説明

浮体用連絡橋の昇降支持構造

【課題】 高潮や津波の到来によって通常の満潮時よりも潮位が上昇した場合であっても、連絡橋を損傷させたり漂流させたりすることのない浮体用連絡橋の昇降支持構造を提供する。
【解決手段】 岸壁3に連繋させて鉛直方向に伸長させたガイド杭10a、10bを設置し、このガイド杭10a、10bに案内された昇降可能な浮遊橋台11を設ける。浮遊橋台11の上面に支承部4aを介して連絡橋11の固定端部を連繋させる。高潮や津波の到来時には、浮遊橋台11がガイド杭10a、10bに案内されて潮位に応じて上昇することにより、浮遊橋台11と連絡橋1とは岸壁3から離脱してしまうことがない。一定の潮位における位置を維持できるように、ガイド杭10a、10bにストッパ12を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水面や海面に浮かぶ浮桟橋等の浮体と岸壁や防波堤等の陸地とに掛け渡される連絡橋が、干満や波浪等による海面の昇降に応じて昇降することを許容する浮体用連絡橋の昇降支持構造に関し、特に台風や津波等で岸壁等の上面よりも海水面が上昇しても連絡橋が浮体から落下することがないようにする浮体用連絡橋の昇降支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
浮桟橋は、海水面に浮遊させて船舶等を係留させる等ために用いられ、この浮桟橋から船舶等への乗降を行うことになる。この浮桟橋と陸地である岸壁や防波堤等との間に連絡橋が架け渡され、乗員等は陸地と浮桟橋との間をこの連絡橋により往来する。
【0003】
浮桟橋は、例えば海底に固定した係留杭に連繋させて設けられ、海水面の昇降に伴われて昇降するようにしてある(特許文献1参照)。他方、この浮桟橋と陸地とに掛け渡された連絡橋は、例えば、特許文献2に記載された浮桟橋用連絡橋のように、陸地側の基端部はヒンジ等によって水平方向の軸を中心として揺動可能に支持され、浮桟橋側の自由端部は浮桟橋の昇降に応じて昇降することが許容され、かつ、浮桟橋との連繋点が変更されることが許容されるようにスライドシューによって連繋されている。
【0004】
図5〜図7は、従来の連絡橋1を示しており、この連絡橋1は浮桟橋2と岸壁3との間に掛け渡されている。なお、浮桟橋2は図示しない係留杭によって水平方向への移動が阻止され、波浪や干満による海水面Lの昇降に応じて鉛直方向への移動、すなわち昇降が許容されている。
【0005】
連絡橋1の浮桟橋2側の自由端部には水平方向を軸として揺動可能なタラップ2aが取り付けられ、この揺動によって該タラップ2aの先端部が浮桟橋2の昇降によっても該浮桟橋2の上面に接した状態を維持することができるようにしてある。また、この自由端部の下面には浮桟橋2の上面を転動可能なガイドローラ2bが取り付けられて、連絡橋1の該自由端部が浮桟橋2に対して該連絡橋1の橋軸方向に移動することが許容されている。
【0006】
一方、連絡橋1の岸壁3側の固定端部には、水平方向を軸として揺動可能なタラップ3aが取り付けられている。また、前記岸壁3には海水面Lを臨む位置に橋台4が設置され、前記固定端部の下面を該橋台4の上面に配設した支承部4aによって、水平方向を軸として連絡橋1が揺動自在となるように支持させてある。
【0007】
ところで、浮桟橋2は浮力によって水位に応じて上下動(昇降)可能であり、水面からの高さ、すなわち乾舷が一定である。このため、浮桟橋2の昇降に応じて連絡橋1がその勾配を変化させることになり、そのための該連絡橋1の揺動が前記固定端部側における支承部4aにより許容される。また、浮桟橋2の昇降によって連絡橋1との連繋位置が変化することになるから、この変化を前記ガイドローラ2bが転動することによって許容される。また、図5に示すように、満潮時の海水面を基準高さとして、満潮時に上昇した海水面の高さよりも僅かに高い位置に前記固定端部が位置するように設定することで、満潮時に連絡橋1が水平に近い状態となるようにする。また、干潮時には図6に示すように、浮桟橋2側が下位となって連絡橋1が傾斜した状態となり、この状態でも往来に支障のない勾配となるように設置されている。なお、干潮時を基準高さとして干潮時の海水面の高さに合わせて固定端部側を位置決めすると、満潮時には固定端部側が水没してしまい、連絡橋1を使用できなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−40044号公報
【特許文献2】特開平7−18628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、台風による高潮や津波が到来した場合等のように、岸壁の上面よりもはるかに高い位置まで水位が上昇した場合には、図7に示すように、連絡橋1の固定端部や前記橋台4や支承部4aが水没してしまう。このため、該橋台4や支承部4a、該支承部4aに固定されている連絡橋1の固定端部、さらに連絡橋1自体に揚水圧や波圧等の外力が作用して、これらを損傷させたり、連絡橋1を支承部4aから脱落させて、連絡橋1を漂流させたりしてしまうおそれがある。
【0010】
なお、高潮や津波等を想定して岸壁3の上面31よりも高い位置に橋台を配した場合には、岸壁3の上面31との段差により利用性が悪化してしまことになり、また、干潮時には浮桟橋2と橋台4との高低差が大きくなってしまい、許容勾配を確保するためには連絡橋1を長くする必要が生じるからである。
【0011】
