば固体形態、ほぼ飽和された溶液形態又はゲル形態で堆積され得る。固体形態である場合、水和の供給源が提供され、作用側電極構造体12に組込まれるか、又は使用直前にその外部から適用され得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、活性物質36、付加的活性物質40及び/又はさらなる活性物質42は、同一又は類似の組成物又は要素であり得る。他の実施形態では、活性物質36、付加的活性物質40、及び/又はさらなる活性物質42は、互いに異なる組成物又は要素であり得る。したがって第一の型の活性物質が内部活性物質貯留槽34中に保存され得る一方で、第二の型の活性物質は最外部イオン選択膜38中に貯蔵され得る。このような実施形態では、第一の型又は第二の型の活性物質のいずれもが、さらなる活性物質42として最外部イオン選択膜38の外表面44上に堆積され得る。代替的には、第一の型及び第二の型の活性物質の混合物がさらなる活性物質42として最外部イオン選択膜38の外表面44上に堆積され得る。さらにそれに代わるものとして、第三の型の活性物質の組成物又は要素が、さらなる活性物質42として最外部イオン選択膜38の外表面44上に堆積され得る。別の実施形態では、第一の型の活性物質が活性物質36として内部活性物質貯留槽34中に保存され、そして付加的活性物質40として最外部イオン選択膜38中に貯蔵され得る一方で、第二の型の活性物質はさらなる活性物質42として最外部イオン選択膜38の外表面44上に堆積され得る。典型的には、1つ又は複数の異なる活性物質が用いられる実施形態では、活性物質36、40、42はすべて、共通の極性を有し、活性物質36、40、42が互いに競合しないようにする。他の組合せも可能である。
【0078】
外部リリースライナー46は概して、最外部イオン選択膜38の外表面44により保有されるさらなる活性物質42の上に重なるか又はそれを覆って配置され得る。外部リリースライナー46は、起電力又は電流の印加前に、貯蔵中、さらなる活性物質42及び/又は最外部イオン選択膜38を保護し得る。外部リリースライナー46は、耐水性物質製の選択的に取り外し可能なライナー、例えば感圧性接着剤に一般的に関連するリリースライナーであり得る。
【0079】
界面結合媒質(示されていない)は、電極構造体と生体界面18との間に用いられ得る。界面結合媒質は、例えば接着剤及び/又はゲルの形態をとり得る。ゲルは、例えば水和ゲルの形態をとり得る。適切な生体接着性ゲルの選択は、当業者の知識内である。
【0080】
図2A及び図2Bに示した実施形態では、対向電極構造体14は、対向電極構造体14の内部64から外部66に向けて、対向電極要素68、電解質72を保存する電解質貯留槽70、内部イオン選択膜74、緩衝剤78を保存する任意の緩衝剤貯留槽76、任意の最外部イオン選択膜80、及び任意の外部リリースライナーを含み得る。
【0081】
対向電極要素68は、電源16の第二の電極16bと電気的に結合され、第二の電極16bは第一の電極16aと逆の極性を有する。一実施形態では、対向電極要素68は不活性電極である。例えば対向電極要素68は、上記の炭素ベースの電極要素の形態をとり得る。
【0082】
電解質貯留槽70は、種々の形態、例えば電解質72を保持し得る任意の構造をとり、そしていくつかの実施形態では、例えば電解質72がゲル形態、半固体形態又は固体形態である場合、電解質72自体でさえあり得る。例えば電解質貯留槽70は、特に電解質72が液体である場合、パウチ又はその他の容器、或いは孔、キャビティ又は隙間を有する膜の形態をとり得る。
【0083】
電解質72は概して、対向電極要素68と、対向電極要素68に隣接した最外部イオン選択膜80との間に配置される。上記のように、電解質72は、イオンを提供するか又は電荷を供与して、対向電極要素68上の気泡(電極の極性によって、例えば水素又は酸素)の形成を防止又は阻害し、そして酸又は塩基の形成を防止又は阻害するか、或いはそれを中和し、これにより効率が高められ、及び/又は、生体界面18における刺激発生の可能性が低減され得る。
【0084】
内部イオン選択膜74は、電解質72と緩衝剤78との間に、及び/又は電解質72を緩衝剤78から分離するよう配置される。内部イオン選択膜74は、電荷選択膜、例えば第一の極性又は電荷を有するイオンの通過を実質的に可能にするが一方で、第二の反対極性を有するイオン又は電荷の通過を実質的に遮断する図示したイオン交換膜の形態をとり得る。内部イオン選択膜74は典型的には、最外部イオン選択膜80を通るイオンと逆の極性又は電荷を有するイオンを通す一方で、同様の極性又は電荷を有するイオンを実質的に遮断する。代替的には、内部イオン選択膜74は、サイズに基づいて選択的である半透性膜又は微小孔膜の形態をとり得る。
【0085】
内部イオン選択膜74は、緩衝剤78への望ましくない要素又は化合物の移動を防止し得る。例えば内部イオン選択膜74は、電解質72から緩衝剤78中へのヒドロキシ(OH)イオン又は塩化物(Cl)イオンの移動を防止又は阻害し得る。
【0086】
任意の緩衝剤貯留槽76は概して、電解質貯留槽と最外部イオン選択膜80との間に配置される。緩衝剤貯留槽76は、緩衝剤78を一時的に保有し得る種々の形態をとり得る。例えば緩衝剤貯留槽76は、キャビティ、多孔性膜又はゲルの形態をとり得る。
【0087】
緩衝剤78は、最外部イオン選択膜42を通して生体界面18への移動のためのイオンを供給し得る。その結果として、緩衝剤78は、例えば塩(例えばNaCl)を含み得る。
【0088】
対向電極構造体14の最外部イオン選択膜80は、種々の形態をとり得る。例えば最外部イオン選択膜80は、電荷選択性イオン交換膜の形態をとり得る。典型的には対向電極構造体14の最外部イオン選択膜80は、作用側電極構造体12の最外部イオン選択膜38のイオンと逆の電荷又は極性を有するイオンに対して選択的である。したがって最外部イオン選択膜80は、陰イオン交換膜であり、これは実質的に陰イオンを通し、そして陽イオンを遮断し、それにより生体界面からの陽イオンの逆流を防止する。適切なイオン交換膜の例は上記されている。
【0089】
代替的には、最外部イオン選択膜80は、イオンのサイズ又は分子量に基づいて、イオンを実質的に通す及び/又は遮断する半透性膜の形態をとり得る。
