説明

流体収容容器及び流体噴射装置

【課題】複雑な構成を用いることなく、流体収容容器の正立時には容器内部と外部との間で所定の流路内を流体が自由に流動でき、上記容器の非正立時には上記流動を防止する流体収容容器及び流体噴射装置を提案する。
【解決手段】本発明の流体収容容器は、流体を密閉状態で貯留する容器本体と、弾性体からなり容器本体の内部と外部との間で連通して設置される流路と、流路に接続された錘と、有し、流路は、容器本体の正立時に重力方向で延在し容器本体の非正立時に屈曲するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体収容容器及び流体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク等の流体を噴射口から記録媒体に噴射して情報の記録・印刷を行う流体噴射装置が知られている。そして、上記流体噴射装置には流体を貯留する流体収容容器が用いられている。
例えば、上記容器はインクの貯留に用いられているが、容器がインクを密閉状態で貯留しかつ容器が剛性体で形成されている場合は、容器から噴射口へインクを供給するにつれて容器内部が次第に負圧となり容器外部の流体が内部に流入する力が働くため、インクの供給が難しくなる。そこで、上記容器には、容器内部に外気を流入させて負圧を解消する通気口が必要となるのであるが、上記通気口は容器の非正立時(容器が流体噴射装置に装着される時の姿勢とは異なる姿勢にある場合をいう)にはインクの流出を防止する構成でなければならない。
【0003】
ここで、特許文献1には、容器内部と外部との間で連通する通気口が設けられた流体収容容器(インクカートリッジ)が開示されている。
特許文献1に開示されている流体収容容器は、インクが密閉状態で貯留される容器と、容器外部にインクを供給するインク供給口と、容器内部と外部との間で連通する通気口と、上記通気口に設けられた膜状を呈し弾性体からなる膜弁(逆止弁)と、を有する。
上記膜弁は、膜弁自体又はばね材等の弾性力を用いて通気口を塞ぐことで容器の非正立時におけるインクの流出を防止しつつ、容器内部が一定の負圧以下になれば自動的に外気を容器内部に流入させる構成となっている。
【特許文献1】特開2002−205414号公報(第4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、通気口を塞ぐために膜弁自体の弾性力のみを用いると容器と膜弁との密着が弱い場合があり、容器の非正立時にインクが通気口から流出するという問題があった。また、ばね材等を用いると構成が複雑になるという問題や、ばね材等の弾性力を強くしすぎるとインクの流出は防止できるものの負圧を解消するための外気流入も難しくなるため弾性力の調整に手間が掛かるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、複雑な構成を用いることなく、流体収容容器の正立時(容器が流体噴射装置に装着される時の姿勢にある場合をいう)には容器内部と外部との間で所定の流路内を流体が自由に流動でき、上記容器の非正立時には上記流動を防止する流体収容容器及び流体噴射装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の流体収容容器は、流体を密閉状態で貯留する容器本体と、弾性体からなり容器本体の内部と外部との間で連通して設置される流路と、流路に接続された錘と、有し、流路は、容器本体の正立時に重力方向で延在し容器本体の非正立時に屈曲するという構成を採用する。
【0007】
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、流体収容容器の正立時には流路は重力方向で延在しているため流路内を流体が自由に流動することができ、流体収容容器の非正立時には錘の重みによって流路が屈曲するため上記流動を止めることができる。
【0008】
また、本発明の流体収容容器における流路は、管状部材であるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、流体収容容器の正立時には管状部材に屈曲や幅方向での潰れ等が発生しないため管状部材の内部を流体が自由に流動することができ、流体収容容器の非正立時には管状部材は屈曲しその屈曲部において幅方向で潰されるため上記流動を止めることができる。
【0009】
また、本発明の流体収容容器における流路は、容器本体との接続部と錘との間に、容器本体の非正立時に屈曲する箇所を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、流体収容容器の非正立時に流路は上記屈曲する箇所において容易に屈曲するため流体の流動を素早く防止することができる。
