説明

流体噴射装置、及び、流体噴射方法

【課題】流体の噴射特性を安定させることを目的とする。
【解決手段】駆動信号によって媒体に流体を噴射するヘッドと、前記ヘッドと前記媒体とを所定方向に相対移動させる移動機構と、前記ヘッドと前記媒体との前記所定方向への相対移動速度に応じた周期の中に複数の駆動波形を発生する前記駆動信号であって、前記複数の駆動波形を前記周期ごとに繰り返し発生する前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記ヘッドと前記媒体とを前記所定方向に相対移動させながら前記ヘッドから流体を噴射させる制御部であって、前記周期の中で発生する前記複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる制御部と、を有する流体噴射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置、及び、流体噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動波形を印加することによって、所定方向に移動するヘッドからインク滴(流体)を噴射するプリンターが知られている。このようなプリンターでは、ヘッドから噴射されたインク滴は、インク滴の噴射位置よりもヘッドの移動する側に着弾する。そのため、用紙上の目標着弾位置にヘッドが到達するよりも早いタイミングで、ヘッドからインク滴を噴射する必要がある。
ヘッドの移動速度が所定の速度であれば、用紙上の目標着弾位置に対してインク滴を噴射するタイミングを同じにすることができる。ただし、ヘッドの移動開始時に所定の速度に達するまで徐々に加速する期間と、ヘッドの停止時に所定の速度から徐々に減速する期間では、ヘッドの移動速度は所定の速度よりも遅く、インク滴の噴射タイミングを同じにすると、インク滴の着弾位置がずれてしまう。
そこで、ヘッドの加速時および減速時(以下、加減速時)には、インク滴の噴射タイミングを遅らせる方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。そのために、ヘッドの移動速度に応じて、駆動波形の発生タイミングを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−266652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにヘッドの移動速度に応じて駆動波形の発生タイミングを調整すると、ヘッドの移動速度に応じて駆動波形の周波数が異なることになる。駆動波形の周波数が異なると、インク滴の噴射特性、例えば、インク噴射量などが変動する。そのため、ヘッドの移動速度に応じてインク滴の噴射タイミングを調整するだけでは、例えば、異なる大きさのドットが形成されてしまい、画質が劣化してしまう。
そこで、本発明は流体の噴射特性を安定させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する為の主たる発明は、(1)駆動信号によって媒体に流体を噴射するヘッドと、(2)前記ヘッドと前記媒体とを所定方向に相対移動させる移動機構と、(3)前記ヘッドと前記媒体との前記所定方向への相対移動速度に応じた周期の中に複数の駆動波形を発生する前記駆動信号であって、前記複数の駆動波形を前記周期ごとに繰り返し発生する前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、(4)前記ヘッドと前記媒体とを前記所定方向に相対移動させながら前記ヘッドから流体を噴射させる制御部であって、前記周期の中で発生する前記複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる制御部と、(5)を有することを特徴とする流体噴射装置である。
本発明の他の特徴は、本明細書、及び添付図面の記載により、明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1Aはプリンターの全体構成ブロック図であり、図1Bはプリンターの斜視図の一部である。
【図2】ヘッドの断面図である。
【図3】駆動信号生成回路を示す図である。
【図4】ヘッド制御部を示す図である。
【図5】図5Aは駆動信号を示す図であり、図5Bは駆動波形を示す図である。
【図6】駆動波形の各要素とメニスカスの動きの関係を示す図である。
【図7】図7Aは移動するヘッドからインク滴が噴射される様子を示す図であり、図7Bはヘッドの移動速度の変化を示す図であり、図7Cは定速領域の駆動信号と加減速領域の駆動信号の違いを示す図である。
【図8】最後の駆動波形と最初の駆動波形との間隔が設計値と異なる場合を示す図である。
【図9】駆動波形の周波数とインク噴射量の関係を示す図である。
【図10】図10Aから図10Cは最後の駆動波形を補正する様子を示す図である。
【図11】ヘッド速度に対する第2ホールド時間の補正値を示すテーブルである。
【図12】図12Aは最後の駆動波形だけを補正した駆動信号を示す図であり、図12Bは全ての駆動波形を補正した駆動信号を示す図である。
【図13】図13Aはスリット番号と加減速領域の関係を示す図であり、図13Bは移動速度とスリット番号との関係を示す図であり、図13Cはスリット番号に対して補正値が設定された補正値テーブルを示す図である。
【図14】スリット番号に対して補正値が設定された補正値テーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
===開示の概要===
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかとなる。
【0008】
即ち、(1)駆動信号によって媒体に流体を噴射するヘッドと、(2)前記ヘッドと前記媒体とを所定方向に相対移動させる移動機構と、(3)前記ヘッドと前記媒体との前記所定方向への相対移動速度に応じた周期の中に複数の駆動波形を発生する前記駆動信号であって、前記複数の駆動波形を前記周期ごとに繰り返し発生する前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、(4)前記ヘッドと前記媒体とを前記所定方向に相対移動させながら前記ヘッドから流体を噴射させる制御部であって、前記周期の中で発生する前記複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる制御部と、(5)を有することを特徴とする流体噴射装置を実現すること。
このような流体噴射装置によれば、相対移動速度が変化し、駆動波形の周波数が変化したとしても、流体噴射特性を安定させることが出来る。また、周期の中の最後の駆動波形を補正することで補正処理が容易となる。
【0009】
かかる流体噴射装置であって、前記ヘッドが有するノズルに対応する駆動素子に前記駆動波形が印加されることによって前記駆動素子は駆動し、前記駆動素子の駆動によって、その前記駆動素子に対応する前記ノズルに連通する圧力室が膨張、収縮し、前記ノズルから流体が噴射され、前記駆動波形は、前記圧力室を膨張させる膨張要素と、膨張した前記圧力室を収縮させる収縮要素と、前記圧力室内に生じる残留振動を抑制するための制振要素と、を含み、前記制御部は、前記最後の駆動波形の前記制振要素が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させること。
このような流体噴射装置によれば、周期の最後の駆動波形による流体噴射特性に影響を及ぼさずに、次の周期の流体の噴射特性を安定させることが出来る。
【0010】
かかる流体噴射装置であって、前記最後の駆動波形を前記相対移動速度に基づいて補正するための補正値を記憶する記憶部を有し、第1の相対移動速度から前記第1の相対移動速度に所定速度を加算した前記相対移動速度までの間の前記相対移動速度に対して設定された前記補正値の数の方が、前記第1の相対移動速度よりも遅い第2の相対移動速度から前記第2の相対移動速度に前記所定速度を加算した前記相対移動速度までの間の前記相対移動速度に対して設定された前記補正値の数よりも、多いこと。
このような流体噴射装置によれば、相対移動速度が遅く、駆動波形の周波数が低いときには、相対移動速度の変化に対する流体噴射特性の変動が小さいため、補正値の数を少なくすることによって、記憶部の容量を減少でき、制御部の処理を簡略化できる。一方、相対移動速度が速く、駆動波形の周波数が高いときには、相対移動速度の変化に対する流体噴射特性の変動が大きいため、補正値の数を多くすることによって、より流体噴射特性を安定することが出来る。
【0011】
かかる流体噴射装置であって、前記ヘッドが有するノズルに対応する駆動素子に前記駆動波形が印加されることによって前記駆動素子は駆動し、前記駆動素子の駆動によって、その前記駆動素子に対応する前記ノズルに連通する圧力室が膨張、収縮し、前記ノズルから流体が噴射され、前記駆動波形は、前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記圧力室の膨張状態を保持するホールド要素と、膨張した前記圧力室を収縮させる収縮要素と、を含み、前記制御部は、前記最後の駆動波形の前記ホールド要素が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させること。
このような流体噴射装置によれば、次の周期の流体の噴射特性を安定させることが出来る。
【0012】
かかる流体噴射装置であって、前記ヘッドが有するノズルに対応する駆動素子に前記駆動波形が印加されることによって前記駆動素子は駆動し、前記駆動素子の駆動によって、その前記駆動素子に対応する前記ノズルに連通する圧力室が膨張、収縮し、前記ノズルから流体が噴射され、前記駆動波形は、前記圧力室を膨張させる膨張要素と、膨張した前記圧力室を収縮させる収縮要素と、を含み、前記制御部は、前記最後の駆動波形の前記膨張要素が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させること。
このような流体噴射装置によれば、次の周期の流体の噴射特性を安定させることが出来る。
【0013】
かかる流体噴射装置であって、前記制御部は、画像データに基づいて、ある周期の次の周期において前記ヘッドから流体が噴射されるか否かを判断し、前記次の周期において前記ヘッドから流体が噴射される場合には、前記ある周期の前記最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を前記駆動信号生成部に生成させ、前記次の周期において前記ヘッドから流体が噴射されない場合には、前記ある周期の前記最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正されない前記駆動信号を前記駆動信号生成部に生成させること。
このような流体噴射装置によれば、制御部の補正処理を容易にすることができる。
【0014】
また、ヘッドと媒体とを所定方向に相対移動させながら、駆動信号によって前記ヘッドから流体を噴射させる流体噴射方法であって、前記ヘッドと前記媒体との前記所定方向への相対移動速度に応じた周期の中に複数の駆動波形を発生し、前記複数の駆動波形を前記周期ごとに繰り返し発生する前記駆動信号において、前記周期の中で発生する前記複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形を前記相対移動速度に基づいて補正することと、前記駆動信号によって前記ヘッドから流体を噴射させることと、を有することを特徴とする流体噴射方法である。
このような流体噴射方法によれば、相対移動速度が変化し、駆動波形の周波数が変化したとしても、流体噴射特性を安定させることが出来る。また、周期の中の最後の駆動波形を補正することで補正処理が容易となる。
