説明

浄水カートリッジおよび浄水器

【課題】洗浄により中空糸膜束の浄化性能を効率的に回復させることができる浄水カートリッジ、および複数の浄化手段を備え、前記浄水カートリッジを一次浄化手段とした浄水器の提供を目的とする。
【解決手段】原水を内部に透過させて浄化する中空糸膜束10と、中空糸膜束10の片端が開口した状態で接着固定されるケース20とを備え、中空糸膜束10の自由端10a側がケース20外に露出しており、中空糸膜束10の有効膜長に対するケース20から露出した露出長の割合が30%以上である浄水カートリッジ1。また、浄化手段を複数備え、その一次浄化手段が浄水カートリッジ1である浄水器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水カートリッジおよび浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
原水を浄化する浄水器としては、例えば、中空糸膜などの濾材を有する浄化手段を複数備え、原水を段階的に高度に浄化できる浄水器が知られている。例えば、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束の両端または片端が、ポッティング材によってケースに接着固定されて収納されている浄水カートリッジを、一次浄水手段および二次浄水手段の少なくとも一方に備えた浄水器が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
このように複数の浄化手段を備えた浄水器においては、一次浄水手段として用いる浄水カートリッジの目詰まりが一番早い。特に、原水の水質が著しく低い場合には、目詰まりが非常に早くなるのに加えて、目詰まりの度合いも高くなるため、逆洗処理などで中空糸膜束を洗浄して浄化性能を効率的に回復させることが困難になる。そのため、この場合には、一次浄化手段として用いる浄水カートリッジを頻繁に交換する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−154734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、洗浄により中空糸膜束の浄化性能を効率的に回復させることができる浄水カートリッジ、および複数の浄化手段を備え、前記浄水カートリッジを一次浄化手段とした浄水器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]原水を内部に透過させて浄化する複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の片端が開口した状態でポッティング部にて接着固定されるケースとを備え、
前記中空糸膜束の自由端側が前記ケース外に露出しており、前記中空糸膜束の有効膜長に対する、前記ケースから露出した露出長の割合が30%以上であることを特徴とする浄水カートリッジ。
[2]前記中空糸膜束における、前記ポッティング部の前記自由端側の端面から少なくとも10mmまでの領域が、前記ケースに覆われている、前記[1]に記載の浄水カートリッジ。
[3]前記ポッティング部における前記中空糸膜の充填率が20〜60%である、前記[1]または[2]に記載の浄水カートリッジ。
[4]前記ケースの内径が20〜60mmである、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の浄水カートリッジ。
[5]複数の浄化手段により原水を段階的に浄化する浄水器であって、一次浄化手段として前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の浄水カートリッジを備えた浄水器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の浄水カートリッジは、洗浄により中空糸膜束の浄化性能を効率的に回復させることができる。
また、本発明の浄水器は、複数の浄化手段のうち、一次浄化手段として本発明の浄水カートリッジを用いていることで、洗浄により中空糸膜束の浄化性能を効率的に回復させることができるため、浄水カートリッジの交換頻度を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の浄水カートリッジの実施形態の一例を示した斜視図である。
【図2】本発明の浄水カートリッジの実施形態の一例を示した概略断面図である。
【図3】本発明の浄水カートリッジの製造方法の一工程を示した平面図である。
