説明

流延ダイ、流延装置及び溶液製膜方法

【課題】厚みムラを防止しつつ、製造条件の異なるフィルムを同一の製造設備で製造する。
【解決手段】流延ダイ21は、1対の側板71及び1対のリップ板72によって囲まれてなる通路29からドープを流出する。流路29には、入口流路、マニホールド29b、及びスリット流路29が、入口から出口29oに向かって順次設けられる。リップ板72は、上流側リップ板81と上流側リップ板81に着脱自在な下流側リップ板82とに分割される。スリット流路29cは、1対の上流側リップ板81及び1対の側板71に囲まれてなる上流側流路29cxと1対の下流側リップ板82及び1対の側板71に囲まれてなる下流側流路29cyとに分けられる。上流側流路29cxの下流側の開口端29xoにおけるドープ28の流れ方向DXOと下流側流路29cyのうち下流側の開口端、すなわち出口29oにおけるドープ28の流出方向Doとが角度φで交差する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流延ダイ、流延装置及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムの他、液晶表示装置の光学フィルム(偏光板保護フィルムや位相差フィルム等)として用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法は、ポリマーを溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する(以下、流延工程と称する)。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする方法である。
【0004】
図18に示すように、流延工程を行う流延室内では、ブラケットなどで姿勢が固定された流延ダイ200と、所定の方向へ移動する支持体201とが設けられる。流延工程では、移動状態の支持体201へ向けて、流延ダイ200の出口202からドープを流出する。これにより、支持体201には、移動方向に長い帯状の流延膜203が形成する。
【0005】
この流延工程において、出口202から流出したドープのうち、支持体201に到達するまでの部分(以下、ビードと称する)204が振動すると、支持体201の移動方向に向かってのびるスジ状の厚みムラ(以下、第1の厚みムラと称する)が流延膜203に生じてしまう。そして、流延膜203に生じた第1の厚みムラは、最終的に得られるフィルムにそのまま残ってしまう。
【0006】
そこで、第1の厚みムラの防止策として、ビード204の長さを短くすることが考えられる。そして、ビード204の長さを短くする方法として、支持体201から流延ダイ200の先端までの高さHを小さく(例えば、Hは、3.5mm未満)することが挙げられる。これにより、ビード204が振動しにくくなること、また、ビード204が振動したとしてもその規模は小さいものであるため、最終的に得られるフィルムにおいて、第1の厚みムラの発生を抑えることができる。
【0007】
ビード204の長さを短くする第2の方法として、ビード204の背面側(支持体201の移動方向上流側)を減圧する減圧チャンバ208を設けることが挙げられる。減圧チャンバ208による減圧の大きさにより、ビード長さを調節することができるため、結果として、第1の厚みムラの発生を抑えることができる。
【0008】
ビード204の長さを短くする第3の方法として、特許文献1に記載の方法が挙げられる。特許文献1には、ドープが支持体201に到達する位置Pにおけるドープの流れ方向(以下、伸張方向と称する)Dと出口202周縁における壁面210とがなす角度Ψを35°〜95°の範囲内にする方法が開示されている。特許文献1に記載の発明によれば、ドープが支持体201に到達する位置Pが安定する結果、第1の厚みムラを防止することができる。
【0009】
また、支持体201の移動方向に直交する方向へ向かってのびるスジ状の厚みムラ、すなわち、フィルムの幅方向における厚みムラ(以下、第2の厚みムラと称する)対策としては、出口202のスリット幅を調節するヒートボルトを設け、製造されたフィルムについて厚みの分布を測定し、測定結果をスリット幅にフィードバックする方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3903100号公報
【特許文献2】特開2008−207348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年の液晶表示装置の需要の増大に伴い、フィルムの生産効率の向上が望まれる。このため、支持体201の移動速度を従来よりも大きくした状態で、流延工程を行う必要がある。加えて、近年の液晶表示装置の多様化により、様々なスペックのフィルムが要求される。そこで、同一の製造設備において、製造するフィルムの種類ごとに製造条件(例えば、支持体の移動速度等)を切り替えて、所望のフィルムを製造することが望まれる。
【0012】
ところで、フィルムの種類によっては、支持体201の移動速度の増大によって、最終的に得られるフィルムの特性が悪化してしまう場合がある。例えば、偏光板保護フィルムを製造する場合、支持体201の移動速度の上限は、特に制限されず、例えば、20m/分〜200m/分の範囲で可能であるものの、特定の位相差フィルムを製造する場合、支持体201の移動速度の上限は、60m/分程度となってしまう。
【0013】
