説明

浮き卵入り容器詰め汁物およびその製造方法

【課題】 レトルト殺菌後に浮き卵が液汁中で容易に沈降しない浮き卵入り容器詰め汁物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 乳化油脂を1〜15%添加した溶き卵を汁物の液汁に流し込み浮き卵を形成し、容器に充填・密封した後レトルト殺菌を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液汁中に浮き卵を含み、レトルト殺菌を施したスープ、味噌汁、吸い物等の容器詰め汁物およびその製造方法に関し、特にレトルト殺菌後の常温保存中に浮き卵が容易に沈降しない浮き卵入り容器詰め汁物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スープや味噌汁等の汁物に卵を落とし、浮き卵を形成させることは、日常の食生活においては通常行われることであるが、液汁中に浮き卵を形成しレトルト殺菌を施した容器詰め汁物においては、レトルト殺菌中に卵が容器の底に沈んでしまい、レトルト殺菌後の常温保存中に容器内の液汁中で浮き卵を均一に浮かしておくことは不可能であった。また、液汁中に浮き卵を形成してレトルト殺菌を施すと、卵に熱がかかりすぎるため、卵の浮き身が固くなり食感が悪くなってしまう。さらに、レトルトにより卵の浮き身が固くなると、製造や流通段階で卵の浮き身が細かく砕けてしまい商品価値が下がることも指摘されている。これらの理由により、浮き卵を含む容器詰め液汁製品はこれまで消費者に提供されていない。したがって、浮き卵入り容器詰め汁物を望む消費者は、容器詰め汁物製品を購入後消費する際に自ら浮き卵を形成させる必要があった。すなわち、容器詰め汁物を開缶または開封後に鍋等に汁物を移し、加熱後、予め生卵を割ってかきまぜておいた溶き卵を汁物に注ぎ込み、攪拌して浮き卵を形成させた後に食するという手間をかける必要があり面倒であった。
【0003】
従来かき卵については、特許文献1において、粘性が付与された卵液を粘性が付与された低pHの熱水に投入し、次いで熱水内でかき混ぜ処理を行う、かき卵の製造方法が開示されている。しかしこの方法は、焦げがなく、卵独特の風味および適度に凝固した卵のやわらかさとなめらかさを有するかき卵を容易にかつ安定的に得ることを目的とするものであって、浮き卵入り容器詰め汁物においてレトルト殺菌後に浮き卵が容器の底に沈んでしまうという本発明の課題の解決を示唆する記載は一切ない。また、特許文献1には、卵液に粘性を付与するための増粘剤としてキサンタンガムなどのガム質または澱粉を添加することが記載されているが、キサンタンガムなどのガム質を添加すると、ガム特有のぬるぬる感があり、好ましくなく、また澱粉は卵に加えると沈殿することが認められ、加工澱粉を加えると卵が持つアミラーゼで分解されることが問題視されている。
【特許文献1】特開平9−252748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点にかんがみなされたものであって、レトルト殺菌後の常温保存中においても浮き卵が液汁中で容易に沈降せず、消費者が消費の際に自ら浮き卵を形成させる手間をかける必要がない浮き卵入り容器詰め汁物およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明者等は鋭意研究と実験を重ねた結果、汁物に流し込む溶き卵に乳化油脂を添加しておくと、意外なことにその後汁物にレトルト殺菌を施しても浮き卵は容器の底に沈降することがなく、レトルト殺菌後の常温保存中でも液汁内で容易に沈降しないで浮かんでおり、また浮き卵の食感や弾力も改善されることを発見し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、上記目的を達成する本発明の浮き卵入り容器詰め汁物の製造方法は、卵原料に乳化油脂を1〜15%添加した溶き卵を汁物の液汁に流し込み浮き卵を形成し、容器に充填・密封した後レトルト殺菌を行うことを特徴とする。
【0007】
卵原料としては、全卵、卵黄、卵白またはこれらの任意の混合物を使用する。
【0008】
本発明の他の側面においては、製品完成後の浮き卵入り容器詰め汁物を開封して、内容物である汁物を室温(10〜25℃)においてJ1S R 3505によって規定された呼び容量500mlのメスシリンダーに注入したときの体積をaとし、メスシリンダーに注入してから30分後に浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛を読み体積bとした場合に、b/aが0.7以上であることを特徴とする容器詰め汁物の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、乳化油脂を1〜15%添加した溶き卵を汁物の液汁に流し込み浮き卵を形成し、容器に充填・密封した後レトルト殺菌を行うことにより製造された浮き卵入り容器詰め汁物であって、製品完成後の浮き卵入り容器詰め汁物を開封して、内容物である汁物を室温(10〜25℃)においてJ1S