説明

流体圧倍力装置

【課題】操作の急操作および緩操作に関わらず、作動開始時に異音の発生を抑制しつつ、生産性の向上を阻害するのを防止できる流体圧倍力装置を提供する。
【解決手段】入力軸10および弁プランジャ11が前進すると、大気弁VAが開いて大気が吸入されて変圧室内に導入される。このとき、入力軸10が所定ストロークまで移動していなく、弁プランジャ11の突起33が制御弁体14の内周面34a内に位置してオリフィス35が形成されるので、大気が流量を制限されて吸入される。したがって、異音の発生が防止される。入力軸10が所定ストローク移動すると、弁プランジャ11の突起33が制御弁体14の内周面34aから脱出してオリフィス35が消滅する。すると、オリフィス35による大気の流量が制限されなくなり、比較的多量の大気が吸入されて変圧室8内に導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ倍力装置等に用いられる負圧倍力装置を始め、負圧やエア圧等の流体圧により入力を倍力して出力する流体圧倍力装置の技術分野に関し、特に、作動開始時での流体の流動による異音の発生を抑制した流体圧倍力装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキシステムにおいては、小さなペダル踏力でも大きなブレーキ力を得ることができるようにするために、従来、ペダル踏力を流体圧で倍力して大きな出力を発生する流体圧倍力装置が多々採用されている。このような流体圧倍力装置の1つとして、負圧でペダル踏力を倍力して大きな出力を得る負圧倍力装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、特許文献1に開示されている負圧倍力装置を示す断面図である。図4中、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はパワーピストン部材、5はダイヤフラム、6はパワーピストン、7は一定の低圧である負圧に保持される定圧室、8は作動時に高流体圧の流体である大気が高流体圧源である外部の大気源から導入される変圧室、9はバルブボディ、10は入力軸、11は弁プランジャ、12は弁プランジャ11に設けられかつ高圧弁座である環状の大気弁座、13はバルブボディ9に設けられかつ低圧弁座である環状の負圧弁座、14は高圧弁部でありかつ大気弁座12および負圧弁座13に対してそれぞれ着離座可能な環状の大気弁部15と低圧弁部でありかつ環状の負圧弁部16とを有する制御弁体、17は制御弁、18,19,20は通路孔、21は出力軸、22はパワーピストン6を非作動位置方向に常時付勢するリターンスプリング、23はリアクションディスク、24は負圧導入管、および25は大気導入口である。
【0004】
この負圧倍力装置1の非作動状態では、制御弁体14が大気弁座12に着座し、かつ、負圧弁座13からわずか離座してて高圧弁である大気弁VAが閉じ、かつ、低圧弁である負圧弁VVが開いている。この非作動状態では、変圧室8は大気から遮断され、かつ、定圧室7に連通されていて、この変圧室8には負圧が導入されている。したがって、パワーピストン6は作動しない。
【0005】
この非作動状態から、図示しないブレーキペダルが踏み込まれると、入力軸10が前方(図4において左方)へストロークして、弁プランジャ11が前進するので、負圧弁部16が負圧弁座13に着座して負圧弁VVが閉じ、その後、大気弁座12が大気弁部15から離座して大気弁VAが開く。これにより、変圧室8が定圧室7から遮断され、かつ、大気に連通する。すると、大気が変圧室8に導入されて変圧室8と定圧室7との間に差圧が生じるので、パワーピストン6が前進し、負圧倍力装置1は出力軸21を介して出力する。この出力が図示しないブレーキマスタシリンダのピストンに伝達されて、ブレーキマスタシリンダがブレーキ圧を発生する。
【0006】
ブレーキマスタシリンダのブレーキ圧による反力で、出力軸21がリアクションディスク23を介して弁プランジャ11に当接し、リアクションディスク23の弾性変形により発生する力が弁プランジャ11および入力軸10を介してブレーキペダルに反力として伝えられる。
【0007】
負圧弁VVおよび大気弁VAがともに閉じた中間負荷状態になると、負圧倍力装置1の出力はペダル踏力を所定のサーボ比で倍力した大きな出力となる。したがって、マスタシリンダはこの大きな出力に対応したブレーキ圧を発生し、このブレーキ圧によりブレーキが作動する。このときのブレーキ力はペダル踏力を倍力した大きなブレーキ力となる。
【0008】
