説明

流路切換装置

【課題】急速輸血時などにおいて、切換操作が容易な流路切換装置を提供する。
【解決手段】流路切換装置は、この軸受部から連出された第1、第2分岐部12、13とからなる本体部と、本体部の軸受部内に回転可能に内挿された軸部材22を有する切換部とを備え、軸部材22の上部開口部には固定部材21により、中央部にスリット231が形成されたシリコーンゴム製の隔壁部材23が液密に固着される。スリット231にシリンジ30のルアー32を押し込んでシリンダ31と軸部材22内部を連通させると共に、ルアー32を固定部材21の開口部211に嵌合させることにより、シリンダ31の回転に伴って軸部材22が回転し、流路が切り換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に医療用に使用される流路切換装置に関し、特にその流路切換操作を容易にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療の分野においては、例えば、患者に薬液などを輸液するため、輸液源と患者との間に配され、流路を切り換えることができる流路切換装置が用いられている。
このような流路切換装置として、複数の分岐部を有する本体部と、当該本体部の中空室に回転可能に挿入され、その回転位置によって各分岐部間の連通状態を切り換える切換部とを備えた活栓が知られており、その中でも三つの分岐部を有する三方活栓が広く用いられている。
【0003】
図13は、一般的な従来の三方活栓300の形状を示すための外観斜視図である。
同図に示すように、三方活栓300は、本体部310と切換部320とを備える。切換部320の軸部306(図14(a)参照)が、本体部310の軸受部305内に回転自在に挿入されており、この軸部306をレバー304で回転させることにより流路が切り換えられるように構成されている。
【0004】
本体部310は、上記軸受部305の外周に3個の分岐部301〜303を平面視でほぼT字状に延設してなる。
分岐部301には、点滴袋や輸血袋などの輸液源につながるチューブ(不図示)が接続され、分岐部303には患者につながるチューブ(不図示)が接続される。
また、分岐部302は、シリンジ(注射器)のルアーを接続して、外部から薬液などを混注するためのものである。
【0005】
図14(a)、(b)は、それぞれ図13の流路切換装置300の平面断面図である。
同図に示すように軸受部305に内挿された軸部306には、各分岐部301〜303と連通可能なT字状に交差する内部流路307が形成されており、軸部306を回動させることによって各分岐部301〜303の連通状態を切り換えることができるようになっている。
【0006】
ところで、患者に輸血をする場合、通常は輸血袋を患者より高所に配すると共に、三方活栓300の分岐部301、303を連通状態にして、重力の作用により徐々に患者に血液を供給するようになっているが、急を要する輸血(以下、「急速輸血」という。)の場合には、分岐部302にシリンジを接続して、大量の血液を短時間で患者に供給しなければならない。
【0007】
このような場合、まず、(イ)三方活栓300の軸部306を回転させて、図14(a)のように分岐部301、302を連通させた状態にして、輸血袋からシリンジ内に輸血用血液を吸引し、(ロ)その後、図14(b)のように軸部材306を180°回転させて、分岐部302、303のみが連通するようにして、シリンジから一気に患者に血液を供給し、その後上記(イ)(ロ)の動作を繰り返して、必要な量の血液を短時間で患者に供給するようにしている。
【特許文献1】特開平11−342209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記急速輸血の操作は、1人の医師もしくは看護士が、片手(例えば左手)に三方活栓300を保持しながら、他方の手(右手)でシリンジの吸引吐出操作と流路切換操作をしなければならないため、煩雑であり操作しにくいという課題があった。
すなわち、まず、左手に三方活栓300の本体部310を把持して、右手でレバー304を回転させて図14(a)の状態にした後、左手で三方活栓300本体とシリンジ本体(もしくは、シリンジ本体のみ)を保持し、右手でシリンジのピストンを手前に引いて輸血用血液を吸引し、その後、右手を三方活栓300のレバーまで移動させて回転させて、図14(b)の連通状態に切り換えた後、右手をピストンに戻し、これを押し込んでシリンダ内の血液を患者に供給する。そして、また、輸血用血液を吸引すべくレバー304ーを右手で回転させた後、上記動作を繰り返すことになる。
【0009】
このように、片方の手をシリンジとレバーに交互に移動させながら、流路切換と吸引・吐出操作を短時間で繰り返し実行しなければならないため、急速輸血には熟練と集中力が要求されており、従来から取扱いの容易な流路切換装置の要請が強かった。
本発明は、上記課題に鑑み、特に医療現場における実使用に適した取扱いの容易な流路切換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る流路切換装置は、中空室から複数の分岐路が連出された装置本体と、前記中空室に内挿された滑動体とからなり、当該滑動体の内部には連通路が形成され、当該滑動体を中空室内で滑動させることにより、選択された一または二以上の分岐路と前記連通路とを連通させて流路を切り換える流路切換装置であって、
前記滑動体が、ポンプ器具本体と連通した管状の挿入体の挿入を受け付けて、滑動体内部の連通路と挿入体とを連通させる挿入体受付手段と、前記挿入体もしくはポンプ器具本体と係合する係合手段とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明は、複数の分岐路が連出された装置本体に内挿された滑動体を滑動させて流路を切り換える構成の流路切換装置において、当該滑動体に、ポンプ器具の本体と連通した管状の挿入体の挿入を受け付けて、内部の連通路と挿入体とを連通させる挿入体受付手段と、前記挿入体もしくはポンプ器具本体と係合する係合手段とを設けているので、ポンプ器具の挿入体を流路切換装置に接続したまま、当該ポンプ器具を、滑動体の滑動方向に回転もしくは移動させることにより、滑動体がこれに伴って滑動され流路を切り換えることができる。これにより、操作者は、ポンプ器具を持った手を持ち変えることなく、流路切換操作とポンプ器具の操作を容易に行うことができる。
