説明

流木を含む土石流の解析装置及び解析方法

【課題】流木を水に浮く軽い流木群と、水に沈む重い流木群に分けて取扱い、水流・土砂の流れと合わせて解くことによって、実態に近い流木を含む土石流の解析をする。
【解決手段】流水・土砂の流れに関する支配方程式と、水に浮く流木に関する支配方程式と水に沈む流木に関する支配方程式を有する流木群に関する支配方程式とを解析すべき河川に応じて選択する手段と、土砂の流れの物理パラメータと流木の物理パラメータとを解析すべき河川に応じて設定する手段と、前記それぞれの支配方程式を選択する手段と前記それぞれの物理パラメータを設定する手段とに基づき土砂と水の混合物の移動現象と水に浮く流木と水に沈む流木の挙動を解く手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山地・河川における流木を含む土石流について、流木の比重の違いによる特性を反映することによって、実現象に近い天然ダム等の形成・決壊や砂防施設等の効果を評価できる解析装置及び解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から土石流の解析システムが種々提案されている。
特許文献1に記載の土砂災害の氾濫解析システムによれば、地形データの作成・入力の第1ステップと、清水と土砂の流量ハイドログラフの作成・入力の第2ステップと、土砂氾濫の種類の選択の第3ステップと、物理的パラメータ、プロセス条件データの入力設定の第4ステップと、氾濫土砂の運動を数値解析する第5ステップと、解析結果の出力の第6ステップとからなり、前記第3ステップにおいて、土石流(又は土砂流)、泥流の2種類の土砂氾濫現象から、検討対象の土砂氾濫に適切な流体の基礎方程式の構成則を選択するようにしたものである。
【0003】
特許文献2に記載の土砂移動解析システムによれば、土砂移動解析の対象となる河川の上流地域等に、識別情報発生装置を取り付けた観測対象石を配置し、その位置情報を識別情報毎に位置情報取得装置により取得する。取得した位置情報は、識別情報とともにサーバに渡され、記憶される。次に、土石流が発生したときに、観測対象石がアンテナ部の下を通過すると、受信装置がアンテナ部を介して観測対象石に取り付けられたICタグと交信し、識別情報を受信する。受信した識別信号は、識別情報の受信時刻とともにサーバに渡され、流出前にどの位置にあった観測対象石がアンテナ部の位置を、いつ通過したのかを判別するようにしたものである。
【0004】
特許文献3に記載土石流検知システムによれば、土石流の予測流路に沿って複数の検知器を配備した土石流検知システムであり、この検知器は、土石流による地面の震動を検知する加速度計と、土石流の検知情報を送信する通信部とを備えるものである。
【0005】
以上のような従来の氾濫解析システムでは、いずれも土砂氾濫現象を基にして解析しているが、これらの土石流とともに流動する流木の挙動については、一切触れられていない。
特許文献4に記載された流木止め工よれば、流木ダムが形成されることによる洪水流や土砂礫の氾濫等の災害を未然に防ぐために、複数の支柱を備えた流木止め工において、支柱同士の純間隔が0.4m以上、かつ2.4m以下の範囲に設定するものが提案されている。
【0006】
従来の土石流と流木の混合物流れとして扱われる流木は、図5に示すように、すべて軽い水に浮く流木14として取り扱いがなされている。すなわち、この図5において、自由水面10と河床11で表わされる河川では、自由水面10に近いところが速い水の流れ12となり、河床11に近いところが遅い水の流れ13となる。速い水の流れ12では、水に浮く流木14が流れ、遅い水の流れ13では土砂15が流れ、水に浮く流木14のみによって流木ダム16が生じるとして取り扱いがなされている。
【0007】
