流体ダイオード、ポンプ、分子検出センサ
【課題】小型でありながらも、容易に形成でき、しかも高い効率を得ることのできる流体ダイオード等を提供することを目的とする。
【解決手段】上流側の第二の室110に対し、オフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fを設ける。これにより、下流側から上流側に流体が流れるときには、第二の室110Fのノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、非対称な流れによって渦や乱流が生じ、流れの抵抗が大きくなる。その結果、ガスが逆方向に流れるときと順方向に流れるときとでは、流れの抵抗に差が生じ、これによって流体ダイオードとして機能する。
【解決手段】上流側の第二の室110に対し、オフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fを設ける。これにより、下流側から上流側に流体が流れるときには、第二の室110Fのノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、非対称な流れによって渦や乱流が生じ、流れの抵抗が大きくなる。その結果、ガスが逆方向に流れるときと順方向に流れるときとでは、流れの抵抗に差が生じ、これによって流体ダイオードとして機能する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路において流体の流れる方向を制限する流体ダイオード、およびそれを用いたポンプ、分子検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
流路において、流体を一方向に流すための手段としては、いわゆる1WAYバルブのようにメカニカルな機構を有したものの他、流路内を流体が通過する方向によって流動抵抗が変化する構造により、整流効果を得る流体ダイオードとして、例えばTeslaバルブと称されるもの等が存在する(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第1329559号
【非特許文献1】Forster, F. K., et al., "Design, Fabrication and Testing of Fixed-Valve Micro-Pumps," Proc. of ASME Fluids Engineering Division, IMECE'95, Vol.234,、pp.39-44, 1995年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術などの微細加工技術の進展により、マイクロポンプと称される、極めて小さなポンプの開発も行われている。
これに伴い、マイクロポンプにおける、流入・吐出方向を制限するバルブあるいは流体ダイオードの開発も要求されている。これらのバルブや流体ダイオードは、当然のことながら極めて小型化する必要がある。これら現存するバルブや流体ダイオードを単に小型化したのでは、加工が困難であったり、流体の流れが現存するサイズのものとは異なって要求する整流効率が得られない、等の問題がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、小型でありながらも、容易に形成でき、しかも高い効率を得ることのできる流体ダイオード等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもとになされた本発明の流体ダイオードは、一端から流体が導入される第一の室と、第一の室の他端において、第一の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して第一の室に連通し、ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする。
このような流体ダイオードは、第二の室から第一の室に流体が流れ込むときに、ノズル部によって第一の室内で流体の流れが乱れ、流動抵抗が大きくなる。これにより、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じる。流体の流動方向が、第一の室から第二の室に向かう方向と、第二の室から第一の室に向かう方向とで繰り返し切り替わると、前記の流量の差により、全体として流体の流れる方向を規制する流体ダイオードとして機能する。このとき、流体の流れは、全体として第一の室側から第二の室側に規制される。すなわち、このような流体ダイオードは、流体が脈動するような用途に用いるのに適している。
【0006】
ここで、第二の室の他端において、第二の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して第二の室に連通し、ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の他の第二の室を備えることも可能である。つまり、第二の室と同様の形状を有した他の第二の室を、第二の室に連続して設けるのである。さらに、第二の室は、3段以上の多段に設けても良い。
【0007】
第二の室のノズル部は、第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設けるのが好ましい。ノズル部をオフセットすると、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるとき、第一の室内で流体の流れが乱れる。
第二の室に連続して他の第二の室を設ける場合、第二の室のノズル部は、第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設け、他の第二の室のノズル部は、第二の室の幅方向中心に対し、他方の側にオフセットして設けるのが好ましい。つまり、複数段に設ける第二の室において、互いに前後する第二の室で、ノズル部は互いに異なる方向にオフセットさせる。これにより、第二の室から第一の室に向かう方向に流体が流れるとき、他の第二の室から第二の室に流れ込んだ流体は、第二の室内で流れが乱れ、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるとき、第一の室内で流体の流れが逆方向に乱れる。これによって、流動抵抗をさらに大きくすることができる。
【0008】
第二の室のノズル部は、第一の室の幅方向中心に設けることもできる。ただしこの場合、第一の室側と第二の室側との圧力差が、予め定められた範囲内となるように用いられる。第一の室側と第二の室側との圧力差が小さいと、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるとき、第一の室の幅方向中心を直線的に流れ、第一の室内で流体の流れが乱れないために流動抵抗が増大せず、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じにくい。また、第一の室側と第二の室側との圧力差が過大になると、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるときに第一の室において流れが乱れるだけでなく、第一の室から第二の室に向けて流体が流れるときにも第二の室において流れが乱れ、流動抵抗が増大する。その結果、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じにくい。したがって、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとで、流量の差が大きくなるよう、第一の室側と第二の室側との圧力差が、予め定められた範囲内で用いる必要がある。このような第一の室側と第二の室側との圧力差の範囲は、各種条件によって変り得るので、予め実験等で定めるのが好ましい。
【0009】
このような流体ダイオードは、流体が液体である場合にも用いることが可能であるが、流体がガスであり、しかもガス状態のまま搬送される場合に用いるのが特に有効である。
【0010】
本発明の流体ダイオードは、様々な用途に用いることができるが、例えば以下のようなポンプに用いることができる。
このポンプは、固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、導入口からチャンバー内に導入された流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、体積変化発生部により流体に体積変化が生じたとき、導入口側から吐出口側に向かう方向に流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、ダイオード部は、流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、第一の室に対して流体の流れ方向下流側に設けられて、第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して第一の室に連通し、ノズル部側から流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする。
ここで、体積変化発生部は、いかなる構成のものを用いても良いが、チャンバー部が体積の変化しない固定状態であるため、チャンバー内の流体に対し、加熱・冷却を繰り返すことで流体を膨張・収縮させるのが好ましい。
このようなポンプは、可動部のないメカレスの構成とすることができる。その結果、基板上への実装が可能となるとともに、MEMS技術、半導体製造技術を適用することで、微細化、大量生産による低コストが可能となり、高い信頼性を得ることもできる。
なお、このようなポンプは、その用途を限定するものではない。
【0011】
本発明は、以下のような分子検出センサにも適用できる。
すなわち、この分子検出センサは、外部から流体を吸い込み、流体を濃縮する濃縮ポンプと、濃縮ポンプで濃縮された流体に含まれる分子を吸着する吸着部と、吸着部で吸着した分子のうち特定種の分子の付着または吸着により振動特性が変化することで分子を認識する分子認識部と、分子認識部における振動の変化を検出することで、分子を検出する検出部と、を備える。そして、濃縮ポンプは、固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、導入口からチャンバー内に導入された流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、体積変化発生部により流体に体積変化が生じたとき、導入口側から吐出口側に向かう方向に流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、ダイオード部は、流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、第一の室に対して流体の流れ方向下流側に設けられて、第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して第一の室に連通し、ノズル部側から流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする。
ここで、少なくとも濃縮ポンプ、吸着部、分子認識部を基板上に一体に形成し、分子検出センサをチップ状とすることができ、小型化が可能となるとともに、MEMS技術、半導体製造技術を適用することで、微細化、大量生産による低コストが可能となる。
そして、濃縮ポンプで流体を濃縮することによって、分子検出センサの検出感度を向上させることが可能となる。このとき、濃縮ポンプを、可動部のないメカレスの構成とすることができ、基板上への実装が可能となるとともに、高い信頼性を得ることができる。
【0012】
このような分子検出センサは、特定種の分子として、ガスや生体由来の分子、生活空間の浮遊分子、揮発性分子等を対象とすることで、例えば、爆発危険性や有害性のあるガス等の存在、あるいはその定量的な濃度を検出するガス検出センサとして用いることができる。このような分子検出センサは、ガス等を取り扱う施設、設備、装置等に設置され、ガスの漏れやガス量のコントロールに用いられる。また近年開発が盛んに行われている、燃料電池用の水素ステーションや、燃料電池を使用する車両や装置、機器等において、水素の漏れが無いか監視する用途にも、上記分子検出センサは適用できる。
これ以外にも、特定種の分子、あるいは特定の特性または特徴を有する複数種の分子を吸着することで、その吸着の有無あるいは吸着量を検出する分子検出センサは、例えば食物の鮮度や成分分析、快適空間を提供・維持するための環境制御、さらには、人体等、生体の状態検知等に用いることが考えられる。また、人体から出る様々な物質、呼気や腸内フローラの代謝成分等を高感度に検出することで、健康状態のモニタリング、疾患の簡易なスクリーニング、生活習慣性疾患の診断、感染症のモニタリング等といったことを行うことが可能になると考えられる。
また、グローバル認識と称される、特定の特徴を持った分子群や、同じ側鎖を持つ分子群等を検出することもできる。さらに、ガスに限らず、液体を対象とした場合にも本発明の分子検出センサにおいては同様の機能を発揮することができる。
