説明

流量調節弁

【課題】流量調節を高精度で正確に行い得る流量調節弁を提供する。
【解決手段】環状をなす弁体30及び弁座64を備えた弁部と、弁体30を閉弁方向に付勢するばねとを有し、軸方向に対して傾斜したテーパ面をなす弁座面68に対して弁体30を進退移動させ、流路S幅を大小変化させて流量調節する流量調節弁において、弁体30には弁座面68の側に突き出した形態をなし、閉弁時に非弾性変形状態で弁座面68に当接する硬質の環状の突き出し部110を設け、閉弁時に突き出し部110を弁座面68に対し線状接触させるようになす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は流量調節弁に関し、詳しくは流量調節特性を高めるための技術手段に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流量調節弁として、軸周りに環状をなして軸方向に進退移動する弁体、及び弁体に対応して軸周りに環状をなし、弁座面が軸方向に対して傾斜したテーパ面をなす弁座を備えた弁部を有して、弁座面に対する弁体の軸方向移動により弁座面と弁体との間の流路を大小変化させて流量調節する流量調節弁が公知である。
またこの種の流量調節弁において、上記弁体が、流路を流れる流体の圧力により、弁体に対して軸方向に作用する付勢部材又は圧力室の圧力による押圧力に抗して開弁方向に移動可能となしてあるものが公知である。
【0003】
図11は、この流量調節弁の要部を模式的に表している(図に示すものは付勢部材によって弁体を軸方向に押圧する形式のものであるが、ここでは付勢部材は図示省略されている)。
図において200は流量調節弁の弁部を、202は弁体を表している。弁体202は、図中矢印で示す軸方向(図中左右方向)に進退移動する。
204は弁座で、206はその弁座204における弁座面である。弁座面206は、弁体202の進退移動方向である軸方向に対して傾斜したテーパ面をなしている。
【0004】
この種の流量調節弁にあっては、従来、弁座面206に直接当接する弁体202の当接面208が、弁座面206と同じ角度で傾斜したテーパ面とされている。
このような形態の流量調節弁は、例えば図12に示すサーモスタット式湯水混合バルブ(下記特許文献1に開示)の水側弁部210にも適用されている。
【0005】
この形態の流量調節弁は、図11において弁座面206と弁体202の当接面208との間に形成される流路Sの幅を、弁体202の進退移動によって大小変化させることで流量調節を行う。
また弁体202のテーパ面をなす当接面208を、同じくテーパ面をなす弁座面206に当接させることで流れを停止させる。
【0006】
この流量調節弁では、流路Sを流体が流れ通過するときに流動の圧力が弁体202に作用し、弁体202を図中右方向(後退方向)に押す力が働く。
その流動圧によって弁体202を押す力が強いと、弁体202が図示を省略する付勢部材による押圧力に抗して図中右方向に後退移動せしめられる。
その結果流路Sの幅が開いて、流路Sを通過する流量が多くなってしまう。即ち流体の流量が設定流量よりも多くなってしまう。
【0007】
但しこの流量調節弁の場合、図中矢印Pで示す方向の弁体202の後退移動量に対して、矢印Pで示す方向の流路Sの幅の変化量が少なく、従って弁体202の後退移動量の割には流路S幅の変化量、即ち流体の流量変化を少なく抑制できる利点を有している。
【0008】
しかしながら一方でこの流量調節弁の場合、テーパ面をなす弁体202の当接面208が、同じくテーパ面をなす弁座面206に沿って平行に面状に長く延びていて流動の圧力を受ける受圧面が広いため、流路Sを流れる流体による弁体202の後退方向の力が強く働き、弁体202がその強い力によって後退移動させられ易いといった問題を内包している。
その結果として、流路Sを流れる流体の流量が設定流量から増大変化し易く、高精度で流量調節することが難しいといった問題がある。
【0009】
従って例えばこの流量調節弁を図12の湯水混合バルブの水側弁部に適用した場合、水の流入量が設定流量よりも多くなってしまって、混合水温度が設定温度よりも低下してしまうといった問題を生ずる。
【0010】
また図11に示す流量調節弁の場合、弁体202のテーパ面をなす当接面208を、同じくテーパ面をなす弁座面206に対して面状に当接させて流体の流れを停止させるものであるため(当り面が広いため)、弁座面206,当接面208の成形の際の面精度によっては流体の流れを確実且つ完全に停止させることができない場合が生じるといった問題がある。
【0011】