このように、同一の製造設備において、支持体201の移動速度の切り替え量が大きくなると、移動速度のみの切り替えに起因して、第1の厚みムラとともに、小規模の第2の厚みムラが発生してしまう。第2の厚みムラは、レターデーション等の光学特性のムラの原因である。そして、VA型の液晶表示装置が主流となり、液晶表示装置の大型化がすすむ今日において、第2の厚みムラは、この小規模なものであっても、解決しなければならない。
【0014】
第1の厚みムラ及び小規模の第2の厚みムラを解消する方法として、特許文献1の方法は一定の効果を有する。しかしながら、前述した高さHの調節には、高い精度(例えば、幅方向1500〜3000mmの範囲に渡り、±0.1mm)が要求されることから、多大な労力及び手間を要する。したがって、同一の製造設備にて異なるフィルムを切り替えて製造する場合には、特許文献1に記載の発明を用いても、フィルムの生産効率を向上させることは困難である。
【0015】
そこで、第1の厚みムラ及び小規模の第2の厚みムラを解消する方法として、減圧チャンバ208の減圧量を調節する方法も一定の効果を有する。しかしながら、減圧チャンバによる減圧は、ビード204近傍の圧力変動を誘発する。この圧力変動は、ビード204の振動を誘発する結果、第1の厚みムラ及び第2の厚みムラが発生してしまう。したがって、第1の厚みムラ及び小規模の第2の厚みムラを解消する方法として、減圧チャンバ208の減圧量を調節する方法も限界がある。
【0016】
また、特許文献2のように、ヒートボルトを用いて出口202のスリット幅を調節する方法は、大規模な第2の厚みムラに一定の効果があるものの、小規模な第2の厚みムラには有効でないことから、十分ではない。
【0017】
本発明はこのような課題を解決するものであり、流延ダイ、流延装置及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、離隔して互いに向き合う1対の側板と、一方の側板から他方の側板に向かって設けられ、互いに向き合う1対のリップ板と、前記1対の側板及び前記1対のリップ板によって囲まれてなる流路とを有し、この流路の出口からドープを流出する流延ダイにおいて、前記各リップ板は、前記ドープの流れ方向で、上流リップ部及びこの上流リップ部に着脱可能な下流リップ部に分割され、前記流路は、前記1対の側板と前記1対の上流リップ部とによって囲まれてなる上流側流路と、前記1対の側板と前記1対の下流リップ部とによって囲まれてなる下流側流路とを備え、前記上流側流路のうち下流側開口端における前記ドープの流れ方向と、前記下流側流路のうち下流側の開口端における前記ドープの流れ方向とが交差することを特徴とする。
【0019】
前記下流側流路は、前記出口を有する真っ直ぐな出口側流路と、前記上流側流路及び前記出口側流路を連通し、湾曲した連通流路とを備えることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、長手方向に移動自在な帯状の支持面を備える支持体と、前記支持面の幅方向と前記下流側流路の出口の開口面とが平行であって、前記リップ板が設けられる方向と前記支持面の移動方向とが直交するように配された上記の流延ダイとを有し、前記流出したドープから流延膜を前記支持面に形成する流延装置において、前記出口から前記支持体に到達するまでの前記ドープがなすビードであって、前記ビードの前記支持体の移動方向上流側を減圧する減圧チャンバが、前記流延ダイの前記支持体の移動方向上流側に隣接すること有することを特徴とする。
【0021】
更に、本発明の溶液製膜方法は、上記の流延装置を用いて、前記ドープから前記支持面上に流延膜を形成する工程と、前記流延膜を剥ぎ取って湿潤フィルムとする工程と、前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、流延ダイに設けられた流路のうち、出口近傍の流路を構成する下流リップ部が、上流リップ部に着脱可能であるため、同一の製造設備にて異なるフィルムを切り替えて製造する場合でも、フィルムの生産効率の向上を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】流延室内に配置される流延ダイ等の概要を示す説明図である。
【図3】流延ダイの先端部分の概要を示す部分断面図である。
【図4】流延ダイの概要を示す斜視図である。
【図5】流延ダイの概要を示す分解斜視図である。
【図6】流延ダイに設けられた流路の概要を示す斜視図である。
【図7】流延ダイの出口近傍の概要を示す断面図である。
【図8】リップ板の概要を示す分解斜視図である。
【図9】リップ板の先端の概要を示す断面図である。
【図10】減圧チャンバの概要を示す斜視図である。
【図11】本発明の流延ダイを用いた流延工程の概要を示す説明図である。
【図12】第2の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図13】第2の流延ダイの先端の概要を示す拡大断面図である。
【図14】第3の流延ダイの先端の概要を示す拡大断面図である。
【図15】第4の流延ダイの先端の概要を示す拡大断面図である。
【図16】実施例における流延ダイの設置位置を示す説明図である。
【図17】厚みムラ、厚みムラピッチの概要を示す説明図である。
【図18】従来の流延ダイを用いた流延工程の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(溶液製膜方法)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、流延室12とピンテンタ13と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。図1及び図2に示すように、流延室12には、流延ダイ21、流延ドラム22、減圧チャンバ23、及び剥取ローラ24が設けられる。
