説明

流体の流れ計測装置

【課題】流体の流速や流量の変動に応じて計測手段を円滑に切り換え、流体の流れ計測精度を高めることを目的とする。
【解決手段】流体検出手段8の計測時間を小さく設定した省電力計測手段12と、同じく計測時間を大きく設定した高精度計測手段11と、省電力計測手段12での計測値が所定値以上変動したときに高精度計測手段11に移行する変動判定手段9と、高精度計測手段11の計測値が所定値以内に安定したときに省電力計測手段9に移行する安定判定手段10と、高精度計測手段11での計測時間を少なくとも2種類以上変更して計測する可変計測手段13とを備え、省電力計測手段12と高精度計測手段11との2つの計測手段の間でハンチングを起こすことがなく、脈動周期が変動しても流れを正確に計測できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体や気体などの流量および/または流速を計測する流体の流れ計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流れ計測装置は、図10に示すように、流路101の上下流で、しかも斜めに対向するように一対の超音波送受信器102,103を配置し、これら超音波送受信器102,103間で流れに順方向の超音波伝播と逆方向の超音波伝播を繰返手段104を介して複数回繰り返し、伝播時間差を計時手段105で計時してそれにもとづき流速とか流量を演算するようにしていた。
【0003】
繰返手段104の回数は繰返回数変更手段106で変更できるように構成され、繰返回数の多い高精度流れ計測手段と繰返回数が少ない低消費電力流れ計測手段を計測切替手段107で切替るようにしていた。
【0004】
一般的には、流れ変動が大きいときに高精度計測手段で計測するように設定してあり、具体的には、低消費電力流れ計測手段で計測を開始し、脈動などによって流れが変動したときに高精度流れ計測手段で計測し、この高精度流れ計測手段での流れ値が安定したときには脈動が小さくなったと判断して低消費電力流れ計測手段で計測するものであった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−271490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、脈動が発生して高精度流れ計測手段での計測に移行したとき脈動の周期によっては脈動が継続しているにもかかわらず、高精度流れ計測手段の計測値が極めて安定するものとなるために、再び低消費電力流れ計測手段に復帰することがあった。
【0006】
ここでの計測値の安定化は極短時間であるところから、直ぐに計測値が大きく変動し、再度高精度流れ計測手段に移行することを繰返す現象(ハンチング)を生起するもので、したがって、低消費電力流れ計測手段での計測値が不正確になり流量誤差を悪化させていた。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、脈動の周期にかかわらず低消費電力流れ計測手段と高精度流れ計測手段とのハンチングを防止して、脈動下における流れ計測精度を保証することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明の流体の流れ計測装置は、流速および/または流量を検出する流体検出手段の計測時間を小さく設定した省電力計測手段と、流体検出手段の計測時間を大きく設定した高精度計測手段と、省電力計測手段での計測値が所定値以上変動したときに高精度計測手段に移行する変動判定手段と、高精度計測手段の計測値が所定値以内に安定したときに省電力計測手段に移行する安定判定手段と、高精度計測手段での計測時間を少なくとも2種類以上変更して計測する可変計測手段とを備えたものである。
【0009】
これによって、発生している脈動周期によって計測値の安定度が大きく異なることがなく、省電力計測手段と高精度計測手段との2つの計測手段の間でハンチングを起こすことがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の流体の流れ測装置は、流速および/または流量変動の大きさに応じて計測方法を変更し、低消費電力で、かつ高精度な流れ計測が行なうとともに、脈動が発生している場合にも脈動周期にかかわらず高精度計測手段で計測を行うので、計測精度を保証できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、流体通路内の流体の流速および/または流量を検出する流体検出手段と、前記流体検出手段の計測時間を小さく設定した省電力計測手段と、前記流体検出手段の計測時間を大きく設定した高精度計測手段と、前記省電力計測手段での計測値が所定値以上変動したときに前記高精度計測手段に移行する変動判定手段と、前記高精度計測手段の計測値が所定値以内に安定したときに省電力計測手段に移行する安定判定手段と、前記高精度計測手段での計測時間を少なくとも2種類以上変更して計測する可変計測手段とを備えたもので、発生している脈動周期によって計測値の安定度が大きく異なることがなく、省電力計測手段と高精度計測手段との2つの計測手段の間でハンチングを起こすことがない。