【図4】本発明の浄水カートリッジの製造方法の一工程を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[浄水カートリッジ]
以下、本発明の浄水カートリッジの実施形態の一例を示して詳細に説明する。
本実施形態の浄水カートリッジ1は、図1および図2に示すように、中空糸膜束10(以下、「濾材10」という。)と、濾材10の固定端10b(片端)が接着固定されるケース20とを備えている。
濾材10は、複数の中空糸膜11を二つ折りにして束ねた中空糸膜束である。ケース20は、濾材10の中空糸膜束の固定端10b側の一部を覆う筒状の保護部21と、濾材10の内部に透過した透過水を集水する集水部22とからなる。
浄水カートリッジ1の濾材10の中空糸膜束は、二つ折りにした折り返し側を自由端10aとし、その両末端を固定端10bとして、固定端10bである両末端が開口した状態でポッティング部32にてケース20に接着固定されている。濾材10内に透過した透過水は、濾材10の固定端10b側でその内部と連通する集水部22に集水されるようになっている。本発明における自由端とは、中空糸膜束におけるケースに接着固定されていない側の先端をいう。
【0010】
本実施形態例における濾材10の中空糸膜束は、複数の中空糸膜11がセンターチューブ31を中心にして円柱状に束ねられることで形成されている。
中空糸膜束においてケース20から露出している部分は、流水を当てて中空糸膜表面の目詰まり物質を洗い流す流水洗いや、中空糸膜表面をこすりながら洗うこすり洗いなどで、目詰まりを解消して浄化性能を効率的に回復させることができる。
【0011】
中空糸膜11としては、特に限定されず、例えば、セルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系、ポリスルホン系など、各種材科からなる中空糸膜が使用できる。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系の中空糸膜が好ましい。
また、中空糸膜11は、精密濾過膜(MF膜)であることが好ましい。中空糸膜11がMF膜であれば、有機物や雑菌を除去できる。
【0012】
また、中空糸膜11は、その表面が親水性の中空糸膜であってもよく、疎水性の中空糸膜であってもよく、それらが併用されてもよい。表面が親水性の中空糸膜は原水の透過効率が高い。表面が疎水性の中空糸膜は、洗浄などのために一旦中空糸膜束を水から引き上げた後に再度水中に浸漬する際、中空糸膜中に空気が混入してもその空気が膜外に抜け易い。そのため、中空糸膜が空気で閉塞して透過水を集水するのに過剰な力が必要になることを抑制しやすい。
このような効果を求める場合には、中空糸膜11の折り返し側の部分の表面だけを疎水性にしてもよい。中空糸膜11の表面を部分的に疎水性にする方法は、特に限定されず、例えば、中空糸膜表面に疎水性樹脂を塗布する方法が簡便である。前記疎水性樹脂としては、公知のウレタン樹脂やシリコン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0013】
中空糸膜11の孔径、空孔率、膜厚、外径などは、特に限定されない。中空糸膜11の外径は20〜2000μmが好ましく、孔径は0.01〜1μmが好ましく、空径率は20〜90%が好ましく、膜厚は5〜300μmが好ましい。
【0014】
また、中空糸膜11の破断強度は、1N/fil以上が好ましい。破断強度が1N/fil以上であれば、流水洗い、こすり洗いなどの洗浄中に中空糸膜11が破損することを抑制しやすい。
中空糸膜の破断強度は、例えば、以下の方法で測定される。中空糸膜1本を15cm程度に切り取ってサンプルとし、引張試験機(テンシロン引張試験機 オリエンテック RTM−100等)の10cm間隔のチャックに前記サンプルを取り付け、引張速度5cm/分の条件で破断時の応力(単位:N)を測定し、一本あたりの破断強度(単位:N/fil)とする。
【0015】
ケース20の材質としては、機械的強度および耐久性を有するものであればよく、例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル樹脂、ABS樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)などが挙げられる。
【0016】
中空糸膜束をケース20に接着固定するポッティング部32を形成するポッティング材としては、特に限定されず、耐溶剤性や耐水性(膨潤の低減)などの点から、ウレタン樹脂が好ましい。