【0012】
また、前記滑動体は、柱状であって、その一方の端面に、内部の連通路と連通する開口部が形成されており、前記挿入体受付手段は、前記挿入体が貫通されることにより当該挿入体と前記開口部内部とを連通させる隔壁部材と、前記隔壁部材を前記開口部に液密に固定する固定部材とを備えるようにすれば、容易に挿入体を滑動体の開口部内部に連通させることができる。
【0013】
ここで、前記挿入体はルアーであると共に、前記隔壁部材の前記開口部に対応する領域には、前記ルアーの挿入を受け付けるスリットが形成してもよい。これによりルアーの挿入が容易になる。
さらに、前記固定部材は、前記隔壁部材の、前記柱状部材の開口部と反対側の表面を覆うように設けられたカバー部を有し、当該カバー部の前記隔壁部材のスリットに対応する位置には貫通孔が穿設されると共に、当該貫通孔の径が、挿入されたルアーと嵌合する大きさに設定されている。これにより、当該固定部材が前記係合手段として作用するので、他に特別な係合手段を設ける必要がなくなる。
【0014】
ここで、前記中空室は、円筒状の軸部保持部であると共に、前記装置本体は、前記軸部保持部の外周に、前記分岐路を形成する複数の分岐部が立設されたものであり、かつ、前記滑動体は、前記軸部保持部内に回転可能に挿入される円柱状の軸部であって、当該軸部を回転させることにより、流路が切換えられるように構成することが望ましく、さらには、前記複数の分岐部は第1と第2の2個の分岐部であると共に、前記軸部内の連通路は、軸部内部に設けられた中空部と、軸部の周面に設けられ前記中空部と連通する少なくとも3個の連通孔からなり、そのうち2つの連通孔は、軸部の第1の回転位置において、それぞれ前記第1と第2の分岐部と前記中空部を連通する位置に設けられ、他の連通孔は、軸部の第2の回転位置において、前記第1の分岐部と前記中空部を連通し、軸部の第3の回転位置において、前記第2の分岐部と前記中空部を連通する位置に設けられるのが望ましい。これにより、滑動体の回転動作により円滑な流路切換が達成される。
【0015】
ここで、前記第1と第2の分岐部は、前記軸部保持部の中心軸に対して、180°の角度をなして形成されると共に、前記軸部の周面に設けられた複数の連通孔は、第1から第4までの4個の連通孔であって、そのうち第1と第2の連通孔が、軸部の中心軸に対して180°の角度をなして配されると共に、第3と第4の連通孔は、第3の連通孔が第1の分岐部に連通しているときに、第4の連通孔が第2の分岐部に連通しないような角度をなして配されるようにすれば、前記軸部の第2と第3の回転位置間の回転角を、従来(図14(a)(b)参照)の180°よりも小さな回転角により、所望の流路切換ができるので、流路の切換操作がより容易になる。
【0016】
さらに、前記軸部の中空部には、内部を流れる液体が、前記隔壁部材方向に迂回して流れるように規制する流路規制部材が形成してもよい。これにより軸部内部の中空部における滞留部分がなくなり、輸液時において、流路切換装置内部で細菌などが培養されるのを防止することができる。
また、前記軸部内部の、前記隔壁部材と対向する内壁面における少なくとも前記軸部の連通孔付近の部位は、当該連通孔の内周面の一部と面一になるように形成すれば、より滞留部分を少なくすることができる。
【0017】
上記ポンプ器具をシリンジとすれば、ルアーを中心として回転操作しやすいので、滑動体を回転させて流路を切り換える構成の場合には、流路切換操作をより容易に行える。
そして、上記構成の流路切換装置を医療用として使用すれば、薬液等の急速供給操作を迅速かつ容易に行うことができ、最も効果的な使用が可能となる。
また、本発明に係る流路切換装置は、中空室から複数の分岐路が連出された装置本体と、前記中空室に内挿された滑動体とからなり、当該滑動体の内部には連通路が形成され、当該滑動体を中空室内で滑動させることにより、一または二以上の分岐路と前記連通路とを選択的に連通させて流路を切り換える流路切換装置であって、前記滑動体は、外周に張り出すことのない把持部を備えていることを特徴とする。
【0018】
このように流路を切り換えるための滑動体に把持部を設けたため、操作者が当該把持部を把持して滑動体を滑動させて流路を切り換えることができると共に、その一方で、当該把持部には、その外周にレバーなどの張り出す部分を備えていないので、たとえば、患者に薬液を投入する目的で本流路切換装置が使用される場合において、当該張り出し部が患者の寝具や衣服に引っ掛って不用意に流路が切り換わるような不都合がなくなる。
【0019】
ここで、前記中空室は、円筒状の軸部保持部であると共に、前記滑動体は、前記軸部保持部内に回転可能に挿入される円柱状の軸部であって、当該軸部を回転させることにより、流路が切換えられるように構成されており、前記把持部は、前記軸部に当該軸部と同軸上に設けられたほぼ円筒状の部材としてもよい。
これにより、円筒状の把持部を摘んで回転させることにより、流路の切換えが容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る流路切換装置は、中空室から複数の分岐路が連出された装置本体と、前記中空室に内挿された滑動体を備えた切換部とからなる。滑動体の内部には連通路が形成されており、当該滑動体を中空室内で滑動させることにより、選択された一または二以上の分岐路と前記連通路とを連通させて流路を切り換えることができるように構成される。
分岐路の数は、使用目的に合わせて設定されるが、後述の実施例で説明するように典型例としては2つである。滑動体の形状は、特に限定されないが、通常は、柱状であり、より望ましくは円柱状の軸体である。また、滑動体は、その長手方向に滑動させて流路を切り換えるように構成してもよいが、典型的には、円柱状の滑動体を、その回転軸回りに回転させることにより流路が切り換えられるように構成されるのが望ましい。この方が、組立てが容易で、かつ、切換操作も容易であるからである。
【0021】