【0090】
外部リリースライナー82は概して、最外部イオン選択膜80の外表面84の上に重なるか又はそれを覆って配置され得る。外部リリースライナー82は、図2Aでは配置され、図2Bでは省略されて示されている。外部リリースライナー82は、起電力又は電流の印加前に、貯蔵中、最外部イオン選択膜80を保護し得る。外部リリースライナー82は、耐水性物質製の選択的に取り外し可能なライナー、例えば感圧性接着剤に一般的に関連するリリースライナーであり得る。いくつかの実施形態では、外部リリースライナー86は、作用側電極構造体12の外部リリースライナー46と同一の広がりを有し得る。
【0091】
イオントフォレーシス装置8は、作用側電極構造体12及び対向電極構造体14を形成する種々の他の構造の露出側面に隣接する不活性成形物質86をさらに含み得る。成形物質86は、有益には、作用側電極構造体12及び対向電極構造体14の種々の構造に対する環境保護を提供し得る。作用側電極構造体12及び対向電極構造体14の覆いは、収容物質90である。
【0092】
図2Bで最も良く分かるように、作用側電極構造体12及び対向電極構造体14は、生体界面18上に配置される。生体界面上の配置は、回路を閉じて、起電力を印加させ、及び/又は作用側電極構造体、生体界面18及び対向電極構造体14を介して、電流を電源16の一方の極16aから他方の極16bに流させ得る。
【0093】
使用に際しては、最外部活性電極イオン選択膜38は、生体界面18と直接接触して置かれ得る。代替的には、界面結合媒質(示されていない)は、最外部活性電極イオン選択膜22と生体界面18との間に用いられ得る。界面結合媒質は、例えば接着剤及び/又はゲルの形態をとり得る。ゲルは、例えば水和ゲル又はヒドロゲルの形態をとり得る。用いられる場合、界面結合媒質は、活性物質36、40、42により透過可能である必要がある。
【0094】
いくつかの実施形態では、電源16は、貯留槽34からの1つ又は複数の活性物質36、40、42の送達を可能にし、生体界面(例えば膜)を通って、所望の生理学的作用を付与するのに十分な電圧、電流及び/又は持続時間を提供するように選択される。電源16は、1つ又は複数の化学電池、スーパーキャパシタ又はウルトラキャパシタ、燃料電池、二次電池、薄膜二次電池、ボタン電池、リチウムイオン電池、亜鉛空気電池、ニッケル水素電池等の形態をとり得る。電源16は、例えば0.8V DCの公差の12.8V DCの電圧と0.3mAの電流を提供し得る。電源16は、選択的に、制御回路を介して、例えば炭素繊維リボンを介して、作用側電極構造体12及び対向電極構造体14と電気的に結合し得る。イオントフォレーシス装置8は、電極構造体12、14に送達される電圧、電流及び/又は電力を制御するために、ディスクリートの回路要素及び/又は集積回路要素を包含し得る。例えばイオントフォレーシス装置8は、電極要素24、68に定電流を提供するためのダイオードを包含し得る。
【0095】
上記のように、1つ又は複数の活性物質36、40、42は、1つ又は複数のイオン性、陽イオン性、イオン化可能及び/又は中性薬剤又はその他の治療又は診断薬の形態をとり得る。したがって、電源16の極又は端子並びに最外部イオン選択膜38、80及び内部イオン選択膜30、74の選択性は、それに応じて選択される。
【0096】
イオントフォレーシス中、電極構造体を通る起電力は、上記のように、生体界面を通して、生体組織中への、荷電活性物質分子並びにイオン及び他の荷電構成成分の移動をもたらす。この移動は、界面を越えた生体組織内の活性物質、イオン及び/又は他の荷電構成成分の蓄積をもたらし得る。イオントフォレーシス中、反発力に応じた荷電分子の移動のほかに、電極及び生体界面を通して組織中への溶媒(例えば水)の電気浸透流も存在する。或る種の実施形態では、電気浸透溶媒流は、荷電分子及び非荷電分子の両方の移動を増強する。電気浸透溶媒流による移動増強は、特に分子のサイズ増大に伴って起こり得る。
【0097】
或る種の実施形態では、活性物質は、より高分子量の分子であり得る。或る種の態様において、分子は、極性高分子電解質であり得る。或る種の他の態様では、分子は親油性であり得る。或る種の実施形態では、このような分子は、活性電極内の条件下で、荷電されるか、低正味電荷を有するか、又は非荷電であり得る。或る種の態様において、このような活性物質は、イオントフォレーシス反発力の影響下での小さなより高度に荷電された活性物質の移動に比べて、イオントフォレーシス反発力下では十分に移動し得ない。したがってこれらの高分子量活性物質は、主に電気浸透溶媒流により、生体界面を介して下にある組織中に運搬され得る。或る種の実施形態では、高分子量の高分子電解質活性物質は、タンパク質、ポリペプチド又は核酸であり得る。他の実施形態では、活性物質は別の活性物質と混合されて、上記の起動方法のうちの1つにより生体界面を通って輸送され得る複合体を形成し得る。
【0098】
いくつかの実施形態では、経皮送達システム6は、生体界面18への1つ又は複数の治療用又は診断用活性物質36、40、42の経皮送達を提供するためのイオントフォレーシス送達装置8を包含する。送達装置8は、少なくとも1つの活性物質貯留槽、及び少なくとも1つの活性物質貯留槽から活性物質を駆動するために起電力を提供するように動作可能な少なくとも1つの作用側電極要素を含む作用側電極構造体12を包含する。送達装置8は、少なくとも1つの対向電極要素68を含む対向電極構造体14、並びに少なくとも1つの作用側電極要素24及び少なくとも1つの対向電極要素68に電気的に結合される電源16を包含し得る。いくつかの実施形態では、イオントフォレーシス送達装置8は、少なくとも1つの活性物質貯留槽34中に装填される1つ又は複数の活性物質36、40、42をさらに包含し得る。
【0099】
対象における部位への1つ又は複数の活性物質の全身送達のためのイオントフォレーシス装置及び方法が提供される。或る種の態様では、活性物質が送達される部位は、疼痛が特定されるか又は診断された部位であり得る。或る種のこのような態様では、当該方法は、先ず疼痛の部位を特定することを包含し得る。或る種の実施形態では、このような部位への1つ又は複数の活性物質の送達は、その部位での疼痛の軽減のためであり得る。
【0100】
