説明

流体ディスペンサ

流体ディスペンサであって、外側はネジ付きであって内側には貯蔵容器の内部に通じる開口(10)が形作られている、というネック部(11)を備えた流体用の貯蔵容器(1)と、貯蔵容器(1)のネック部(11)に取り付けられたディスペンサヘッド(2)と、を有し、ネック部(11)には少なくとも1山の螺旋状のネジ山(12)が形成されており、前記ディスペンサヘッド(2)は、ポンプまたは弁であるディスペンサ部材(3)と、ディスペンサ部材(3)を駆動するための押下部材(4)と、貯蔵容器(1)のネジ付きのネック部(11)およびディスペンサ部材の両方と係合する固定用部材(5,6)と、を有し、前記固定用部材(5,6)は、ネジ付きネック部(11)と係合状態となる変形可能で柔軟なスカート(51)と、スカート(51)の周囲に係合することで当該スカートをネジ付きネック部(11)に径方向に押しつける堅いフープ(6)とで成り、ネジ山(12)に押し付けられたスカート(51)は変形し、それによってスカートにネジ山跡(530)が形成されること、を特徴とする流体ディスペンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体ディスペンサに関する。本発明に関する流体ディスペンサは、外側にネジの付いたネック部を備えた流体貯蔵容器を有し、当該ネック部の内側には貯蔵容器内部に通じる開口が形作られている、というものである。本ディスペンサは更に、貯蔵容器のネック部に取り付けられるディスペンサヘッドを有し、当該ディスペンサヘッドは、ディスペンサ部材(ポンプや弁など)と、ディスペンサ部材を駆動するための押下部材と、貯蔵容器のネジ付きネック部およびディスペンサ部材の両方と係合する固定用部材と、を有する。こうしたディスペンサは、香水、化粧品、さらには薬剤の分野において多く用いられている。
【背景技術】
【0002】
通常、固定用部材は堅いスカートから成り、その内側には、貯蔵容器のネジ付きネック部と係合するネジが1山以上形成されている。ディスペンサヘッドを貯蔵容器上の所定位置に配置するには、ネジ付きスカートを有する固定用部材を貯蔵容器のネジ付きネック部にネジ締めするだけでよい。
こうしたネジ式の固定用部材に関する第1の問題は、固定用部材を貯蔵容器のネジ付きネック部に、適切な固さでネジ締めするのに必要なトルクの強さを求めることが、必ずしも簡単ではないという点にある。そして、ネジ式の固定用部材に関しては更に別の問題もあり、それは、ネジ締めの完了段階において、固定用部材のネジ付きスカートを必ずしもネック部の肩に当接させる必要がない、という点にある。より厳密に言えば、貯蔵容器のネック部は通常、貯蔵容器の本体の一部を形成する肩から突出しているが、外観に関する理由から、ネジ締めの完了段階において固定用部材の下側端部は貯蔵容器の肩に当接する、という構成にするのが効果的である。しかしながら、これは、肩の位置が、ネック部のネジ山から必ず同じ距離にあるわけではないことから、常に可能とは限らない。その結果、ネジ締めの完了段階において、しばしば、固定用部材のスカートの下側端部と貯蔵容器の肩との間に隙間が残ってしまう。これは外観が悪いだけでなく、ディスペンサヘッドが貯蔵容器に適正に取り付けられていないとユーザに誤解される事態を招く。そして最後に、ネジ式の固定用部材の取り付けには、制御された回転を生じさせる特別な取り付け用機械の使用が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2 809 711号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2 907 768号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題を解消することであり、そのために、ネジを外せることによって得られる効果を全て有する一方で、固くネジ締めしなければならないことによる問題が生じない、という固定用部材を有した流体ディスペンサを定義する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的の達成のために、本発明のディスペンサの固定用部材は、ネジ付きネック部と係合状態となる変形可能で柔軟なスカートと、スカートの周囲に係合することで当該スカートをネジ付きネック部に径方向に押しつける堅いフープとで成り、ネックのネジ山に押し付けられたスカートは変形し、それによってスカートにネジ山跡が形成されること、とする。
【発明の効果】
【0006】