ブレーキペダルを解放すると、入力軸10および弁プランジャ11がともに後退(図4において右方へ移動)し、大気弁VAが閉じた状態で負圧弁VVが開く。すると、変圧室8が定圧室7に連通し、変圧室8に導入された大気は定圧室7に流動し、更に負圧導入管24から排出される。これにより、変圧室8の圧力が低下し、リターンスプリング22のばね力で、バルブボディ9、パワーピストン6および出力軸21がともに後退して非作動位置となり、また制御弁17が図示の非作動状態となる。すなわち、負圧倍力装置1が図4に示す非作動状態となる。
【0009】
ところで、負圧倍力装置1では、ブレーキペダルの踏込みでブレーキ操作が行われて、負圧倍力装置1がマスタシリンダのピストンを押動したとき、マスタシリンダのピストンがストロークを開始してから所定のブレーキ圧が発生するまでにロスストロークがある。このマスタシリンダのロスストローク領域では、マスタシリンダでブレーキ圧がほとんど発生しないかあるいは発生しても比較的小さいため、出力軸21がリアクションディスク23を押圧しても、リアクションディスク23の弾性変形量が小さく、リアクションディスク23が弁プランジャ11に当接しない。このため、マスタシリンダのロスストローク領域では、ブレーキペダルに反力が伝達されない。
【0010】
このような負圧倍力装置1において、ブレーキペダルを急踏みした場合、変圧室8に大気が通常時のブレーキ操作より急速に導入される。しかし、マスタシリンダのロスストローク領域では、ブレーキペダルに反力が伝達されないため、変圧室8に急速に導入されたパワーピストン6がオーバーストロークしてしまう。すると、バルブボディ9もオーバーストロークするので、負圧弁VVが開き、変圧室8に導入された大気が負圧弁VVを介して定圧室7側に抜けるようになる。そして、変圧室8の大気が抜ける際に異音が発生してしまう。
【0011】
そこで、ブレーキペダルの急踏み時に変圧室8に導入される大気の量を制限することで、この異音の発生を防止した負圧倍力装置が提案されている(例えば、特許文献2等参照)。
図5は特許文献2に開示されている負圧倍力装置の制御弁の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。なお、図4に示す従来例の負圧倍力装置と同じ構成要素には同じ符号を付すことで、その詳細な説明は省略する。
【0012】
図5に示すよう、特許文献2に開示されている負圧倍力装置1においては、制御弁17の大気弁VAが変圧室8と大気側との連通を開閉する第1大気弁VA1と、この第1大気弁VA1よりも内周側(大気側)で変圧室8と大気との連通を開閉する第2大気弁VA2とからなっている。また、第1大気弁VA1と第2大気弁VA2との間と大気とを常時連通するオリフィス通路26とを備えている。
【0013】
その場合、制御弁17の第1大気弁VA1が大気弁座12に着離座可能な環状の第1大気弁部27を有しているとともに、制御弁17の第2大気弁VA2が第1大気弁部27の内側に設けられかつ大気弁座12に着離座可能な環状の第2大気弁部28を有している。
【0014】
そして、負圧倍力装置1の非作動時には、第1大気弁VA1と第2大気弁VA2とがともに閉じて大気およびオリフィス通路26が変圧室8に連通するのが阻止され、また負圧倍力装置1の作動開始時には、第2大気弁VA2が閉じている状態で、まず、第1大気弁VA1が開くことにより、変圧室8がオリフィス通路26を介して大気に連通される。これにより、大気がオリフィス通路26で流量を制限されて吸入されて変圧室8に導入される。その後、第2大気弁VA2が開くことにより、変圧室8が第2大気弁VA2および第1大気弁VA1を介して大気に連通される。これにより、オリフィス通路26の大気の流量制限機能が無効にされ、大気が流量を制限されずに吸入されて変圧室8に導入される。このように、大気が変圧室8に最初オリフィス通路26で流量を制限されて導入され、次いで流量を制限されずに導入されることにより、ブレーキペダルの急踏みによるブレーキ作動初期の異音の発生を防止することができる。
【特許文献1】特開昭57−107945号公報。
【特許文献2】特開2003−127851号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、この特許文献2に開示の負圧倍力装置1においては、ブレーキペダルがゆっくり踏み込まれた場合、第1大気弁VA1が開かれた後第2大気弁VA2が開かれるまで、大気の吸入が少なく、オリフィス通路26および第1大気弁VA1の第1大気弁部27と大気弁座12との間の隙間を通過する大気の通過音(流入音)が生じるようになる。
【0016】