本明細書中の他の箇所に開示されるように、疼痛は、神経障害性又は侵害受容性であり得る。神経障害性疼痛は慢性であり、長期治療を要する。神経障害性疼痛の原因は不明であるか、又は制御可能でないことがあるので、一実施形態では、治療は、疼痛を改善する薬剤、例えば本明細書中で特定されるような麻酔性活性物質又は鎮痛薬の長期進行中投与を包含し得る。このような作用物質は、対象が神経障害性疼痛を経験中である領域での又はその付近の生体界面(例えば皮膚又は粘膜)への1つ又は複数の装置の適用により、受動的に投与され得る。当該装置が界面と接触すると、次に作用物質は当該装置から界面上又は界面中に拡散して、疼痛の軽減に際してその作用を発揮し得る。代替的には、作用物質は有益には、装置により生体界面及び組織を介して全身循環中に能動的に投与されることができ、それにより作用物質は局所的にそしてより広範にその治療作用を発揮し得る。一実施形態では、例えば活性物質は、それが血流中に浸入し、そして神経障害性疼痛を経験中の領域における毛管床又はその他の血管系中に全身的に運ばれ得る、生体界面の領域部分を介して投与され得る。或る種の実施形態では、麻酔薬又は鎮痛薬の能動的投与のための装置は、本明細書中でさらに詳細に記載されるようなイオントフォレーシス装置である。
【0101】
或る種の実施形態では、本明細書中に開示されるような活性物質の全身送達のための方法のいずれかに従って用いるための送達装置は、本明細書中の他の箇所に記載され、開示されるイオントフォレーシス装置のいずれかから選択され得る。或る種の態様では、送達装置は使用のために選択され得る。或る種のこのような態様では、選択される送達装置は、包装から取り出され、使用のために準備され得る。さらなるこのような態様では、送達装置は、リリースライナーの除去により使用のために準備され得る。
【0102】
或る種の実施形態では、本明細書中で開示されるような方法は、イオントフォレーシス送達装置を、イオントフォレーシス送達装置を有する対象の生体界面と物理的に結合すること、そして生体界面を介して組織中に、又は組織を介して対象の循環系中に活性物質を輸送するように装置を作動することを包含し得る。或る種の態様では、装置は生体界面との接触の前に作動され得る。或る種の実施形態では、活性物質は、カイン類の麻酔性化合物又は鎮痛薬から選択され得る。
【0103】
或る種の態様では、活性物質は、特定持続時間の間送達され得る。或る種のこのような実施形態では、送達持続時間は、疼痛を軽減するのに十分であるように選択され得る。或る種の態様では、送達持続時間は、経験的に確立され得る。例えば持続時間は、対象により特定される疼痛の軽減に基づいて確定され得る。他の態様では、送達の持続時間は、例えばイオントフォレーシス装置による活性物質の送達の速度により確定されるような送達用量に基づいて確立され得る。装置による送達の持続時間は、多数の因子、例えば活性電極構造内の活性物質の濃度、印加される電位の大きさ、並びに生体界面及び組織を介しての活性物質の流量に依存し得る。送達の持続時間及び活性物質の有効投与量に関する方法プロトコールは、例えば臨床試験の結果に基づいて容易に確立され得る。
【0104】
或る種の態様では、送達の持続時間は、対象により手動で制御され得る。例えば対象は、スイッチを手動で作動することにより活性物質の送達を開始し得る。次に対象は、スイッチを手動で止めることにより送達を終了し得る。或る種のこのような実施形態では、対象は、所定の持続時間後に送達を終了し得る。他のこのような実施形態では、対象は、生理学的作用、例えば対象に許容可能なレベルへの疼痛の低減に気づいた時に、送達を終了し得る。さらに他のこのような実施形態では、送達を終了するための装置の停止は、対象の血流内の活性物質又はいくつかの他の関連化合物のレベルの測定及びモニタリングによって変わる。このようなモニタリングは、適切なモニタリング計器を用いて自動的に、又は定期的に採取された血液試料を試験し、このような活性物質又は関連化合物に関して分析することにより実施され得る。
【0105】
或る種の実施形態では、送達の持続時間は自動的に制御され得る。例えばプログラム可能な制御ユニットを有するイオントフォレーシス送達装置は、生体界面を装置と接触させる前にプログラムされ得る。生体界面を接触させた後の或る時間に、装置は自動的に作動されて、活性物質の送達を開始し、そしてプログラムされたような所定の持続時間後に、作動を停止して、活性物質の送達を終了し得る。代替的には、装置は手動で作動されて、送達を開始し、そして自動的に作動を停止して送達を終了し得る。或る種の態様では、プログラムされた送達持続時間は、特定活性物質の送達のために予め確立された条件により確定され得る。例えば投与量レベルは、対象における所望の生理学的作用を提供するために確定され得る。或る種の実施形態では、装置が用いられる場合に変更され得ない固定プログラムを有する送達装置が製造され得る。或る種のこのような実施形態では、プログラム及び装置の作動は、装置と生体界面との接触の結果として自動的に起こり得る。代替的には、固定プログラムが開始され、そして装置が手動で作動され得る。
【0106】
或る種の実施形態では、本明細書中に開示されるような方法及び装置は、パルス化方式により操作し得るが、この場合、送達パルス間の間隔は、装置の特定の用途及び/又は治療のための要件によって広範に変わるようにプログラムされ得る。このような実施形態では、例えば活性部質のプログラム化されたパルス化方式の送達は継続する循環レベルの活性物質を提供し得る。循環レベルは、例えば或るレベルでの毒性が考え得る副作用である可能性がある条件下で、毒性を示すことなく慢性症状を治療するように選択され得る。
【0107】
或る種の態様では、1つ又は複数の活性物質は、対象における神経障害性疼痛の部位への全身送達のために対象にイオントフォレーシス的に投与され得る。或る種のこのような態様では、神経障害性疼痛が軽減され得る。本明細書中に開示される方法及び装置は、有益には、このような症状の治療に適用され、特にこの場合、このような症状は慢性であり、したがって継続する長期投与及び送達が有益であり得る。或る種の実施形態では、例えば活性物質、例えばカイン型麻酔薬及び鎮痛薬は、慢性疼痛からの軽減を維持するのに十分な治療レベルでイオントフォレーシス的に投与され、全身送達され得る。或る種の他の実施形態では、活性物質は、軽減を維持するためにパルス化方式により投与され得る。或る種の実施形態では、神経障害性疼痛は、例えば癌、化学療法、アルコール依存症、切断(例えば幻肢症候群)、背部、脚部又は臀部問題(坐骨神経痛)、糖尿病、顔面神経問題(三叉神経痛)、HIV感染又はAIDS、多発性硬化症、或いは脊髄手術のような症状に関連し得る。或る種の他の実施形態では、神経障害性疼痛は、帯状疱疹(帯状疱疹ウイルス感染、ヘルペス後疼痛)に関連し得る。