こうした構成により、固定用部材のスカートは、径方向内向きの動きによってネジ付きネック部と係合する状態となる(軸方向に進む回転運動によってネジ付きスカートと係合する従来技術の場合とは異なる)。ネジ付きネック部に初めて取り付けられる前の段階でのスカートは、ネジ山跡(thread imprint)を全く有していない。ネジ山跡は、フープ(hoop:たが部材)から径方向の力が加えられている間に、変形可能で柔軟なスカートが塑性変形することで形成される。スカートの変形を瞬時に生じさせる必要はない。必ず言えるのは、変形可能で柔軟なスカートを構成する材料には、貯蔵容器のネック部のネジ山の周辺で塑性的なクリープ変形が生じ、それによって、使用に耐えるネジ山跡を備えた完成状態が実現される、ということである。
【0007】
また、本発明の別の効果的な構成として、スカートとネック部とが接触する範囲は、ネック部の周囲の半分を下回る。こうした構成にすれば、スカートとネック部との接触を局所的に限定または分散させることができ、それによって、ネジを外す際の摩擦力を小さくすることができる。スカートがネック部のネジ山と、その周囲全体にわたって接触していた場合、合理的な強さのトルク(すなわち、2本の手を使って得られる程度のトルク)では、実際問題として固定用部材のネジを外すことはできない。
【0008】
また、効果的な構成として、スカートの内側には、ネック部のネジ山によって変形させられる突出部が複数設けられていること、とする。この構成では、ネック部のネジ山との接触は、分散して配置された状態でネック部を囲む突出部(bead)においてのみ実現される。また、突出部は、細長い形状で、ネジ山と交差する方向に延びていること、とするのが好ましい。この場合、突出部は縦方向のスプライン(spline)または棒状部(bar)の形とすることもでき、これがネック部のネジ山によって変形または凹みをつけられることで、ネジ山跡が形成される。また、突出部はネジ山の両側に延びていること、としてもよい。そして最後に、一部の突出部にネジ山跡が1以上形成され、各々のネジ山跡は、底面壁と2つの対向する側面とから成ること、とする。突出部によって不連続なネジ山跡が得られ、これによって、ディスペンサヘッドのネジを容易に外すことが可能となる。
【0009】
当然のことながら、スカートは、ネック部のネジ山よりも容易に変形するプラスチック材で作られていること、とする必要がある。フープについては、スカートの材料より堅い材料(例えば金属)で作られている。
また、効果的な実施の形態として、スカートは、溝によって隔てられた可撓性タブを有すること、とする。この構成では、スカートをネック部の周囲に係合させるにあたって、固定用部材に対し特に強い力を加える必要はない。そして、実際的な実施の形態では、各々の可撓性タブが細長い突出部を少なくとも1つ備えていること、とすることもできる。当然のことながら、各々のタブに2以上の突出部を設けることも可能である。
【0010】
本発明の思想は、スカートおよびフープを利用した固定用部材によって、スカートをネジ付きネック部と、軸方向ではなく径方向に当接させる、というものである。スカートおよびフープを用いる固定用部材については、ネジの付いていないネック部に対して使用されることが知られており、その場合、スカートに牽引力(traction)を加えてネック部ガスケットを平たく圧迫する目的で使用される。本発明では、スカートに牽引力が加えられることはない。スカートは、径方向に押す力によって、ネジ付きネック部に押し付けられて変形する。
【0011】
つまり、本固定用部材は、径方向の動きによってネック部のネジ山と係合するが、その後は、緩めたり締めたりすることの可能な従来のネジ式固定用部材と同様の働きをする。これにより、本ディスペンサは、ネジを外して開けることができ、貯蔵容器とディスペンサヘッドとを分離してディスペンサを再充填したり再使用したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の流体ディスペンサを、連続して行われる取付け、取外し操作の第1のステップにおいて示す図である。
【図2】本発明の流体ディスペンサを、連続して行われる取付け、取外し操作の第2のステップにおいて示す図である。
【図3】本発明の流体ディスペンサを、連続して行われる取付け、取外し操作の第3のステップにおいて示す図である。
【図4】本発明の流体ディスペンサを、連続して行われる取付け、取外し操作の第4のステップにおいて示す図である。
【図5】本発明の流体ディスペンサを、連続して行われる取付け、取外し操作の第5のステップにおいて示す図である。
