説明

浮上分離装置

【課題】本発明の目的は、小型な装置設備で高速処理が可能な浮上分離装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、被処理水中の被処理物質に気泡を付着させ、被処理物質を浮上物として分離する浮上分離装置であって、浮上槽10と、浮上槽10を垂直方向上部20a及び下部20bに区画する整流板22と、上部20aに被処理水を流入させる流入部12と、浮上槽10に設けられ、前記被処理物質が分離された処理水を下部20bから集水する集水部10cとを有する。整流板22は、前記処理水を通水させる複数の整流孔22aが形成されると共に、流入部12の壁から浮上槽10の周壁まで伸びており、流入部12は、上部20aの中心部で開口する筒状体であり、開口部26aは、上方に向けてテーパー状に広がっており、開口部26aから上部20aに被処理水を流入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水中の被処理物質に気泡を付着させ、被処理物質を浮上物として分離する浮上分離装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理水中に含まれるSS成分、油分等の被処理物質を除去する方法として、被処理水と気泡とを混合して、浮上槽に供給し、被処理物質に気泡を付着させて浮上槽の水面に浮上させ、被処理物質を分離する浮上処理が知られている。なお、処理効率を上げるために、被処理水を浮上槽に供給する前に、凝集剤を添加して、被処理水中に含まれる被処理物質をフロック化させることも行われている。
【0003】
図8は、従来の浮上分離装置の構成を示す模式図である。この浮上分離装置4において、浮上槽70には、槽体を構成する外周壁72の内側に、下端が槽内中間部に至る内周壁74が外周壁72の内周に沿って設けられている。外周壁72及び内周壁74は円筒形である。外周壁72と内周壁74との間は、内周壁74によって浮上物が進入するのが防止され、処理水が集水される処理水室76が形成されている。浮上槽70内の中央部分には、上部および下部が開放されたガイド筒78が設けられ、このガイド筒78内には、浮上槽70の底部70aの中央から延設され、ガイド筒78内で開口する導入管80が設けられている。導入管80には、浮上槽70外にて被処理水流入管82が接続されている。また、被処理水流入管82には、加圧水流入管84が接続され、ここから加圧タンク等で高圧下で空気が溶解した加圧水が供給されている。
【0004】
浮上分離装置4の運転方法を説明する。例えば、加圧水流入管84を介して、処理水に高圧下において空気を溶解させた加圧水を被処理水流入管82に供給し、加圧水と被処理水が混合された混合液が被処理水流入管82を通り、導入管80を介し、浮上槽70のガイド筒78内に供給される。浮上槽70内では、加圧水中に溶解していた気体が気泡として析出し、被処理水中に含まれる被処理物質に付着し、被処理物質が浮上分離される。被処理物質が除去された処理水は、処理水室76の下端部76aから処理水室76を通り、浮上槽70の外周壁72の上端の越流堰をオーバーフローして調整槽86に供給され、ここに接続されている処理水排出管88により系外に排出される。
【0005】
ここで、図8に示す浮上分離装置4では、導入管80、ガイド筒78を通って浮上槽70内に流入した被処理水は、浮上槽70の内周壁74に向かって流れ、内周壁74に達すると、内周壁74に沿って、下降する。この下降流の流速が速いと、浮力が十分でない被処理物質が、下降流に伴い内周壁74の下端を越え処理水室76に流れ込んで、処理水の水質を悪化させる。このように、内周壁74に沿った下降流が早くなるのは、浮上槽70内に、浮上分離処理に使用されていない部分(例えば、図8に示す網掛け部)が、多く存在するからであり、被処理物質の除去において、浮上槽70全体を有効に使用することができないと、浮上分離が効率的に行えないという問題がある。
【0006】
図8に示す浮上分離装置4の一般的な水面積負荷(浮上槽70の水平断面積に対する処理水量(線速度LV))は、5〜10m/hである。図8に示す浮上分離装置4では、LVを上記範囲より高くすると、処理水の水質が悪化しやすい。
【0007】