【0012】
前記可変計測手段は、計測回数の変更や、計測間隔時間の変更で対応でき、また、安定判定手段は、計測値の複数の移動平均値で判別するようにすることが考えられる。
【0013】
一方、高精度計測手段は、移動平均値の個数以上続けて計測するようにした。さらに、前記可変計測手段は、省電力計測手段での計測時間を少なくとも2種類以上変更して計測するようにした。
【0014】
計測時間は流体の脈動周期の整数倍にならないような時間を少なくとも1種類は含んでいることが望ましく、また、高精度計測手段による計測値の変動値が大きいとき、さらに計測時間が大きい超高精度計測手段に移行することも考えられる。
【0015】
(実施の形態1)
図1において、流体通路1の上流側と下流側に少なくとも一対の超音波送受信器2,3を流れに対して斜めに対向するように配置してある。
【0016】
送信手段4から切換手段5を介して上流側の超音波送受信器2を駆動することで、下流に向けて超音波を送信し、この超音波を下流側の超音波送受信器3で受信する。そして、この超音波送受信器3の信号は切換手段5を介して増幅比較手段6へ至り、ここで交流増幅してコンパレータで基準電圧と比較し、計時・流量演算手段7へ送信される。計時・流量演算手段7は送信手段4から送信されて増幅比較手段6で検出されるまでの時間をタイマカウンタなどで計測する。
【0017】
次に、切換手段5で超音波送受信器2,3の送受信を切換えて、下流側の超音波送受信器3から上流側の超音波送受信器2に向け、超音波を送信するようにする。前述と同様に送信手段4から増幅比較手段6までの時間を計測し、この2つの時間差から流体通路1を流れる流体の流速、また必要に応じて流体通路1の断面積などを乗じて計時・流量演算手段7で流速または流量を算出する。
【0018】
超音波送受信器2,3、送信手段4、切換手段5、増幅比較手段6、計時・流量演算手段7で流体検出手段8を構成する。
【0019】
流体検出手段8の流速または流量値は変動判定手段9と安定判定手段10に送られて、流速または流量の変動や安定の度合いを判定する。
【0020】
以下、流量を例にとって説明を進める。
【0021】
変動判定手段9で流量が変動していると判定された場合には、計測時間の比較的長い高精度計測手段11で計測が行なわれ、逆に、安定判定手段10で流量が安定していると判定された場合には、計測時間の短い省電力計測手段12で計測が行なわれる。
【0022】
高精度検出手段11には計測時間を可変にする可変計測手段13があって、比較的計測時間の短い第1高精度計測手段14と中間の計測時間の第2高精度計測手段15と比較的計測時間の長い第3高精度計測手段16とを選択的に切り換えるようにしている。
【0023】
次に動作について述べる。高精度計測手段11は計測時間を比較的長くして平均化を行って精度を向上させ計測するもので、一方の省電力計測手段12は計測時間を短くして消費電力を低減して計測するものである。
【0024】
図2は脈動がある場合について省電力計測手段12で計測した状態を示したもので、流量値は脈動波形上の計測開始位置と計測時間で決まり、時間t1で計測した流量値は平均値よりも大きくなり、時間t2で計測した流量は平均流量より小さくなる。計測時間が長くなるほど平均化されるので流量計測値の変化の程度は小さくなる。
【0025】
図3は高精度計測手段11で計測した状態を示したもので、例えば時間t3やt4のように計測時間を前記の時間t1やt2より長く設定することにより脈動による流量計測値は平均化され、その変動は小さくなる。
【0026】
したがって省電力計測手段12で計測中に脈動が発生して計測値が変動した場合には、変動判定手段9で脈動の発生レベルが大きいと判断して高精度計測手段11へ移行する。
【0027】
変動判定手段9のフローチャートを図4に示す。ステップ17で増減回数と計測回数を0にリセットし、ステップ18で省電力計測手段12が流量計測を行い、ステップ19でこの流量値と前回流量値との差を演算して、この差が変化設定値より大きければ、ステップ20でこの変化分が増加か減少かを判定する。