【0025】
流延ダイ21は、ブラケット(図示しない)により、流延室12の内壁に取り付けられている。ブラケット(図示しない)は、内壁に取り付けられた流延ダイ21の姿勢が所定の向きとなるように、流延ダイ21を固定する。
【0026】
図1及び図2に示すように、流延ダイ21は、ポリマーと溶剤とを含むドープ28を流出するものであり、ドープ28が通る流路29を有する。図2及び図3に示すように、流路29の出口29oは、流延ダイ21の先端に設けられる。
流延ダイ21の詳細は後述する。
【0027】
流延ドラム22は、流延ダイ21の下方に位置し、軸方向が水平となるように配される。そして、流延ドラム22は、周面22aが出口29oと近接するように配される。更に、流延ドラム22は、軸を中心に回転自在となっている。制御部(図示しない)の制御の下、駆動装置(図示しない)により、流延ドラム22が回転すると、流延ドラム22の周面22aはZ1方向へ所定の速度で移動する。流延ダイ21及び流延ドラム22は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有する点から、SUS316製であることがより好ましい。
【0028】
流延ダイ21は、出口29oからドープ28(図1参照)を流出する。出口29oから流出し、周面22aに到達するまでのドープ28は、ビード30を形成する。周面22aに到達したドープ28は、周面22a上でZ1方向に延ばされる結果、帯状の流延膜31を形成する。
【0029】
減圧チャンバ23は、流延ダイ21よりもZ1方向の上流側に配置される。制御部の制御の下、減圧チャンバ23は、ビード30の上流側の気体を吸引する。これにより、周面22aの移動に伴って発生し、周面22aの近傍にてZ1方向に流れる同伴風を吸引することができるため、同伴風との衝突によるビード30の振動を抑えることができる。更に、ビード30の長さL(図11参照)を短くすることができるため、ビード30の振動を抑えることができる。ビード30の長さLは10mm以下であることが好ましい。この減圧チャンバ23によれば、ビード30の上流側の圧力がビード30の下流側の圧力よりも低い状態をつくることができる。そして、ビード30の上流側及び下流側の圧力差ΔPは、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0030】
図1に示すように、流延ドラム22には温調装置32が接続される。温調装置32は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置32は、温度調節部及び流延ドラム22内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム22の周面22aの温度を所望の温度に保つことができる。また、図示は省略するが、流延室12内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置、凝縮した溶剤を回収する回収装置を設けることにより、流延室12内の雰囲気に含まれる溶剤の濃度を一定の範囲に保つことができる。
【0031】
剥取ローラ24は、流延ダイ21よりもZ1方向の下流側に配される。剥取ローラ24は、周面22a上に形成された流延膜31を剥ぎ取って、湿潤フィルム35として、流延室12の下流側へ案内する。
【0032】
剥取ローラ24よりもZ1方向上流側にはラビリンスシール37aが設けられ、剥取ローラ24よりもZ1方向下流側にラビリンスシール37bが設けられる。ラビリンスシール37a、37bは、流延室12の内壁面から、流延ドラム22の周面22aに向かって伸びるように形成される。ラビリンスシール37a、37bの先端は、周面22aに近接するため、溶剤が流延室12の外部へ漏れることを防ぐことができる。
【0033】
流延室12の下流には、ピンテンタ13、乾燥室15、冷却室16、及び巻取室17が順に設置されている。流延室12とピンテンタ13との間の渡り部40には、湿潤フィルム35を支持する支持ローラ41が複数並べられている。支持ローラ41は、図示しないモータにより、軸を中心に回転する。支持ローラ41は、流延室12から送り出された湿潤フィルム35を支持して、ピンテンタ13へ案内する。図では、渡り部40に2つの支持ローラ41を並べた場合をしているが、本発明はこれに限られず、渡り部40に3つ以上の支持ローラ41を並べてもよい。なお、支持ローラ41は、フリーローラでもよい。
【0034】
ピンテンタ13は、湿潤フィルム35の幅方向の両端を貫通して保持する複数のピンを有する環状の保持部材と、保持装置を循環走行させるプーリと、ピンプレートにより保持される湿潤フィルム35に乾燥風を供給する乾燥風供給機(図示しない)とを有する。ピンテンタ13の入り口には、湿潤フィルム35の幅方向の両端をピンに噛み込ませるブラシが設けられる。ブラシの押し付けによって、ピンが湿潤フィルム35の幅方向の両端を貫通する。そして、ピンにより両端を保持された湿潤フィルム35は、保持部材の循環走行により、搬送される。乾燥風との接触により、湿潤フィルム35から溶剤が蒸発する結果、湿潤フィルム35からフィルム45を得ることができる。
【0035】
ピンテンタ13と乾燥室15との間には耳切装置47が設けられている。耳切装置47に送り出されたフィルム45の幅方向の両端は、ピンによって形成された貫通痕が形成されている。耳切装置47は、この貫通痕を有する両端部分を切り離す。この切り離された部分は、送風によりカットブロワ(図示しない)及びクラッシャ(図示しない)へ順次に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0036】