ところが、土石流に含まれる流木は、土石流発生時に山地・山腹から生産される生木状態のものや、倒木状態で河床に堆積していたもの等、樹種や樹木の含有水分量の違いによって比重が異なるものが混在する。このため、図4に示すように、比重が小さい流木14は、自由水面10の近くを流下し、比重が大きい流木17は、河床11の近くを流下するのが実態である。したがって、流木ダム16は、水に浮く流木14と水に沈む流木17が混合した状態で生じ、図5のような取り扱いでは、流木の挙動が実態にそぐわないため、流木ダム等の再現性が十分ではないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−244947号公報。
【特許文献2】特開2006−105916号公報。
【特許文献3】特開2002−148082号公報。
【特許文献4】特開平9−105122号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
土石流発生時の山地・山腹から立木状態で生産される流木は、水分(含有水分量)が多い生木であり、樹種の違いによって、針葉樹は比重が小さくて水に浮く、広葉樹は水に沈むが土砂の流に浮くといった性質がある。また、倒木状態で河床に堆積していたものは長期間に渡って含水しているため、比重が大きく水に沈みやすい性質を持っている。
水に浮く流木は、水面近くの比較的速い流速によって流下し、水に沈む流木は、河床近くの比較的遅い流速により流下することになる。
流木はすべて水に浮くとする従来の解析方法では、河床近くを流下する比較的重い流木の挙動が考慮されていないため、流木ダムや天然ダムの解析結果が実態と異なる結果となり、ダムの決壊による流量、水深および流速や砂防施設等の効果を見誤る可能性がある。
【0010】
本発明は、土石流に含まれる流木を水に浮いて水面近くを流下する比較的軽い流木群と、水に沈むが土砂の流れに浮いて河床近くを流下する比較的重い流木群に分けて取扱い、さらに、水流・土砂の流れと合わせて解くことによって、実態に近い流木を含む土石流の解析装置及び解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
土石流に含まれる流木群を、水に浮いて水面近くを流下する比較的軽い流木群と、水に沈むが土砂の流れに浮いて河床近くを流下する比較的重い流木群に分けて取扱い、水流、土砂の流れ、軽い流木、重い流木の運動を解析する。
土石流・土砂流の基礎方程式系において、土砂の流れに浮いて河床近くを流下するような比較的重い流木群と、水の流れに浮く比較的軽い流木群に対して比重の違いに着目し、それらの挙動を新たな方程式を用いて表現する。さらに、土石流・土砂流に及ぼす比重の異なる流木群の混入の影響を従前の基礎方程式群に導入し、新たな基礎方程式群を再構築する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、流水・土砂の流れに関する支配方程式と、水に浮く流木に関する支配方程式と水に沈む流木に関する支配方程式を有する流木群に関する支配方程式とを解析すべき河川に応じて選択する手段と、土砂の流れの物理パラメータと流木の物理パラメータとを解析すべき河川に応じて選択する手段と、 前記それぞれの支配方程式を選択する手段と前記それぞれの物理パラメータを設定する手段とに基づき土砂と水の混合物の移動現象と水に浮く流木と水に沈む流木の挙動を解く手段とを具備したので、流木の比重の違いによる運動特性が解析できることにより、実態に近い流木・天然ダムの形成・決壊、水深の時空間変化などが評価でき、従来の解析方法と比べて、精度の高い被害想定等が可能となり、土砂・洪水ハザード評価の技術向上が図れる。
例えば、砂防施設を例とすれば、流木の流下・流出を抑制する目的で山地河川の砂防えん堤付近に設置される流木捕捉工がある。従来は、流木は水に浮いて流下する軽いものとして検討されてきた。このため、広葉樹や倒木状態で河床に堆積していたような水に沈みやすく比較的重い流木は、流木捕捉工には捕捉されずに通過したり、針葉樹のように水に浮く流木が捕捉された流木群の下方をすり抜けたりする現象が評価されていなかった。