ここで、滑動体には、ポンプ器具の本体と連通した管状の挿入体の挿入を受け付けて、内部の連通路と挿入体とを連通させる挿入体受付部と、前記挿入体もしくはポンプ器具本体と係合する係合部が設けられる。
このようにすることにより、切換部の滑動体内の連通路に外部のポンプ器具の管状の挿入体を連通させることができ、しかも、係合部によりポンプ器具本体もしくは当該ポンプ器具の挿入体が滑動体に係合しているので、ポンプ器具本体を滑動体の滑動方向に回転もしくは移動させることにより、流路を切り換えることができる。
【0022】
つまり、操作者は、流路切換装置とポンプ器具本体を持つ手をそれぞれ変えることなく、流路切換装置とポンプ器具とを相対的に回転もしくは移動するだけで、流路切換が容易に行えるものである。
ここで使用されるポンプ器具は、特に限定されないが、医療用としては、ピストンとシリンダからなるシリンジ(注射器)が一般的であり、この場合、管状の挿入体はルアーもしくはルアーに取り付けられた針管(注射針)となる。なお、ポンプ器具として、シリンジではなく、弾性材料で形成された容器を圧縮させるような形態のものでも適用可能である。
【0023】
滑動体に設けられた挿入体受付部としては、通常は、外部と滑動体内部を液密に遮断し、挿入体が挿入されると、これを受け入れて内部と連通可能とする構成がとられる。そのための構成は特に限定されないが、本実施の形態では、滑動体に内部の連通路と連通する開口部を設け、この開口部に弾性材料からなる隔壁部材を液密に取着し、挿入体をこの隔壁に貫通させることにより連通させるようにしている。このような弾性材料としては、経時的な劣化が少なく、化学的にも安定している材料が望ましい。代表的な例としてイソプレンゴム、シリコーンゴムを挙げることができるが、これに限定されない。
【0024】
上記挿入体が、ルアーである場合には、隔壁部材には、挿入孔が設けられることが望ましい。当該挿入孔の一例としてスリットが挙げられる。隔壁部材として弾性材料を使用しているため、当該スリットは通常は密着して内部の液が外部に漏れないが、ルアーを押し込むと当該スリットが押し開かれてルアーを内部に受け入れる。この際、隔壁部材の押し開かれた部分がルアーの周面に圧接された状態となるので、ルアー挿入時においても内部の液体が外部に漏れるおそれがない。
【0025】
隔壁部材は、固定部材により上記滑動体の開口部に固定される。この固定部材は、例えばキャップ状であって、当該隔壁部材の表側の主面を覆うカバー部を有する。このカバー部の上記スリットに対応する部分には、外部からルアーなどの挿入体が挿入できるように所定径の貫通孔が穿設されており、挿入体を押し込むと当該挿入体の外周面と固定部材の貫通孔が嵌合するように構成される。これにより当該固定部材自体がルアーとの係合部として作用するようになっている。
【0026】
このようにルアーを固定部材に係合させることにより、ポンプ器具本体を回転させると滑動体も回転するので、流路の切換え操作が極めて容易となる。また、隔壁部材の固定部材自身を係合部として利用できるので、部品点数が少なくなり、製造コストを低減することができる。
もっとも、係合部の構成は、上記のものだけに限らない。例えば、ルアーの根元にねじ山を形成して、これと螺合する雌ねじを固定部材の貫通孔に形成し、両者をしっかりと螺合させてもよい。この場合には、ポンプ器具本体を常にねじを締める方向に回転させて流路を切り換えることが望ましい。また、ポンプ器具本体と直接係合する別の係合部を設けてももちろん構わない。
【0027】
すなわち、この係合部は、少なくとも流路切換えのために滑動体を滑動させる方向において、滑動体と、挿入体もしくはポンプ器具本体とが係合するように構成されればよいのであって、さまざまな構成を考え得るものである。
なお、滑動体内部の連通路の形状は、滑動体を滑動することにより分岐部と連通して流路を切り換えることができるものであれば、どのような形状でも差し支えないが、本実施の形態では、滑動体内に中空部を設け、滑動体の側面(滑動面)に当該中空部と連通する連通孔を複数設けるようにして構成される。このようにすることにより、滑動体内部の連通路の形成が容易になると共に挿入体受付部からのルアーの挿入を許容することができるからである。
【0028】
装置本体に設けられた分岐部が2個の場合であって、滑動体を回転させて流路を切り換える場合には、滑動体に設けられる上記連通孔の数は少なくとも3個あればよいが、4個設ければ、流路切換のための回転角を小さくできるという利点が得られる。詳しくは実施例にて説明する。
滑動体内に中空部を設ける場合には、当該中空部の、とりわけ隔壁部材付近において滞留が生じやすくなるので、当該中空部を流れる液体(薬液、輸血用血液など)が、当該隔壁部材方向に迂回して流れるように流路規制部材を設けることが望ましい。この流路規制部材は、上記迂回の目的を達成できるものであれば、その形状や材質は限定されないが、滑動体が円柱状である場合、その周面に複数個の連通孔が設けられることになるので、どの連通孔から液体が流入しても効果的に液体を迂回させるため、上記流路規制部材も当該円柱状の滑動体と同軸上に形成された円筒状もしくは円柱状など、滑動体の回転軸に直交する平面で切断した断面の輪郭形状が、円もしくは楕円である形状が選択されることが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明に係る流路切換装置の具体的な実施例について説明する。
<実施例1>
(1)流路切換装置100の構成
図1は、実施例1に係る流路切換装置100の外観図である。
同図に示すように流路切換装置100は、本体部10および切換部20からなり、切換部20の軸部(滑動体)が、本体部10の軸受部11に回転可能かつ液密に挿入され、この切換部20を回転させることにより流路の切換えができるようになっている。このような本体部10、切換部20の各部品は、主に樹脂材料からなるが、これに限定されるものではない。
【0030】
本体部10は、ほぼ円筒状の軸受部11と、この軸受部11の周面に形成された第1分岐部12と第2分岐部13とからなる。この第1分岐部12と第2分岐部13は、ほぼ180°の角度をなして一直線上に形成されている。