乾燥室15には、多数のローラ49が設けられており、これらにフィルム45が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されている。乾燥室15ではフィルム45の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置52が接続される。吸着回収装置52は、フィルム45から蒸発した溶剤を吸着により回収する。
【0037】
冷却室16は、フィルム45の温度が略室温となるまで、フィルム45を冷却する。冷却室16及び巻取室17の間では、上流側から順に、除電バー54、ナーリング付与ローラ55、及び耳切装置56が設けられる。除電バー54は、冷却室16から送り出され、帯電したフィルム45から電気を除く除電処理を行う。ナーリング付与ローラ55は、フィルム45の幅方向両端に巻き取り用のナーリングを付与する。耳切装置56は、切断後のフィルム45の幅方向両端にナーリングが残るように、フィルム45の幅方向両端を切断する。
【0038】
巻取室17には、プレスローラ61と巻き芯62を有する巻取機63とが設置されており、巻取室17に送られたフィルム45は、プレスローラ61によって押し付けられながら巻き芯62に巻き取られ、ロール状となる。
【0039】
図4及び図5に示すように、流延ダイ21は、1対の側板71と、1対のリップ板72とを有する。1対の側板71は、内面71aをそれぞれ有し、内面71a同士が向き合うように、流延ドラム22(図2参照)の幅方向(以下、Z2方向と称する)に離隔して並べられる。1対のリップ板72は、流路29の一部をなす流路形成部75が設けられた流路形成面76をそれぞれ有する。Z1方向と直交する方向に設けられる1対のリップ板72は、流路形成面76同士が密接するように、一方の側板71の内面71aから他方の側板71の内面71aに向かって配される。流路形成面76同士が密接する1対のリップ板72において、Z2方向の両端面には流路形成面76によりなる隙間が開口する。1対の側板71は、この隙間を塞ぐように配される。こうして、1対の側板71と1対のリップ板72とからダイ本体が形成され、ダイ本体を貫通する流路29は、1対の側板71と1対のリップ板72とによって囲まれてなる(図6参照)。そして、図2及び図3に示すように、流延ダイ21は、出口29oの開口面がZ2方向と平行となるように設けられる。図16に示すように、ダイリップのクリアランスCL1は、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.7mm以上1.2mm以下であることがより好ましい。また、周面22aから出口29oまでの高さHは、0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましく、0.85mm以上2.0mm以下であることが好ましい。更に、(H/CL1)の値は、0.3以上7以下であることが好ましく、0.5以上2以下であることがより好ましい。
【0040】
図6及び図7に示すように、流路29には、入口流路29aと、マニホールド29bと、スリット流路29cとが、入口29iから出口29oに向かって順次設けられる。入口流路29aは、入口29iから流入したドープ28をマニホールド73bへ送るものである。マニホールド73bは、ドープ28をZ2方向へ広げながら、ドープ28に含まれるポリマー分子の歪みを緩和させた後、ドープ28をスリット流路29cへ送るものである。スリット流路29cは、ドープ28の流れ方向に直交する面における断面形状が、Z2方向にのびるスリット状であり、出口29oへ向けてドープ28を送るものである。
【0041】
図8及び図9に示すように、リップ板72は、上流側リップ板81と、上流側リップ板81に着脱自在な下流側リップ板82とに分割される。リップ板72の分割位置は、流路形成部75のうちスリット流路29cの途中となる部分を形成する位置である。上流側リップ板81にはネジ穴86が設けられ、下流側リップ板82には貫通穴87が設けられる。こうして、ネジ88により、上流側リップ板81に下流側リップ板82を取り付けることができる。
【0042】
図7に戻って、スリット流路29cは、1対の上流側リップ板81及び1対の側板71(図5参照)に囲まれてなる上流側流路29cxと1対の下流側リップ板82及び1対の側板71(図5参照)に囲まれてなる下流側流路29cyとに分けられる。上流側流路29cx及び下流側流路29cyは共に直線状に設けられる。なお、Z1方向に直交する方向における下流側流路29cyの流路幅は、上流側から下流側に向かうに従って狭くなっていても良い。また、上流側流路29cxの流路長さLcx、及び下流側流路29cyの流路長さLcyは、それぞれ、ドープ28に含まれるポリマー分子が緩和できる程度の長さであれば良い。
【0043】
上流側流路29cxの下流側の開口端29xoにおけるドープ28の流れ方向DXOと下流側流路29cyのうち下流側の開口端、すなわち出口29oにおけるドープ28の流出方向Doとが、角度φで交差する。角度φは、0°以上45°以下であることが好ましく、10°以上25°以下であることがより好ましい。
【0044】
また、1対の下流側リップ板82には、出口29oの周縁となる位置に先端壁面29mがそれぞれ形成される。Z1方向に直交する方向における1対の先端壁面29mの間隔は、ドープ28の流れ方向の上流側から下流側に向かうに従って大きくなる。
