説明

活物質、活物質の製造方法、電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】リチウムイオン二次電池の放電容量を向上させることが可能な活物質の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る活物質の製造方法は、リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含む混合液を加圧下で150〜190℃に加熱して、混合液中に前駆体を生成させ、且つ前駆体を含む混合液のpHを6〜8に調整する第一工程と、第一工程後に、前駆体を425〜650℃に加熱して活物質を生成させる第二工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質、活物質の製造方法、電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の正極材料(正極活物質)としてLiCoOやLiNi1/3Mn1/3Co1/3等の層状化合物やLiMn等のスピネル化合物が用いられてきた。近年では、LiFePOに代表されるオリビン型構造の化合物が注目されている。オリビン構造を有する正極材料は高温での熱安定性が高く、安全性が高いことが知られている。しかし、LiFePOを用いたリチウムイオン二次電池は、その充放電電圧が3.5V程度と低く、エネルギー密度が低くなるという欠点を有する。そのため、高い充放電電圧を実現し得るリン酸系正極材料として、LiCoPO4やLiNiPO等が提案されている。しかし、これらの正極材料を用いたリチウムイオン二次電池においても、十分な容量が得られていないのが現状である。リン酸系正極材料の中でも4V級の充放電電圧を実現し得る化合物として、LiVOPOが知られている。しかし、LiVOPOを用いたリチウムイオン二次電池においても、十分な可逆容量やレート特性が得られていない。上記の正極材料は、例えば、下記特許文献1,2及び下記非特許文献1〜5に記載されている。なお、以下では、場合により、リチウムイオン二次電池を「電池」と記す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−68304号公報
【特許文献2】特開2004−303527号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Solid State Chem., 95, 352 (1991)
【非特許文献2】N.Dupre et al.,Solid State Ionics,140,pp.209−221(2001)
【非特許文献3】N.Dupre et al.,J. Power Sources,97−98,pp.532−534(2001)
【非特許文献4】J. Baker et al. J. Electrochem. Soc., 151, A796 (2004)
【非特許文献5】電気化学および工業物理化学, 71, 1108 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池の放電容量を向上させることが可能な活物質、活物質の製造方法、電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る活物質は、LiVOPOのβ型結晶を含み、β型結晶内の<100>方向の歪みが1.2%以下である。
【0007】
本発明に係る電極は、集電体と集電体上に積層された活物質層とを備え、活物質層は上記本発明に係る活物質を含む。
【0008】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記本発明に係る電極を備える。
【0009】
上記本発明に係るリチウムイオン二次電池では、歪みの大きい従来のLiVOPOを活物質層に含む従来の電池に比べて、放電容量が向上する。
【0010】
上記本発明では、活物質層は、タップ密度が0.03〜0.09g/mlであるカーボンと、タップ密度が0.1〜0.3g/mlであるカーボンと、を更に含むことが好ましい。これにより、電池の放電容量が向上し易くなる。
【0011】
本発明に係る活物質の製造方法は、リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含む混合液を加圧下で150〜190℃に加熱して、混合液中に前駆体を生成させ、且つ前駆体を含む混合液のpHを6〜8に調整する第一工程と、第一工程後に、前駆体を425〜650℃に加熱して活物質を生成させる第二工程と、を備える。
【0012】