【0015】
===インクジェットプリンターの構成===
以下、流体噴射装置をインクジェットプリンターとし、また、インクジェットプリンターの中のシリアル式プリンター(プリンター1)を例に挙げて実施形態を説明する。
【0016】
図1Aは、本実施形態のプリンター1の全体構成ブロック図であり、図1Bは、プリンター1の斜視図の一部である。外部装置であるコンピューター60から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー10により、各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御し、用紙S(媒体)に画像を形成する。また、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、その検出結果に基づいて、コントローラー10は各ユニットを制御する。
【0017】
コントローラー10(制御部に相当)は、プリンター1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピューター60とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU12は、プリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー13は、CPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU12は、ユニット制御回路14により各ユニットを制御する。
搬送ユニット20は、用紙Sを印刷可能な位置に送り込み、印刷時に搬送方向に所定の搬送量で用紙Sを搬送させるためのものである。
【0018】
キャリッジユニット30(移動機構)は、ヘッド41を搬送方向と交差する方向(以下、移動方向という)に移動させるためのものである。タイミングベルト34は一対のプーリ33に掛け渡され、また、タイミングベルト34の一部はキャリッジ31に接続されている。キャリッジモーター32の回転軸に取り付けられているプーリ33の回転によって、タイミングベルト34が移動し、それに伴って、キャリッジ31とヘッド41がガイド軸35に添って移動方向に移動する。キャリッジ31(ヘッド41)の移動方向の位置は、キャリッジ31の背面側に取り付けられたリニア式エンコーダーがリニアスケール51を読み取ることで制御する。
【0019】
ヘッドユニット40は、用紙Sにインクを噴射するためのものであり、ヘッド41とヘッド制御部HCを有する。ヘッド41の下面にはインク噴射部であるノズルが複数設けられている。コントローラー10からのヘッド制御信号や駆動信号生成回路15(駆動信号生成部に相当)にて生成される駆動信号COMに基づいて、ピエゾ素子(駆動素子に相当)を変形することにより、対応するノズルからインク滴が噴射される。
【0020】
このような構成のシリアル式のプリンター1では、移動方向に沿って移動するヘッド41からインクを断続的に噴射させて用紙S上にドットを形成するドット形成処理と、用紙Sを搬送方向に搬送する搬送処理と、を交互に繰り返す。その結果、先のドット形成処理により形成されたドットの位置とは異なる位置にドットを形成することができ、用紙上に2次元の画像を形成することが出来る。
【0021】
===ヘッド41の駆動について===
<ヘッド41の構成について>
図2は、ヘッド41の断面図である。ヘッド41本体は、ケース411と、流路ユニット412と、ピエゾ素子群PZTとを有する。ケース411はピエゾ素子群PZTを収納し、ケース411の下面に流路ユニット412が接合されている。
【0022】
流路ユニット412は、流路形成板412aと、弾性板412bと、ノズルプレート412cとを有する。流路形成板412aには、圧力室412dとなる溝部、ノズル連通口412eとなる貫通口、共通インク室412fとなる貫通口、インク供給路412gとなる溝部が形成されている。弾性板412bはピエゾ素子群PZTの先端が接合されるアイランド部412hを有する。そして、アイランド部412hの周囲には弾性膜412iによる弾性領域が形成されている。インクカートリッジに貯留されたインクが、共通インク室412fを介して、各ノズルNzに対応した圧力室412dに供給される。
【0023】
ノズルプレート412cはノズルNzが形成されたプレートである。ノズル面(不図示)には、180個のノズルNzが搬送方向に所定の間隔(例えば180dpi)にて並んだノズル列が複数形成されている。各ノズル列から異なる色のインクを噴射させることでカラー印刷が可能となる。
【0024】
ピエゾ素子群PZTは、櫛歯状の複数のピエゾ素子を有し、ノズルNzに対応する数分だけ設けられている。ヘッド制御部HCなどが実装された配線基板(不図示)によって、ピエゾ素子に駆動信号COMが印加され、駆動信号COMの電位に応じてピエゾ素子群PZTは上下方向に伸縮する。ピエゾ素子群PZT(以下、ピエゾ素子)が伸縮すると、アイランド部412hは圧力室412d側に押されたり、反対方向に引かれたりする。このとき、アイランド部412hの周辺の弾性膜412iが変形し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降することにより、ノズルからインク滴が噴射される。
【0025】
<駆動信号生成回路15について>
図3は駆動信号生成回路15を示す図であり、図4はヘッド制御部HCを示す図であり、図5Aは駆動信号COMを示す図であり、図5Bは駆動波形Wを示す図である。本実施形態では、1つのノズル列(180個のノズル)に対して、1つの駆動信号生成回路15が設けられるとする。そのため、ある駆動信号生成回路15にて生成された駆動信号COMは、あるノズル列に属するノズルに対して共通に使用される。
【0026】
図3に示すように、駆動信号生成回路15(駆動信号生成部に相当)は、波形生成回路151と電流増幅回路152とを有する。まず、波形生成回路151が、DAC値(デジタル信号の波形情報)に基づいて、駆動信号COMの基となる電圧波形信号(アナログ信号の波形情報)を生成する。そして、電流増幅回路152は、電圧波形信号について、その電流を増幅し、駆動信号COMとして出力する。なお、デジタル信号の波形情報(DAC値)に基づき、駆動信号COMを生成するに限らない。
【0027】
電流増幅回路152は、駆動信号COMの電圧上昇時に動作する上昇用トランジスタQ1(NPN型トランジスタ)と、駆動信号COMの電圧下降時に動作する下降用トランジスタQ2(PNP型トランジスタ)を有する。上昇用トランジスタQ1は、コレクタが電源に接続され、エミッタが駆動信号COMの出力信号線に接続されている。下降用トランジスタQ2は、コレクタが接地(アース)に接続され、エミッタが駆動信号COMの出力信号線に接続されている。
【0028】
波形生成回路151からの電圧波形信号によって、上昇用トランジスタQ1がON状態になると、駆動信号COMの電圧が上昇し、ピエゾ素子PZTの充電が行われる。一方、電圧波形信号によって、下降用トランジスタQ2がON状態になると、駆動信号COMの電圧が下降し、ピエゾ素子PZTの放電が行われる。このように、駆動信号生成回路15は、図5Bに示すような電圧変化する駆動波形Wが発生する駆動信号COMを生成する。
【0029】
<ヘッド制御部HCについて>
ヘッド制御部HCは、180個の第1シフトレジスタ421と、180個の第2シフトレジスタ422と、ラッチ回路群423と、データセレクタ424と、180個のスイッチSWとを有する。図中のかっこ内の数字は、部材や信号が対応するノズルの番号を示している。
【0030】
まず、印刷信号PRTは、180個の第1シフトレジスタ421に入力され、その後、180個の第2シフトレジスタ422に入力される。その結果、シリアル伝送された印刷信号PRTは、180個の2ビットデータである印刷信号PRT(i)に変換される。1つの印刷信号PRT(i)は、ノズル#iに割り当てられている1画素のデータに対応した信号である。
【0031】
そして、ラッチ信号LATの立ち上がりパルスがラッチ回路群423に入力されると、各シフトレジスタの360個のデータが対応する各ラッチ回路にラッチされる。ラッチ信号LATの立ち上がりパルスがラッチ回路群423に入力されるとき、データセレクタ424にもラッチ信号LATの立ち上がりパルスが入力され、データセレクタ424は初期状態となる。データセレクタ424は、ラッチ前(初期状態となる前)に、各ノズル#iに対応する2ビットの印刷信号PRT(i)をラッチ回路群423から選択し、各印刷信号PRT(i)に応じたスイッチ制御信号prt(i)を各スイッチSW(i)に出力する。
【0032】
このスイッチ制御信号prt(i)により、各ピエゾ素子PZT(i)に対応したスイッチSW(i)のオン・オフ制御が行われる。そして、スイッチのオン・オフ動作が、駆動信号生成回路15から伝送された駆動信号COMにて発生する駆動波形Wをピエゾ素子に印加もしくは遮断し(DRV(i))、ノズル#iからインクが噴射されたり、又は、噴射されなかったりする。
【0033】
<駆動信号COMについて>
図5Aに示すように、本実施形態の駆動信号COMでは、1画素(用紙上に仮想的に定められた単位領域)に対して、4つの駆動波形Wを用いる。あるノズル#iが1画素に対してインク滴を噴射する期間を「繰り返し周期T(周期に相当)」と呼ぶ。そのため、駆動信号COMでは、繰り返し周期Tの中に4つの駆動波形Wが発生し、繰り返し周期Tごとに4つの駆動波形Wが繰り返し発生する。この4つの駆動波形Wは全て同じ形状である。以下、繰り返し周期Tにおいて先に発生する駆動波形Wから順に、第1波形W(1)、第2波形W(2)、第3波形W(3)、第4波形W(4)と呼ぶ。
【0034】
本実施形態では、1つの画素を「大ドット形成」「小ドット形成」「ドットなし」の3階調にて表現する。ゆえに、1画素に対する印刷信号PRT(i)が2ビットのデータとなる。「大ドット形成」の場合には、4つの駆動波形W(1)〜W(4)が全てピエゾ素子に印加されるように、スイッチ制御信号prt(i)が設定される。同様に、「小ドット形成」の場合には、2つの駆動波形W(2)・W(3)がピエゾ素子に印加されるようにスイッチ制御信号prt(i)が設定され、「ドットなし」の場合には、駆動波形Wがピエゾ素子に全く印加されないように、スイッチ制御信号prt(i)が設定される。なお、2種類のドットを形成するに限らず、例えば、4つの駆動波形によって1種類のドットを形成してもよい。この場合、1画素は、「ドット有り(4つの駆動波形Wを全てピエゾ素子に印加)」と、「ドット無し(駆動波形Wをピエゾ素子に印加しない)」の2階調にて表現される。
【0035】
あるノズル#iが1画素に対してインク滴を噴射する期間である「繰り返し周期T」は、あるノズル#i(ヘッド41)が移動方向に1画素を移動する期間に相当する。繰り返し周期Tは、図5Aに示すように、ラッチ信号LATの立ち上がりパルスにより定められ、ラッチ信号LATにおける、ある立ち上がりパルスから次の立ち上がりパルスまでの期間が繰り返し周期Tに相当する。ここでは、移動方向の印刷解像度を180dpi(1/180インチ)とし、1画素の移動方向の長さを180dpiとする。
【0036】
また、ヘッド41の移動方向の位置制御を行うためのリニアスケール51(図1B参照)のスリット間隔も180dpiとする。即ち、リニア式エンコーダーが、あるスリットを検出してから次のスリットを検出するまでの時間tが、ヘッド41がスリット間隔(180dpi)を移動方向に移動する時間である。なお、ヘッド41(キャリッジ31)背面側のリニア式エンコーダーは、リニアスケール51のスリットを検出した結果を、コントローラー10に出力する。そうすることで、コントローラー10はヘッド41の移動方向の位置を把握することが出来る。