また、本発明の分子検出センサは、その製品形態としても、従来の業務用のセンサに限らず、小型で安定な高感度な家庭用、個人用のセンサや、携帯性に優れる使い捨て型のセンサ等とすることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じる。流体の流動方向が、第一の室から第二の室に向かう方向と、第二の室から第一の室に向かう方向とで繰り返し切り替ると、前記の流量の差により、全体として流体の流れる方向を規制する流体ダイオードとして機能する。このような流体ダイオードは、形状が複雑ではないので加工が容易であり、また、小型化で効率の良いものとすることができる。
また、このような流体ダイオードを用い、ポンプや分子検出センサを構成すれば、従来に無い小型のポンプ、分子検出センサを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施の形態]
図1は、本実施の形態におけるセンサ(分子検出センサ)10の構成を説明するための図である。
この図1に示すセンサ10は、検知対象となる特定種の分子を吸着することで、ガス自体あるいはガスに含まれる特定物質や匂い等の存在(発生)の有無、あるいはその濃度の検出を行うものである。このセンサ10は、周囲の雰囲気ガス(以下、単にガスと称する:流体)を吸い込むポンプ(濃縮ポンプ)20と、ポンプ20で吸い込んだガスを吸着する吸着部30と、吸着部30で吸着したガス中から、特定種のガス成分を分離するガスクロマトグラフィ部(分子量分析部)40と、分離したガス成分中に含まれる特定種の分子を吸着し、その分子の吸着を検出するセンサ部(分子認識部)50と、センサ部50における検出レベルに基づき、特定種の分子の有無またはその量を測定する測定処理部(検出部)60と、センサ10の各部をコントロールする制御部70と、を備えている。
【0015】
図2に示すように、これらのうち、ポンプ20、吸着部30、ガスクロマトグラフィ部40、センサ部50は、Si、またはSiO2製の基板80上に、所定のパターン形成を行い、さらに基板81を積層することで実装されている。
【0016】
図3に示すように、ポンプ20は、所定の容積を有したチャンバー部(チャンバー)22、このチャンバー部22に外部からガスを導入する入口側チャンネル23、チャンバー部22からガスを送り出す出口側チャンネル24、チャンバー部22と入口側チャンネル23の間に設けられた入口側逆流防止部(ダイオード部)25、チャンバー部22と出口側チャンネル24の間に設けられた出口側逆流防止部(ダイオード部)26が形成され、チャンバー部22に、ヒータ(体積変化発生部)29が設けられた構成を有している。
【0017】
図2に示したように、このポンプ20は、基板80と、これに対向するように設けられた基板81との間に形成されている。これら基板80、81のいずれか一方または双方の合わせ面に所定形状の凹部を形成することで、チャンバー部22、入口側チャンネル23、出口側チャンネル24、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26が形成されているのである。
【0018】
図3に示すように、チャンバー部22は、例えば円形状断面を有している。このチャンバー部22の一方の側には、入口側逆流防止部25が形成され、他方の側に出口側逆流防止部26が形成されている。
入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、それぞれ全体として入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向けて一方向にガスを流すべく、その流れ方向を規制するものである。
【0019】
このようにして、ポンプ20には、入口側チャンネル23から、入口側逆流防止部25、チャンバー部22、出口側逆流防止部26を経て、出口側チャンネル24までが連通したガス流路が形成されている。
【0020】
チャンバー部22に設けられたヒータ29は、チャンバー部22の上面側または下面側に配設されたもので、例えばAu、Pt、Cu、Pd、Ir、Cr、Mo、Ti等の貴金属、高融点金属や、ITO、SnO、Poly−Si等の金属酸化膜や半導体、単結晶シリコン、不純物を拡散したシリコン等からなる電熱線であり、基板80の外部に配置される電源(図示無し)に電気的に接続される。そして、電源(図示無し)におけるヒータ29への電圧の印加は、制御部70によって制御されるようになっている。
制御部70の制御により電源から電圧が印加されるとヒータ29が発熱し、これによってチャンバー部22内の温度が上昇してガスが膨張し、ヒータ29への電圧の印加を停止するとヒータ29の発熱が中止され、チャンバー部22内の温度が低下してガスが収縮する。ポンプ20では、ヒータ29、制御部70が、温度変化手段、体積変化発生部として機能し、ガスの膨張・収縮を利用することで、ガスの送給を行うようになっている。以下、これについて詳述する。
【0021】
ポンプ20においては、外部のガスを入口側チャンネル23、入口側逆流防止部25からチャンバー部22に導入し、出口側逆流防止部26から吐出する。チャンバー部22にガスが導入された状態で、ヒータ29が発熱すると、チャンバー部22内の温度が上昇してガスが膨張する。すると、膨張したガスは、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26からチャンバー部22の外部に流出しようとする。このとき、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26において、ガスの流れ方向は、入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向かう方向に規制される。
これにより、チャンバー部22内のガスが膨張し、ポンプ20の外部に流出しようとした場合、ガスは、より抵抗(圧力損失)の小さい出口側逆流防止部26からチャンバー部22の外部に流出する。
【0022】
この後、ヒータ29への電圧の印加を停止するとヒータ29の発熱が中止され、チャンバー部22内の温度が低下してガスが収縮する。すると、ガスの収縮に伴い、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26からチャンバー部22内にガスを導入しようとする。このとき、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26において、前述したような、ガスの流れ方向が規制されるため、ガスは、入口側逆流防止部25からチャンバー部22の内部に導入される。
【0023】
このようにして、ヒータ29の加熱時にはチャンバー部22内のガスが膨張して出口側逆流防止部26から出口側チャンネル24に流出し、ヒータ29の停止時にはチャンバー部22内のガスが収縮して入口側チャンネル23から入口側逆流防止部25を介してチャンバー部22内にガスが導入されるようになっている。
したがって、ポンプ20では、このヒータ29の加熱・停止を繰り返すことで入口側チャンネル23からガスを吸い込み、出口側チャンネル24からガスを吐出することができ、ポンプとして機能することになる。
このため、制御部70では、所定のサイクルで、ヒータ29のON/OFFを交互に切り替えるようになっている。例えば、制御部70では、ヒータ29のON/OFFを100マイクロ秒〜1ミリ秒のサイクルで繰り返すように制御することができる。また、制御部70では、ヒータ29をON/OFFさせたときに、室温〜1000℃、好ましくは室温〜500℃の幅で温度変化が生じるように制御するのが好ましい。
【0024】
このとき、ヒータ29のパワーを高めれば、ON/OFF時の温度差が大きくなり、ポンプ20における流量が増大する。また、ON/OFFの切り替え周波数を高めれば流量が増大する。これらON/OFF時の温度差と切り替え周波数は、ポンプ20の適用対象、用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、高温でガスが分解するような用途に用いる場合には、温度を下げて使うことが必要である。
【0025】
このように、ポンプ20は、ガスの熱膨張を利用することで、確実に体積変化を生じさせ、微量な流量であってもガスを確実に搬送することができる。このとき、ポンプ20中の搬送過程において、ガスは液体状態となることなく、ガス状態のまま搬送される。しかも、ガスを搬送させるためには、チャンバー部22、入口側チャンネル23、出口側チャンネル24、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26からなる流路と、ヒータ29を備えるのみでよく、機械的な可動部分が不要であるため、高い信頼性を得ることができ、また可動部分を備える場合のように作動音や作動による発熱等が問題になるのも回避できる。
【0026】
ポンプ20の出口側チャンネル24から吐出されたガスは、吸着部30に送り込まれ、濃縮されることになる。
ポンプ20から送り込まれたガスを吸着する吸着部30は、例えば、有機系材料や無機系材料で形成された吸着膜31で形成されており、ガス中の分子を、低い選択性で物理吸着により吸着する。
【0027】
このような吸着膜31の下面または上面には、ヒータ32が設けられている。このヒータ32は、ヒータ29と同様の材料で形成され、基板80の外部に配置される電源(図示無し)に電気的に接続される。そして、電源(図示無し)におけるヒータ32への電圧の印加は、制御部70によって制御されるようになっている。
ポンプ20側からガスが送り込まれ、吸着膜31に接触すると、ガス中に含まれる分子(主に揮発性有機化合物)は吸着膜31に吸着される。そして、制御部70の制御により電源から電圧が印加されるとヒータ32が発熱すると、これによって吸着膜31に吸着された分子が揮発し、吸着膜31から離脱するようになっている。
このような吸着部30においては、ポンプ20を所定時間作動させ、その作動中に送り込まれたガス中の分子を吸着膜31で吸着する。このポンプ20の作動時間、すなわち吸着部30における吸着時間の長さにより、ガスのサンプリング量を決定することができる。
【0028】
吸着部30の上流側に設けられたガスクロマトグラフィ部40は、基板80に形成された溝41をカラムまたはキャピラリとする。これにより、カラムまたはキャピラリは、基板80の材料、すなわちSi、またはSiO2によって形成され、これを固定相とする。このような溝41を形成するには、基板80に所定のフォトレジスト工程を行ったあと、RIE(Reactive Ion Etching)等の手法により、例えば深さ50〜100μm、幅5〜20μmの溝41を形成する。ここで、Siは他の金属と比較的低温であっても反応を起こすので内部が酸化し表面に酸化膜が形成される。また必要に応じ、SiN4等のバリア膜を形成することもできる。
【0029】
カラムまたはキャピラリを構成する溝41には、ガス吸着材料42が充填されている。このガス吸着材料42としては、微粉化したカーボン、シリコンや金属(アルミ、亜鉛、錫、チタン)等の酸化物、或いは同じく微粉化した高分子、更に表面に金属をコーティングしたナノ粒子等が考えられる。
【0030】
ガスクロマトグラフィ部40には、ヒータ29と同様の材料で形成されたヒータ43が備えられている。このヒータ43により、カラムまたはキャピラリを構成する溝41が所定温度に加熱され、ガス吸着材料42に吸着された分子を揮発(離脱)させることで、分子量分析を行う。すなわち、分子量の小さな分子は早く溝41のカラムまたはキャピラリを脱出し、分子量の大きな分子は溝41から脱出するのに時間を要するので、この分子の脱出時間(の差)により、分子量を分析することができるのである。
【0031】
センサ部50は、ガスクロマトグラフィ部40で分離したガス中に含まれる分子を吸着する吸着膜51と、吸着膜51への分子の吸着を検出するための振動子52と、を備える。
吸着膜51は、吸着部30と同様、有機系材料や、無機系材料で形成することができる。
このような吸着膜51は、振動子52の表面に形成するのが好ましい。
振動子52は、基端部が固定されて片持ち梁状とされたカンチレバー型や、全体として円形、矩形、あるいは適宜他の形状を有したディスク状のディスク型とすることができる。
振動子52は、これを駆動するための駆動源(図示無し)を備えている。このような駆動源としては、静電容量方式と、ピエゾ駆動方式等があり、いずれも所定周波数で振動子52を振動させるようになっており、測定処理部60は、このための駆動回路(図示無し)を有している。振動子52は、駆動源によって所定周波数で振動させた状態で、吸着膜51に質量を有した分子等の検出対象物が付着すると、振動周波数が変化するようになっている。
また、センサ部50には、ヒータ29と同様の材料で形成されたヒータ53が設けられ、吸着膜51で吸着した分子を離脱できるようになっている。
【0032】
上記の、振動子52の振動周波数の変化を、センサ部50で検出する。
センサ部50では、静電容量方式等により、振動子52の振動周波数の変化を、電気信号として検出することができる。なお、ここでは、静電容量による読み出しを例としたが、読み出し方法は圧電素子の電歪を用いても、シリコンや圧電素子のピエゾ効果を用いても良い。
【0033】