本発明により、水に浮く流木に関する支配方程式と水に沈む流木に関する支配方程式を有する流木群に関する支配方程式とを用いることにより、実態に近い流木の運動が解析できるため、効果的な砂防施設の計画・設計が可能になる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、土砂の流れの物理パラメータには、土砂の粒径、土砂の内部摩擦角、土砂・水の質量密度などのパラメータの条件設定を具備し、流木の物理パラメータには、流木の質量密度を考慮した土砂・水・流木混合の平均密度、樹種の違い、樹木の含有水分量の多少、流木の数、流木の平均直径、流木の平均長さを具備し、これらのパラメータは、対象とする解析領域・範囲及び季節に対応させて設定するようにしたので、より正確な流木を含む土石流の解析ができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、 流水・土砂の流れに関する支配方程式は、土砂と水の混合物の移動現象を、質量保存則、運動量保存則、構成則、河床の連続式を数値的に連立することによって解き、流木群に関する支配方程式は、水に浮く流木と水に沈む流木の挙動を、質量保存則、流木の影響を構成則に反映させた運動量保存則及び流木の速度差に起因する運動量輸送・流木の堆積を表す構成則を数値的に連立することによって解くことにより、流木を含む土石流の解析をより容易に行うことができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、水に浮く流木に関する支配方程式は、従前の拡散方程式に拡散係数、分散係数を用いて流木群の拡散・凝集現象を定式化して構築して解くことにより水に浮く流木だけを対象とする土石流の解析ができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、水に沈む流木に関する支配方程式は、水に沈む流木の質量・運動量及び流木の速度差に起因する運動量輸送、流木の堆積を表す構成則に関する支配方程式、及び、水に沈む流木が混入することによる流れ全体の平均質量密度が変化し、比重の異なる流木同士の質量・運動量のやりとりに関する方程式を構築して解くことにより水に浮く流木を除いて水に沈む流木だけを対象とする土石流の解析ができる。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、解析しようとする特定の河川の名称と、この特定の河川の特定の地点名と、特定の時期を含む土砂や流木の特性値を入力する第1ステップと、メインメモリの制御プログラムの指令により、第1ステップで入力した条件と予めファイル装置に記憶されているデータファイルとを中央処理装置で比較する第2ステップと、第2ステップでの比較結果に基づき、水と土砂の支配方程式、水と土砂に比重の異なる流木の影響を加味した支配方程式、水に浮く流木の支配方程式、水に浮く流木と水に沈む流木の混合したときの支配方程式のうちのいずれかを選択する第3ステップと、選択された支配方程式に基づき所定時間内で、土砂、水、流木濃度などがどのように変化したかを時系列で解析して解析結果を出力する第4ステップとからなる流木を含む土石流の解析方法としたので、土砂、水、比重の異なる流木の混合割合が異なっても土砂、水、流木濃度がどのように変化したかを時系列で解析することができる。
【0018】
請求項7記載の発明によれば、水と土砂の支配方程式と、水と土砂に比重の異なる流木の影響を加味した支配方程式と、水に浮く流木の支配方程式と、水に浮く流木と水に沈む流木の混合したときの支配方程式とにおけるパラメータをより詳しく設定したので、より正確な解析ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による流木を含む土石流の解析装置及び解析方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図2】本発明による流木を含む土石流の解析装置及び解析方法により解析した特性図の一例で、(a)は、複数地点a、b、cにおける流木、土砂、水の混合物の時間変化の特性図、(b)は、地点aにおける比重の大きな水に沈む流木17、比重の小さな水に浮く流木14、土砂15、水、そしてこれらの混合物の混合割合と時間変化の特性図である。