【0010】
また、本発明の流体収容容器における錘は、流路の先端部に設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、流路の屈曲する箇所と錘との間隔が大きくなることから上記屈曲する箇所に対する錘による力のモーメントを大きくすることができ、流体収容容器の非正立時に流路を容易に屈曲することができる。
【0011】
また、本発明の流体収容容器における錘は、容器本体に貯留された流体内に没入しているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、流体収容容器の姿勢の変化時に錘が流体内を移動することで流体を攪拌することができる。
【0012】
また、本発明の流体収容容器における流路及び錘は、容器本体の内部に設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、容器本体の内部で流路が延在することで流路内を流体が自由に流動することができ、同じく容器本体の内部で流路が屈曲することで上記流動を止めることができる。
【0013】
また、本発明の流体収容容器における流路及び錘は、容器本体の外部に設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体収容容器では、容器本体の外部で流路が延在することで流路内を流体が自由に流動することができ、同じく容器本体の外部で流路が屈曲することで上記流動を止めることができる。
【0014】
また、本発明の流体噴射装置は、流体を貯留し流体噴射装置に着脱自在に設けられるカートリッジと、流体を噴射する噴射ヘッドと、カートリッジから噴射ヘッドまで流体を供給する供給部と、を有し、カートリッジは、前述の流体収容容器であるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体噴射装置では、カートリッジの正立時にはカートリッジに設けられた流路は重力方向で延在しているため流路内を流体が自由に流動することができ、カートリッジの非正立時には上記流動を止めることができる。
【0015】
また、本発明の流体噴射装置は、流体を噴射する噴射ヘッドと、噴射ヘッドから噴射された流体を含む廃棄流体を貯留し流体噴射装置に着脱自在に設けられる廃棄流体タンクと、廃棄流体を回収し廃棄流体タンクに排出する排出部と、を有し、廃棄流体タンクは、前述の流体収容容器であるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明の流体噴射装置では、廃棄流体タンクの正立時には廃棄流体タンクに設けられた流路は重力方向で延在しているため流路内を流体が自由に流動することができ、廃棄流体タンクの非正立時には上記流動を止めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態)
本実施形態の流体噴射装置の構成を、図1及び図2に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態における流体噴射装置の正面側の構成を示す斜視図である。
図2は、本発明の第1の実施形態における流体噴射装置の背面側の構成を示す斜視図である。
なお、記録紙の搬送方向に直交し水平面に沿った方向を主走査方向とし、記録紙の搬送方向を副走査方向として説明する。また、正立とは、後述するインクカートリッジ10又は廃液タンク50が流体噴射装置に装着される時の姿勢にあることをいい、非正立とは、上記正立と異なる姿勢にあることをいう。
【0017】
本実施形態における流体噴射装置は、記録媒体としてロール状に巻かれた大判サイズの記録紙(例えばJIS規格のA1判やB1判等)Pに、流体であるインクLを噴射することで情報を印刷するインクジェットプリンタ1である。
プリンタ1は、ロール紙PにインクLを噴射して印刷するプリンタ本体2と、移動用キャスターを有しプリンタ本体2をその下方から支持する脚部3とを備えている。脚部3は、プリンタ本体2に着脱自在に接続されている。
【0018】
プリンタ本体2は、ロール紙Pを保持し副走査方向で供給する給紙部4と、プリンタ本体2の内部に設けられロール紙Pを副走査方向で搬送する図示しないロール紙搬送部と、ロール紙Pをプリンタ本体2から排出する排紙部6と、ロール紙PにインクLを噴射して印刷する印刷部7と、印刷部7に対してインクLの正常な噴射特性を維持するためのメンテナンスを行うメンテナンス部8とを有している。
【0019】
給紙部4は、プリンタ本体2の上部かつ背面側に設けられ、ロール紙Pを主走査方向に延びる軸回りに回転自在に保持している。排紙部6は、プリンタ本体2の下部かつ前面側に設けられている。
