説明

流体制御弁の弁体の送り機構およびそれを用いた流体制御弁

【課題】ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える流体制御弁の弁体の送り機構およびそれを用いた流体制御弁を提供する。
【解決手段】摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とを、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか一方の樹脂から構成するとともに、両基材の少なくとも一方の接触面を、基材を構成する樹脂とは異なる熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか他方の樹脂で被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電動弁、電磁弁などの流体制御弁において、ネジ送り機構のネジ部分、スライド機構のスライド摺動部分などの摺動部を有する弁体の送り機構およびそれを用いた流体制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体制御弁に使用する送りネジは、固体潤滑剤などを配合した金属製のものや、ボールネジなどの複雑な構造のものが使用されて来た。
【0003】
近年では、樹脂材料と配合剤の進歩により限定的な用途ではあるが、耐久性の向上やコストダウンの目的で、樹脂材料からなる送りネジを用いるものも見られるようになった。
【0004】
この傾向はさらに広がりをみせて、より過酷な使用条件や負荷の高い条件での使用も検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2010−43727号公報)では、電動弁において、ローター軸(雄ネジ)と、これに螺合する支持部材(雌ネジ)をともに合成樹脂で形成された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−43727号公報
【特許文献2】特開2003−239932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、合成樹脂製のネジ同士の構造のものは、使用条件が限定的であったり、制御上の工夫により使いこなすことが必要である。例えば、流体制御面では流れを完全に遮断することのない制御を行う(弁閉させない)などの特別な制御が必要であった。
【0008】
また、このような樹脂材料からなる送りネジを用いる場合、すなわち、雄ネジと雌ネジのどちらも合成樹脂を使用する場合、耐熱性、耐薬品性などを考慮して、例えば、熱可塑性樹脂であるPPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂を主体とした組成物によって構成することが多い。
【0009】
ところで、弁閉機能のない従来タイプの電動弁では、最小絞り時に弁体が弁座に接触しないので、ねじ部にばね荷重の負荷を受けることがない。
【0010】
これに対して、弁閉機能を有する電動弁では、弁閉する場合に、弁体が弁座に着座した状態でネジの噛み込みを防止するために、バネを用いた滑り機構を設ける必要があり、この際にネジ部に受ける荷重によって問題が生じるおそれがある。
【0011】
しかしながら、熱可塑性樹脂、例えば、PPS樹脂によって、雄ネジと雌ネジを作製した場合、ネジ摺動面にコンプレッサー潤滑用の冷凍機油が付着すると、静止摩擦力が上昇し動き出しの作動が悪くなるおそれがある。
【0012】
すなわち、このような雄ネジと雌ネジのどちらも、熱可塑性樹脂から構成する場合、ネジの摺動接触部に流体中に含まれる機械用の潤滑油が付着し、荷重を受けた状態で長期に作動せずに放置した場合、樹脂ネジの摺動面の動き出し作動抵抗が大きくなり、最悪の場合、モータの駆動トルクでは動かなくなる場合がある。
【0013】
このため、特許文献2(特開2003−239932号公報)では、樹脂製ナットを用いたすべりねじ装置について、PPS樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂からなる雌ネジと、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂からなる雄ネジという組合せが開示されている。
【0014】
しかしながら、このように雄ネジと雌ネジを、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のように性質の異なる樹脂から構成した場合には、例えば、熱膨張率などの物性が大幅に相違するので、雄ネジと雌ネジの摺動性は温度変化の影響を受け、その結果、ネジの噛み込みが生じて、ネジとして機能せず、弁の開閉動作が良好でなく、流体制御弁の機能を損なうことになっていた。
【0015】
本発明は、このような現状に鑑み、流体の潤滑油が付着しにくく、潤滑油の付着による作動抵抗が増えるリスクを半減できるとともに、使用温度範囲における温度変化に対して、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える流体制御弁の弁体の送り機構およびそれを用いた流体制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、
流体制御弁において、摺動部を有する弁体の送り機構であって、
前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか一方の樹脂から構成するとともに、
前記両基材の少なくとも一方の接触面を、基材を構成する樹脂とは異なる熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか他方の樹脂で被覆したことを特徴とする。
【0017】
