説明

流動性の改善された固体触媒の製造方法

【課題】流動性に優れたオレフィン重合用固体触媒およびこのような触媒を用いたオレフィンの重合方法を提供する。
【解決手段】メタロセン化合物、有機アルミニウムオキシ化合物および、微粒子状担体からなるオレフィン重合用固体触媒に対し、0.01〜10.0重量%の脂肪酸金属塩(C2m+1COO)M(式中、Mは周期律表第1〜3族の金属原子。mは10〜30の整数。nはMの価数に応じて決められる1〜3の整数)を担持することにより、該固体触媒の流動性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用触媒に対して脂肪酸金属塩を担持することを特徴とする流動性の改善された固体触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合用固体触媒は微粒子状担体に有機アルミニウムオキシ化合物およびジルコニウムなどの第4族金属のメタロセン化合物を担持し、スラリーを濾過・乾燥させることによって製造されている。
【0003】
ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンは、液相重合法や気相重合法等、公知の様々な方法で製造されている。これらの重合方法のうち、気相重合法では(共)重合体が粒子状で得られ液相重合法と比較して、重合溶液からの粒子析出あるいは粒子分離などの工程が不要となり、製造プロセスを簡略化することができるため、近年気相重合法によるポリオレフィンの製造が盛んに行われるようになった。
【0004】
気相重合によるポリオレフィンの製造においては、オレフィン重合用固体触媒は粉体状で直接反応器に供給される場合が多く、低温のモノマーガス、窒素などの不活性ガスをキャリアーガスとして重合器に供給されるが、該固体触媒は流動性が低いことが多く凝集しやすいため、触媒の不安定供給や触媒搬送ラインの詰まりが発生し、安定的な重合器への供給が困難となることがあった。
【0005】
触媒の流動性改善には、特許文献1、特許文献2で示されている例がある。しかし、この方法では、触媒の流動性は改善されるが、使われる界面活性剤が常温で液状である為、流動性の改善は不十分である。また特許文献3で示される流動性改善方法の例があるが、この技術は触媒に対する添加ポリマー粒子の粒径比を利用するものであるが、本発明では担持する脂肪酸金属塩の滑剤効果を利用するものであり、基本的技術が異なる。特許文献4で開示されている技術では、対象としている触媒はチーグラー型固体触媒であり、担持するものも無機酸化物、炭酸塩、硫酸塩などの無機物であり、本発明の対象はメタロセン型固体触媒と有機金属化合物の添加物を用いる技術である。脂肪酸を使って固体化合物の流動性を確保する例として特許文献5が挙げられるが、当該例では固体化合物は無機化合物の炭酸水素ナトリウムを対象としており、本発明では固体化合物が触媒であり、オレフィンを重合する作用を有しているので異なる技術である。
【0006】
本願発明者らは、オレフィン重合用固体触媒の流動性を改善する為に鋭意検討した結果、脂肪酸金属塩を該固体触媒に担持することにより流動性を大幅に改善し、重合活性および重合器におけるファウリング等の影響がなく、該固体触媒を安定供給ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】特開2000−297114号公報
【特許文献2】特開2000−327707号公報
【特許文献3】特開平10−060037号公報
【特許文献4】特開平06−199927号公報
【特許文献5】特開平05−058622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、流動性に優れたオレフィン重合用固体触媒およびこのような固体触媒を用いたオレフィンの重合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)オレフィン重合用固体触媒に対して0.01〜10.0重量%の脂肪酸金属塩を担持することを特徴とする流動性の改善された固体触媒の製造方法。
(2)オレフィン重合用固体触媒が、メタロセン化合物、有機アルミニウムオキシ化合物および、微粒子状担体からなることを特徴とする(1)に記載の固体触媒の製造方法。
(3)脂肪酸金属塩が下記一般式(I)で表されることを特徴とする(1)または(2)に記載の固体触媒の製造方法。