【0020】
印刷部7は、インクLを貯留する複数のインクカートリッジ(流体収容容器)10と、インクLを噴射する噴射ヘッド21を保持するキャリッジ20と、カートリッジ10から噴射ヘッド21までインクLを供給するインクチューブ(供給部)30とを有している。
【0021】
複数のカートリッジ10は、各々が異なる色のインクLを密閉状態で貯留し、図1におけるプリンタ本体2の紙面右側端部にその前面側から着脱自在に設置されている。
キャリッジ20は、主走査方向で移動自在にプリンタ本体2の内部に設置され、その移動範囲は、図示しないロール紙搬送部によって搬送されるロール紙Pの上方からメンテナンス部8の後述するキャップ部40の上方までである。また、キャリッジ20は、キャリッジ20を主走査方向で移動させるキャリッジ駆動部25と接続されている。
噴射ヘッド21は、キャリッジ20の下部に保持され、異なる色のインクLを各々噴射する複数の噴射口23(図1及び図2では図示せず)を有している。噴射口23は、下方に向けて開口している。
インクチューブ30は、管状部材で形成され、カートリッジ10と噴射ヘッド21とを連結している。
【0022】
図2に示すように、メンテナンス部8は、プリンタ本体2の紙面左側端部に設けられており、噴射ヘッド21のメンテナンスを行うキャップ部(排出部)40と、噴射ヘッド21から噴射されたインクLを含む廃液を貯留する廃液タンク(流体収容容器、廃棄流体タンク)50と、キャップ部40から廃液を吸引し廃液タンク50まで排出する廃液吸引部(排出部)60(図1及び図2では図示せず)とを有している。
【0023】
キャップ部40は、キャリッジ駆動部25の下方かつロール紙Pの主走査方向での近傍に設置されている。
廃液タンク50は、図2においてプリンタ本体2の紙面左側側面から着脱自在に設置されている。
【0024】
次に、本実施形態の印刷部7の構成を、図3に基づいて説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態における印刷部の構成を示す概略図であり、(a)は、印刷部の全体概略図、(b)は、インクカートリッジにおける逆止弁の拡大図である。なお、図3(a)において、キャリッジ駆動部25の記載は省略している。
図3(a)に示すように、カートリッジ10及び噴射ヘッド21は、インクチューブ30を介して連結されている。
【0025】
カートリッジ10は、インクLを貯留するカートリッジ本体(容器本体)11と、カートリッジ本体11に貯留されたインクLをインクチューブ30に供給する供給ポンプ(供給部)12と、カートリッジ本体11内に設置され供給ポンプ12とインクチューブ30との間で連通する管状部材であるインク供給路13と、外気をカートリッジ本体11内に供給する通気口(接続部)14と、通気口14に接続された逆止弁15とを有している。
【0026】
カートリッジ本体11は、略直方体状を呈しており各面は硬質プラスチック等の板状部材により形成され、インクLを密閉状態で貯留できるように構成されている。
供給ポンプ12は、カートリッジ本体11内部の正立時における下方に、インクLに没入する状態で設置されている。
インク供給路13は、カートリッジ本体11の正立時における上面から供給ポンプ12まで上下方向で延在して設置されている。また、インク供給路13の供給ポンプ12と逆側の端部13Aは、インクチューブ30と接続している。
【0027】
通気口14は、カートリッジ本体11の正立時における上面に形成され、カートリッジ本体11の内部と外部との間で連通する孔部である。
図3(b)に示すように、逆止弁15は、内部に流路を有し一端が通気口14に接続された管状部材である管部(流路)16と、管部16の通気口14と逆側の端部(先端部)16Aに接続された錘17とを有しており、通気口14から管部16を介してカートリッジ本体11の内部に流体を導入可能に構成する。
【0028】
管部16は、シリコンゴム、フッ素ゴム及びブチルゴム等の弾性及び柔軟性を有する材料によって形成されており、カートリッジ本体11内部にその正立時において重力方向で延在するように通気口14に接続されている。また、管部16は、どのような方向にも屈曲できるように構成され、カートリッジ本体11の正立時に端部16Aに接続された錘17が最大充填量のインクLの液面より上方に位置する長さで形成されている。
【0029】
錘17は、金属材料等で形成されており、カートリッジ本体11の非正立時、例えば90度横向きに倒れた場合(図5(b)参照)に、錘17の重みによって管部16を屈曲させ屈曲部分が幅方向で潰されるに十分な重みを有している。また、錘17は、中心部を貫通し互いに相反する側に開口する孔部を有しており、管部16の内部流路と上記孔部が連通するように管部16の端部16Aに接続されている。