【図3】本発明による流木を含む土石流の解析装置及び解析方法を実施するための回路図である。
【図4】流木を水に浮く流木14と水に沈む流木17に分けて解析するための説明図である。
【図5】流木を水に浮く流木14のみとして解析するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による流木を含む土石流の解析装置及び解析方法は、流水・土砂の流れに関する支配方程式と、水に浮く流木14に関する支配方程式と水に沈む流木17に関する支配方程式を有する流木群に関する支配方程式とを解析すべき河川に応じて選択する手段と、土砂の流れの物理パラメータと流木の物理パラメータとを解析すべき河川に応じて選択する手段と、前記それぞれの支配方程式を選択する手段と前記それぞれの物理パラメータを設定する手段とに基づき土砂と水の混合物の移動現象と水に浮く流木14と水に沈む流木17の挙動を解く手段とを具備している。
【0021】
土砂の流れの物理パラメータには、粒径、土砂の内部摩擦角、砂礫の反発係数、流体・清水の質量密度、砂礫の質量密度を具備し、流木の物理パラメータには、樹種の違い、含有水分量の多少、流木の数、流木の平均直径、流木の平均長さを具備し、これらのパラメータは、対象とする解析領域・範囲および季節に対応させて設定する。
【0022】
流水・土砂の流れに関する支配方程式は、土砂と水の混合物の移動現象を、質量保存則、運動量保存則、構成則、河床の連続式を数値的に連立することによって解き、 流木群に関する支配方程式は、水に浮く流木14と水に沈む流木17の挙動を、質量保存則、流木の影響を構成則に反映させた運動量保存則及び流木の速度差に起因する運動量輸送・流木の堆積を表す構成則を数値的に連立することによって解く。
【0023】
水に浮く流木14に関する支配方程式は、従前の拡散方程式に拡散係数、分散係数を用いて流木群の拡散・凝集現象を定式化して構築して解く。
【0024】
水に沈む流木17に関する支配方程式は、水に沈む流木17の質量・運動量及び流木の速度差に起因する運動量輸送、流木の堆積を表す構成則に関する支配方程式、及び、水に沈む流木17が混入することによる流れ全体の平均質量密度が変化し、比重の異なる流木同士の質量・運動量のやりとりに関する方程式を構築して解く。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例1を図面に基づき説明する。
図1は、比重の異なる流木を含む土石流の解析のフロー図であり、図3は、本発明による流木を含む土石流の解析装置及び解析方法を実施するための回路図である。この図3において、入力装置21にて解析を指示する河川名、日付け、支配方程式その他の解析条件が入力される。ファイル装置24には、予め後述するようなデータが記憶されており、中央処理装置20は、メインメモリ23の制御メモリの指令を受け、ファイル装置24から過去の近似した条件のデータを読み出す。
次いで、中央処理装置20は、メインメモリ23の制御プログラムの指令を受け、ファイル装置24から流木の種類、構成則などを読み出し、補正すべき時はその補正をして、任意地点での時間変化や任意時間での空間変化が出力装置22に出力される。
【0026】
さらに詳しくは、解析には、連続体の支配方程式が用いられる。この支配方程式には、流水・土砂の流れに関する支配方程式と流木群に関する支配方程式から構成される。この流木群に関する支配方程式には、比重の小さい水に浮く流木14に関する支配方程式と比重の大きい水に沈む流木17に関する支配方程式を有する。これらの方程式は、ファイル装置24に記憶される。
【0027】
土砂の流れの物理パラメータには、粒径、土砂の内部摩擦角、砂礫の反発係数、流体・清水の質量密度、砂礫の質量密度などがある。これらのパラメータは、河川毎に、また、河川の上流地域、駐留地域、下流地域などの地域毎にファイル装置24に予め記憶されている。
【0028】