【0037】
ここでは、スリット間隔と1画素の移動方向の長さが等しいとするため、リニア式エンコーダーが、あるスリットを検出してから次のスリットを検出するまでの時間t(エンコーダー周期)が、繰り返し周期Tに相当する。なお、コントローラー10は、リニア式エンコーダーがスリットを検出した信号に基づいてLAT信号を作成する。そうすることで、ヘッド41に属するあるノズル#iが1画素と対向している期間を、繰り返し周期Tに設定することができる。即ち、コントローラー10は、リニア式エンコーダーがスリットを検出したタイミングにてLAT信号の立ち上がりパルスを作成し、1画素分の4つの駆動波形W(1)〜W(4)を駆動信号COMにて発生させる。また、コントローラー10は、リニア式エンコーダーからのスリット検出信号によって、ヘッド41の移動速度Vc(=180dpi/t)を算出することができる。
【0038】
<駆動波形Wについて>
図5Bに示すように、駆動波形Wは、中間電位Vcから最高電位Vhまで電位が上昇する「第1膨張要素S1」と、最高電位Vhを保持する「第1ホールド要素S2」と、最高電位Vhから最低電位Vlまで電位が下降する「収縮要素S3」と、最低電位Vlを保持する「第2ホールド要素S4」と、最低電位Vlから中間電位Vcまで電位が上昇する「第2膨張要素S5」と、を有する。
【0039】
そして、第1膨張要素S1の発生時間を「第1膨張時間Pwc1」と呼び、第1ホールド要素S2の発生時間を「第1ホールド時間Pwh1」と呼び、収縮要素S3の発生時間を「収縮時間Pwd1」と呼び、第2ホールド要素S4の発生時間を「第2ホールド時間Pwh2」と呼び、第2膨張要素S5の発生時間を「第2膨張時間Pwc2」と呼ぶ。
【0040】
図6は、駆動波形Wの各要素とノズルNzのメニスカス(ノズルで露出しているインクの自由表面)の動きの関係を示す図である。図中のノズルNzの拡大図において、斜線部分がヘッド41部分(ノズルプレート412c)に相当し、斜線部分に囲われた白塗り部がインク部分に相当し、太線がメニスカスに相当する。また、図中には、先の繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形(第4波形W(4))と、次の繰り返し周期Tにおける最初の駆動波形(第1波形W(1))が描かれている。
【0041】
まず、先の繰り返し周期Tにおける第3波形W(3)(不図示)がピエゾ素子に印加され終わった後、ピエゾ素子は中間電位Vcが印加された状態を保持する。このとき、ピエゾ素子は伸縮しておらず、中間電位Vcがピエゾ素子に印加された時の圧力室412dの容積を基準容積とする。第3波形W(3)の次に、第4波形W(4)の第1膨張要素S1がピエゾ素子に印加される時(a点)、図6に示すようにメニスカスはノズル面に等しい位置とする。
【0042】
そして、第4波形W(4)の第1膨張要素S1がピエゾ素子に印加されると、ピエゾ素子は長手方向に収縮し、圧力室412dの容積は膨張する。この時(b点)、メニスカスはノズル面よりも圧力室方向に引き込まれる。
【0043】
次に、第1ホールド要素S2によりピエゾ素子の収縮状態が維持され、これに伴い圧力室412dの膨張状態も維持される。その後、収縮要素S3がピエゾ素子に印加されると、ピエゾ素子は収縮した状態から一気に伸長し、圧力室412dの容積も一気に収縮する。この圧力室412dの収縮により、圧力室412d内のインク圧力が急激に高まり、ノズルからインク滴が噴射される(c点)。インク滴が分離したメニスカス面は反動により圧力室方向に引き込まれる。また、第2ホールド要素S4によりピエゾ素子の伸長状態と圧力室412dの収縮状態が維持される。最後に、ピエゾ素子に第2膨張要素S5が印加されると、圧力室412dの容積が基準容積に戻る。
【0044】
ここで、第2ホールド要素S4と第2膨張要素S5は、ノズルからインク滴を噴射するために収縮した圧力室412dの容積を基準容積に戻すだけでなく、ノズルからのインク噴射により発生するメニスカスの振動を制振する役割も担う。すなわち、第2ホールド要素S4と第2膨張要素S5は制振要素に相当する。具体的に説明すると、インク滴が噴射された直後、メニスカスは圧力室方向に引き込まれる。そして、メニスカスが圧力室方向に最も引き込まれた後、メニスカスの移動方向が反転し、噴射方向に再度移動する。この時に(d点)、第2膨張要素S5により圧力室412dを膨張すると、圧力室412d内が負圧となり、噴射方向に移動しようとするメニスカスの移動力を低減できる。その結果、メニスカスの振動が制振される。
【0045】
つまり、インク噴射後に圧力室方向(引き込み方向)に移動したメニスカスが、再度噴射方向に移動する際に圧力室412dが膨張するように、第2ホールド時間Pwh2を調整するとよい。また、メニスカスの振動は圧力室412d内のインクの圧力振動に伴い、圧力室412d内のインクの圧力振動はインクが充填された圧力室412dの固有振動周期Tcの影響を受ける。ゆえに、圧力室412dの固有振動周期Tcに基づいて、第2ホールド時間Pwh2を決定するとよい。具体的に説明すると、メニスカスの移動方向は、圧力室412dの固有振動周期Tc(以下、圧力室の振動周期Tcと呼ぶ)の半分の周期(Tc/2)で反転する。そのため、インク滴が噴射されてから、圧力室の振動周期Tcの半分の時間(Tc/2)が経過した後に、第2膨張要素S5がピエゾ素子に印加されるように、第2ホールド時間Pwh2を調整する。その結果、メニスカスの残留振動(圧力室412d内に生じる残留振動)を制振することができる。
【0046】
なお、圧力室412dの固有振動周期Tc(圧力室412d内のインクの圧力振動)は、例えば特許文献2003−11352号公報に示されるように、次式(1)で表すことができる。
Tc=2π√[〔(Mn×Ms)/(Mn+Ms)〕×Cc]・・・(1)
式(1)において、MnはノズルNzのイナータンス、Msはインク供給路412gのイナータンス、Ccは圧力室412dのコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)である。
上記式(1)において、イナータンスMとは、インク流路におけるインクの移動し易さを示し、単位断面積あたりのインクの質量である。そして、インクの密度をρ、流路のインク流れ方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(2)で近似して表すことができる。
イナータンスM=(密度ρ×長さL)/断面積S ・・・ (2)
また、この式(1)に限らず、圧力室412dが有している振動周期であればよい。
【0047】
===周波数特性について===
図7Aは、移動方向に移動するヘッド41からインク滴が噴射される様子を示す図である。本実施形態のプリンター1は、図1Bに示すように、移動方向に移動するヘッド41からインク滴が噴射される。移動方向に移動するヘッド41から噴射されるインク滴は移動方向に慣性力が働くため、図7Aに示すように、インク滴の噴射位置よりも、ヘッド41が移動する側にインク滴が着弾する。そのため、用紙S上におけるインク滴の目標着弾位置よりも手前側からインク滴を噴射する必要がある。言い換えれば、ヘッド41が目標着弾位置に到達するよりも早いタイミングにてインク滴を噴射する必要がある。
【0048】
ヘッド41の移動速度Vc(相対移動速度に相当)が一定であれば、ヘッド41が目標着弾位置に到達する時間よりも早いタイミングでインク滴を噴射する時間を一定にすることができる。そこで、プリンター1のコントローラー10は、ヘッド41が一定の「基準ヘッド速度Vcs」にて移動するようにキャリッジユニット30を制御する。
【0049】
図7Bは、ヘッド41(キャリッジ31)の移動速度Vcの変化を示す図である。図7Bの横軸が、ヘッド41が移動を開始してからの時間を示し、縦軸がヘッド41の移動速度Vcを示す。コントローラー10はヘッド41を基準ヘッド速度Vcsにて移動させる。ただし、図示するように、ヘッド41の移動開始から基準ヘッド速度Vcsに到達するまでにヘッド速度Vcが徐々に加速する期間(加速領域・時刻0〜時刻t1)と、基準ヘッド速度Vcsから徐々に減速してヘッド41が停止するまでの期間(減速領域・時刻t2〜時刻t3)は、ヘッド速度Vcは基準ヘッド速度Vcsよりも遅い。
【0050】
即ち、加速領域と減速領域(以下、加減速領域)においてヘッド41が1画素を移動する期間(繰り返し周期T)と、一定の基準ヘッド速度Vcsである定速領域(時刻t1〜t2)においてヘッド41が1画素を移動する期間は、異なる。そのため、加減速領域と定速領域とでは、目標着弾位置に対するインク滴の噴射位置(噴射タイミング)が異なる。もし、ヘッド41の移動速度Vcに関係なく、目標着弾位置(目標画素)に対するインク滴の噴射位置を一定にし、1画素分の4つの駆動波形W(1)〜W(4)を一定の繰り返し周期Tごとに発生させてしまうと、ドット形成位置がずれて画質が劣化してしまう。
【0051】
加減速領域を使用せずに定速領域のみを使用することで、目標着弾位置に対するインク滴の噴射位置を一定にすることができる。ただし、加減速領域を使用しないことで、印刷領域が狭くなったり、印刷時間が長くなったりしてしまう。そのため、本実施形態では加減速領域を用いて印刷を行うとする。
【0052】
前述のように、本実施形態では、リニアスケール51(図1B)のスリット間隔が1画素の移動方向の長さ(180dpi)に相当し、コントローラー10は、キャリッジ31(ヘッド41)の背面側に取り付けられたリニア式エンコーダーがリニアスケール51のスリットを検出した信号に基づいてLAT信号を生成し、LAT信号の立ち上がりパルスに応じて繰り返し周期Tが決定する。即ち、リニア式エンコーダーがスリットを検出するタイミングにて、駆動信号COMにおいて1画素分の4つの駆動波形Wを発生させる。
【0053】
そのため、加減速領域のようにヘッド速度Vcが遅い時には、リニア式エンコーダーがスリットを検出する時間間隔が長くなり、それに伴って1画素分の駆動波形Wの発生するタイミングが遅くなる。そうすることで、ヘッド速度Vcが遅く1画素を通過する時間が長くとも、目標画素にドットを形成することが出来る。逆に、定速領域のようにヘッド速度Vcが速い時には、リニア式エンコーダーがスリットを検出する時間間隔が短くなり、1画素分の駆動波形Wの発生するタイミングが速くなる。そうすることで、ヘッド速度Vcが速く、1画素を通過する時間が短くとも、目標画素にドットを形成することが出来る。
【0054】
図7Cは、定速領域における駆動信号(COMs)と加減速領域における駆動信号(COMd)との違いを示す図である。定速領域の駆動信号COMsの繰り返し周期Tsの方が、加減速領域の駆動信号COMdの繰り返し周期Tdよりも短い。ここで、駆動波形Wの設計時には、定速領域の繰り返し周期Tsを基準に、駆動波形Wを形成するためのパラメーター(例えばPwc1など)や駆動波形Wの波形間隔Δt(駆動波形Wの待機時間)を決定したとする。
【0055】
そのため、定速領域の駆動信号COMsでは、繰り返し周期T内の4つの駆動波形W(1)〜W(4)の波形間隔Δtが等しく、4つの駆動波形Wがバランスよく配置されている。一方、1画素分の4つの駆動波形Wは、ラッチ信号LATの立ち上がりパルスを基準に、所定の波形間隔Δtおきに発生するため、加減速領域の駆動信号COMdでは、1画素分の駆動波形Wが繰り返し周期Tの初期に偏って発生することになる。図示するように、加減速領域の駆動信号COMdでは、前の繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形(第4波形W(4))と、次の繰り返し周期Tにおける最初の駆動波形(第1波形W(1))との波形間隔Δt+αが、他の駆動波形W(1)〜W(3)の波形間隔Δtと異なり、また、定速領域の駆動信号COMにおける第4波形W(4)と第1波形W(1)との間隔Δtとも異なる。