【0030】
図3(a)に示すように、噴射ヘッド21は、複数の噴射口23が形成された噴射面22を有している。噴射面22及び噴射口23は、共にロール紙搬送部によって搬送されたロール紙Pに対向している。
インクチューブ30は、内部に流路を有する管状部材であり、カートリッジ10におけるインク供給路13の端部13Aと噴射ヘッド21とを連結している。
【0031】
次に、本実施形態のメンテナンス部8の構成を、図4に基づいて説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態におけるメンテナンス部の構成を示す概略図である。
図4に示すように、キャップ部40及び廃液タンク50は、廃液吸引部60を介して連結されている。
【0032】
キャップ部40は、噴射ヘッド21の噴射面22に当接するキャップ本体41と、キャップ本体41に連結され噴射面22をワイピングするワイプ部材42と、キャップ部40を上下方向で昇降させる図示しないキャップ部昇降部とを有している。
【0033】
キャップ本体41は、板状部材により上面のない略直方体状に形成されており、各側面の上辺部には、噴射面22に沿う形状に形成されたエラストマー等の弾性体からなるシール部材41Aが接続されている。また、キャップ本体41は、その下面に厚さ方向で貫通する吸引口41Bを有している。
なお、キャップ本体41が噴射面22に当接した状態では、噴射面22とキャップ本体41との間に密閉された空間Kが形成される。
空間Kには、インクLを吸収するための多孔質部材で形成された吸収体43が設置されている。
【0034】
ワイプ部材42は、エラストマー等の弾性体からなり副走査方向で延在した略矩形板状に形成され、水平面に直交しその上辺が噴射面22に平行するようにキャップ本体41に連結されている。また、ワイプ部材42は、その上辺がキャップ本体41におけるシール部材41Aの設置位置よりも高い位置に設置されている。
【0035】
上記キャップ部昇降部により、キャップ部40は、キャップ本体41のみが噴射面22に当接する位置、ワイプ部材42のみが噴射面22に接触する位置及びキャップ本体41とワイプ部材42とが共に噴射面22に干渉しない位置に停止できる。
【0036】
廃液タンク50は、廃液を貯留する廃液タンク本体(容器本体)51と、廃液が廃液タンク本体51に流入する箇所である廃液流入口52と、廃液タンク本体51の内部に設けられ廃液を吸収する吸収体53と、廃液タンク本体51の内部の気体を外部に排出する通気口54と、通気口54に接続された逆止弁55とを有している。
【0037】
廃液タンク本体51は、略直方体状を呈しており各面は硬質プラスチック等の板状部材により形成され、廃液を密閉状態で貯留できるように構成されている。
廃液流入口52は、廃液タンク本体51の正立時における上面に形成され、廃液タンク本体51の内部と外部との間で連通する孔部である。
吸収体53は、略直方体状を呈する多孔質部材で形成されており、廃液タンク本体51内部の正立時における下方に設置されている。
【0038】
通気口54は、廃液タンク本体51の正立時における上面に形成され、廃液タンク本体51の内部と外部との間で連通する孔部である。
逆止弁55は、内部に流路を有する管状部材である管部(流路)56と、管部56の通気口54と逆側の端部(先端部)56Aに接続された錘57とを有する。なお、逆止弁55は、カートリッジ10における逆止弁15と同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0039】
廃液吸引部60は、空間K内のインクLを吸引するための吸引ポンプ61と、キャップ本体41の吸引口41Bと吸引ポンプ61とを連結する管状部材である第1チューブ62と、吸引ポンプ61と廃液タンク50の廃液流入口52とを連結する管状部材である第2チューブ63とを有している。
【0040】
続いて、プリンタ1の動作を説明する。
本実施形態のプリンタ1における動作の概要は、まず、プリンタ1に最大充填量のインクLが貯留されたカートリッジ10を取り付ける。次に、プリンタ1がロール紙PにインクLを噴射して印刷する印刷動作を行う。さらに、一定の条件が成立した場合に噴射ヘッド21に対してインクLの正常な噴射特性を維持するためのメンテナンス動作を行う。最後に、上記メンテナンスにより発生する廃液を貯留した廃液タンク50をプリンタ1から取り出す。
以下、各動作について説明する。
【0041】
まず、カートリッジ10をプリンタ1に取り付ける。
プリンタ1から既に取り付けられているカートリッジ10を取り出し、その代わりに最大充填量のインクLが貯留されているカートリッジ10をプリンタ1に取り付ける。
【0042】