上記本発明に係る活物質の製造方法によれば、LiVOPOのβ型結晶を含み、β型結晶内の<100>方向の歪みが1.2%以下である活物質を製造することが可能となる。
【0013】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、上記本発明の製造方法により得た活物質と、バインダーと、溶媒と、導電助剤と、を含む塗料を集電体上に塗布して、集電体と集電体上に積層された活物質層とを有する電極を作製する工程を備える。これにより、優れた放電容量を有する上記本発明に係るリチウムイオン二次電池が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を向上させることが可能な活物質、活物質の製造方法、電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は、LiVOPO結晶の歪みがない領域及び歪んだ領域にそれぞれ対応する電子線回折パターンの模式図であり、図1(b)は、LiVOPO結晶の歪みがない結晶構造(結晶格子)の模式図であり、図1(c)は、LiVOPO結晶の歪んだ結晶構造(結晶格子)の模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
【図3】図3は、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した本発明の実施例1のLiVOPOの結晶粒子の写真である。
【図4】図4は、図3のLiVOPOの結晶粒子のCenter領域及びLeft領域にそれぞれ対応する電子線回折パターンである。
【図5】図5のLine Profile 1は、図4のCenter領域及びLeft領域における各電子線回折パターンの(011)面及び(0−1−1)面からの電子線回折スポット並びに000スポットの各輝度を示す図であり、図5のLine Profile 2は、図4のCenter領域及びLeft領域における各電子線回折パターンの(−200)面及び(200)面からの電子線回折スポット並びに000スポットの各輝度を示す図である。
【図6】図6は、図3のCenter領域に対応する電子線回折パターンにおける(011)面からの電子線回折スポットの輝度と、図3のLeft領域に対応する電子線回折パターンにおける(011)面からの電子線回折スポットの輝度を示す図である。
【図7】図7は、図3のCenter領域に対応する電子線回折パターンにおける透過した電子線のスポットの輝度と、図3のLeft領域に対応する電子線回折パターンにおける透過した電子線のスポットの輝度を示す図である。
【図8】図8は、図3のCenter領域に対応する電子線回折パターンにおける(0−1−1)面からの電子線回折スポットの輝度と、図3のLeft領域に対応する電子線回折パターンにおける(0−1−1)面からの電子線回折スポットの輝度を示す図である。
【図9】図9は、図3のCenter領域に対応する電子線回折パターンにおける(−200)面からの電子線回折スポットの輝度と、図3のLeft領域に対応する電子線回折パターンにおける(−200)面からの電子線回折スポットの輝度を縦軸に、面間隔の逆数を横軸とした図である。
【図10】図10は、図3のCenter領域に対応する電子線回折パターンにおける透過した電子線のスポットの輝度と、図3のLeft領域に対応する電子線回折パターンにおける透過した電子線のスポットの輝度を示す図である。
【図11】図11は、図3のCenter領域に対応する電子線回折パターンにおける(200)面からの電子線回折スポットの輝度と、図3のLeft領域に対応する電子線回折パターンにおける(200)面からの電子線回折スポットの輝度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0017】
(活物質の製造方法)
以下では、本発明の一実施形態に係る活物質の製造方法について説明する。本実施形態に係る活物質の製造方法は、第一工程、第二工程及び第三工程を備える。第一工程では、リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含む混合液を加圧下で150〜190℃に加熱して、混合液中に前駆体を生成させる。つまり、第一工程では、水熱合成反応により前駆体を形成する。また、第一工程では、前駆体を含む混合液のpHを6〜8に調整する。第二工程では、第一工程後に前駆体を425〜650℃に加熱して活物質を生成させる。
【0018】
本実施形態に係る活物質の製造方法によれば、結晶構造の歪みが小さく、微小であり、電池の放電容量を向上させることが可能なLiVOPOを得ることが可能となる。
