説明

流動性に優れる水硬性粉末および水硬性組成物

【課題】添加物を含まず、かつ低い混水比であっても流動性に優れる水硬性組成物およびその主成分である水硬性粉末を提供する。
【解決手段】水硬性粉末をオゾンに暴露する工程を含む水硬性粉末の処理方法、ならびに前記水硬性粉末と練和液とを混合する工程を含む水硬性組成物の製造方法。前記水硬性粉末は、生体適合性を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性に優れる水硬性粉末および水硬性組成物、ならびにこれらの製造方法に関する。本発明は、特に生体組織の再生あるいは再建に用いられる、生体適合性を有する医療用水硬性粉末および水硬性組成物、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物とは、主成分である水硬性粉末と、水を主体とする練和液とを含む硬化性の組成物である。水硬性組成物は、通常、水硬性粉末と練和液とを混合して調製された水硬性組成物のペーストの状態で使用される。例えば、ペーストは、材料に塗布されて、当該材料を他の材料と接着するのに使用される。あるいは、ペーストは、材料の孔部に流し込まれて、孔部を充填するために使用される。作業性の観点から、ペーストには優れた流動性が求められる。さらに、孔部の充填にペーストを用いる場合は、ペーストの流動性が悪いと十分に孔部を充填できないため、さらなる流動性が必要とされる。特に、医療用途においては、シリンジ等を用いて骨欠損部などの小さな欠損部位にペーストを容易に注入できれば、最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery)が可能となる。このため、医療用の水硬性組成物には特に優れた流動性が求められている。
【0003】
一般に水硬性組成物の流動性を高める方法としては、水硬性粉末に対する練和液の割合である混水比を大きくする方法が知られている。しかしながら、混水比を増大させると硬化物の密度が低下し、機械的強さが低下するという問題がある。また、水硬性組成物の流動性を高める方法として、当該組成物に減水剤やAE剤を添加する方法が知られている(例えば非特許文献1)。減水剤とは水硬性組成物の強度を向上させて、水硬性組成物の製造に必要な水量を低減させる薬剤である。AE剤とは、リグニンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、オキシカルボン酸塩等の、減水剤の機能に加えて硬化物中に微細な独立気泡を一様に分散させる機能を有する薬剤である。これらを添加すると水硬性組成物の粘度が低下するので流動性が向上する。しかしながら、AE剤や減水剤が硬化物に残留するという問題がある。特に、医療用途においては、これらの添加物が水硬性組成物に残留すると生体組織親和性が低下するので、添加物を用いずにペーストの流動性を向上させる必要性が高い。
【0004】
従って、混水比を増大させず、かつ添加物を用いずに水硬性組成物ペーストの流動性を向上させる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「新しい分散・乳化の科学と応用技術の新展開」、株式会社テクノシステム、2006年6月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、添加物を含まず、かつ低い混水比であっても流動性に優れる水硬性組成物、およびその主成分である水硬性粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、水硬性粉末をオゾン(O)に暴露することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記課題は、以下の本発明により解決される。
(1)水硬性粉末をオゾンに暴露する暴露工程を含む、水硬性粉末の処理方法。
(2)前記(1)の方法によって処理された水硬性粉末、または生体適合性を有する水硬性粉末。
(3)水硬性粉末をオゾンに暴露する暴露工程、および前記暴露工程で得た水硬性粉末と練和液とを混合する混合工程を含む、水硬性組成物の製造方法。
(4)前記(3)の方法によって製造された水硬性組成物、または生体適合性を有する医療用水硬性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、添加物を含まず、かつ低い混水比であっても流動性に優れる水硬性組成物およびその主成分である水硬性粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アパタイトセメントのオゾン処理後の粉末X線回折パターンである。
