説明

流体精製方法及び流体精製装置

【課題】流体中の混入物を膜分離以外の技術で分離、あるいは除去する流体精製装置を提供する。
【解決手段】流体精製装置は、導入領域20として導入流路22を備え、加速領域30は流体を加速させて噴出する絞り部32,34を有する縮小流路36を備え、分岐領域40は噴出部38からの噴出方向と交差する方向へと配されて、その形状に沿って進む流体を排出領域50へと導く第1の側壁42と、噴出部38から噴出する流体の噴出方向と異なる方向に配されて、流路に拡張部46を形成する第2の側壁44とから成る拡張流路48を備え、排出領域50には、拡張流路48に流れ込んだ流体を分流する隔壁と、分流されて第1の側壁42に沿って導かれた流体を導入する第1の排出流路52と、拡張部46に流れ込んだ流体を導入する第2の排出流路54とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体中の混入物を分離又は除去する技術に係り、特に膜分離以外の手段を用いて流体から混入物を分離又は除去する流体精製方法及び流体精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体、気体に関わらず、流体中に含まれるゴミや有害物質、特定の粒子等の混入物を、当該流体から除去する技術に関する要望は多い。このような実状において、流体中の混入物(粒子)を除去する技術として多用されているものは膜による分離・除去技術である。この膜を用いた分離・除去技術は、流体から粒子を分離・除去するという観点では確実性が高い反面、目詰まりが生じやすく多度のメンテナンスを要するという難点がある。
【0003】
上記のような問題点を鑑み、膜分離以外の技術により流体中に含まれる粒子を分離あるいは除去するという技術はいくつか提案されている。そのような技術として、例えば特許文献1に記載された技術を挙げることができる。
特許文献1には、隔壁によって隔たれた2つの流路を形成し、前記2つの流路を隔てる隔壁にスリットを形成し、このスリットを利用して被分離試料中の粒子を分離することが記載されている。具体的には、2つの流路に対して別個の流体を供給し、その一方を被分離試料となる流体とした場合、前記一方の流体に含まれる粒子のうち、前記スリットを通過可能な粒子だけが他方の流体が流れる流路へ移動するということが記載されている。
【特許文献1】特開2004−42012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された技術によれば、「膜」を用いることなく流体中に含まれる粒子を分離することができる。しかし、特許文献1に記載の技術には次のような問題がある。
特許文献1に記載の技術では、分離された粒子が流れる流路には被分離試料とは異なる流体を溶媒として流す必要がある。したがって、被分離試料となる流体に含まれる粒子を分離する場合、被分離試料の他に分離した粒子の溶媒となる流体を用意する必要がある。このため、分離粒子の溶媒となりえる流体が不明な場合には、被分離試料から粒子を分離することができない。
【0005】
本発明では、膜分離以外の技術を用いて効率良く、流体中の混入物を分離又は除去することができる流体精製方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
膜分離以外の手段を用いて流体に含まれる混入物を除去するには、流体が流れる力を利用、あるいは制御すれば良いと考えられる。すなわち、流体は流れによって含有される粒子(混入物)に力を加え、粒子を押し流しているのである。したがって、粒子に影響を与えている力に変化を生じさせた場合には、粒子の進路にも変化が生じることとなる。そこで、本発明に係る流体精製方法は、導入した流体に含まれる混入物を分離又は除去することで精製流体を得る流体精製方法であって、導入流体を通過させる流路に絞り部を設けて前記導入流体を加速させ、加速させた流体を前記絞り部の延長線上に設けた壁部に沿わせて進行させる流れと、前記壁部に沿わずに進行する流れとに隔壁によって分流し、前記壁部に沿わせて進行させた流体に混入物を含ませて排出し、前記壁部に沿わずに進行させた流体を精製流体として排出することを特徴とする。このような方法によれば、導入した流体、及び当該流体に含まれる混入物の双方を全て排出するため、混入物を原因として流路に目詰まりを生じさせること無く、混入物を分離又は除去した精製流体を得ることができる。
【0007】
また、上記のような流体精製方法では、前記混入物を含ませて排出した流体を再び導入流体として精製するようにしても良い。このような方法によれば、混入物を含む一定量の流体(導入流体)から多くの精製流体を得ることが可能となる。
【0008】