【0056】
図8は、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)と次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)との間隔Δt+αが設計値の波形間隔Δtと異なる場合を示す図である。図中の駆動波形Wは加減速領域の駆動波形Wであり、前の繰り返し周期Tの第3波形W(3)と第4波形W(4)の波形間隔Δtは設計値の間隔Δtであるが、前の繰り返し周期Tの最後の第4波形W(4)と次の繰り返し周期Tの第1波形W(1)の波形間隔Δt+αは設計値の間隔Δtよりも長い。
【0057】
ここで、図6・図7Cに示すように、定速領域での駆動波形W(設計上の駆動波形W)では波形間隔Δtが一定であり、駆動波形W(4),W(1)の印加開始時(a点・e点)におけるメニスカス状態が一定である。メニスカス状態とは、ノズル面に対するメニスカスの位置やメニスカスの移動方向(圧力室内におけるインクの圧力振動の向き・圧力室内のインクにかかる力の向き)のことである。駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカス状態が一定であれば、同じ駆動波形Wを印加した時のインク滴の噴射特性を一定にすることが出来る。
【0058】
図6にて説明しているように、インク滴噴射によるメニスカスの残留振動は、駆動波形Wの第2ホールド時間Pwh2や第2膨張時間Pwc2によって制振されるが、メニスカスの残留振動が完全におさまらない状態で、次の駆動波形Wが印加される場合がある。そうすると、駆動波形Wの間隔Δtを一定にしないと、駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカス状態を一定にすることが出来ない。
【0059】
そこで、前述のように、駆動波形Wの設計工程では、定速領域の繰り返し周期Tsを基準に、駆動波形Wの波形間隔Δtが一定となるように、駆動波形Wを設計する。また、同じ繰り返し周期T内の駆動波形W(1)〜W(4)の波形間隔Δtを一定にするに限らず、繰り返し周期Tの境目の駆動波形W(4),W(1)の間隔Δtも一定にする。そうすることで、同じ繰り返し周期T内の駆動波形W(1)〜W(4)の印加開始時におけるメニスカス状態も、異なる繰り返し周期Tの駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカス状態も、同じにすることができ、インク噴射特性を安定させることが出来る。なお、本実施形態では、駆動波形Wの印加開始時において、メニスカスとノズル面の位置が等しく、また、メニスカスが噴射方向へ移動する力が働くように、駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカス状態を揃えるとする。
【0060】
しかし、図7Cおよび図8に示すように、加減速領域の繰り返し周期Tdは、設計上の繰り返し周期Ts(定速領域の繰り返し周期Ts)よりも遅く、前の繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)と次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の間隔Δt+αが、設計上の波形間隔Δtよりも長くなってしまう。そのため、第4波形W(4)のインク噴射によるメニスカスの残留振動が制振され終わらないうちに第1波形W(1)を印加する場合には、図8に示すように、第1波形W(1)の印加開始時(f点)におけるメニスカス状態が、設計工程において定めたメニスカス状態と異なってしまう場合がある。
【0061】
図8に示すように、第3波形W3と第4波形W4の間隔が設計上の間隔Δtであり、第4波形W4の印加開始時には(a点)、メニスカスとノズル面の位置が等しく、メニスカスが噴射方向に移動するように力が働いている。これに対して、第4波形W4と第1波形の間隔Δt+αは設計上の間隔Δtよりも長く、第1波形W(1)の印加開始時には(f点)、メニスカスがノズル面よりも圧力室方向側に位置し、メニスカスが圧力室方向に移動するように力が働いている。このように、駆動波形Wの間隔Δtが異なると、次の駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカスの状態が異なる場合がある。駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカス状態が異なると、同じ駆動波形Wを印加したとしても、インク滴の噴射特性が異なってしまう。
【0062】
図9は、1画素分の駆動波形W(1)〜W(4)の周波数とインク噴射量との関係を示す図である。グラフの横軸が1画素分の4つの駆動波形W(1)〜W(4)の周波数f(=1/繰り返し周期T)を示し、横軸の右側ほど高い周波数fとする。グラフの縦軸が1画素分の4つの駆動波形W(1)〜W(4)にてノズルから噴射されるインク量を示し、縦軸の上側ほどインク噴射量が多いとする。1画素分の駆動波形Wの周波数fを変化させるとは、4つの駆動波形W(1)〜W(4)が発生する繰り返し周期Tの長さを変化させるということである。図9の計測時は、繰り返し周期Tの開始に伴って4つの駆動波形W(1)〜W(4)を設計上の波形間隔Δtにて発生させて、最後の第4波形W(4)の後の時間を調整することによって、繰り返し周期Tの長さを変化させる。そのため、周波数fが高い場合ほど繰り返し周期Tが短く、第4波形W(4)と次の繰り返し周期Tの第1波形W(1)との間隔が短く、周波数fが低い場合ほど繰り返し周期Tが長く、第4波形W(4)と次の繰り返し周期Tの第1波形W(1)との間隔が長い。
【0063】
図9の計測結果から、1画素分の駆動波形Wの周波数fが変動することによって、インク噴射量が変動することが分かる。また、周波数fが高い時ほど、周波数fの変化に対するインク噴射量の変動が大きい。特に、図9中の周波数f3以降では、周波数fの小さい変化に対してもインク噴射量が大きく変動している。また、インク噴射量はインク噴射速度Vmに影響を及ぼす。そのため、周波数fの変化に対してインク噴射量が変動しているということは、周波数fの変化に対してインク滴の噴射速度Vmも変動していることが推測できる。この現象が発生する理由は、前述のように、駆動波形Wの周波数fを変化させることにより、前の繰り返し周期の最後の駆動波形W(4)と次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の波形間隔が変化し、最初の駆動波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態(メニスカス位置・力の向き)が変動するからと考えられる。
【0064】
また、駆動波形Wの周波数fが低い場合には(例えば図9中の周波数f2近傍では)、異なる繰り返し周期Tの駆動波形W(4)・W(1)の波形間隔が長く、次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の印加開始時までに、インク噴射によるメニスカスの残留振動が制振され、波形間隔に関係なくメニスカス状態が安定する。そのため、周波数fの低い領域では、周波数fが変化しても噴射特性の変動が小さいと考えられる。逆に、周波数fの高い領域では、異なる繰り返し周期Tの駆動波形W(4)・W(1)の波形間隔が短く、メニスカスの残留振動が発生している時に次の駆動波形W(1)が印加されてしまうため、次の駆動波形W(1)のメニスカス状態が大き異なり、噴射特性が大きく変動すると考えられる。
【0065】
つまり、ヘッド速度Vcを遅く設定し、駆動波形Wの周波数fを低くすることで、ヘッド速度Vcの変化により周波数fが変化したとしても、インク滴の噴射特性が安定しやすい。しかし、高速印刷の需要が高く、ヘッド速度Vcを出来る限り速くすることが好ましい。そのため、定速領域のヘッド速度Vcsが速い速度に設定され、定速領域における駆動波形Wの周波数fが高くなる。そうすると、加減速領域における駆動波形Wの周波数fも高くなり、加減速領域においてヘッド速度Vcが変化すると、インク滴の噴射特性も大きく変動してしまう。本実施形態のプリンター1では、定速領域の周波数fが図中の「f1」となり、加減速領域の周波数fは図中のf2以上f1未満とする。
【0066】
このように、定速領域の速度(基準ヘッド速度Vcs)を速い速度に設定すると、ヘッド速度Vcが変化する加減速領域の周波数fも高くなり、図9の計測結果に示すように、ヘッド速度Vcの変化に対するインク滴の噴射特性(インク噴射量・インク噴射速度Vm)の変動が大きくなってしまう。もし、インク滴の噴射特性が変動すると画質を劣化してしまう。
そこで、本実施形態では、ヘッド速度Vcの変化(駆動波形Wの周波数変化)によるインク滴の噴射特性の変動を抑えることを目的とする。なお、駆動波形Wの周波数変化に対して、インク噴射量やインク噴射速度Vmが変動するだけに限らず、例えば、サテライト(微小インク滴)の発生の有無なども変化する。
【0067】
===駆動波形Wの補正について===
図10Aから図10Cは、繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形(第4波形W(4))を補正する様子を示す図である。以下の説明では、連続した繰り返し周期Tにおいて4つの駆動波形W(1)〜W(4)がピエゾ素子に印加されるとする。前述のように、加減速領域においてヘッド速度Vcが変化し、前の繰返し周期Tの最後の第4波形W(4)と次の繰返し周期Tの最初の第1波形W(1)との間隔Δt+αが、基準の波形間隔Δtよりも長くなってしまうと、第1波形W(1)の印加開始時(図8のf点)のメニスカス状態(メニスカス位置・力の方向)が、他の駆動波形Wの印加開始時におけるメニスカス状態と異なり、インク滴の噴射特性が変動してしまう。次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態は、その前に印加される駆動波形W、即ち、前の繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)によるインク噴射後のメニスカス状態の影響を受ける。
【0068】
そこで、本実施形態では、繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形(第4波形W(4))を形成するためのパラメーターだけを補正して、次の繰返し周期Tの最初の駆動波形(第1波形W(1))が印加される際のメニスカス状態を、他の駆動波形Wの印加開始時のメニスカス状態と等しくし、インク滴の噴射特性(インク噴射量)の変動を防止する。
【0069】
前の繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)だけを補正し、最後の駆動波形W(4)以外の他の駆動波形W(1)〜W(3)を補正しないとういことは、他の駆動波形W(1)〜W(3)の波形間隔Δtは、設計上の波形間隔Δt(定速領域の駆動波形Wの間隔Δt)となる。そのため、他の駆動波形W(1)〜W(3)によるインク噴射にて発生するメニスカスの残留振動は変化することなく、その後の駆動波形W(2)〜W(4)の印加開始時におけるメニスカス状態も一定となる。その結果、ヘッド速度Vcの変化による噴射特性の変動を、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)だけを補正すればよく、補正処理が容易となる。
【0070】