【図2】アパタイトセメントのオゾン処理前の粉末X線回折パターンである。
【図3】実施例1で得た硬化物の粉末X線回折パターンである。
【図4】比較例1で得た硬化物の粉末X線回折パターンである。
【図5】セメント広がり面積と間接引張強さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において「〜」は両端の値を含む。
1.本発明の水硬性粉末の処理方法
本発明の処理方法は、水硬性粉末をオゾンに暴露する暴露工程を含む。
【0011】
(1)水硬性粉末
水硬性粉末とは、水硬性組成物の主成分となる粉末であり、1種類あるいは2種類以上の混合物として、水を主体とする練和液と混合され(「練和され」ともいう)、反応して硬化する無機化合物の粉末である。水硬性粉末の例には、リン酸四カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素第一カルシウム、リン酸亜鉛、アパタイト、フルオロアルミノシリケートガラス、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、およびカルシウムアルミノフェライトが含まれる。
【0012】
リン酸四カルシウムはCa(POOで表される化合物である。リン酸三カルシウムはCa(POOで表される化合物でありα型およびβ型を含む。リン酸水素カルシウムはCaHPOで表される化合物であり2水和物を含む。リン酸水素第一カルシウムはCa(HPOで表される化合物であり、一水和物を含む。リン酸亜鉛は、Zn(POで表される化合物であり、四水和物を含む。アパタイトはリン灰石鉱物の総称であり、フッ素リン灰石、塩素リン灰石、または水酸リン灰石である。
【0013】
フルオロアルミノシリケートガラスは、35〜40wt%のシリカ(SiO)と20〜30wt%のアルミナ(Al)を主成分とし、さらに15〜20wt%のフッ化カルシウム(CaF)やリン酸アルミニウム等を加熱融解してガラス状とした化合物である。硫酸カルシウムは、CaSOで表される化合物であり、0.5水和物および2水和物を含む。炭酸カルシウムはCaCOで表される化合物であり、1水和物を含む。酸化亜鉛はZnOで表される化合物である。酸化マグネシウムはMgOで表される化合物である。
【0014】
二酸化ケイ素はSiOで表される化合物である。ケイ酸三カルシウムは3CaO・SiO、ケイ酸二カルシウムは2CaO・SiOで表される化合物である。カルシウムアルミネートは、主成分であるCaOとAlとを加熱融解して得られる化合物である。カルシウムアルミノフェライトは4CaO・Al・Fe、6CaO・Al・2Fe、またはCaO・6Al・2Feで表される化合物である。医療用水硬性組成物として使用する場合、水硬性粉末としては、生体適合性に優れるリン酸四カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素第一カルシウム、アパタイト、硫酸カルシウム、または炭酸カルシウムが好ましい。
【0015】
前記の化合物は、以下のとおり市販品等としても入手できる。
硬化してアパタイトを形成する、例えばリン酸四カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物、およびα型リン酸三カルシウムは、アパタイトセメントとして入手できる。硬化してリン酸水素カルシウムを形成する、例えばβリン酸三カルシウムとリン酸水素第一カルシウムとの混合物はリン酸水素カルシウムセメントとして入手できる。ケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムとカルシウムアルミネートとカルシウムアルミノフェライトと硫酸カルシウムとの混合物は、ポルトランドセメントとして入手できる。
【0016】
35〜40%のシリカ(SiO)と20〜30%のアルミナ(Al)に必要に応じて15〜20%のフッ化カルシウム(CaF)、その他のフッ化物やリン酸アルミニウムを加熱融解させガラスとし、粉末化したものは、グラスアイオノマーセメントとして入手できる。また、グラスアイオノマーセメントと類似の組成を有する粉末はケイ酸セメントとも称される。
【0017】
酸化亜鉛(ZnO)に、必要に応じて、酸化マグネシウム(MgO)、フッ化第一スズ、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)を添加して得られた粉末は、グラスアイオノマーセメントとして入手できる。また、酸化亜鉛の粉末は、酸化亜鉛ユージノールセメントとして入手できる。