流木の物理パラメータには、流木の質量密度(樹種の違い、含有水分量の多少)、流木の数、流木の平均直径、流木の平均長さなどがあり、比重の異なる流木群の数や内訳は、対象とする解析領域・範囲および季節に対応させて必要な値を設定する。これらのパラメータは、河川毎に、また、河川の上流地域、駐留地域、下流地域などの地域毎にファイル装置24に予め記憶されている。
【0029】
土石流の流動・発達・停止(堆積)に関する土砂と水の混合物の移動現象は、ファイル装置24に記憶された質量保存則(連続の式)、運動量保存則、構成則、河床の連続式を数値的に連立することによって中央処理装置20にて解くことが出来る。ここに、構成則とは、土石流などの土砂の運動を応力・圧力とひずみ速度の関係で示した関係のことをいう。
【0030】
水に浮く比重の小さい流木群水に浮く流木14及び水に沈む比重の大きい流木群水に沈む流木17の挙動は、ファイル装置24に記憶された質量保存則(拡散方程式)、流木の影響を構成則に反映させた運動量保存則及び流木の挙動(速度差に起因する運動量輸送、流木の堆積など)を表す構成則を用いることによって、中央処理装置20にて数値的に連立することによって解くことができる。
【0031】
比重の小さい(水に浮く)流木群に関する支配方程式は、従前の拡散方程式を用いたものに幾つか類似する部分があるが、拡散係数や分散係数を用いて流木群の拡散・凝集現象を定式化することが本発明による新規な点であり、ファイル装置24に記憶される。
一方、水に沈む比重の大きい流木群を取り扱う際には、質量・運動量および流木の挙動(速度差に起因する運動量輸送、流木の堆積など)を表す構成則に関する支配方程式、及び、比重の大きい流木が混入することによる流れ全体の平均質量密度が変化し、比重の異なる流木同士の相互作用(質量・運動量のやりとり)に関する方程式が新たに構築され、ファイル装置24に記憶される。
これらの新たな方程式群がメインメモリ23からの指令によりファイル装置24から導入されて、比重の異なる流木群の挙動を追跡可能な方程式系が中央処理装置20にて構成され、ファイル装置24に記憶される。
【0032】
比重の異なる流木群の速度差の違いの表現には、流速分布則や流れの抵抗則が必要となる。また、流木ダムや流木の閉塞に伴い形成される天然ダムの発生・形成の契機となる流木の引っかかりについては、流木の閉塞条件が必要となる。これらの抵抗則や閉塞条件は、流木長、流木群の平面的な偏り(角度、角速度など)と渓床の川幅との関係と流れの速さ・強さに関する関係を結びつけた関係が必要となるため、実験等により得られるデータを確率・統計的に処理することによって、適切な値を設定し、ファイル装置24に記憶される。
【0033】
以上のように、ファイル装置24にて予め記憶した流水・土砂及び流木の物理的なパラメータ、支配方程式並びに土砂・流木に関する構成則を用いることによって、メインメモリ23からの指令により中央処理装置20にて支配方程式群を数値的に解くことが出来る。これらの支配方程式の数値解は、ファイル装置24に記憶した差分法、有限体積法、有限要素法などの数値解析法を適用し、時間・空間に対して方程式を離散化した離散方程式を中央処理装置20で構築して用いることによって求められる。水深、流量、河床高さ、土砂濃度(土砂の量)、流木濃度(流木の量・本数)、流木の速度の時空間変化に関する計算データが求められ、任意地点での時間変化、任意時間での空間変化などが出力装置22に出力され、画像として表示され、プリントアウトされる。
【0034】
次に、図1に基づき解析結果の出力までのフローチャートを説明する。
土砂や流木の特性値等の入力A(第1ステップ)では、解析しようとする河川・渓流等の特定の名称、上流・中流・下流などの特定の地点名、雨季、乾季、冬季、夏季などの特定の時期(季節)を入力装置21から入力する。
第2ステップでは、メインメモリ23の制御プログラムの指令により、第1ステップで入力した条件と予めファイル装置24に記憶されているデータファイルとが中央処理装置20で比較される。
第3ステップでは、第2ステップでの比較結果に基づき、支配方程式がB、C、D、Eのいずれであるか選択する。