【0045】
上流側リップ板81及び下流側リップ板82の形成材料としては、ステンレス製(セラミックスやステンレス鋼、中でも、オーステナイト系ステンレス鋼、特にSUS316やSUS316L等や析出硬化型のステンレス鋼のSUS630、SUS631等が好ましい。十分な耐腐食性と強度とを有する点から、下流側リップ板82の先端面に、硬化膜を形成することがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜の組成として、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、特に好ましいのはWCである。
【0046】
図10に示すように、減圧チャンバ23は、ケーシング91と仕切り板92とから構成される。ケーシング91や仕切り板92には、ジャケット(図示しない)が取り付けられる。そして、温度が所定の範囲内に調節された伝熱媒体をこのジャケットに供給することにより、ケーシング91や仕切り板92の温度を所定の範囲内に調節することができる。
【0047】
ケーシング91は、後方板91aと、1対の側板91bと、天板91cと、前方板91dとから構成される。後方板91aは、流延ダイ21よりもZ1方向の上流側にて、方向Z2に設けられ、周面22aに対し起立するように配される。Z2方向に並べられる1対の側板91bは、後方板91aと流延ダイ21(図2参照)との隙間を塞ぐように、Z1方向に設けられる。また、後方板91a及び1対の側板91bは、それぞれの下端部が周面22aと近接するように配される。天板91cと前方板91dとは、1対の側板91bに掛け渡される。また、天板91cには孔が設けられ、この孔には配管94が挿通される。ケーシング91の形成材料としては、溶剤に溶解しにくく、ケーシング91の内部及び外部との圧力差に耐えうる強度を有することが好ましく、例えば、ステンレス鋼が用いられる。
【0048】
仕切り板92は、Z1方向に設けられており、減圧チャンバ23の吸引による流入風の整流板として作用する。なお、仕切り板92の間に、遮風ブロックを設けても良い。遮風ブロックは、流延ダイ21のリップ板に密接するように設けられることが好ましい。仕切り板92や遮風ブロックは、MCナイロン(登録商標)、テフロン(登録商標)やジュラコン(登録商標)など有機溶剤に溶解しにくい材料から形成されることが好ましい。
【0049】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、図示しないポンプは、所定量のドープ28を流延ダイ21へ送る。図11に示すように、流延ダイ21は、出口29oからドープ28を流出する。出口29oから流出したドープ28は、出口29oから周面22aにかけてビード30を形成する。周面22aに到達したドープ28は、移動する周面22a上において流れ延ばされる結果、帯状の流延膜31を形成する。
【0050】
周面22aの移動速度が大きくなると、ドープ28が周面22aに到達する点PはZ1方向下流側へ移るため、1対の先端壁面29mのうちZ1方向上流側の先端壁面29m及びビード30の伸張方向Dがなす角度Ψも大きくなる。この結果、角度Ψが所定の範囲(35°〜95°)から外れてしまうと、第1の厚みムラが発生する、あるいは、第1の厚みムラとともに第2の厚みムラが発生してしまう。
【0051】
本発明では、図8及び図9に示すように、下流側流路29cyの構成部材である下流側リップ板82が上流側リップ板81に着脱自在となっているため、別の形状の下流側リップ板82への交換が可能である。このため、図11に示す、出口29oにおけるドープ28の流れ方向(以下、流出方向と称する)Dの向きや先端壁面29mの向きを所定の範囲に調節することができる。更に、流出方向Dの向きの調節により、伸張方向Dの向きを所定のものに調節することができる。したがって、本発明によれば、流延ダイ21の姿勢を維持しつつ、角度Ψを所定の範囲となるように調節することができるため、支持体の移動速度の適性値が異なるフィルムを同一の製造設備にて切り替え製造すること、及び第1の厚みムラを防止することを両立できる。
【0052】
更に、本発明では、下流側リップ板82を別の形状のものに交換することが可能であるため、流出方向Doの向きを調節することができる結果、流出方向Doと伸張方向Dとがなす角の角度δを小さくすることが可能となる。このように、本発明は、製造条件に応じて、流延ダイ21の姿勢を維持しながら、角度δを調節することが可能となるため、第1の厚みムラとともに、第2の厚みムラを防止することができる。
【0053】
角度δは、30°以下であることが好ましく、15°以下であることがより好ましい。角度δが30°を超えると、周面22aの移動速度が一定の流延工程であっても、移動方向における位置Pの変動量が大きくなるため、ビード30が振動する結果、厚みムラが顕著となるため好ましくない。
【0054】
また、減圧チャンバ23を用いて、ビード30よりもZ1方向上流側にある空気を吸引することにより、位置Pの位置を上流側へ調節することができる。このように減圧チャンバ23を用いる場合において、周面22aの移動速度の変更につき流延ダイ21の姿勢を変更しようとすると、流延ダイ21に密接する減圧チャンバ23や遮風ブロック等をも交換する必要が生じる。本発明によれば、減圧チャンバ23を用いる場合であっても、容易に流出方向Doを調節できる。
【0055】