尚、本発明に対する先行技術として下記特許文献2に開示されたものがあるが、この特許文献2に開示のものはダイアフラムのシール部を閉弁時に弾性変形させ、弁座面に対してその弾性変形に基づいて面状に接触させシールするもので、本発明とは異なった別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−202701号公報
【特許文献2】特開平8−178096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上のような事情を背景とし、流量調節を高精度で正確に行い得る流量調節弁を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して請求項1のものは、軸周りに環状をなして軸方向に進退移動する弁体、及び該弁体に対応して軸周りに環状をなし、弁座面が該軸方向に対して傾斜したテーパ面をなす弁座を備えた弁部を有して、該弁座面に対する該弁体の軸方向移動によって該弁座面と該弁体との間の流路を大小変化させて流量調節を行う弁であって、該弁体が、前記流路を流れる流体の圧力により、該弁体に対して軸方向に作用する付勢部材又は圧力室の圧力による押圧力に抗して開弁方向に移動可能である流量調節弁において、前記弁体には、前記弁座面の側に突き出した形態をなし、閉弁時に非弾性変形状態で該弁座面に当接する硬質の環状の突き出し部を設けて、閉弁時に該突き出し部を該弁座面に対し線状接触させるようになしてあることを特徴とする。
【0015】
請求項2のものは、請求項1において、前記突き出し部における流体の出側の面が、前記弁座面に対して直角方向の面若しくは該直角方向に対して角度45°以下の鋭角の面をなしていることを特徴とする。
【0016】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記突き出し部における流体の出側の面には、周方向に沿って間隔を隔てて複数のリブが該出側の面を周方向に分断する形で該出側の面から突出する状態に設けてあることを特徴とする。
【0017】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記弁部がパイロット式の弁部であって、前記圧力室と、該圧力室の圧力を増減変化させる方向に且つ前記弁体と同じ方向に移動し、該弁体を追従して進退移動させるパイロット弁とを有するものであり、該弁体が前記圧力室の圧力による押圧力に抗して前記開弁方向に移動可能であることを特徴とする。
【0018】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかの流量調節弁が、(イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)該湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部と、(ハ)湯水を混合する混合室と、(ニ)該混合室内の混合水温度に感応して伸縮し、前記湯側弁部における湯側弁体を閉じ、前記水側弁部における水側弁体を開く方向の付勢力を変化させる感温ばねと、(ホ)前記湯側弁体及び水側弁体に対して前記感温ばねとは逆方向に付勢力を作用させるバイアスばねと、を有し、湯水の混合比率を自動的に調節するサーモスタット式の湯水混合バルブにおける前記水側弁部又は/及び湯側弁部を成すものであることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0019】
以上のように本発明は、テーパ面をなす弁座面の側に突き出した形態をなし、閉弁時に非弾性変形状態で弁座面に当接する硬質の環状の突き出し部を弁体に設けて、閉弁時にその突き出し部を弁座面に対し線状接触させるようになしたものである。
【0020】
本発明によれば、弁座面と弁体との間の流路を流れる流体の流動圧を受ける弁体(詳しくは突き出し部)の受圧面の面積を可及的に小さくすることができ、流体の流れが弁体を後退方向に押す力を小さくすることができる。
従って流体の流れによって弁体が後退方向に移動することにより、実際の流量が設定流量よりも増大変化してしまうのを効果的に抑制することができる。
これにより、流量調節弁における流量調節を高精度で正確に行い得るようになる。
尚本発明において、上記の線状接触とは閉弁時における弁座面に対する突き出し部の接触幅が1mm以下である場合を意味する(但し好ましい接触幅は0.1mm以下)。
【0021】
本発明では、上記突き出し部における流体の出側の面を弁座面に対して直角の向きとなしておくことができる。