測定処理部60は、センサ部50から出力される電気信号を受け、その電気信号の変化を検出することで、吸着膜51への特定種の分子の吸着の有無またはその量を測定する。センサ10においては、測定処理部60における測定結果を、ランプ、ブザー等のON/OFF、測定値、測定レベルの表示等によって出力できるようにするのが好ましい。
【0034】
制御部70では、センサ10の各部をコントロールする。例えば、各部において吸着した分子、成分を揮発させるためのヒータ29、32、43、53、振動子52の作動制御等を行うことができる。
【0035】
このようなセンサ10においては、制御部70のコントロールによって、ポンプ20で周囲のガスを吸い込んで濃縮し、ガスに含まれる分子を吸着部30で吸着する。そして、吸着部30で吸着した分子中から、ガスクロマトグラフィ部40で特定種の分子を分離し、分離した特定種の分子をセンサ部50の吸着膜51で吸着する。吸着膜51への分子の吸着をセンサ部50で検出し、その検出レベルに基づき、測定処理部60で特定種の分子の有無またはその量を測定する。このようにして、特定種の分子の有無の検出、またはその量を測定することができる。これにより、特定のガスや匂いや特定の物質等の存在の検出、あるいはその量、濃度の検出を行うことが可能となる。このとき、ポンプ20においてガスを圧縮して送り込むことで、微小なガス量でも高感度な検出が可能となり、センサ10を、ワンチップで超小型ながら、従来にない高感度な検出性能を備えるものとすることができる。
このようなセンサ10は、MEMS技術等の微細加工技術により製造することが可能であり、これによって大量生産による低コスト化が可能となる。
【0036】
さて、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、以下に示すような構成を有したものとすることができる。
図4に示すように、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、第一の室100と、少なくとも1段の第二の室110を備える。入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26においてガスの流れ方向を規制すべき方向(入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向かう方向)において、上流側(入口側チャンネル23)に第一の室100が配置され、下流側(出口側チャンネル24)に第二の室110が配置される。図4においては、第二の室110が1段のみ設けられた例を示したが、第二の室110を複数段設ける場合、複数段の第二の室110は直列に設ける。
【0037】
第一の室100は、上流側から下流側に向けて断面積が一定のストレート形状であり、入口側逆流防止部25においては、第一の室100は入口側チャンネル23を兼ねる構成とすることも可能である。
第二の室110は、ガスの流れ方向において、上流側から下流側に向けて断面積が漸次拡大するテーパ形状とされている。第二の室110は、上流側の第一の室100あるいは他の第二の室110に対しノズル部110aを介して連通している。そして、少なくとも1段の第二の室110において、ノズル部110aは、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に対し、一方の側にオフセットした位置で開口している。ここで、ノズル部110aが、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に対し、一方の側にオフセットした位置で開口している第二の室110を、第二の室110Fと適宜称する。
【0038】
これにより、上流側から下流側に流体が流れるとき(以下、これを順方向と称する)には、第二の室110Fに隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100から、ガスはノズル部110aを通って第二の室110Fに流れ込む。この場合、第二の室110Fに対しては、ノズル部110aは中心軸上に位置しているため、第二の室110F内における流れは細かい渦による乱れのないものとなる。
一方、上記と逆方向の流れにおいては、第二の室110Fのノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいはチャンバー部22、出口側チャンネル24において、断面方向に非対称な流れとなる。より具体的には、第二の室110Fのノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、第二の室110Fのノズル部110aが形成されている側の側面に沿うように流れる。これによって、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100においては、流れによって小さな渦が生じて乱流状態となり、順方向の場合よりも流れの抵抗が大きくなる。
その結果、順方向に流れるときとガスが逆方向に流れるときとでは、流れの抵抗に差が生じ、これによって流体ダイオードとして機能する。
【0039】
このように、上流側に対してオフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fは、少なくとも1段を設ければよいが、好ましくは図5に示すように2段以上設けるのが良い。その場合、全体としての流れがジグザグ状に蛇行するよう、互いに前後する第二の室110F、110Fにおいて、ノズル部110aの開口位置は、チャンバー部22、出口側チャンネル24の中心軸線に対して一方の側と他方の側の交互に開口するのが好ましい。
【0040】
[実施例1]
上記のような構成について、数値シミュレーションによる実験を行った。
ここで、上流側の第一の室100に対してオフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fは、1段だけ設けた。
第一の室100の長さは400μm、幅は100μm、第二の室110Fの長さは400μm、下流側の幅は100μm、ノズル部110aの開口の幅は10μmとした。また、第二の室110Fのノズル部110aのオフセット寸法は25μmとした。
【0041】
このような条件において、逆方向と順方向のそれぞれにおいて、雰囲気温度を300K、流体として圧縮性流体である窒素を用い、二次元(図6の紙面に沿った面内。紙面に直交する方向については第二の室110F,100、チャンバー部22、出口側チャンネル24の深さを無限大とする。)、下流側と上流側の差圧を0.02MPaとし、これらの条件において、「有限要素法」を用いたシミュレーションにより、初期の過渡状態の後の状態(以下定常状態と呼ぶ)での質量流量の時間的変化、流速分布を調べた(質量流量の算出においては20μmの奥行き(厚み)を仮定した。また、その平均値は150μ秒〜200μ秒の間の質量流量を用いて算出した。以降の質量流量とその平均値の算出も同様)。
その結果を図6に示す。
【0042】
図6(a)に示すように、逆方向と順方向とでは、差圧が0.02MPaのときに質量流量の平均値が3.03%異なり、順方向の方が流れの効率が良い。
【0043】
上記の条件における流れの様子を、流速分布により示す。
図6において、(b)は逆方向における流速分布、(c)は順方向における流速分布を示すものである。
図6(b)に示すように、差圧が0.02MPaであるときには、逆方向のときに、第二の室110Fのノズル部110aから出た流れは、上流側の第一の室100内において、ノズル部110aがオフセットしている側に偏って湾曲・蛇行するように流れている。一方、図6(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100からノズル部110aを通って第二の室110Fに流れ込んだガスは、第二の室110F内をほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。
【0044】
さらに、図7に示すように、上流側に対してオフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fを、2段を連続して設けた場合について上記と同様のシミュレーションを行った。2段の第二の室110Fの上流側には、第一の室100に対し、幅方向の中心に開口する第二の室110を設けた。
第一の室100、第二の室110、110Fのサイズは図6の場合と同様である。また、1段目と2段目の第二の室110Fにおいて、ノズル部110aのオフセット方向を異ならせ、そのオフセット寸法はそれぞれ25μmとした。
そして、雰囲気温度300K、流体として窒素を用い、二次元、下流側と上流側の差圧を0.05MPaとし、これらの条件において、「有限要素法」を用いたシミュレーションにより、定常状態での流れの様子を調べた。
【0045】
上記の条件における流れの様子を、流速分布により示す。
図7において、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向における流速分布、(c)は順方向における流速分布を示すものである。
図7(b)に示すように、逆方向のときに、第二の室110Fのノズル部110aから出た流れは、隣接する他の第二の室110F、110、第一の室100内において、ノズル部110aがオフセットしている側に偏って湾曲・蛇行するように流れている。一方、図7(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100から第二の室110、110Fに順次流れ込むガスは、それぞれの第二の室110、110F内をほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。
ここで、逆方向と順方向とでは、質量流量の平均値が20.16%異なり、順方向の方が流れの効率が良いことが確認された。
【0046】
[第二の実施の形態]
次に、本発明の第二の実施の形態について説明する。ここで、上記第一の実施の形態と異なるのは、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26の構成のみであるため、以下においては、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26のみの説明を行い、第一の実施の形態と共通する他の構成については説明を省略する。
図8に示すように、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、少なくとも1段の第二の室110を備える。各第二の室110は、ガスの流れ方向(入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向かう方向)において、下流側から上流側に向けて断面積が漸次小さくなるテーパ形状とされている。そして、第二の室110のノズル部110aは、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に開口している。
【0047】
このような構成において、下流側から上流側に流体が流れるとき(以下、これを逆方向と称する)には、第二の室110のノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、下流側と上流側との差圧の大きさによって、以下のように流れが変化する。
下流側と上流側との差圧が小さいときには、ノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、その幅方向の中心を直線的に流れる。
下流側と上流側との差圧が大きくなると、ノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、その幅方向の一方の側の壁面に沿うように流れる。これは、ノズル部110aが、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に開口していながらも、その両側の壁面の表面状態のばらつき、ガスの流れが完全に均一ではないこと等に起因し、コアンダ効果によって、一方の側の壁面に引き寄せられることによる。
下流側と上流側との差圧がさらに大きくなると、ノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、渦や乱流が生じ、流れが大きく乱れる。
【0048】
一方、上記と逆の順方向の流れにおいては、第二の室110に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100から、ガスはノズル部110aを通って第二の室110に流れ込む。この場合、第二の室110に対しては、ノズル部110aは中心軸上に位置しているため、第二の室110内における流れは大きな乱れのないものとなる。その結果、ガスが逆方向に流れるときと順方向に流れるときとでは、上流側と下流側との差圧によっては、流れの抵抗に差が生じ、これによって流体ダイオードとして機能する。