また、オリフィス通路26の流量制限機能を無効にするために、特別な第1大気弁部27を従来の大気弁部である第2大気弁部28の他に設ける必要がある。このため、制御弁体14が複雑な形状とならざるを得ない。しかも、第1大気弁部27と第2大気弁部28とを1つの制御弁17の1つの面に設けるとともに、これらの第1および第2大気弁部27,28が弁プランジャ11の1つの大気弁座12に着離座するようになっているため、第1大気弁VA1が開かれた後第2大気弁VA2が開かれるまでのタイミングの設定が比較的難しい。そのうえ、オリフィス通路26がゴム等の可撓性の材料からなる制御弁体14に設けられるため、オリフィス通路26の断面積が変化して大気の流量が変化してしまうおそれがあり、制御弁体14のオリフィス通路26形成部を補強プレート29で補強している。このように、制御弁体14が複雑な形状で加工工数が多くなり、生産性の向上が阻害されることが考えられる。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、操作の急操作および緩操作に関わらず、作動開始時に異音の発生を抑制しつつ、生産性の向上を阻害するのを防止できる流体圧倍力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明の流体圧倍力装置は、一定の低流体圧が導入されている定圧室と、作動時に前記低流体圧より高い高流体圧が高流体圧源から導入される変圧室と、これらの定圧室および変圧室を区画するパーピストンと、前記定圧室と変圧室との連通を開閉する低圧弁と、前記変圧室と前記高流体圧源との連通を開閉制御する高圧弁と、入力が加えられて前記低圧弁および前記高圧弁の開閉制御を行う入力軸と少なくとも備え、前記入力軸の作動方向への移動時前記高圧弁が開いて前記変圧室へ前記高流体圧の流体を導入して前記変圧室と前記定圧室との間に発生する差圧で前記パワーピストンが作動することにより出力する流体圧倍力装置において、前記高圧弁の前記高流体圧源側に導入される前記高流体圧の流体の流量を制限する流量制限手段が設けられており、前記流量制限手段が、それ自体前記入力軸の所定ストロークまでの移動時に存在して前記高流体圧の流体の流量を制限可能にし、前記入力軸の所定ストローク以上の移動時に消滅して前記高流体圧の流体の流量を制限しないことを特徴としている。
【0019】
また、請求項2の発明は、前記パワーピストンが設けられるバルブボディと、このバルブボディに摺動可能に挿入されかつ前記入力軸によって移動される弁プランジャと、前記バルブボディに設けられた低圧弁座、前記弁プランジャに設けられた高圧弁座、および前記低圧弁座に着座可能な低圧弁部と前記高圧弁座に着座可能な高圧弁部とを有する制御弁体とを備え、前記低圧弁が前記低圧弁座と前記低圧弁部とから構成されるとともに、前記高圧弁が前記高圧弁座と前記高圧弁部とから構成され、前記流量制限手段が、前記弁プランジャと前記制御弁体との間に設けられていることを特徴としている。
【0020】
更に、請求項3の発明は、前記流量制限手段がオリフィスであり、前記弁プランジャに環状の突起が設けられているとともに、前記制御弁体に前記高流体圧の流体の流体流通孔が設けられており、前記入力軸の非作動時に前記突起の外周面が前記流体流通孔の内周面に所定の環状の隙間をおいて対向するように配置されており、前記オリフィスが前記隙間で形成されているとともに前記入力軸の非作動時に存在して前記高流体圧の流体の流量を制限可能にし、かつ、前記入力軸の所定ストロークの移動時に前記突起が前記内周面から脱出することで消滅することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
このように構成された本発明に係る流体圧倍力装置によれば、流量制限手段を設けるとともに、この流量制限手段自体を入力軸の所定ストロークまでの移動時には存在させるが、入力軸の所定ストローク以上の移動時には消滅するようにしているので、前述の特許文献2に記載の負圧倍力装置における流量制限手段の流量制限機能を無効に制御するための大気弁のような特別な弁を設けなくても、高流体圧の流体の流量制限を制御することができる。これにより、操作の急操作および緩操作に関わらず、作動開始時に異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0022】
また、前述のように特別の弁を設けなくても済むので、従来の高圧弁を特別に複雑な形状に設計変更することなく、作動開始時での異音の発生を抑制しつつ、従来のものをそのままを用いることができて生産性を向上することが可能となるとともに、流量制限手段による流体の流量制限から流量制限解除へのタイミングを容易に制御することができる。特に、加工し易い弁プランジャに環状の突起を設け、この環状の突起の外周面と制御弁体の流体流通孔の内周面との間で流量制限手段のオリフィスを構成することで、より一層生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明に係る流体圧倍力装置の実施の形態の一例として適用されたブレーキシステムの負圧倍力装置を示す、図4と同様の断面図、図2は図1におけるII部の部分拡大断面図である。なお、前述の図4および図5に示す従来例の負圧倍力装置と同じ構成要素には同じ符号を付すことでによりその詳細な説明は省略する。