又は出側の面を、弁座面と直角方向に対して角度45°以下の鋭角の面となしておくことができる(請求項2)。
後者の場合、弁体製造時における突起の成形加工を容易化することができる。
【0022】
ところで、弁座面に対する弁体の当接部を上記のような突き出した形態となした場合、突き出し部を乗り越えて流体が流動したところで流路幅が急拡大することに起因して、流れの一部が突き出し部の出側内面に向って巻き込むような流れとなる。この流れはテーパ形状をなす弁座面に沿った流れから剥離した流れとなる。
而してこのような剥離流れが生ずると、そこで「ピューッ」といった笛吹音を異音として発生させてしまう。
【0023】
ここにおいて請求項3のものは、環状に形成された突き出し部の出側の面に、その出側の面を周方向に分断する形で周方向に間隔を隔てて複数のリブを出側の面から突出状態に設けたものである。
【0024】
これら複数のリブは次のように作用する。
上記笛吹音に似た異音は、上記の剥離流れが周方向に全周に亘って連続的に繋がった流れとして生ずることで発生し易い。
しかるに請求項3に従って上記の複数の突出形状のリブを設けることで、周方向に連続して繋がった流体の剥離流れを分断することで、笛吹音に似た異音の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0025】
本発明は、上記弁部がパイロット式の弁部であって、上記圧力室と、圧力室の圧力を増減変化させる方向に且つ弁体と同じ方向に移動し、弁体を追従して進退移動させるパイロット弁とを有する流量調節弁、即ち弁体が、流路を流れる流体の圧力により上記圧力室の圧力による押圧力に抗して開弁方向に移動可能である流量調節弁に好適に適用することができる(請求項4)。
【0026】
また本発明は、サーモスタット式の湯水混合バルブにおける水側弁部又は湯側弁部における流量調節弁として好適に適用することができる(請求項5)。
これにより、湯水混合バルブにおける水,湯の流量調節、ひいては水と湯との混合比率を高精度で正確に調節することが可能となり、混合水温度が設定温度からずれてしまうのを防止し得て、混合水の温度制御を正確に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の流量調節弁を備えた湯水混合バルブの断面図である。
【図2】同実施形態における弁体ユニットを各部品に分解して示す断面図である。
【図3】同実施形態の要部拡大図である。
【図4】本発明の他の実施形態の要部拡大図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態の要部拡大図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態の要部拡大図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態の要部拡大図である。
【図8】本発明の利点を説明するための説明図である。
【図9】本発明の更に他の実施形態の要部拡大図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態の要部拡大図である。
【図11】従来の流量調節弁の不具合の説明図である。
【図12】図11の流量調節弁を備えた湯水混合バルブの図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10はサーモスタット式(自動温度調節機能付)の湯水混合バルブで、12は円筒形状をなす弁ケースである。
弁ケース12には、軸方向に互いに離隔した位置に水流入口16,湯流入口18が形成されており、これら水流入口16,湯流入口18を通じて水,湯が弁ケース12内部に流入する。
流入した水と湯とは混合室20で混合された後、その混合水が流出口22から図中左向きに流出する。
【0029】
24,26はそれぞれ水流入口16,湯流入口18から流入する水,湯の流入量を調節する水側弁部,湯側弁部で、水流入口16,湯流入口18からの水と湯の流入量は、それぞれ水側弁部24,湯側弁部26の弁開度に応じて大小変化する。即ち混合室20での水と湯との混合比率が変化し、混合水温度が高低変化する。
【0030】
弁ケース12の内部には、弁体ユニット28が図中左右方向(軸方向)に移動可能に設けられている。
この弁体ユニット28は、軸方向に離隔して設けられた水側弁体30と湯側弁体32、及びそれらを軸方向に連繋する連繋部34を有している。
【0031】