第4ステップでは、選択された支配方程式に基づき所定時間内で、土砂、水、流木濃度などがどのように変化したかを時系列で解析して解析結果を出力する。
【0035】
たとえば、第1ステップで入力した特性値等が水と土砂のみであると中央処理装置20で判断された場合には、質量保存則(土砂、水と土砂)、運動量保存則(運動方程式)、構成則(せん断力、圧力、侵食、堆積率)、河床の連続式などの物理パラメータの条件設定による従前のモデルBの支配方程式で解析される。
【0036】
第1ステップで入力した特性値等が水と土砂に加えて流木の影響があると中央処理装置20で判断された場合には、体積濃度・相平均による平均密度(水、土砂、比重の異なる流木群)、流木の比重の違いを考慮した構成則(せん断力、圧力、侵食、堆積率)、流木群の混入による抵抗増加などの物理パラメータの条件設定によるモデルCの本発明で新たに導入された支配方程式で解析される。
【0037】
第1ステップで入力した特性値等が水に浮く軽い流木群のみであると中央処理装置20で判断された場合には、質量保存則(拡散型+浸食・堆積率)、運動量保存則(運動方程式)又は流速の鉛直分布則、構成則(速度差に起因する運動量輸送、浸食・堆積率)、流木の浸食・堆積の時間変化などの物理パラメータの条件設定による従前のモデルDの支配方程式で解析される。
【0038】
第1ステップで入力した特性値等が比重の異なる流木の混合の影響があると中央処理装置20で判断された場合には、質量保存則(流木群及び比重の異なる流木群の影響を考慮した拡散型+浸食・堆積率)、運動量保存則(運動方程式)の中において比重の違いに起因する流速の鉛直分布則、流木群の比重の違いに起因する相対速度、構成則(速度差に起因する運動量輸送、侵食・堆積率)、比重の異なる流木群の流れの特性、流木の侵食・堆積の時間変化、流木の閉塞・引っ掛かりの条件(閉塞・流木ダムの形成と破壊等)などの物理パラメータの条件設定によるモデルEの本発明で新たに導入された支配方程式で解析される。
【0039】
以上のB、C、D、Eのいずれかの支配方程式で解析された解析結果は、出力装置22で表示され、印刷される。
解析結果の一例が図2(a)(b)に示される。特定の河川・渓流の、特定の地点a(上流),b(中流),c(下流)の、特定の時期(季節)を対象とした土砂、水、流木に関する時間変化(時系列)を入力装置21から入力する。この図2(a)から、各地点a(上流),b(中流),c(下流)における土砂、水、流木の濃度の時間変化、尖頭値の時間変化が理解できる。また、図2(b)によれば、例えば、ある地点aにおける比重の大きな水に沈む流木17、比重の小さな水に浮く流木14、土砂15、水、そしてこれらの混合物の混合割合と時間変化が明白に理解できる。
【符号の説明】
【0040】
10…自由水面、11…河床、12…速い水の流れ、13…遅い水の流れ、14…水に浮く流木、15…土砂、16…流木ダム、17…水に沈む流木、20…中央処理装置、21…入力装置、22…出力装置、23…メインメモリ、24…ファイル装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水・土砂の流れに関する支配方程式と、水に浮く流木に関する支配方程式と水に沈む流木に関する支配方程式を有する流木群に関する支配方程式とを解析すべき河川に応じて選択する手段と、
土砂の流れの物理パラメータと流木の物理パラメータとを解析すべき河川に応じて設定する手段と、
前記それぞれの支配方程式を選択する手段と前記それぞれの物理パラメータを設定する手段とに基づき土砂と水の混合物の移動現象と水に浮く流木と水に沈む流木の挙動を解く手段と
を具備したことを特徴とする流木を含む土石流の解析装置。
【請求項2】
土砂の流れの物理パラメータには、土砂の粒径、土砂の内部摩擦角、土砂・水の質量密度などのパラメータの条件設定を具備し、流木の物理パラメータには、流木の質量密度を考慮した土砂・水・流木混合の平均密度、樹種の違い、樹木の含有水分量の多少、流木の数、流木の平均直径、流木の平均長さを具備し、これらのパラメータは、対象とする解析領域・範囲及び季節に対応させて設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の流木を含む土石流の解析装置。