このとき、上流側と下流側との差圧が大きくなれば、順方向の流れにおいても、第二の室110に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100から、ノズル部110aを通って第二の室110に流れ込んだガスの流れに乱れが生じる。流体ダイオードとして機能させるには、ガスが逆方向に流れるときと順方向に流れるときとの流れの抵抗に大きな差が生じているのが好ましい。したがって、上流側と下流側との差圧は、ある特定の範囲内に設定して用いるのが好ましい。ただし、第二の室110や、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100の各部寸法や、表面状態等の各種条件によって流れの抵抗は変わり得るため、差圧の範囲を条件に関わらず特定の範囲に一概に定義するのは困難であり、種々条件に応じ、シミュレーションや実験によって差圧の範囲を設定するのが好ましい。
【0049】
[実施例2]
上記のような構成について、数値シミュレーションによる実験を行った。
ここで、ノズル部110aを備えた第二の室110は、1段だけ設け、その上流側に、第一の室100を設けた。第二の室110のノズル部110aは、第一の室100の幅方向の中心に開口するよう形成した。
第二の室110の長さは400μm、下流側の幅は100μm、ノズル部110aの開口の幅は10μmとした。
【0050】
このような条件において、逆方向と順方向のそれぞれにおいて、雰囲気温度を300K、流体として圧縮性流体である窒素を用い、下流側と上流側の差圧を0.001MPa、0.02MPa、0.05MPaの3通りとし、これらの条件において、「有限要素法」を用いたシミュレーションにより、二次元面内における定常状態での質量流量の時間的変化、流速分布を調べた。
その結果を図9〜図11に示す。図9は、差圧0.001MPa、図10は、差圧0.02MPa、図11は差圧0.05MPaの場合の結果である。
【0051】
その結果、逆方向と順方向とでは、図9(a)に示すように、差圧が0.001MPaのときに質量流量の平均値が4.37%異なっており、図10(a)に示すように、差圧が0.02MPaのときには16.26%、図11(a)に示すように、差圧が0.05MPaのときには8.23%であり、いずれも順方向の方が質量流量の平均値が高い。これにより、流体ダイオードとして機能し得ることが確認された。
【0052】
上記の条件における流れの様子を、流速分布により示す。
図9〜図11において、(b)は逆方向における流速分布、(c)は順方向における流速分布を示すものである。
図9(b)、(c)に示すように、差圧が0.001MPaであるときには、逆方向、順方向いずれの場合も、ノズル部110aから出たガスは、そのまま、第一の室100、あるいは第二の室110の中央部を直線的に流れている。
図10(b)に示すように、差圧が0.02MPaであるときには、逆方向のときに、第二の室110のノズル部110aから出た流れは、上流側の第一の室100内において、一方の側に偏って湾曲・蛇行するように流れている。一方、図10(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100からノズル部110aを通って第二の室110に流れ込んだガスは、第二の室110内をほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。
図11(b)に示すように、差圧が0.05MPaであるときには、逆方向のときに、第二の室110のノズル部110aから出た流れは、上流側の第一の室100内において大きく乱れている。一方、図11(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100からノズル部110aを通って第二の室110に流れ込んだガスは、第二の室110内の一方の側に偏ってほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。しかし、図11(a)に示したように、質量流量が大きく上下動する結果、順方向と逆方向の平均値の差は、差圧が0.02MPaの場合よりも小さくなっている。
【0053】
0.001MPa〜0.055MPaの差圧において、さらに詳細に計算を行った時の差圧と質量流量の平均値の差(順方向を正とする)が図12である。図12の計算では、「中央部での直線的な流れ」から「偏って湾曲・蛇行する流れ」に遷移する差圧は0.002〜0.003MPaの間であり、「偏って湾曲・蛇行する流れ」から「上流側の第一の室100内において小さくではあるが質量流量が上下動する流れ」に遷移する差圧は0.032〜0.033MPaの間であり、「上流側の第一の室100内において小さくではあるが質量流量が上下動する流れ」から「質量流量が大きく上下動する流れ(逆方向の質量流量が順方向の質量流量よりも一時的に大きくなる場合が生じるような流れ)」 に遷移する差圧は0.041〜0.042MPaの間であった。
これにより上記条件に限って言えば、上流側と下流側の差圧は、0.002MPaより大きく0.042MPa未満とするのが好ましいと言える。
【0054】
なお、上記第二の実施の形態では、第二の室110を一段のみ設ける構成を例に示したが、もちろん、複数段に備える構成としてもよい。
【0055】
また、第一および第二の実施の形態において、各部の寸法、材質等は適宜変更して設定することが可能である。流体ダイオードとしての効率が高くなるよう、種々の条件に応じて適宜設定すればよい。
さらに、センサ10は、上記入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26以外の構成は、上記に挙げた構成以外に適宜変更することが可能である。
加えて、上記したような流体ダイオードとしての構成は、センサ10の入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26としてだけでなく、適宜他の用途にも用いることが可能である。取り扱う流体も、ガスに限らず、液体状態のものであってもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施の形態におけるセンサの構成を示す図である。
【図2】センサの断面図である。
【図3】ポンプの構成を示す図である。
【図4】入口側逆流防止部、出口側逆流防止部の構成の例を示す図である。
【図5】入口側逆流防止部、出口側逆流防止部の構成の他の例を示す図であり、第二の室を複数段設けた例である。
【図6】図4に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.02MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図7】図5に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.05MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図8】入口側逆流防止部、出口側逆流防止部の構成の他の例を示す図であり、第二の室のノズル部をオフセットさせず中心に設けた例である。
【図9】図8に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.001MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図10】図8に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.02MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図11】図8に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.05MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図12】0.001MPa〜0.055MPaの差圧において、差圧と質量流量の平均値の差について、詳細に計算を行った結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10…センサ(分子検出センサ)、20…ポンプ(濃縮ポンプ)、22…チャンバー部(チャンバー)、23…入口側チャンネル、24…出口側チャンネル、25…入口側逆流防止部(ダイオード部)、26…出口側逆流防止部(ダイオード部)、29…ヒータ(体積変化発生部)、30…吸着部、40…ガスクロマトグラフィ部(分子量分析部)、50…センサ部(分子認識部)、52…振動子、60…測定処理部(検出部)、70…制御部、80…基板、100…第一の室、110…第二の室、110F…第二の室、110a…ノズル部
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路において流体の流れる方向を制限する流体ダイオード、およびそれを用いたポンプ、分子検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
流路において、流体を一方向に流すための手段としては、いわゆる1WAYバルブのようにメカニカルな機構を有したものの他、流路内を流体が通過する方向によって流動抵抗が変化する構造により、整流効果を得る流体ダイオードとして、例えばTeslaバルブと称されるもの等が存在する(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第1329559号
【非特許文献1】Forster, F. K., et al., "Design, Fabrication and Testing of Fixed-Valve Micro-Pumps," Proc. of ASME Fluids Engineering Division, IMECE'95, Vol.234,、pp.39-44, 1995年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術などの微細加工技術の進展により、マイクロポンプと称される、極めて小さなポンプの開発も行われている。
これに伴い、マイクロポンプにおける、流入・吐出方向を制限するバルブあるいは流体ダイオードの開発も要求されている。これらのバルブや流体ダイオードは、当然のことながら極めて小型化する必要がある。これら現存するバルブや流体ダイオードを単に小型化したのでは、加工が困難であったり、流体の流れが現存するサイズのものとは異なって要求する整流効率が得られない、等の問題がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、小型でありながらも、容易に形成でき、しかも高い効率を得ることのできる流体ダイオード等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもとになされた本発明の流体ダイオードは、一端から流体が導入される第一の室と、第一の室の他端において、第一の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して第一の室に連通し、ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする。
このような流体ダイオードは、第二の室から第一の室に流体が流れ込むときに、ノズル部によって第一の室内で流体の流れが乱れ、流動抵抗が大きくなる。これにより、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じる。流体の流動方向が、第一の室から第二の室に向かう方向と、第二の室から第一の室に向かう方向とで繰り返し切り替わると、前記の流量の差により、全体として流体の流れる方向を規制する流体ダイオードとして機能する。このとき、流体の流れは、全体として第一の室側から第二の室側に規制される。すなわち、このような流体ダイオードは、流体が脈動するような用途に用いるのに適している。
【0006】
ここで、第二の室の他端において、第二の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して第二の室に連通し、ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の他の第二の室を備えることも可能である。つまり、第二の室と同様の形状を有した他の第二の室を、第二の室に連続して設けるのである。さらに、第二の室は、3段以上の多段に設けても良い。
【0007】
第二の室のノズル部は、第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設けるのが好ましい。ノズル部をオフセットすると、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるとき、第一の室内で流体の流れが乱れる。
第二の室に連続して他の第二の室を設ける場合、第二の室のノズル部は、第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設け、他の第二の室のノズル部は、第二の室の幅方向中心に対し、他方の側にオフセットして設けるのが好ましい。つまり、複数段に設ける第二の室において、互いに前後する第二の室で、ノズル部は互いに異なる方向にオフセットさせる。これにより、第二の室から第一の室に向かう方向に流体が流れるとき、他の第二の室から第二の室に流れ込んだ流体は、第二の室内で流れが乱れ、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるとき、第一の室内で流体の流れが逆方向に乱れる。これによって、流動抵抗をさらに大きくすることができる。
