説明

浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物と、製造方法とその設置方法

【課題】スパー型と流線型との両方の特徴を生かした浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物とその製造方法および設置方法を提供する。
【解決手段】浮体式構造物1と該浮体式構造物に起立されるタワー2と、該タワーの上部に設けられる風車3とでなる浮体式洋上風力発電装置4において、前記浮体式構造物の外形形状を流線型にして抵抗の少ない船形の構造物とし、該浮体式構造物の下部に、若しくは、該浮体式構造物の幅方向の両側に、安定性を向上させるバラスト5を垂設させた浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物と、浮体式洋上風力発電装置の製造方法およびその設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洋上風力発電装置は、図11(A)に示すように、水理的安定性に優れている、例えば釣りの浮きのようなスパー型の洋上風力発電装置が知られており、その浮体構造物下の部にバラストを設置し、そのバラストに働く重力によって復元性を得ている。
【0003】
また、図11(B)に示すように、構造物の外形状を流線形状にしたものも知られている。これは、水深の深さ方向に伸ばして構造物の浮力を得るのではなく、平面方向に構造物を広げて、これに働く浮力を得て復元力を得ている。更に、この流線形の構造物では喫水が少ないので造船所のドック内での建造が可能であり、図12(A),(B)に示すように、複数の浮体式構造物にすることもあり、また、形状的に波の抵抗が少ないので一点係留を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−182021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の洋上風力発電における浮体式構造物では、前記スパー型と流線型の夫々の長所を生かした浮体式構造物が実現されていない。そこで、本発明に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物と、浮体式洋上風力発電装置の製造方法およびその設置方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、浮体式構造物と該浮体式構造物に起立されるタワーと、該タワーの上部に設けられる風車とでなる浮体式洋上風力発電装置において、前記浮体式構造物の外形形状を流線型にして抵抗の少ない船形の構造物とし、該浮体式構造物の下部に、若しくは、該浮体式構造物の幅方向の両側に、安定性を向上させるバラストを垂設させたことである。
【0007】
前記バラストは、浮体式構造物のバラスト用取付け部においてヒンジ構造が設けられ、該構造物の長手方向に沿って屈曲可能にしたことである。
更に、前記バラストは、浮体式構造物の幅方向の両側に設けた場合において、上下方向に移動できるように移動用ガイド装置と移動用駆動装置とを設けてあることを含むものである。
そして、一点で係留できるようにしたことも含むものである。
【0008】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置の製造方法の要旨は、浮体式構造物と、該浮体式構造物に起立されるタワーと、該タワーの上部に設けられる風車と、前記浮体式構造物に設けられるバラストとを組み立てて浮体式洋上風力発電装置を製造する際に、前記バラストは、浮体式構造物の下面から下側に突出しないように、屈曲させ若しくは移動させて収納状態にして浮体式構造物に取付けて組み立てることである。
【0009】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置の設置方法の要旨は、浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物にバラストを設ける際に、前記バラストを、前記浮体式構造物の下面から下側に突出しないように、屈曲させ若しくは移動させて収納状態にして浮体式構造物に取り付け、前記浮体式洋上風力発電装置を組み立てた後、前記浮体式構造物を洋上に曳き出してから前記バラストを浮体式構造物における正規の位置に移動させることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物によれば、船形の浮体式構造物とすることで平面方向の体積を増大させて浮力を得るので、喫水が少なくなって造船所のドック等での建造が可能となる。さらに、浮体式構造物に垂設させたバラストで水理的安定性が向上するとともに、構造物の復元力を船形の浮体式構造物に働く浮力によって得ているので動揺制御に対して有利な構造となっている、と言う優れた効果を奏するものである。また、浮体式洋上風力発電装置の製造方法とその設置方法によれば、バラストを浮体式構造物に収納状態にすることができるので、造船所のドック等において容易に製造することができるとともに、浮体式構造物を出渠させた後に、洋上で前記バラストを正規の位置に移動させて浮体式構造物を安定させることができる。なお、バラストの浮体式構造物に対する正規の位置に移動させる時期は、洋上に出て安全な場所でバラストを移動させて安全に曳航させたり、風力発電の設置場所に到達してからバラストを正規の位置に移動させたりするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1の斜視図である。