【0108】
或る種の態様では、本明細書中に開示される方法及び装置は、侵害受容性疼痛の軽減に適用され得る。侵害受容性疼痛は典型的には急性症状であり、この場合、疼痛はその原因が首尾よく治療され、治癒が行われるまで生じるが、それでも疼痛軽減は数日の期間を要し、数週間かかることさえある。このような条件下では、本明細書中に開示される方法及び装置の使用は有益であり得る。或る種の実施形態では、軽減されるべき侵害受容性疼痛は、例えば疼痛の部位での熱傷、損傷組織、感染、化学的変化又は圧力に関連するか、及び/又はこれらに起因し得る。
【0109】
本明細書中に開示される方法の或る種の実施形態では、活性物質は、特定の部位又は領域に優先的に送達され得る。例えば神経損傷は、損傷の位置が不明であり得る場合でも、局在化され得る疼痛を生じ得る。或る種のこのような実施形態では、活性物質、例えばカイン型麻酔薬又は鎮痛薬は、対象が疼痛を経験する部位を与える血管に浸入するように活性物質が投与され得る生体界面と接触させることにより、疼痛部位に優先的に向けられ得る。或る種のこのような実施形態では、例えばカイン型麻酔薬又は鎮痛薬は、対象が慢性疼痛を経験する領域における毛細管床を与える細動脈に浸入するように、イオントフォレーシス的に投与され得る。いくつかのこのような態様では、活性物質のレベルは、血液を、したがって活性物質を疼痛軽減を要する特定領域に供給する循環内で高治療レベルで送達され得る。このような態様では、高レベルの活性物質は、疼痛の領域から循環系を通して移動すると、希釈されるようになり、したがってこのような高治療レベルの活性物質の任意の考え得る全身毒性作用を制限するか又は排除し得る。
【0110】
本明細書中に開示される任意のイオントフォレーシス装置は、本明細書中に開示される活性物質、特にカイン型麻酔薬又は鎮痛薬の全身送達のための方法の実行に用いられ得る。少なくとも1つの実施形態では、装置は、第一の極性を有する電位を供給するための作用側電極要素を有する少なくとも1つの作用側電極構造体、並びに第二の極性を有する電位を供給するための対向電極要素を有する少なくとも1つの対向電極構造体を包含し得る。少なくとも1つの実施形態では、作用側電極構造体は、第一の活性物質を貯留する内部活性物質貯留槽を包含し得る。少なくとも1つのこのような実施形態では、貯留される第一の活性物質は、麻酔薬又は鎮痛薬のカイン型のものであり得る。少なくとも1つの実施形態では、作用側電極構造体はさらに、第二の活性物質を包含してもよく、この場合、第二の活性物質はカイン型の麻酔薬又は鎮痛薬である場合もあり、そうでない場合もあり得る。少なくとも1つのこのような実施形態では、第二の活性物質は、第一の活性物質とともに貯留され得る。代替的には、第二の活性物質は、第一の活性物質と別個に貯留され得る。作用側電極構造体内の第一の活性物質及び第二の活性物質の貯留のための1つ又は複数の考え得る場所は、本明細書中に開示される。
【0111】
或る種の実施形態では、単一活性物質が、本明細書中に開示される方法に従って、そして使用のために、全身送達され得る。或る種の他の実施形態では、2つ以上の活性物質が、本明細書中に開示される方法に従って、そして使用のために、全身送達され得る。或る種の実施形態では、本明細書中に開示される方法に従ってそして使用のために全身送達される活性物質は、カイン型の麻酔薬又は鎮痛薬から選択される。或る種の他の実施形態では、本明細書中に開示される方法に従ってそして使用のために全身送達される活性物質は、カイン型の麻酔薬又は鎮痛薬から選択されるもの以外の活性物質を包含し得る。
【0112】
当該技術分野で既知であるように、リドカインは、局所麻酔薬としてのリドカインの表在性イオントフォレーシス投与のために、血管収縮薬、例えばエピネフリン等と習慣的に組合せられる。これに比べて、活性物質の全身(system)送達のための組成物、装置及び方法における血管収縮薬の非存在、或いは血管拡張薬の含入でも、特に有益であり得る。本明細書中に開示されるような装置及び方法に用いられ得る血管拡張薬は、当該技術分野で既知である。
【0113】
或る種の実施形態では、対象における或る部位への活性物質の全身送達の方法は、送達装置の作用側電極要素に第一の極性を有する電位を供給すること、及び装置の対向電極要素に第二の極性を有する電位を供給することを包含し得る。或る種の態様では、作用側電極要素に、及び対向電極要素に供給される電位は、継続的に、そして固定レベルで供給され得る。或る種の他の態様では、電位は、継続的に、そして可変レベルで供給され得る。さらなる他の態様では、電位は、非連続的パルス化方式で、全同一パルスレベルで、供給され得る。さらなる態様では、電位は、非連続パルス化方式で、互いに異なるパルスレベルで、供給され得る。
【0114】
或る種の実施形態では、本明細書中に記載される方法の実行のための送達装置は、制御ユニットを包含し得る。或る種のこのような実施形態では、送達装置を作動することは、制御ユニットを操作することを包含し得る。或る種の態様では、制御ユニットは、少なくとも1つのスイッチを包含し得る。或る種のこのような態様では、対象における或る部位への活性物質の送達方法は、スイッチを作動することを包含し得る。或る種の他の態様では、制御ユニットはプログラム可能である。或る種のこのような態様では、本明細書中に記載されるような活性物質の全身送達のための方法は、制御ユニットをプログラムすることを包含し得る。いくつかの態様では、プログラム可能制御ユニットは、送達装置を生体界面と接触させる前にプログラムされ得る。他の態様では、プログラム可能制御ユニットは、装置を生体界面と接触させた後にプログラムされ得る。いくつかの実施形態では、制御ユニットは、装置の一体部分であり得る。他の実施形態では、制御ユニットは装置の外側に存在し、そして装置と電気的に接続され得る。