【0019】
<第一工程>
第一工程では、まず、内部を加熱、加圧する機能を有する反応容器(例えば、オートクレーブ等)内に、上述したリチウム源、リン酸源、バナジウム源及び水を投入して、これらが分散した混合液(水溶液)を調製する。
【0020】
混合液を調製する際は、例えば、最初に、リン酸源、バナジウム源及び水を混合したものを還流した後、これにリチウム源を加えてもよい。この還流により、リン酸源及びバナジウム源の複合体を形成することができる。また、混合液に還元剤を添加してもよい。これにより、混合液中の5価のバナジウムが還元されて、LiVOPOを構成する4価のバナジウムが生成し易くなる。
【0021】
リチウム源としては、LiNO、LiCO、LiOH、LiCl、LiSO4、LiPO及びCHCOOLiからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0022】
リン酸源としては、HPO、NHPO、(NHHPO及びLiPOからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0023】
バナジウム源としては、V及びNHVOからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0024】
なお、二種以上のリチウム源、二種以上のリン酸源又は二種以上のバナジウム源を併用してもよい。
【0025】
還元剤としては、例えば、ヒドラジン(NHNH・HO)又は過酸化水素(H)の少なくともいずれかを用いることができる。還元剤としては、ヒドラジンを用いることが好ましい。ヒドラジンを用いた場合、他の還元剤を用いた場合に比べて、電池の放電容量及びレート特性が顕著に向上する傾向がある。
【0026】
第一工程では、混合液を加圧下で加熱する前に、混合液に含まれるリン元素のモル数[P]と混合液に含まれるバナジウム元素のモル数[V]との比[P]/[V]を0.9〜1.2に調整することが好ましい。これにより、電池の放電容量を向上させ易くなる。なお、[P]/[V]は、混合液に含まれるリン酸源とバナジウム源との配合比によって調整すればよい。
【0027】
第一工程では、混合液を加圧下で加熱する前に、混合液に含まれるリチウム元素のモル数[Li]と[V]との比[Li]/[V]を0.9〜1.2に調整することが好ましい。これにより、電池の放電容量を向上させ易くなる。なお、[Li]/[V]は、混合液に含まれるリチウム源とバナジウム源との配合比によって調整すればよい。
【0028】
第一工程では、混合液を加圧下で加熱する前に、混合液のpHを調整してもよい。水熱合成反応前の混合液のpHが小さいほど、LiVOPOのβ型結晶相が生成し易くなり、放電容量が顕著に向上する傾向がある。
【0029】
混合液のpHを調整する方法としては、様々な方法を採用し得るが、例えば、混合液に酸性試薬や塩基性試薬を添加することが挙げられる。酸性試薬としては、硝酸、塩酸又は硫酸等を用いればよい。塩基性試薬としては、例えば、アンモニア水溶液等を用いればよい。なお、混合液のpHは、混合液の量や、リチウム源、リン酸源及びバナジウムの種類又は配合比に応じて変化する。したがって、酸性試薬や塩基性試薬の添加量は、混合液の量、リチウム源、リン酸源及びバナジウム源の種類及び配合比に応じて適宜調整すればよい。
【0030】
第一工程では、密閉した反応器内の混合液を加圧しながら加熱する。これにより、混合液中で水熱合成反応を進行させる。これにより、LiVOPOの前駆体(例えばリチウム源、リン酸源若しくはバナジウム源から形成される化合物、又はLiVOPOの結晶種)が水熱合成される。
【0031】
第一工程では、混合液を加圧下で150〜190℃程度に加熱する。混合液の加熱温度(水熱合成反応の温度)が上記の範囲外である場合、最終的に得られるLiVOPOの結晶構造が歪んでしまう。混合液の加熱温度が低いほど、前駆体の過剰な結晶成長が抑制され易い。混合液の加熱温度を上記の範囲内に制御することにより、結晶性が高く容量密度に優れると共に、nmスケールの小さな粒径を有し、高いLiの拡散能を有するLiVOPOが得られる。
【0032】
第一工程(水熱合成反応)における混合液の温度が低過ぎると、前駆体の生成及び結晶成長が十分に進行しない。その結果、最終的に得られるLiVOPOの結晶性が低下し、その容量密度が減少するため、電池の放電容量を向上させ難くなる。また、混合液の温度が高過ぎると、前駆体の結晶成長が過剰に進行して、得られるLiVOPO結晶におけるLiの拡散能が低下する。そのため、得られるLiVOPOを用いた電池の放電容量及びレート特性を向上させ難くなる。また混合液の温度が高過ぎると、反応容器に高い耐熱性が求められ、活物質の製造コストが増大する。混合液の温度を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0033】