また、上記のような流体精製方法では、前記精製流体として排出した流体を再び導入流体として精製するようにしても良い。このような方法によれば、得られる精製流体に含まれる混入物を少なくし、純度の高い精製流体を得ることが可能となる。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明に係る流体精製装置は、導入領域と加速領域と分岐領域と排出領域とから成り、導入した流体に含まれる混入物を分離又は除去する流体精製装置であって、前記導入領域は流体を取り込んで前記加速領域へ導く導入流路を備え、前記加速領域は前記導入流路より導かれた流体を加速させて噴出する絞り部を有する縮小流路を備え、前記分岐領域は前記絞り部から噴出する流体の噴出方向に沿った後、前記噴出方向と交差する方向へと配されて、その形状に沿って進む流体を排出領域へと導く第1の側壁と、前記絞り部から噴出する流体の噴出方向と異なる方向に配されて、流路に拡張部を形成する第2の側壁とから成る拡張流路を備え、前記排出領域には、前記拡張流路に流れ込んだ流体を分流する隔壁と、前記隔壁によって分流され前記第1の側壁に沿って導かれた流体を導入する第1の排出流路と、前記隔壁によって分流され前記第2の側壁によって形成された拡張部に流れ込んだ流体を導入する第2の排出流路とを備えたことを特徴とした。このような構成とすることにより、導入した流体中に含まれる混入物を分離、あるいは除去することができる。また、膜分離と異なり、導入した流体及びその流体に含まれる混入物を全て排出する構成となるため、目詰まりが生じることが無い。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明に係る流体精製装置は、導入領域と加速領域と分岐領域と排出領域とから成り、導入した流体に含まれる混入物を分離又は除去する流体精製装置であって、前記導入領域は流体を取り込んで前記加速領域へ導く導入流路を備え、前記加速領域は前記導入流路より導かれた流体を流路のいずれか一方に配された側壁側に集束させて噴出する絞り部を有する縮小流路を備え、前記分岐領域は前記絞り部から噴出する流体の噴出方向に沿って配されて、その形状に沿って進む流体を排出領域へと導く第1の側壁と、前記絞り部から噴出する流体の噴出方向と異なる方向に配されて、流路に拡張部を形成する第2の側壁とから成る拡張流路を備え、前記排出領域には、前記拡張流路に流れ込んだ流体を分流する隔壁と、前記隔壁によって分流され前記第1の側壁に沿って導かれた流体を導入する第1の排出流路と、前記隔壁によって分流され前記第2の側壁によって形成された拡張部に流れ込んだ流体を導入する第2の排出流路とを備えたことを特徴とするものであっても良い。このような構成であっても、上記流体精製装置と同様に、導入した流体中に含まれる混入物を分離、あるいは除去することができる。また、このような装置であっても、導入した流体及びその流体に含まれる混入物を全て排出する構成となるため、目詰まりが生じることが無い。
【0011】
また、上記のような構成の流体精製装置では、前記導入領域、前記加速領域、前記分岐領域、及び前記排出領域を直線上に配置し、前記加速領域は前記導入領域によって導かれた流体を蛇行させて導入時と異なる方向へ向けて噴出する絞り部を有する縮小流路とすると良い。このような構成とすることにより、装置を全体としてストレート構造にすることができる。このため、既設の流路等に採用する場合であっても、適用が容易となる。
【0012】
また、上記のような構成の流体精製装置では、前記絞り部を拡縮可能な構成とすると良い。このような構成とすることにより、加速領域から分岐領域に噴出される流体の流速を調整することができるようになる。噴出流の流速を制御することによれば、分離、あるいは除去対象とする粒子の質量、大きさ等を適宜変更することが可能となる。
【0013】
また、上記のような構成の流体制御装置では、前記第1の排出流路及び前記第2の排出流路は、各流路の入口側から出口側にかけて拡張する構成とすることが望ましい。このような構成とすることにより、流体が分岐領域から排出領域(第1の排出流路又は第2の排出流路)に流れ込む際の抵抗が少なくなる。このため、流体が排出領域に流れ込むことができずに逆流してしまうという事態を回避することができる。
【0014】
また、本発明に係る流体精製装置は、上記のような構成の流体精製装置を複数、直列に接続し、上流側に配備した流体精製装置における第1の排出流路から排出された流体を、下流に配備した流体精製装置における導入流路へ導く構成としたものであっても良い。このような構成とすることにより、混入物を含む一定量の流体から多くの精製流体を得ることが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る流体精製装置は、上記のような構成の流体精製装置を複数、直列に接続し、上流側に配備した流体精製装置における第2の排出流路から排出された流体を、下流に配備した流体精製装置における導入流路へ導く構成としたものであっても良い。このような構成とすることにより、得られる精製流体に含まれる混入物の量を減らすことができる。すなわち、純度の高い精製流体を得ることが可能となる。さらに、分離、あるいは除去を望む混入物の大きさに合わせて段階的に流体精製を行うことが可能となる。