また、特許文献1には、図8に示す浮上分離装置4より、LVを高くすることが可能な浮上分離装置が提案されている。図9は、特許文献1の浮上分離装置の構成を示す模式図である。図9に示す浮上分離装置5において、浮上槽90の周壁90aは矩形であり、浮上槽90内は、上部開放の隔壁92a、下部開放の隔壁92bにより、被処理水が縦方向に迂回して流れる三つの室、第1の室94、第2の室96、第3の室98に区画されている。また、第2の室96の隔壁92aと隔壁92bとの間には、整流板100が水平に設置されている。整流板100には、複数の整流孔100aが形成されており、第2の室96から第3の室98に至る水は整流板100を通過する。第1の室94には、被処理水流入管102に接続されている。また、加圧水流入管104の一端は第1の室94に接続され、他端は空気溶解タンク105の出口に接続されている。第3の室98には、処理水排出管106が接続されている。空気溶解タンク105と処理排出管106との間には、ポンプ110を介して連通管111が接続され、処理水排出管106を通る処理水の一部が連通管111を通り、空気溶解タンク105に供給される。空気溶解タンク105では、処理水に空気を溶解させ、加圧水が製造される。
【0008】
このような浮上分離装置5において、被処理水流入管102から第1の室94に流入した被処理水、空気溶解タンク105から加圧水流入管104を通り第1の室94に流入した加圧水は、液面に向かって上昇して、隣接する第2の室96に流入する。第2の室96では、被処理水中の被処理物質が浮上物として液面上に浮かび、下部に処理水が得られる。このような浮上分離処理された処理水は、整流板100の整流孔100aを通り、第3の室98から処理水排出管106へ排出される。
【0009】
図9に示す浮上分離装置5でも、第2の室96の隔壁92bに沿って下降する被処理水の下降流の流速は速くなる。しかし、図9に示す浮上分離装置5には、整流板100が設けられているため、整流板100の整流効果により、隔壁92bに沿って下降する被処理水の下降流がそのままの勢いで、第3の室98側へ流れることが防止される。その結果、被処理物質が下降流と共に第3の室98側へ流れ込むこと等が抑制され、図9に示す浮上分離装置5は、図8に示す浮上分離装置4より高容積負荷での処理が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0115881号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図9に示す浮上分離装置5は、浮上槽90の周壁90aが矩形であって、周壁90aの一端側に設けられる第1の室94から被処理水が供給され、他端側に設けられる第3の室98から処理水が排出される構造である。このような構造において、第1の室94から隔壁92bへ流れる被処理水の流れ(すなわち、浮上槽の液面を流れる被処理水の流れ)は、図8に示す浮上分離装置において、ガイド筒78から内周壁74に向かって拡がりながら流れる被処理水の流れ(すなわち、浮上槽の液面を流れる被処理水の流れ)より速い流速となる。
【0012】
また、浮上分離装置の負荷を上げれば、浮上槽90の液面を流れる被処理水の流速はさらに速くなると共に、隔壁92bに沿って下降する下降流の流速も速くなる。その結果、隔壁92b側の整流板100に、速い流速の下降流が衝突することになり、整流板100の整流効果を充分に得ることが難しくなり、被処理物質が下降流と共に第3の室98側へ流れ込むこと等を充分に抑制することができず、処理水の水質が悪化しやすくなる。したがって、図9に示すような浮上分離装置5でも、処理水の水質を悪化させることなく処理量を増加するには、装置を大型化する必要がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、小型な装置設備で高速処理が可能な浮上分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、被処理水中の被処理物質に気泡を付着させ、被処理物質を浮上物として分離する浮上分離装置であって、浮上槽と、前記浮上槽を垂直方向上部及び下部に区画する整流板と、前記上部に被処理水を流入させる流入部と、前記浮上槽に設けられ、前記被処理物質が分離された処理水を前記下部から集水する集水部とを有し、前記整流板は、前記処理水を通水させる複数の整流孔が形成されると共に、前記流入部の壁から前記浮上槽の周壁まで伸びており、前記流入部は、前記上部の中心部で開口する筒状体であり、当該開口部は、上方に向けてテーパー状に広がっており、当該開口部から前記上部に被処理水を流入させる。
【0015】