第一工程(水熱合成反応)において混合液に加える圧力は、0.2〜1MPaとすることが好ましい。混合液に加える圧力が低過ぎると、最終的に得られるLiVOPOの結晶性が低下し、その容量密度が減少する傾向がある。混合液に加える圧力が高過ぎると、反応容器に高い耐圧性が求められ、活物質の製造コストが増大する傾向がある。混合液に加える圧力を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。ただし、混合液に加える圧力が上記の数値範囲外であっても、本実施形態に係る活物質を合成することは可能である。
【0034】
第一工程において、混合液を加圧下で加熱する時間(水熱合成の反応時間)は、1時間超20時間以下であることが好ましく、2時間以上18時間以下であることがより好ましい。反応時間が短過ぎる場合、十分な結晶核の生成ができず容量が減少する傾向がある。反応時間が長過ぎる場合、結晶成長が過度に進行して粒径が増大し放電容量が減少する傾向がある。
【0035】
水熱合成反応後、前駆体を含む混合液のpHを6〜8に調整する。これにより、nmスケールの小さな粒径を有し、歪みの小さいLiVOPOの結晶が得られる。pHが小さ過ぎる場合、得られるLiVOPOの粒径が増大し放電容量が減少する傾向がある。pHが大き過ぎる場合、得られる活物質に占めるLiVOPOのα型結晶の割合が多くなり容量が減少する傾向がある。水熱合成反応後におけるpHの調整方法は、水熱合成反応前に行うpHの調整方法と同様である。なお、前駆体を含む混合液のpHは、水熱合成反応前の混合液のpHの調整のみによって、6〜8の範囲内に制御することもできる。
【0036】
前駆体を含む混合液のpHを6〜8に調整した後、前駆体を含む混合液を、第二工程で加熱する前に60〜150℃程度で1〜30時間程度、予熱してもよい。予熱により、混合液から余計な水分や有機溶媒が除去され、固形(粉体)状の前駆体を得ることができる。その結果、熱処理工程においてLiVOPOに不純物が取り込まれることを防ぎ、粒子形状を均一化することが可能となる。
【0037】
<第二工程>
第一工程後、第二工程(熱処理工程)では前駆体を加熱する。第二工程によって、第一工程で反応しなかったリチウム源、リン酸源及びバナジウム源の反応を進行させたり、第一工程で生成したLiVOPOの結晶成長を促進したりすることができる。
【0038】
第二工程では、前駆体を425〜650℃に加熱する。この温度範囲内で前駆体を加熱することにより、nmスケールの小さな粒径を有し、歪みの小さいLiVOPOの結晶粒子が得られる。加熱温度(焼成温度)が低過ぎる場合、LiVOPOの結晶成長が充分に進行せず、その容量密度が小さくなる。加熱温度が高過ぎる場合、LiVOPOの成長が過剰に進み、LiVOPOの粒径が増加する。その結果、活物質におけるリチウムの拡散が遅くなり、活物質の容量密度が小さくなる。以上の理由から、熱処理温度が上記の範囲外である場合、電池の放電容量及びレート特性を向上させることが困難となる。
【0039】
前駆体の熱処理時間は3〜20時間であることが好ましい。また、熱処理雰囲気は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、又は空気雰囲気であることが好ましい。
【0040】
第二工程後に粗粉砕した活物質(LiVOPO)と、タップ密度が0.03〜0.09g/mlであるカーボン及びタップ密度が0.1〜0.3g/mlであるカーボンを含有する炭素材料とを、遊星ボールミル処理等により混合・粉砕してもよい。
【0041】
(活物質)
本実施形態に係る活物質の製造方法によれば、結晶構造の歪みの小さいβ型のLiVOPOを得ることができる。結晶構造(格子骨格)の歪みが小さいLiVOPO内では、従来の歪みのあるLiVOPOに比べて、リチウムオンの拡散経路が屈曲し難く、リチウムオンの拡散能及び挿入・脱離能が向上する。これにより、本実施形態の活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池では従来の歪みのあるLiVOPOを用いた電池に比べて、放電容量が向上する。ただし、本実施形態に係る作用効果は、上記の事項に限定されるものではない。
【0042】