【0017】
浄水カートリッジ1における濾材10の自由端10a側は、ケース20の保護部21の外側に露出している。
濾材10の有効膜長に対する、ケース20から露出した露出長の割合は、30%以上であり、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。前記露出長の割合が30%以上であれば、目詰まり物質を洗浄除去することで目詰まりを解消し、中空糸膜束の浄化性能を効率的に回復させることができる。
なお、濾材10の有効膜長とは、濾材10におけるポッティング部32から露出した部分の長さを意味する。つまり、前記ケースから露出した露出長の割合は、下式(1)で表される。
X=[(L−L)/(L−L)]×100 ・・・(1)
ただし、前記式(1)中、Xは濾材10の有効膜長に対する、ケース20から露出した露出長の割合、Lは濾材10の全長、Lは保護部21の長さ(濾材10における保護部21で覆われた部分の長さ)、Lはポッティング部32の厚みである。
【0018】
また、濾材10の固定端10b側は、ポッティング部32の自由端10a側の端面32a(以下、「ポッティング端面32a」という。)から少なくとも10mmまでの領域がケース20の保護部21に覆われていることが好ましい。つまり、濾材10における、ポッティング端面32aからケース20の開口端までの距離Lが、10mm以上であることが好ましい。これにより、以下に示す効果が得られる。
ポッティング部32の剛性は、通常、中空糸膜11の剛性よりも大きく、中空糸膜束におけるポッティング部32に埋め込まれている部分は強固に固定されており自由度がほとんどない。そのため、洗浄時などに中空糸膜束が動かされると、該中空糸膜束のポッティング端面32a近傍に大きな力が加わり、その部分で中空糸膜が破損するおそれがある。しかし、濾材10におけるポッティング端面32aから少なくとも10mmまでの領域をケース20の保護部21で覆うことで、中空糸膜束の保護部21で覆われた部分の動きが保護部21内に制限される。これにより、洗浄時などにおいて、中空糸膜束のポッティング部32近傍が過剰に揺動することを抑制でき、中空糸膜束のポッティング端面32a近傍が破損するのを防止することが容易になる。
【0019】
ケース20内における中空糸膜11の充填率は、20〜60%が好ましく、25〜50%がさらに好ましい。
中空糸膜11の充填率が20%以上であれば、充分な浄化性能が得られやすい。中空糸膜11の充填率が60%以下であれば、流水洗いやこすり洗いで、中空糸膜束の内部に位置する中空糸膜11まで充分に洗浄することが容易になるため、より効率的に浄化性能を回復させることができる。中空糸膜11の充填率は、前記範囲内において小さいほど、洗浄による洗浄効果の回復が効率的に行える。そのため、原水に目詰まり物質が多く水質が低いほど、中空糸膜11の充填率を低く設定することが好ましい。
【0020】
ただし、前記中空糸膜11の充填率とは、ポッティング部32における濾材10の固定端10b側の端面32bにおける、ケース20内の中空糸膜収容部の断面積(本実施形態では保護部21の内壁面内の断面積)に対する中空糸膜11の断面積の合計の割合である。センターチューブ31を有する場合、該センターチューブ31の断面積は、ケース20内の中空糸膜収容部の断面積からは除外する。
例えば、この例では、中空糸膜11の充填率(単位:%)は下式(2)で表される。
Y=(A×B)/(C−D)×100 ・・・(2)
ただし、式(2)中、Yは中空糸膜の充填率、Aは中空糸膜の断面積、Bは中空糸膜の本数、Cは保護部21における内壁面内の断面積、Dはセンターチューブの断面積である。
【0021】
ケース20の保護部21の内壁面と、中空糸膜束との間には隙間が設けられていることが好ましい。
ケース20の保護部21の内壁面と中空糸膜束の外側面との距離dは、1mm以上であることが好ましい。前記距離dが1mm以上であれば、流水洗いやこすり洗いによって、中空糸膜束の保護部21内に位置する部分の洗浄が容易になるため、浄化効果をより効率的に回復させることができる。また、前記距離dは3mm以下が好ましい。これにより、ケース20のスペースを有効に使用することができる。
また、ケース20の内径dは、20〜60mmが好ましい。内径dが20mm以上であれば、充分な量の中空糸膜を充填することが容易になる。内径dが70mm以下であれば、濾材10の中心部を充分に洗うことが容易になる。
【0022】
次に、浄水カートリッジ1の製造方法について説明する。ただし、浄水カートリッジ1の製造方法は、以下の方法には限定されない。