【図2】同本発明の第2実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1a,1bの斜視図(A),(B)である。
【図3】同本発明の第3実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1cの斜視 図である。
【図4】同本発明の第4実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1dの斜視 図である。
【図5】同本発明の第5実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1eの斜視 図である。
【図6】前記第4実施例における浮体式構造物1dの組立てから洋上への設置までの施工手順を示す説明図であり、造船所での浮体式構造物と風車、バラスト等を組み立てる様子を示す説明図(A)と、ドック内に水を注水して出渠する様子を示す説明図(B)とである。
【図7】同、前記浮体式構造物1dを設置場所まで曳航する様子を示す説明図(A)と、設置場所で浮体式構造物1dのアンカーを設置した様子を示す説明図(B)とである。
【図8】バラスト7を正規の位置に下ろした状態の説明図(A)と、浮体式洋上風力発電装置4の設置完了の状態を示す説明図(B)とである。
【図9】同本発明の第6実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における複数の浮体式構造物1fの斜視図である。
【図10】浮体式体式構造物1gを一点係留した状態を示す斜視図(A)と、更に中間ブイ10を設けた場合の様子を示す斜視図(B)である。
【図11】従来例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物11,12の斜視図(A),(B)である。
【図12】従来例の他の実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物13,14の斜視図(A),(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物1は、図1に示すように、浮体式構造物1をスパー型と船形とを兼用させた浮体式構造物としたものである。なお、本発明における浮体式洋上風力発電装置の製造場所は、造船所のドックに限定することなく、フローチングドック、岸壁または陸上のヤード等でもよい。また、それら複数の場所を利用して製造しても良い。
【実施例1】
【0013】
図1に示すように、前記浮体式構造物1と該浮体式構造物1に起立されるタワー2と、該タワー2の上部に設けられる風車3とでなる浮体式洋上風力発電装置4がある。そして、前記浮体式構造物1の外形形状を流線型にして抵抗の少ない船形の構造物とし、該浮体式構造物1の下部に安定性を向上させるバラスト5を垂設させてなるものである。
【0014】
前記浮体式構造物1によって、波に対して抵抗の少ない構造であるとともに、前記バラストによって復元力が増大し、動揺に対する安定性が向上するものである。
【実施例2】
【0015】
図2に示すように、第2実施例に係る浮体式構造物1aは、前記バラスト5の変形例であり、船形の構造物1a,1bのキール(竜骨)にバラスト6a,6bを設けたものである。これによっても、前記実施例1のバラスト5と同様の効果が得られるものである。
【実施例3】
【0016】
図3に示すように、第3実施例に係る浮体式構造物1cは、当該構造物1cの下部に垂設したバラスト7には、バラスト用取付け部においてヒンジ構造が設けられていることである。それにより、前記構造物1cの長手方向に沿って屈曲可能である。このように、建造時の喫水を小さくすることで、造船所のドッグでの建造が可能となる。また、この構造物1cを洋上の所定位置に設置する際には、ウインチやワイヤーなどで吊り下ろしてもよいし、油圧ジャッキなどで稼動させてバラスト7を下ろすようにしてもよい。
【実施例4】
【0017】
図4に示すように、第4実施例に係る浮体式構造物1dの幅方向の両側に、安定性を向上させるバラスト7,7を一対にして垂設させたものである。このように、バラスト7を複数にして設けて、構造物1dの安定性を更に向上させることができる。
【実施例5】
【0018】
図5に示すように、第5実施例に係る浮体式構造物1eは、バラスト8,8が浮体式構造物1eの幅方向の両側に設けた場合において、上下方向に移動できるように移動用ガイド装置(例えば、ガイドレール等、図示せず)と移動用駆動装置(図示せず)とを設けてあるものである。この移動用駆動装置として、例えば、ウインチによる上下巻上げ・巻き下げ方式や、ラック・ピニオン方式、盛替ジャッキアップ方式などを採用することができる。