(C2m+1COO)M …(I)
(式中、Mは周期律表第1〜3族の金属原子。mは10〜30の整数。nはMの価数に応じて決められる1〜3の整数)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オレフィン重合用固体触媒に脂肪酸金属塩を担持することで触媒の流動性を大幅に改善し、触媒搬送ラインにおける詰まりを防止することできて長期的に安定した運転が可能となる。また、脂肪族金属塩の担持方法に自由度が高く、簡便で経済的な方法で担持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るオレフィン重合用固体触媒は、メタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物と微粒子状担体とからなる触媒成分である。固体触媒の合成方法は特許文献1(特開2000−297114号公報)、特許文献2(特開2000−327707号公報)で示されているものに本発明を適用するのが好ましい。
本発明に係るオレフィン重合用固体触媒は、流動性に優れ、触媒の安定供給や触媒搬送ラインの詰まりを防止することができ、固体触媒を長期的に安定して重合器に供給することができる。本発明に係るオレフィンの重合方法は、前記のような固体触媒の存在下に、オレフィンを重合させることを特徴としている。
【0011】
本発明に係わる脂肪酸金属塩は下記一般式(I)で表されることを特徴としている。

(C2m+1COO)M …(I)
(式中、Mは周期律表第1〜3族の金属原子。mは10〜30の整数。nはMの価数に応じて決められる1〜3の整数)

mは好ましくは12〜22であり、Mは好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムであり、より好ましくはカルシウム、マグネシウム、亜鉛である。脂肪酸金属塩の具体例としてはステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸アルミニウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸アルミニウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛などが挙げられる。
【0012】
オレフィン重合用固体触媒に脂肪酸金属塩を担持する方法として2通り挙げられる。方法1は、例えば炭化水素溶媒の懸濁液として得られる固体触媒に脂肪酸金属塩を懸濁させ攪拌しながら脂肪酸金属塩を固体触媒に担持させる。本発明では、溶媒を除去し、得られた固体触媒を攪拌しながら窒素等の不活性ガス雰囲気中、0〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度で、1〜50時間、好ましくは1〜20時間で乾燥を行うことが望ましい。乾燥した固体触媒には0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5.0重量%の脂肪酸金属塩が担持されている。
【0013】
方法2は、例えば懸濁液の固体触媒を前期の条件で乾燥し、乾燥した固体触媒を攪拌しながら脂肪酸金属塩を塗す方法が挙げられる。方法1と同様に得られた固体触媒には0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5.0重量%の脂肪酸金属塩が担持されている。
【0014】
この様に、懸濁液状(方法1)または乾燥粉体状(方法2)の触媒に脂肪酸金属塩を触媒の重合性能を損なわず容易に混合させることができる。
【0015】
本発明のオレフィン重合用固体触媒は、流動性に優れているので取扱いが容易であり、重合器への触媒の安定供給や触媒搬送ラインの詰まりを防止することができ、固体触媒を長期的に安定して重合器に供給することができる。
本発明に係るオレフィン重合用固体触媒を用いたオレフィンの重合は、スラリー重合または気相重合により行われる。スラリー重合において用いられる不活性炭化水素媒体としては、前記固体触媒成分を調製する際に用いられる不活性炭化水素溶媒と同様のものが挙げられる。これらの不活性炭化水素溶媒のうちで脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素が好ましい。重合の際には、さらに微粒子状担体に担持されていない有機アルミニウムオキシ化合物および/または有機アルミニウム化合物を用いることができる。
【0016】
オレフィンの重合温度は、スラリー重合を実施する際には、通常−50〜100℃、好ましくは0〜90℃の範囲であることが望ましい。気相重合を実施する際には、重合温度は通常0〜120℃、好ましくは20〜100℃の範囲であることが望ましい。また、重合圧力は、通常、常圧〜100kg/cm2、好ましくは常圧〜50kg/cm2の条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。
【0017】
本発明に係るオレフィン重合用固体触媒により重合することができるオレフィンとしては、炭素数が2〜20のα-オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン;炭素数が3〜20の環状オレフィン、例えばシクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンなどを挙げることができる。さらにスチレン、ビニルシクロヘキサン、ジエンなどを用いることもできる。これらの中では、エチレンを主モノマーとするエチレン系重合体が好ましい。エチレン系重合体としてはエチレン成分が50モル%以上であり、必要に応じて、炭素数3ないし10のα−オレフィンとの共重合体がある。
【0018】
気相及び液相重合を実施する際には、オレフィンの重合温度は、通常0〜120℃、好ましくは20〜100℃の範囲であることが望ましい。また、重合圧力は、通常、常圧〜10MPaG、好ましくは常圧〜5MPaGの条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。
【0019】
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
触媒の流動性は、注入法安息角(単位:°)、圧縮度(単位:%)、嵩密度(単位:g/mL)の測定値により評価した。一般に、安息角および圧縮度は値が小さい程、嵩密度は値が大きい程流動性が良い。
【実施例1】
【0021】
脂肪族金属塩としてステアリン酸カルシウムを用い、触媒の流動性改善テストを行った。触媒としてシリカ担体担持型メタロセン触媒〔メタロセン触媒は、ビス(1,3-n-ブチルメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド〕にエチレンおよびヘキセンー1を3g前重合し、ラウリルジエタノールアミド(商品名:ケミスタット2500、三洋化成製)を4.0重量%担持した触媒を使用した。500mLのガラス容器にて触媒100gおよびステアリン酸カルシウム0.3gをよく混合し、ステアリン酸カルシウム0.3重量%担持触媒とした。
【0022】
流動性の測定にはパウダーテスター(装置名:マルチテスター MT-100セイシン企業製)を使用した。安息角の測定は、80φの円テーブルの上に一定高さから漏斗を通し触媒を注入し、角度が安定したらテーブルを回転させて3箇所の角度を読み取り、その相加平均を安息角とした。圧縮度の測定は、直径50mm、容積100ccの容器に710μmのふるいを通して触媒を疎充填し、擦り切り板で擦り切った後重量を測り、ゆるめ嵩密度(ρa)を求めた。次に同径のわくをはめて触媒をさらに疎充填して蓋をし、これを落下高さ18mmにてタッピングを180回行った。蓋とわくを外した後、擦り切り板で擦り切って重量を測り、固め嵩密度(ρp)を求めた。圧縮度はゆるめ嵩密度(ρa)と固め嵩密度(ρp)を用いて、式(II)より求められる。