【0016】
さらに、本発明に係る流体精製装置は、上記のような構成の流体精製装置を複数、並列に接続したものであっても良い。このような構成とすることにより、短時間で多くの流体を精製することが可能となり、精製流体を得る上で効率が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の流体精製方法、及び流体精製装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明に係る一部の実施形態に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態のみに限定されるものでは無い。なお、以下に示す実施形態において流体精製装置とは、以下に示す種々のユニットそれ自体、及びそれらのユニットの組合せ等を含めた総称のことをいう。
【0018】
まず、本発明の流体精製装置の基本ユニットに係る第1の実施形態について図1を参照して説明する。本実施形態の基本ユニット(ユニット)10は、導入領域20と、加速領域30と、分岐領域40、及び排出領域50とから成り、1つのストレート構造の流路に設けた側壁及び隔壁によって流体の流れを制御し、導入流体に含まれる混入物(粒子)を分離あるいは除去するものである。以下、それぞれの領域についての構成と作用、及び効果について詳細に説明する。
【0019】
前記導入領域20は、各種粒子を含む流体を導入する導入流路22を備える領域であり、前記導入流路22の形状は特に限定されるものでは無く、例えば図1に示すようなストレート構造のものであれば良い。
【0020】
前記加速領域30には、絞り部32,34とから成る縮小流路36が形成されており、前記導入流路22より導入された流体を加速させて通過、噴出する。本実施形態の縮小流路36は、側壁32aと側壁32bとによって構成される第1の絞り部32と、側壁34aと側壁34bとによって構成される第2の絞り部34とより成る。前記第1の絞り部32では、側壁32aを側壁32b側へ大きく傾斜させ、導入流路22によって導かれた流体を、ユニット10の一方の側面へ寄せつつ流路を狭める構造としている。前記第2の絞り部34は前記第1の絞り部32によって寄せられた流体をユニット10の他方の側面へ導く流路を形成しつつさらに流路を狭める構造としている。このため、縮小流路36は全体として、蛇行した流路を構成することとなり、その排出側である噴出部38は図1に示すように、導入時と異なる方向へ流体を噴出(排出)する構造となる。
【0021】
前記分岐領域40は、前記第2の絞り部34から噴出される流体の噴出方向(流れ方向)に沿った後、流体の噴出方向と交差する方向に配された側壁(第1の側壁)42と、前記第2の絞り部34から噴出する流体の噴出方向と異なる方向に配されて、流路に拡張部46を形成する側壁(第2の側壁)44とから成る拡張流路48を備え、噴出流に速度分布を与える領域である。なお、前記第1の側壁42の形状は、湾曲状等とすることが望ましい。このような形状とすることで、第1の側壁42に沿って進む流れをスムーズなものとすることができるからである。
【0022】
前記第2の絞り部34から噴出された流体は、前記拡張流路48において、噴出の勢いにより前記第1の側壁42に沿って進む速い速度を有する部分から、拡張部46側に流れ込み緩やかに進む遅い速度を有する部分にまで分布することとなる。
【0023】
前記排出領域50には、前記分岐領域40における前記第1の側壁42に沿って導かれた速い速度を有する流れと、前記拡張部46側に流れ込んだ遅い速度を有する流れとを分流する頂点を有する分流隔壁56と、前記頂点によって分流された早い速度を有する流れを導入する第1の排出流路52と、前記頂点によって分流された遅い速度を有する流れを導入する第2の排出流路54とより成る。第1の排出流路52と第2の排出流路54とは、頂点を有する分流隔壁56によって隔てられ、双方の流路に導入された流体が混ざらないように構成されている。
【0024】
前記噴出部38から噴出された流体は、前記拡張流路48では前記第1の側壁42に沿った速度の速い流れを有する部分から、前記拡張部46側に流れ込んだ遅い速度を有する流れの部分にまで分布される。
流体に含まれる粒子は、流体の流れにより力を受けて運動する。このとき、質量が大きな粒子(例えば大径粒子)は運動により大きな慣性力を有することとなり、流れに沿って進行する力が大きくなる。一方、質量が小さい粒子(例えば小径粒子)は運動によって得られる慣性力が小さいため、流れに沿って進行する力も小さくなる。
【0025】