【0018】
リン酸亜鉛に、必要に応じて、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ビスマス(Bi)、シリカ(SiO)を約10%添加して得られた粉末は、リン酸亜鉛セメントとして入手できる。
【0019】
水硬性粉末の平均粒径は、後述するとおり、ペーストとしたときの流動性の観点から、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、粒径が過度に小さいと、取扱い性が低下する場合があるので、水硬性粉末の平均粒径は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。本発明において平均粒径は、レーザー回折法により求められるメジアン径である。粉末粒子の形状が非球体である場合は、長径と短径の平均値を平均粒径とする。
【0020】
(2)暴露工程
水硬性粉末をオゾンに暴露する方法には、公知の方法が適用できる。その例には、水硬性粉末を充填した容器にオゾンを導入する方法、およびオゾンが溶解している溶媒に水硬性粉末を浸漬する方法が含まれる。この中でも、水硬性粉末をチューブ状容器に充填し、当該チューブの一方の端からチューブ内にオゾンを導入すると、水硬性粉末とオゾンの接触効率が高くなるので好ましい。本工程においてオゾン濃度は限定されないが、オゾン濃度が高いほどペーストとしたときの流動性が向上する。具体的には、粉末粒子1gあたり1mL以上のオゾンを接触させることが好ましく、粉末粒子1gあたり10mL以上のオゾンを接触させることがより好ましく、粉末粒子1gあたり100mL以上のオゾンを接触させることがさらに好ましい。オゾン量の上限は十分な処理ができる量であればよく、特に限定されないが、コスト等を考慮すると、粉末粒子1gあたり200mLが好ましい。水硬性粉末をオゾンに暴露するときの温度は、20〜40℃が好ましい。
【0021】
オゾン暴露により水硬性粉末の表面が酸化されて表面に水酸基等の親水基が導入され、表面が親水化されると考えられる。よって酸化反応をより効率よく行なうために、オゾンへの暴露は酸素存在雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0022】
さらに、水硬性粉末の水に対する接触角が、オゾン暴露する前に比べて低下するように本工程を実施することが好ましい。具体的に、接触角がオゾン暴露前の80%以下となることが好ましく、70%以下となることがより好ましい。例えば、アパタイトセメントを用いる場合、オゾンに暴露していないアパタイトセメントの接触角は35〜45度程度であるので、オゾン暴露によりアパタイトセメントが28〜36度となるように本工程を行なうことが好ましい。水硬性粉末の接触角は、Lazghab M, Saleh K, Pezron I, Guigon P, Komunjer L (2005) Wettability assessment of finely divided solids. Powder Technology, 157, pp79−91に記載されている方法により測定できる。具体的に接触角は、次の方法で測定される。1)底面に濾紙を設置したガラスカラムに水硬性粉末を充填し、2)当該ガラスカラムを電子天秤につり下げ、ガラスカラムの底面を水面に接触させ、3)水硬性粉末への水の浸透を電子天秤での重量測定から計測し、4)ガラスカラムに浸透した水の重量をm、時間をt、水の密度をρ、水の表面張力をσ、水の粘度をη、接触角をθ、としθが0の場合の定数、コンスタンタをCとして、m/t = C×ρ×σ×cosθ/ηの式から、接触角θを求める。コンスタンタはエタノールを用いて計測される。
【0023】
本工程を行なうことにより、水硬性組成物の流動性が向上する理由は、限定されないが次のように考えられる。
次項で述べるとおり水硬性粉末と練和液とは混合されて水硬性組成物のペーストとされる。一般に、水硬性組成物のペースト(以下、単に「ペースト」ともいう)中の粉末粒子の周りには、水の層が形成される。この層により粉末粒子同士の摩擦が低減されて、粒子同士が動きやすくなる。この層を形成する水はスリップウォーターと呼ばれる。このとき、粉末粒子と水の塗れ性が悪いと粉末粒子は水をはじくので、粉末粒子の周りに形成される水の層は厚くなる。すなわち、スリップウォーターの量が増大する。一方で、ペースト内にはスリップウォーター以外の自由な水が存在し、この自由な水がペーストの流動性を主として支配する。従って、粉末粒子の水への塗れ性が悪い場合、添加された練和液中の水の大部分がスリップウォーターとして利用されてしまい自由な水の量が減少するので、ペーストの流動性が低下する。
