説明

流量積算装置および流量積算方法

【課題】原子力発電プラントにおいて桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止すること。
【解決手段】原子力発電プラントにおいて測定対象の積算流量を算出する流量積算装置11は、単位時間内に流れた測定対象の体積を所定の設定値で除算して商と余りとを算出する除算部113と、除算部113によって算出された商を積算する商積算部114と、除算部113によって算出された余りを積算する剰余積算部115と、商積算部114の積算値に前述の設定値を乗じた値に、剰余積算部115の積算値を加算した値を積算流量として算出する積算流量算出部116とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量積算装置および流量積算方法に関し、特に、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止することができる流量積算装置および流量積算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは、液体や水蒸気の積算流量を取得するために、流量積算装置が利用される(例えば、特許文献1参照)。従来、流量積算装置としては、容積式流量計等のアナログ計測器が使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭62−2280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、原子力発電プラントでは、アナログ制御装置に替えて、デジタル制御装置の導入が進みつつあるが、液体や水蒸気の流量をデジタル制御装置で積算することとすると、桁落ち(アンダーフロー)による積算流量の演算精度の低下が問題となる。以下に、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下について具体的に説明する。
【0005】
原子力発電プラントでは、部位によっては、運転状況に応じて液体や水蒸気の流量が大きく変動する。一方、デジタル制御装置には、扱える有効桁数に限りがある。このため、デジタル制御装置では、流量が多い状態が続くなどして積算流量の値が大きくなった後に流量が小さくなると、桁落ちのために流量が加算されなくなる場合がある。例えば、有効桁数が6桁の実数を扱うデジタル制御装置の場合、積算流量が50000.0mになっている時点で0.00010mを何回加算しても、桁落ちのために積算流量は50000.0mのままとなる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止することができる流量積算装置および流量積算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、原子力発電プラントにおいて測定対象の積算流量を算出する流量積算装置であって、単位時間内に流れた前記測定対象の体積を所定の設定値で除算して商と余りとを算出する除算部と、前記除算部によって算出された商を積算する商積算部と、前記除算部によって算出された余りを積算する剰余積算部と、前記商積算部の積算値に前記設定値を乗じた値に、前記剰余積算部の積算値を加算した値を積算流量として算出する積算流量算出部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これらの流量積算装置では、積算値が商と余りとして別々に積算されるので、有効桁数が擬似的に拡張され、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止することができる。
【0009】
また、本発明は、原子力発電プラントにおいて測定対象の積算流量を算出する流量積算装置によって実行される流量積算方法であって、単位時間内に流れた前記測定対象の体積を所定の設定値で除算して商と余りとを算出する除算ステップと、前記除算ステップにおいて算出された商を積算する商積算ステップと、前記除算ステップにおいて算出された余りを積算する剰余積算ステップと、前記商積算ステップにおいて積算された積算値に前記設定値を乗じた値に、前記剰余積算ステップにおいて積算された積算値を加算した値を積算流量として算出する積算流量算出ステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
これらの流量積算方法では、積算値が商と余りとして別々に積算されるので、有効桁数が擬似的に拡張され、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る流量積算装置および流量積算方法は、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、原子力発電プラントの原子炉補給水制御系と原子力発電プラント制御システムの概要構成を示す図である。
【図2】図2は、実施例1に係る流量積算装置の概要構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る流量積算装置および流量積算方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、これらの実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【実施例1】
【0014】
まず、図1を参照しながら、実施例1に係る流量積算装置の利用例について説明する。図1は、加圧水型の原子力発電プラントの原子炉補給水制御系と原子力発電プラント制御システムの概要構成を示す図である。原子炉補給水制御系は、体積制御タンクに蓄えられる1次冷却材の水量とほう素濃度とを調整する。原子力発電プラント制御システムは、原子炉補給水制御系を含む原子力発電プラントの各部を制御する。