このため、前記拡張流路48における粒子の分布は、噴出流の勢いに乗って前記第1の側壁42に沿って流れる速い速度を有する流れの部分には比較的大径の粒子が多く分布し、前記拡張部46側に流れ込んだ遅い速度を有する部分には比較的小径の粒子が多く分布することとなる。すなわち、粒子の大小に基づく分離作用が生じるのである。また、前記第1の側壁42を湾曲形状とすることにより、湾曲部に沿って進行する粒子には前記湾曲部の外周方向に向かう力(遠心力)が働くこととなる。このような力の働きにより、図2に示すように、大径粒子は第1の側壁42に沿って進行する確率が高くなるのである。一方、小径粒子は、同じ速度の流体に含有されていた場合であっても、大径粒子とは付与される慣性力の大きさが異なるため、拡張部46へ流れ込む確率が高くなるのである。なお、ここでは流体中に含まれる大径粒子と小径粒子の拡張流路48での分布と分離作用について説明したが、噴出部38の拡縮により噴出流の速度制御をすることにより、小径粒子に対しても十分な慣性力を付与し、分離するような構成とすることもできる。
【0026】
上述したように、前記拡張流路48において流体の速度分布、粒子の大きさ、及び量の分布が形成される。このため、前記分流隔壁56の頂点は、前記第1の排出流路52へ導く流体の割合、及び流体に含まれる粒子の割合と、前記第2の排出流路54へ導く流体の割合、及び流体に含まれる粒子の割合とを制御することとなる。よって前記頂点は、流体の量、粒子の割合、流速等を考慮して配置位置を定めることが望ましい。
【0027】
このような構成とすることにより、第1の排出流路52側に必要以上に多くの流体が流れ込むことが無くなり、第2の排出流路54側へ流れ込む流体の量を増やすことができ、第2の排出流路54側に分離対象とする粒子が混入することもなくなる。このため、粒子を含む一定量の流体から、粒子を分離、あるいは除去した精製流体を効率良く得ることが可能となる。
【0028】
本実施形態における排出流路52,54は、各流路における流体導入側に比べ、排出側が拡張した流路となるように構成している。このような構成とすることにより、流体が流路に流れ込む際の抵抗が少なくなり、流体の導入を妨げ、流体の逆流を促すという事態を避けることが可能となり、効率的に流体精製を行うことができるようになる。
【0029】
このような構成のユニット10では、導入領域20に導入された流体は、導入流路22を通り加速領域30へ導かれる。加速領域30へ導入された流体は蛇行し、噴出部38から、導入時と異なる方向へ噴出されて分岐領域40へと流れ込む。分岐領域40で流体は、第1の側壁42に沿って流れる速い速度を有する流れから、拡張部46へ流れ込む遅い速度を有する流れにまで速度分布が広がり、第1の側壁42に沿って流れる流れには、加速領域30にて慣性力を付与された多くの粒子が含まれることとなる。速度分布を有する流れは、分流隔壁56の頂点にて分流され、第1の排出流路52と第2の排出流路54とに導入されることとなる。本実施形態の場合、第1の排出流路52に導入された流体には、多くの粒子が含有されることとなり、第2の排出流路54に導入された流体には、粒子が殆ど含まれない状態となる。
【0030】
上記のようなユニット10によれば、前記第2の絞り部34における噴出部38の幅や、分流隔壁56における頂点の配置位置を変えることにより、導入流体から分離、除去する粒子の大きさ(質量)を変えることができる。例えば質量が大きな大径粒子は除去したいが、質量の小さな小径粒子は含有したままでも良いという場合であれば、前記噴出部38の幅を比較的広めに設定するか、分流隔壁56の頂点の配置位置を後方に配置する等の設定を選択することができる。小さな粒子を除去するためには、前記噴出部38の幅を狭くし、前記分流隔壁56の頂点の配置位置も前方へ配置することとなる。このため、小さな粒子を分離する場合ほど粒子分離後の精製流体を多く得ることは困難となることが考えられるが、噴出部38の幅と、分流隔壁56の頂点の配置位置とのバランスを考慮して流路形態を定めることにより、より多くの精製流体を効率的に得ることができるようになる。また、本実施形態のユニット10では、加速領域30に形成する流路を蛇行させたことにより、導入領域20、加速領域30、分岐領域40、及び排出領域50を直線上に配置することが可能となり、既設されたストレート構造の流路や配管等へ当該ユニット10を導入することが容易となった。また、上記ユニット10では、ユニット10内に導入した流体、粒子共にすべてを、第1、第2のいずれかの排出流路52,54から排出する構成のため、流路に目詰まりが生じる虞が無い。また、粒子の分離あるいは除去に膜等を用いないため、流路で生じる抵抗(ろ過抵抗)が少なく、精製の効率が良い。また、流路に加速領域30を設けて流体の速度に変化を与える構成としているため、加圧や吸引といった手段を採ることなく、十分な効果を得ることが可能となる。なお、図中においては、分流隔壁56の頂点の形状をやじりのような形状としているが、これは好適な形状の1つを示すものであり、頂点の形状はこれに限定されるものでは無い。
【0031】