ここで、カートリッジ10を単体で運搬したりプリンタ1に取り付ける過程で、カートリッジ10を非正立状態に傾ける場合がある。このような場合のカートリッジ10内のインクL及び逆止弁15の挙動を、図5に基づいて説明する。
図5は、インクカートリッジの正立状態及び非正立状態を示し、(a)は、カートリッジの正立状態を示す概略図、(b)は、カートリッジが90度横向きに倒れた状態を示す概略図、(c)は、(b)の状態における逆止弁の拡大図である。
【0043】
まず、カートリッジ10が正立した状態を説明する。
図5(a)に示すように、通気口14に接続されている逆止弁15の管部16は、錘17の重みにより下方に引かれ重力方向で延在している。そのため、管部16には屈曲している部分や幅方向でつぶれている部分は無く、外気が管部16及び錘17の孔部を通ってカートリッジ本体11の内部に流入できる状態となっている。
【0044】
次に、カートリッジ10が正立状態から90度横向きに倒れた場合のインクL及び逆止弁15の挙動を説明する。
図5(b)に示すように、カートリッジ10が横向きに倒れるとカートリッジ本体11内のインクLが移動し、その液面は通気口14及び逆止弁15が設置されている位置よりも上方に位置する。
もっとも、この時点では図5(c)に示すように、錘17が重力によって下方に引かれることにより管部16の端部16Aも下方に引かれ、管部16は、通気口14と錘17との間で屈曲する。この屈曲部において管部16は幅方向で潰された形状となるため、上記屈曲部における内部の流路は完全に閉じており、インクLが錘17及び管部16を通って通気口14からカートリッジ本体11の外部に流出することを防止することができる。
【0045】
なお、上記説明では、カートリッジ10には最大充填量のインクLが貯留されているが、逆止弁15における管部16を閉じる動作は錘17の重みによってもたらされるため、カートリッジ10内に少量のインクLが貯留されている場合でも、インクLの流出を防ぐ効果を同様に得ることができる。さらに、カートリッジ10がプリンタ1に取り付けられた状態で、カートリッジ10が非正立状態に傾いた場合でもインクLの流出を防ぐ効果を同様に得ることができる。
以上で、カートリッジ10のプリンタ1への取付は終了する。
【0046】
次に、プリンタ1がロール紙PにインクLを噴射して印刷する。
プリンタ本体2の給紙部4にはロール紙Pが取り付けられている。
また、カートリッジ10の供給ポンプ12がインクLを噴射ヘッド21まで供給する。そして、インクLが供給されるとカートリッジ本体11の内部は次第に負圧となり、カートリッジ本体11の外部から内部へ流体が流入する力が働く。ここで、カートリッジ10は正立しており前述の通り外気が通気口14及び逆止弁15を通ってカートリッジ本体11の内部に流入できる状態となっているため、外気がカートリッジ本体11内に流入する。結果として、上記負圧は解消され、インクLを安定して供給することができる。
【0047】
次に、ロール紙搬送部がロール紙Pを給紙部4から副走査方向で搬送しつつ、キャリッジ駆動部25の作動によりキャリッジ20が主走査方向で移動しながら噴射ヘッド21がインクLを噴射口23より噴射し、ロール紙Pに情報を印刷する。
印刷が全て終了すると、ロール紙Pは排紙部6から排紙される。
以上で、プリンタ1の印刷動作は終了する。
【0048】
次に、プリンタ1は噴射ヘッド21に対してメンテナンス動作を行う。
メンテナンス動作は、メンテナンスを行うための条件(例えば前回の印刷動作から所定の時間が経過した場合など)が成立した場合にのみ行う動作である。
【0049】
まず、キャリッジ駆動部25の作動によりキャリッジ20がキャップ部40の上部まで移動し、次いでキャップ部40が上昇することで噴射ヘッド21の噴射面22にキャップ本体41が当接する。
次に、噴射面22とキャップ本体41とにより形成された密閉空間K内の廃液を廃液吸引部60の吸引ポンプ61が吸引し、廃液タンク50に排出する。
【0050】
ここで、廃液タンク50は正立しており、通気口54に接続されている逆止弁55の管部56は、錘57の重みにより下方に引かれ重力方向で延在している。そのため、管部56には屈曲している部分や幅方向でつぶれている部分は無く、廃液タンク50の内部の気体が錘57の孔部及び管部56を通って外部に流出できる状態となっている。
この状態で廃液が廃液タンク50に排出されると、廃液タンク50の内部圧力は次第に外部よりも高くなり、廃液タンク50の内部から外部へ流体が流出する力が働くため、逆止弁55を通って内部の気体が外部に流出する。結果として、上記圧力は解消され、廃液を安定して廃液タンク50へ排出することができる。
【0051】