【0024】
この点、本発明の水硬性粉末は、オゾン処理により表面が親水化されているので水との塗れ性が良好であり、この水硬性粉末を含むペーストのスリップウォーターの量は少ない。その結果、自由な水が減少せずに十分な量で存在するので、本発明の水硬性粉末を含むペーストの流動性は高いと考えられる。
【0025】
2.水硬性組成物の製造方法
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉末をオゾンに暴露する暴露工程、および前記暴露工程で得た水硬性粉末と練和液とを混合する混合工程を含む方法で製造される。水硬性組成物とは、水硬性粉末と水を主体とする練和液とを含む硬化性の組成物である。
【0026】
(1)暴露工程
暴露工程は既に述べたとおりである。
(2)混合工程
本工程においては、前記処理された水硬性粉末と練和液とを混合して水硬性組成物のペーストを調製する。練和液とは水硬性粉末を硬化するために添加される、水を主成分とする液体である。練和液は、硬化を促進するためのリン酸等、公知の添加物を含んでいてもよい。
【0027】
練和液の混合比、すなわち混水比は、水硬性粉末の質量/練和液の質量で定義される。本発明において混水比は、0.1〜0.8が好ましく、0.2〜0.7がより好ましく、0.3〜0.6がさらに好ましい。
【0028】
これらを混合する方法は、限定されない。例えば、容器に前記処理された水硬性粉末と練和液とを装入し、ガラス棒等で撹拌することによりこれらを混合できる。また、通常使用されるようなミキサー等を使用して両者を混合してもよい。混合する雰囲気は、作業性の観点から、室温、大気圧下が好ましい。
【0029】
(3)硬化工程
前工程で得られたペーストは、硬化して硬化物となる。硬化は通常の条件で行なえばよい。例えば、相対湿度70〜100%、温度20〜50℃程度の雰囲気下でペーストを静置することにより硬化できる。
【0030】
3.水硬性粉末および水硬性組成物
(1)流動性
本発明の水硬性粉末は、混水比が低いにも関わらず流動性に優れた水硬性組成物を与える。本発明において流動性は、ISO1566(Biomaterials誌、19巻、707−715頁に記載されている)の歯科用リン酸亜鉛セメントの測定法を改変した方法により測定される。具体的には、1)0.2gのペーストをガラス板の上に供給し、その上に別のガラス板を置き、二枚のガラス板でペーストを挟み、2)ガラス板の上におもりを乗せ、ガラス板とおもりの合計が2kgとなるようにして圧力をかけ、3)10分後に広がったセメントペーストの面積(以下、「セメント広がり面積」という)を求める、工程を経て測定される。従って、セメント広がり面積が大きいと流動性に優れる。
本発明の水硬性組成物のセメント広がり面積は、混水比0.3〜0.6において、1〜6cmが好ましく、2〜5cmがより好ましい。
【0031】
(2)硬化性
本発明において硬化性は硬化時間により評価される。硬化時間は、温度37℃、相対湿度100%の条件でペーストを硬化し、ビカー針法により硬化時間を測定することにより求められる。具体的に硬化時間は、混合したペーストに向かって上方からビカー針をゆっくりと降ろし、ビカー針の跡がペースト表面に付かなくなる時間である。硬化時間が長いほど硬化性に劣る。本発明の水硬性組成物の硬化性は、取扱い性の観点から、混水比0.3〜0.6において、20〜50分が好ましい。
【0032】
(3)用途
本発明の水硬性粉末は、減水剤等の生体適合性の低い添加物を含まずに高い流動性を有する水硬性組成物を与えるので、生体適合性が要求される、歯科、外科等の医療用水硬性組成物(医療用セメント)の原料として有用である。生体適合性とは、生体に対して不活性であることをいい、具体的には、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、または血栓形成反応を起こさない、あるいは毒性を持たないことをいう。
【0033】
また、本発明の水硬性粉末は、低い混水比において極めて高い流動性を有する水硬性組成物を与えるので、一般接着用および一般建築用の水硬性組成物(セメント)としても有用である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)水硬性粉末
1)アパタイトセメント
平均粒径8μmのリン酸四カルシウム(太平化学産業株式会社製、商品名TTCP)と平均粒径1.4μmに粉砕したリン酸水素カルシウム(J.T. Baker Chemical社製、商品名Calcium Phosphate, Dibasic, Anhydrous, Powder)を等モル混合することによりアパタイトセメントを製造した。