また、前記浮上分離装置において、前記被処理物質のうち前記整流板上に沈殿した沈殿物を前記整流孔から下方に排出する整流板スクレーパーを備えることが好ましい。
【0016】
また、前記浮上分離装置において、前記整流板スクレーパーは、前記筒状体に固定され、前記筒状体が該筒状体の中心軸を回転軸として回転することによって、前記整流板スクレーパーが前記整流板上を回転することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の浮上分離装置では、小型な装置設備で高速処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】本実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式上面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す上面模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す一部拡大模式断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式断面図である。
【図7】実施例1〜3における処理水濁度の結果を表す図である。
【図8】従来の浮上分離装置の構成を示す模式図である。
【図9】特許文献1の浮上分離装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式断面図である。図2は、本実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式上面図である。図1に示す浮上分離装置1は、浮上槽10、流入部12、排出部14、整流板22を備える。
【0021】
図1及び図2に示すように、浮上槽10の周壁10aは円筒形とされ、浮上槽10の底部10bは中央に向かって低位となるホッパ状とされている。また、底部10bの中央には、被処理物質のうちの沈殿物を溜めるピット18が設けられている。ピット18には、不図示の沈殿物排出口が設けられ、沈殿物排出管19が接続されている。浮上槽10の周壁10aは、矩形とされてもよい。しかし、浮上槽10の周壁10aを円筒形とすることにより、浮上槽10の中心部に配置される流入部12の開口部(開口部については後述する)から周壁10aまで、被処理水が拡がりながら流れることになる。従って、流入部12から出るときの流速は比較的速いが、周壁10aに当たる際の表面部の流れは比較的遅くなる。その結果、周壁10aのある一部分で急速な下降流が生じることもなく、急速な下降流により生じる処理水の水質の悪化を効果的に抑制することができる。
【0022】
浮上槽10には、集水部10cが設けられている。集水部10cは、被処理物質を除去した処理水を後述する浮上槽10の下部20bから集水するものであり、浮上槽10の下部20b側、すなわち整流板22より垂直方向下方に配置される。
【0023】
また、浮上槽10には、被処理物質のうち、液面に浮上した浮上物23(いわゆるスカム)を排出するための浮上物ポット24が設けられている。なお、通常の場合には、浮上槽10の表面上に浮上物を掻き寄せるスキマーが設けられており、浮上物を浮上物ポット24に掻き寄せる。また、浮上物ポット24は、掻き寄せられてくる浮上物が水面上から浮上物ポット24内に落下するように、その浮上槽10側の境界部分に水面下から水面上に至るスロープを有することが好適である。
【0024】
浮上槽10内には、浮上槽10を垂直方向の上部20a及び下部20bに区画する整流板22が設けられている。そして、整流板22には、処理水を通水させる複数の整流孔22aが形成されている。整流板22は一体構造であってもよいが、複数に分割したものであってもよい。
【0025】
図3は、本発明の他の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す上面模式図である。図3に示すように、4つの扇型状分割体25により、浮上槽10を上部20a及び下部20bに区画する整流板22が形成されている。なお、扇型状分割体25の枚数は特に制限されるものではない。整流板22の機能については、後述する。
【0026】
流入部12は、ガイド筒26と、ガイド筒26内に設けられる導入管28と有する。導入管28には、被処理水流入管30が接続され、導入管28は浮上槽10の底部10bの中央に形成されたピット18から浮上槽10内に延設されている。被処理水流入管30には加圧水流入管32が接続されている。浮上槽10内に設けられるガイド筒26は、底部10bや、周壁10aにフレームなどで固定される。また、ガイド筒26を上方から吊り下げてもよい。ガイド筒26を設けることにより、導入管28から供給される被処理水及び加圧水を浮上槽10の中央部分から均一に流入させることができる。