【0008】
第二の室のノズル部は、第一の室の幅方向中心に設けることもできる。ただしこの場合、第一の室側と第二の室側との圧力差が、予め定められた範囲内となるように用いられる。第一の室側と第二の室側との圧力差が小さいと、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるとき、第一の室の幅方向中心を直線的に流れ、第一の室内で流体の流れが乱れないために流動抵抗が増大せず、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じにくい。また、第一の室側と第二の室側との圧力差が過大になると、第二の室から第一の室に向けて流体が流れるときに第一の室において流れが乱れるだけでなく、第一の室から第二の室に向けて流体が流れるときにも第二の室において流れが乱れ、流動抵抗が増大する。その結果、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じにくい。したがって、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとで、流量の差が大きくなるよう、第一の室側と第二の室側との圧力差が、予め定められた範囲内で用いる必要がある。このような第一の室側と第二の室側との圧力差の範囲は、各種条件によって変り得るので、予め実験等で定めるのが好ましい。
【0009】
このような流体ダイオードは、流体が液体である場合にも用いることが可能であるが、流体がガスであり、しかもガス状態のまま搬送される場合に用いるのが特に有効である。
【0010】
本発明の流体ダイオードは、様々な用途に用いることができるが、例えば以下のようなポンプに用いることができる。
このポンプは、固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、導入口からチャンバー内に導入された流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、体積変化発生部により流体に体積変化が生じたとき、導入口側から吐出口側に向かう方向に流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、ダイオード部は、流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、第一の室に対して流体の流れ方向下流側に設けられて、第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して第一の室に連通し、ノズル部側から流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする。
ここで、体積変化発生部は、いかなる構成のものを用いても良いが、チャンバー部が体積の変化しない固定状態であるため、チャンバー内の流体に対し、加熱・冷却を繰り返すことで流体を膨張・収縮させるのが好ましい。
このようなポンプは、可動部のないメカレスの構成とすることができる。その結果、基板上への実装が可能となるとともに、MEMS技術、半導体製造技術を適用することで、微細化、大量生産による低コストが可能となり、高い信頼性を得ることもできる。
なお、このようなポンプは、その用途を限定するものではない。
【0011】
本発明は、以下のような分子検出センサにも適用できる。
すなわち、この分子検出センサは、外部から流体を吸い込み、流体を濃縮する濃縮ポンプと、濃縮ポンプで濃縮された流体に含まれる分子を吸着する吸着部と、吸着部で吸着した分子のうち特定種の分子の付着または吸着により振動特性が変化することで分子を認識する分子認識部と、分子認識部における振動の変化を検出することで、分子を検出する検出部と、を備える。そして、濃縮ポンプは、固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、導入口からチャンバー内に導入された流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、体積変化発生部により流体に体積変化が生じたとき、導入口側から吐出口側に向かう方向に流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、ダイオード部は、流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、第一の室に対して流体の流れ方向下流側に設けられて、第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して第一の室に連通し、ノズル部側から流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする。
ここで、少なくとも濃縮ポンプ、吸着部、分子認識部を基板上に一体に形成し、分子検出センサをチップ状とすることができ、小型化が可能となるとともに、MEMS技術、半導体製造技術を適用することで、微細化、大量生産による低コストが可能となる。
そして、濃縮ポンプで流体を濃縮することによって、分子検出センサの検出感度を向上させることが可能となる。このとき、濃縮ポンプを、可動部のないメカレスの構成とすることができ、基板上への実装が可能となるとともに、高い信頼性を得ることができる。
【0012】
このような分子検出センサは、特定種の分子として、ガスや生体由来の分子、生活空間の浮遊分子、揮発性分子等を対象とすることで、例えば、爆発危険性や有害性のあるガス等の存在、あるいはその定量的な濃度を検出するガス検出センサとして用いることができる。このような分子検出センサは、ガス等を取り扱う施設、設備、装置等に設置され、ガスの漏れやガス量のコントロールに用いられる。また近年開発が盛んに行われている、燃料電池用の水素ステーションや、燃料電池を使用する車両や装置、機器等において、水素の漏れが無いか監視する用途にも、上記分子検出センサは適用できる。
これ以外にも、特定種の分子、あるいは特定の特性または特徴を有する複数種の分子を吸着することで、その吸着の有無あるいは吸着量を検出する分子検出センサは、例えば食物の鮮度や成分分析、快適空間を提供・維持するための環境制御、さらには、人体等、生体の状態検知等に用いることが考えられる。また、人体から出る様々な物質、呼気や腸内フローラの代謝成分等を高感度に検出することで、健康状態のモニタリング、疾患の簡易なスクリーニング、生活習慣性疾患の診断、感染症のモニタリング等といったことを行うことが可能になると考えられる。
また、グローバル認識と称される、特定の特徴を持った分子群や、同じ側鎖を持つ分子群等を検出することもできる。さらに、ガスに限らず、液体を対象とした場合にも本発明の分子検出センサにおいては同様の機能を発揮することができる。
また、本発明の分子検出センサは、その製品形態としても、従来の業務用のセンサに限らず、小型で安定な高感度な家庭用、個人用のセンサや、携帯性に優れる使い捨て型のセンサ等とすることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第一の室から第二の室に流体が流れるときと、第二の室から第一の室に流体が流れるときとでは、流量に差が生じる。流体の流動方向が、第一の室から第二の室に向かう方向と、第二の室から第一の室に向かう方向とで繰り返し切り替ると、前記の流量の差により、全体として流体の流れる方向を規制する流体ダイオードとして機能する。このような流体ダイオードは、形状が複雑ではないので加工が容易であり、また、小型化で効率の良いものとすることができる。
また、このような流体ダイオードを用い、ポンプや分子検出センサを構成すれば、従来に無い小型のポンプ、分子検出センサを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施の形態]
図1は、本実施の形態におけるセンサ(分子検出センサ)10の構成を説明するための図である。
この図1に示すセンサ10は、検知対象となる特定種の分子を吸着することで、ガス自体あるいはガスに含まれる特定物質や匂い等の存在(発生)の有無、あるいはその濃度の検出を行うものである。このセンサ10は、周囲の雰囲気ガス(以下、単にガスと称する:流体)を吸い込むポンプ(濃縮ポンプ)20と、ポンプ20で吸い込んだガスを吸着する吸着部30と、吸着部30で吸着したガス中から、特定種のガス成分を分離するガスクロマトグラフィ部(分子量分析部)40と、分離したガス成分中に含まれる特定種の分子を吸着し、その分子の吸着を検出するセンサ部(分子認識部)50と、センサ部50における検出レベルに基づき、特定種の分子の有無またはその量を測定する測定処理部(検出部)60と、センサ10の各部をコントロールする制御部70と、を備えている。
【0015】
図2に示すように、これらのうち、ポンプ20、吸着部30、ガスクロマトグラフィ部40、センサ部50は、Si、またはSiO2製の基板80上に、所定のパターン形成を行い、さらに基板81を積層することで実装されている。
【0016】
図3に示すように、ポンプ20は、所定の容積を有したチャンバー部(チャンバー)22、このチャンバー部22に外部からガスを導入する入口側チャンネル23、チャンバー部22からガスを送り出す出口側チャンネル24、チャンバー部22と入口側チャンネル23の間に設けられた入口側逆流防止部(ダイオード部)25、チャンバー部22と出口側チャンネル24の間に設けられた出口側逆流防止部(ダイオード部)26が形成され、チャンバー部22に、ヒータ(体積変化発生部)29が設けられた構成を有している。
【0017】
図2に示したように、このポンプ20は、基板80と、これに対向するように設けられた基板81との間に形成されている。これら基板80、81のいずれか一方または双方の合わせ面に所定形状の凹部を形成することで、チャンバー部22、入口側チャンネル23、出口側チャンネル24、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26が形成されているのである。
【0018】
図3に示すように、チャンバー部22は、例えば円形状断面を有している。このチャンバー部22の一方の側には、入口側逆流防止部25が形成され、他方の側に出口側逆流防止部26が形成されている。
入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、それぞれ全体として入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向けて一方向にガスを流すべく、その流れ方向を規制するものである。
【0019】
このようにして、ポンプ20には、入口側チャンネル23から、入口側逆流防止部25、チャンバー部22、出口側逆流防止部26を経て、出口側チャンネル24までが連通したガス流路が形成されている。
【0020】
チャンバー部22に設けられたヒータ29は、チャンバー部22の上面側または下面側に配設されたもので、例えばAu、Pt、Cu、Pd、Ir、Cr、Mo、Ti等の貴金属、高融点金属や、ITO、SnO、Poly−Si等の金属酸化膜や半導体、単結晶シリコン、不純物を拡散したシリコン等からなる電熱線であり、基板80の外部に配置される電源(図示無し)に電気的に接続される。そして、電源(図示無し)におけるヒータ29への電圧の印加は、制御部70によって制御されるようになっている。
制御部70の制御により電源から電圧が印加されるとヒータ29が発熱し、これによってチャンバー部22内の温度が上昇してガスが膨張し、ヒータ29への電圧の印加を停止するとヒータ29の発熱が中止され、チャンバー部22内の温度が低下してガスが収縮する。ポンプ20では、ヒータ29、制御部70が、温度変化手段、体積変化発生部として機能し、ガスの膨張・収縮を利用することで、ガスの送給を行うようになっている。以下、これについて詳述する。
【0021】
ポンプ20においては、外部のガスを入口側チャンネル23、入口側逆流防止部25からチャンバー部22に導入し、出口側逆流防止部26から吐出する。チャンバー部22にガスが導入された状態で、ヒータ29が発熱すると、チャンバー部22内の温度が上昇してガスが膨張する。すると、膨張したガスは、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26からチャンバー部22の外部に流出しようとする。このとき、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26において、ガスの流れ方向は、入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向かう方向に規制される。
これにより、チャンバー部22内のガスが膨張し、ポンプ20の外部に流出しようとした場合、ガスは、より抵抗(圧力損失)の小さい出口側逆流防止部26からチャンバー部22の外部に流出する。
【0022】