このように、弁体の送り機構の摺動部、例えば、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分、スライド機構のスライド摺動部分などの摺動部の摺動面が、熱硬化性樹脂から構成されていることになる。
【0018】
従って、熱硬化性樹脂の部分は、流体の潤滑油が付着しにくいため、潤滑油の付着による作動抵抗が増えるリスクが半減することになり、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える流体制御弁を提供することができる。
【0019】
また、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか一方の樹脂から構成されているので、基材同士がほぼ同じ物性の樹脂から構成されることになり、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0020】
また、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを同一の樹脂から構成したことを特徴とする。
【0021】
このように構成することによって、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とが同一の樹脂から構成されているので、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0022】
また、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、前記前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを、熱可塑性樹脂から構成するとともに、
前記被覆樹脂を、熱硬化性樹脂から構成したことを特徴とする。
【0023】
このように構成することによって、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とが、熱可塑性樹脂から構成されているので、基材同士がほぼ同じ物性の樹脂から構成されることになり、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0024】
しかも、弁体の送り機構の摺動部、例えば、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分、スライド機構のスライド摺動部分などの摺動部の摺動面が、熱硬化性樹脂の被覆から構成されていることになる。
【0025】
従って、熱硬化性樹脂の部分は、流体の潤滑油が付着しにくいため、潤滑油の付着による作動抵抗が増えるリスクが半減することになり、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0026】
また、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、前記前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを、熱硬化性樹脂から構成するとともに、
前記被覆樹脂を、熱可塑性樹脂から構成したことを特徴とする。
【0027】
このように構成することによって、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とが、熱硬化性樹脂から構成されているので、基材同士がほぼ同じ物性の樹脂から構成されることになり、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0028】
しかも、弁体の送り機構の摺動部、例えば、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分、スライド機構のスライド摺動部分などの摺動部の摺動面が、熱硬化性樹脂の基材から構成されていることになる。
【0029】
従って、熱硬化性樹脂の部分は、流体の潤滑油が付着しにくいため、潤滑油の付着による作動抵抗が増えるリスクが半減することになり、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0030】
また、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、被覆樹脂に、潤滑剤、耐磨耗剤の少なくとも一方が配合されていることを特徴とする。
【0031】
このように、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粒子、変性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粒子などの潤滑剤が配合されていれば、作動抵抗が低下することになり、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0032】
また、例えば、カーボン粒子、グラファイト繊維、モリブデンなどの耐磨耗剤が配合されていれば、耐磨耗性が向上して、弁体の送り機構の摺動部が破損損傷することがなく、流体制御弁の寿命が大幅に向上する。
【0033】
また、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、前記摺動部が、ネジ部分であることを特徴とする。
【0034】
このように構成することによって、例えば、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分のネジ送りが確実に行え、弁の開閉動作が確実に行える。
【0035】
また、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構は、前記摺動部が、スライド摺動部分であることを特徴とする。
【0036】