【請求項3】
流水・土砂の流れに関する支配方程式は、土砂と水の混合物の移動現象を、質量保存則、運動量保存則、構成則、河床の連続式を数値的に連立することによって解き、
流木群に関する支配方程式は、水に浮く流木と水に沈む流木の挙動を、質量保存則、流木の影響を構成則に反映させた運動量保存則及び流木の速度差に起因する運動量輸送・流木の堆積を表す構成則を数値的に連立することによって解くようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の流木を含む土石流の解析装置。
【請求項4】
水に浮く流木に関する支配方程式は、従前の拡散方程式に拡散係数、分散係数を用いて流木群の拡散・凝集現象を定式化して構築して解くことを特徴とする請求項1、2又は3記載の流木を含む土石流の解析装置。
【請求項5】
水に沈む流木に関する支配方程式は、水に沈む流木の質量・運動量及び流木の速度差に起因する運動量輸送、流木の堆積を表す構成則に関する支配方程式、及び、水に沈む流木が混入することによる流れ全体の平均質量密度が変化し、比重の異なる流木同士の質量・運動量のやりとりに関する方程式を構築して解くことを特徴とする請求項1、2又は3記載の流木を含む土石流の解析装置。
【請求項6】
解析しようとする特定の河川の名称と、この特定の河川の特定の地点名と、特定の時期を含む土砂や流木の特性値を入力する第1ステップと、
メインメモリの制御プログラムの指令により、第1ステップで入力した条件と予めファイル装置に記憶されているデータファイルとを中央処理装置で比較する第2ステップと、
第2ステップでの比較結果に基づき、水と土砂の支配方程式、水と土砂に比重の異なる流木の影響を加味した支配方程式、水に浮く流木の支配方程式、水に浮く流木と水に沈む流木の混合したときの支配方程式のうちのいずれかを選択する第3ステップと、
選択された支配方程式に基づき所定時間内で、土砂、水、流木濃度などがどのように変化したかを時系列で解析して解析結果を出力する第4ステップと
からなることを特徴とする流木を含む土石流の解析方法。
【請求項7】
水と土砂の支配方程式のパラメータは、水、水と土砂の質量保存則と、運動量保存則と、せん断力、圧力、侵食、堆積率の構成則と、河床の連続式とを含み、
水と土砂に比重の異なる流木の影響を加味した支配方程式のパラメータは、水、土砂、比重の異なる流木群の体積濃度・相平均による平均密度と、せん断力、圧力、侵食、堆積率の流木の比重の違いを考慮した構成則と、流木群の混入による抵抗増加とを含み、
水に浮く流木の支配方程式のパラメータは、拡散型+浸食・堆積率の質量保存則と、運動量保存則又は流速の鉛直分布則と、速度差に起因する運動量輸送、浸食・堆積率の構成則と、流木の浸食・堆積の時間変化とを含み、
水に浮く流木と水に沈む流木の混合したときの支配方程式のパラメータは、流木群及び比重の異なる流木群の影響を考慮した拡散型+浸食・堆積率の質量保存則と、運動量保存則の中において比重の違いに起因する流速の鉛直分布則と、流木群の比重の違いに起因する相対速度と、速度差に起因する運動量輸送、侵食・堆積率の構成則と、比重の異なる流木群の流れの特性と、流木の侵食・堆積の時間変化と、閉塞・流木ダムの形成と破壊等の流木の閉塞・引っ掛かりの条件とを含む
ことを特徴とする請求項6記載の流木を含む土石流の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112481(P2011−112481A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268579(P2009−268579)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月26日 社団法人 砂防学会発行の「平成21年度 砂防学会研究発表会概要集」に発表
【出願人】(000230973)日本工営株式会社 (39)
【Fターム(参考)】