上記構成のユニット10では、側壁34bの表面に破線で示すような突起部39を設けても良い。このような構成とすることにより、第2の絞り部34へ流入して側壁34bに沿って流れる流体を、側壁34a側へ誘導することができる。この突起部39の影響による流れの遷移に伴い、流体中に含まれる粒子は側壁34a側に片寄って分布することとなる。このため、噴出部38から噴出されて第1の側壁42に沿って流れる流体中には、より多くの粒子が含有されることとなり、流体の精製作用を高めることができる。なお、突起部の形成部位は図1、図2に示すように側壁34bの先端とすることが望ましいが、これに限定するものでは無い。
【0032】
また、上記では、説明を簡単化するために、側壁34bに沿って流れる流体を側壁34a側へ誘導する部位を突起部39として説明したが、側壁34b自体の形状を変化させて(例えば湾曲させるなど)、同様の作用を奏するような構成としても良い。
【0033】
次に、図3を参照して本発明の流体精製装置に係る基本ユニットの第2の実施形態について説明する。本実施形態のユニットは、第1の実施形態に示したユニットと同様な構成、機能を有する。すなわち、導入領域20と、加速領域30と、分岐領域40、及び排出領域50とから構成されるのである。したがって、その機能を同一とする箇所には図面に同一の符号を附して詳細な説明は省略する。
【0034】
本実施形態のユニット10と第1の実施形態に示したユニットとの相違点は、第1の実施形態に示したユニットが全体としてストレート構造であったのに対し、本実施形態のユニット10は導入側から排出側にかけて全体として屈曲構造としている点である。これは、第1の実施形態に示したユニットで加速領域に形成していた蛇行流路を廃除したことに起因する。すなわち、第1の実施形態として示したユニットでは、加速領域の流路を蛇行させることにより絞り部からの噴出流を導入時と異なる方向へ噴出し、第1の側壁に沿わせて導入時と同じ方向の流れへと導く構成としていた。これに対し本実施形態のユニット10では、導入時の流れ方向と排出時の流れ方向とをユニット全体として変えることで加速領域における蛇行流路を不要としたのである。
【0035】
ユニット10をこのような構成とすることにより、蛇行部を構成するための側壁部分の面積を減縮することが可能となり、ユニット10全体としてのコンパクト化を実現することが可能となる。
上記のような構成のユニット10では、図3の下方を向いて開口する導入流路22から導入された流体が図3右側へ向けて開口する排出流路52,54から排出される構造となっている。そして、ユニット10内部の流体の流れは以下の通りである。
【0036】
図中下側から導入領域20の導入流路22へ導入された流体は、加速領域30へ導かれる。導入流路22から加速領域30の縮小流路36へ導入された流体は、流路の形状に従って図中左上方部分へ集束される。集束により加速された流体は、縮小流路36の先端である噴出部38から噴出され、分岐領域40へ導入されることとなる。分岐領域40に噴出された流体は、第1の側壁42に沿って排出領域50へ導かれる速い速度を有する流れから、第2の側壁44によって形成された拡張部46へ流れ込む遅い速度を有する流れにまで速度分布が広がる。そして、速度分布を有する流れは、分流隔壁56の頂点によって分流され、第1の排出流路52と第2の排出流路54とへ導入されることとなる。
【0037】
上述したように、第1の側壁42に沿って流れる流体には、多くの粒子が含まれることとなるため、第1の排出流路52に流れ込む流体には粒子が多く含まれることとなる。そして第2の排出流路54へ流れ込んだ流体は特定の粒子を分離、あるいは除去された精製流体となる。また、上記実施形態において、第1の側壁42は、噴出流体を壁部に沿って進行させることを目的として、噴出方向と交差する方向に配するという旨を記載した(例えば第1の実施形態参照)。しかしながら、図3に示すように導入流体が、絞りを成す縮小流路36により第1の側壁42側に集束される構成を採っている場合には、第1の側壁42をあえて噴出流の噴出方向と交差させる方向に配する必要は無い。縮小流路36にて導入流体を第1の側壁42側へ集束させた段階で、流体中に含まれる粒子を第1の側壁42に沿わせることができるからである。
【0038】
このように、上記のような構成のユニット10であっても、第1の実施形態に示したユニットと同様に流体を精製することが可能となる。
上記第1の実施形態、第2の実施形態として示したユニット10を用いて流体精製を行う場合、複数のユニット10を直列接続し、排出領域50から排出された流体を、再び導入領域20へ導くような構成とすることもできる。
【0039】
例えば、第1の排出流路52から排出された流体を再び導入流路22へ導入して流体精製を繰返し行うような構成とすれば、粒子を含む一定量の流体から、精製された流体を多量に得ることが可能となり、精製流体を得る上で効率が良い。
【0040】