このように構成することによって、例えば、スライド弁のスライド機構のスライド摺動部分の摺動動作が確実に行え、弁の開閉動作が確実に行える。
【0037】
また、本発明は、前述のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構を備えた流体制御弁である。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、弁体の送り機構の摺動部、例えば、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分、スライド機構のスライド摺動部分などの摺動部の摺動面が、熱硬化性樹脂から構成されていることになる。
【0039】
従って、熱硬化性樹脂の部分は、流体の潤滑油が付着しにくいため、潤滑油の付着による作動抵抗が増えるリスクが半減することになり、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える流体制御弁を提供することができる。
【0040】
また、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか一方の樹脂から構成されているので、基材同士がほぼ同じ物性の樹脂から構成されることになり、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【0041】
また、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材とが同一の樹脂から構成されているので、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構を適用した流体制御弁の実施例であり、弁開状態を示す縦断面図である。
【図2】図2は、図1の流体制御弁の開閉動作途中の状態を示す縦断面図である。
【図3】図3は、図1の流体制御弁の弁閉状態を示す縦断面図である。
【図4】図4は、図1の送りネジ機構を説明する概略図である。
【図5】図5は、図1の送りネジ機構を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構を適用した流体制御弁の実施例であり、弁開状態を示す縦断面図、図2は、図1の流体制御弁の開閉動作途中の状態を示す縦断面図、図3は、図1の流体制御弁の弁閉状態を示す縦断面図、図4〜図5は、図1の送りネジ機構を説明する概略図である。
【0045】
図1〜図3において、符号10は、全体で本発明の弁体の送り機構を適用した流体制御弁を示している。
【0046】
図1〜図2に示したように、流体制御弁10は、弁本体(下部ケース)12を備えており、弁本体12には、流体の出入り口である第1の継手14と第2の継手16が装着されている。
【0047】
また、弁本体12の内部には、第1の継手14側に、弁座部材18が嵌着されており、この弁座部材18には、中央に弁ポート20が形成されている。
【0048】
また、弁本体12の内部には、弁室22が形成されており、この弁室22内に、支持部材24の下方部26が挿入され、支持部材24の下方部26に形成された嵌合部28を、弁座部材18に嵌合することによって固定されている。
【0049】
また、この支持部材24の下方部26は、略円筒形状であり、その内部に弁室30が形成されるとともに、その側部にポート32が形成されている。そして、支持部材24の下方部26の上部には、弁本体12に嵌合するためのフランジ部34が形成されており、これにより、支持部材24が弁本体12に固定されている。
【0050】
さらに、支持部材24の上方部36は、略円筒形状であり、その下方部分の内壁には、雌ネジ38が形成されている。また、支持部材24の上方部36の下方の側部には、均圧孔31が形成されている。
【0051】
また、支持部材24の上方部36の上端部には、弁閉時ストッパー40と、フランジ状の弁開時ストッパー42が形成されている。
【0052】
この支持部材24は、弁本体12の上部で、固定金具44によって、弁本体12に固定されている。
【0053】
さらに、支持部材24の内部には、弁軸支持部材であるローター軸46が挿着され、ローター軸46の下方部48の外周に形成された雄ネジ50が、支持部材24の上方部36の内壁に形成された雌ネジ38に噛合するように装着されている。
【0054】
また、ローター軸46の下方部48には、その内部に弁軸52が挿通されており、弁軸52は、支持部材24のフランジ部34の内部から、支持部材24の下方部26の弁室30内に至るように下方に延びており、その先端部に円錐形状の弁体54が形成されている。
【0055】
さらに、ローター軸46の上方部56は、その外周にマグネット部材58が装着されており、マグネット部材58の下端部60が、支持部材24の上方部36の上端部に形成されたフランジ状の弁開時ストッパー42まで延設されている。そして、マグネット部材58の下端部60に形成されたフランジ状の弁開時ストッパー62が、支持部材24の弁開時ストッパー42の下方に位置するようになっている。
【0056】
一方、ローター軸46の上方部56は、略円筒形状であり、その内部に、弁軸52の上端に形成された拡径部64が位置しており、抜け落ち防止の機能をするようになっている。
【0057】
さらに、この拡径部64の上部に当接するように、バネ受け部材65が設けられており、このバネ受け部材65の先端の小径部65aが、コイルバネ66の下端部内に挿着されている。
【0058】
そして、コイルバネ66の下端部が、バネ受け部材65の基端部の拡径部65bに当接した状態で、ローター軸46の上方部56内に、圧縮状態でコイルバネ66が、バネ受け金具68によって装着されている。
【0059】
このバネ受け部材65を介して、コイルバネ66の付勢力が弁軸52に伝えられるようになっている。
【0060】