さらに、キャップ部40が、ワイプ部材42のみが噴射面22に接触できる位置に下降し、キャリッジ20が移動することで噴射面22のワイピング動作を行い、噴射面22に付着した廃液を除去する。
最後に、再びキャップ部40が上昇し噴射面22にキャップ本体41が当接し、形成された空間K内に噴射ヘッド21がインクLを短時間のみ噴射するフラッシング動作を行う。
以上で、プリンタ1のメンテナンス動作は終了する。
【0052】
最後に、上記メンテナンス動作により発生する廃液を貯留した廃液タンク50をプリンタ1から取り出す。
最大充填量の廃液が貯留された廃液タンク50をプリンタ1から取り出す。
【0053】
ここで、廃液タンク50をプリンタ1から取り出したり単体で運搬する過程で、廃液タンク50を非正立状態に傾ける場合がある。しかし、廃液タンク50には逆止弁55が設けられており、逆止弁55の働きにより廃液の流出を防止することができる。なお、廃液タンク50が正立状態から90度横向きに倒れた場合の廃液及び逆止弁55の挙動は、カートリッジ10におけるインクL及び逆止弁15の挙動と同様であるためその説明を省略する。
【0054】
また、上記説明では、廃液タンク50には最大充填量の廃液が貯留されているが、逆止弁55における管部56を閉じる動作は錘57の重みによってもたらされるため、廃液タンク50内に少量の廃液が貯留されている場合でも、廃液の流出を防ぐ効果を同様に得ることができる。さらに、廃液タンク50がプリンタ1に取り付けられた状態で、廃液タンク50が非正立状態に傾いた場合でも廃液の流出を防ぐ効果を同様に得ることができる。
以上で、廃液タンク50のプリンタ1からの取り外しは終了する。
以上で、プリンタ1の動作は終了する。
【0055】
したがって、第1の実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、カートリッジ10又は廃液タンク50の内部と外部との間で圧力差が生じた場合でも、通気口14、54及び逆止弁15、55を通って気体が流動するため、カートリッジ10からのインクLの供給又は廃液タンク50への廃液の排出が滞ることがないという効果がある。
また、本実施形態では、カートリッジ10又は廃液タンク50が非正立状態に傾いた場合には逆止弁15、55がその内部流路を閉じるため、カートリッジ10内のインクL又は廃液タンク50内の廃液の流出を防止することができるという効果がある。
また、本実施形態では、逆止弁15、55は、管部16、56及び錘17、57というそれぞれ2つの要素から構成され、その構造は簡単なものである。そのため、本実施形態では、逆止弁15、55の製作・調整の手間及びコストを減少することができるという効果がある。
【0056】
(第2実施形態)
本実施形態の流体噴射装置の構成を、図6に基づいて説明する。なお、本実施形態のインクカートリッジにおける逆止弁以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図6は、本発明の第2の実施形態におけるインクカートリッジの構成を示す概略図であり、(a)は、カートリッジの全体概略図、(b)は、カートリッジにおける逆止弁の拡大図、(c)は、カートリッジの非正立時における逆止弁の拡大図である。
また、図6において、図3及び図5に示す第1の実施形態におけるカートリッジ10の構成要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0057】
図6(a)及び(b)に示すように、逆止弁15は、内部に流路を有する管状部材である管部(流路)16と、管部16の通気口14と逆側の端部(先端部)16Aに接続された錘17とを有する。
【0058】
管部16は、端部16Aが最大充填量のインクLに没入するに足る長さで形成されている。また、図6(b)に示すように、管部16の通気口14側の端部近傍には幅方向でくびれさせた箇所である屈曲部(屈曲する箇所)16Bが形成されている。
錘17は、カートリッジ本体11の正立時において最大充填量のインクLに没入している。
【0059】
続いて、本実施形態におけるカートリッジ10の動作を説明する。なお、カートリッジ10の正立時における動作は、第1の実施形態と同一であるのでその説明を省略する。
【0060】
カートリッジ10の姿勢が変化した場合のインクL及び逆止弁15の挙動を説明する。
カートリッジ10の姿勢が変化すると、錘17は重力方向に引かれるため、図6(a)の仮想線で示すように、錘17はカートリッジ本体11内で移動する。したがって、錘17はカートリッジ本体11内のインクLを攪拌する。
また、図6(b)に示すように、屈曲部16Bで管部16は幅方向でくびれているため、屈曲部16Bで屈曲しやすくなっている。そして、カートリッジ10が例えば90度横向きに倒れた場合は、図6(c)に示すように、屈曲部16Bおいて屈曲し、管部16は幅方向で潰されることになる。したがって、管部16内の流体の流動を止めることができる。