LiVOPOの結晶構造の歪みは、以下のように評価することができる。まず、図1(a)に示すように、LiVOPOの結晶粒子のリファレンス箇所における電子回折パターン2を測定する。なお、リファレンス箇所としては、歪みのない結晶粒子の中心部を選定すればよい。また、LiVOPOの結晶粒子においてリファレンス箇所とは位置の異なる任意の目的箇所(例えば結晶粒子の端部側)における電子回折パターン4を測定する。この間、光学系の設定値は変更させない。リファレンス箇所の電子回折パターン2と目的箇所の電子回折パターン4との違い(具体的には、回折スポットの位置)に基づいて、リファレンス箇所の結晶構造を基準とした目的箇所の結晶構造の歪みを解析できる。このような解析によれば、図1(b),図1(c)に示すように、リファレンス箇所の結晶構造2aに対して、目的箇所の結晶構造4aがX方向に縮小していたり、Y方向に伸張していたりすることが分かる。
【0043】
上述した結晶構造の歪みの具体的な解析方法としては、制限視野回折(SAD:Selected−Area Diffraction)、又はナノビーム回折(NBD:Nano−Beam Diffraction)等を用いればよい。
【0044】
SADでは、入射電子線を平行にして試料(LiVOPOの結晶粒子)に照射し、点状の斑点からなる回折図形を得て、結晶構造の定性的な解析をする手法である。対物レンズの像面に制限視野絞りを入れることにより回折図形を得る試料の場所(直径:数百nm)を選ぶことができる。この方法により、特定の場所(リファレンス箇所、目的箇所)の格子定数、格子型、結晶方位、歪みを知ることができる。
【0045】
NBDは、電子線を試料(LiVOPOの結晶粒子)に平行照射して電子回折図形を取得したのち、電子線を試料上に収束し、かつ小さなコンデンサー絞りを用いてナノメーターサイズの領域(リファレンス箇所、目的箇所)を照射して結晶構造の定性的な解析をする手法である。このとき、回折斑点は電子線の収束角に対応してディスク状になる。この手法により、ナノメーターサイズの領域の格子定数、格子型、結晶方位を知ることができる。
【0046】
SADの場合は、制限視野絞りによって観察領域が決められるが、NBDの場合は、収束角とコンデンサー絞りによって観察領域が決められる。
【0047】
上記本実施形態に係る活物質の製造方法によれば、LiVOPOのβ型結晶内の<100>方向の歪みを1.2%以下に制御することが可能である。<100>方向の歪みが1.2%以下であるLiVOPOを用いることにより、従来の歪みの大きいLiVOPOを用いた場合に比べて、電池の放電容量が向上する。LiVOPOのβ型結晶内の<100>方向の歪みα(単位:%)は、下記式(1)によって算出される。
α={(a−b)/a}×100 (1)
【0048】
式(1)中、aは、リファレンス箇所の電子線回折パターンにおける(−200)面の回折スポットと(200)面の回折スポットとの距離(単位:1/nm)である。bは、目的箇所の回折パターンにおける(−200)面の回折スポットと(200)面の回折スポットとの距離(1/nm)である。ここで、距離a,bとは、逆空間における距離(結晶格子の面間隔の逆数)である。つまり、電子線回折図形の回折スポット間の距離は、結晶面の間隔の逆数に対応する。例えば、(200)面の回折スポットと000スポット(透過電子線のスポット)との間隔(単位:1/nm)は、(200)面の面間隔(単位:nm)の逆数と一致する。よって、歪みαは、LiVOPOの結晶粒子のリファレンス箇所における(200)面及び(−200)面の面間距離(単位:nm)に対する、目的箇所における(200)面及び(−200)面の面間距離(単位:nm)の変化率に対応する値である。
【0049】
上記本実施形態に係る活物質の製造方法によれば、活物質に含まれるLiVOPOの結晶粒子の平均粒子径を300nm〜1μm程度に制御することができる。一次粒子が小さくなるほど、その比表面積が増加してリチウムイオンの挿入・脱離能が向上する傾向がある。また、活物質層における活物質の充填率が増加して、電池の容量密度が増加する傾向がある。
【0050】
(電極、並びにリチウムイオン二次電池及びその製造方法)
図2に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、互いに対向する板状の負極20及び板状の正極10と、負極20と正極10との間に隣接して配置される板状のセパレータ18と、を備える発電要素30と、リチウムイオンを含む電解質溶液と、これらを密閉した状態で収容するケース50と、負極20に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される負極リード62と、正極10に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される正極リード60とを備える。