【0035】
2)硫酸カルシウムセメント
株式会社ノリタケデンタルサプライ製ノリタケデンタルプラスターを用いた。
3)ポルトランドセメント
株式会社麻生製ポルトランドセメント(商品名 普通ポルトランドセメント)を用いた。ポルトランドセメントは、ケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムとカルシウムアルミネートとカルシウムアルミノフェライトと硫酸カルシウムとの混合物である。
【0036】
(2)オゾン
原料ガスとして毎分4Lの純酸素を用い、研究開発用オゾン発生器(型式 ED−OG−R4、エコデザイン株式会社製)を用い、無声放電法(電流値は3.2A)によりオゾンを製造した。
【0037】
(3)暴露工程
水硬性粉末20gを直径6cmのテフロン(登録商標)チューブに充填し、オゾン発生器から発生したオゾンをテフロン(登録商標)チューブの一方の端から流速4リットル/分で流し、室温にて4時間暴露した。
【0038】
(4)ペーストの流動性
前述のとおり、ISO1566の歯科用リン酸亜鉛セメントの測定法を改変した方法でセメント広がり面積を測定し、流動性を評価した。
【0039】
(5)硬化物の物性測定
1)間接引張強さ
型枠にペーストを注入し、相対湿度100%の条件下、37℃で24時間加熱して硬化し、直径6mm高さ3mmの円柱状の硬化物を製造した。万能試験機(島津社製卓上形精密万能試験機AGS−J)を用いて、クロスヘッドスピード毎分1mmでこの硬化物の両端を引張破壊して、その最大荷重を求めた。間接引張強さは歯科医学大事典(医歯薬出版株式会社)に記載されている間接引張試験が定義する2×最大荷重を「円周率×試料の直径×試料の厚さ」で除することによって求めた。
【0040】
2)硬化物の組成
硬化物の組成をX線回折装置(New D8 ADVANCE, Bruker社製)を用いて解析した。測定条件は、CuKaを管球として用い、40kV、100mAとした。スキャン速度は2度/分とした。
【0041】
3)硬化時間
硬化時間は、前述のとおりビカー針法によって温度37℃、相対湿度100%の条件で測定した。
【0042】
[実施例1]
水硬性粉末としてアパタイトセメントを使用した。オゾン処理前のアパタイトセメントの接触角は41±3.4度であった。オゾン処理後のアパタイトセメントの接触角は31±8.1度であった。アパタイトセメントのオゾン処理前後の粉末X線回折パターンを測定したところ、パターンに変化は認められなかった(図1および図2)。
【0043】
アパタイトセメントと蒸留水とを、混水比0.30、0.40、0.50として混合し、ペーストを得た。混水比0.30、0.40、0.50のペーストのセメント広がり面積を求めたところ、それぞれ2.0±0.2cm、3.6±0.4cm、4.4±0.3cmであった。
【0044】
混水比0.30、0.40、0.50の硬化物の間接引張強さは、それぞれ14.8±2.0MPa、7.6±1.7MPa、3.5±0.7MPaであった。混水比が0.30のペーストの硬化時間は32.6±2.0分であった。硬化物の粉末X線回折パターンから、総ての硬化物の主成分はアパタイトであることがわかった(図3)。
【0045】
[比較例1]
オゾン処理をしていないアパタイトセメントを用いた以外は、実施例1と同様にして、ペーストを調製し、評価した。評価結果を実施例1の結果と合わせて表1に示した。実施例1のペーストのセメント広がり面積は、比較例1のペーストのセメント広がり面積よりも大きく、オゾン処理したアパタイトセメントを含むペーストは流動性に優れることが明らかとなった。
【0046】
硬化物の間接引張強さ、および混水比が0.30のペーストの硬化時間は、いずれも実施例1の値と比べてほぼ同じであった。すなわち、オゾン処理が硬化性および硬化物の機械的強さに影響を与えないことが明らかとなった。
【0047】
粉末X線回折パターンから硬化物の主成分はアパタイトであることが明らかとなり、さらにこのX線回折パターンは、実施例1の硬化物のパターンとほぼ同じであった(図4)。よって、オゾン処理はアパタイトセメントの硬化物の組成に影響を与えないことが明らかとなった。
【0048】
以上から、本発明によれば、同一の混水比において、硬化物の機械的強さを低減させることなくペーストの流動性を向上できることが明らかとなった。
【0049】
【表1】

【0050】