【0027】
本実施形態の流入部12は、浮上槽10の上部20aの中心部で開口しており、当該開口部から浮上槽10の上部20aに(加圧水を混合させた)被処理水を供給させる。ここで、本実施形態のように流入部12が、ガイド筒26と導入管28から構成されている場合、少なくともガイド筒26の開口部26aが上部20aの中心部で開口していればよい。本実施形態の流入部12は、必ずしもガイド筒26を備える必要はない。例えば、流入部12が導入管28のみから構成されていてもよい。この場合、導入管28の開口部28aが上部20aの中心部で開口している必要がある。いずれにしても、被処理水は、浮上槽10の上部20aの中心部に流入させる必要がある。浮上槽10の上部20aの水平断面における中心から周壁10aまでの距離に対し、中心から1/3以内の領域に流入することが好ましい。
【0028】
流入部12の開口部(図1ではガイド筒26の開口部26a)の位置は、浮上槽10の上部20a、すなわち整流板22より垂直方向上方であれば特に制限されるものではない。しかし、流入部12の開口部の位置が液面付近にあると、流入部12の開口部から供給される被処理水が液面に噴き上げて、液面を乱し、液面に浮上した浮上物23の再沈降を招く虞がある。
【0029】
図4は、本実施形態に係る浮上分離装置の一部拡大模式断面図である。ガイド筒26は、整流板22に設けられた嵌挿孔に挿入されている。整流板22の嵌挿孔とガイド筒26との間に隙間が形成される場合には、当該隙間から被処理水が流れ、処理水の水質を悪化させないように、当該隙間を塞ぐ止水板34が設けられることが好ましい。止水板34はボルト及びナット等の締結具36により整流板22に固定されている。また、導入管28は、ガイド筒26に設けられた嵌挿孔に挿入されている。ガイド筒26の嵌挿孔と導入管28との間に隙間が形成される場合には、上記同様に当該隙間を塞ぐ止水板34が設けられることが好ましい。止水板34はボルト及びナット等の締結具36によりガイド筒26に固定されている。なお、ガイド筒26の外周にフランジを設け、このフランジに整流板22の端部を固定することも好適である。
【0030】
排出部14は、処理水取出管38、水位調整槽40、処理水排出管42を備える。処理水取出管38の一端は、浮上槽10に設けられた集水部10cに接続されており、処理水取出管38の他端は、水位調整槽40の入口に接続されている。また、水位調整槽40の出口には処理水排出管42が接続されている。
【0031】
次に、本実施形態に係る浮上分離装置による運転方法の一例を説明する。まず、被処理水流入管30から被処理水を流入させると共に、加圧水流入管32から高圧下で気体を溶解させた加圧水を流入させる。加圧水は、処理水の一部を加圧タンクに導入し、ここにおいて高圧下で空気を溶解させて生成する。
【0032】
加圧水流入管32を通る加圧水は、被処理水流入管30を通る被処理水に混合される。被処理水及び加圧水からなる混合液は被処理水流入管30から、導入管28に供給される。被処理水及び加圧水は導入管28を介し、導入管28の開口部28aからガイド筒26内に供給される。ガイド筒26内に供給された(浮上槽10の液面に向かって上昇する)被処理水及び加圧水は、ガイド筒26の開口部26aから浮上槽10の上部20aに流入する。浮上槽10の上部20a(及びガイド筒26内)は、大気圧状態であるため、加圧水に溶解していた気体が気泡として析出し、被処理水中の被処理物質(SS成分、油分等)に付着し、被処理物質が浮上分離される。このようにして浮上した被処理物質(浮上物23)は、浮上物ポット24に収集される。浮上物23の収集は、通常、後述する浮上物スキマーによって行われるが、その他の方法によって行われてもよい。浮上物ポット24に収集された浮上物23は、浮上物ポット24の排出口に接続された浮上物排出管44から排出される。気泡の発生方法としては、上記のように加圧水を用いる方法に制限されるものではなく、その他に、例えば、界面活性剤等の気泡発生剤を被処理水に添加する方法等であってもよい。また、被処理水自体を空気溶解タンクに導入し、ここで被処理水に直接空気を溶解する全量加圧方式を採用してもよい。
【0033】