もし仮に、繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)ではなく、例えば、第3波形W(3)を補正したとする。この場合、第3波形W(3)のパラメーターを補正することによって、最後の第4波形W(4)と次の繰り返し周期Tの最初の第1波形W(1)の間隔などを調整し、第1波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態を調整する必要がある。しかし、第1波形W(1)の印加開始時のメニスカス状態を調整するように第3波形W(3)のパラメーターを補正したことによって、第3波形W(3)と第4波形W(4)の波形間隔が設計上の波形間隔Δtからずれて、第4波形W(4)の印加開始時のメニスカス状態がずれてしまう虞がある。そのため、繰り返し周期Tの最後以外の駆動波形W(1)〜W(3)にて、次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の印加開始時のメニスカス状態を調整するためには、パラメーターを調整する最後以外の駆動波形W(1)〜W(3)と最初の駆動波形W(1)との間に位置する駆動波形Wの印加開始時のメニスカス状態も調整する必要があり、駆動波形Wの補正処理が複雑となる。また、全ての駆動波形W(1)〜W(4)の印加開始時におけるメニスカス状態を一定にすることは難しい。そこで、本実施形態では、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)だけを補正する。
【0071】
図10Aは、最後の駆動波形W(4)の「第2ホールド時間Pwh2」を補正する様子を示す図である。例えば、補正値ΔXによって、最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2を「Pwh2+ΔX」と長く補正したとする。前述のように、インク滴噴射後に圧力室方向に引き込まれたメニスカスが再び噴射方向に移動する際に(図6のd点)、第2膨張要素S5を印加することで、メニスカスの残留振動を制振させることが出来る。そのため、第2ホールド時間Pwh2を補正値ΔXによって長く補正して、第1波形W(1)の印加開始時(f点)におけるメニスカス状態を他の駆動波形W(2)〜W(4)の印加開始時のメニスカス状態と同じになるように調整しつつ、最後の駆動波形W(4)によるインク噴射後のメニスカスが噴射方向に移動する時(図10Aのg点)に第2膨張要素S5によって圧力室412dを膨張させることも考慮する。
【0072】
そうすることで、前の繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)によるインク噴射後の残留振動を制振しつつ、次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)によるインク噴射特性を安定させることができる。なお、インク滴噴射後のメニスカスの残留振動は、圧力室の振動周期Tcの影響を受けるため、圧力室の振動周期Tcを参考にして、第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXを決定するとよい。
【0073】
図10Bは、最後の駆動波形W(4)の「第2膨張時間Pwc2」を補正する様子を示す図である。補正値Δyによって、例えば、第2膨張時間Pwc2を長く補正して、異なる繰り返し周期Tの駆動波形Wの波形間隔を調整し、次の繰り返し周期Tにおける最初の駆動波形W(1)の印加開始時(f点)におけるメニスカス状態を他の駆動波形W(2)〜W(4)の印加開始時におけるメニスカス状態と同じになるように調整する。また、第2膨張時間Pwc2を長くしたとしても、前の繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)における「d点」において、メニスカスは噴射方向に力が働いているため、d点のタイミングにて第2膨張要素S5’が印加されることによって、最後の駆動波形W(4)のインク噴射によるメニスカスの残留振動が制振される。
【0074】
このように、前の繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)を形成するパラメーターのうち、第2ホールド時間Pwh2(図10A)や第2膨張時間Pwc2(図10B)を補正して、次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態を調整するとよい。第2ホールド時間Pwh2と第2膨張時間Pwc2は、インク噴射によるメニスカスの残留振動を制振するための「制振要素」であり、インク滴噴射後にピエゾ素子に印加されるからである。即ち、第2ホールド時間Pwh2や第2膨張時間Pwc2を補正したとしても、繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)によるインク滴の噴射特性に影響しない。つまり、最後の駆動波形W(4)の制振要素(Pwh2・Pwc2)を補正することによって、最後の駆動波形W(4)の噴射特性には影響させずに、次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の噴射特性の変動を抑制することが出来る。
【0075】
図10Cは、最後の駆動波形W(4)の「第1ホールド時間Pwh1(ホールド要素に相当)」を補正する様子を示す図である。前述のように最後の駆動波形W(4)の制振要素(Pwh2・Pwc2)を補正するだけに限らず、例えば、最後の駆動波形W(4)のインク滴噴射に関わる「第1ホールド時間Pwh1」を補正してもよい。図示するように、補正値ΔZによって、最後の駆動波形W(4)の第1ホールド時間Pwh1を「Pwh1+ΔZ」と長く補正して、最初の駆動波形W(1)の印加開始時(f点)におけるメニスカス状態を他の駆動波形W(2)〜W(4)の印加開始時のメニスカス状態と同じになるように調整する。
【0076】
ところで、駆動波形Wの第1膨張要素S1によって圧力室412dが急激に膨張し、その後、第1ホールド要素S2によって圧力室412dは膨張した状態が維持される。この第1ホールド時間Pwh1中において、同じ最高電位Vhがピエゾ素子に印加されていようとも、その前に圧力室412dは第1膨張要素S1により急激に膨張したため、圧力室412d内のインクには圧力振動、言い換えれば、第1膨張要素S1による残留振動が発生する。そのため、例えば、第1膨張要素S1による残留振動において、圧力室方向(圧力室412dの膨張方向)に力が働いている時に収縮要素S3が印加される場合と、噴射方向(圧力室412dの収縮方向)に力が働いている時に収縮要素S3が印加される場合とでは、インク滴の噴射特性は異なる。即ち、第1ホールド時間Pwh1の長さによって、メニスカス状態が変動し、インク滴の噴射特性が変動する。そのため、第1膨張要素S1の印加後の第1ホールド時間Pwh1を一定にすることで、収縮要素S3が印加される際のメニスカス状態を一定にすることができ、インク滴の噴射特性も安定させることができる。
【0077】
例えば、設計上の駆動波形W(4)にて収縮要素S3が印加される地点(図6のh点)のメニスカス状態が、例えば、ノズル面に対して圧力室方向に最も引き込まれた状態で、噴射方向へ力が働く状態であったとする。この場合、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)の第1ホールド時間Pwh1を補正して次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)のメニスカス状態を揃えつつ、収縮要素S3が印加される時(図10Cのi点)のメニスカス状態を、図6のh点と同様に、ノズル面に対して圧力室方向に最も引き込まれた状態で、噴射方向へ力が働く状態となるように、第1ホールド時間Pwh1を補正するとよい。そうすることで、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)の噴射特性も安定させ、次の繰り返し周期Tの最初の駆動波形W(1)の噴射特性も安定させることが出来る。なお、第1膨張要素S1によるメニスカスの残留振動は、圧力室の振動周期Tcの影響を受けるため、圧力室の振動周期Tcを参考にして、第1ホールド時間Pwh1の補正値ΔZを決定するとよい。
【0078】
つまり、補正値ΔZによって第1ホールド時間Pwh1の長さを変化させて、最初の駆動波形W(1)の印加開始時のメニスカス状態が他の駆動波形Wのメニスカス状態と同じになるように調整しつつ、補正後の第1ホールド時間「Pwh1+ΔZ」の印加終了時のメニスカス状態が、他の駆動波形Wの第1ホールド時間Pwh1の印加終了時のメニスカス状態と同じになるように、第1ホールド時間Pwh1を調整する。
【0079】
なお、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)のインク噴射に関わる要素のうち、第1ホールド時間Pwh1を補正するに限らず、例えば、第1膨張時間Pwc1(膨張要素に相当)を補正してもよい。また、最後の駆動波形W(4)を形成するパラメーターのうちの何れか1つを補正するに限らず、第2ホールド時間Pwh2と第2膨張時間Pwc2の両方を補正してもよい。また、図10A〜図10Cでは、最後の駆動波形W(4)のパラメーター(Pwh2やPwc2やPwh1)を長くするように補正しているが、これに限らず短く補正してもよい。
【0080】
図11は、ヘッド速度Vcに対する第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXを示すテーブルである。図10A〜図10Cに示す最後の駆動波形W(4)のパラメーター(Pwh2・Pwc2・Pwh1)の補正値(ΔX・ΔY・ΔZ)は、シミュレーションや実験にて算出するとよい。以下、最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2に対する補正値ΔXを算出する場合を例に挙げて説明する。
【0081】
まず、1画素分の4つの駆動波形Wの「ある周波数f−1」、言い換えれば、4つの駆動波形Wが発生する「ある繰り返し周期T−1」の長さを設定し、この繰り返し周期T−1ごとに4つの駆動波形W(1)〜W(4)を発生する駆動信号COM−1を生成する。そのため、前の繰り返し周期T−1の最後の駆動波形W(4)と次の繰り返し周期T−1の最初の駆動波形W(1)の波形間隔Δt−1も一定となる。そして、この駆動信号COM−1において、繰り返し周期T−1の最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2を種々変更して、4つの駆動波形W(1)〜W(4)から噴射されるインク量を計測する。
【0082】
そうすることで、ある周波数f−1(ある繰り返し周期T−1)において、第2ホールド時間Pwh2の長さとインク噴射量の関係、即ち、第2ホールド時間Pwh2の変化に対するインク噴射量の変動の結果を取得することができる。この「第2ホールド時間Pwh2の長さとインク噴射量の関係」から、既定のインク噴射量に対応する第2ホールド時間Pwh2−1の長さを決定することができる。ある周波数f−1における最後の駆動波形W(4)の第2ホールドPwh2の長さを、この既定のインク噴射量に対応する第2ホールド時間Pwh2−1の長さに補正すれば、インク噴射量を安定させることができる。即ち、既定のインク噴射量に対応する第2ホールド時間Pwh2−1と、設計上の第2ホールド時間Pwh2と、の差が、ある周波数f−1における第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXに相当する。
【0083】