R 3505によって規定された呼び容量500mlのメスシリンダーに注入したときの体積をaとし、メスシリンダーに注入してから30分後に浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛を読み体積bとした場合に、b/aが0.7以上であることを特徴とする浮き卵入り容器詰め汁物が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施態様において、乳化油脂は、リゾリン脂質、遊離脂肪酸およびタンパク質が結合してなるタンパク複合体を乳化剤として乳化させた乳化油脂である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乳化油脂を1〜15%添加した溶き卵を汁物の液汁に流し込み浮き卵を形成し、容器に充填・密封した後レトルト殺菌を行うことにより、レトルト殺菌中に卵が沈降したり固まることが防止でき、レトルト殺菌後の常温保存中に浮き卵が細かく砕けることなく沈降しないで液汁中に浮かんでいるので、消費者は容器詰め汁物製品を開封した後自ら生卵を割って液汁中に溶き卵を流し込んで浮き卵を作る手間が省け、容器を暖めるだけで浮き卵入り汁物を食することができる。
また、卵の浮き身の食感や弾力も顕著に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書においては、乳化油脂等の添加比率は重量%で示す。
本発明の方法は、コンソメ、ポタージュ等のスープ、味噌汁、吸い物等洋風および和風の汁物に浮き卵を含ませレトルト殺菌が施された容器詰め汁物に広く適用することができる。
【0013】
容器としてはレトルトパウチ、食缶のほかレトルト加熱が可能なすべての容器を使用することができる。
【0014】
汁物に添加する溶き卵は、汁物の性質により、卵全体でもよく、卵黄と卵白の割合を適宜調節したものでもよく、あるいは卵黄のみもしくは卵白のみを使用してもよい。
【0015】
本発明の方法の特徴は、溶き卵の重量に対し乳化油脂を1〜15重量%添加することである。
【0016】
乳化油脂は、水相原料と油相原料をグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質、リゾリン脂質または遊離脂肪酸等の乳化剤、あるいは卵白アルブミン、ラクトアルブミン、カゼインのナトリウム塩もしくはカルシウム塩、大豆タンパク質、ゼラチン等の乳化性を有するタンパク質、あるいは前記乳化剤とタンパク質の複合体であるタンパク複合体等により乳化したものである。
【0017】
乳化油脂には、水相中に油滴を均一に分散させた水中油型の乳化油脂と、油相中に水滴を均一に分散させた油中水型の乳化油脂の2種類が一般に食品用の乳化油脂として販売されており、本発明においては、そのいずれを用いてもよいが、卵に分散させやすいという観点から、水中油型の乳化油脂が好ましい。
【0018】
さらに、レトルトのような加圧加熱等を施しても分離し難く耐熱性に優れていることから、特許第2618551号に開示のリゾリン脂質、遊離脂肪酸およびタンパク質の複合体であるタンパク複合体で水中油型に乳化させた乳化油脂がより好ましい。なお、このタンパク複合体で水中油型に乳化させた乳化油脂は市販されており、たとえば、キユーピータマゴ株式会社製の乳化油脂製品であるヨークランH−1(商標)等が挙げられる。
【0019】
前記添加量範囲の乳化油脂を溶き卵に添加して攪拌することにより、卵の中にこれらの物資が分散し、卵タンパク質の加熱凝固力を下げるため卵がレトルト加熱により硬くなり過ぎるのを防止し、攪拌や送り等による物理的な影響を受けにくくなり、最終的に浮き身の崩れの少ない品質のよい浮き卵がレトルト殺菌後も液汁中で容易に沈降しない汁物が得られる。また乳化油脂はその中に含まれる油分による浮力により浮き卵の沈降を防止する効果が優れている。
【0020】
乳化油脂の添加量が1%未満ではこのような効果を得ることができず、一方乳化油脂の添加量が15%を超えると、卵のつながりが悪くなり、大きくきれいな浮き身を作ることが難しくなる上に、浮き身が柔らかくなり過ぎて簡単に壊れやすくなり、また浮き身の物理的耐性が弱くなる。乳化油脂のより好ましい添加量範囲は2%〜13%、もっとも好ましい添加量範囲は3〜12%である。
【0021】
本発明の方法により浮き卵入り容器詰め汁物を製造するには、調理した具入りまたは具なしのスープ、味噌汁、吸い物等の汁物に上記の方法により調整した溶き卵を流し込み攪拌することにより浮き卵を形成した後浮き卵入り汁物を容器に充填・密封し、常法によりレトルト殺菌することにより製品とする。調理した汁物は卵の添加による硫化物臭の発生を防止するために溶き卵の注入前に液汁のpHを5.0〜8.0に調整しておくことが好ましい。
【0022】