圧縮度(%)=(ρp−ρa)/ρp×100 …(II)
測定結果は、安息角40°、圧縮度14%、嵩密度0.50g/mLであり、流動性は大幅に改善された。
【実施例2】
【0023】
実施例1と同様の方法で、ステアリン酸亜鉛0.5重量%担持触媒を調製した。流動性の評価は、安息角38°、圧縮度16%、嵩密度0.48g/mLであり、流動性は大幅に改善された。
【0024】
〔比較例1〕
実施例1にて、ステアリン酸カルシウムを担持しなかった触媒の流動性の評価は、安息角46°、圧縮度25%、嵩密度0.43g/mLであり、流動性はかなり悪い。
【0025】
〔比較例2〕
実施例1と同様の方法で、ポリプロピレンパウダー5.0重量%担持触媒を調製した。流動性の評価は、安息角41°、圧縮度22%、嵩密度0.43g/mLであり、流動性の改善は見られなかった。
【実施例3】
【0026】
実施例1と同様の方法で、ステアリン酸カルシウムを0.3重量%担持した触媒の気相重合器へのフィードテストを行った。触媒搬送ラインの詰まりの程度は、搬送ラインと気相重合器の差圧を見て判断した。差圧が上昇した場合は、搬送ラインが詰まり傾向であることを意味する。約40時間連続で触媒をフィードしたが、搬送ラインの差圧は上昇せず、即ち触媒搬送ラインの詰まりは全く見られず、安定的に運転できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合用固体触媒に対して0.01〜10.0重量%の脂肪酸金属塩を担持することを特徴とする流動性の改善された固体触媒の製造方法。
【請求項2】
オレフィン重合用固体触媒が、メタロセン化合物、有機アルミニウムオキシ化合物および、微粒子状担体からなることを特徴とする請求項1に記載の固体触媒の製造方法。
【請求項3】
脂肪酸金属塩が下記一般式(I)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の固体触媒の製造方法。
(C2m+1COO)M …(I)
(式中、Mは周期律表第1〜3族の金属原子。mは10〜30の整数。nはMの価数に応じて決められる1〜3の整数)


【公開番号】特開2006−83215(P2006−83215A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266848(P2004−266848)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】