第1分岐部12には、点滴袋や輸血袋(以下、「輸液袋」と総称する。)にオスコネクターが接続され、第2分岐部13には、静脈針に接続されたメスコネクターが接続される。
【0031】
第1分岐部12の外側開口部周縁には、つば部121と、つば部121に連設するねじ山状部122が形成されている。
なお、軸受部11の外周面には、矢印14が付されており、この矢印14を、切換部20を回転させて固定部材21の周面に表記された所定の文字15と合わせることにより流路の連通状態が操作者に把握できるようになっている。この矢印14と文字15は、それぞれ軸受部11、固定部材21の向こう側の周面にも形成されており、操作者がどちらから見ても流路切換装置100の連通状態を確認できる。これらの矢印14や文字15は、印刷やシールの貼付や、表面の凹凸加工などによって表記される。
【0032】
図2は、上記流路切換装置100の組立図である。
同図に示すように流路切換装置100は、有底円筒状の軸部22の上部開口部に、挿入体受付手段としての円板状の隔壁部材23を当て、これを固定部材21で当該開口部に押圧するようにして軸部材22に取り付けて切換部20を形成し、その軸部材22を、本体部10の軸受部11内の中空部に内挿することにより組み立てられる。
【0033】
軸部材22の外周面には突状部222がリング状に形成されると共に、軸受部11の内周面には、リング状の溝111が形成されており、軸部材22を軸受部11内に嵌め込んだときに、軸部材22の突状部222が溝111に係合して、容易に抜けないように形成される。
もっとも、軸部材22と軸受部11との係止手段は、これに限らず、例えば、軸部材22の外周面の方にリング状の溝を形成し、軸受部11の内周面にリング状の突状部を設けるようにしても構わないし、その他の方法であってもよい。
【0034】
軸部材22の外周面と軸受部11の内周面との間には、ほとんど隙間がなく、液密であって、かつ、軸部材22が軸受部11に対して相対的に回転可能となるように軸部材22の外径と軸受部11の内径が設定されている。
図3は、組立後の流路切換装置100の内部の構成を示すための正面断面図である。
同図に示すように固定部材21は、軸部材22の上部に形成されたつば部221に、例えば接着剤により取着されており、隔壁部材23は、当該固定部材21により、軸部材22の開口縁部に押さえ付けられるようにして取着される。もっとも、固定部材21の隔壁部材23への取り付け方法は、接着剤のみに限定されず、例えば、後述の実施例2の場合と同様にして、一方に係止爪、他方に係止穴を設けて、両者を係合させることにより取り付けるようにしても構わず、随時変更可能である。
【0035】
隔壁部材23の中央部には、シリンジなどのルアーの挿入を受け付けるための挿入孔としてスリット231が形成され、これによりルアーと隔壁部材23の内部が、液密状態で連通するようになっている。
隔壁部材23を構成する材質としてはゴム状の弾性材料であれば良いが、より限定するなら硬度JIS−Aにおいて、20〜55のものが好ましい。具体的な材質として、シリコーンゴム、天然ゴム、ブチルゴムやニトリルゴム等の合成ゴム、あるいは熱可塑性エラストマー等が挙げられる。なお、挿入孔は上述のように一本の直線のスリット状のものであっても良いし、その他、例えば、中心で交わる3本の直線の切れ込みであっても良い。
【0036】
固定部材21は、隔壁部材23にルアーが挿入・抜去されるときに隔壁部材23をしっかり保持(拘持)できるものならば、特に形態は限定されない。好ましい形状として、例えば、図3に示すように、固定部材21を、隔壁部材23の表側面(軸受部11と反対側の主面)の中央部を残し、少なくとも隔壁部材23の周縁上部を覆うキャップ状に形成すれば、隔壁部材23の固定が容易であると共にルアーを挿入しやすく、また隔壁部材23を不必要に露出することがないので、隔壁部材23表面の汚染を可及的に防止することができるという効果が得られる。
【0037】
固定部材21の隔壁部材23の表側面を覆うカバー部の中央には、ルアーと同じか、或いはやや小さい径を有する円形の嵌合孔(貫通孔)211が形成される。これにより隔壁部材23に挿入したルアーを嵌合孔211に嵌め込んでしっかりと保持することができる。
ルアーを隔壁部材23に挿入しただけの場合には、当該ルアーを安定して保持できないだけでなく、長時間挿入されたルアーが、弾性を有する隔壁部材23により押し戻され、抜去するおそれがある。しかしながら、本実施例の構成によれば、ルアーが確実に保持され、抜去の危険性が回避できると共に、後述するように流路切換操作を容易にできるという優れた効果が得られる。
【0038】
嵌合孔211は、挿入される挿入体によって当該挿入体に確実に係合するように、その形状や寸法が設定される。注射器や輸液・輸血セット等を接続する機会が多いのなら、当該嵌合孔211の内径の寸法は、標準ルアーに嵌合する最適な範囲に設定されることが好ましい。
また、通常、ルアーは先に行くほど細くなるテーパー形状であるので、これに合わせて嵌合孔211の内周面をテーパー状に形成しても良い。
【0039】
なお、固定部材21の素材としては、隔壁部材23やルアーをしっかりと保持するために適当な硬さを有し、また破損し難い材料から形成されるのが望ましく、具体的には、例えば、ポリアセタール、ポリプロピレンの他、ポリアクリルアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が望ましい。
また、固定部材21の表側面には、嵌合孔211に向かって緩やかなテーパー(傾斜)213が設けられており、これによりルアーが挿入しやすくなるように構成されている。
【0040】
固定部材21の嵌合孔211の周縁部内側には、断面が鉤状になった突状部212が当該周縁に沿ってリング状に形成されると共に、隔壁部材23の当該突状部212に対応する位置にはリング状の溝が形成されており、この突状部212が隔壁部材23のリング状の溝に係合した状態で固着される。