一方、第2の排出流路54から排出された流体を再び導入流路22へ導入して流体精製を繰返し行うような構成とすれば、粒子の分離、除去確率が向上し、純度の高い精製流体を得ることが可能となる。
【0041】
図4、図5は、上記のような構成を1つのユニットとして実現するための概略構成を示すものである。図4、図5にはそれぞれ3つの流体精製部11(11a〜11c)を備えるユニット10aを示す。そして、図4は第1の排出流路52からの排出流体を次段の流体精製部11における導入流路22へ導き、再度精製する場合のユニット10aの例を示し、図5は第2の排出流路54からの排出流体を次段の流体精製部における導入流路22へ導き、再度精製する場合のユニット10aの例を示す。
【0042】
それぞれの図に示すように流体精製を行う流路は、加速領域の前後で拡張するという構成を繰り返すように形成されている。すなわち、流路全体として拡縮を繰り返すように形成されているのである。これは、加速領域の機能を発揮させるための構成であり、分流後の各排出流路を拡張するという構成から成される事項である。また、排出流路を拡張するという構成には、上述したように流体の逆流を防止するという作用もある。また、繰返し分流を行うにあたり、流体精製部11毎にいずれかの排出流路52,54の幅(容積)を小さくし、他方の排出流路へ流れ込む流体とのバランスを図るようにしているため、一方の排出流路が飽和状態となり逆流する等の事態を防止することができる。
【0043】
また、本発明の流体精製装置には、図6に示すようなユニットも含まれる。図6に示すユニット100は、上記実施形態に示したユニット(図4に示すユニット)を並列に配列してシート状にしたものである。このようなシート状ユニット100によれば、短時間で多くの流体を精製することが可能となる。なお、このような構成のシート状ユニット100は、その大きさ、配列数を制限するものでは無いため、用途に応じて適宜設計変更すると良い。例えば分離あるいは除去する対象が微小な塵埃などであれば、上述した基本ユニット10の流路の幅を数マイクロから数十マイクロ程度とすれば良い。一方、対象となる粒子を河川等に散乱するゴミなどである場合には、基本ユニット10の流路の幅を川幅に合わせて構成するなどしても良い。
【0044】
さらに、上記シート状ユニット100を立体的に積層し、図7に示すようなカセット状ユニット200を構成しても良い。図7に示すように、シート状ユニット100を多段に積層することで、より多くの流体を短時間で効率良く精製することが可能となる。カセット状ユニット200を構成する場合、例えば図7に示すように、流体を一括して導入する1つの導入口210と、粒子を多く含む流体を排出する第1の排出流路52からの排出流体をまとめて排出する非精製流体排出口220と第2の排出流路54から排出される精製流体をまとめて排出する精製流体排出口230との2つの排出口とを備えるものとすると良い。このような形態とすることにより、ユニットへの流体の導入、及びユニットからの流体の採取が容易となる。
【0045】
さらにまた、本発明の流体精製装置としては、図8に示すような形態のものも含む。図8に示すユニットは、ボックス状ユニット300であり、上述したカセット状ユニット200(基本ユニット10あるいはシート状ユニット100でも良い)を、多段に配置する構成を持つユニットである。
【0046】
図8に示すボックス状ユニット300では、3つ(第1のカセット状ユニット200a〜第3のカセット状ユニット200cまで)のカセット状ユニット200を備え、第1のカセット状ユニット200aで精製した流体を第2のカセット状ユニット200bで精製し、さらにその精製流体を第3のカセット状ユニット200cで精製する構成としている。このため、ボックス状ユニット300では多くの流体を短時間で精製することができると共に、精製後の流体の純度を高いもの(混入物の少ないもの)とすることができる。
【0047】
また、このような構成のボックス状ユニット300は、第1のカセット状ユニット200aから第3のカセット状ユニット200cにかけて、分離、あるいは除去する粒子の大きさを段階的に変える構成とすることができる。
例えば第1のカセット状ユニット200aは、流体に含まれる大きなゴミや粒子を除去するような設定とする。次に第2のカセット状ユニット200bは、小さな砂等の粒子を除去する設定とする。そして第3のカセット状ユニット200cは、さらに微小な粒子を除去する設定としておく。このような構成とすることにより、小さな粒子を除去するためのユニットに、誤って大きな粒子が混入してしまい、これを原因としてユニットに不具合が生じてしまうという事態を回避することができる。
【0048】
また、上述したように、大きな粒子を分離するためのユニットでは、得られる精製流体の量を多く設定することができるため、小さな粒子を分離するためのユニットを多段に配置して精製する場合よりも多くの精製流体を得ることができるようになる。