製品の液汁中で浮き卵が沈降しないで浮いているか否かを判断する目安としては、製品完成後の浮き卵入り容器詰め汁物を開封して、内容物である汁物を室温(10〜25℃)においてJ1S R 3505によって規定された呼び容量500mlのメスシリンダーに注入したときの体積をaとし、メスシリンダーに注入してから30分後に浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛を読み体積bとした場合に、b/aが0.7以上であるときに浮き卵が沈降せずに浮いていると認定することができる。
【実施例】
【0023】
実施例1
鶏がら、ネギ、ショウガ、砂糖、塩、醤油、香辛料、昆布だし、ごま油、動物性油脂、澱粉、イオン交換水を用い、スープ9000gを得た。このスープに食品添加物用の炭酸水素ナトリウム7.5gを加えてpHを7に調整した。スープにかに缶詰の固形分450gを加えた。
【0024】
生卵(卵黄と卵白)15個分にキユーピータマゴ株式会社製の乳化油脂製品であるヨークランH−1(商標)を生卵の重量の10%量(86.7g)添加してよくかき混ぜて溶き卵を得た。約90℃までスープを加熱し、ヨークランH−1を添加した溶き卵を溶き入れ、スープ中に浮き卵を形成させた。
【0025】
浮き卵入りのスープを東洋製罐株式会社製の電子レンジ対応自動蒸気抜き機構付きレトルトパウチ(E−RP(商標))に180g充填した。窒素ガスをフローしながらパウチをシールし密封した。シャワー等圧殺菌・シャワー冷却方式で121.1℃で10分間殺菌した。殺菌値はF=8.1であった。
【0026】
このスープを500ml容のメスシリンダーに2袋のパウチから全量を注ぎ入れたところ360mlであった。30分間放置後、浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛は体積346mlであった。346÷360=0.96であり、浮き卵は容易に沈降することなく浮いていることが確かめられた。
【0027】
比較例1
実施例1と同様の操作によりスープ9000gを得た。このスープにかに缶詰の固形分450gを加えた。
【0028】
生卵のみからなる溶き卵867gを約90℃まで加熱したスープに溶き入れ浮き卵を形成させた。溶き卵入りのスープをレトルトパウチE−RPに180g充填した。窒素ガスをフローしながらシールし密封した。シャワー等圧殺菌・シャワー冷却方式で121.1℃で10分間殺菌した。このスープを500ml容のメスシリンダーに2袋のパウチから全量を注ぎ入れたところ360mlであった。30分間放置後浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛は体積214mlであった。214÷360=0.594であり、浮き卵は沈降し、本発明による乳化油脂の添加による効果が確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵原料に乳化油脂を1〜15%添加した溶き卵を汁物の液汁に流し込み浮き卵を形成し、容器に充填・密封した後レトルト殺菌を行うことを特徴とするレトルト殺菌後に浮き卵が容易に沈降しない浮き卵入り容器詰め汁物の製造方法。
【請求項2】
前記卵原料として、全卵、卵黄、卵白またはこれらの任意の混合物を使用することを特徴とする請求項1に記載の容器詰め汁物の製造方法。
【請求項3】
製品完成後の浮き卵入り容器詰め汁物を開封して、内容物である汁物を室温(10〜25℃)においてJ1S R 3505によって規定された呼び容量500mlのメスシリンダーに注入したときの体積をaとし、メスシリンダーに注入してから30分後に浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛を読み体積bとした場合に、b/aが0.7以上であることを特徴とする請求項1に記載の容器詰め汁物の製造方法。
【請求項4】
前記乳化油脂が、リゾリン脂質、遊離脂肪酸およびタンパク質が結合してなるタンパク複合体を乳化剤として乳化させた乳化油脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰め汁物の製造方法。
【請求項5】
乳化油脂を1〜15%添加した溶き卵を汁物の液汁に流し込み浮き卵を形成し、容器に充填・密封した後レトルト殺菌を行うことにより製造された浮き卵入り容器詰め汁物であって、製品完成後の浮き卵入り容器詰め汁物を開封して、内容物である汁物を室温(10〜25℃)においてJ1S R 3505によって規定された呼び容量500mlのメスシリンダーに注入したときの体積をaとし、メスシリンダーに注入してから30分後に浮き卵の最上部が存在する箇所の目盛を読み体積bとした場合に、b/aが0.7以上であることを特徴とする浮き卵入り容器詰め汁物。
【請求項6】
前記乳化油脂が、リゾリン脂質、遊離脂肪酸およびタンパク質が結合してなるタンパク複合体を乳化剤として乳化させた乳化油脂であることを特徴とする請求項5に記載の容器詰め汁物。


【公開番号】特開2006−129803(P2006−129803A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323619(P2004−323619)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】