同様に、異なる周波数f−2(繰り返し周期T−2)である駆動信号COM−2において、繰り返し周期T−2の最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2だけを種々変更して、4つの駆動波形W(1)〜W(4)から噴射されるインク量を計測する。そうして、ある周波数f−2における「第2ホールド時間Pwh2の長さとインク噴射量の関係」に基づいて、ある周波数f−2における第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXを算出するとよい。
【0084】
こうして、4つの駆動波形Wの複数の周波数fに対して、第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXを決定することが出来る。なお、1画素分の4つの駆動波形Wの周波数fは繰り返し周期Tに基づいて定まり、繰り返し周期T(ヘッド41が1画素の長さを移動する時間)はヘッド41の移動速度Vcに基づいて定まる。そのため、図11に示すように、ヘッド41の移動速度Vcと第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXを対応付けることが出来る。
【0085】
例えば、図11の補正値テーブルによると、加減速領域におけるヘッド41の移動開始直後、または、ヘッド41の停止直前のように、ヘッド速度Vcが「0以上でありVc(1)未満」である場合には、最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2を「ΔX(1)」にて補正することで、インク滴の噴射特性を安定させることが出来る。なお、加減速領域でのヘッド速度Vcは、速度0から基準ヘッド速度Vcsまで変化するため、補正値テーブルでは、速度0から基準ヘッド速度Vcsに対応する補正値ΔXが定められている。
【0086】
<変形例>
図12Aは、前の繰り返し周期Tdにおける最後の駆動波形W(4)だけを補正した駆動信号COMd(1)を示す図であり、図12Bは、前の繰り返し周期Tdの全ての駆動波形W(1)〜W(4)を補正した駆動信号COMd(2)を示す図である。図12Aおよび図12Bでは、駆動波形Wの第2ホールド時間Pwh2を補正している。前述の実施例では、前の繰り返し周期Tdにおける最後の駆動波形W(4)だけを補正するとしているが、これに限らず、例えば、前の繰り返し周期Tdの全ての駆動波形W(1)〜W(4)を補正してもよいし、3つの駆動波形W(1)〜W(3)の何れかを補正してもよい。ただし、最後の駆動波形W(4)のインク噴射によるメニスカスの残留振動が、次の繰り返し周期Tにおける最初の駆動波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態に影響し、インク滴の噴射特性が変動するため、最後の駆動波形W(4)は補正する。
【0087】
図12Aに示すように、最後の駆動波形W(4)だけを補正すると、繰り返し周期Tdの開始時に寄って駆動波形W(1)〜W(4)が発生する。この場合、1画素における移動方向の一方側に寄ってドットが形成される。これに対して、最後の駆動波形W(4)だけでなく、全ての駆動波形W(1)〜W(4)を補正する場合、繰り返し周期Tdにおいて、4つの駆動波形W(1)〜W(4)が比較的に均等な時間間隔で発生する。そのため、最後の駆動波形W(4)以外の駆動波形Wも補正することで、画素の一方側にドットが寄って形成されてしまうことを防止でき、比較的に画素の中央部にドットを形成することが出来る。
【0088】
図12Bでは、説明のため、全ての駆動波形W(1)〜W(4)の第2ホールド時間Pwh2に対する補正量ΔXaを一定にしている。しかし、実際には、ヘッド速度Vcによって変化する繰り返し周期Tdの種々の長さに合わせて、全ての駆動波形Wのパラメーターを調整し、4つの駆動波形W(1)〜W(4)、及び、次の繰り返し周期Tの第1波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態を揃えることは難しい。ある駆動波形Wを補正したことで、他の駆動波形Wの印加開始時のメニスカス状態がずれてしまうことが考えられる。また、4つの駆動波形Wに対する補正値を設けることで、データ量が多くなり、メモリー容量も多くなる。
【0089】
これに対して、前述の実施例のように、第1波形W(1)〜第3波形W(3)は補正せずに、設計通りに発生させることで、第1波形W(1)〜第3波形W(3)の印加後の第2波形W(2)〜第4波形W(4)の印加開始時におけるメニスカス状態は調整しなくとも既に揃っている。つまり、インク滴の噴射特性を安定させるために、最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2だけを補正する方が、補正処理が容易であり、より確実にインク滴の噴射特性を安定させることができ、また、データ量、メモリー容量も少なくすることができる。
【0090】
===印刷時における駆動波形Wの補正について===
以下、加減速時におけるヘッド速度Vcの変化、即ち、1画素分の駆動波形Wの周波数変化によって発生するインク滴の噴射特性(インク噴射量など)の変動を抑制するために、繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2を補正する場合を例に挙げて説明する。
【0091】
<第1補正例>
第1補正例では、ヘッド41の背面側のリニア式エンコーダーがリニアスケール51のスリットを検出した信号の時間間隔とスリット間隔(180dpi)とに基づいて、プリンター1のコントローラー10がヘッド41の移動速度Vcを算出し、ヘッド41の移動速度Vcに基づいて繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)のパラメーターを補正する。ただし、リニア式エンコーダーがスリットを検出した信号に基づいて、現在のヘッド速度Vcを算出し、そのヘッド速度Vc応じた補正値で、現在のインク滴噴射のために使用する駆動波形Wを補正することは、演算処理などにより時間のずれが生じる場合がある。そこで、現在のヘッド41の移動速度Vcに基づいて、未来のヘッド41の移動速度Vcを予測するようにしてもよい。そのために、ヘッド41の加減速時におけるヘッド速度Vcの変化の傾き(図7B)をプリンター1のメモリー13に記憶させるとよい。
【0092】
また、第1補正例では、コントローラー10が算出したヘッド速度Vcに基づいて、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)を補正するので、図10に示すようなヘッド速度Vcと補正値が対応付けられたテーブルをメモリー13に記憶させる。
【0093】
具体的には、加減速領域を使用して印刷を行う場合(例えば、印刷用紙サイズが大きく、印刷領域の全域を使用する場合)、コントローラー10は、リニア式エンコーダーがリニアスケール51のスリットを検出するごとに、現在のヘッド41の移動速度Vcを算出する。そうして、コントローラー10が算出した現在のヘッド41の移動速度Vcに基づいて、未来のヘッド速度Vcを予測する。例えば、現在のヘッド速度Vcに基づいて、ヘッド41に属する「あるノズル」が現在対向している画素よりも5画素先の画素を、「あるノズル」が通過する際のヘッド速度Vcを予測したとする。
【0094】
その後、コントローラー10は、図11の補正値テーブルを参照し、予測した未来のヘッド速度Vcに対応する第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXを取得する。そうして、コントローラー10は、あるノズルが5画素先の画素と対向する際に使用する駆動信号COMの第4波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2が補正値ΔXにて補正されるようにDAC値(駆動波形Wを生成するためのデータ、デジタル値に限らずアナログ値でもよい)を補正し、駆動信号生成回路15(駆動信号生成部に相当)に送信する。駆動信号生成回路15は、そのDAC値に基づいて、予測した未来のヘッド速度Vcに応じて最後の駆動波形W(4)の第2ホールド時間Pwh2が補正された駆動信号COMを生成し、その駆動信号COMを、あるノズルと5画素先の画素とが対向するタイミングにてヘッド制御部HCに送信する。
【0095】
つまり、第1補正例では、コントローラー10は、現在のヘッド速度Vcに基づいて所定時間後のヘッド速度Vcを予測し、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)が予測したヘッド速度Vcに基づいて補正された駆動信号COMを駆動信号生成回路15に生成させる。そして、予測したヘッド速度Vcに基づいて、最後の駆動波形W(4)が補正された駆動信号COMによって、所定時間後の繰り返し周期Tにてヘッド41からインク滴を噴射させる。そうすることで、所定時間後の繰り返し周期Tの次の繰り返し周期Tにおける最初の駆動波形W(1)の印加開始時のメニスカス状態を他の駆動波形Wの印加開始時のメニスカス状態と同じにすることができ、インク滴の噴射特性の安定させることが出来る。
【0096】
<第2補正例>
図13Aは、リニアスケール51のスリット番号と加減速領域の関係を示す図であり、図13Bは、ヘッド41の移動速度Vcとスリット番号との関係を示す図であり、図13Cは、スリット番号に対して第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXが設定された補正値テーブルを示す図である。ここでは、図13Aに示すように、リニアスケール51の移動方向の左側のスリットから順に小さい番号を付す。また、コントローラー10は、リニア式エンコーダーが検出したスリットの数をカウントし、リニア式エンコーダーが何番のスリットに位置するかを把握し、そうして、ヘッド41の移動方向の位置を把握する。
【0097】
また、定速領域のヘッド速度Vc(基準ヘッド速度Vcs)が同じである場合、ヘッド速度Vcの変化は、図13Bに示すヘッド速度Vcの変化となり、ヘッド速度Vcの変化の傾きは一定である。そのため、加減速領域におけるヘッド速度Vcを、ヘッド41の移動開始時からの時間、及び、ヘッド41の減速開始時からの時間によって、予測することが出来る。また、ヘッド41の移動開始時(図13Bの時刻0)にリニア式エンコーダーが対向するスリット番号(即ち、ヘッド41の移動方向の位置)と、ヘッド41の減速開始時(時刻t2)にリニア式エンコーダーが対向するスリット番号とを、常に一定にすることで、リニア式エンコーダーが検出するスリット番号によって、ヘッド速度Vcを予測することが出来る。
【0098】
そこで、第2補正例では、コントローラー10は、ヘッド速度Vcを直接的には算出させずに、リニア式エンコーダーが検出するスリット番号に応じて、ヘッド速度Vcを予測する。そうして、スリット番号に対応するヘッド速度Vcの時に使用する駆動信号COMの繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)を補正する。即ち、第2補正例では、スリット番号によって、間接的に取得したヘッド速度Vcによって、繰り返し周期Tにおける最後の駆動波形W(4)を補正する。
【0099】
そのために、プリンター1の設計工程などにおいて、シミュレーションや実験により、図11に示すような「ヘッド速度Vcと最後の駆動波形W(4)の補正値(第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔX)との関係」を算出した後に、ヘッド速度Vcをスリット番号に置き換える。そうして、図13Cに示すような「スリット番号と最後の駆動波形W(4)の補正値」とが対応付けられたテーブル」作成する。図13Cの補正値テーブルはプリンター1のメモリー13に記憶させるとよい。
【0100】