【0049】
このような構成のボックス状ユニット300は、導入口310から導入された流体は、第1のカセット状ユニット200aの導入口210へ導かれる。第1のカセット状ユニット200aによって精製された流体は、中継経路330を通過して第2のカセット状ユニット200bへ導かれる。また、第2のカセット状ユニット200bによって精製された流体は、前述と同様に、中継経路330を通過して第3のカセット状ユニット200cへと導かれる。そして、第3のカセット状ユニット200cによって精製された流体は、精製流体排出口330から排出される。一方、各カセット状ユニット200(200a〜200c)によって分流された流体のうち、粒子を多く含む流体は排出経路340へ排出され、非精製流体排出口320へと導かれて排出される。
【0050】
上述したボックス状ユニット300は、図9に示すように、それ自体を多段に配置して1つの大型ユニット400を構成するようにしても良い。このユニットでは短時間で大量の流体を精製することができることは当然であるが、次のような効果をも得られる。図9に示す大型ユニット400は、上段に配置したボックス状ユニット300によって分流された流体のうち、粒子を多く含む流体(非精製流体)を次段に配置したボックス状ユニットに導入するような構成としている。このため、最終的に得られる流体の割合として、精製流体の割合を非常に高くすることができるのである。すなわち、多量の流体から短時間で効率良く多量の精製流体を得ることができるのである。なお、大型ユニット400の構成は図9に示すものだけでは無く、ボックス状ユニット300や、カセット状ユニット200等の組合せを適宜変更し、用途に適した構成とすることができる。
【実施例】
【0051】
上記実施形態に示すユニットのうち、図4に示すユニットを用いて実施した具体的実施例について以下に示す。表1に示す計測結果は、流体精製部11aにおける導入流路22の幅を0.3m、噴出部38の幅を0.011m、流路全体の長さを1.5m、粒子の比重を0.9として計測した場合の例である。なお、「inflow」とは導入流路22へ導入する粒子の数、及び流体の量を表す項目であり、「outflow」とは排出流路52,54から排出される粒子、及び流体の割合を示す項目である。
【表1】

【0052】
本実施例では、表1に示すように、4つの例においていずれも、粒子は第1の排出流路から排出される流体に含まれる割合が多くなり、流体は第2の排出流路54側から排出される割合が多くなるという結果を得ることができた。すなわち、本発明に係る基本ユニット10aによれば、流体中に含まれる粒子の殆どを分離あるいは除去することができ、かつ排出される流体の割合として、精製流体の方を多く得ることができるのである。
【産業上の利用分野】
【0053】
本発明の流体精製装置は、気体、液体を問わず種々の流体からの粒子の分離あるいは除去に対応することができる。したがって、分離、あるいは除去対象とする粒子の設定により、溜池に浮遊するゴミの除去から、血液中の血漿の分離、排ガス中に含まれるダイオキシンやNOx等の有害粒子の除去まで、広範に利用することができる。また当然に、微生物等の生態分離にも適用することができるため、近年問題視されている船舶等のバラスト水中に含まれるプランクトンをバラスト水から取り除くという事にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の流体精製装置の基本ユニットに係る第1の実施形態を示す図である。
【図2】図1に示す基本ユニットの加速領域及び分岐領域の構成を示す部分拡大図である。
【図3】本発明の流体精製装置の基本ユニットに係る第2の実施形態を示す図である。
【図4】複数の流体精製部を備えるユニットの第1の形態を示す図である。
【図5】複数の流体精製部を備えるユニットの第2の形態を示す図である。
【図6】図4に示すユニットを並列に配置したシート状ユニットを示す図である。
【図7】シート状ユニットを積層配置したカセット状ユニットを示す図である。
【図8】カセット状ユニットを多段に配置したボックス状ユニットを示す図である。
【図9】ボックス状ユニットを多段に配置した大型ユニットを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10………基本ユニット(ユニット)、20………導入領域、22………導入流路、30………加速領域、32………第1の絞り部、34………第2の絞り部、36………縮小流路、38………噴出部、40………分岐領域、42………第1の側壁(側壁)、44………第2の側壁(側壁)、46………拡張部、48………拡張流路、50………排出領域、52………第1の排出流路、54………第2の排出流路、56………隔壁、100………シート状ユニット、200………カセット状ユニット、300………ボックス状ユニット、400………大型ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入した流体に含まれる混入物を分離又は除去することで精製流体を得る流体精製方法であって、