ここで水側弁体30及び湯側弁体32はそれぞれ円筒形状(環状)をなしており、それぞれの外周面の軸方向中間位置に断面U字形状をなすシール部材36,38が保持されていて、それらシール部材36,38により水側弁体30及び湯側弁体32と弁ケース12との間が水密にシールされている。
【0032】
連繋部34は湯側弁体32と一体に構成されている。
この連繋部34は、図2にも示しているように湯側弁体32の内側位置において十字状をなすように中心部から放射状に延びる複数(ここでは4つ)の補強板40と、この補強板40から軸方向且つ図中右方向に突き出した円筒部42とを一体に有している。
ここで補強板40は湯側弁体32を内側から補強する働きをなすもので、板面が軸方向に延びており、そして外周端が湯側弁体32に一体化されている。
この実施形態では、水流入口16,湯流入口18から流入した水と湯とが図中左向きに流れて混合室20に到り、そこで水と湯とが混合される。
【0033】
混合室20には、形状記憶合金製のコイル形状の感温ばね(付勢部材)44が収容されており、その付勢力を軸方向の押圧力として弁体ユニット28に対し図中右向きに、即ち湯側弁体32を閉弁させ、水側弁体30を開弁させる方向に及ぼしている。
この形状記憶合金製の感温ばね44は混合室20内部の混合水温度に応じて伸縮し、混合水温度が設定温度となるように図中右向きの付勢力を変化させて、弁体ユニット28の位置を自動的に微調節する。
【0034】
46は混合室20を形成するとともに感温ばね44の一端を当接させるばね受で、図中右端に外向きの係合爪48を有し、その係合爪48を弁ケース12の係合孔50に係合させることで、弁ケース12に組み付けられている。
【0035】
上記水側弁体30は、湯側弁体32及び連繋部34とは別体に構成されている。
この水側弁体30には、図2にも明らかに示しているように内側が段付形状をなす円筒形状の嵌合部52が形成されており、その嵌合部52が、段付部54を円筒部42の先端面に当接させる状態に、円筒部42に外嵌状態に嵌合され組み付けられている。
詳しくは、円筒部42の内側には雌ねじ部56が形成されていて、そこに後述の弁軸106の先端部に形成された雄ねじ部58がねじ込まれている。
【0036】
この弁軸106には押え部材としての止め輪(ここではEリング)60が装着されており、弁軸106の雄ねじ部58が円筒部42の内側の雌ねじ部56にねじ込まれることで、水側弁体30が止め輪60にてばね62を介し円筒部42に図中左向きに押し付けられ、連繋部34に組付固定されている。
ここでばね62は通常の金属製でコイル形状をなしている。
【0037】
図1に示しているように弁ケース12には、水側弁体30,湯側弁体32のそれぞれの軸方向の内側位置に、水側弁部24における水側弁座64,湯側弁部26における湯側弁座66が設けられており、それらに対し水側弁体30,湯側弁体32が軸方向に当接するようになっている。
詳しくは水側弁座64,湯側弁座66におけるそれぞれの弁座面68,70に対して水側弁体30,湯側弁体32が当接するようになっている。
【0038】
この実施形態において、弁体ユニット28は通常の金属製のコイルばねから成るバイアスばね(付勢部材)72にて図中左向き、即ち湯側弁体32を開弁させ、水側弁体30を閉弁させる方向に付勢(押圧)されており、また混合室20内に設けられた感温ばね44にてこれとは逆方向の図中右向き、即ち湯側弁体32を閉弁させ、水側弁体30を開弁させる方向に付勢されている。
弁体ユニット28は、感温ばね44による図中右向きの付勢力と、バイアスばね72による図中左向きの付勢力とが釣合う位置に保持される。
【0039】
図1に示しているように、弁ケース12には回転操作軸74が組み付けられている。
この回転操作軸74は、弁体ユニット28を弁ケース12の内部で軸方向、即ち図中左右方向に移動させて混合水温度を設定操作するためのもので、嵌合軸部76と、ハンドル連結部78とを有しており、その嵌合軸部76が弁ケース12の嵌合孔80に回転可能に内嵌されている。
ここで嵌合軸部76と弁ケース12の嵌合孔80との間はOリング82にて水密にシールされている。
また弁ケース12から軸方向の右方に突き出したハンドル連結部78には、セレーション部84において図示を省略するハンドルが一体回転状態に連結されるようになっている。
【0040】
回転操作軸74は、弁ケース12の内部において大径の円筒部85を有しており、その円筒部85の図中右端の肩部と、回転操作軸74に装着された径方向に弾性を有する止め輪86にて、弁ケース12に軸方向に固定されている。
この円筒部85の内周面には雌ねじ部88が形成され、そこに円筒形状をなす駆動部材90が、外周面の雄ねじ部92において螺合されている。