なお、このバネ受け部材65の機能は、弁体54が、弁座部材18に着座した状態で、マグネット部材58をさらに回転させた時に、マグネット部材58と共に回転するコイルバネ66と、弁座部材18に着座することで回転できない弁軸52との間に、摺動性の良い部材を介在させ、作動性を良くするためのものである。
【0061】
また、マグネット部材58の中央部分70には、回転止め72が形成され、ローター軸46の上方部56の外周に形成された回転止め用フランジ74と当接するようになっている。さらに、ローター軸46の上方部56の外周には、フランジ形状の弁閉時ストッパー76が形成されている。
【0062】
また、弁本体12の上部には、有底筒状のケース78が、弁本体12に、ろう付などにより固着されており、ケース78内に、上記の支持部材24、ローター軸46、マグネット部材58が収容されるようになっている。
【0063】
そして、このケース78の外周に、ステーターコイル80が装着されている。
【0064】
このように構成される流体制御弁10は、以下のようにして作動される。
【0065】
先ず、図1に示した弁開状態では、ステーターコイル80に電流を流すことによって、マグネット部材58が回転して、マグネット部材58が上方に移動しており、弁開位置にある。
【0066】
この状態では、マグネット部材58とともに、ローター軸46が回転して、ローター軸46に形成された雄ネジ50が、支持部材24に形成された雌ネジ38に噛合して案内され、上方に移動している。
【0067】
これにより、ローター軸46内に挿着された弁軸52も上方に移動し、弁軸52の先端に形成された弁体54が、弁座部材18から離間しており、弁座部材18に形成された弁ポート20が開いた状態となっている。
【0068】
なお、この状態では、マグネット部材58の下端部60に形成されたランジ状の弁開時ストッパー62が、支持部材24の上方部36のフランジ状の弁開時ストッパー42と当接して、これ以上、マグネット部材58が上方に移動しないように構成されている。
【0069】
この状態から、弁閉状態とするには、ステーターコイル80に逆電流を流すことによって、マグネット部材58が回転して、マグネット部材58を下方に移動させる。
【0070】
すなわち、図2に示したように、マグネット部材58とともに、ローター軸46が回転して、ローター軸46に形成された雄ネジ50が、支持部材24に形成された雌ネジ38に噛合して案内され、下方に移動する。
【0071】
さらに、マグネット部材58が回転してマグネット部材58を下方に移動させることによって、図3に示したように、ローター軸46内に挿着された弁軸52も下方に移動し、弁軸52の先端に形成された弁体54が、弁座部材18に着座し、弁座部材18に形成された弁ポート20が閉じた状態となる。
【0072】
なお、この状態では、ローター軸46の上方部56に形成されたフランジ形状の弁閉時ストッパー76が、支持部材24の上方部36に形成された弁閉時ストッパー40と当接して、これ以上、マグネット部材58が下方に移動しないように構成されている。
【0073】
また、この状態では、コイルバネ66の付勢力によって、弁軸52が下方に付勢され、一定圧力で、弁体54が、弁座部材18の弁ポート20を弁閉するようになっている。
【0074】
ところで、この雄ネジ50が形成されたローター軸46と、雌ネジ38が形成された支持部材24を、耐久性の向上やコストダウンの目的で、樹脂材料から構成する場合、熱可塑性樹脂、例えば、PPS樹脂によって、雄ネジと雌ネジを作製した場合、ネジ摺動面にコンプレッサー潤滑用の冷凍機油が付着すると、静止摩擦力が上昇し動き出しの作動が悪くなるおそれがある。
【0075】
すなわち、このような雄ネジと雌ネジのどちらも、熱可塑性樹脂から構成する場合、ネジの摺動接触部に流体中に含まれる機械用の潤滑油が付着し、荷重を受けた状態で長期に作動せずに放置した場合、樹脂ネジの摺動面の動き出し作動抵抗が大きくなり、最悪の場合、モータの駆動トルクでは動かなくなる場合がある。
【0076】
このため、特許文献2(特開2003−239932号公報)では、樹脂製ナットを用いたすべりねじ装置について、PPS樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂からなる雌ネジと、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂からなる雄ネジという組合せが開示されている。
【0077】
しかしながら、このように雄ネジと雌ネジを、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のように性質の異なる樹脂から構成した場合には、例えば、熱膨張率などの物性が大幅に相違するので、雄ネジと雌ネジの摺動性は温度変化の影響を受け、その結果、ネジの噛み込みが生じて、ネジとして機能せず、弁の開閉動作が良好でなく、流体制御弁の機能を損なうことになっていた。
【0078】
このため、本発明の流体制御弁の弁体の送り機構を適用した流体制御弁10では、図4の部分拡大図に示したように、雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aと、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24aを、いずれも熱可塑性樹脂から構成している。
【0079】
また、図4(A)で示したように、雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aの表面に、熱硬化性樹脂で被覆した熱硬化性樹脂被覆層46bを形成している。
【0080】
この場合、熱硬化性樹脂被覆層46bは、ローター軸46の少なくとも雄ネジ50が形成された基材46aの表面に形成すれば良く、ローター軸46の全面に形成することも可能である。
【0081】