【0061】
したがって、第2の実施形態によれば第1の実施形態によって得られる効果に加え、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、管部16は屈曲部16Bを有しているため、カートリッジ10の姿勢が非正立状態に変化した場合にインクLの通気口14、管部16及び錘17からの流出を素早く止めることができるという効果がある。
また、本実施形態では、錘17がインクL内に没入しているため、カートリッジ10の姿勢が変化したときに錘17がインクLを攪拌することができるという効果がある。
【0062】
なお、前述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲においてプロセス条件や設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、キャリッジ20は主走査方向で水平移動可能であるが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、複数のキャリッジ20及び噴射ヘッド21が主走査方向で並んで設けられた構成を持ついわゆるライン型プリンタであってもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、逆止弁15、55は、管部16、56が屈曲することで内部の流路を閉じていたが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、錘17、57がその重みにより直接に管部16、56の内部流路を潰すことで流路を閉じる構成であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、逆止弁15又は55は、カートリッジ本体11又は廃液タンク本体51の内部に設けられていたが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、カートリッジ本体11又は廃液タンク本体51の外部に設けられる構成であってもよい。
【0066】
また、上記第2の実施形態では、錘17がインクLに没入している構成を採用しているが、その変形例として図7に示すような構成を採用してもよい。
まず、図7(a)は、第2の実施形態における逆止弁の変形例Aを示す概略図である。この構成では、管部16における屈曲部16Bの錘17側近傍に管部通気口16Cを有し、錘17は孔部を有しない。この構成では、管部通気口16Cが、正立時におけるインクLの液面よりも高い位置にあるため、管部16内にインクLが流入することを防ぐことができる。
次に、図7(b)は、第2の実施形態における逆止弁の変形例Bを示す概略図である。この構成では、錘17が一方向で延在する形状を呈している。
なお、第2の実施形態は廃液タンク50に適用してもよい。
【0067】
また、上記第2の実施形態では、屈曲部16Bは幅方向でくびれた形状となっているが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、屈曲部16Bにおける管部16の部材厚みを薄くすることで屈曲し易くする構成でもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、流体噴射装置がインクジェットプリンタ1である場合を例にして説明したが、インクジェットプリンタに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、流体噴射装置がインク等の流体(液状体)を噴射する流体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、流体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0070】
また、上記実施形態では、インクジェット式のプリンタと、インクカートリッジが採用されているが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置と、その液体を収容した液体容器を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。
【0071】
また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であれ良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。
【0072】