【0115】
或る種の実施形態では、本明細書中に記載される方法の実行のための送達装置は、電源を含み得る。或る種のこのような態様では、送達装置を作動することは、電源を電気的に接続して、対象を含む回路を閉じることを包含し得る。
【0116】
或る種の実施形態では、本明細書中に記載される方法の実行のためのイオントフォレーシス装置は、パッチの形態であり得る。或る種の態様では、本明細書中に記載されるような活性物質の全身送達のための方法は、付着剤、ゲルマトリクス、又は生体界面に装置を取り付けるのに適しており、装置の操作に必要とされるような導電性の他の材料を用いて、生体界面又は生体界面の一部に送達装置を取り付けることを包含し得る。
【0117】
或る種の態様では、本発明の開示によるイオントフォレーシス送達装置及びその使用方法は、特定血清治療レベルで全身循環のために活性物質を送達し得る。或る種の実施形態では、例えばリドカインは、100〜500ng/mlの血漿濃度を生じるように送達され得る。或る種の他の実施形態では、リドカインは、500〜1000ng/mlの血漿濃度を生じるように送達され得る。さらに他の実施形態では、リドカインは、1000〜1500ng/mlの血漿濃度を生じるように送達され得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、本明細書中に開示されるような活性物質の全身送達に用いるためのイオントフォレーシス装置は、当該技術分野で既知のイオントフォレーシス装置の表面と比較して、より大い表面を有し得る。このような実施形態では、増大されたサイズを有する表面は、対象の循環内で有用な治療レベルを生じるのに十分な活性物質のレベルを送達するために特に有益であり得る。
【0119】
或る種の実施形態では、本明細書中に記載されるようなイオントフォレーシス送達装置は、本明細書中に記載されるような対象における疼痛部位への1つ又は複数の活性物質の全身送達により対象における疼痛部位での疼痛を軽減するための方法に用いるために提供される。
【0120】
或る種の実施形態では、本明細書中に記載されるようなイオントフォレーシス送達装置は、対象における疼痛部位へのキシロカイン(リドカイン(登録商標))の全身送達のために提供される。
【0121】
本発明の開示による全身送達のための方法に用いるためのイオントフォレーシス装置の少なくとも1つの実施形態では、作用側電極構造体はリドカイン(登録商標)原薬溶液を含み、そして対向電極構造体は塩類対向溶液(saline counter solution)を含む。さらなる実施形態では、当該装置は、制御装置及び電源を包含し得る。
【0122】
或る種の実施形態では、生体界面は、皮膚、皮膚の一部、粘膜又は粘膜の一部であり得る。
【0123】
イオントフォレーシス中、記載されるような電極構造体を横断する起電力は、生体界面を介して生物学的組織中への、荷電活性物質分子、並びにイオン及びその他の荷電構成成分の移動をもたらす。この移動は、界面を越えて生物学的組織内に活性物質、イオン、及び/又はその他の荷電構成成分を蓄積させ得る。イオントフォレーシス中、反発力に応答した荷電活性物質の移動の他に、又はその代わりに、活性物質は、電極及び生体界面を介して組織中に、溶媒(例えば水)の電気浸透流によっても輸送され得る。或る種の実施形態では、電気浸透溶媒流は、荷電分子及び非荷電分子の両方の移動を増強する。電気浸透溶媒流による移動増強は、特に活性物質分子のサイズ増大に伴って起こり得る。
【0124】
或る種の実施形態では、活性物質は高分子量分子であり得る。或る種の態様では、分子は極性高分子電解質であり得る。或る種の他の態様では、分子は親油性であり得る。或る種の実施形態では、分子は荷電されてもよく、そして低正味電荷を有するか、又は活性電極内の条件下で非荷電であり得る。或る種の態様では、活性物質は、イオントフォレーシス反発力の影響下での小さなより高度に荷電された活性物質の移動に比べて、イオントフォレーシス反発力下では十分に移動し得ない。このような態様では、したがって高分子量活性物質は、主に電気浸透溶媒流により、生体界面を介して下にある組織中に運搬され得る。或る種の実施形態では、高分子量高分子電解質活性物質は、タンパク質、ポリペプチド又は核酸であり得る。
【0125】
要約に記載されたものを含めて上記の例証的実施形態についての記載は、網羅的であるように意図されないし、添付の特許請求の範囲を開示された精確な形態に限定するものでもない。例示の目的で特定の実施形態及び実施例を本明細書に記載しているが、本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り、そして当業者に理解されるように、種々の等価の改変がなされ得る。本明細書中に提供される教示は、必ずしも一般的に上記した例示的なイオントフォレーシス活性物質システム及びイオントフォレーシス活性物質装置に限らず、他の物質送達システム及び装置に適用可能である。例えばいくつかの実施形態は、1又は複数の貯留槽、膜真又は他の構造を包含し得る。他の場合には、いくつかの実施形態は、付加的構造を包含し得る。例えばいくつかの実施形態は、作用側電極要素24及び対向電極要素68に印加される電圧、電流又は電力を制御するための制御回路又はサブシステムを包含し得る。さらにまた例えばいくつかの実施形態は、最外部活性電極イオン選択膜38と生体界面18との間に介在される界面層を包含し得る。いくつかの実施形態は、付加的なイオン選択膜、イオン交換膜、半透性膜及び/又は多孔性膜、並びに電解質及び/又は緩衝剤のための付加的貯留槽を含み得る。
【0126】