なお、下流側流路29cyは、図12に示すように、出口29oから入口29iに向かって順次設けられる直線状の流路102及び流路102と接続する湾曲流路101を有していても良い。湾曲流路101及び流路102の接続部と、湾曲流路101及び流路29cxの接続部とは湾曲に形成される。また、図13に示すように、出口29oから入口29i(図6参照)に向かって順次設けられる第1直流路106、及び第2直流路107を有していても良い。第1直流路106及び第2直流路107は直線状に形成される。第1直流路106の下流側の開口端におけるドープ28の流れ方向は、開口端29xoにおけるドープ28の流れ方向と同じ方向である。また、第1直流路106及び第2直流路107は湾曲に接続していてもよい。
【0056】
図9に示すように、上記実施形態では、ネジ88の貫通穴87を、下流側リップ板82の下端面21fに設けたが、本発明はこれに限られず、図14に示すように、下流側リップ板82の下端面側面21gに設けても良い。
【0057】
上記実施形態において、ピンテンタ13と乾燥室15との間に、帯状のフィルム45の幅を拡げるクリップテンタを設けても良い。フィルム45の光学特性が所望の範囲となるように、フィルム45を拡幅することにより、所望の光学フィルムをつくることができる。
【0058】
上記実施形態では、ドープ28からなる流延膜31を搬送可能な状態にするために、流延膜31を冷却したが、本発明はこれに限られず、流延膜31から溶剤を蒸発させてもよい。
【0059】
上記実施形態では、上記実施形態では、支持体として、流延ドラム22を用いたが、本発明はこれに限られず、軸方向が水平となるように配されたローラに掛け渡された流延バンドを用いてもよい。
【0060】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0061】
次に、支持体として流延バンドを有する溶液製膜設備150について説明する。溶液製膜設備150の説明では、溶液製膜設備10と異なる部品や部材についての説明を行い、溶液製膜設備10と同一の部品や部材については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0062】
溶液製膜設備150は、図15に示すように、流延室12とクリップテンタ151と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0063】
流延室12には、ドープ28を流出する流延ダイ21が設けられる。流延ダイ21の下方には、回転ローラ152,153が設けられる。回転ローラ152,153には、流延バンド154が掛け渡される。流延バンド154の一端と他端とが連結され、流延バンド154は環状となっている。回転ローラ152,153は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド154は移動する。流延ダイ21から流出したドープ28は、移動する流延バンド154上にて流延膜31を形成する。
【0064】
流延バンド154の移動速度、すなわち流延速度が10m/分以上200m/分以下で移動できるものであることが好ましく、より好ましくは15m/分以上150m/分以下であり、最も好ましくは20m/分以上120m/分以下である。流延速度が10m/分未満であるとフィルムの生産性が劣る。また、200m/分を超えると、流延ビードが安定して形成されず、流延膜31の面状が悪化するおそれが生じる。
【0065】
また、流延バンド46の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ152,153に温調装置32が取り付けられていることが好ましい。流延バンド154は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。温調装置32は、制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、回転ローラ152,153内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、回転ローラ152,153の温度を所望の温度に保つことができる。
【0066】
流延バンド154の幅、長さ、厚み等は特に限定されるものではない。流延バンド154の幅は、例えば、ドープ28の流延幅の1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。また、流延バンド154の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、流延バンド154の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、流延バンド154の表面のうち、ドープ28が流延される表面(以下、流延面と称する)の表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。流延面は、研磨されていることが好ましい。流延バンド154は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド154の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。なお、減圧チャンバ23を、流延ダイ21よりも流延バンド154の走行方向上流側に設けてもよい。
【0067】