説明のため、図13においてヘッド41は移動方向の左側から右側に移動するとし、図13Aに示すように移動方向の左端から10個のスリット(1〜10)を「加速領域のスリット」とし、移動方向の右端から10個のスリット(n〜n−9)を「減速領域のスリット」とする。具体的には、リニア式エンコーダーが「スリット1」検出した時はヘッド41の移動開始時であり、ヘッド速度Vcはゼロに近く、リニア式エンコーダーが「スリット10」を検出した時は加速領域から定速領域に移行する直前であり、ヘッド速度Vcが定速領域のヘッド速度Vcsに近い。同様に、リニア式エンコーダーが「スリットn−9」を検出した時は定速領域から減速領域に移行した直後であり、ヘッド速度Vcが定速領域のヘッド速度Vcsに近く、リニア式エンコーダーが「スリットn」を検出した時はヘッド41が停止する直前であり、ヘッド速度Vcはゼロに近い。このように、スリット番号とヘッド速度Vcを対応させることが出来る。
【0101】
加減速領域の印刷においては、コントローラー10は、リニア式エンコーダーのスリット検出信号によるスリット番号と、図13Cに示す補正値テーブルとに基づいて、スリット番号に対応する補正値を取得する。そして、その補正値にて繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)が補正された駆動信号COMを、駆動信号生成回路15に生成させる。つまり、コントローラー10は、スリット番号iをリニア式エンコーダーが検出した際に、スリットiに対応する補正値にて繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)が補正された駆動信号COMにてインク滴が噴射されるように制御を行う。そうすることで、加減速領域においてヘッド速度Vcが変化し、駆動波形Wの周波数fが変化しても、インク滴の噴射特性を安定させることが出来る。
【0102】
この第2補正例では、コントローラー10がヘッド速度Vcを算出せずに、ヘッド速度Vcをスリット番号(ヘッド41の移動方向の位置)に置き換えているため、コントローラー10がヘッド速度Vcを算出する処理を省くことができ、処理時間を短縮できる。
【0103】
なお、ヘッド速度Vcをスリット番号に置き換えて、最後の駆動波形W(4)の補正値をスリット番号に対応させるに限らない。ヘッド速度Vcの変化が一定であれば(図13Bのヘッド速度Vcの変化の傾きが一定であれば)、ヘッド41の移動開始時からの時間、及び、ヘッド41の減速開始時からの時間によって、ヘッド速度Vcを予測することが出来る。即ち、ヘッド41の移動開始時からの時間、及び、ヘッド41の減速開始時からの時間に、繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)の補正値を対応付けてもよい。
【0104】
<第3補正例>
図14は、スリット番号に第2ホールド時間Pwh2の補正値ΔXが対応付けられ補正値テーブルを示す図である。第1補正例および第2補正例では、加減速領域において、ヘッド速度Vcが遅く、1画素分の駆動波形Wの周波数fが低い場合であっても、ヘッド速度Vcが速く、1画素分の駆動波形Wの周波数fが高い場合であっても、ヘッド速度Vcの所定間隔おきに(所定のスリット数おきに・所定の時間おきに)、同じ数の補正値ΔXを設定している。
【0105】
具体的には、第1補正例では、図11に示す補正値テーブルにおいて、ヘッド速度0とヘッド速度Vc(1)の差と、ヘッド速度Vc(1)とヘッド速度Vc(2)の差とが等しく、ヘッド速度Vcの同じ変化量に対して1つの補正値が設定されている。また、第2補正例では、図13Cに示すようにスリットごとに1つの補正値が設定されている。
【0106】
ところで、図9の周波数fとインク噴射量の関係を示すグラフによると、1画素分の駆動波形Wの周波数fが低い時(例えば周波数f2〜f3)は、1画素分の駆動波形Wの周波数fが高い時(例えば周波数f3〜f1)に比べて、周波数fの変化に対するインク噴射量の変動が小さい。即ち、同じ加減速領域であっても、ヘッド速度Vcが遅く、繰り返し周期Tが比較的に長い場合には、前後の繰り返し周期Tにおけるインク噴射量の差が小さく、逆に、ヘッド速度Vcが加速して、繰り返し周期Tが比較的に短い場合には、前後の繰り返し周期Tにおけるインク噴射量の差が大きい。
【0107】
そこで、第3補正例では、ヘッド速度Vcが速く、1画素分の駆動波形Wの周波数fが高い場合には、ヘッド速度Vcが遅く、1画素分の駆動波形Wの周波数fが低い場合に比べて、ヘッド速度Vcの所定の変化量(周波数fの所定の変化量)に対して設定する駆動波形W(4)補正値の数を少なくする。言い換えれば、ヘッド速度Vcが遅く、1画素分の駆動波形Wの周波数fが低い時には、所定数の繰り返し周期Tの駆動波形Wに対して同じ補正値を使用するのに対して、ヘッド速度Vcが速く、1画素分の駆動波形Wの周波数fが高い時には、所定数よりも少ない数の繰り返し周期Tの駆動波形Wに対して同じ補正値を使用する。
【0108】
そうすることで、駆動波形Wの周波数fが高い時には(ヘッド速度Vcが速い時には)、各駆動波形Wの周波数fに応じて駆動波形Wを補正することができ、インク噴射量(噴射特性)を安定させることが出来る。逆に、駆動波形Wの周波数fが低い時には(ヘッド速度Vcが遅い時には)、複数の周波数fの駆動波形Wに対して同じ補正値を使用するため、プリンター1のメモリー13に記憶する補正値テーブルの容量を減らすことができ、また、コントローラー10の駆動波形Wの補正処理を容易にすることができる。また、駆動波形Wの周波数fが低い時には、周波数fの変化に対するインク噴射量の変動が小さいため、複数の周波数fの駆動波形Wに対して同じ補正値を使用したとしても、インク噴射量は大きく変動せず、インク噴射量(噴射特性)を安定させることが出来る。
【0109】
例えば、図14に示すように、ヘッド速度Vcをスリット番号に置き換えて、スリット番号と最後の駆動波形W(4)の補正値とを対応付けた補正値テーブルを作成したとする。このとき、ヘッド速度Vcが遅く、駆動波形Wの周波数fが低い時であるヘッド41の移動開始時に、リニア式エンコーダーが検出するするスリット「1〜3」に対しては、1つの補正値ΔX(1)だけを設定する。これは、スリット1〜3をリニア式エンコーダーが検出する際にヘッド41からインク滴を噴射するために使用する駆動信号COMの最後の駆動波形W(4)を同じ補正値ΔX(1)にて補正することを示している。
【0110】
また同様に、ヘッド速度が遅く、駆動波形Wの周波数fが低い時であるヘッド41の停止直前に、リニア式エンコーダーが検出するスリット「n〜n−2」に対しても1つの補正値ΔX(1)だけを設定する。即ち、ヘッド41の移動開始直後と停止直前では、3つのスリットに対して1つの補正値ΔX(1)だけを設定する。言い換えれば、3つのスリットをヘッド41が通過する時間、及び、3つのスリットをヘッド41が通過する間のヘッド速度Vcに対して、1つの補正値を設定する。
【0111】
そして、ヘッド41の移動開始直後と停止直前よりも、ヘッド速度Vcが速くなり、周波数fが高くなった時には、2つのスリット(例えば、スリット4〜5)に対して、1つの補正値を設定する。最終的に、定速領域付近で、周波数fが更に高くなった時には、1つのスリットごと(例えば、スリット10)に対して、1つずつ補正値を設定する。
【0112】
このように、あるヘッド速度Vc(第1の相対移動速度に相当)から、あるヘッド速度Vcに所定速度を加算したヘッド速度Vcまでの間のヘッド速度Vcに対して設定された補正値の数の方が、あるヘッド速度Vcよりも遅い別のヘッド速度Vc(第2の相対速度に相当)に所定速度を加算したヘッド速度Vcまでの間のヘッド速度Vcに対して設定された補正値の数よりも多くする。そうすることで、ヘッド速度Vcが速くなり、駆動波形Wの周波数が高くなるにつれて、各周波数に応じた駆動波形Wの補正値を増やすことができ、インク滴の噴射特性をより安定させることができる。
【0113】
===その他の実施の形態===
上記の各実施形態は、主としてインクジェットプリンターを有する印刷システムについて記載されているが、駆動信号の補正方法等の開示が含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0114】
<エンコーダー周期について>
前述の実施形態では、リニア式エンコーダーが検出するリニアスケール51のスリット間隔が1画素の長さと等しいとしているため、リニア式エンコーダーによるスリット検出信号の間隔(エンコーダー周期)と、1画素分の駆動波形Wを発生させる期間である繰り返し周期T(ラッチ信号LATの間隔)と、が等しい。しかし、リニアスケール51のスリット間隔よりも小さい画素単位で印刷を行う場合がある。例えば、1画素の長さがスリット間隔の半分であったとすると、コントローラー10は、エンコーダー周期の半分の時間ごとに、ラッチ信号LATの立ち上がりパルスを生成し、エンコーダー周期の半分の時間おきに1画素分の駆動波形Wが発生する。このような場合も、前述の実施形態と同様に、繰り返し周期Tにおける1画素分の駆動波形Wの最後の駆動波形Wを補正するとよい。また、リニアスケールのスリット間隔と1画素の長さが異なるが、リニア式エンコーダーのスリット検出信号ごとに(エンコーダー周期ごとに)2画素分の駆動波形Wを発生する場合には、2画素分の駆動波形Wの最後の駆動波形Wを補正するとよい。
【0115】
<定速領域における速度モードの変更について>
前述の実施形態では、加減速領域におけるヘッド速度Vcが定速領域のヘッド速度Vcsに対して変化し、また、加減速領域内においてもヘッド速度Vcが変化するため、駆動波形Wの周波数fが変化してインク滴の噴射特性が変動してしまうことを防止するために、前の繰り返し周期の最後の駆動波形Wを補正している。しかし、加減速領域を印刷に使用するために、駆動波形Wの周波数が変動する時に繰り返し周期Tの最後の駆動波形を補正するに限らない。例えば、「速いモード」と「遅いモード(きれいモード)」の設定が可能なプリンターでは、異なる印刷モードの定速領域におけるヘッドの移動速度Vcが異なる。そして、印刷モードによって、定速領域のヘッド速度Vcは変更するが、1画素分の駆動波形Wを変更しない場合に、印刷モードによって駆動波形の周波数が変動してしまう。そこで、定速領域であっても、印刷モードに応じて、繰り返し周期Tの最後の駆動波形を補正し、インク滴の噴射特性を安定させることよい。
【0116】
<印刷データに基づく補正について>
前述の実施形態では、1画素分の駆動波形として4つの駆動波形を発生させた駆動信号COMを例に挙げている。1画素を2階調にて表現する場合には、4つの駆動波形Wを印加するか、または、駆動波形Wを印加しないことになる。この場合、印刷データが「ドット形成」を示せば、必ず、繰り返し周期Tの最後の駆動波形(第4波形W(4))が使用される。そのため、特に駆動波形Wの周波数fが高い場合には、第4波形W(4)と第1波形W(1)の間隔が短くなり、第4波形W(4)のインク噴射によるメニスカスの残留振動が制振されないうちに第1波形W(4)が印加されてしまう。そうすると、加減速領域において、第4波形W(4)と第1波形W(1)の間隔の変化により、第1波形W(1)のメニスカス状態がずれ、インク滴の噴射特性が変動してしまう。
そのため、1画素を2階調にて表現する場合であって、ある繰り返し周期Tの次の繰り返し周期Tにてインクが噴射される場合には、必ず、ある繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)をヘッド速度Vcに基づいて補正する。また、ある繰り返し周期Tの次の繰り返し周期Tにてインクが噴射されない場合には、次の繰り返し周期Tの間にメニスカスの残留振動が制振されるため、ある繰り返し周期Tの最後の駆動波形W(4)を補正しなくてもよい。
【0117】