【0024】
前述の図4に示す従来例の負圧倍力装置1における制御弁17では、制御弁体14の後端部がリテーナ30でバルブプランジャ9に固定されているとともに、制御弁体14の大気弁部15および負圧弁部16が弁ばね31で常時大気弁座12および負圧弁座13側に付勢されているが、図1に示すように、この例の負圧倍力装置1における制御弁17では、制御弁体14の後端部がリテーナ30の第1筒状部32の内周面に摺動可能に支持されている。
【0025】
また、図2に拡大して示すように、大気弁部15が制御弁体14の丸くR部にされた角部に設けられているとともに、環状の大気弁座12が、前端(図2において左端)の直径が大きくかつ後端(図2において右端)の直径が小さい截頭円錐台形状の斜面にされている。また、弁プランジャ11には、環状の突起33が大気弁座12より後方に隣接して設けられている。突起33の頂部は弁プランジャ11の軸方向に平行な所定幅の外周面33aとされている。また、この環状の突起33は、負圧倍力装置1の非作動時に、制御弁体14の大気弁部15に隣接しかつ大気が流動する流動孔34内に進入してこの流動孔34の内周面34aと小さな隙間を置いて対向するようにされている。この隙間によって、流量制限手段である環状のオリフィス35が形成される。その場合、内周面34aの直径は後方から前方(図2において右方から左方)に向かって連続して漸増するように設定されており、内周面34aは截頭円錐台形状に形成されている。
【0026】
したがって、環状のオリフィス35は、突起33が制御弁体14に対して前方へ相対移動するとその開口面積が漸増し、更に突起33が制御弁体14に対して所定量前方へ相対移動すると突起33が内周面34aから脱出し、消滅する。これにより、弁プランジャ11が前進して大気弁VAが開いた初期では、大気がオリフィス35によって流量を制限されて吸入され、弁プランジャ11の更なる前進移動でオリフィス35の制限が漸減するので、大気の吸入量が漸増し、オリフィス35が消滅すると、オリフィス35による制限がなくなるので、大気の吸入量が増大するようになっている。
【0027】
このように、この例の負圧倍力装置1では、大気弁VAの大気源側に導入される高流体圧の大気の流量を制限する機能を備えたオリフィス35が設けられているとともに、このオリフィス35が入力軸10の所定ストロークまでの移動時では前述の機能により大気の流量を制限可能にし、入力軸10の所定ストローク以上の移動時では前述の機能をなくして、大気の流量を制限しない。
【0028】
更に、負圧倍力装置1の非作動時には、大気弁部15が大気弁座12に着座して大気弁VAが閉じているが、大気弁部15が大気弁座12に着座した位置と環状の突起33との間で、かつ弁プランジャ11の外周面と制御弁体14の内周面34aとの間に、環状の空間36が形成される。したがって、環状の空間36はオリフィス35を介して大気と常時連通されている。
【0029】
なお、図1および図2に示すように、制御弁体14の内周面34aの後部には環状のリップ37が形成されており、このリップ37は、制御弁体14を摺動可能に支持するリテーナ30の第2筒状部38の外周面に当接することで、第2筒状部38の外周面39と制御弁体14の内周面40との間に環状の空間41が形成されている。また、制御弁体14には前後方向の貫通孔42が穿設されており、この貫通孔42によって、負圧弁VVの外周側に位置する通路18と空間41とが常時連通されている。そして、リップ37は、変圧室8側の圧力が大気圧より大きくなったとき、この変圧室8側の圧力を貫通孔42および環状空間41を通して大気側に逃すようになっている。しかし、本発明においては、リップ37、第2筒状部38、空間41、および貫通孔42は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
【0030】
また、制御弁17は図1および図2に示す制御弁17に限定されることなく、図4および図5に示す従来例の制御弁17を用いることもできる。その場合、図5に示す制御弁17においてオリフィス通路26と第2大気弁部28を有する第2大気弁VA2とが設けられないことは言うまでもない。
この例の負圧倍力装置1の他の構成は、前述の図4に示す例と同じである。
【0031】