導入流体を通過させる流路に絞り部を設けて前記導入流体を加速させ、
加速させた流体を前記絞り部の延長線上に設けた壁部に沿わせて進行させる流れと、前記壁部に沿わずに進行する流れとに隔壁によって分流し、
前記壁部に沿わせて進行させた流体に混入物を含ませて排出し、
前記壁部に沿わずに進行させた流体を精製流体として排出することを特徴とする流体精製方法。
【請求項2】
前記混入物を含ませて排出した流体を再び導入流体として精製することを特徴とする請求項1に記載の流体精製方法。
【請求項3】
前記精製流体として排出した流体を再び導入流体として精製することを特徴とする請求項1に記載の流体精製方法。
【請求項4】
導入領域と加速領域と分岐領域と排出領域とから成り、導入した流体に含まれる混入物を分離又は除去する流体精製装置であって、
前記導入領域は流体を取り込んで前記加速領域へ導く導入流路を備え、
前記加速領域は前記導入流路より導かれた流体を加速させて噴出する絞り部を有する縮小流路を備え、
前記分岐領域は前記絞り部から噴出する流体の噴出方向に沿った後、前記噴出方向と交差する方向へと配されて、その形状に沿って進む流体を排出領域へと導く第1の側壁と、前記絞り部から噴出する流体の噴出方向と異なる方向に配されて、流路に拡張部を形成する第2の側壁とから成る拡張流路を備え、
前記排出領域には、前記拡張流路に流れ込んだ流体を分流する隔壁と、前記隔壁によって分流され前記第1の側壁に沿って導かれた流体を導入する第1の排出流路と、前記隔壁によって分流され前記第2の側壁によって形成された拡張部に流れ込んだ流体を導入する第2の排出流路とを備えたことを特徴とする流体精製装置。
【請求項5】
導入領域と加速領域と分岐領域と排出領域とから成り、導入した流体に含まれる混入物を分離又は除去する流体精製装置であって、
前記導入領域は流体を取り込んで前記加速領域へ導く導入流路を備え、
前記加速領域は前記導入流路より導かれた流体を流路のいずれか一方に配された側壁側に集束させて噴出する絞り部を有する縮小流路を備え、
前記分岐領域は前記絞り部から噴出する流体の噴出方向に沿って配されて、その形状に沿って進む流体を排出領域へと導く第1の側壁と、前記絞り部から噴出する流体の噴出方向と異なる方向に配されて、流路に拡張部を形成する第2の側壁とから成る拡張流路を備え、
前記排出領域には、前記拡張流路に流れ込んだ流体を分流する隔壁と、前記隔壁によって分流され前記第1の側壁に沿って導かれた流体を導入する第1の排出流路と、前記隔壁によって分流され前記第2の側壁によって形成された拡張部に流れ込んだ流体を導入する第2の排出流路とを備えたことを特徴とする流体精製装置。
【請求項6】
前記導入領域、前記加速領域、前記分岐領域、及び前記排出領域を直線上に配置し、
前記加速領域は前記導入領域によって導かれた流体を蛇行させて導入時と異なる方向へ向けて噴出する絞り部を有する縮小流路としたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の流体精製装置。
【請求項7】
前記絞り部を拡縮可能としたことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1に記載の流体精製装置。
【請求項8】
前記第1の排出流路及び前記第2の排出流路は、各流路の入口側から出口側にかけて拡張していることを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれか1に記載の流体精製装置。
【請求項9】
請求項4乃至請求項8のいずれか1に記載の流体精製装置を複数、直列に接続し、上流側に配備した流体精製装置における第1の排出流路から排出された流体を、下流に配備した流体精製装置における導入流路へ導く構成としたことを特徴とする流体精製装置。
【請求項10】
請求項4乃至請求項8のいずれか1に記載の流体精製装置を複数、直列に接続し、上流側に配備した流体精製装置における第2の排出流路から排出された流体を、下流に配備した流体精製装置における導入流路へ導く構成としたことを特徴とする流体精製装置。
【請求項11】
請求項4乃至請求項10のいずれか1に記載の流体精製装置を複数、並列に接続したことを特徴とする流体精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−346588(P2006−346588A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176528(P2005−176528)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000144049)株式会社三井造船昭島研究所 (27)
【Fターム(参考)】