この駆動部材90は、回転操作軸74の回転操作によってねじ送りで軸方向即ち図中左右方向に進退移動させられる。
【0041】
この駆動部材90と弁体ユニット28との間には、ストッパリング94,ばね受96を介して通常の金属製のコイルばねからなる上記のバイアスばね72が介在させられており、バイアスばね72の図中左向きの付勢力が弁体ユニット28に対し図中左向きに及ぼされている。
尚、ばね受96には図中左端と右端とに内向きのフランジ部98,100が設けられている。
【0042】
一方、駆動部材90の図中左端には外向きのフランジ部102が設けられ、この外向きのフランジ部102が、一対のフランジ部98,100の間においてばね受96内部を図中左右方向に相対移動可能とされている。
また駆動部材90には、内向きに突出した段付部104が図中右端に設けられていて、そこにストッパリング94が図中右向きに当接させられている。
【0043】
上記のように弁体ユニット28からは図中右向きに弁軸106が延び出している。
弁軸106の右端側はストッパリング94を貫通して図中右向きに突出しており、その突出した端部に、ストッパリング94の内径よりも大径の頭部108が設けられている。
この頭部108には、弁軸106における上記の雄ねじ部58を連繋部34の雌ねじ部56にねじ込む際に工具掛け部となる係合溝が形成されている。
【0044】
この実施形態では、回転操作軸74を正方向に回転操作すると、駆動部材90がねじ送り作用で図中左向きに前進させられ、これによりストッパリング94を介してバイアスばね72が圧縮せしめられ、弁体ユニット28に対する図中左向きの付勢力を増大させる。
また回転操作軸74を逆方向に回転操作すると、駆動部材90が図中右向きに後退移動させられて、バイアスばね72が延びる方向に変位し、弁体ユニット28に対する図中左向きの付勢力を弱くする。
【0045】
この例の湯水混合バルブ10では、このようにして回転操作軸74を正方向又は逆方向に回転操作することで、弁体ユニット28に対するバイアスばね72の図中左向きの付勢力と、感温ばね44の図中右向きの付勢力との釣合位置が図中左右方向に変化し、これに伴って弁体ユニット28が図中左右方向にシフトせしめられる。即ち湯水混合バルブ10における混合水の温度が設定ないし設定変更される。
【0046】
この湯水混合バルブ10では、弁体ユニット28が図中左向きに一杯まで移動して水側弁体30が水側弁座64の弁座面68に当接することで水流入口16が全閉、湯流入口18が全開となり、弁体ユニット28が逆方向に一杯まで移動して湯側弁体32が湯側弁座66の弁座面70に当接することで湯流入口18が全閉、水流入口16が全開状態となる。
またそれらの中間位置において水流入口16及び湯流入口18を開き、且つその開度を感温ばね44の温度感知に基づいて自動的に変化させ、水,湯の流入量を変化させて混合水温度を自動的に設定温度に調節する。
【0047】
上記水側弁体30,湯側弁体32を含む弁体ユニット28は、全体が硬質の樹脂材(ここではポリサルホン(PSF))で形成されており、水側弁体30,湯側弁体32のそれぞれが、対応する水側弁座64,湯側弁座66に対し閉弁時に非弾性変形状態で当接する。
【0048】
この実施形態では、湯側弁座66における弁座面70が軸方向に対して直角の面をなしており、一方水側弁座64における弁座面68は、図3にも詳しく示しているように軸方向に対して傾斜したテーパ面(ここでは軸方向に対して45°の角度で傾斜)をなしている。
詳しくは、径方向中心に向うにつれて軸方向の左方向、つまり水側弁体30から離れる方向に移行する向きに傾斜したテーパ面をなしている。
【0049】
図3に詳しく示しているように水側弁体30には、このテーパ面をなす水側弁座64の弁座面68の側に突き出した形態の突き出し部(ここでは弁座面68に対し直角の向きで起立した突起)110が一体に設けられており、閉弁時においてこの突き出し部110の先端が弁座面68に当接するようになしてある。
尚この突き出し部110は軸周りに全周に亘って形成されている。即ち突き出し部110は環状(ここでは円環状)をなしている。
【0050】
上記のように突き出し部110は硬質の部材からなっていて、閉弁時に弁座面68に対し全周に亘って線状接触し、水側弁座64と水側弁体30との間の流路Sを遮断する。
この例において、突き出し部110は閉弁時に弁座面68に対し0.1mmの接触幅で線状接触する。
【0051】
この実施形態において、突き出し部110における流体の入側の面112,出側の面114は、何れも突き出し部110の起立方向即ち弁座面68と直角方向に対する角度θ,θが25°以下の鋭角の面となしてある。