これにより、ルアーが隔壁部材23に挿入された場合に、スリット231から突状部212までの隔壁部材23が伸長するが、突状部212よりも外側の部分では逆に隔壁部材23が圧縮するように構成できる。その結果、ルアーの挿入時にスリット231部分が過剰にめり込んだり、反対にルアーを引き抜いたときに外側にまくれた状態になることがなくなり、スリット部231部分の汚染や、液密性の劣化等の問題を可及的に防止することができる。
【0041】
さらに、突状部212の分だけ、嵌合孔211の内周面の厚みが増すので、ルアーを嵌合孔211に挿入する際にガイドしやすくなると共に嵌合孔211とルアーの接触面積を増加させることができ、ルアーの挿入容易性および嵌合性が向上する。
本体部10の第1分岐部12、第2分岐部13の内部にはそれぞれ流路123、132が形成されると共に、円筒状の軸部材22の周壁には、図4の流路切換装置100の平面断面図に示されるように、軸部材22の回転位置に応じて上記流路123、132と軸部材22の内部の中空部25とを連通させるための3つの連通孔241〜243が穿設されている。
【0042】
本実施例では、連通孔241、243は、軸部材22の回転軸に対して180°の角度をなして形成されており、連通孔242は、連通孔241に対して中心角が90°となる位置に形成されている。
各連通孔241〜243の径は、流路123.132の軸受部11の中空部に臨んだ部分における径と同じであり、また、各連通孔241〜243の軸方向における位置も、軸部材22の回転位置に応じて、流路123、132の中空部に臨んだ部分と合わさるような位置に設けられている。
【0043】
(2)流路切換装置100の流路切換動作
図5は、急速輸血時において、本実施例に係る流路切換装置100の使用状態を説明するための図である。不図示の点滴用スタンドのハンガー部41に輸血袋40が吊り下げられ、この輸血袋40と流路切換装置100の第1分岐部12がチューブ42を介して接続される。
【0044】
また、患者の腕45の血管には静脈針44が刺され、この静脈針44と流路切換装置100の第2分岐部13がチューブ43を介して接続される。
通常の輸血では、流路切換装置100の切換部20の回転位置は、「通常」の位置にあり(図1参照)、このとき連通孔241と連通孔243がそれぞれ、第1分岐部12の流路123、第2分岐部13の流路132と繋がって、第1分岐部12と第2分岐部13が連通状態となる(図4参照)。
【0045】
急速輸血の場合には、図5に示すようにシリンジ30を流路切換装置100の切換部20に装着する。すなわち、図6(a)に示すように、シリンジ30のルアー32を、流路切換装置100の固定部材21の嵌合孔211から隔壁部材23のスリット231を突き破る方向に押し込むと、図6(b)に示すようにルアー32の内部流路321と軸部材22内部とが連通すると共に、ルアー32の外周と固定部材21の嵌合孔211の内周面が嵌合して、無理嵌め状態となる(図6(b))。
【0046】
この状態でシリンジ30のシリンダ31を、ルアー32を中心にして回転させると、切換部20も回転する。そこで右手でシリンダ31を持って所定方向に回転し、軸受部11の矢印14と固定部材21の「IN」の文字が合わさる位置に来ると回転操作を停止する。
この状態で、軸部材22は、図7(a)の流路切換装置100の要部断面図に示すように連通孔242が第1分岐部12の流路123の位置にくると共に、第2分岐部13の流路132は、軸部材22の周面で塞がれるため、第1分岐部12の流路123のみがルアー32内部の流路321と連通状態になる。
【0047】
そこで、シリンジ30のピストン33(図5)を引いて輸血袋40内の血液をシリンダ31内に吸引し、その後、シリンジ30を上記と反対方向に180°回転させて、軸受部11の矢印14と固定部材21の「OUT」の文字を合わせる。このときには、図7(b)に示すように連通孔242が、第2分岐部13の流路132の位置にくると共に、第1分岐部13の流路132は、軸部材22の周面で塞がれるため、第2分岐部13の流路132のみがルアー32内部の流路321と連通状態になる。そして、シリンジ30のピストン33を押し込んで、シリンダ31内部の血液を患者に向けて送り出す。
【0048】
この輸血動作を必要な量の輸血が終了するまで繰り返すことにより急速輸血を実行することができる。
このように本実施例に係る流路切換装置100よれば、切換部20にルアー32の挿入を受け付ける受付部を設け、シリンジ30を回転させるだけで流路を簡単に切り換えるように構成したので、従来のように右手をシリンジとレバーの位置に交互に移動させて行う必要が全くなくなり、急速輸血操作が極めて容易になる。
【0049】
本実施例では、急速輸血時に使用される連通孔242を、連通孔241に対して90°の中心角をなす位置に設けたが、当該中心角は90°に限定されるものではなく、連通孔241と243の間に形成されればよい。
なお、本実施例に係る流路切換装置100によれば、上述のように特に急速輸血時など、シリンジ30を接続する場合における、流路切換操作が極めて容易になるばかりでなく、従来の流路切換用のレバーやこれに類する突出部分(以下、レバーや突出部分を「張り出し部」と総称する。)が不要になったので、従来当該張り出し部が寝具や衣類などに引っ掛かって流路が不用意に切り換わるような事態も一切生じないという利点もある。
【0050】
さらに、急速輸血以外の通常輸血などの場合には、シリンジ30のルアー32を切換部20の嵌合孔211に係合させることはないが、円筒状の固定部材21を把持部として、操作者がこの部分を把持して回転させることにより、容易に流路を切り換えることができる。
また、流入側と流出側の分岐路のそれぞれ逆止弁を設け、輸液源から患者の方向に向けて一方向に流れるように流路を形成すると共に、装置本体にルアーの接続を可能とした医療用混注ポートが従来からあり、これによっても急速輸血の操作を行うことは可能であるが、このような一方向混注ポートにおいては2個の逆止弁を配設する必要があるため、構成が複雑になって製造コストが増加するだけでなく、流路切換が自由にできないため汎用性に乏しかった。しかしながら、本実施例に係る流路切換装置によれば、逆止弁を設ける必要がない上、流路切換が可能なので汎用性が高く、さまざまな医療場面における使用が可能である。
【0051】
<実施例2>
