説明

流体噴射装置

【課題】キャップ内に大きな負圧を発生させることが可能でありながら、空吸引時に泡が発生して、流体を正常に噴射できなくなる事態を回避する。
【解決手段】流体受け部の凹部に複数の吸引口を設け、各吸引口には、それぞれに吸引ポンプを接続する。クリーニング時には、流体受け部の凹部を噴射ヘッドに当接させて、複数の吸引ポンプを作動させ、大きな負圧を発生させてクリーニングを行う。また、空吸引時には、少なくとも1つの吸引ポンプを空気が逆流可能な状態として、他の少なくとも1つの吸引ポンプを作動させる。こうすれば、少なくとも1つの吸引ポンプを空気が逆流可能な状態としたときに、その吸引ポンプ内の流体が逆流して、流体受け部の凹部内の負圧を減少させ、その後、空吸引が行われるので、空吸引時に泡が発生して、流体を正常に噴射できなくなる事態を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドから流体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンタでは、微細な噴射ノズルから、正確な分量のインクを正確な位置に噴射することによって、高画質の画像を印刷することが可能である。また、この技術を利用して、インクの代わりに各種の流体を基板に向けて噴射すれば、電極や、センサ、バイオチップなどを製造することも可能である。
【0003】
このような技術では、インクなどの流体を、正確な位置に、正確な分量だけ噴射することが可能なように、専用の噴射ヘッドが用いられる。また、噴射ヘッド内に供給されたインクなどの流体は時間とともに粘度が増加して、適切に噴射することが困難となるので、流体を噴射しない間は噴射ヘッドにキャップを当接させて噴射ノズルの周囲を密閉することにより、流体の増粘などを抑制することが行われる。尚、流体の増粘を抑制するために、噴射ヘッドにキャップを当接させた状態は「キャッピング状態」と呼ばれる。
【0004】
噴射ヘッド内の流体はキャッピング状態でも少しずつ増粘するから、増粘が進んだ場合には、キャップを噴射ヘッドに当接させた状態でキャップの内部を吸引ポンプで負圧にすることにより、噴射ヘッド内の増粘した流体を噴射ノズルから強制的に吸い出す動作(クリーニング動作)が行われる。また、クリーニング動作を行った後は、吸い出された流体が噴射ノズルの周囲に付着したままとなっており、このままの状態で放置すると噴射ノズルの目詰まりなどの弊害を引き起こす。そこでクリーニング動作後は、キャップを噴射ヘッドから一旦離して、噴射ノズルの周囲に付着した流体を拭き取る動作(ワイピング動作)を行い、その後、キャップを噴射ヘッドに当接させて、キャッピング状態とする。
【0005】
もっとも、クリーニング動作を終了した直後のキャップ内は、噴射ヘッドから吸い出された流体で満たされた状態となっているので、そのままキャップを噴射ヘッドから外すとキャップ内に満たされていた流体がこぼれ出てしまう。そこで、キャップ内に空気を導入するための大気開放弁をキャップに予め設けておき、クリーニング動作を終了すると、吸引ポンプを作動させたまま大気開放弁を開いて空気を導入する空吸引を行った後、ワイピング動作を行ってキャッピング状態とすることが行われている(特許文献1など)。
【0006】
尚、噴射ヘッド内の流体の増粘が進むと流体を吸い出すことが困難となるので、このような場合を考慮すると、吸引ポンプはできるだけ大きな負圧を発生させることの可能なポンプが望ましい。
【0007】
【特許文献1】特開2001−342975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、吸引ポンプでキャップ内に発生させる負圧が大きくなると、大気開放弁を開いて空吸引を行ったときに、勢い良く空気が流入してキャップ内に泡を発生させ、この泡が噴射ノズル内に混入して、流体を正常に噴射できなくなる場合があるという問題があった。
【0009】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、キャップ内に大きな負圧を発生させることが可能でありながら、空吸引時に泡が発生して、流体を正常に噴射できなくなる事態を回避可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記噴射ノズルからの流体を受ける凹部が形成されるとともに、該凹部を前記噴射ヘッドに当接することで、前記噴射ノズルの周囲に閉空間を形成する流体受け部と、