【0051】
負極20は、負極集電体22と、負極集電体22上に積層された負極活物質層24と、を有する。また、正極10は、正極集電体12と、正極集電体12上に積層された正極活物質層14と、を有する。セパレータ18は、負極活物質層24と正極活物質層14との間に位置している。
【0052】
正極活物質層14は、少なくとも上記本実施形態に係る活物質と導電助剤とを含有する。導電助剤としては、カーボンブラック類等の炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属粉、炭素材料及び金属粉の混合物、ITOのような導電性酸化物が挙げられる。炭素材料は、タップ密度が0.03〜0.09g/mlであるカーボンと、タップ密度が0.1〜0.3g/mlであるカーボンと、を含むことが好ましい。正極活物質層は活物質及び導電助剤を結着するバインダーを含んでもよい。正極活物質層14は、上記本実施形態に係る製造方法により得たLiVOPOと、バインダーと、溶媒と、導電助剤と、を含む塗料を正極集電体12上に塗布する工程によって形成される。
【0053】
負極活物質層24が含む負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn、Si等のリチウムと化合することのできる金属又は合金、SiO(1<x≦2)、SnO(1<x≦2)等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)、TiOが挙げられる。負極活物質はバインダーにより結着されていてもよい。負極活物質層24は、正極活物質層14の場合と同様に、負極活物質等を含む塗料を負極集電体22上に塗布する工程によって形成される。
【0054】
以上、本発明に係る活物質の製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、第一工程において、加熱前の混合物に炭素粒子を添加してもよい。これにより、LiVOPOの少なくとも一部が炭素粒子表面に生成し、炭素粒子にLiVOPOを担持させることが可能となる。その結果、得られる活物質の電気伝導性を向上させることが可能となる。炭素粒子を構成する物質としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック(黒鉛)、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。
【0056】
本発明の活物質は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子の電極材料としても用いることができる。このような、電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(本発明により得られた活物質を含む電極をカソードとして用い、金属リチウムをアノードとして用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
<第一工程>
実施例1の活物質の製造では、以下の原料を含む混合液を調製した。
【0059】
リチウム源:8.48g(0.20mol)のLiOH・HO(分子量=41.96、ナカライテスク社製、特級、純度99重量%)。
【0060】
リン酸源:23.07g(0.20mol)のHPO(分子量=98.00、ナカライテスク社製、1級、純度:85重量%)。
【0061】
バナジウム源:18.37g(0.10mol)のV(分子量=181.88、ナカライテスク社製、特級、純度:99重量%)。
【0062】
金属元素Mの化合物:1.32g(0.005mol)のNb (分子量=265.81、ナカライテスク社製)。
【0063】
200gの蒸留水(ナカライテスク社製、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)用)。なお、ガラス容器とオートクレーブとの間に別途20gの蒸留水も用いた。
【0064】
還元剤:2.55g(0.05mol)のNHNH・HO(分子量=50.06、ナカライテスク社製、特級、純度:98重量%)。
【0065】
上記のリチウム源、リン酸源及びバナジウム源の各含有量から明らかなように、各原料の仕込み量は、LiVOPO(分子量:168.85)に換算すると、化学量論的に約33.78g(0.2mol)のLiVOPOの収量に相当する。
【0066】