上記実施例1において、ルアー32を挿入するため、軸部材22内に中空部25が設けられている(図3参照)。そのため、第1分岐部12と第2分岐部13のみを連通させて使用する通常の輸液の場合には、第1分岐部12から第2分岐部13に向けて、ほぼ直線的に流れるため、中空部25の、連通孔241、243を結ぶ直線から、軸部材22の回転軸に沿った方向に離れた領域、特に、軸部材22内の隔壁部材23付近の領域部分に薬液が滞留してしまい、もし、薬液が細菌の培地に適した高カロリーのものであった場合、当該滞留領域において、細菌増殖の温床となるおそれがある。
【0052】
特に、免疫力の低下している患者のため、そのような細菌増殖のおそれを可及的に排除するのが望ましいのはいうまでもなく、そのため、本実施例2では、通常の輸液中において軸部材22内部に上述のような滞留が生じないように工夫している。
図8は、本実施例2に係る流路切換装置110の正面断面図である。図2と同じ符号を付したものは同じ構成要素であることを示しているので、その説明は省略する(他の実施例においても同様)。
【0053】
同図8に示すように、この流路切換装置110では、軸部材28を、その回転軸に沿った方向(図の上下方向)に若干長くすると共に、軸部材28内の底面に障壁部材(流路規制部材)282を突設させて、軸部材28内部に流入してきた薬液が、矢印に示すように隔壁部材23方向に迂回しながら流れるようにしている。
このように軸部材28内に薬液の迂回路を形成することにより、隔壁部材23付近の薬液が、常に第1分岐部12から流入してきた新しい薬液に置き換えられるため、滞留が生ぜず、この部分での細菌の増殖を阻止する。
【0054】
図9は、図8における切換部20のみの外観斜視図であり、内部の構造が分りやすいように、軸部材28の一部を切り欠いて示している。
同図に示すように、迂回路を形成するための障壁部材282は、本実施例においてはほぼ円筒状に形成されている。もちろん、障壁部材282は、このような形状に限定されず、第1連通孔241から流入した薬液が、隔壁部材23方向に迂回できるような迂回路が形成されれば、どのような形状でも構わない。しかし、板状のようなものを立設すれば、その裏側に薬液が回り込んで淀むおそれもあるので、できるだけ障害部材282の横断面(軸部材22の回転軸と直交する平面での切断面)の輪郭の形状は、円形や楕円形などであるほうが望ましいであろう。また、図9では、障壁部材282の上面は平坦になっているが、この部分も上方に膨らむような曲面で形成されてもよい。
【0055】
なお、当然ながら、ルアー32を隔壁部材23に挿入して、固定部材21の嵌合孔211に嵌合させたときに、シリンジ30により吸引・吐出動作が円滑に行えるように軸部材28の中空部の軸方向の距離及び障壁部材の282の高さが設定される。
また、本実施例では、キャップ部材27の側面から下方に一対の舌状部271が延設されており、この舌状部271に穿設された係止穴272に、軸部材28の上部外周に突設された係止爪281を嵌め込んで係合させることにより、固定部材27が軸部材28に取着され、これにより隔壁部材23を軸部材28の上部開口部に押し付けた状態で保持するように構成されているため、切換部20の組立てが容易である。
【0056】
さらに、本実施例では、図8、図9に示すように連通孔241、243の一番底側の内周面と、底面284は、回転軸方向に沿った位置が同じであって、ほぼ面一になるように形成されているので(図示はしていないが、連通孔242についても同じ)、流入した薬液などの下方へ回り込みがほとんどなく、この部分で滞留が生じないようになっている。
<実施例3>
上記実施例1,2では、固定部材21の開口穴221にシリンジ30のルアー32を嵌合せることにより、当該開口穴221が、ルアー32に摩擦により係合し、シリンジ30を回転させたときに切換部20が回動するように構成したが、さらに固定部材21とルアー32の係合性を向上させるため、本実施例では、ルアー32と固定部材21が螺合する部分を設けている点に特徴がある。
【0057】
すなわち、図10に示すように固定部材21の開口部に、内周面にねじ溝が形成された雌ねじ部213を設けると共に、ルアー32の根元部分に上記雌ねじ部213と螺合するねじ山322を形成し、両者を固く螺合させておくことにより、シリンジ30の回転に追随して切換部20も回動するように構成している。この場合、流路切換のためのシリンジ30の回転方向は、ねじを締める方向(右回転)に統一する方が望ましい。
【0058】
その他、公知のフリーロックナットなどを用いて、ルアー32と固定部材21との係合性を向上させるようにすることも可能である。
<実施例4>
本実施例4では、固定部材21がルアー32のみならず、シリンダ31とも係合するように構成されている。
【0059】
すなわち、図11に示すように、本実施例では、固定部材21から上方に伸びるように円筒状のシリンダ嵌合部214を形成し、このシリンダ嵌合部214内にシリンダ312を嵌挿させて、当該シリンダ31の周面とシリンダ嵌合部214の内周面との摩擦によりシリンダ31の回転に追随して切換部20が回動するように構成される。
なお、シリンジ30の中でも、ルアー32がシリンダ31と同軸上の位置にないものを使用する場合には、その形状に合わせてシリンダ嵌合部214の形状が形成される。この場合には、シリンダ31をルアー32を軸として回転させた場合、シリンダ31の側面によりシリンダ嵌合部の内側面を押すようにして、回動させることになるので、シリンダ嵌合部214との嵌合性をそれほど高くしなくても、容易に切換部20を回動させることができる。
【0060】
なお、本実施例においては、固定部材21の嵌合孔211とルアー32との係合は、特になくてもよい。
<実施例5>
上記各実施例においては、スリット231が設けられている隔壁部材23にシリンジ30のルアー32を挿入して、シリンダ31と軸部材22内部と連通するように構成したが、本実施例においては、ルアー32に取り付けた注射針を隔壁部材に挿入することにより、同様の作用効果を得られるようにしている。
【0061】
図12は、本実施例に係る流路切換装置100の構成を示す正面断面図である。