ガイド筒26の開口部26aから浮上槽10の上部20aに供給された被処理水が、浮上槽10の周壁10aに達すると、周壁10aに沿って流れる下降流となる。そこで、本実施形態では、ガイド筒26の開口部26aが浮上槽10の上部20aの中心部において垂直方向上方に開口するとともに、浮上槽10の周壁10aを円筒状にすることが好ましい。上記構成によって、図2に示すように被処理水は放射状に拡がりながら流れる分散流れとなって、浮上槽10の周壁10aに達する。その結果、開口部26aから供給された被処理水の流れは、浮上槽10の周壁10aに到達するまでに緩やかになり、周壁10aに沿って流れる被処理水の下降流も緩やかになる。したがって、急速な下降流によって生じる処理水の水質の悪化は抑制される。
【0034】
ここで、流入部12の開口部(図1ではガイド筒26の開口部26a)の形状は特に制限されるものではないが、流入部12の開口部から供給される被処理水が放射状に分散し易くなる点で、その上部において上方に向けてテーパ状に広がっていることが好ましい。また、流入部12の開口部の水平断面積は、特に制限されるものではないが、流入部12を流れる被処理水の流速を適切に制御することができる点で、好ましくは浮上槽10の水平断面積の1/30〜1/3の範囲、より好ましくは浮上槽10の水平断面積の1/20〜1/8の範囲とするのがよい。流入部12の開口部の水平断面積が浮上槽10の水平断面積の1/30より小さいと、流入部12から出る際の被処理水の流速が速くなるため、被処理水は浮上槽10の表層部を流れ、開口部から浮上槽10の周壁10aに向かって流れる被処理水の流速も速くなり、浮上槽10の液面に乱れが生じやすく、液面に浮上した浮上物23の再沈降を招く虞がある。また、浮上槽10の周壁10aに沿って流れる被処理水の下降流も速くなるため、整流板22の全体を有効に利用することができず、その整流効果が減少し、処理水の水質が悪化する可能性がある。また、流入部12の開口部の水平断面積が浮上槽10の水平断面積の1/3より大きいと、浮上槽10の面積を確保することが難しくなり、浮上槽10の水面積負荷が大きくなり、効率的な浮上処理が行えなくなる。
【0035】
浮上槽10の上部20aにおいて、被処理物質が除去された処理水は、整流板22に設けた整流孔22aを通り、浮上槽10の下部20bに供給される。整流板22を設けることにより、上部20aから下部20bへ流れる処理水の流れは整流されるため、周壁10aに沿って流れる被処理水の下降流がそのままの流速で、下部20bへ流れることが防止される。すなわち、上部20aから下部20bへ流れる処理水の流速は、整流板22の整流効果により、どの場所でもほぼ均一とされる。その結果、浮上槽10の上部20a全体を浮上分離処理に使用することが可能となり、効率的に気泡を被処理物質に付着させることができるため、処理能力を向上させることができる。また、気泡が付着しても浮上することができない比重の重い被処理物質(沈殿物)や、気泡が十分付着しなかった被処理物質が、周壁10a下方の底部10bに局所的に沈殿することがなく、底部10b全体に沈殿する。このように、被処理物質の除去において、浮上槽10全体を有効に使用することができるため、装置の小型化、浮上分離槽装置の高速処理が可能となる。
【0036】
整流板22に形成された整流孔22aを通って、浮上槽10の下部20bに供給された処理水は、浮上槽10の集水部10cから処理水取出管38を通り、水位調整槽40に供給される。水位調整槽40には可動堰41が設けられている。この可動堰41の高さを調整することで、浮上槽10における水位を調整でき、浮上槽10の水位が浮上物23の浮上物ポット24への排出に適した水位に調整される。そして、処理水が水位調整槽40の出口から処理水排出管42へ排出される。なお、可動堰41を間欠的に上昇させ、これによって浮上槽10内の浮上物23を浮上物ポット24へオーバーフローさせることも可能である。
【0037】
図5は、本発明の他の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式断面図である。図5に示すように、浮上分離装置2は、浮上槽46、流入部12、排出部54、整流板22を備える。図5に示す浮上分離装置2において、図1に示す浮上分離装置1と同様の構成については同一の符合を付している。
【0038】