【図6】本発明の流体ディスペンサを、連続して行われる取付け、取外し操作の第6のステップにおいて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、非限定的な例としての本発明の実施の形態を示す添付図面を参照しながら、より詳細に説明する。
本発明の解説のために図示した流体ディスペンサは、2つの別個の部品または下位組立品(sub-assembly)、すなわち流体貯蔵容器1およびディスペンサヘッド2から成る。流体貯蔵容器1にディスペンサヘッド2を取り付けて両者を互いに係合させることでディスペンサが構成される。
【0014】
流体貯蔵容器1については、その一部だけを図示してある。すなわち、貯蔵容器のネック部11と肩14の一部のみを示す。ネック部11は、それ自体が貯蔵容器本体(図示せず)の一部を形成している肩14から、軸方向上向きに突き出している。ネック部11の内側には開口10が形作られており、貯蔵容器の内部は開口10によって外部と通じている。開口10は、ネック部11が有する環状の上端部13によって形作られている。ネック部11の外側には、螺旋状のネジ山12が、1以上の突出リブ(rib)が螺旋状に配置されて1山以上形成されている。ネジ山12は、ネック部11の周囲の全体または一部にわたって延びた形とすることができる。ネジ山12は切れ目のない形とすることもできるし、逆に分断された形とすることもできる。ネジ山12の目的は従来と同じく、回転運動を軸方向移動に結びつけることである。それは、ネジを締める/外す運動と言うことができる。貯蔵容器1を製造する材料は、変形しない堅いカラー(collar)を作ることが可能であれば、どんなものでもよい。具体的には、貯蔵容器は、ガラスまたは金属、さらには堅いプラスチック材で作ることができる。
【0015】
ディスペンサヘッド2は、基本的に3つの構成要素から成る。すなわち、ディスペンサ部材3(ポンプや弁とすることができる)と、ディスペンサ部材3に取り付けられて当該ディスペンサ部材3を駆動する押下部材4と、貯蔵容器のネジ付ネック部11およびディスペンサ部材3の両方と係合する固定用部材5、6と、である。以下、全図面を参照しながら、ディスペンサヘッド2の構造について述べる。
【0016】
ディスペンサ部材3は本体30を有し、当該本体30の一方の端部には、貯蔵容器から来る流体のための入口31が形作られている。また、本体30には、径方向外向きに突出した固定用カラー37が形成されている。ディスペンサ部材3は更に、本体30から上方に突出した駆動ロッド32を有し、当該駆動ロッド32は本体に対して軸方向の上下移動が可能である。戻しバネ33は、駆動ロッド32を本体の外に最大限延びた位置に付勢する。駆動ロッド32の内部には流路が形作られており、当該流路は、本体30内部で圧力が加えられた流体を通すものである。上記の設計は、香水や化粧品、さらには薬剤の分野におけるポンプや弁としては、完全に従来と同じである。ディスペンサ部材3の内部構造は本発明にとって重要ではないので、これ以上の詳しい説明はしない。
【0017】
押下部材4は、ディスペンサ部材3の駆動ロッド32の自由端に取り付けられている。駆動ロッド32から来る流体は、内部の流路を通り、押下部材に形成されたディスペンサ開口部42まで運ばれる。押下部材は更に受け面41を有し、ユーザは、1本または複数本の指を使って当該受け面41を押下することで、押下部材4を上下に軸方向移動させることができる。そうすることで、流体がディスペンサ開口42を介して投与される(定量が投与される形にもできるが、必須ではない)。やはり、上記の設計は流体ディスペンサとして完全に従来と同じものである。
【0018】
固定用部材は、2つの別個の構成要素、すなわち固定用のリング5と拘束用のフープ6とから成る。フープ6はリング5を囲む形に嵌められ、リング5の全体または一部を覆う。フープ6の目的の1つは、径方向内向きにリング5を変形させ、その変形状態を維持するよう拘束することである。
リング5はプラスチック材で作るのが効果的である。プラスチック材は変形可能かつ柔軟であるため、一部の領域が容易に変形可能でありながら他の領域はそれよりも堅い、という作りにすることが可能である。リング5の全体的な形は、ディスペンサの軸を中心にした実質的な円筒状となっている。リング5は、単一の部品として作るのが好ましいが、3つの部分に分けて、各々が別々の機能を果たす構成とすることもできる。
【0019】