【0028】
そして、増加であれば、ステップ21で増加回数を+1し、減少であればステップ22で減少回数を+1する。ステップ23で増減回数が設定値以上であれば、高精度計測手段11での計測に移行し、設定値未満であればステップ24で計測回数を+1して、ステップ25で計測回数が設定回数以下であればステップ19の省電力計測手段18での流量計測を繰り返し、計測回数が設定回数に達すればステップ17で増減回数と計測回数を0にリセットする。
【0029】
次に、安定判定手段10のフローチャートを図5示す。ステップ26で安定回数を0にリセットして、次のステップ27において、高精度計測手段11が流量計測を行い、ステップ28でこの流量計測値の移動平均を計算する。
【0030】
そして、ステップ29で前回移動平均流量値との差が変化設定値以下であればステップ30で安定回数を+1し、ステップ31で安定回数が設定値以上であれば、流量値の安定が連続設定回数続いたことになり、省電力計測手段12への計測へ移行し、安定回数が設定値未満であればスッテップ27の高精度計測手段11での流量計測を再度行う。何個の移動平均を演算するかはあらじめ設定してあるが、状況に応じて変えることができ、また
移動平均を行わないことも可能である。
【0031】
ステップ27の流量計測は、計測時間が比較的短い第1高精度流量計測27a、計測時間が中間の第2高精度流量計測27b、計測時間が比較的長い第3高精度流量計測27cの3つの計測時間の異なる高精度計測手段17を順次切り換えて計測を行う。
【0032】
すなわち、1回目は第1高精度流量計測27a2回目は第2高精度流量計測27b、3回目は第3高精度流量計測27cというふうに計測時間を変えながら流量計測を行う。
【0033】
図6は流量が脈動状態にあるときに、計測時間を変えて流量計測を行なった場合の流量計測の状態を示す。実線は脈動周期が比較的小さいときの流量波形を示し、1点鎖線は脈動周期が比較的大きいときの流量波形を示す。
【0034】
t5は省電力計測手段12で計測したときの計測値を示したもので、計測時間が短いため計測期間中の平均流量計測値は変動し、省電力計測手段12から高精度計測手段11へ移行する。t6、t7、t8は高精度計測手段11で計測したときの状態を示し、t6は計測時間が比較的短いときの状態、t7は計測時間が比較的中くらいのときの状態、t8は計測時間が比較的長いときの状態を示す。
【0035】
脈動周期小の流量波形において、t6、t7、t8の計測期間ではそれぞれの流量平均値はわずかに変動するので高精度計測手段11での安定判定手段16で安定と判別されず、高精度計測手段11での計測を継続する。
【0036】
したがって、例えば、t7のみの計測時間で流量計測を実施した場合、脈動周期の約2周期を計測するため大きな脈動が発生しているにもかかわらず計測値が極めて安定するため、安定判定手段12で安定と判定されて省電力計測手段12の計測に移行し、その結果時間t5で計測されるため計測誤差の大きい流量計測が行われことが発生しない。
【0037】
脈動周期は一定ではなくさまざまに変化する。脈動周期大のように周期が変化してもt6、t7、t8のように計測時間が変わると、大きな脈動が発生していれば流量値が変動するので省電力計測手段12に移行しない。
【0038】
計測時間を変更する数は、2つ以上であれば効果を発揮するがより幅広い周期に対応するためには3種類から5種類が適当である。また計測時間の変更は計測ごとに行うが、安定判定に流量値の移動平均値を使用するのであれば、移動平均の個数だけ同一計測時間の計測を連続して行う。
【0039】
可変計測手段13の具体的な実施例を図7に示す。超音波を受信しその信号を増幅比較手段6で検波した後、繰返手段32で遅延手段33を介して送信手段4により再度音波を送信する。
【0040】
このようにして送信と受信を繰返して繰返回数設定手段34で設定された回数の送受信を行ったときの積算の時間をもとに伝搬時間を計測する。したがって繰返回数設定手段34の設定する回数よって計測時間を変更することができる。
【0041】
また、遅延手段33によって繰返しの度に遅延時間を設け、この遅延時間を遅延設定手段35で変えることにより計測時間を変更する。
【0042】
なお、上流から下流への送信と下流からの送信は同一の繰返し回数、同一の遅延時間の設定にしたほうが流量計測の精度の点から望ましい。
【0043】
(実施の形態2)