更に、流延室12は、流延膜31に乾燥風をあてる送風装置157〜159を有する。送風装置157〜159は、流延ダイ21よりも流延バンド154の走行方向下流側に設けられる。流延膜31に乾燥風があたると、流延膜31から溶剤が蒸発する。流延ダイ21と送風装置157との間に、乾燥風を遮るラビリンスシールを設けてもよい。このラビリンスシールの設置により、流延直後の流延膜31と乾燥風との接触に起因する流延膜31の面状変動を抑制することができる。また、流延ダイ21と送風装置157との間に、流延膜31に急速乾燥風をあてる送風装置(以下、急速乾燥送風装置と称する)161を設けてもよい。なお、流延ダイ21と送風装置157との間にラビリンスシールを設ける場合には、ラビリンスシールと送風装置157との間に急速乾燥送風装置161を設けてもよい。流延膜31に急速乾燥風があたると、流延膜31に含まれる溶剤は、乾燥風があたる場合に比べて早い蒸発速度で蒸発する。これにより、流延膜31の表面にスキン層を形成することができる。流延膜31から溶剤を蒸発させる工程の初期段階において、流延膜31にスキン層を設けることにより、面状に優れたフィルム45を製造することができる。
【0068】
乾燥風や急速乾燥風の送風方向は、流延膜31の搬送方向と平行でもよいし、流延膜31の搬送方向と交差していてもよい。乾燥風や急速乾燥風の送風方向は、各送風装置に設けられる送風口の位置により調節することができる。例えば、流延膜31の幅方向中央部と対向するように送風口を設けてもよいし、流延膜31の幅方向両端部と対向するように送風口を設けてもよい。また、流延膜31の幅方向の一方の端部と対向するように送風口を設け、他方の端部と対向するように吸気口を設けてもよい。
【0069】
渡り部40には、送風機165が備えられる。送風機165は、支持ローラ41により搬送される流延膜31に、所定の風をあてる。なお、渡り部40では下流側の支持ローラ41の回転速度を上流側の支持ローラ41の回転速度より速くすることにより湿潤フィルム35にドローテンションを付与させることも可能である。
【0070】
次に、溶液製膜設備150におけるフィルム45の製造方法の一例を以下に説明する。
【0071】
回転ローラ152,153の駆動により、流延バンド154は走行する。流延ダイ21は、ドープ28を流延バンド154上に連続して流出する。流延ダイ21から流延バンド154にかけて、流延ビードが形成され、流延バンド154上には流延膜31が形成される。流延バンド154上に形成した流延膜31は、流延バンド154の走行により、剥取ローラ24の近傍まで移動する。急速乾燥送風装置161は、流延膜31に急速乾燥風をあてる。流延膜31における急速な溶媒の蒸発により、流延膜31の表面には、スキン層が形成する。送風装置157〜159は、流延膜31に乾燥風をあてる。流延膜31における溶媒の蒸発により、流延膜31には自己支持性が発現し、剥ぎ取り可能な状態となる。自己支持性を有するものとなった流延膜31は、剥取ローラ24により、流延バンド154から剥ぎ取られる。
【0072】
流延膜31の剥ぎ取り時における残留溶媒量は、10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、15質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。
【0073】
流延室12から送り出された湿潤フィルム35は、渡り部40の支持ローラ41によって、クリップテンタ151へ搬送される。送風機165は、所定の風を湿潤フィルム35へあてて、湿潤フィルム35の乾燥を進行させる。この乾燥により、湿潤フィルム35はフィルム45となる。送風機165から送り出される風の温度は、20℃以上250℃以下であることが好ましい。
【0074】
クリップテンタ151に送られたフィルム45は、所定の延伸処理が施された後、耳切装置47へ送られる。耳切装置47は、フィルム45の耳部を切断する。耳部を切断されたフィルム45は、乾燥室15、冷却室16及び巻取室17へと順次搬送される。
【0075】
(ポリマー)
ポリマーとしては、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等を用いることができる。
【0076】
(セルロースアシレート)
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0077】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。
【0078】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0079】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0080】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0081】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0082】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0083】
(添加剤)
ドープに所定の添加剤を添加してもよい。本発明で用いられる添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤として重縮合エステルを用いることが好ましい。
【0084】
フィルム45の厚みは、20μm以上120μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0085】
フィルム45の幅は、700mm以上3000mmであることが好ましく、1000mm以上2800mm以下であることがより好ましく、1500mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。なお、フィルム45の幅は、2500mm以上であってもよい。