浮上槽46には、外周壁48と、外周壁48の内周に沿って形成される内周壁50とが設けられている。浮上槽46の外周壁48及び内周壁50は、上記説明したように矩形状より円筒形とされることが好ましい。浮上槽46の底部46aは中央に向かって低位となるホッパ状とされている。また、浮上槽46の底部46aの中央には、沈殿物を溜めるピット18が設けられている。
【0039】
浮上槽46の外周壁48と内周壁50との間には、処理水が集水される処理水室52が形成されている。処理水室52の集水部52aは、整流板22により区画された浮上槽46の下部20bから処理水を集水させるために、浮上槽46の下部20b側、すなわち整流板22より垂直方向下方に配置される。
【0040】
浮上槽46内には、浮上槽46を垂直方向の上部20a及び下部20bに区画する整流板22が設けられている。そして、整流板22には、処理水を通水させる複数の整流孔22aが形成されている。流入部12は、ガイド筒26と、ガイド筒26内に設けられる導入管28と有する。導入管28には、被処理水流入管30が接続され、導入管28は浮上槽46の底部46aの中央に形成されたピット18から浮上槽10内に延設されている。被処理水流入管30には加圧水流入管32が接続されている。浮上槽46内に設けられるガイド筒26は、装置外部から不図示のフレーム等により浮上槽46内に固定されている。本実施形態では、流入部12は、浮上槽46の上部20aの中心部において垂直方向上方に開口しており、当該開口部から浮上槽46の上部20aに被処理水が供給される。
【0041】
排出部54は、調整槽56、処理水排出管58を備える。調整槽56は、浮上槽46の外周壁48の外周に設置されており、調整槽56の出口には処理水排出管58が接続されている。
【0042】
次に、本実施形態に係る浮上分離装置2による運転方法の一例を説明する。まず、被処理水流入管30から被処理水を流入させると共に、加圧水流入管32から加圧水を流入させる。加圧水流入管32を通る加圧水は、被処理水流入管30を通る被処理水に供給される。被処理水及び加圧水は被処理水流入管30を通過し、導入管28に供給される。被処理水及び加圧水は導入管28を通過し、導入管28の開口部28aからガイド筒26内に供給される。ガイド筒26内を通る(浮上槽46の液面に向かって上昇する)被処理水及び加圧水は、ガイド筒26の開口部26aから浮上槽46の上部20aに供給される。本実施形態では、ガイド筒26の開口部26aが浮上槽46の上部20aの中心部において垂直方向上方に開口しているため、被処理水は放射状に分散される流れとなって、浮上槽46の内周壁50に達する。浮上槽46の上部20a(及びガイド筒26内)では、加圧水が大気圧状態となり、加圧水に溶解していた気体が気泡として析出されるため、被処理水中の被処理物質(SS成分、油分等)に付着し、被処理物質が浮上分離される。浮上分離した浮上物23は、浮上槽46に設けられる不図示の浮上物ポットに収集される。浮上物23の収集は、通常、後述する浮上物スキマーによって行われるものであるが、その他の方法により行われてもよい。浮上物ポットに収集された浮上物23は、浮上物ポットの排出口に接続された不図示の浮上物排出管から排出される。
【0043】
浮上槽46の上部20aにおいて、被処理物質が除去された処理水は、整流板22に設けた整流孔22aを通り、浮上槽46の下部20bに供給される。整流板22を設けることにより、上部20aから下部20bへ流れる処理水の流れは整流される。整流板22に形成された整流孔22aを通って、浮上槽46の下部20bに供給された処理水は、浮上槽46の集水部52aから処理水室52を通り、浮上槽46の外周壁48をオーバーフローして調整槽56に供給される。調整槽56に供給された処理水は、調整槽56の出口から処理水排出管58へ排出される。
【0044】
このような構成でも、円筒型の浮上槽10およびその浮上槽内を上下に仕切る整流板22を用い、被処理物質の除去において、浮上槽全体を有効に使用することができるため、装置の小型化、浮上分離槽装置の高速処理が可能となる。
【0045】
図6は、本発明の他の実施形態に係る浮上分離装置の構成の一例を示す模式断面図である。図6に示す浮上分離装置3は、図1に示す浮上分離装置1に浮上物スキマー60、沈殿物掻き寄せ機62、整流板スクレーパー64を設けたものである。図6に示す浮上分離装置3において、図1に示す浮上分離装置1と同様の構成については、同一の符合を付し、その説明を省略する。
【0046】