この後、ヒータ29への電圧の印加を停止するとヒータ29の発熱が中止され、チャンバー部22内の温度が低下してガスが収縮する。すると、ガスの収縮に伴い、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26からチャンバー部22内にガスを導入しようとする。このとき、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26において、前述したような、ガスの流れ方向が規制されるため、ガスは、入口側逆流防止部25からチャンバー部22の内部に導入される。
【0023】
このようにして、ヒータ29の加熱時にはチャンバー部22内のガスが膨張して出口側逆流防止部26から出口側チャンネル24に流出し、ヒータ29の停止時にはチャンバー部22内のガスが収縮して入口側チャンネル23から入口側逆流防止部25を介してチャンバー部22内にガスが導入されるようになっている。
したがって、ポンプ20では、このヒータ29の加熱・停止を繰り返すことで入口側チャンネル23からガスを吸い込み、出口側チャンネル24からガスを吐出することができ、ポンプとして機能することになる。
このため、制御部70では、所定のサイクルで、ヒータ29のON/OFFを交互に切り替えるようになっている。例えば、制御部70では、ヒータ29のON/OFFを100マイクロ秒〜1ミリ秒のサイクルで繰り返すように制御することができる。また、制御部70では、ヒータ29をON/OFFさせたときに、室温〜1000℃、好ましくは室温〜500℃の幅で温度変化が生じるように制御するのが好ましい。
【0024】
このとき、ヒータ29のパワーを高めれば、ON/OFF時の温度差が大きくなり、ポンプ20における流量が増大する。また、ON/OFFの切り替え周波数を高めれば流量が増大する。これらON/OFF時の温度差と切り替え周波数は、ポンプ20の適用対象、用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、高温でガスが分解するような用途に用いる場合には、温度を下げて使うことが必要である。
【0025】
このように、ポンプ20は、ガスの熱膨張を利用することで、確実に体積変化を生じさせ、微量な流量であってもガスを確実に搬送することができる。このとき、ポンプ20中の搬送過程において、ガスは液体状態となることなく、ガス状態のまま搬送される。しかも、ガスを搬送させるためには、チャンバー部22、入口側チャンネル23、出口側チャンネル24、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26からなる流路と、ヒータ29を備えるのみでよく、機械的な可動部分が不要であるため、高い信頼性を得ることができ、また可動部分を備える場合のように作動音や作動による発熱等が問題になるのも回避できる。
【0026】
ポンプ20の出口側チャンネル24から吐出されたガスは、吸着部30に送り込まれ、濃縮されることになる。
ポンプ20から送り込まれたガスを吸着する吸着部30は、例えば、有機系材料や無機系材料で形成された吸着膜31で形成されており、ガス中の分子を、低い選択性で物理吸着により吸着する。
【0027】
このような吸着膜31の下面または上面には、ヒータ32が設けられている。このヒータ32は、ヒータ29と同様の材料で形成され、基板80の外部に配置される電源(図示無し)に電気的に接続される。そして、電源(図示無し)におけるヒータ32への電圧の印加は、制御部70によって制御されるようになっている。
ポンプ20側からガスが送り込まれ、吸着膜31に接触すると、ガス中に含まれる分子(主に揮発性有機化合物)は吸着膜31に吸着される。そして、制御部70の制御により電源から電圧が印加されるとヒータ32が発熱すると、これによって吸着膜31に吸着された分子が揮発し、吸着膜31から離脱するようになっている。
このような吸着部30においては、ポンプ20を所定時間作動させ、その作動中に送り込まれたガス中の分子を吸着膜31で吸着する。このポンプ20の作動時間、すなわち吸着部30における吸着時間の長さにより、ガスのサンプリング量を決定することができる。
【0028】
吸着部30の上流側に設けられたガスクロマトグラフィ部40は、基板80に形成された溝41をカラムまたはキャピラリとする。これにより、カラムまたはキャピラリは、基板80の材料、すなわちSi、またはSiO2によって形成され、これを固定相とする。このような溝41を形成するには、基板80に所定のフォトレジスト工程を行ったあと、RIE(Reactive Ion Etching)等の手法により、例えば深さ50〜100μm、幅5〜20μmの溝41を形成する。ここで、Siは他の金属と比較的低温であっても反応を起こすので内部が酸化し表面に酸化膜が形成される。また必要に応じ、SiN4等のバリア膜を形成することもできる。
【0029】
カラムまたはキャピラリを構成する溝41には、ガス吸着材料42が充填されている。このガス吸着材料42としては、微粉化したカーボン、シリコンや金属(アルミ、亜鉛、錫、チタン)等の酸化物、或いは同じく微粉化した高分子、更に表面に金属をコーティングしたナノ粒子等が考えられる。
【0030】
ガスクロマトグラフィ部40には、ヒータ29と同様の材料で形成されたヒータ43が備えられている。このヒータ43により、カラムまたはキャピラリを構成する溝41が所定温度に加熱され、ガス吸着材料42に吸着された分子を揮発(離脱)させることで、分子量分析を行う。すなわち、分子量の小さな分子は早く溝41のカラムまたはキャピラリを脱出し、分子量の大きな分子は溝41から脱出するのに時間を要するので、この分子の脱出時間(の差)により、分子量を分析することができるのである。
【0031】
センサ部50は、ガスクロマトグラフィ部40で分離したガス中に含まれる分子を吸着する吸着膜51と、吸着膜51への分子の吸着を検出するための振動子52と、を備える。
吸着膜51は、吸着部30と同様、有機系材料や、無機系材料で形成することができる。
このような吸着膜51は、振動子52の表面に形成するのが好ましい。
振動子52は、基端部が固定されて片持ち梁状とされたカンチレバー型や、全体として円形、矩形、あるいは適宜他の形状を有したディスク状のディスク型とすることができる。
振動子52は、これを駆動するための駆動源(図示無し)を備えている。このような駆動源としては、静電容量方式と、ピエゾ駆動方式等があり、いずれも所定周波数で振動子52を振動させるようになっており、測定処理部60は、このための駆動回路(図示無し)を有している。振動子52は、駆動源によって所定周波数で振動させた状態で、吸着膜51に質量を有した分子等の検出対象物が付着すると、振動周波数が変化するようになっている。
また、センサ部50には、ヒータ29と同様の材料で形成されたヒータ53が設けられ、吸着膜51で吸着した分子を離脱できるようになっている。
【0032】
上記の、振動子52の振動周波数の変化を、センサ部50で検出する。
センサ部50では、静電容量方式等により、振動子52の振動周波数の変化を、電気信号として検出することができる。なお、ここでは、静電容量による読み出しを例としたが、読み出し方法は圧電素子の電歪を用いても、シリコンや圧電素子のピエゾ効果を用いても良い。
【0033】
測定処理部60は、センサ部50から出力される電気信号を受け、その電気信号の変化を検出することで、吸着膜51への特定種の分子の吸着の有無またはその量を測定する。センサ10においては、測定処理部60における測定結果を、ランプ、ブザー等のON/OFF、測定値、測定レベルの表示等によって出力できるようにするのが好ましい。
【0034】
制御部70では、センサ10の各部をコントロールする。例えば、各部において吸着した分子、成分を揮発させるためのヒータ29、32、43、53、振動子52の作動制御等を行うことができる。
【0035】
このようなセンサ10においては、制御部70のコントロールによって、ポンプ20で周囲のガスを吸い込んで濃縮し、ガスに含まれる分子を吸着部30で吸着する。そして、吸着部30で吸着した分子中から、ガスクロマトグラフィ部40で特定種の分子を分離し、分離した特定種の分子をセンサ部50の吸着膜51で吸着する。吸着膜51への分子の吸着をセンサ部50で検出し、その検出レベルに基づき、測定処理部60で特定種の分子の有無またはその量を測定する。このようにして、特定種の分子の有無の検出、またはその量を測定することができる。これにより、特定のガスや匂いや特定の物質等の存在の検出、あるいはその量、濃度の検出を行うことが可能となる。このとき、ポンプ20においてガスを圧縮して送り込むことで、微小なガス量でも高感度な検出が可能となり、センサ10を、ワンチップで超小型ながら、従来にない高感度な検出性能を備えるものとすることができる。
このようなセンサ10は、MEMS技術等の微細加工技術により製造することが可能であり、これによって大量生産による低コスト化が可能となる。
【0036】
さて、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、以下に示すような構成を有したものとすることができる。
図4に示すように、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、第一の室100と、少なくとも1段の第二の室110を備える。入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26においてガスの流れ方向を規制すべき方向(入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向かう方向)において、上流側(入口側チャンネル23)に第一の室100が配置され、下流側(出口側チャンネル24)に第二の室110が配置される。図4においては、第二の室110が1段のみ設けられた例を示したが、第二の室110を複数段設ける場合、複数段の第二の室110は直列に設ける。
【0037】
第一の室100は、上流側から下流側に向けて断面積が一定のストレート形状であり、入口側逆流防止部25においては、第一の室100は入口側チャンネル23を兼ねる構成とすることも可能である。
第二の室110は、ガスの流れ方向において、上流側から下流側に向けて断面積が漸次拡大するテーパ形状とされている。第二の室110は、上流側の第一の室100あるいは他の第二の室110に対しノズル部110aを介して連通している。そして、少なくとも1段の第二の室110において、ノズル部110aは、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に対し、一方の側にオフセットした位置で開口している。ここで、ノズル部110aが、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に対し、一方の側にオフセットした位置で開口している第二の室110を、第二の室110Fと適宜称する。
【0038】
これにより、上流側から下流側に流体が流れるとき(以下、これを順方向と称する)には、第二の室110Fに隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100から、ガスはノズル部110aを通って第二の室110Fに流れ込む。この場合、第二の室110Fに対しては、ノズル部110aは中心軸上に位置しているため、第二の室110F内における流れは細かい渦による乱れのないものとなる。
一方、上記と逆方向の流れにおいては、第二の室110Fのノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいはチャンバー部22、出口側チャンネル24において、断面方向に非対称な流れとなる。より具体的には、第二の室110Fのノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、第二の室110Fのノズル部110aが形成されている側の側面に沿うように流れる。これによって、第二の室110Fの上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100においては、流れによって小さな渦が生じて乱流状態となり、順方向の場合よりも流れの抵抗が大きくなる。
その結果、順方向に流れるときとガスが逆方向に流れるときとでは、流れの抵抗に差が生じ、これによって流体ダイオードとして機能する。
【0039】
このように、上流側に対してオフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fは、少なくとも1段を設ければよいが、好ましくは図5に示すように2段以上設けるのが良い。その場合、全体としての流れがジグザグ状に蛇行するよう、互いに前後する第二の室110F、110Fにおいて、ノズル部110aの開口位置は、チャンバー部22、出口側チャンネル24の中心軸線に対して一方の側と他方の側の交互に開口するのが好ましい。
【0040】
[実施例1]
上記のような構成について、数値シミュレーションによる実験を行った。
ここで、上流側の第一の室100に対してオフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fは、1段だけ設けた。
第一の室100の長さは400μm、幅は100μm、第二の室110Fの長さは400μm、下流側の幅は100μm、ノズル部110aの開口の幅は10μmとした。また、第二の室110Fのノズル部110aのオフセット寸法は25μmとした。