次に、このように構成されたこの例の負圧倍力装置1の作動について説明する。
図1および図2に示す負圧倍力装置1の非作動状態では、前述の従来例の負圧倍力装置と同様に、パワーピストン6、バルブボディ9、入力軸10、弁プランジャ11、制御弁17、および出力軸21がともに図示の後退限の非作動位置にあるとともに、リアクションディスク23と弁プランジャ11とが当接していない。
【0032】
図2に示す例では、負圧倍力装置1に非作動時、負圧弁部16が負圧弁座13に着座して負圧弁VVが大気弁VAと同様に閉じた状態に設定されている。このように、負圧倍力装置1の非作動時に負圧弁VVを閉じた状態にすることで、変圧室8内に、リタースプリング22の付勢力とほぼバランスする力をパワーピストン6に発生させる程度の量の大気を導入している。これにより、ブレーキペダルの踏み込みによるブレーキ操作開始時にすぐに大気弁VAが開くとともに変圧室8内に前述の量の大気が導入されているので、パワーピストン6がすぐに作動し、ブレーキ操作開始時の応答性が良好になる。なお、図4および図5に示す例のように負圧倍力装置1の非作動時に負圧弁VVをわずかに開いた状態にすることもできる。
【0033】
この負圧倍力装置1の非作動状態で、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキ操作が行われると、前述の従来例と同様に入力軸10および弁プランジャ11が前進することにより、大気弁VAが開いて大気が吸入されて変圧室8内に導入される。このとき、入力軸10が所定ストロークまで移動していなく、弁プランジャ11の突起33が制御弁体14の内周面34a内に位置してオリフィス35が形成されている(存在している)ので、大気は流量を制限されて吸入されるようになる。したがって、異音の発生が防止される。弁プランジャ11の更なる前進とともに、オリフィス35による大気の流量制限が漸減し、大気の吸入量が漸増する。そして、入力軸10および弁プランジャ11が更に前進して入力軸10が所定ストローク移動すると、弁プランジャ11の突起33が制御弁体14の内周面34aから脱出してオリフィス35が消滅する。すると、オリフィス35による大気の流量が制限されなくなり、比較的多量の大気が吸入されて変圧室8内に導入される。
【0034】
これにより、ブレーキ操作による大気の吸入開始時に異音が発生しないとともに、入力軸10および弁プランジャ11の所定ストローク後に大気の吸入が制限されなくなるので、のブレーキ作動開始時に大気の吸入量が制限されてもブレーキの応答性が良好になる。
この例の負圧倍力装置1の作動は、前述の図4に示す従来例の負圧倍力装置1と同じである。なお、制御弁体14の内周面34aを前述のように傾斜面としなく、制御弁体14の軸方向と平行な面とすることもできる。この場合には、突起33が制御弁体14に対して相対的に前進しても、オリフィス35が存在している間は、オリフィス35の断面積が一定であり、オリフィス35による大気の流量制限も一定となる。
【0035】
この例の負圧倍力装置1によれば、大気弁VAとして前述の特許文献2に記載の負圧倍力装置のように2つの大気弁VA1,VA2を設けずに、オリフィス35による大気の流量制限を大気弁により制御することがないので、ブレーキ操作の急操作および緩操作に関わらず、ブレーキ作動開始時に異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、制御弁体14を特別に設計変更することなく、加工し易い弁プランジャ11に環状の突起33を単に設けるだけでよいので、前述のようにブレーキ作動開始時での異音の発生を抑制しつつ、制御弁体14を複雑な形状にすることなく従来のものをそのままを用いることができて生産性を向上することが可能となるとともに、オリフィス35による大気の流量制限から流量制限解除へのタイミングを容易に制御することができる。
【0037】
図3は、本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の他の例を示す、図2と同様の部分拡大断面図である。
前述の図2に示す例では、環状の突起33の外周面と制御弁体14の内周面34aとの間の隙間gがきわめて小さく、オリフィス35の流量制限が大きくされているが、図3に示すようにこの例の負圧倍力装置1においては、環状の突起33の外周面と制御弁体14の内周面34aとの間の隙間gが図2に示す例より大きく設定されている。したがって、オリフィス35による大気の流量制限が低減されている。
【0038】
この例の負圧倍力装置1によれば、図2に示す例の負圧倍力装置1に比べてブレーキ作動開始時の大気の流量が制限されないので、異音の発生の抑制効果が若干小さいが、大気の流量が確保されるので、応答性が向上する。