上記の混合液を以下の手順で調製した。まず、500mLのオートクレーブ内筒に上記のHPOと蒸留水を入れ、これらをマグネチックスターラーで攪拌した。そして、オートクレーブ内筒に上記のVを加えてから約2.5時間攪拌を継続したところ、フラスコ内に黄橙色の液相(懸濁液)を得た。液相をマグネチックスターラーで攪拌しながら上記のヒドラジン1水和物(NHNH・HO)を液相に滴下した。ヒドラジン1水和物を滴下すると、液相は黄橙色からくすんだ緑色に変化した。ヒドラジン1水和物を滴下して、引き続いて液相に上記のLiOH・HOを10分かけて加えた。LiOH・HOを加えた直後の液相のpHは7〜8であった。以上の手順で、上記の混合液を得た。
【0067】
上記の混合液を容れたオートクレーブ内筒を密閉して、混合液を強力マグネチックスターラーで攪拌しながら、所定のPID制御で混合液の加熱を開始した。密閉されたガラス容器内の内圧を加熱に伴い上昇させた。この第一工程により、オートクレーブ内筒内で水熱合成反応を進行させた。第一工程では、ガラス容器内の混合液を、16時間にわたって加圧下で加熱した。第一工程では、ガラス容器内の温度を160℃に保持した。ガラス容器内の圧力は、0.6MPaに保持した。
【0068】
加熱を停止した後、オートクレーブ内筒内の温度が40℃まで下がってからオートクレーブ内筒から混合液を取り出した。なお、加熱を停止してからオートクレーブ内筒内の温度が40℃に下がるまで約4時間を要した。オートクレーブ内筒から取り出た混合液は水色のペーストであった。第一工程後の混合液のpHは7に調整されていた。混合液を90℃で32時間乾燥して、前駆体である水色の固体38.27gを得た。乾燥にはオーブンを用いた。前駆体を市販のコーヒーミルで粉砕した。
【0069】
<第二工程>
粉砕後の前駆体のうち3.00gをアルミナ坩堝に入れた。加熱炉を用いてアルミナ坩堝内の前駆体を加熱する第二工程(熱処理工程)を実施した。熱処理工程では、空気雰囲気中で前駆体を加熱した。また、熱処理工程では、炉内の温度を60分かけて室温から600℃まで昇温させ、アルミナ坩堝内の固体を600℃で4時間加熱した後、加熱炉を自然冷却した。この熱処理工程により、実施例1の活物質として、黄緑色の粉体2.550gを得た。熱処理工程後の固体の残存率は85.0重量%であった。
【0070】
(実施例2〜7、比較例1〜4)
実施例2〜7及び比較例1〜4では、第一工程におけるガラス容器内の温度(水熱合成反応の温度)を表1に示す値に調整した。実施例2〜7及び比較例1〜4では、熱処理工程における炉内の温度(熱処理温度)を表1に示す値に調整した。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2〜7及び比較例1〜4の各活物質を得た。
【0071】
[活物質の分析]
粉末X線回折(XRD)による解析の結果、全実施例及び全比較例の各活物質は、LiVOPOのβ型結晶粒子であることが確認された。透過型電子顕微鏡(TEM)により、実施例1のLiVOPOの結晶粒子20個について、各粒子の最大径を測定して、その平均値(平均粒子径)を算出した。他の実施例及び比較例についても、実施例1と同様の方法で、平均粒子径を求めた。各実施例及び各比較例の平均粒子径を表1に示す。
【0072】
[結晶粒子の歪みの解析]
TEMにより実施例1のLiVOPOの結晶粒子の写真を撮影した。写真を図3に示す。図3に示す結晶粒子のCenter領域(リファレンス箇所)及びLeft領域(目的箇所)における電子線回折パターンをそれぞれ撮影した。各領域における電子線回折パターンを図4に示す。Center領域及びLeft領域の各電子線回折パターンの各結晶方位の回折スポットのラインプロファイルを図5〜11に示す。図5〜11の横軸は、図4の各電子線回折パターンにおけるスポット間の距離(逆空間における距離)に対応する。横軸の数値は、結晶粒子を透過した電子線の輝度のピーク位置(000スポット)を基準(原点0)とした値であり、結晶の面間隔の逆数である。縦軸は、電子線の強度(輝度)を意味する。電子線回折パターンの撮影は、SADにより行った。また、Center領域及びLeft領域の各電子線回折の入射電子線の方位は[01−1]に調整した。
【0073】
Center領域及びLeft領域の各電子線回折パターンの相違に基づいて、実施例1のLiVOPOのβ型結晶粒子の<100>方向の歪みαを算出した。なお、歪みαは、20個の結晶粒子の平均値である。
【0074】
実施例1と同様の方法で、各実施例及び各比較例のLiVOPOのβ型結晶粒子の<100>方向の歪みαを算出した。各実施例及び各比較例の歪みを表1に示す。
【0075】
[評価用セルの作製]