そして、リングは、貯蔵容器のネジ付ネック部11と係合するスカート51を有する。図4、5に示す取り付け位置では、スカート51はネック部11を囲んで、ネジ山12の下まで延びている。スカート51は、その全周にわたって切れ目のない完全な円筒を形成する形とすることもできるが、図面に示すように、径方向に貫通した溝(貫通溝)(slot)54によって隔てられた可撓性タブ52が形成されている、という構成にするのが好ましい。これは、図1において明らかに見て取れる。タブ52の数は、3個から10個以上までの範囲とすることができる。図面において、スカート51には、6つの径方向の溝54によって隔てられた6つの可撓性タブ52が形成されている。溝54は、スカート51の高さ方向の全体にわたって延びる形とすることもできるし、一部にわたって延びる形とすることもできる。言い換えると、スカートは、切れ目のない形となった部分がある一方で、当該部分よりも低い位置にある他の部分には溝が設けられており、それによってタブが形成されている、という形にすることができる。
【0020】
ただし、図面におけるスカート51には、その高さ方向の全体にわたって溝が設けられている。スカート51に溝が設けられていることの結果として、タブ52は特に径方向に大きな柔軟性を示す。従って、自由に外向きおよび内向きに変形することができ、タブが損傷する危険もない。タブ(またはスカートの)の内壁は、完全に平坦なものとすることもできる。しかしながら、タブについては、逆に、径方向内向きに突出した突出部(bead)53を備えた形で作るのが好ましい。突出部53の位置は、タブ52の下側自由端の近くとする。突出部53は、薄く、軸方向に見て細長い形状とするのが好ましい。そうした場合、突出部53は、複数の個別の小さな垂直方向のスプラインまたは棒状部の形となる。突出部53の先端には斜角が付けてあり、それによって、貯蔵容器のネック部の所定位置にリングを配置することが容易になる。
【0021】
一例として、タブ1つにつき2つまたは3つの突出部を設けることができる。また、タブ1つにつき突出部も1つだけ設ける構成が考えられるが、その場合の突出部は、タブ幅の全体または一部にわたって延びる。図面では、タブ1つにつき突出部は2つで、タブは6つあるため、スカート51は合計で12の突出部を有する。突出部53のスカート51上の配置は、図2〜5に見られる通り、ネジ山12上に来るよう決められている。突出部53は、後述するように、ネック部11のネジ山12に押し付けられて塑性変形する。
【0022】
スカート51に加えて、リング5には更に、スカート51と位置を合わせて上方向に延びた、案内用の下位組立品であるブッシュ(bushing)55が形成されている。ブッシュ55の形は実質的に円筒形であり、その径は、後述するようにフープ6を受け止めるのに適した大きさとなっている。
リング5のうち、ブッシュ55とスカート51との連結箇所には、径方向内向き突き出した受けフランジ56が形成されている。受けフランジ56は、全周にわたって切れ目のない形とすることも、逆に分断された形とすることも可能で、ディスペンサ部材3の本体30が有するカラー37と係合し、当該カラー37をネック部11の上側端部13に押し付ける。両者の間にネックガスケット7を挟んでもよい。その場合は、フランジ56に力を加えてカラー37に押し付けることで、ネックガスケット7はネック部11の環状の上端部13に押し付けられて圧縮される。それによって、ディスペンサ部材3とネック部11との間に良好な密封状態が実現される。ネックガスケット7の圧縮状態は、ディスペンサヘッド取り付けの際に加えられる圧迫力のみによって実現される。スカート51の変形によって圧縮状態が実現される従来技術の固定用部材とは異なっている。
【0023】
拘束用のフープ6は、見た目を良くするために外から見える状態にすることができるが、これとは逆に、内部フープとして外から見えない状態にすることもできる。図面におけるフープ6は、外から見えてカバーの役割を果たすものであって、例えば金属製とすることができる。フープ6は全体的には円筒形で、内向きに延びた頂上縁部(rim)61を備えており、当該頂上縁部61はブッシュ55の頂上側の自由端に当接する。フープ6の内径は、リング5の外径と比べて等しいか、わずかに小さい。これにより、フープ6は、リング5を実質的に円筒形の形状に拘束して、その状態を保持する。
【0024】
ここからは、各図面を番号順に参照しながら、ネジ付きの貯蔵容器ネック部にディスペンサヘッドを取り付け、取り外す作業のサイクルを説明する。