図8は他の実施の形態における省電力計測手段12の構成を示したものである。省電力計測手段12には、計測時間の異なる第1省電力計測手段36,第2省電力計測手段37,第3省電力計測手段38があって、その計測手段を選択的に切り換えて計測時間を変更する第2可変計測手段39がある。
【0044】
この計測時間の変更は前述と同様に繰返し回数や遅延時間を変更することで行われ、脈動が発生しているにもかかわらず、計測のタイミングで誤った安定した流量値を計測することを防止する。
【0045】
なお、前述の高精度計測手段11および省電力計測手段12のそれぞれの計測時間の変更は、いずれかの計測時間が脈動周期の整数倍と不一致に設定することが好ましい。脈動の周期が既知である場合には、あらかじめ整数倍にならないように設定することができ、また周期が既知でない場合にもガスエンジンから発生する脈動周期のように想定されるものは、事前に好ましい設定値を選択することができる。またスイッチや通信によって計測時間の可変度合いを変更することも可能である。
【0046】
(実施の形態3)
図9は他の実施の形態における計測手段の移行を示す。省電力計測手段12での計測の結果、脈動が激しく、しかも流量の変動が大きく高精度計測手段11へ移行して計測しても、この高精度検出手段11での計測値に大きな変動があった場合には、変動判定手段9で判定して計測時間がさらに長い超高精度計測手段40に移行して流量計測精度を高めるようにしたものである。
【0047】
なお、前記各実施の形態では流量を例にとったが、勿論、流速を対象としても同様なことがいえる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の流体の流れ計測装置は、圧力変動が発生しても適切な計測手段を選択して流速や流量を低消費電力で正確に計測できるので、ガスや水道などの計量メータや、産業用プラントや実験設備における流量計などの計測器にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態1における流れ計測装置のブロック図
【図2】脈動時での省電力計測手段での流れ計測状態を示す特性図
【図3】脈動時での高精度計測手段での流れ計測状態を示す特性図
【図4】本発明の実施の形態1における変動判定手段の動作を示すフローチャート
【図5】本発明の実施の形態1における安定判定手段の動作を示すフローチャート
【図6】同装置の脈動時での流量特性図
【図7】同装置の可変計測手段のブロック図
【図8】本発明の実施の形態2における流量計測装置のブロック図
【図9】本発明の実施の形態3における流量計測装置のブロック図
【図10】従来の流量計測装置のブロック図
【符号の説明】
【0050】
8 流体検出手段
10 安定判定手段
11 高精度計測手段
12 省電力計測手段
13 可変計測手段
40 超高精度計測手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路内の流体の流速および/または流量を検出する流体検出手段と、前記流体検出手段の計測時間を小さく設定した省電力計測手段と、前記流体検出手段の計測時間を大きく設定した高精度計測手段と、前記省電力計測手段での計測値が所定値以上変動したときに前記高精度計測手段に移行する変動判定手段と、前記高精度計測手段の計測値が所定値以内に安定したときに省電力計測手段に移行する安定判定手段と、前記高精度計測手段での計測時間を少なくとも2種類以上変更して計測する可変計測手段とを備えた流体の流れ計測装置。
【請求項2】
可変計測手段は、計測回数の変更で行う請求項1記載の流体の流れ計測装置。
【請求項3】
可変計測手段は、計測間隔時間を変更する請求項1記載の流体の流れ計測装置。
【請求項4】
安定判定手段は、計測値の複数の移動平均値で判別する請求項1記載の流体の流れ計測装置。
【請求項5】
高精度計測手段は、移動平均値の個数以上続けて計測する請求項1または4記載の流体の流れ計測装置。
【請求項6】
可変計測手段は、省電力計測手段での計測時間を少なくとも2種類以上変更して計測する請求項1〜5のいずれか1項記載の流体の流れ計測装置。
【請求項7】
流体の脈動周期の整数倍にならないような計測時間を少なくとも1種類は含んでいる請求項1〜6のいずれか1項記載の流体の流れ計測装置。
【請求項8】
高精度計測手段による計測値の変動値が大きいとき、さらに計測時間が大きい超高精度計測手段に移行する請求項1〜7のいずれか1項記載の流体の流れ計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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