まず、図3に示すように、複数の長尺の中空糸膜11Aをラッセル編みし、帯状の中空糸膜束10A(編織物)を作製する。すなわち、複数の中空糸膜11Aを、帯状の中空糸膜束10Aの幅の長さ(濾材10の長さ)毎に複数回折り返し、この折り返し部分を、中空糸膜束10Aの長手方向に延びるチェーンステッチのかがり糸12で結束して中空糸膜束10Aを作製する。
【0023】
次いで、円柱状にした中空糸膜束10Aを、図4(A)に示すように、底部に放射状に延びる複数の溝が形成された有底筒状のケース21Aに収納する。その後、遠心機を用い、遠心力によってセンターチューブ31の流通部31aを通してポッティング材をケース21Aの底部に注入し、ケース21Aと中空糸膜束10Aとの間、および各中空糸膜11A間に流し込んで行き渡らせる。その後、ポッティング材を固化させ、中空糸膜束10Aの底部側を、ケース21Aおよびポッティング材と共に切断し、中空糸膜11Aの固定端側の端部を開口させる。これにより、図4(B)に示すように、濾材10である中空糸膜束が、ポッティング部32にて保護部21に接着固定される。
次いで、保護部21に集水部22を連結し、ケース20を形成することで、浄水カートリッジ1が得られる。
【0024】
濾材10の自由端10a側のかがり糸12は、濾材10の中空糸膜束にそのまま取り付けていてもよく、取り外してもよい。自由端10a側のかがり糸12を取り外せば、各中空糸膜11の自由度が増すので、洗浄による浄化性能の回復がより効率的に行える。
【0025】
浄水カートリッジ1により原水を浄化する場合は、濾材10の外部に原水が供給されるようにする。濾材10の外部に供給された原水は、各中空糸膜11の膜面から該中空糸膜11内に透過し、有機物や雑菌などが濾過されることで取り除かれて浄化される。中空糸膜11内に透過した透過水は、固定端10a側の開口から集水部22の内部22aに集められ、次工程に送られる。
【0026】
浄水カートリッジ1の用途としては、特に、水質の低い原水の浄化を目的とした、複数の浄化手段を備えた浄水器における一次浄化手段として用いることが好ましい。ただし、浄水カートリッジ1の用途は前記用途には限定されない。例えば、浄化手段として浄水カートリッジ1のみを備えた浄水器、二次浄化手段以降の浄化手段として浄水カートリッジ1を用いた浄水器、2つ以上の浄水カートリッジ1を備えた浄水器などの用途であってもよい。
【0027】
浄水カートリッジ1による原水の浄化を行うにしたがって、各中空糸膜11の膜面に目詰まり物質が堆積して濾材10が目詰まりし、浄化性能が低下する。この場合、本実施形態の浄水カートリッジ1は、浄水器から取り外して洗浄することで、目詰まり物質を除去して浄化性能を効率的に回復させることができる。
浄水カートリッジ1を洗浄する方法としては、中空糸膜束の素材に適した方法であればよく、この例の濾材10である中空糸膜束の場合には、流水洗いやこすり洗いなどの洗浄方法が挙げられる。また、表面研磨や、クエン酸、次亜塩素酸などの弱酸性または弱アルカリ性の薬品により洗浄する方法を用いてもよい。
【0028】
従来の浄水カートリッジは、中空糸膜束が全てケース内に収納されていたため、そのままでは中空糸膜に直接流水を当てたり、各中空糸膜を適度に揺動させることができなかった。そのため、流水洗浄やこすり洗いを行うことができず、目詰まり物質を除去して浄化性能を効率的に回復させることが困難であった。
これに対し浄水カートリッジ1は、濾材10の自由端10a側がケース20から露出しており、その露出長の有効膜長に対する割合が30%以上であることで、流水洗いやこすり洗いなどで濾材10の洗浄を簡便かつ効率的に行うことができる。そのため、濾材10表面に堆積した目詰まり物質を除去して浄化性能を効率的に回復させることができる。加えて、中空糸膜11の充填率を20〜60%とすることで、中空糸膜束の内部の中空糸膜11まで容易に洗浄して浄化性能を回復させる効率がさらに向上する。また、濾材10の中空糸膜束におけるポッティング端面30aから少なくとも10mmまでをケース20の保護部21で覆うことで、洗浄時に中空糸膜11が破損することを抑制する効果が向上する。
【0029】
なお、本発明の浄水カートリッジは、前述した浄水カートリッジ1には限定されない。例えば、濾材10の中空糸膜束は、複数の中空糸膜を束ねて二つ折りにし、その折り返し側を自由端、両末端を固定端とした形態には限定されず、一端(先端)を封止した複数の中空糸膜を折り返さずにそのまま束ねて中空糸膜束とし、その先端を自由端として、他端を開口した状態でポッティング部にてケースに接着固定するものであってもよい。