また、液体の代表的な例としては上記実施形態の形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用しても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置および液体容器に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるインクジェットプリンタの正面側の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるインクジェットプリンタの背面側の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における印刷部の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の第1の実施形態におけるメンテナンス部の構成を示す概略図である。
【図5】インクカートリッジの正立状態及び非正立状態を示す概略図である。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるインクカートリッジの構成を示す概略図である。
【図7】本発明の第2の実施形態における逆止弁の構成の変形例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1…インクジェットプリンタ(流体噴射装置)、10…インクカートリッジ、11…カートリッジ本体(容器本体)、12…供給ポンプ(供給部)、14、54…通気口(接続部)、16、56…管部(流路)、16A、56A…先端部、16B…屈曲部(屈曲する箇所)、17、57…錘、21…噴射ヘッド、30…インクチューブ(供給部)、40…キャップ部(排出部)、50…廃液タンク(廃棄流体タンク)、51…廃液タンク本体(容器本体)、60…廃液吸引部(排出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体噴射装置に着脱可能に構成され、流体を貯留する容器本体と、
弾性体からなり前記容器本体の内部を外部と連通する流路と、
前記流路に錘と、を有し、
前記流路は、前記容器本体の正立時に重力方向で延在し前記容器本体の非正立時に屈曲することを特徴とする流体収容容器。
【請求項2】
前記流路は、管状部材であることを特徴とする請求項1に記載の流体収容容器。
【請求項3】
前記流路は、前記容器本体との接続部と前記錘との間に、前記容器本体の非正立時に屈曲する箇所を有することを特徴とする請求項1または2に記載の流体収容容器。
【請求項4】
前記錘は、前記流路の先端部に設けられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の流体収容容器。
【請求項5】
前記錘は、前記容器本体に貯留された流体内に没入していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の流体収容容器。
【請求項6】
前記流路及び前記錘は、前記容器本体の内部に設けられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の流体収容容器。
【請求項7】
前記流路及び前記錘は、前記容器本体の外部に設けられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の流体収容容器。
【請求項8】
流体を噴射する流体噴射装置であって、
流体を貯留し前記流体噴射装置に着脱自在に設けられるカートリッジと、
流体を噴射する噴射ヘッドと、
前記カートリッジから前記噴射ヘッドまで流体を供給する供給部と、を有し、
前記カートリッジは、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の流体収容容器であることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項9】
流体を噴射する流体噴射装置であって、
流体を噴射する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッドから噴射された流体を含む廃棄流体を貯留し前記流体噴射装置に着脱自在に設けられる廃棄流体タンクと、
前記廃棄流体を回収し前記廃棄流体タンクに排出する排出部と、を有し、
前記廃棄流体タンクは、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の流体収容容器であることを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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