この例の負圧倍力装置1の他の構成および他の作用効果は、図4、図1および図2に示す例と同じである。
【0039】
なお、前述の各例では、本発明をブレーキシステムの負圧倍力装置に適用して説明しているが、本発明は、他のシステムの負圧倍力装置あるいはエア圧による倍力システム等に用いられる倍力装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る流体圧倍力装置は、負圧やエア圧等の流体圧を用いたブレーキ倍力システムの流体圧倍力装置を始め、操作員の操作力を流体圧で倍力して用いるような流体圧倍力システムや流体圧倍力装置に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る流体圧倍力装置の実施の形態の一例として適用されたブレーキシステムの負圧倍力装置を示す断面図である。
【図2】図1におけるII部の部分拡大断面図である。
【図3】本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の他の例を示す、図2と同様の部分拡大断面図である。
【図4】従来の負圧倍力装置の一例を示す図である。
【図5】従来の負圧倍力装置の更に他の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1…負圧倍力装置、6…パワーピストン、7…定圧室、8…変圧室、9…バルブボディ、10…入力軸、11…弁プランジャ、12…大気弁座、13…負圧弁座、14…制御弁体、15…大気弁部、16…負圧弁部、17…制御弁、21…出力軸、23…リアクションディスク、33…突起、34…流動孔、34a…内周面、35…オリフィス、VA…大気弁、VV…負圧弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の低流体圧が導入されている定圧室と、作動時に前記低流体圧より高い高流体圧が高流体圧源から導入される変圧室と、これらの定圧室および変圧室を区画するパーピストンと、前記定圧室と変圧室との連通を開閉する低圧弁と、前記変圧室と前記高流体圧源との連通を開閉制御する高圧弁と、入力が加えられて前記低圧弁および前記高圧弁の開閉制御を行う入力軸と少なくとも備え、前記入力軸の作動方向への移動時前記高圧弁が開いて前記変圧室へ前記高流体圧の流体を導入して前記変圧室と前記定圧室との間に発生する差圧で前記パワーピストンが作動することにより出力する流体圧倍力装置において、
前記高圧弁の前記高流体圧源側に導入される前記高流体圧の流体の流量を制限する流量制限手段が設けられており、
前記流量制限手段は、それ自体前記入力軸の所定ストロークまでの移動時に存在して前記高流体圧の流体の流量を制限可能にし、前記入力軸の所定ストローク以上の移動時に消滅して前記高流体圧の流体の流量を制限しないことを特徴とする流体圧倍力装置。
【請求項2】
前記パワーピストンが設けられるバルブボディと、
このバルブボディに摺動可能に挿入されかつ前記入力軸によって移動される弁プランジャと、
前記バルブボディに設けられた低圧弁座、前記弁プランジャに設けられた高圧弁座、および前記低圧弁座に着座可能な低圧弁部と前記高圧弁座に着座可能な高圧弁部とを有する制御弁体とを備え、
前記低圧弁が前記低圧弁座と前記低圧弁部とから構成されるとともに、前記高圧弁が前記高圧弁座と前記高圧弁部とから構成され、
前記流量制限手段は、前記弁プランジャと前記制御弁体との間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の流体圧倍力装置。
【請求項3】
前記流量制限手段はオリフィスであり、前記弁プランジャに環状の突起が設けられているとともに、前記制御弁体に前記高流体圧の流体の流体流通孔が設けられており、前記入力軸の非作動時に前記突起の外周面が前記流体流通孔の内周面に所定の環状の隙間をおいて対向するように配置されており、
前記オリフィスは前記隙間で形成されているとともに前記入力軸の非作動時に存在して前記高流体圧の流体の流量を制限可能にし、かつ、前記入力軸の所定ストロークの移動時に前記突起が前記内周面から脱出することで消滅することを特徴とする請求項2記載の流体圧倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−273204(P2006−273204A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97798(P2005−97798)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】