【0030】
中空糸膜の一端(先端)を封止する方法としては、中空糸膜の先端を膜自身の熱融着により封止する方法、中空糸膜の先端に熱可塑性樹脂からなるホットメルト樹脂を塗布して封止する方法、中空糸膜の先端に熱硬化性樹脂を塗布して封止する方法などが挙げられる。
【0031】
[浄水器]
本発明の浄水器は、原水を浄化する浄化手段を複数備えた浄水器であって、一次浄化手段として前述した本発明の浄水カートリッジを有するものである。本発明の浄水器は、一次浄化手段として本発明の浄水カートリッジを備える以外は、公知の形態のものが使用できる。例えば、2つの浄化手段を有する浄水器であって、一次浄化手段として本発明の浄水カートリッジを備え、二次手段として公知の浄水カートリッジを備えた浄水器などが挙げられる。
【0032】
本発明の浄水器における浄化手段の数は、3つ以上であってもよい。また、本発明の浄水器における二次浄化手段以降の浄化手段は、特に限定されず、本発明の浄水カートリッジを用いてもよく、二次浄化手段以降の浄化手段として公知の浄水カートリッジと本発明の浄水カートリッジを併用してもよい。
【0033】
本発明の浄水器は、一次浄化手段として用いる本発明の浄水カートリッジが目詰まりしても、洗浄により目詰まりを解消して浄化性能を効率的に回復させることができる。そのため、特に目詰まり物質の多い水質の低い原水の浄化に適している。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例においては、図1および図2に例示した浄水カートリッジ1を用いて原水の浄化を行い、目詰まりにより浄化性能が低下したときに各種洗浄を行って洗浄効果の回復率を調べた。
【0035】
[露出長の割合、充填率]
濾材10の有効膜長に対する、ケース20外の露出長の割合(単位:%)と充填率(単位:%)は、それぞれ下式(1)、(2)により算出した。
X=[(L−L)/(L−L)]×100 ・・・(1)
Y=(A×B)/(C−D)×100 ・・・(2)
ただし、式(1)中、Xは濾材10の有効膜長に対する、ケース20外の露出長の割合、Lは濾材10の全長、Lは保護部21の長さ(濾材10における保護部21で覆われた部分の長さ)、Lはポッティング部32の厚みである。また、式(2)中、Yは中空糸膜の充填率、Aは中空糸膜の断面積、Bは中空糸膜の本数、Cは保護部21における内壁面内の断面積、Dはセンターチューブの断面積である。
【0036】
[浄化性能の回復率]
洗浄効果は、下式(3)で定義される浄化性能の回復率で評価した。
Z=E/F ・・・(3)
ただし、式(1)中、Zは浄化性能の回復率、Eは洗浄後の濾材10の透過水の流量(L/分)、Fは目詰まりした状態の濾材10の透過水の流量(1.0L/分)である。
【0037】
[実施例1]
中空糸膜11としては、ポリエチレン製の親水処理中空糸膜(外径0.38mm、破断強度2.6N/fil)と、ポリエチレン製の疎水中空糸膜(外径0.365mm、破断強度0.1〜0.3N/fil)とを用いた。前記親水処理中空糸膜24本と前記疎水中空糸膜1本とをかがり糸12で束ねたものを154束作製し、これらを円筒状の保護部21(内径44mm)内でセンターチューブ31(外径5mm)を中心として円柱状に束ねて中空糸膜束とし、ポッティング部32(ポッティング材:ウレタン)にて、固定端10bを開口させた状態で接着固定して濾材10とした。中空糸膜11の充填率は29%であり、中空糸膜束の露出長は60mm、有効膜面積は0.4mであった。中空糸膜束の自由端側は、かがり糸12で結束されたままの状態とした。
中空糸膜束のポッティング端面32aから自由端10a(折り返し側の先端)までの長さ(L−L)は85mmとし、保護部21の軸方向の長さLは25mmとした。つまり、濾材10の有効膜長に対する、ケース20外の露出長の割合を71%とした。
【0038】
原水としては、中国上海の一般水道水を用いた。
前記浄水カートリッジ1を用い、原水の流量を、中空糸膜を透過した透過水の流量が3.0L/分となるように調整し、その流量が目詰まりによって1.0L/分となったときに、浄水カートリッジ1をすすぎ洗いした。
すすぎ洗いは、ビーカーに水道水を500〜1000ML入れ、集水部22を手で持って中空糸膜束の露出領域を水中に浸漬し、浄水カートリッジ1を手で揺らしながら1分間行った。
洗浄による浄化性能の回復率を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