前記流体受け部の凹部に設けられたそれぞれの吸引口から、該凹部内の流体を吸引可能な複数の吸引ポンプと、
前記噴射ヘッドに前記流体受け部の凹部を当接させた状態で前記複数の吸引ポンプを作動させることにより、該噴射ヘッド内の流体を前記噴射ノズルから吸引する流体吸引動作を行う流体吸引手段と、
前記流体吸引動作の終了後、少なくとも1つの前記吸引ポンプを空気が逆流可能な状態とするとともに、他の少なくとも1つの前記吸引ポンプを作動させることにより、前記凹部内の流体を空気とともに吸引する空吸引動作を行う空吸引手段と
を備えることを要旨とする。
【0011】
このような本発明の流体噴射装置においては、噴射ノズルからの流体を、流体受け部に設けられた凹部で受けることが可能となっている。凹部には複数の吸引口が設けられており、各吸引口には吸引ポンプがそれぞれ接続されている。そして、流体受け部の凹部を噴射ヘッドに当接させて、複数の吸引ポンプを作動させることにより、噴射ヘッド内の流体を噴射ノズルから吸引する流体吸引動作が可能となっている。更に、流体吸引動作の終了とは、少なくとも1つの吸引ポンプを空気が逆流可能な状態として、他の少なくとも1つの吸引ポンプを作動させることで空吸引動作を行うことが可能となっている。
【0012】
こうすれば、複数の吸引ポンプを同時に作動させることで、流体受け部の凹部内に大きな負圧を発生させることができるので、たとえ噴射ヘッド内の流体の増粘が進んだ場合でも、噴射ノズルから流体を吸い出すことができる。また、こうした流体吸引動作の終了後は、少なくとも1つの吸引ポンプを空気が逆流可能な状態としたときに、その吸引ポンプ内の流体が逆流して、流体受け部の凹部内の負圧を減少させ、その後、空吸引が行われるので、空吸引時に泡が発生して、流体を正常に噴射できなくなる事態を回避することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、噴射ノズルから吸引された流体が溜められる廃流体タンクを備えるとともに、廃流体タンクと、それぞれの各吸引ポンプの排出口とを、廃流体チューブで接続することとしても良い。
【0014】
こうすれば、吸引ポンプから吸い出された流体は廃流体タンクに流入させることができるので、好適である。
【0015】
また、このとき、空吸引動作時に空気が逆流可能な状態とされる吸引ポンプの廃流体チューブは、他の吸引ポンプの廃流体チューブよりも、廃流体タンクの内部に浅く挿入しておくこととしてもよい。
【0016】
こうすれば、空吸引動作時に、他の吸引ポンプ(吸引動作中の吸引ポンプ)の廃流体チューブの先端が、廃流体タンク内で流体に浸かっている場合でも、空気が逆流可能な状態となっている吸引ポンプの廃流体チューブの先端は流体に浸からずに、空気を取り入れることが可能となり、空吸引動作を行うことが可能となるので好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.メンテナンス機構の構造:
C.メンテナンス動作:
【0018】
A.装置構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンタを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンタ10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラ40と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構100などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されたヘッドアセンブリ24などが設けられている。後述するように、ヘッドアセンブリ24にはインクを噴射する複数の噴射ヘッドが設けられており、インクカートリッジ26内のインクを、噴射ヘッドから正確な分量だけ印刷媒体2に噴射することによって、画像が印刷されるようになっている。
【0019】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモータ36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿ってキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動プーリ34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモータ36で駆動プーリ34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させることが可能となっている。