ここでθ,θは同じ角度としても良いし、異なった角度としておいても良い。
【0052】
以上のような本実施形態においては、水側弁部24における弁座面68と水側弁体30との間の流路Sを流れる水の流動の圧力を受ける水側弁体30の受圧面の面積を可及的に小さくすることができ、水の流れが水側弁体30を図中右方向の後退方向に押す力を小さくすることができる。
従って水の流れによって、水側弁体30が感温ばね44による図中右向きの付勢力とバイアスばね72による図中左向きの付勢力との釣合い位置から後退方向に移動することにより、即ち水側弁体30に対して軸方向の左向きに作用するバイアスばね72による付勢力(押圧力)に抗して水側弁体30が開弁方向に移動することにより、実際の水の流量が設定流量よりも増大変化してしまうのを効果的に抑制することができる。
【0053】
これにより水側弁部24における水流量調節を高精度で正確に行うことができ、そしてこれにより湯水混合バルブ10における水と湯との混合比率の調節をより高精度で行い得るようになり、混合水の温度制御をより正確に行えるようになる。
【0054】
またこの実施形態では、突き出し部110における水の入側の面112,出側の面114が弁座面68に対し直角方向の面ではなく、θ,θが25°以下の鋭角の面となしてあるため、突き出し部110の成形加工を容易に行うことができる。
【0055】
弁体30における突き出し部110は、上例以外に他の様々な形状で構成することが可能である。
図4〜図7はその具体例を示している。
先ず図4の例は、突き出し部110における出側の面114を角度θの鋭角の面となす一方、入側の面112を突き出し部110の起立方向即ち弁座面68と直角な方向の面(つまり図3(B)における角度θを0°とする面)となした例である。
【0056】
また図5の例は、図4の例とは逆に出側の面114を弁座面68と直角な方向の面となし、入側の面112を角度θをなす鋭角の面となした例である。
更に図6の例は、突き出し部110における入側の面112,出側の面114の何れも弁座面68と直角方向の面となした例である。
尚ここでは突き出し部110の先端を円弧形状となしてある。図4及び図5についても同様である。
【0057】
ところで水側弁体30に突き出し部110を設けて、その先端を閉弁時に弁座面68に対し線状接触させるようにしたとき、開弁時において水流入口16から流入した水の流れが突き出し部110を乗り越えて流動する際、図8に示すように突き出し部110を越えたところで流路Sが急拡大するために、突き出し部110を乗り越えた流れの一部が突き出し部110の出側の面114側に巻き込むような流れとなり、弁座面68に沿った流れからその巻込み方向の流れが剥離する現象を生じる。
このような剥離流れが生じると、そこで笛吹音に似た異音を発生してしまう。
【0058】
これを防止するための手段として、図7に示しているように突き出し部110の出側の面114に、複数のリブ116を出側の面114から突出する形態で周方向に所定間隔を隔てて、具体的には一定間隔ごとに設けておくのが良い。
尚この図7の例は、図5に示した水側弁体30を代表として、これにリブ116を設けた例であるが、勿論図3,図4及び図6の水側弁体30にこのようなリブ116を設けておくこともできる。
【0059】
而してこのように突き出し部110における出側の面114に、周方向に沿って一定間隔ごとに複数のリブ116を突出状態に設けておいた場合、図8に示す出側の面114に巻き込むような剥離流れを周方向に複数に分断することができる。
【0060】
図8に示す出側の面114に向って巻き込むような流れが周方向に全周に亘って一体に繋がっていると、剥離流れのエネルギーも大となって、そのことが上記の笛吹音に似た異音を発生させる原因となるが、出側の面114に向う巻込みの流れを周方向に分断することで、そのような異音の発生を良好に防止することが可能となる。
【0061】
尚この例において、リブ116はそれ自体が全体的に同じ肉厚で形成され、また全てのリブ116が均等な肉厚で形成されている。
また図7(B)に示しているように各リブ116の形状は、図中左端面が軸直角方向の面をなし、内周側の面が軸方向の面となしてある。
但しこれはあくまで一例で、他の形状とすることも可能である。
【0062】
以上は本発明を湯水混合バルブ10における水側弁部24に適用した場合の例であるが、本発明は湯水混合バルブ10の湯側弁部26に適用することも可能である。