すすぎ洗いした後に水を交換して、すすぎ洗いを5回繰り返した以外は、実施例1と同様にして浄化効果の回復率を求めた。洗浄による浄化性能の回復率を表1に示す。
【0040】
[実施例3〜5]
すすぎ洗いをこすり洗いに変更し、またその洗浄回数を表1に示すとおりにした以外は、実施例1と同様にして浄化効果の回復率を求めた。複数回の洗浄においては、各々の洗浄は、随時水を交換して行った。
こすり洗いは、中空糸膜束を自由端10a側から指で表面の汚れをおとすようにこすりながら、水道水を中空糸膜束の自由端10a側からかけて1分間行った。
洗浄による浄化性能の回復率を表1に示す。
【0041】
[実施例6〜15]
ケース20の保護部21の長さLおよび内径d、濾材10の露出長、およびその割合、ならびに中空糸膜11の充填率を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして浄化効果の回復率を求めた。洗浄による浄化性能の回復率を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
ケース20の保護部21の長さLを変更し、濾材10の露出長の割合を24%に変更した以外は、実施例1と同様にして浄化効果の回復率を求めた。洗浄による浄化性能の回復率を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、中空糸膜束の自由端側をケース外に露出させ、その有効膜長に対するケース外の露出長の割合を30%以上にした実施例1〜15では、すすぎ洗いやこすり洗いによって浄化性能を効率的に回復させることができた。
また、中空糸膜束のポッティング端面32aから5mmまでをケース20で覆った実施例12では、中空糸膜のポッティング端面32a側にわずかに損傷が見られたが、ポッティング端面32aから少なくとも10mmまでをケース20で覆った実施例1〜11および13〜15では、中空糸膜に全く損傷が見られなかった。
また、中空糸膜11の充填率が20%未満の実施例13では、中空糸膜束が倒れることがあったのに対し、充填率が20%以上の実施例1〜12、14、15では中空糸膜束が倒れることがなく、原水の浄化が滞りなくより効率的に行えた。
【0045】
一方、中空糸膜束の有効膜長に対するケース外の露出長の割合が30%未満である比較例1では、洗浄による浄化性能の回復率が1.2であり、すすぎ洗いを行っても浄化性能を効率的に回復させることができなかった。
【符号の説明】
【0046】
1 浄水カートリッジ 10 中空糸膜束 10a 自由端 11 中空糸膜 20 ケース 21 保護部 22 集水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を内部に透過させて浄化する複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の片端が開口した状態でポッティング部にて接着固定されるケースとを備え、
前記中空糸膜束の自由端側が前記ケース外に露出しており、前記中空糸膜束の有効膜長に対する、前記ケースから露出した露出長の割合が30%以上であることを特徴とする浄水カートリッジ。
【請求項2】
前記中空糸膜束における、前記ポッティング部の前記自由端側の端面から少なくとも10mmまでの領域が、前記ケースに覆われている、請求項1に記載の浄水カートリッジ。
【請求項3】
前記ポッティング部における前記中空糸膜の充填率が20〜60%である、請求項1または2に記載の浄水カートリッジ。
【請求項4】
前記ケースの内径が20〜60mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の浄水カートリッジ。
【請求項5】
複数の浄化手段により原水を段階的に浄化する浄水器であって、一次浄化手段として請求項1〜4のいずれか一項に記載の浄水カートリッジを備えた浄水器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−254410(P2012−254410A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129257(P2011−129257)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(504346204)三菱レイヨン・クリンスイ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】