【0015】
図1に示すように、原子炉補給水制御系には、1次系純水タンク21と、1次系純水ポンプ22と、1次系純水流量制御弁23と、1次系純水流量検出器24と、ほう酸水タンク25と、ほう酸水ポンプ26と、ほう酸水流量制御弁27と、ほう酸水流量検出器28と、混合器29とが含まれる。
【0016】
1次系純水タンク21は、1次冷却材に用いられる純水を蓄える。1次系純水ポンプ22は、1次系純水タンク21に蓄えられた純水を1次系純水流量制御弁23へ送る。1次系純水流量制御弁23は、体積制御タンクへ送られる純水の流量を弁の開閉によって調整する。1次系純水流量検出器24は、1次系純水タンク21から体積制御タンクへ送られる純水の流量を検出する。
【0017】
ほう酸水タンク25は、1次冷却材に用いられる高濃度のほう酸水を蓄える。ほう酸水ポンプ26は、ほう酸水タンク25に蓄えられたほう酸水をほう酸水流量制御弁27へ送る。ほう酸水流量制御弁27は、体積制御タンクへ送られるほう酸水の流量を弁の開閉によって調整する。ほう酸水流量検出器28は、ほう酸水タンク25から体積制御タンクへ送られるほう酸水の流量を検出する。混合器29は、純水とほう酸水とを混合して体積制御タンクへ送る。
【0018】
また、図1に示す原子力発電プラント制御システム10は、流量積算装置11aと、流量積算装置11bと、制御装置12とを含む。流量積算装置11aは、1次系純水流量検出器24によって検出された純水の流量を積算する。流量積算装置11bは、ほう酸水流量検出器28によって検出されたほう酸水の流量を積算する。
【0019】
制御装置12は、原子力発電プラントの各所に設けられた検出器の検出結果や運転担当者の操作等に応じて、原子力発電プラントの運転を制御する。例えば、制御装置12が、運転担当者の操作によって、あるほう素濃度の1次冷却材をある量だけ体積制御タンクへ供給するように指示されたものとする。この場合、制御装置12は、指定されたほう素濃度の1次冷却材を指定された量だけ体積制御タンクへ供給するために必要な純水の量とほう酸水の量とを算出する。そして、制御装置12は、流量積算装置11aによって求められる純水の積算流量と、流量積算装置11bによって求められるほう酸水の積算流量を確認しながら、純水とほう酸水とが算出された量だけ体積制御タンクへ供給されるように1次系純水流量制御弁23とほう酸水流量制御弁27を制御する。
【0020】
このように、原子力発電プラントにおいて、流量積算装置は、液体や水蒸気の積算流量を取得するために用いられており、桁落ちによって流量が積算されない状況が生じると、原子力発電プラントの制御に支障を及ぼすおそれがある。
【0021】
次に、図2を参照しながら、図1に示した流量積算装置11aおよび流量積算装置11bの詳細な構成について説明する。なお、流量積算装置11aと流量積算装置11bの構成は同様であり、以下の説明では、流量積算装置11aと流量積算装置11bとを流量積算装置11と総称することとする。
【0022】
図2は、流量積算装置11の概要構成を示すブロック図である。図2に示すように、流量積算装置11は、記憶部111と、換算部112と、除算部113と、商積算部114と、剰余積算部115と、積算流量算出部116とを有する。
【0023】
記憶部111は、流量積算装置11の動作に必要な各種情報を記憶する記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置やハードディスク装置に相当する。記憶部111が記憶する情報には、換算係数111aと、設定値111bとが含まれる。換算係数111aは、流量を体積へ換算するための係数であり、換算部112によって用いられる。設定値111bは、除算部113での除算の除数となる。
【0024】
換算部112は、1次系純水流量検出器24またはほう酸水流量検出器28によって検出された流量を、換算係数111aを用いて、原子力発電プラント制御システム10の演算周期当たりの体積へ換算する。1次系純水流量検出器24またはほう酸水流量検出器28によって検出される流量の単位がm/分であり、原子力発電プラント制御システム10の演算周期が100ミリ秒であり、演算周期当たりの体積の単位がmであるとする。この場合、例えば、換算係数111aは、予め「600」に設定され、換算部112は、入力された流量を換算係数111aで割ることによって、演算周期当たりの体積を算出する。
【0025】
除算部113は、換算部112が算出した演算周期当たりの体積を設定値111bで割って商と余りとを算出する。除算部113によって算出された商は、商積算部114で積算され、除算部113によって算出された余りは、剰余積算部115で積算される。
【0026】
商積算部114は、加算器114aと、スイッチ114bとを有する。加算器114aは、除算部113が算出した商と、スイッチ114bが出力した値とを加算し、演算結果をスイッチ114bへ出力する。スイッチ114bは、制御装置12からリセット信号が送信されると、0を加算器114aおよび積算流量算出部116へ出力し、さもなければ、加算器114aが出力した値を加算器114aおよび積算流量算出部116へ出力する。
【0027】
すなわち、商積算部114は、通常は、除算部113が算出した商と前回の演算周期で算出した積算値とを加算器114aで加算する処理を演算周期ごとに行うことによって商を積算し、制御装置12からリセット信号が送信されると積算値をリセットする。
【0028】
剰余積算部115は、加算器115aと、スイッチ115bとを有する。加算器115aは、除算部113が算出した余りと、スイッチ115bが出力した値とを加算し、演算結果をスイッチ115bへ出力する。スイッチ115bは、制御装置12からリセット信号が送信されると、0を加算器115aおよび積算流量算出部116へ出力し、さもなければ、加算器115aが出力した値を加算器115aおよび積算流量算出部116へ出力する。