図1では、ディスペンサヘッド2は未だネック部11と係合していない。従って、スカート51のタブ52は完全に円筒形の形で延びており、全く変形していない。フープ6は、リング5をブッシュ55の位置で囲んで予係合(pre-engaged)の状態になっている。これにより、リング5とフープ6は、分離できない単一のサブユニットを構成し、その状態に保たれる。さらに、ブッシュ55により、フープ6を保持して正確に軸方向に案内することができる。留意すべき点として、この段階でのフープ6の係合は、スカート51まで囲む状態にはなっていない。
【0025】
取り付け作業の第1のステップは、ネジ付きネック部11を囲む位置にスカート51を係合させる作業である。これを図2に示す。これにより、ディスペンサ部材3はネック部の開口10の内側に嵌った状態となる。そうして、カラー37の下に配置されたガスケット7は、ネック部11の上側端部13に接する状態になる。タブ52に形成された突出部53は、ネジ山12の位置にある。ここで留意すべき点として、タブ52は、突出部53とネジ山12との接触の結果として、わずかに外向きに変形している。突出部53は、ネジ山12に接しているが、この段階ではまだ変形していない。
【0026】
取り付け作業の第3のステップは、リング5を囲んだ状態のフープ6をさらに下げる作業である。これは、フープ6の内向き縁部61に力が加えられる形で実行される。この力によってネックガスケット7が平たく圧縮されることで、密封を実現することができる。そうして、図3に見られるように、スカート51を囲む形でのフープ6とスカート51との係合が開始される。さらに、突出部53はネジ山12に対して強く押し付けられることになる。リング5を囲む状態で係合するようフープ6を下げる(または嵌める)作業は、フープ6がリング5全体を囲む位置(図4参照)に達するまで続く。
【0027】
この状態は最終的な取り付け位置に当たり、この位置では、タブ52の突出部53はネジ山12との接触によって変形し、突出部53を構成する材料にネジ山跡530が形成されている。この最終的な取り付け位置では、内向き縁部61は、ブッシュ55の上側端部に当接している。最終的な取り付け位置については、フープ6の下側端部が貯蔵容器の肩に当接する状態になった時点で決まる、という構成にすることも可能である。そのためには、フープをわずかに長くするだけでよい。ネジ山12が螺旋状に延びているため、ネジ山跡530は、突出部53ごとに軸方向に見て異なる高さに形成されることになる。たとえば、図4では、右側部分のネジ山12の跡530は突出部53の下側端部の近くに形成されているのに対し、左側部分では、跡530は突出部53の上端あたりに形成されている。効果的な構成として、ネジ山はスカート51と、突出部53の位置でだけ接触する。従って、スカートとネック部との接触域は、全周の一部だけを占めることとなる。接触域の範囲はネック部の全周の半分未満とするのが好ましい。突出部53が12個だけスカートの周囲にそって分散配置されている本構成は、これに当てはまる。接触域が分断されていることで、スカートとネック部との間の摩擦力を大幅に小さくできるため、ディスペンサヘッドのネジは手動で外すことができる。
【0028】
これを図5に示す。同図においては、加えられるトルクを押下部材4の上方に示す曲がった矢印で表現してある。トルクは、リング5と締め付け接触の状態にあるフープ6に直接加えられる。フープとリングとの接触については、全周にわたっているのに加えてリングの高さ方向のほとんど全体にわたる、とするのが効果的である。こうした構成により、リングとフープとの間の摩擦は、突出部53とネジ山12との間の摩擦を大きく上回る。従って、ネジを外すことができる。
【0029】
ネジを外す操作が完了した段階で、ディスペンサは図6に示す状態となる。ここでは、突出部53にできたネジ山跡530がはっきりと見える。各々のネジ山跡530は、2つのネジ山跡側面532、533がネジ山跡底面壁531に隣接して対向している、という構成になっている。このことが示すのは、ネジ山跡530の形成にあたってタブ52に対する牽引力が生じていない、ということである。言い換えると、フープ6が発生させる径方向内向きの力は、突出部53がネジ山12と接触している間、軸方向成分を含む力に変換されることがない。よって、ネックガスケット7の圧縮が実現されるにあたっては、取り付けのための圧迫によって加えられる力で完全に制御されている。上記のようなネジ山跡530は、ネジ山12の両側に突出部53が延びる構成とするだけで得られる。そのため、突出部53が変形させられている間、カム効果(cam effect)も力方向変換効果(force-direction transformation effect)も存在しない。突出部53の変形は、材料の瞬間的または継続的な変化による(特にクリープによる)塑性変形である。プラスチック材が経時的にクリープして最終的な変形状態となる傾向があることは公知である。