浮上物スキマー60は、液面に浮上した浮上物23を掻き寄せるためのものである。浮上物スキマー60は、モータ66のシャフトに固定されている。モータ66が駆動することにより、浮上物スキマー60が回転され、液面に浮上した浮上物が掻き寄せられる。浮上物スキマー60は、羽根、螺旋羽根等のスクレーパー部を有しており、水面の流れ及びスクレーパー部の移動により浮上物23が半径方向外側に移動させられ、浮上槽10に設けられた浮上物ポット24に集められ、浮上物排出管44から排出される。浮上物スキマー60を設けることにより、浮上物23を効率的に排出することができるため、処理水の水質悪化を抑制することができる。
【0047】
沈殿物掻き寄せ機62は、浮上槽10の底部10bに沈殿した沈殿物を掻き寄せるためのものである。沈殿物掻き寄せ機62はガイド筒26に取り付けられると共に、支持体68により沈殿物掻き寄せ機62の角度調整、補強がなされている。そして、ガイド筒26は、モータ66のシャフトに取り付けられ、モータ66の駆動により回転される。すなわち、沈殿物掻き寄せ機62はモータ66の駆動により、ガイド筒26と一体に回転される。沈殿物掻き寄せ機62が回転することにより、浮上槽10の底部10bに沈殿した沈殿物が掻き寄せられ、浮上槽10のピット18に集められ、沈殿物排出管19から排出される。なお、この沈殿物掻き寄せ機62も、羽根、螺旋羽根等のスクレーパー部を有しており、このスクレーパー部によって内側方向に沈殿物を掻き寄せる。
【0048】
ここで、従来は、沈殿物を清掃するため定期的なメンテナンスが必要であったが、沈殿物掻き寄せ機62を設けることにより、沈殿物を効率的に排出することができるため、メンテナンス回数を減らし、装置の長期連続運転が可能となる。
【0049】
整流板スクレーパー64は、整流板22に沈殿した沈殿物を掻き取り、整流板22の整流孔22aから下方に落下排出するためのものである。整流板スクレーパー64は、ガイド筒26に取り付けられており、モータ66の駆動により、ガイド筒26と一体に回転される。整流板スクレーパー64が回転することにより、整流板22に沈殿した沈殿物が掻き取られ、整流板22の整流孔22aから沈殿物が排出される。整流板スクレーパー64を設けることにより、整流板22を清掃するためのメンテナンス回数を減らし、装置の長期連続運転が可能となる。整流板スクレーパー64も羽根等を有するが、この羽根は、沈殿物を半径方向に輸送する必要はない。しかし、処理水の集水部10cから遠い方向に沈殿物を輸送する方が好ましいため、沈殿物を内側に掻き寄せる羽根とすること好適である。
【0050】
なお、浮上物スキマー60、沈殿物掻き寄せ機62、整流板スクレーパー64の回転数は同一でなく、それぞれ異ならせてもよい。しかし、同一回転数とすれば、減速機構等が不要で、駆動機構を簡単にできる。特に、対象物に応じて、羽根の傾斜を適切なものに設定することが好適である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
図1の浮上分離装置1に、図6の浮上物スキマー60を取り付けた浮上分離装置を用い、下記の条件で被処理水の浮上分離処理を行い、浮上分離後の処理水の濁度を測定した。浮上分離装置に供給する被処理水は、予め凝集処理槽(サイズ:3000L、1600mmΦ×高さ2000mm)で凝集処理したものを用いた。
<浮上分離装置サイズ>
浮上槽:1600mmΦ
ガイド筒:300mmΦ
<試験条件>
被処理水:戸田市工業用水にカオリンを10mg/L、フミンを1mg/L添加したもの
被処理水濁度:8.7度
凝集処理時に用いた凝集剤:ポリ塩化アルミニウム(PAC)を30mg/L添加
凝集時の被処理水pH:7(pH調整剤としてHCl、NaOHを添加)
被処理水流量:50m3/hr
加圧水比:20%
通水速度:30.9m/h
浮上物スキマー速度:2分/周
試験時間:14日間連続運転
【0053】
(実施例2)
図1の浮上分離装置1に、図6の浮上物スキマー60及び整流板スクレーパー64を取り付けた浮上分離装置を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で試験を行った。整流板スクレーパー64の速度は、2分/周とした。
【0054】
(実施例3)
図6の浮上分離装置3(すなわち、浮上物スキマー60、整流板スクレーパー64及び沈殿物掻き寄せ機62を備えている)を用い、実施例1と同様の条件で試験を行い、さらに、浮上槽10のピット18に溜まった沈殿物を沈殿物排出管19から2時間に1回引き抜いた。また、整流板スクレーパー64の速度、沈殿物掻き寄せ機62の速度は、それぞれ2分/周とした。
【0055】