【0020】
印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラ40は、図示しない駆動モータやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。
【0021】
また、メンテナンス機構100は、印字領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられており、ヘッドアセンブリ24の底面に設けられた噴射ヘッドを払拭するワイパーブレード110や、ヘッドアセンブリ24の底面側に押しつけられて噴射ヘッドとの間に密閉空間を形成するキャップ部130、キャップ部130の下方の位置に設けられた吸引ポンプユニット140、更に吸引ポンプユニット140の下方に設けられた廃液タンク120などから構成されている。印刷を行わないときには、キャリッジ20をホームポジションまで移動させて、ヘッドアセンブリ24の底面にキャップ部130を押しつけることにより、ヘッドアセンブリ24に搭載された噴射ヘッドとの間に密閉空間を形成する。後述するように噴射ヘッドには、インクを噴射するための微少な噴射ノズルが開口しているが、キャップ部130を押し付けて密閉空間を形成することにより、噴射ヘッド内のインクの乾きによる増粘を防止することができる。
【0022】
もっとも、キャップ部130を押し付けてインクの乾きを防いだとしても、長い間には、少しずつインク内の水分や揮発成分が減少して、インクの性状が変化(特に粘度が増加)してしまう。そこで、軽微な増粘の場合には、ヘッドアセンブリ24をキャップ部130の位置まで移動させて、増粘したインクを噴射する動作(フラッシング動作)を行うことにより、ヘッドアセンブリ24内のインクの性状を正常な状態に回復させる。また、フラッシング動作では回復できなかった場合や、長い期間に亘ってインクジェットプリンタ10が使用されなかったなどの原因でインクの増粘が進んでしまった場合には、吸引ポンプユニット140に内蔵された吸引ポンプを作動させて密閉空間を負圧にすることにより、ヘッドアセンブリ24内部のインクを噴射ノズルから吸い出す動作(クリーニング動作)を行う。これらフラッシング動作やクリーニング動作によって排出されたインクは、廃液タンク120に溜められる。また、クリーニング動作後は、ヘッドアセンブリ24に設けられた噴射ヘッドの表面にはインクが付着した状態となっており、このまま放置しておくと、噴射ノズルの目詰まり、あるいは印刷媒体の印刷面の汚れなどの原因になる。そこで、クリーニング動作後は、噴射ヘッドの表面に付着したインクを、ワイパーブレード110を用いて払拭するようになっている。
【0023】
図2は、ヘッドアセンブリ24の底面側の構成を示す説明図である。図示されているように、ヘッドアセンブリ24の底面には複数の噴射ヘッド25が設けられており、それぞれの噴射ヘッド25には、インクを噴射する小さな噴射ノズルNzが等間隔で設けられている。また、これら噴射ヘッド25は所定個数ずつ(図示した例では2個ずつ)が1組となっており、各組の噴射ノズルNzからは、Y(イエロ)色、M(マゼンタ)色、C(シアン)色、K(黒)色のインクが噴射されるようになっている。
【0024】
B.メンテナンス機構の構造 :
図3は、メンテナンス機構100の詳細な構造を示した説明図である。図示されるように、キャップ部130の上面側(ヘッドアセンブリ24と向き合う側)には矩形形状の凹部132が設けられており、フラッシング動作時やクリーニング動作時に噴射ヘッド25から排出されるインクを、凹部132で受けることが可能となっている。また、凹部132の底面には、2箇所に吸引口134が設けられている。
【0025】
吸引ポンプユニット140には、2台の吸引ポンプ150が収納されており、一方の吸引ポンプ150は、凹部132に設けられた一方の吸引口134に吸引チューブ142によって接続され、他方の吸引ポンプ150は、他方の吸引口134に吸引チューブ142によって接続されている。2台の吸引ポンプ150は、図示しないモーターに接続されており、2台の吸引ポンプ150を同時に作動させると、凹部132に設けられた2つの吸引口134から同時にインクを吸引することが可能となる。また、これらの吸引ポンプ150は、一方のみを単独で作動させることが可能となっている。