様々な導電性ヒドロゲルが既知であり、医療分野において被験体の皮膚に電気的なインターフェイスを与えるために、又は、対象への電気刺激を結合させるためのデバイスにおいて使用されている。ヒドロゲルが皮膚に潤いを与え、これによってヒドロゲルを介する電気刺激による火傷を防ぐ一方で、皮膚を膨潤させ、活性成分のより効果的な輸送を可能にする。このようなヒドロゲルの例は、米国特許第6,803,420号、同第6,576,712号、同第6,908,681号、同第6,596,401号、同第6,329,488号、同第6,197,324号、同第5,290,585号、同第6,797,276号、同第5,800,685号、同第5,660,178号、同第5,573,668号、同第5,536,768号、同第5,489,624号、同第5,362,420号、同第5,338,490号、及び同第5,240995号(これらの全体において参照により本明細書に援用される)に開示されている。このようなヒドロゲルのさらなる例は、米国特許出願第2004/166147号、同第2004/105834号、及び同第2004/247655号(これらの全体において参照により本明細書に援用される)に開示されている。様々なヒドロゲル及びヒドロゲルシートの有名な製品としては、Corplex(商標)(Corium製)、Tegagel(商標)(3M製)、PuraMatrix(商標)(BD製)、Vigilon(商標)(Bard製)、ClearSite(商標)(Conmed Corporation製)、FlexiGel(商標)(Smith & Nephew製)、Derma−Gel(商標)(Medline製)、Nu−Gel(商標)(Johnson & Johnson製)、及びCuragel(商標)(Kendall製)、又はSun Contact Lens Co., Ltdで市販されているアクリルヒドロゲルフィルムが挙げられる。或る種の実施形態では、これらの種々のヒドロゲルの調製物は、本明細書中に開示される装置及び方法とともに用いるために、タンパク質又はポリペプチド、或いは融合タンパク質又は融合ポリペプチドを組入れるために製造され得る。或る種の実施形態では、このようなヒドロゲル調製物は、種々の活性物質のリサーバとして働き得る。このようなヒドロゲル調製物は、例えば図2A及び図2Bにおける内部活性物質貯留槽34又は作用側電極構造体の層52を構成し得る。
【0127】
本明細書中で考察される種々の実施形態は、有益には、微細構造、例えばマイクロニードルを用い得る。マイクロニードル及びマイクロニードル・アレイ、それらの製造及び使用は既に記載されている。マイクロニードル(独立して、又はアレイで)は、中空、固体及び透過性、固体及び半透性、或いは固体及び非透過性であり得る。固体、非透過性マイクロニードルはさらに、それらの外表面に沿った溝を含み得る。マイクロニードル及びマイクロニードル・アレイは、種々の材料、例えばケイ素、二酸化ケイ素、成形プラスチック材料、例えば生分解性又は非生分解性ポリマー、セラミック、並びに金属から製造され得る。マイクロニードル(独立して、又はアレイで)は、流体を分配又はサンプリングするために用いられ得る。マイクロニードル装置は、例えば生体界面、例えば皮膚又は粘膜を介して生きている身体に種々の化合物及び/又は組成物のいずれかを送達するために用いられ得る。或る種の実施形態では、活性物質化合物及び組成物は、生体界面中に、又はそれを介して送達され得る。例えば皮膚を介して化合物又は組成物を送達する場合、マイクロニードル(複数可)(独立して、又はアレイで)の長さ及び/又は挿入深度は、化合物又は組成物の投与が表皮中だけであれ、表皮を通して真皮へ、又は皮下へであれ、制御するために用いられ得る。或る種の実施形態では、マイクロニードル装置は、高分子量活性物質、例えばタンパク質、ペプチド及び/又は核酸を含むもの並びにそれらの対応する組成物を送達するために有用であり得る。例えば流体がイオン性溶液である或る種の実施形態では、マイクロニードル(複数可)又はマイクロニードル・アレイ(複数可)は、電源とマイクロニードル(複数可)の先端との間の電気的連続性を提供し得る。マイクロニードル(複数可)又はマイクロニードル・アレイ(複数可)は、本明細書中に開示されるようなイオントフォレーシス方法により化合物又は組成物を送達又はサンプリングするために有益に用いられ得る。或る種の実施形態では、例えばアレイ中の複数のマイクロニードルは、有益には、イオントフォレーシス装置の最外部生体界面接触表面上に形成され得る。
【0128】
マイクロニードル装置、それらの使用及び製造についての或る種の詳細は、米国特許第6,256,533号、同第6,312,612号、同第6,334,856号、同第6,379,324号、同第6,451,240号、同第6,471,903号、同第6,503,231号、同第6,511,463号、同第6,533,949号、同第6,565,532号、同第6,603,987号、同第6,611,707号、同第6,663,820号、同第6,767,341号、同第6,790,372号、同第6,815,360号、同第6,881,203号、同第6,908,453号及び同第6,939,311号(これらの記載内容は全て、参照により本明細書中で援用される)に開示されている。その中の教示のいくつか又は全てが、マイクロニードル装置、それらの製造、並びにイオントフォレーシス用途におけるそれらの使用に適用され得る。
【0129】
或る種の他の実施形態では、化合物又は組成物は、生体界面に、生体界面の中に、又は生体界面を介して、活性物質を送達するために、電源に電気的に結合された作用側電極構造体及び対向電極構造体を含むイオントフォレーシス装置により送達され得る。作用側電極構造体は、電源の正電極に接続される第一の電極部材、第一の電極部材と接触し、第一の電極部材を介して電圧を印加される薬剤又は治療乃至診断薬などの活性物質の溶液を有する活性物質貯留槽、マイクロニードルアレイであり得、活性物質貯留槽の前面に対して配置される生体界面接触部材、並びにこれらの部材を収容する第一のカバー又は容器を包含する。対向電極構造体は、電源の負電極に接続される第二の電極部材、第二の電極部材と接触し、第二の電極部材を介して電圧を印加される電解質を保有する第二の電解質保持部、並びにこれらの部材を収容する第二のカバー又は容器を包含する。
【0130】