【0041】
このような条件において、逆方向と順方向のそれぞれにおいて、雰囲気温度を300K、流体として圧縮性流体である窒素を用い、二次元(図6の紙面に沿った面内。紙面に直交する方向については第二の室110F,100、チャンバー部22、出口側チャンネル24の深さを無限大とする。)、下流側と上流側の差圧を0.02MPaとし、これらの条件において、「有限要素法」を用いたシミュレーションにより、初期の過渡状態の後の状態(以下定常状態と呼ぶ)での質量流量の時間的変化、流速分布を調べた(質量流量の算出においては20μmの奥行き(厚み)を仮定した。また、その平均値は150μ秒〜200μ秒の間の質量流量を用いて算出した。以降の質量流量とその平均値の算出も同様)。
その結果を図6に示す。
【0042】
図6(a)に示すように、逆方向と順方向とでは、差圧が0.02MPaのときに質量流量の平均値が3.03%異なり、順方向の方が流れの効率が良い。
【0043】
上記の条件における流れの様子を、流速分布により示す。
図6において、(b)は逆方向における流速分布、(c)は順方向における流速分布を示すものである。
図6(b)に示すように、差圧が0.02MPaであるときには、逆方向のときに、第二の室110Fのノズル部110aから出た流れは、上流側の第一の室100内において、ノズル部110aがオフセットしている側に偏って湾曲・蛇行するように流れている。一方、図6(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100からノズル部110aを通って第二の室110Fに流れ込んだガスは、第二の室110F内をほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。
【0044】
さらに、図7に示すように、上流側に対してオフセットした位置に開口するノズル部110aを備えた第二の室110Fを、2段を連続して設けた場合について上記と同様のシミュレーションを行った。2段の第二の室110Fの上流側には、第一の室100に対し、幅方向の中心に開口する第二の室110を設けた。
第一の室100、第二の室110、110Fのサイズは図6の場合と同様である。また、1段目と2段目の第二の室110Fにおいて、ノズル部110aのオフセット方向を異ならせ、そのオフセット寸法はそれぞれ25μmとした。
そして、雰囲気温度300K、流体として窒素を用い、二次元、下流側と上流側の差圧を0.05MPaとし、これらの条件において、「有限要素法」を用いたシミュレーションにより、定常状態での流れの様子を調べた。
【0045】
上記の条件における流れの様子を、流速分布により示す。
図7において、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向における流速分布、(c)は順方向における流速分布を示すものである。
図7(b)に示すように、逆方向のときに、第二の室110Fのノズル部110aから出た流れは、隣接する他の第二の室110F、110、第一の室100内において、ノズル部110aがオフセットしている側に偏って湾曲・蛇行するように流れている。一方、図7(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100から第二の室110、110Fに順次流れ込むガスは、それぞれの第二の室110、110F内をほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。
ここで、逆方向と順方向とでは、質量流量の平均値が20.16%異なり、順方向の方が流れの効率が良いことが確認された。
【0046】
[第二の実施の形態]
次に、本発明の第二の実施の形態について説明する。ここで、上記第一の実施の形態と異なるのは、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26の構成のみであるため、以下においては、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26のみの説明を行い、第一の実施の形態と共通する他の構成については説明を省略する。
図8に示すように、入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26は、少なくとも1段の第二の室110を備える。各第二の室110は、ガスの流れ方向(入口側チャンネル23から出口側チャンネル24に向かう方向)において、下流側から上流側に向けて断面積が漸次小さくなるテーパ形状とされている。そして、第二の室110のノズル部110aは、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に開口している。
【0047】
このような構成において、下流側から上流側に流体が流れるとき(以下、これを逆方向と称する)には、第二の室110のノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、下流側と上流側との差圧の大きさによって、以下のように流れが変化する。
下流側と上流側との差圧が小さいときには、ノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、その幅方向の中心を直線的に流れる。
下流側と上流側との差圧が大きくなると、ノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、その幅方向の一方の側の壁面に沿うように流れる。これは、ノズル部110aが、上流側に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100の幅方向の中心に開口していながらも、その両側の壁面の表面状態のばらつき、ガスの流れが完全に均一ではないこと等に起因し、コアンダ効果によって、一方の側の壁面に引き寄せられることによる。
下流側と上流側との差圧がさらに大きくなると、ノズル部110aから吹き出したガスは、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100において、渦や乱流が生じ、流れが大きく乱れる。
【0048】
一方、上記と逆の順方向の流れにおいては、第二の室110に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100から、ガスはノズル部110aを通って第二の室110に流れ込む。この場合、第二の室110に対しては、ノズル部110aは中心軸上に位置しているため、第二の室110内における流れは大きな乱れのないものとなる。その結果、ガスが逆方向に流れるときと順方向に流れるときとでは、上流側と下流側との差圧によっては、流れの抵抗に差が生じ、これによって流体ダイオードとして機能する。
このとき、上流側と下流側との差圧が大きくなれば、順方向の流れにおいても、第二の室110に隣接する他の第二の室110あるいは第一の室100から、ノズル部110aを通って第二の室110に流れ込んだガスの流れに乱れが生じる。流体ダイオードとして機能させるには、ガスが逆方向に流れるときと順方向に流れるときとの流れの抵抗に大きな差が生じているのが好ましい。したがって、上流側と下流側との差圧は、ある特定の範囲内に設定して用いるのが好ましい。ただし、第二の室110や、第二の室110の上流側の他の第二の室110あるいは第一の室100の各部寸法や、表面状態等の各種条件によって流れの抵抗は変わり得るため、差圧の範囲を条件に関わらず特定の範囲に一概に定義するのは困難であり、種々条件に応じ、シミュレーションや実験によって差圧の範囲を設定するのが好ましい。
【0049】
[実施例2]
上記のような構成について、数値シミュレーションによる実験を行った。
ここで、ノズル部110aを備えた第二の室110は、1段だけ設け、その上流側に、第一の室100を設けた。第二の室110のノズル部110aは、第一の室100の幅方向の中心に開口するよう形成した。
第二の室110の長さは400μm、下流側の幅は100μm、ノズル部110aの開口の幅は10μmとした。
【0050】
このような条件において、逆方向と順方向のそれぞれにおいて、雰囲気温度を300K、流体として圧縮性流体である窒素を用い、下流側と上流側の差圧を0.001MPa、0.02MPa、0.05MPaの3通りとし、これらの条件において、「有限要素法」を用いたシミュレーションにより、二次元面内における定常状態での質量流量の時間的変化、流速分布を調べた。
その結果を図9〜図11に示す。図9は、差圧0.001MPa、図10は、差圧0.02MPa、図11は差圧0.05MPaの場合の結果である。
【0051】
その結果、逆方向と順方向とでは、図9(a)に示すように、差圧が0.001MPaのときに質量流量の平均値が4.37%異なっており、図10(a)に示すように、差圧が0.02MPaのときには16.26%、図11(a)に示すように、差圧が0.05MPaのときには8.23%であり、いずれも順方向の方が質量流量の平均値が高い。これにより、流体ダイオードとして機能し得ることが確認された。
【0052】
上記の条件における流れの様子を、流速分布により示す。
図9〜図11において、(b)は逆方向における流速分布、(c)は順方向における流速分布を示すものである。
図9(b)、(c)に示すように、差圧が0.001MPaであるときには、逆方向、順方向いずれの場合も、ノズル部110aから出たガスは、そのまま、第一の室100、あるいは第二の室110の中央部を直線的に流れている。
図10(b)に示すように、差圧が0.02MPaであるときには、逆方向のときに、第二の室110のノズル部110aから出た流れは、上流側の第一の室100内において、一方の側に偏って湾曲・蛇行するように流れている。一方、図10(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100からノズル部110aを通って第二の室110に流れ込んだガスは、第二の室110内をほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。
図11(b)に示すように、差圧が0.05MPaであるときには、逆方向のときに、第二の室110のノズル部110aから出た流れは、上流側の第一の室100内において大きく乱れている。一方、図11(c)に示すように、順方向のときには、第一の室100からノズル部110aを通って第二の室110に流れ込んだガスは、第二の室110内の一方の側に偏ってほぼ直線状に流れている。この、逆方向と順方向の流れの違いにより、質量流量が異なっていると言える。しかし、図11(a)に示したように、質量流量が大きく上下動する結果、順方向と逆方向の平均値の差は、差圧が0.02MPaの場合よりも小さくなっている。
【0053】
0.001MPa〜0.055MPaの差圧において、さらに詳細に計算を行った時の差圧と質量流量の平均値の差(順方向を正とする)が図12である。図12の計算では、「中央部での直線的な流れ」から「偏って湾曲・蛇行する流れ」に遷移する差圧は0.002〜0.003MPaの間であり、「偏って湾曲・蛇行する流れ」から「上流側の第一の室100内において小さくではあるが質量流量が上下動する流れ」に遷移する差圧は0.032〜0.033MPaの間であり、「上流側の第一の室100内において小さくではあるが質量流量が上下動する流れ」から「質量流量が大きく上下動する流れ(逆方向の質量流量が順方向の質量流量よりも一時的に大きくなる場合が生じるような流れ)」 に遷移する差圧は0.041〜0.042MPaの間であった。
これにより上記条件に限って言えば、上流側と下流側の差圧は、0.002MPaより大きく0.042MPa未満とするのが好ましいと言える。
【0054】
なお、上記第二の実施の形態では、第二の室110を一段のみ設ける構成を例に示したが、もちろん、複数段に備える構成としてもよい。
【0055】
また、第一および第二の実施の形態において、各部の寸法、材質等は適宜変更して設定することが可能である。流体ダイオードとしての効率が高くなるよう、種々の条件に応じて適宜設定すればよい。
さらに、センサ10は、上記入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26以外の構成は、上記に挙げた構成以外に適宜変更することが可能である。
加えて、上記したような流体ダイオードとしての構成は、センサ10の入口側逆流防止部25、出口側逆流防止部26としてだけでなく、適宜他の用途にも用いることが可能である。取り扱う流体も、ガスに限らず、液体状態のものであってもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施の形態におけるセンサの構成を示す図である。
【図2】センサの断面図である。
【図3】ポンプの構成を示す図である。
【図4】入口側逆流防止部、出口側逆流防止部の構成の例を示す図である。
【図5】入口側逆流防止部、出口側逆流防止部の構成の他の例を示す図であり、第二の室を複数段設けた例である。