図5は、セメント広がり面積と間接引張強さをプロットした図であり、流動性を一定にした場合のオゾン処理の効果を示す。図5より、オゾン処理を行った実施例1の硬化物は、オゾン処理を行っていない比較例1の硬化物に比べて、同程度の流動性を有する場合に、高い機械的強さを有することが分かる。
【0051】
[実施例2]
アパタイトセメントの代わりに硫酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にしてペーストを調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例2]
硫酸カルシウムにオゾン処理を施さなかった以外は、実施例2と同様にしてペーストを調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0053】
表2から、実施例2のペーストは、比較例2のペーストに比べて流動性に優れることが明らかである。
【0054】
【表2】

【0055】
[実施例3]
アパタイトセメントの代わりにポルトランドセメントを用い、混水比を0.4、0.5、0.6としたこと以外は実施例1と同様にしてペーストを調製し、評価した。結果を表3に示す。
【0056】
[比較例3]
ポルトランドセメントにオゾン処理を施さなかった以外は、実施例3と同様にしてペーストを調製し、評価した。結果を表3に示す。表3より、実施例3のペーストは、比較例3のペーストに比べて流動性に優れることが明らかである。
【0057】
【表3】

【0058】
[実施例4]
オゾン処理したアパタイトセメントを、シリカゲルを入れたデシケーター中で2週間保管し、その後、アパタイトセメントと蒸留水とを、混水比0.30、0.40、0.50で混合して、ペーストを調製した。得られたペーストを実施例1と同様にして評価した。この結果を実施例1の結果とあわせて表4に示す。また、硬化物の粉末X線回折パターンから、硬化物の主成分がアパタイトであることがわかった。
【0059】
表4から、実施例4と実施例1において、セメント広がり面積に有意差はないことが明らかである。すなわち、オゾン処理によるアパタイトセメントの流動性向上効果は、時間が経っても維持されることが明らかとなった。
【0060】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性粉末をオゾンに暴露する暴露工程を含む、水硬性粉末の処理方法。
【請求項2】
前記水硬性粉末が、リン酸四カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素第一カルシウム、アパタイト、フルオロアルミノシリケートガラス、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、炭酸カルシウム、またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水硬性粉末が、リン酸四カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素第一カルシウム、アパタイト、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、またはこれらの混合物を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの方法で処理された水硬性粉末。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの方法で処理された生体適合性を有する水硬性粉末。
【請求項6】
水硬性粉末をオゾンに暴露する暴露工程、および
前記暴露工程で得た水硬性粉末と練和液とを混合する混合工程をさらに含む、水硬性組成物の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程における、水硬性粉末の質量/練和液の質量で定義される混水比が0.2〜0.6である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7の方法によって製造された水硬性組成物。
【請求項9】
請求項6または7の方法によって製造された生体適合性を有する医療用水硬性組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−87013(P2012−87013A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235458(P2010−235458)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】