或る種の他の実施形態では、化合物又は組成物は、生体界面に、生体界面の中に、又は生体界面を介して、活性物質を送達するために、電源に電気的に結合された作用側電極構造体及び対向電極構造体を含むイオントフォレーシス装置により送達され得る。作用側電極構造体は、電源の正電極に接続される第一の電極部材、第一の電極部材と接触し、第一の電極部材を介して電圧を印加される電解質を有する第一の電解質貯留槽、第一の電解質貯留槽の前面に配置される第一の陰イオン交換膜、第一の陰イオン交換膜の前面に対して配置される活性物質貯留槽、マイクロニードルアレイであり得、活性物質貯留槽の前面に対して配置される生体界面接触部材、並びにこれらの部材を収容する第一のカバー又は容器を包含する。対向電極構造体は、電源の負電極に接続される第二の電極部材、第二の電極部材と接触し、第二の電極部材を介して電圧を印加される電解質を保有する第二の電解質貯留槽、第二の電解質貯留槽の前面に配置される陽イオン交換膜、陽イオン交換膜の前面に対して配置され、第二の電解質貯留槽及び陽イオン交換膜を介して第二の電極部材から電圧を印加される電解質を保有する第三の電解質貯留槽、第三の電解質貯留槽の前面に対して配置される第二の陰イオン交換膜、並びにこれらの部材を収容する第二のカバー又は容器を包含する。
【0131】
上記の様々な実施形態を組合せて、さらなる実施形態を提供することができる。本明細書で言及され、且つ/又は出願データシートに列挙されるすべての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許出版物は、下記に列記のものを非限定的に含めて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
特許第3040517号として2000年3月3日に発行され、特開平04−297277号公報を有する1991年3月27日に出願された特願平03−86002号公報、
特開2000−229128号公報を有する1999年2月10日に出願された特願平11−033076号公報、特開2000−229129号公報を有する1999年2月12日に出願された特願平11−033765号公報、特開2000−237326号公報を有する1999年2月19日に出願された特願平11−041415号公報、特開2000−237327号公報を有する1999年2月19日に出願された特願平11−041416号公報、特開2000−237328号公報を有する1999年2月22日に出願された特願平11−042752号公報、特開2000−237329号公報を有する1999年2月22日に出願された特願平11−042753号公報、特開2000−288098号公報を有する1999年4月6日に出願された特願平11−099008号公報、特開2000−288097号公報を有する1999年4月6日に出願された特願平11−099009号公報、PCT公開番号WO03037425を有する2002年5月15日に出願されたPCT特許出願WO2002JP4696、2004年3月9日に出願された米国特許出願第10/488970号、2004年10月29日に出願された特願2004/317317号公報、2004年11月16日に出願された米国仮特許出願第60/627,952号、2004年11月30日に出願された特願2004−347814号公報、2004年12月9日に出願された特願2004−357313号公報、2005年2月3日に出願された特願2005−027748号公報、2005年3月22日に出願された特願2005−081220号公報
【0132】
当業者が容易に理解するように、本発明の開示は、本明細書中に記載される組成物及び/又は方法のいずれかにより対象を治療する方法を包含する。
【0133】
種々の実施形態の態様は、必要な場合、さらなる実施形態を提供するために本明細書中で特定された特許及び出願を含む種々の特許、出願及び出版物のシステム、回路及び概念を用いるように変形され得る。いくつかの実施形態は、上記の膜、貯留槽及びその他の構造のすべてを包含し得るが、他の実施形態は、膜、貯留槽又は他の構造のいくつかを省略し得る。さらなる他の実施形態は、一般的に上記した膜、貯留槽及び構造の付加的なものを用いることができる。さらなる実施形態は、一般的に上記した膜、貯留槽及び構造の付加的なものを用いながら、上記の膜、貯留槽及び構造のいくつかを省略することができる。
【0134】
上記の詳細な記載にかんがみて、様々な変更が為され得る。概して、添付の特許請求の範囲においては、用いられる用語は、本明細書及び添付の特許請求の範囲に開示される特定の実施形態に限定するように解釈されるべきでなく、添付の特許請求の範囲に従って動作するすべてのシステム、装置及び/又は方法を含むように解釈されるべきである。したがって本発明は本開示により限定されなるものでなく、その範囲は添付の特許請求の範囲により専ら確定されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1A】一例示的実施形態による経皮薬剤送達システムの上部前面図である。
【図1B】一例示的実施形態による経皮薬剤送達システムの上部平面図である。
【図2A】一例示的実施形態による活性及び対向電極構造体から成る図1A及び1Bのイオントフォレーシス装置の模式図である。
【図2B】別の例示的実施形態による任意の外部リリースライナーが取り外されて活性物質が露出した状態で生体界面上に配置される図2Aのイオントフォレーシス装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における疼痛部位への1つ又は複数の活性物質の全身送達による、前記対象における前記疼痛部位での疼痛を軽減する方法であって、
前記対象における前記疼痛部位を特定すること、
1つ又は複数の活性物質を含むイオントフォレーシス送達装置を得ること、
前記対象の生体界面上の或る場所に前記送達装置を配置すること、
前記対象の前記生体界面を介して前記1つ又は複数の活性物質を前記対象の循環系中に経皮輸送するように前記送達装置を作動すること、及び
前記対象の前記循環系により該対象における前記疼痛部位に前記1つ又は複数の活性物質を送達することを包含し、
前記1つ又は複数の活性物質がカイン類の化合物である、方法。
【請求項2】