同図に示すように固定部材21には、その上方に延びるように円筒状のシリンダ受け部材215が設けられており、シリンダ31を固定するための固定用ねじ216が、ねじ穴217に螺合されている。
隔壁部材29にはスリットは形成されておらず、操作者は、ルアー32の先端に注射針のアタッチメント35を装着し、当該注射針34を隔壁部材29に刺して、シリンダ31が、シリンダ受け部材215の段部218に当接するまで押し込む。そして固定用ねじ216でシリンダ31を締め付けることにより、シリンダ31が固定部材21にしっかりと固定され、シリンダ31の回転に追随して軸部材22を確実に回動させて流路を的確に切り換えることができる。
【0062】
本実施例のように注射針を隔壁部材29に挿入して使用する場合は、急速輸血の場合よりも、むしろ点滴などの輸液の途中に別の薬液を投入する際に適用される場合が多いであろう。
もちろん、本実施例においても、図11に示したように、シリンダ受け入れ部材215の内径を、シリンダ31と嵌合するような大きさに設定すれば、固定用ねじ216は、特に必要ではない。反対に図11に示す実施例において、固定用ねじを設けて、シリンダ31を固定するようにしてもよい。
【0063】
<実施例6>
実施例1では、軸部材22の回転位置に応じて本体部10の流路123、132と軸部材22の内部の中空部25とを連通させるため、円筒状の軸部材22の周壁に、3つの連通孔241〜243を穿設したが、本実施例においては、図13(a)の流路切換装置120の要部断面図に示されるように4つの連通孔261〜264が穿設されている。
【0064】
本実施例では、連通孔261、264は、軸部材22の回転軸に対して180°の角度をなして形成されており、連通孔262、263は、それぞれ連通孔261に対して中心角が60°、120°となる位置に形成されている。
各連通孔261〜264の径は、流路123、132の軸受部11の中空部に臨んだ部分における径と同じであり、また、各連通孔261〜264の軸方向における位置も、軸部材22の回転位置に応じて、流路123、132の中空部に臨んだ部分と合わさるような位置に設けられている。その他、連通孔が4個設けられている以外は、実施例1とほぼ同じ構成である。
【0065】
<流路切換装置120の流路切換動作>
流路切換装置120は、図5と同様にして、輸血袋40および輸血針44と、それぞれチューブ42、チューブ43を介して接続されて使用される。
通常の輸血では、流路切換装置100の切換部20の回転位置は、「通常」の位置にあり(図1参照)、このとき第1連通孔261と第4連通孔264がそれぞれ、第1分岐部12の流路123、第2分岐部13の流路132と繋がって、第1分岐部12と第2分岐部13が連通状態となる。
【0066】
急速輸血の場合には、図6(b)と同様にしてシリンジ30を流路切換装置100の切換部20に装着し、この状態でシリンジ30のシリンダ31を、ルアー32を中心にして右方向に60°回転させると、図13(a)の流路切換装置120の要部断面図に示すように連通孔262が第1分岐部12の流路123の位置にくると共に、第2分岐部13の流路132は、軸部材22の周面で塞がれるため、第1分岐部12の流路123のみがルアー32内部の流路321と連通状態になる。この状態で、シリンジ30のピストン33(図5)を引いて輸血袋40内の血液をシリンダ31内に吸引し、その後、シリンジ30を上記と反対方向に120°回転させて、図13(b)に示すように連通孔263が、第2分岐部13の流路132の位置にくるようにし、シリンジ30のピストン33を押し込んで、シリンダ31内部の血液を患者に向けて送り出す。
【0067】
実施例1の場合には、連通孔が3個しかなかったので、シリンジ30による血液の吸引動作から吐出動作に切り換えるために、切換部20を180°回転させる必要があったが、本実施例では連通孔を4個設けることにより、シリンジ操作時における流路切換のために必要な回転角を上記180°より小さくでき(上記の例では120°)、操作性が一層向上する。
【0068】
なお、本実施例では、急速輸血時に使用される2つの連通孔262、263を、それぞれ連通孔261、263に対して60°の中心角をなす位置に設けたが、これらの位置に限定されるものではなく、これらの2つの連通孔262、263のうち一方の連通孔(例えば、連通孔262)が一つの分岐部に連通しているときに、他方の連通孔(連通孔263)が他方の分岐部に連通しない位置関係にあれば、上記の切換動作を実行することができるものである。
【0069】
以上、本発明の実施例を詳細に述べてきたが、本発明の技術的範囲が、これらの実施例に限定されるものではないのは勿論のことであり、種々の変形例が考え得る。また、各実施例は可能な限りにおいて組み合わせて実施されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る流路切換装置は、シリンジなどのポンプ器具に連通する挿入体を接続した状態で、当該ポンプ器具本体を回転させるだけで、流路を切り換えることができるので、特に、迅速かつ確実な流路切換動作が要求される医療分野における流路切換装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1に係る流路切換装置の外観斜視図である。
【図2】図1の流路切換装置の組立図である。
【図3】図1の流路切換装置の正面断面図である。
【図4】図1の流路切換装置の平面断面図である。
【図5】図1の流路切換装置の使用状態を示す図である。
【図6】(a)、(b)は、それぞれルアーを図1の流路切換装置の隔壁部材のスリットに挿入する前後を示す図である。
【図7】(a)、(b)は、急速輸血の場合における上記流路切換装置の流路切換の様子を示す図である。
【図8】実施例2に係る流路切換装置の構成を示す正面断面図である。
【図9】図8の流路切換装置の切換部のみの外観斜視図である。
【図10】実施例3に係る流路切換装置の構成を示す正面断面図である。
【図11】実施例4に係る流路切換装置の構成を示す正面断面図である。
【図12】実施例5に係る流路切換装置の構成を示す正面断面図である。
【図13】(a)、(b)は、実施例6に係る流路切換装置における急速輸血時の流路切換の様子を示す図である。