また、雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aと、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24aを構成する熱可塑性樹脂は、異なる熱可塑性樹脂から構成することも可能である。
【0082】
しかしながら、同一の熱可塑性樹脂から構成するのが、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行えるので好ましい。
【0083】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、
・ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂などの汎用樹脂、
・ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂などのエンジニアリング・プラスチック、
・ポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、変性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン (PEEK)樹脂、熱可塑性ポリイミドなどのスーパーエンジニアリングプラスチック 、
などが使用可能である。
【0084】
また、熱硬化性樹脂被覆層46bを形成する熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミドなどが使用可能である。
【0085】
この場合、ローター軸46の基材46aの表面に、熱硬化性樹脂で被覆した熱硬化性樹脂被覆層46bを形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、塗装、ハケ塗り、ディッピング、溶射など公知の方法が採用することができる。
【0086】
また、熱硬化性樹脂被覆層46bの膜厚としては、特に限定されるものではないが、摺動性などを考慮すれば、10〜50μm、好ましくは、10〜20μmとするのが望ましい。
【0087】
すなわち、熱硬化性樹脂被覆層46bの膜厚が、10μmを下回れば、使用により熱硬化性樹脂被覆層46bが摩耗損傷して、所期の目的が達成することができず、また、50μmを超えると、摺動性に影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0088】
また、図4(B)に示したように、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24aの表面に、熱硬化性樹脂で被覆した熱硬化性樹脂被覆層24bを形成することも可能である。
【0089】
この場合、熱硬化性樹脂被覆層24bは、上記のローター軸46の基材46aの表面に形成した熱硬化性樹脂被覆層46bと同様に形成することができる。
【0090】
さらに、図5の部分拡大図に示したように、雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aと、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24aを、いずれも熱硬化性樹脂から構成することも可能である。
【0091】
また、図5(A)で示したように、雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aの表面に、熱可塑性樹脂で被覆した熱可塑性樹脂被覆層46cを形成することもできる。
【0092】
この場合、熱可塑性樹脂被覆層46cは、ローター軸46の少なくとも雄ネジ50が形成された基材46aの表面に形成すれば良く、ローター軸46の全面に形成することも可能である。
【0093】
また、雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aと、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24aを構成する熱硬化性樹脂は、異なる熱硬化性樹脂から構成することも可能である。
【0094】
しかしながら、同一の熱硬化性樹脂から構成するのが、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジと雌ネジの摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行えるので好ましい。
【0095】
また、図5(B)に示したように、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24aの表面に、熱可塑性樹脂で被覆した熱可塑性樹脂被覆層24cを形成することも可能である。
【0096】
この場合、熱可塑性樹脂被覆層24cは、上記のローター軸46の基材46aの表面に形成した熱可塑性樹脂被覆層46cと同様に形成することができる。
【0097】
この場合、熱可塑性樹脂被覆層24c、熱可塑性樹脂被覆層46cの形成方法、膜厚としては、上記の熱硬化性樹脂被覆層24b、熱硬化性樹脂被覆層46bと同様な形成方法、膜厚とすることができる。
【0098】
このように、本発明によれば、弁体の送り機構の摺動部、例えば、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分の摺動部の摺動面(ローター軸46の雄ネジ50と、支持部材24の雌ネジ38のネジ摺動面)が、熱硬化性樹脂から構成されていることになる。
【0099】
従って、熱硬化性樹脂の部分は、流体の潤滑油が付着しにくいため、潤滑油の付着による作動抵抗が増えるリスクが半減することになり、ネジ送り機構として確実に機能し、また、スライド機構のスライド摺動部分の摺動性が低下することがなく、弁の開閉動作が確実に行える流体制御弁を提供することができる。