【0029】
すなわち、剰余積算部115は、通常は、除算部113が算出した余りと前回の演算周期で算出した積算値とを加算器115aで加算する処理を演算周期ごとに行うことによって余りを積算し、制御装置12からリセット信号が送信されると積算値をリセットする。
【0030】
積算流量算出部116は、乗算器116aと、加算器116bとを有する。乗算器116aは、商積算部114の積算値に設定値111bを乗じる。加算器116bは、乗算器116aの演算結果と、剰余積算部115の積算値とを加算し、演算結果を積算流量として出力する。
【0031】
上述してきたように、流量積算装置11は、演算周期当たりの体積を設定値111bで割って商と余りとを算出し、商と余りとを別々に積算する。そして、流量積算装置11は、商の積算値に設定値111bを乗じた値と、余りの積算値とを加算することによって積算流量を再現して出力する。このように商と余りとを別々に積算することにより、流量積算装置11が扱える有効桁数を擬似的に拡張して、桁落ちが生じることを防止することができる。
【0032】
桁落ちを防止するには、入力される流量の範囲に応じた積算器を多段に設けて積算を行う等の他の方式も考えられるが、そのような方式では、演算処理が複雑化する。極めて高い信頼性が必要とされる原子力発電プラントでは、演算処理は、バグ等の不具合を内在するおそれが高い複雑なものよりも、簡易なものの方が好ましいとされている。流量積算装置11は、商と余りとを別々に積算するという簡易な構成によって桁落ちを防止するため、原子力発電プラントにおける積算流量の取得に好適である。
【0033】
なお、設定値111bの値は、想定される積算値の大きさや積算値に必要な精度等に応じて予め設定される。例えば、流量積算装置11が扱う実数の有効桁数が6桁である場合、設定値111bの値を0.1と設定することで、積算流量が50000.0mになっており、入力される流量が演算周期当たりの体積として0.00010mと換算される微小な値であっても、その流量が1000回入力されることにより、積算流量は50000.1mへ更新される。
【実施例2】
【0034】
上記の実施例で示した流量積算装置11の構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更することができる。例えば、流量積算装置11は、制御装置12と一体に構成されていてもよい。また、換算係数111aおよび設定値111bは、記憶部111に記憶されている必要はなく、流量積算装置11と情報のやりとりが可能な制御装置12等の他の装置に記憶されていてもよい。
【0035】
また、流量積算装置11の機能は、ソフトウェアによって実現されてもよい。この場合、流量積算装置11の機能を実装された流量積算プログラムがコンピュータ内の記憶部に記憶され、コンピュータが備えるCPU(Central Processing Unit)が、流量積算プログラムを読み出して主記憶装置に展開し、流量積算プログラムに含まれる命令を実行していくことにより、流量の積算が実現される。なお、流量積算プログラムは、コンピュータ内の記憶部ではなく、コンピュータが読み取り可能なDVD−ROM等の可搬の記憶媒体や、コンピュータとネットワーク接続されたサーバ装置等の他の装置に記憶されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明に係る流量積算装置および流量積算方法は、桁落ちによる積算流量の演算精度の低下を抑止するために有用である。
【符号の説明】
【0037】
10 原子力発電プラント制御システム
11 流量積算装置
11a、11b 流量積算装置
12 制御装置
21 1次系純水タンク
22 1次系純水ポンプ
23 1次系純水流量制御弁
24 1次系純水流量検出器
25 ほう酸水タンク
26 ほう酸水ポンプ
27 ほう酸水流量制御弁
28 ほう酸水流量検出器
29 混合器
111 記憶部
111a 換算係数
111b 設定値
112 換算部
113 除算部
114 商積算部
114a 加算器
114b スイッチ
115 剰余積算部
115a 加算器
115b スイッチ
116 積算流量算出部
116a 乗算器
116b 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントにおいて測定対象の積算流量を算出する流量積算装置であって、
単位時間内に流れた前記測定対象の体積を所定の設定値で除算して商と余りとを算出する除算部と、
前記除算部によって算出された商を積算する商積算部と、
前記除算部によって算出された余りを積算する剰余積算部と、
前記商積算部の積算値に前記設定値を乗じた値に、前記剰余積算部の積算値を加算した値を積算流量として算出する積算流量算出部と、
を備えることを特徴とする流量積算装置。
【請求項2】
原子力発電プラントにおいて測定対象の積算流量を算出する流量積算装置によって実行される流量積算方法であって、
単位時間内に流れた前記測定対象の体積を所定の設定値で除算して商と余りとを算出する除算ステップと、
前記除算ステップにおいて算出された商を積算する商積算ステップと、
前記除算ステップにおいて算出された余りを積算する剰余積算ステップと、
前記商積算ステップにおいて積算された積算値に前記設定値を乗じた値に、前記剰余積算ステップにおいて積算された積算値を加算した値を積算流量として算出する積算流量算出ステップと、
を含むことを特徴とする流量積算方法。

【図1】
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【図2】
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