【図14】従来の三方活栓の外観斜視図である。
【図15】(a)、(b)は図14の三方活栓を使用して急速輸血する場合の切換動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0072】
10 本体部
11 軸受部
12 第1分岐部
13 第2分岐部
20 切換部
21,27 固定部材
22,28 軸部材
23,29 隔壁部材
25 中空部
30 シリンジ
31 シリンダ
32 ルアー
33 ピストン
34 注射針
100、110、120 流路切換装置
211 嵌合孔
213 雌ねじ部
214 シリンダ嵌合部
215 シリンダ受け入れ部
216 固定用ねじ
231 スリット
241〜243、261〜264 連通孔
322 雄ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空室から複数の分岐路が連出された装置本体と、前記中空室に内挿された滑動体とからなり、当該滑動体の内部には連通路が形成され、当該滑動体を中空室内で滑動させることにより、一または二以上の分岐路と前記連通路とを選択的に連通させて流路を切り換える流路切換装置であって、
前記滑動体は、
ポンプ器具本体と連通した管状の挿入体の挿入を受け付けて、滑動体内部の連通路と挿入体とを連通させる挿入体受付手段と、
前記挿入体もしくはポンプ器具本体と係合する係合手段と
を備えたことを特徴とする流路切換装置。
【請求項2】
前記滑動体は、柱状であって、その一方の端面に、前記内部の連通路と連通する開口部が形成されており、
前記挿入体受付手段は、
前記管状の挿入体が貫通されることにより当該挿入体と前記開口部内部とを連通させる隔壁部材と、
前記隔壁部材を前記開口部に液密に固定する固定部材と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の流路切換装置。
【請求項3】
前記挿入体は、ルアーであると共に、前記隔壁部材の前記開口部に対応する領域には、前記ルアーの挿入を受け付けるスリットが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流路切換装置。
【請求項4】
前記固定部材は、前記隔壁部材の、前記柱状部材の開口部と反対側の表面を覆うように設けられたカバー部を有し、
当該カバー部の前記隔壁部材のスリットに対応する位置には貫通孔が穿設されると共に、当該貫通孔の径が、挿入されたルアーと嵌合する大きさに設定されており、当該固定部材の貫通孔が前記係合手段として作用することを特徴とする請求項3に記載の流路切換装置。
【請求項5】
前記中空室は、円筒状の軸部保持部であると共に、前記装置本体は、前記軸部保持部の外周に、前記分岐路を形成する複数の分岐部が立設されたものであり、かつ、前記滑動体は、前記軸部保持部内に回転可能に挿入される円柱状の軸部であって、当該軸部を回転させることにより、流路が切換えられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の流路切換装置。
【請求項6】
前記複数の分岐部は第1と第2の2個の分岐部であると共に、前記軸部内の連通路は、軸部内部に設けられた中空部と、軸部の周面に設けられ前記中空部と連通する少なくとも3個の連通孔からなり、
そのうち2つの連通孔は、軸部の第1の回転位置において、それぞれ前記第1と第2の分岐部と前記中空部を連通する位置に設けられ、
他の連通孔は、軸部の第2の回転位置において、前記第1の分岐部と前記中空部を連通し、軸部の第3の回転位置において、前記第2の分岐部と前記中空部を連通する位置に設けられることを特徴とする請求項5に記載の流路切換装置。
【請求項7】
前記第1と第2の分岐部は、前記軸部保持部の中心軸に対して、180°の角度をなして形成されると共に、
前記軸部の周面に設けられた複数の連通孔は、第1から第4までの4個の連通孔であって、そのうち第1と第2の連通孔が、軸部の中心軸に対して180°の角度をなして配されると共に、第3と第4の連通孔は、第3の連通孔が第1の分岐部に連通しているときに、第4の連通孔が第2の分岐部に連通しないような角度をなして配されていることを特徴とする請求項6に記載の流路切換装置。
【請求項8】
前記軸部の中空部には、内部を流れる液体が、前記隔壁部材方向に迂回して流れるように規制する流路規制部材が形成されてなることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の流路切換装置。
【請求項9】
前記軸部内部の、前記隔壁部材と対向する内壁面における少なくとも前記軸部の連通孔付近の部位は、当該連通孔の内周面の一部と面一になるように形成されていることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の流路切換装置。
【請求項10】
前記ポンプ器具は、シリンジであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の流路切換装置。
【請求項11】
医療用であることを特徴する請求項1から10のいずれかに記載の流路切換装置。
【請求項12】
中空室から複数の分岐路が連出された装置本体と、前記中空室に内挿された滑動体とからなり、当該滑動体の内部には連通路が形成され、当該滑動体を中空室内で滑動させることにより、一または二以上の分岐路と前記連通路とを選択的に連通させて流路を切り換える流路切換装置であって、
前記滑動体は、
外周に張り出すことのない把持部を備えていることを特徴とする流路切換装置。
【請求項13】
前記中空室は、円筒状の軸部保持部であると共に、前記滑動体は、前記軸部保持部内に回転可能に挿入される円柱状の軸部であって、当該軸部を回転させることにより、流路が切換えられるように構成されており、
前記把持部は、前記軸部に当該軸部と同軸上に設けられたほぼ円筒状の部材であることを特徴とする請求項12に記載の流路切換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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