【図6】図4に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.02MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図7】図5に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.05MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図8】入口側逆流防止部、出口側逆流防止部の構成の他の例を示す図であり、第二の室のノズル部をオフセットさせず中心に設けた例である。
【図9】図8に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.001MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図10】図8に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.02MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図11】図8に示した構成におけるシミュレーション結果を示す図であり、差圧0.05MPaの場合における、(a)は質量流量の時間的変化、(b)は逆方向の流れにおける流速分布、(c)は順方向の流れにおける流速分布を示す図である。
【図12】0.001MPa〜0.055MPaの差圧において、差圧と質量流量の平均値の差について、詳細に計算を行った結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10…センサ(分子検出センサ)、20…ポンプ(濃縮ポンプ)、22…チャンバー部(チャンバー)、23…入口側チャンネル、24…出口側チャンネル、25…入口側逆流防止部(ダイオード部)、26…出口側逆流防止部(ダイオード部)、29…ヒータ(体積変化発生部)、30…吸着部、40…ガスクロマトグラフィ部(分子量分析部)、50…センサ部(分子認識部)、52…振動子、60…測定処理部(検出部)、70…制御部、80…基板、100…第一の室、110…第二の室、110F…第二の室、110a…ノズル部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から流体が導入される第一の室と、
前記第一の室の他端において、前記第一の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第一の室に連通し、前記ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、
を備えることを特徴とする流体ダイオード。
【請求項2】
前記第二の室の前記ノズル部は、前記第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流体ダイオード。
【請求項3】
前記第二の室の他端において、前記第二の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第二の室に連通し、前記ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の他の第二の室を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体ダイオード。
【請求項4】
前記第二の室の前記ノズル部は、前記第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設けられ、
前記他の第二の室の前記ノズル部は、前記第二の室の幅方向中心に対し、他方の側にオフセットして設けられていることを特徴とする請求項3に記載の流体ダイオード。
【請求項5】
前記第二の室の前記ノズル部は、前記第一の室の幅方向中心に設けられ、
前記第一の室側と前記第二の室側との圧力差が、予め定められた範囲内で用いられることを特徴とする請求項1に記載の流体ダイオード。
【請求項6】
前記流体の流れを、前記第一の室側から前記第二の室側に規制することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体ダイオード。
【請求項7】
前記流体はガスであり、前記流体はガス状態のまま搬送されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体ダイオード。
【請求項8】
固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、
前記導入口から前記チャンバー内に導入された前記流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、
前記チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、前記体積変化発生部により前記流体に体積変化が生じたとき、前記導入口側から前記吐出口側に向かう方向に前記流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、
前記ダイオード部は、
前記流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、
前記第一の室に対して前記流体の流れ方向下流側に設けられて、前記第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第一の室に連通し、前記ノズル部側から前記流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とするポンプ。
【請求項9】
前記体積変化発生部は、前記チャンバー内の前記流体に対し、加熱・冷却を繰り返すことで前記流体を膨張・収縮させることを特徴とする請求項8に記載のポンプ。
【請求項10】
外部から流体を吸い込み、前記流体を濃縮する濃縮ポンプと、
前記濃縮ポンプで濃縮された前記流体に含まれる分子を吸着する吸着部と、
前記吸着部で吸着した前記分子のうち特定種の前記分子の付着または吸着により振動特性が変化することで前記分子を認識する分子認識部と、
前記分子認識部における振動の変化を検出することで、前記分子を検出する検出部と、を備え、
前記濃縮ポンプは、
固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、
前記導入口から前記チャンバー内に導入された前記流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、
前記チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、前記体積変化発生部により前記流体に体積変化が生じたとき、前記導入口側から前記吐出口側に向かう方向に前記流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、
前記ダイオード部は、
前記流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、
前記第一の室に対して前記流体の流れ方向下流側に設けられて、前記第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第一の室に連通し、前記ノズル部側から前記流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする分子検出センサ。
【請求項11】
少なくとも前記濃縮ポンプ、前記吸着部、前記分子認識部が基板上に一体に形成されていることを特徴とする請求項10に記載の分子検出センサ。
【請求項1】
一端から流体が導入される第一の室と、
前記第一の室の他端において、前記第一の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第一の室に連通し、前記ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、
を備えることを特徴とする流体ダイオード。
【請求項2】
前記第二の室の前記ノズル部は、前記第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流体ダイオード。
【請求項3】
前記第二の室の他端において、前記第二の室の他端よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第二の室に連通し、前記ノズル部側の一端から他端に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の他の第二の室を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体ダイオード。
【請求項4】
前記第二の室の前記ノズル部は、前記第一の室の幅方向中心に対し、一方の側にオフセットして設けられ、
前記他の第二の室の前記ノズル部は、前記第二の室の幅方向中心に対し、他方の側にオフセットして設けられていることを特徴とする請求項3に記載の流体ダイオード。
【請求項5】
前記第二の室の前記ノズル部は、前記第一の室の幅方向中心に設けられ、
前記第一の室側と前記第二の室側との圧力差が、予め定められた範囲内で用いられることを特徴とする請求項1に記載の流体ダイオード。
【請求項6】
前記流体の流れを、前記第一の室側から前記第二の室側に規制することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体ダイオード。
【請求項7】
前記流体はガスであり、前記流体はガス状態のまま搬送されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体ダイオード。
【請求項8】
固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、
前記導入口から前記チャンバー内に導入された前記流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、
前記チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、前記体積変化発生部により前記流体に体積変化が生じたとき、前記導入口側から前記吐出口側に向かう方向に前記流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、
前記ダイオード部は、
前記流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、
前記第一の室に対して前記流体の流れ方向下流側に設けられて、前記第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第一の室に連通し、前記ノズル部側から前記流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とするポンプ。
【請求項9】
前記体積変化発生部は、前記チャンバー内の前記流体に対し、加熱・冷却を繰り返すことで前記流体を膨張・収縮させることを特徴とする請求項8に記載のポンプ。
【請求項10】
外部から流体を吸い込み、前記流体を濃縮する濃縮ポンプと、
前記濃縮ポンプで濃縮された前記流体に含まれる分子を吸着する吸着部と、
前記吸着部で吸着した前記分子のうち特定種の前記分子の付着または吸着により振動特性が変化することで前記分子を認識する分子認識部と、
前記分子認識部における振動の変化を検出することで、前記分子を検出する検出部と、を備え、
前記濃縮ポンプは、
固定状態で設けられ、流体の導入口と吐出口とを有したチャンバーと、
前記導入口から前記チャンバー内に導入された前記流体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、
前記チャンバーの上流側と下流側の少なくとも一方に設けられ、前記体積変化発生部により前記流体に体積変化が生じたとき、前記導入口側から前記吐出口側に向かう方向に前記流体の流れ方向を規制するダイオード部と、を備え、
前記ダイオード部は、
前記流体の流れ方向上流側に設けられた第一の室と、
前記第一の室に対して前記流体の流れ方向下流側に設けられて、前記第一の室よりも小さな断面積のノズル部を介して前記第一の室に連通し、前記ノズル部側から前記流体の流れ方向下流側に向けてその断面積が漸次拡大するテーパ状の第二の室と、を備えることを特徴とする分子検出センサ。
【請求項11】
少なくとも前記濃縮ポンプ、前記吸着部、前記分子認識部が基板上に一体に形成されていることを特徴とする請求項10に記載の分子検出センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図12】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図12】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−216141(P2009−216141A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58370(P2008−58370)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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