【0019】
ここで、前記浮体式構造物1dの組立てから所定の場所に設置するまでの施工手順について図6〜図8を参照して説明する。まず、図6(A)に示すように、浮体式構造物1dに風車3、タワー2、バラスト7を組み立てる。前記バラスト7は、収納状態にしておく。そして、図6(B)に示すように、ドック内に水を注水して浮体式構造物1dを浮かせて出渠する。
【0020】
次に、図7(A)に示すように、前記浮体式構造物1dを風力発電の設置場所まで曳船で曳航する。そして、図7(B)に示すように、前記設置場所に着いたら浮体式構造物1dのアンカーを設置する。
【0021】
図8(A)に示すように、浮体式構造物1dのバラスト7を反時計方向に回転させて正規の位置に下ろす。これにより、浮体式構造物1dの設置が完了する(図8(B)参照)。なお、バラスト7の浮体式構造物1dに対する正規の位置に移動させる時期は、ドックから出渠した後に、洋上に出て安全な場所でバラスト7を移動させて、浮体式構造物1dの安定性能を向上させることで、曳航速度は抑制されるが、より安全に曳航させることもできる。
【実施例6】
【0022】
このほか、図9に示すように、第6実施例に係る浮体式構造物1fは、浮体式構造物を複数にしたものである。また、それに伴い図ではバラスト7を中央の構造物1fに一つにしているが、これに限らずバラスト7をそれぞれの構造物1fに設けるようにして複数にしてもよい。
【実施例7】
【0023】
また、図10(A)に示すように、浮体式構造物1gが船形であって波の抵抗が少ないので、係留鎖9で一点係留にすることができる。更に、図10(B)に示すように、中間ブイ10を設けて浮体式構造物1gと係船用ロープ10aで繋ぎ、前記中間ブイ10をアンカーに繋ぐことで、浮体式構造物1gへの衝撃を緩和するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0024】
1 浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物、
1a〜1g 各実施例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物、
2 タワー、
3 風車、
4 浮体式洋上風力発電装置、
5 バラスト、
6a,6b バラストキール、
7、8 バラスト、
9 係留鎖、
10 中間ブイ、
10a 係船用ロープ、
11〜14 各従来例に係る浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体式構造物と該浮体式構造物に起立されるタワーと、該タワーの上部に設けられる風車とでなる浮体式洋上風力発電装置において、
前記浮体式構造物の外形形状を流線型にして抵抗の少ない船形の構造物とし、
該浮体式構造物の下部に、若しくは、該浮体式構造物の幅方向の両側に、安定性を向上させるバラストを垂設させたこと、
を特徴とする浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物。
【請求項2】
バラストは、浮体式構造物のバラスト用取付け部においてヒンジ構造が設けられ、該構造物の長手方向に沿って屈曲可能であること、
を特徴とする請求項1に記載の浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物。
【請求項3】
バラストは、浮体式構造物の幅方向の両側に設けた場合において、上下方向に移動できるように移動用ガイド装置と移動用駆動装置とを設けてあること、
を特徴とする請求項1に記載の浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物。
【請求項4】
一点で係留できるようにしたこと、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物。
【請求項5】
浮体式構造物と、該浮体式構造物に起立されるタワーと、該タワーの上部に設けられる風車と、前記浮体式構造物に設けられるバラストとを組み立てて浮体式洋上風力発電装置を製造する際に、前記バラストは、浮体式構造物の下面から下側に突出しないように、屈曲させ若しくは移動させて収納状態にして浮体式構造物に取付けて組み立てること、
を特徴とする浮体式洋上風力発電装置の製造方法。
【請求項6】
浮体式洋上風力発電装置における浮体式構造物にバラストを設ける際に、前記バラストを、前記浮体式構造物の下面から下側に突出しないように、屈曲させ若しくは移動させて収納状態にして浮体式構造物に取り付け、前記浮体式洋上風力発電装置を組み立てた後、前記浮体式構造物を洋上に曳き出してから前記バラストを浮体式構造物における正規の位置に移動させること、
を特徴とする浮体式洋上風力発電装置の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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