【0026】
図4は、吸引ポンプ150の詳細な構造を概念的に示した説明図である。吸引ポンプ150は、大まかに言うと略円板形状の回転円板152の外周に吸引チューブ142を巻き付けて、その状態で回転円板152と吸引チューブ142とをケース154に格納したような構造となっている。尚、図4では、図面の分かり易さを考慮して、吸引チューブ142が回転円板152の外周を完全には一周していない状態で表示されているが、実際には、回転円板152の外周を完全に一周した状態となっている。
【0027】
また、回転円板152には、円板形状の小さなコマ156が回転可能な状態で、ガイド溝158に軸支されている。ガイド溝158は、回転円板152の外周面に対して角度が付けられており、ガイド溝158の一端側は回転円板152の外周面に近付くが、他端側は外周面から遠ざかるように形成されている。このため、コマ156の回転軸が、ガイド溝158の一端側にある場合は、コマ156が回転円板152の外周面から大きく突出した状態となり、逆に、ガイド溝158の他端側にある場合は、回転円板152の外周面から僅かに突出した状態となる。
【0028】
このような構成の吸引ポンプ150は次のように作動する。図示しないモーターを作動させて、回転円板152を正方向(図中に矢印で示した方向)に回転させる。すると、回転円板152に設けられた2つのコマ156は、吸引チューブ142からの摩擦力を受けて、ガイド溝158の一端側に移動し、回転円板152の外周面から大きく突出した状態となる。図4には、このように回転円板152の外周面からコマ156が大きく突出した状態を表している。図示されているように、この状態では、大きく突出したコマ156によって、吸引チューブ142が押し潰されて、その部分で閉塞した状態となっている。
【0029】
このような状態で、回転円板152を正方向に回転させると、コマ156の移動にともなって、吸引チューブ142が押し潰された箇所も移動していき、その結果として、吸引チューブ142内のインクが下流に押し出され、吸引ポンプ150の排出口144から廃インクチューブ146を介して、廃液タンク120へと排出される。従って、図4に示すように、吸引チューブ142の上流側をキャップ部130の吸引口134に接続するとともに、吸引チューブ142の下流側は、排出口144を介して廃インクチューブ146を接続した状態で、回転円板152を正方向に回転させれば、キャップ部130の凹部132に溜まったインクを吸引して、廃液タンク120内に排出することができる。
【0030】
また、回転円板152を逆方向に回転させると、コマ156は吸引チューブ142からの摩擦力を受けて、ガイド溝158を他端側に移動する。上述したように、ガイド溝158の他端側は、回転円板152の外周面から遠ざかるように形成されているから、ガイド溝158の一端側から他端側にコマ156が移動するに従って、コマ156の突出量は小さくなり、他端側では、コマ156は吸引チューブ142に接触しているものの、閉塞はしていない状態となる。従って、回転円板152を逆方向の回転させることで、廃インクチューブ146の出口からキャップ部130の吸引口134までが、吸引チューブ142を介して連通した状態とすることが可能となる。
【0031】
前述したように、本実施例のインクジェットプリンタ10では、上述した吸引ポンプ150を2台搭載している。その結果、以下に説明するように、特異な態様でクリーニング動作および空吸引動作を行うことが可能となっている。以下では、本実施例のインクジェットプリンタ10で行われるクリーニング動作および空吸引動作について説明する。尚、以下では、クリーニング動作および空吸引動作の2つの動作を合わせてメンテナンス動作と呼ぶことにする。
【0032】
C.メンテナンス動作 :
図5は、本実施例のインクジェットプリンタ10がメンテナンス動作を行う様子を示した説明図である。図5(a)には、メンテナンス動作の最初の動作として、クリーニング動作を行う様子が示されている。クリーニング動作では、ヘッドアセンブリ24の底面側にキャップ部130を当接させて密閉空間を形成した状態で、吸引ポンプ150を作動させる。上述したように、本実施例のインクジェットプリンタ10では、2台の吸引ポンプ150を搭載しているから、それらを区別する必要がある場合には、吸引ポンプ150a、吸引ポンプ150bと呼んで区別することにする。
【0033】