【0086】
(ヘイズ)
フィルム45のヘイズは、0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0087】
(Re、Rth)
フィルム45の面内方向のレターデーションは、25nm≦|Re(590)|≦100nmであり、かつ、50nm≦|Rth(590)|≦250nmであることが好ましい。そして、30nm≦|Re(590)|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re(590)|≦70nmであることが特に好ましい。また、70nm≦|Rth(590)|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth(590)|≦230nmであることが特に好ましい。
【0088】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A−1)、式(A−2)及び式(B)より、Re及びRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0089】
【数1】

【0090】
ここで、上記のRe(γ)は法線方向から角度γ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
【実施例】
【0091】
(実験1〜19)
図15に示す溶液製膜設備150において、フィルム45を製造した。流延室12において、流延ダイ21を、図16に示すように設置した。周面22aから下端面21fまでの高さはHであり、出口29oの開口面に直交する方向と、周面22aの法線方向とがなす角の角度はθ1であった。流延ダイ21の出口29oから移動速度VZ1で移動する周面22a上へドープ28を流出して、出口29oから周面22aにかけて長さL(図16参照)のビード30を形成し、周面22a上に流延膜31を形成した。減圧チャンバ23を用いて、ビード30の上流側の圧力をビード30の下流側の圧力よりも圧力ΔPだけ低くした。下流側リップ板82の下端面21fと流出方向Dとがなす角の角度はθ2であった。
【0092】
流延膜31を周面22aから剥ぎ取って湿潤フィルム35とした。湿潤フィルム35をピンテンタ13に送って、フィルム45を得た。フィルム45を乾燥室15、冷却室16へ順次送った。
【0093】
(評価)
分光干渉レーザ変位計 SI(キーエンス社製)を用いて、流延ドラム22の周面22a上にある流延膜31について、図17に示す厚みムラΔd、及び厚みムラピッチPΔdを測定した。
【0094】
実験1〜19における移動速度VZ1、圧力差ΔP、長さL、間隔H、角度θ1及びθ2、並びに厚みムラΔd、及び厚みムラピッチPΔdを表1に示す。
【0095】
【表1】

【符号の説明】
【0096】
10 溶液製膜設備
21 流延ダイ
29 流路
29a 入口流路
29b マニホールド
29c スリット流路
29cx 上流側スリット流路
29cy 下流側スリット流路
50 フィルム
71 リップ板
81 上流側リップ板
82 下流側リップ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離隔して互いに向き合う1対の側板と、一方の側板から他方の側板に向かって設けられ、互いに向き合う1対のリップ板と、前記1対の側板及び前記1対のリップ板によって囲まれてなる流路とを有し、この流路の出口からドープを流出する流延ダイにおいて、
前記各リップ板は、前記ドープの流れ方向で、上流リップ部及びこの上流リップ部に着脱可能な下流リップ部に分割され、
前記流路は、前記1対の側板と前記1対の上流リップ部とによって囲まれてなる上流側流路と、前記1対の側板と前記1対の下流リップ部とによって囲まれてなる下流側流路とを備え、
前記上流側流路のうち下流側開口端における前記ドープの流れ方向と、前記下流側流路のうち下流側の開口端における前記ドープの流れ方向とが交差することを特徴とする流延ダイ。
【請求項2】
前記下流側流路は、前記出口を有する真っ直ぐな出口側流路と、前記上流側流路及び前記出口側流路を連通し、湾曲した連通流路とを備えることを特徴とする請求項1記載の流延ダイ。
【請求項3】
長手方向に移動自在な帯状の支持面を備える支持体と、前記支持面の幅方向と前記下流側流路の出口の開口面とが平行であって、前記リップ板が設けられる方向と前記支持面の移動方向とが直交するように配された請求項1または2記載の流延ダイとを有し、前記流出したドープから流延膜を前記支持面に形成する流延装置において、
前記出口から前記支持体に到達するまでの前記ドープがなすビードであって、前記ビードの前記支持体の移動方向上流側を減圧する減圧チャンバが、前記流延ダイの前記支持体の移動方向上流側に隣接すること有することを特徴とする流延装置。
【請求項4】
請求項3記載の流延装置を用いて、前記ドープから前記支持面上に流延膜を形成する工程と、
前記流延膜を剥ぎ取って湿潤フィルムとする工程と、
前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−201088(P2011−201088A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68963(P2010−68963)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】