【0030】
本発明では、クリープ現象を利用して効果を実現するが、その前提は、貯蔵容器が空の状態で、ディスペンサが取り付けられてからディスペンサヘッドのネジが外されるまでの間に、比較的長い時間が経過するということである。ディスペンサヘッドのネジを外しても、形成されたネジ山跡530はそのまま、ネジ山と相補的な状態で永続的に残る。突出部51を構成するプラスチック材は、長い時間をかけてクリープが生じているため、形状記憶によって再変形して元に戻ることはない。
【0031】
本発明によれば、ネジ締め操作を行わなくてもネジ付きネック部を備える貯蔵容器にディスペンサヘッドを固定することができる一方で、ネジを外して貯蔵容器をディスペンサヘッドと分離し、貯蔵容器を再充填することやディスペンサを再使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体ディスペンサであって、
外側はネジ付きであって内側には貯蔵容器の内部に通じる開口(10)が形作られている、というネック部(11)を備えた流体用の貯蔵容器(1)と、
貯蔵容器(1)のネック部(11)に取り付けられたディスペンサヘッド(2)と、を有し、
ネック部(11)には少なくとも1山の螺旋状のネジ山(12)が形成されており、
前記ディスペンサヘッド(2)は、ポンプまたは弁であるディスペンサ部材(3)と、ディスペンサ部材(3)を駆動するための押下部材(4)と、貯蔵容器(1)のネジ付きのネック部(11)およびディスペンサ部材の両方と係合する固定用部材(5,6)と、を有し、
前記固定用部材(5,6)は、
ネジ付きネック部(11)と係合状態となる変形可能で柔軟なスカート(51)と、スカート(51)の周囲に係合することで当該スカートをネジ付きネック部(11)に径方向に押しつける堅いフープ(6)とで成り、
ネジ山(12)に押し付けられたスカート(51)は変形し、それによってスカートにネジ山跡(530)が形成されること、
を特徴とする流体ディスペンサ。
【請求項2】
スカート(51)とネック部(11)とが接触する範囲は、ネック部の周囲の半分を下回ること、
を特徴とする請求項1に記載の流体ディスペンサ。
【請求項3】
スカート(51)の内側には、ネック部(11)のネジ山(12)によって変形させられる突出部(53)が複数設けられていること、
を特徴とする請求項1または2に記載の流体ディスペンサ。
【請求項4】
突出部(53)は、細長い形状で、ネジ山(12)と交差する方向に延びていること、
を特徴とする請求項3に記載の流体ディスペンサ。
【請求項5】
突出部(53)はネジ山(12)の両側に延びていること、
を特徴とする請求項3または4に記載の流体ディスペンサ。
【請求項6】
一部の突出部(53)にネジ山跡(530)が1以上形成され、各々のネジ山跡(530)は、底面壁(531)と2つの対向する側面(532,533)とから成ること、
を特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の流体ディスペンサ。
【請求項7】
スカート(51)は、ネック部のネジ山(12)よりも容易に変形するプラスチック材で作られていること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の流体ディスペンサ。
【請求項8】
スカート(51)は、溝(54)によって隔てられた可撓性タブ(52)を有すること、
を特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の流体ディスペンサ。
【請求項9】
各々の可撓性タブ(52)が細長い突出部(53)を少なくとも1つ備えていること、
を特徴とする請求項8に記載の流体ディスペンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−520717(P2011−520717A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510025(P2011−510025)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050908
【国際公開番号】WO2009/150351
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(502343252)バルワー エス.アー.エス. (144)
【Fターム(参考)】