図5(a)に示されるように、2台の吸引ポンプ150a,150bを正回転させると、それぞれの吸引ポンプ150a、150bで発生した負圧が、同時にキャップ部130の凹部132に作動して、噴射ヘッド25内からインクを吸引する。吸引されたインクは、キャップ部130の凹部132に溜められるとともに、それぞれの吸引ポンプ150a,150bによって廃液タンク120へと排出される。図5(a)では、キャップ部130の凹部132に付された斜線は、凹部132がインクで満たされている様子を表したものである。
【0034】
このように、2台の吸引ポンプ150a,150bを用いて同時に吸引するので、キャップ部130の凹部132内に大きな負圧を発生させることが可能であり、その結果、たとえヘッドアセンブリ24内のインクの増粘が進んでしまった場合でも、増粘したインクを吸い出すことにより、ヘッドアセンブリ24内を正常な状態に復帰させることが可能となる。
【0035】
クリーニング動作を行って、ヘッドアセンブリ24内から増粘したインクを吸い出したら、キャップ部130を外してワイピング動作を行うべく、空気を導入しながら凹部132内のインクを全て排出する空吸引を開始する。もっとも、本実施例のインクジェットプリンタ10では、2台の吸引ポンプ150a,150bを同時に作動させて凹部132内に大きな負圧を発生させているので、空吸引時に導入した空気が凹部132で泡を発生させて、噴射ノズル内に混入し、正常にインクを噴射できなくなる等の不都合が発生する虞がある。そこで、本実施例のインクジェットプリンタ10では、次のようにして空吸引を行う。
【0036】
先ず、一方の吸引ポンプ150aは正回転させたまま、他方の吸引ポンプ150bを逆回転させる。すると、図4を用いて前述したように、逆回転させた吸引ポンプ150bは、上流側(凹部132に接続された側)と下流側(廃液タンク120に接続された側)とが連通した状態となる。ここで、凹部132内には大きな負圧が発生しており、廃液タンク120内には負圧は発生していないから、その圧力差によって、吸引ポンプ150bの吸引チューブ142および廃インクチューブ146内のインクが逆流して、凹部132内に流入する。その結果、凹部132内の負圧が減少する。図5(b)には、このようにして、吸引ポンプ150bを逆回転させることで、インクが逆流し、凹部132内の負圧を減少させる様子が示されている。尚、図5(b)では、逆回転させた吸引ポンプ150bについては、上流側と下流側とが連通した状態となった後は、回転を停止させても良い。
【0037】
こうして一方の吸引ポンプ150aは正回転させ、他方の吸引ポンプ150bは逆回転させたまま(あるいは逆回転させた後、停止させたまま)としておくと、逆回転させた吸引ポンプ150b内のインクが全て逆流し、その後は、廃液タンク120内から空気が逆流することとなって、いわゆる空吸引が開始される。すなわち、正回転している吸引ポンプ150aが凹部132内のインクを吸い出すと、その分の負圧によって、他方の吸引ポンプ150bを逆流して空気が吸い込まれていく。
【0038】
尚、本実施例のインクジェットプリンタ10では、空吸引が開始される前に、逆回転させた吸引ポンプ150b内のインクが逆流して凹部132内の負圧が減少しているので、空吸引時に流入した空気が凹部132内で泡を発生させることはない。また、図5に示されるように、逆回転させる吸引ポンプ150bに接続された廃インクチューブ146bは、正回転させる吸引ポンプ150aの廃インクチューブ146aよりも、廃液タンク120内の浅い位置までしか挿入されていない。このため、たとえ、正回転させる吸引ポンプ150aの廃インクチューブ146aの先端が、インクに浸かった場合でも、逆回転させる吸引ポンプ150bの廃インクチューブ146bの先端はインクに浸からずに、空気を吸い込むことが可能となっている。
【0039】
図5(c)には、以上のようにして、凹部132内の全てのインクを吸い出した様子が示されている。図中に細い破線で示した矢印は、吸引ポンプ150bから逆流した空気が、吸引ポンプ150aから吸い出される様子を表している。このような状態となったら、吸引ポンプ150a,150bを停止させて、空吸引動作を終了する。その後は、キャップ部130を下降させてヘッドアセンブリ24から外した後、ワイピング動作を行えばよい。
【0040】