実施例1の活物質と、アセチレンブラック(電気化学工業製FX−35)と、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製EC600JD)とを、80:5:5の重量比で秤量し、これに対して遊星型ボールミルによる1分間の混合処理を3回行った。遊星型ボールミルの回転数は550rpmに設定した。これにより得た混合物とバインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF、呉羽化学製KF7305)とを混合したものを、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。なお、スラリー中における混合物とPVDFとの重量比を90:10に調整した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、実施例1の活物質を含む活物質層が形成された電極(正極)を得た。
【0076】
次に、得られた電極と、その対極であるLi箔とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(素体)を得た。この積層体を、アルミラミネーターパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのEC/DEC(体積比30:70)を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0077】
実施例1と同様の方法で、実施例2〜7及び比較例1〜4の各活物質をそれぞれ単独で用いた評価用セルを作製した。
【0078】
[放電容量の測定]
実施例1の評価用セルを用いて、放電レートを0.1C(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)とした場合の放電容量(単位:mAh/g)を測定した。測定結果を表1に示す。放電容量の測定における電流密度は16〜160mA/g(1C=160mA/g)であり、電圧範囲は2.8〜4.3Vであった。
【0079】
実施例1と同様の方法で、実施例2〜7及び比較例1〜4の各評価用セルの放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【符号の説明】
【0081】
2・・・リファレンス箇所における電子線回折パターン、4・・・目的箇所における電子線回折パターン、2a・・・リファレンス箇所の結晶構造、4a・・・目的箇所の結晶構造、10・・・正極,20・・・負極、12・・・正極集電体、14・・・正極活物質層、18・・・セパレータ、22・・・負極集電体、24・・・負極活物質層、30・・・発電要素、50・・・ケース、60,62・・・リード、100・・・リチウムイオン二次電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含む混合液を加圧下で150〜190℃に加熱して、前記混合液中に前駆体を生成させ、且つ前記前駆体を含む前記混合液のpHを6〜8に調整する第一工程と、
前記第一工程後に、前記前駆体を425〜650℃に加熱して活物質を生成させる第二工程と、
を備える、
活物質の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得た活物質と、バインダーと、溶媒と、導電助剤と、を含む塗料を集電体上に塗布して、前記集電体と前記集電体上に積層された活物質層とを有する電極を作製する工程を備える、
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
LiVOPOのβ型結晶を含み、前記β型結晶内の<100>方向の歪みが1.2%以下である、活物質。
【請求項4】
集電体と前記集電体上に積層された活物質層とを備え、
前記活物質層は請求項3に記載の活物質を含む、
電極。
【請求項5】
前記活物質層は、タップ密度が0.03〜0.09g/mlであるカーボンと、タップ密度が0.1〜0.3g/mlであるカーボンと、を更に含む、
請求項4に記載の電極。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の電極を備える、
リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216377(P2012−216377A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80137(P2011−80137)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】