このように、コントローラー10が、印刷データ(画像データ)に基づいて、次の周期においてインク滴が噴射されると判断した場合には、前の繰り返し周期(ある繰り返し周期に相当)の最後の駆動波形W(4)をヘッド速度Vcに基づいて補正された駆動信号COMを駆動信号生成回路15に生成させ、次の周期においてインク滴が噴射されないと判断した場合には、前の繰り返し周期の最後の駆動波形W(4)をヘッド速度Vcに基づいて補正しない駆動信号COMを駆動信号生成回路15に生成させてもよい。そうすることで、次の周期においてインク滴が噴射されない場合には、コントローラー10はヘッド速度Vcを算出したり、補正値を取得したりする必要がなく、定速領域の駆動信号COMと同じ駆動信号COMを駆動信号生成回路15に生成すればよく、補正処理が容易となる。
【0118】
一方、1画素を3階調にて表現する場合であって、印刷データによって、例えば、大ドットを形成するために4つの駆動波形W(1)〜W(4)がピエゾ素子に印加される場合と、小ドットを形成するために中央の2つの駆動波形W(2),W(3)がピエゾ素子に印加される場合とがあったとする。ある繰り返し周期Tの前の繰り返し周期が、大ドットを形成する場合には第4波形W(4)が印加されるが、小ドットを形成する場合には第4波形W(4)は印加されない。そのため、小ドット形成のために第3波形W(3)がピエゾ素子に印加されてから第1波形W(1)がピエゾ素子に印加されるまでの間に、第3波形W(3)のインク噴射によるメニスカスの残留振動が制振されていれば、加減速領域において第3波形W(3)と第1波形W(1)の間隔が変動しても、第1波形W(1)の印加開始時におけるメニスカス状態がずれることなく、噴射特性が変動しない。そのため、小ドットを形成する場合には、繰り返し周期Tにて最後にピエゾ素子に印加される第3波形W(3)はヘッド速度Vcに基づいて補正をしなくてもよく、大ドットを形成する場合には、繰り返し周期Tにて最後にピエゾ素子に印加される第4波形W(4)をヘッド速度Vcに基づいて補正する。もし、第3波形W(3)が印加されてから第1波形W(1)が印加されるまでの間に、メニスカスの残留振動が制振されない場合には、小ドットを形成する場合であっても、第3波形W(3)(周期の中で発生する複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形に相当)をヘッド速度Vcに基づいて補正する。また、次の繰り返し周期Tにインク滴が噴射されないときには、前の繰り返し周期にて小ドットが形成される場合であっても大ドットが形成される場合であっても、前の繰り返し周期Tの最後の駆動波形Wを補正する必要がない。
【0119】
<その他のプリンターについて>
前述の実施形態では、1つのヘッド41が用紙搬送方向と交差する移動方向に移動しながらインクを噴射するシリアル式のプリンターを例に挙げているがこれに限らない。例えば、紙幅長さに亘って移動方向にノズルが並んだヘッド(ノズル列)の下を搬送される用紙に対して、その固定されたヘッドからインクを噴射するライン式のプリンターであってもよい。ライン式のプリンターでは、ヘッドは移動しないが、ヘッドに対して用紙が搬送される。ヘッドに対して用紙を所定の速度にて搬送するとしても、用紙の搬送開始時および搬送停止時は、ヘッドに対する用紙の搬送速度が所定の速度よりも遅い。このようにライン式のプリンターにおいても、ヘッドに対する用紙の搬送速度が変動し、駆動波形の周波数が変動し、インク滴の噴射特性が変動する。そのため、前の繰り返し周期の最後に発生する駆動波形を補正し、インク滴の噴射特性を安定させるとよい。
【0120】
また、シリアル式のプリンターに限らず、印刷領域に搬送された連続紙に対して、連続紙の搬送方向に沿ってヘッドが移動しながら画像を形成する動作と、搬送方向と交差する方向にヘッドを移動する動作と、を交互に繰り返すプリンターであってもよい。
【0121】
<流体噴射装置について>
前述の実施形態では、流体噴射装置としてインクジェットプリンターを例示していたが、これに限らない。流体噴射装置であれば、プリンター(印刷装置)ではなく、様々な工業用装置に適用可能である。例えば、布地に模様をつけるための捺染装置、カラーフィルター製造装置や有機ELディスプレイ等のディスプレイ製造装置、チップへDNAを溶かした溶液を塗布してDNAチップを製造するDNAチップ製造装置等であっても、本件発明を適用することができる。
【0122】
また、流体の噴射方式は、駆動素子(ピエゾ素子)に電圧をかけて、インク室を膨張・収縮させることにより流体を噴射するピエゾ方式でもよいし、発熱素子を用いてノズル内に気泡を発生させ、その気泡によって液体を噴射させるサーマル方式でもよい。
【0123】
<駆動波形について>
前述の実施形態では、駆動素子に印加する電位を上昇させた時に圧力室412dが膨張し、電位を下降させた時に圧力室412dが収縮するヘッド41(図2)を例に挙げているがこれに限らない。例えば、駆動素子に印加する電位を上昇させた時に圧力室が収縮し、電位を下降させた時に圧力室が膨張するヘッドの場合は、図5Bに示す駆動波形Wを上下反転させたような駆動波形を用いればよい。
【符号の説明】
【0124】
1 プリンター、10 コントローラー、11 インターフェース部、
12 CPU、13 メモリー、14 ユニット制御回路、
15 駆動信号生成回路、151 波形生成回路、152 電流増幅回路、
20 搬送ユニット、30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、
32 キャリッジモーター、33 プーリ、34 タイミングベルト、
35 ガイド軸、40 ヘッドユニット、41 ヘッド、HC ヘッド制御部、
411 ケース、412 流路ユニット、412a 流路形成板、
412b 弾性板、412c ノズルプレート、412d 圧力室、
412e ノズル連通口、412f 共通インク室、412g インク供給路、
412h アイランド部、412i 弾性膜、421 第1シフトレジスタ、
422 第2シフトレジスタ、423 ラッチ回路群、424 データセレクタ、
50 検出器群、51 リニアスケール、60 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)駆動信号によって媒体に流体を噴射するヘッドと、
(2)前記ヘッドと前記媒体とを所定方向に相対移動させる移動機構と、
(3)前記ヘッドと前記媒体との前記所定方向への相対移動速度に応じた周期の中に複数の駆動波形を発生する前記駆動信号であって、前記複数の駆動波形を前記周期ごとに繰り返し発生する前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
(4)前記ヘッドと前記媒体とを前記所定方向に相対移動させながら前記ヘッドから流体を噴射させる制御部であって、
前記周期の中で発生する前記複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる制御部と、
(5)を有することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記ヘッドが有するノズルに対応する駆動素子に前記駆動波形が印加されることによって前記駆動素子は駆動し、
前記駆動素子の駆動によって、その前記駆動素子に対応する前記ノズルに連通する圧力室が膨張、収縮し、前記ノズルから流体が噴射され、
前記駆動波形は、前記圧力室を膨張させる膨張要素と、膨張した前記圧力室を収縮させる収縮要素と、前記圧力室内に生じる残留振動を抑制するための制振要素と、を含み、
前記制御部は、前記最後の駆動波形の前記制振要素が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる、
流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記最後の駆動波形を前記相対移動速度に基づいて補正するための補正値を記憶する記憶部を有し、
第1の相対移動速度から前記第1の相対移動速度に所定速度を加算した前記相対移動速度までの間の前記相対移動速度に対して設定された前記補正値の数の方が、
前記第1の相対移動速度よりも遅い第2の相対移動速度から前記第2の相対移動速度に前記所定速度を加算した前記相対移動速度までの間の前記相対移動速度に対して設定された前記補正値の数よりも、多い、
流体噴射装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の流体噴射装置であって、
前記ヘッドが有するノズルに対応する駆動素子に前記駆動波形が印加されることによって前記駆動素子は駆動し、
前記駆動素子の駆動によって、その前記駆動素子に対応する前記ノズルに連通する圧力室が膨張、収縮し、前記ノズルから流体が噴射され、
前記駆動波形は、前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記圧力室の膨張状態を保持するホールド要素と、膨張した前記圧力室を収縮させる収縮要素と、を含み、
前記制御部は、前記最後の駆動波形の前記ホールド要素が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる、
流体噴射装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の流体噴射装置であって、
前記ヘッドが有するノズルに対応する駆動素子に前記駆動波形が印加されることによって前記駆動素子は駆動し、
前記駆動素子の駆動によって、その前記駆動素子に対応する前記ノズルに連通する圧力室が膨張、収縮し、前記ノズルから流体が噴射され、
前記駆動波形は、前記圧力室を膨張させる膨張要素と、膨張した前記圧力室を収縮させる収縮要素と、を含み、
前記制御部は、前記最後の駆動波形の前記膨張要素が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を、前記駆動信号生成部に生成させる、
流体噴射装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の流体噴射装置であって、
前記制御部は、
画像データに基づいて、ある周期の次の周期において前記ヘッドから流体が噴射されるか否かを判断し、
前記次の周期において前記ヘッドから流体が噴射される場合には、前記ある周期の前記最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正された前記駆動信号を前記駆動信号生成部に生成させ、
前記次の周期において前記ヘッドから流体が噴射されない場合には、前記ある周期の前記最後の駆動波形が前記相対移動速度に基づいて補正されない前記駆動信号を前記駆動信号生成部に生成させる、
流体噴射装置。
【請求項7】
ヘッドと媒体とを所定方向に相対移動させながら、駆動信号によって前記ヘッドから流体を噴射させる流体噴射方法であって、
前記ヘッドと前記媒体との前記所定方向への相対移動速度に応じた周期の中に複数の駆動波形を発生し、前記複数の駆動波形を前記周期ごとに繰り返し発生する前記駆動信号において、前記周期の中で発生する前記複数の駆動波形のうちの最後の駆動波形を前記相対移動速度に基づいて補正することと、
前記駆動信号によって前記ヘッドから流体を噴射させることと、
を有することを特徴とする流体噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−201720(P2010−201720A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48390(P2009−48390)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】