以上に説明したように、本実施例のインクジェットプリンタ10では、2台の吸引ポンプ150を作動させることによって、キャップ部130の凹部132内に大きな負圧を発生させることができるので、ヘッドアセンブリ24内のインクの増粘が進んでしまった場合でも、正常な状態に復帰させることが可能となる。また、クリーニング動作後は、一方の吸引ポンプ150aは作動させたまま、他方の吸引ポンプ150bは逆流可能な状態とすることで、吸引ポンプ150b内のインクを逆流させて凹部132内の負圧を減少させた後、空吸引を開始することができる。その結果、空気が勢い良く流入して凹部132内に泡を発生させ、この泡が噴射ノズル内に混入して、インクを正常の噴射できなくなると行った問題を発生させる虞もない。
【0041】
更に、空吸引を行うために、吸引ポンプ150bを逆流可能な状態にすると、自動的に吸引ポンプ150b内のインクが逆流して凹部132内の負圧が減少するので、凹部132内の負圧を減少させるために特別な動作を行う必要がなく、インクジェットプリンタ10の構造や制御が複雑になることもない。
【0042】
以上、本実施例の印刷装置について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0043】
例えば、上述した実施例では、印刷用紙上でヘッドアセンブリ24を往復動させながら画像を印刷する所謂シリアルプリンタについて説明した。しかし、ヘッドアセンブリ24は移動させずに、印刷用紙を搬送することによって画像を印刷する所謂ラインプリンタに対しても、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】いわゆるインクジェットプリンタを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】ヘッドアセンブリの底面側の構成を示す説明図である。
【図3】メンテナンス機構の詳細な構造を示した説明図である。
【図4】吸引ポンプの詳細な構造を概念的に示した説明図である。
【図5】本実施例のインクジェットプリンタがメンテナンス動作を行う様子を示した説明図である。
【符号の説明】
【0045】
2…印刷媒体、 10…インクジェットプリンタ、 20…キャリッジ、
24…ヘッドアセンブリ、 25…噴射ヘッド、 30…駆動機構、
100…メンテナンス機構、 110…ワイパーブレード、 120…廃液タンク、
130…キャップ部、 132…凹部、 134…吸引口、
140…吸引ポンプユニット、 142…吸引チューブ、 144…排出口、
146…廃インクチューブ、 150…吸引ポンプ、 152…回転円板、
154…ケース、 156…コマ、 158…ガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記噴射ノズルからの流体を受ける凹部が形成されるとともに、該凹部を前記噴射ヘッドに当接することで、前記噴射ノズルの周囲に閉空間を形成する流体受け部と、
前記流体受け部の凹部に設けられたそれぞれの吸引口から、該凹部内の流体を吸引可能な複数の吸引ポンプと、
前記噴射ヘッドに前記流体受け部の凹部を当接させた状態で前記複数の吸引ポンプを作動させることにより、該噴射ヘッド内の流体を前記噴射ノズルから吸引する流体吸引動作を行う流体吸引手段と、
前記流体吸引動作の終了後、少なくとも1つの前記吸引ポンプを空気が逆流可能な状態とするとともに、他の少なくとも1つの前記吸引ポンプを作動させることにより、前記凹部内の流体を空気とともに吸引する空吸引動作を行う空吸引手段と
を備える流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記噴射ノズルから吸引された流体が溜められる廃流体タンクと、
一端側が前記吸引ポンプの排出口に接続されるとともに、他端側が前記廃流体タンクの内部に挿入された複数の廃流体チューブと
を備える流体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記空吸引動作時に空気が逆流可能な状態とされる前記吸引ポンプの前記廃流体チューブは、他の吸引ポンプの廃流体チューブよりも、前記廃流体タンクの内部に浅く挿入されたチューブである流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−23389(P2010−23389A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189459(P2008−189459)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】