この場合、湯側弁体32と湯側弁座66の弁座面70との間の流路Sを流れる湯の圧力が湯側弁体32に作用して、これを図中左向きの後退方向に押す力が働いても、湯側弁体32が、これを図中右向きに付勢する感温ばね(付勢部材)44による押圧力に抗して後退方向に移動してしまうのを有効に抑制することができる。
【0063】
また本発明は、図9に示す弁部120のように、弁体122の軸方向の先端面(図中左端面)を軸直角方向の面となして、軸方向に対し45°の角度のテーパ面をなす、弁座124の弁座面126に対して、弁体122の先端外周部の直角の角部を突き出し部110として、これを弁座面126に当接させるようになすといったことも可能である。
【0064】
その他に、本発明は弁部をパイロット式の弁部として構成することも可能である。
図10はその具体例を示している。
図10(A)において、130はパイロット式の弁部、132は水又は湯(以下では水の例について説明する)の流入口で、134はダイヤフラム式の弁体、136は弁座で、138はテーパ形状をなす弁座面である。
ここでダイヤフラム式の弁体134は、外周部のゴム製のダイヤフラム膜140と、これにより図中左右方向に移動可能に保持された弁本体部142とを有している。
【0065】
144は、弁体134の図中右側の背後に形成された圧力室で、この圧力室144は、内部の圧力を弁体134に対し図中左向きの閉弁方向の押圧力として作用させる。
146は、弁体134を貫通して設けられた導入小孔で、この導入小孔146は、流入口132から流入した1次側の水を圧力室144に導入して、圧力室144の圧力を増大させる。
【0066】
148は、弁体134の中心部を軸方向に貫通して設けられたパイロット流路で、このパイロット流路148は、圧力室144内の水を2次側に抜いて圧力室144の圧力を減少させる。
150は、弁体134の中心の貫通孔内に挿通された軸体で、この軸体150と一体移動する状態にパイロット弁152が設けられている。ここでパイロット弁152は、孔154内を図中左右方向に進退移動する。
尚パイロット弁152の外周面と孔154の内周面との間は、パイロット弁152に保持されたOリング156にて水密にシールされている。
【0067】
この例のパイロット式の弁部130では、パイロット弁152が図中左向きに前進移動すると、これに追従して弁体134がパイロット弁152と同方向に且つ同じ距離だけ閉弁方向に前進移動する。
またパイロット弁152が図中右方向に後退移動すると、これに追従して弁体134がパイロット弁152と同方向に且つ同じ距離だけ開弁方向に後退移動する。
【0068】
詳しくは、パイロット弁152が図中左向きに前進移動すると、一時的にパイロット弁152と弁体134との間の間隙が小となって、パイロット流路148の開度が小となり、ここにおいて圧力室144からパイロット流路148を通じて2次側へと抜け出る水の量が小となって、圧力室144の圧力が増大する。
【0069】
するとその増大した圧力によって、弁体134が図中左向きに微小距離前進移動し、そして圧力室144の圧力と、弁体134に対し図中右向きに働く1次側の給水圧とが釣り合ったところで弁体134が移動停止する。
そして弁体134に対して図中左向きの押圧力を作用させる圧力室144の圧力と、弁体134に対して図中右向きの押圧力を作用させる1次側の給水圧とをバランスさせるようにして、弁体134がパイロット弁152との間に一定の追従間隙を維持しつつパイロット弁152の前進につれて同方向即ち閉弁方向に追従して前進移動する。
【0070】
一方パイロット弁152が図中右方向に後退移動すると、パイロット弁152の開度即ちパイロット流路148の開度が一時的に大となることによって、圧力室144の水がパイロット流路148を通じ多く流出し、ここにおいて圧力室144の圧力が一時的に低下することによって、弁体134が図中右方向、即ちパイロット弁152の後退方向と同方向に後退移動する。
【0071】
そして弁体134に対する圧力室144の図中左向きの押圧力と、弁体134に対する1次側の圧力による図中右向きの押圧力とがバランスする位置で弁体134の後退移動が停止する。
以後も同様にしてパイロット弁152の図中右方向の後退移動に追従して弁体134が移動し、弁開度を増大させる。
【0072】
この例において、弁体134には突き出し部110が軸周りに環状に設けてあり、閉弁時においてこの突き出し部110が、弁座面138に対し線状接触するようになしてある。
従ってこの例においても、流路Sを流れる水の圧力が弁体134に作用し、弁体134を後退方向に押す力が働いたとしても、弁体134は、圧力室144による左向きの押圧力に抗して図中右方向に後退移動するのが抑制され、流量調節を高精度で正確に行うことができる。