図7は、実施例1〜3における処理水濁度の結果を表す図である。図7に示すように、実施例1、すなわち浮上物スキマー60を取り付けた浮上分離装置を用いると、連続運転10日目の値を除けば、処理水の濁度は平均して2度以下となった。被処理水の濁度は平均して8.7度であるから、被処理水の浮上分離処理としては充分であると判断できる。連続運転10日目において、処理水濁度が高くなった理由は、整流板22、浮上槽10の底部10bに沈殿した沈殿物が一気に集水部10cに流れ込んだためである。
【0056】
実施例2、すなわち浮上物スキマー60及び整流板スクレーパー64を取り付けた浮上分離装置を用いると、実施例1より処理水の濁度を低下させることができた。さらに、14日間の連続運転でも、処理水の濁度が急激に高くなることもなく、安定した処理が可能であることがわかった。これは、整流板スクレーパー64により、沈殿物が整流板22に堆積することがなくなったため、沈殿物が処理水と共に浮上槽10から排出されることが抑制された結果である。
【0057】
実施例3、すなわち浮上物スキマー60、整流板スクレーパー64及び沈殿物掻き寄せ機62を取り付けた浮上分離装置を用いると、実施例2より処理水の濁度を低下させることができた。これは、整流板22及び浮上槽10の底部10bに堆積した沈殿物が、整流板スクレーパー64及び沈殿物掻き寄せ機62により掻き寄せられて沈殿物排出管19から排出されたため、沈殿物が処理水と共に浮上槽10から排出されることがさらに抑制された結果である。
【符号の説明】
【0058】
1〜5 浮上分離装置、10,46,70,90 浮上槽、10a,90a 周壁、10b,46a,70a 底部、10c,52a 集水部、12 流入部、14,54 排出部、18 ピット、19 沈殿物排出管、20a 上部、20b 下部、22,100 整流板、22a,100a 整流孔、23 浮上物、24 浮上物ポット、25 扇型状分割体、26,78 ガイド筒、26a 開口部、28,80 導入管、28a 開口部、30,82,102 被処理水流入管、32,84,104 加圧水流入管、34 止水板、36 締結具、38 処理水取出管、40 水位調整槽、41 可動堰、42,58,88,106 処理水排出管、44 浮上物排出管、48,72 外周壁、50,74 内周壁、52,76 処理水室、56,86 調整槽、60 浮上物スキマー、62 沈殿物掻き寄せ機、64 整流板スクレーパー、66 モータ、68 支持体、76a 下端部、92a,92b 隔壁、94 第1の室、96 第2の室、98 第3の室、105 空気溶解タンク、110 ポンプ、111 連通管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の被処理物質に気泡を付着させ、被処理物質を浮上物として分離する浮上分離装置であって、
浮上槽と、前記浮上槽を垂直方向上部及び下部に区画する整流板と、前記上部に被処理水を流入させる流入部と、前記浮上槽に設けられ、前記被処理物質が分離された処理水を前記下部から集水する集水部とを有し、
前記整流板は、前記処理水を通水させる複数の整流孔が形成されると共に、前記流入部の壁から前記浮上槽の周壁まで伸びており、
前記流入部は、前記上部の中心部で開口する筒状体であり、当該開口部は、上方に向けてテーパー状に広がっており、当該開口部から前記上部に被処理水を流入させることを特徴とする浮上分離装置。
【請求項2】
請求項1記載の浮上分離装置であって、前記被処理物質のうち前記整流板上に沈殿した沈殿物を前記整流孔から下方に排出する整流板スクレーパーを備えることを特徴とする浮上分離装置。
【請求項3】
請求項2記載の浮上分離装置であって、前記整流板スクレーパーは、前記筒状体に固定され、前記筒状体が該筒状体の中心軸を回転軸として回転することによって、前記整流板スクレーパーが前記整流板上を回転することを特徴とする浮上分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−56344(P2013−56344A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255261(P2012−255261)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2008−166758(P2008−166758)の分割
【原出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】