1つ又は複数の活性物質を前記対象における前記疼痛部位を与える循環系に輸送するのに介し得る前記対象の前記生体界面上の場所を特定することをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体界面上の前記場所に前記イオントフォレーシス送達装置を配置することをさらに包含し、当該場所を介して前記1つ又は複数の活性物質が輸送され得る、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疼痛が癌、化学療法、アルコール依存症、切断(例えば幻肢症候群)、背部、脚部又は臀部の問題(坐骨神経痛)、糖尿病、顔面神経問題(三叉神経痛)、HIV感染又はAIDS、多発性硬化症、或いは脊髄手術に関連する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記疼痛が帯状疱疹(帯状疱疹ウイルス感染、ヘルペス後疼痛)に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記疼痛が侵害受容性疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記侵害受容性疼痛が疼痛の部位での熱傷、損傷組織、感染、化学的変化又は圧力に関連する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記活性物質がアンブカイン、アメトカイン、アモキセカイン、アミロカイン、アプトカイン、アルチカイン、アザカイン、ベンカイン、ベンゾカイン、N,N−ジメチルアラニルベンゾカイン、N,N−ジメチルグリシルベンゾカイン、グリシルベンゾカイン、ベトキシカイン、ブメカイン、ブピバカイン(bupivicaine)、レボブピビカイン(levobupivicaine)、ブタカイン、ブタニリカイン、ブトキシカイン、メタブトキシカイン、カルビゾカイン、カルボカイン、カルチカイン、セパカイン、セタカイン、クロロプロカイン、コカイン、プソイドコカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメトカイン、エチドカイン、フォモカイン、ヘプタカイン、ヘキサカイン、ヘキソカイン、ヘキシルカイン、ケトカイン、ロイシノカイン、ロツカイン、マーカイン、メピバカイン、メタカイン、ミルテカイン、ネパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセタカイン(oxetacaine)、オキセサカイン(oxethacaine)、オキセタザイン、オキシカイン、パレントキシカイン、ペンタカイン、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリカイン、プラモカイン、プリロカイン、プロカイン、ヒドロキシプロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、カタカイン、リノカイン、リソカイン、ロドカイン、ロピバカイン、テトラカイン、ヒドロキシテトラカイン、トリカイン(tolycaine)、トラペンカイン、トリカイン(tricaine)、トリメカイン又はトロパコカインから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記活性物質がイシカイン、リドカイン、リグノカイン又はキシロカインである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記活性物質がリドカインである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リドカインが100〜500ng/mlの血漿濃度を生じるように送達される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記リドカインが500〜1000ng/mlの血漿濃度を生じるように送達される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記リドカインが1000〜1500ng/mlの血漿濃度を生じるように送達される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に従って操作されるイオントフォレーシス送達装置。
【請求項16】
第一の極性を有する電位を供給するように動作可能な少なくとも1つの作用側電極要素と内部活性物質貯留槽とを包含する作用側電極構造体と、
第二の極性を有する電位を印加するように動作可能な少なくとも1つの対向電極要素を包含する対向電極構造体とを包含し、
前記送達装置を作動することが前記作用側電極要素に前記第一の極性を有する電位を供給し、且つ前記対向電極要素に前記第二の極性を有する電位を供給することを包含する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が制御ユニットをさらに含み、前記送達装置を作動することが前記制御ユニットを操作することを包含する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記制御ユニットが少なくとも1つのスイッチを含み、前記送達装置を作動することがスイッチを作動することを包含する、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記制御ユニットがプログラム可能である、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記装置が電源をさらに含み、活性物質を輸送するように前記装置を作動することが回路を閉じるように前記電源を電気的に接続することを包含する、請求項16に記載の装置。
【請求項21】
前記装置がパッチの形態である、請求項1に記載の装置。
【請求項22】
前記生体界面が皮膚の一部又は粘膜の一部である、請求項1に記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2009−509674(P2009−509674A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533661(P2008−533661)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/038079
【国際公開番号】WO2007/041300
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(505046776)TTI・エルビュー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】