【0073】
図10(B)はパイロット式弁部の他の例を示したもので、この例のパイロット式弁部158は、弁体134がピストン式の弁となしてある。
弁体134には、外周面にOリング160が保持されていて、このOリング160によって弁体134の外周面と弁ケース162との間が水密にシールされている。
尚他の点については図10(A)に示したものと基本的に同様である。
【0074】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明は湯水混合バルブ以外に、単に水の流量だけを調節する流量調節弁や、湯の流量だけを調節する流量調節弁等にも適用することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 湯水混合バルブ
16 水流入口
18 湯流入口
20 混合室
24 水側弁部
26 湯側弁部
28 弁体ユニット
30 水側弁体
32 湯側弁体
44 感温ばね
62 ばね
64 水側弁座
66 湯側弁座
68,70 弁座面
72 バイアスばね(付勢部材)
110 突き出し部
112 入側の面
114 出側の面
116 リブ
130,158 弁部
132 流入口
134 弁体
144 圧力室
148 パイロット流路
152 パイロット弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸周りに環状をなして軸方向に進退移動する弁体、及び該弁体に対応して軸周りに環状をなし、弁座面が該軸方向に対して傾斜したテーパ面をなす弁座を備えた弁部を有して、該弁座面に対する該弁体の軸方向移動によって該弁座面と該弁体との間の流路を大小変化させて流量調節を行う弁であって、該弁体が、前記流路を流れる流体の圧力により、該弁体に対して軸方向に作用する付勢部材又は圧力室の圧力による押圧力に抗して開弁方向に移動可能である流量調節弁において、
前記弁体には、前記弁座面の側に突き出した形態をなし、閉弁時に非弾性変形状態で該弁座面に当接する硬質の環状の突き出し部を設けて、閉弁時に該突き出し部を該弁座面に対し線状接触させるようになしてあることを特徴とする流量調節弁。
【請求項2】
請求項1において、前記突き出し部における流体の出側の面が、前記弁座面に対して直角方向の面若しくは該直角方向に対して角度45°以下の鋭角の面をなしていることを特徴とする流量調節弁。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記突き出し部における流体の出側の面には、周方向に沿って間隔を隔てて複数のリブが該出側の面を周方向に分断する形で該出側の面から突出する状態に設けてあることを特徴とする流量調節弁。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記弁部がパイロット式の弁部であって、前記圧力室と、該圧力室の圧力を増減変化させる方向に且つ前記弁体と同じ方向に移動し、該弁体を追従して進退移動させるパイロット弁とを有するものであり、該弁体が前記圧力室の圧力による押圧力に抗して前記開弁方向に移動可能であることを特徴とする流量調節弁。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの流量調節弁が、(イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)該湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部と、(ハ)湯水を混合する混合室と、(ニ)該混合室内の混合水温度に感応して伸縮し、前記湯側弁部における湯側弁体を閉じ、前記水側弁部における水側弁体を開く方向の付勢力を変化させる感温ばねと、(ホ)前記湯側弁体及び水側弁体に対して前記感温ばねとは逆方向に付勢力を作用させるバイアスばねと、を有し、湯水の混合比率を自動的に調節するサーモスタット式の湯水混合バルブにおける前記水側弁部又は/及び湯側弁部を成すものであることを特徴とする流量調節弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−249278(P2010−249278A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101281(P2009−101281)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】