【0100】
また、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材(雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aと、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24a)とが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか一方の樹脂から構成されているので、基材同士(基材46aと基材24a)がほぼ同じ物性の樹脂から構成されることになり、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジ50と雌ネジ38の摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、弁の開閉動作が確実に行える。
【0101】
また、摺動部の一方の部材の基材と、摺動部の他方の部材の基材(雄ネジ50が形成されたローター軸46の基材46aと、雌ネジ38が形成された支持部材24の基材24a)とが同一の樹脂から構成されているので、熱膨張率の違いでネジが噛み込んだり、雄ネジ50と雌ネジ38の摺動性が、温度変化の影響を受けて低下することなく、ネジ送り機構として確実に機能し、弁の開閉動作が確実に行える。
【0102】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、上記実施例では、雌ネジと雄ネジからなるネジ送り機構のネジ部分を備えた電動式の流体制御弁10について説明したが、本発明は、何らこれに限定されるものではなく、例えば、スライド機構のスライド摺動部分を有するスライド式の流体制御弁、三方弁、四方弁などにも適用することも可能であるなど本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、例えば、電動弁、電磁弁などの流体制御弁において、ネジ送り機構のネジ部分、スライド機構のスライド摺動部分などの摺動部を有する弁体の送り機構およびそれを用いた流体制御弁に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
10 流体制御弁
12 弁本体
14 継手
16 継手
18 弁座部材
20 弁ポート
22 弁室
24 支持部材
24a 基材
24b 熱硬化性樹脂被覆層
24c 熱可塑性樹脂被覆層
26 下方部
28 嵌合部
30 弁室
31 均圧孔
32 ポート
34 フランジ部
36 上方部
38 雌ネジ
40 弁閉時ストッパー
42 弁開時ストッパー
44 固定金具
46 ローター軸
46a 基材
46b 熱硬化性樹脂被覆層
46c 熱可塑性樹脂被覆層
48 下方部
50 雄ネジ
52 弁軸
54 弁体
56 上方部
58 マグネット部材
60 下端部
62 弁開時ストッパー
64 拡径部
65 バネ受け部材
65a 小径部
65b 拡径部
66 コイルバネ
68 金具
70 中央部分
74 回転止め用フランジ
76 弁閉時ストッパー
78 ケース
80 ステーターコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体制御弁において、摺動部を有する弁体の送り機構であって、
前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか一方の樹脂から構成するとともに、
前記両基材の少なくとも一方の接触面を、基材を構成する樹脂とは異なる熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれか他方の樹脂で被覆したことを特徴とする流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項2】
前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを同一の樹脂から構成したことを特徴とする請求項1に記載の流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項3】
前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを、熱可塑性樹脂から構成するとともに、
前記被覆樹脂を、熱硬化性樹脂から構成したことを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項4】
前記摺動部の一方の部材の基材と、前記摺動部の他方の部材の基材とを、熱硬化性樹脂から構成するとともに、
前記被覆樹脂を、熱可塑性樹脂から構成したことを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項5】
前記被覆樹脂に、潤滑剤、耐磨耗剤の少なくとも一方が配合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項6】
前記摺動部が、ネジ部分であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項7】
前記摺動部が、スライド摺動部分であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の流体制御弁の弁体の送り機構を備えた流体制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40626(P2013−40626A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176000(P2011−176000)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】