そこで、この発明は、高潮や津波の発生に対しても、固定端部側が水没してしまうことがなく、陸地から脱落してしまうことのない浮体用連絡橋の昇降支持構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造は、海水面に設置されて水位の昇降に応じて昇降することが許容されている浮体と陸地との間に掛け渡されて、該浮体と陸地との間の往来に用いられる浮体用連絡橋の前記陸地側と連繋させる端部の支持構造において、前記連絡橋の陸地側の端部を支持させると共に、海水面に浮遊する浮遊橋台と、陸地に連繋させて設けた、前記浮遊橋台を水位の変動に応じた昇降を案内するガイド手段と備えたことを特徴としている。
【0013】
岸壁側にて連絡橋を連繋させる橋台を海水面に浮遊する浮遊橋台としたもので、前記ガイド手段に案内されて昇降することが許容されるようにしたものである。例えば、高潮や津波が到来した場合には、岸壁の上面よりも高い水位となる場合があり、その場合でもガイド手段に案内されて浮遊橋台が上昇することができるようにする。
【0014】
また、請求項2の発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造は、前記浮遊橋台は内部を中空とした箱体として、浮力によって海水面に浮遊することを特徴としている。
【0015】
浮遊橋台を中空の箱体状としたものである。例えば、鋼製や鋼とコンクリートの複合構造として成形することができる。これにより、浮遊橋台自体で浮力を得ることができ、構造が簡略なものとなる。なお、例えば、発泡スチロール等の大きな浮力を有する材料を芯材として、強度の大きな素材で外郭を形成することで、浮力を具備させた構造とすることも可能である。
【0016】
また、請求項3の発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造は、一定の潮位以下に前記浮遊橋台を低下させない停止手段が、前記ガイド手段に設けられていることを特徴としている。
【0017】
浮遊橋台が干潮時の水位に応じて下降してしまうと、岸壁よりも低い位置に連絡橋の岸壁側端部が位置してしまい、岸壁の上面との高低差によって連絡橋と行き来しにくくなってしまう。このため、連絡橋の岸壁側の端部を一定の水位よりも下がらないようにしたものである。例えば、前記ガイド手段に係合突起等による停止手段を設けて、浮遊橋台が満潮時の水位以下とならないように規制する。
【0018】
なお、満潮時の水位よりも低下しないように、当該時の水位に合わせて前記停止手段を設けても構わないが、該停止手段は満潮時の水位よりも僅かに低い位置に設けてあることが好ましい。これは、満潮時には浮遊橋台が停止手段から離脱して海水面に浮遊した状態となるため、経年変化等によって浮遊橋台が停止手段に固着されてしまうことを防止できるからである。すなわち、前記一定の潮位以下とは、満潮時の潮位よりも僅かに下がった潮位である。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造によれば、通常時には干満や波浪等による海面の昇降によっても陸地と浮桟橋とが連絡橋で連絡されている。台風による高潮や津波が到来して水位が岸壁等の上面よりも上昇した場合には、潮位に応じて浮遊橋台が前記ガイド手段に案内されて上昇する。このため、連絡橋の岸壁側の固定端部が脱落することがなく、固定端部の損壊や連絡橋の漂流を防止できる。
【0020】
また、請求項2の発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造によれば、浮遊橋台を簡単な構造とすることができると共に、連絡橋との連結構造を従来と同様とすることができ、連絡橋の改造等を行う必要が無い。
【0021】
また、請求項3の発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造によれば、通常時には満潮時の水位を基準として利用できるので、固定端部が満潮時の水位以下に下がることがなく、渡橋としての連絡橋の機能が損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係る昇降支持構造を備えた浮体用連絡橋の側面図であり、満潮時の状態を示している。
【図2】この発明に係る昇降支持構造を説明する概略の斜視図である。
【図3】この発明に係る昇降支持構造を備えた浮体用連絡橋の側面図であり、干潮時の状態を示している。
【図4】この発明に係る昇降支持構造を備えた浮体用連絡橋の側面図であり、満潮時の状態を示している。
【図5】海水面に浮遊させた浮桟橋用の従来の浮体用連絡橋を示す側面図であり、満潮時の状態を示している。
【図6】図5に示す浮体用連絡橋の干潮時における状態を示す側面図である。
【図7】図5に示す浮体用連絡橋の津波等の高潮位時における状態を示す側面図であり、当該時の問題点を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造を具体的に説明する。図1と図2に本願発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造を示しており、図5〜図7に示した従来の構造と同一の部分については、同一の符号を付してある。
【0024】
図1は海水面Lが満潮時にある状態を示しており、浮体である浮桟橋2が通常時の最も上昇した高さ位置にある。岸壁3の壁面にはガイド手段10が配設されている。このガイド手段10は、岸壁3の側面に固定したガイド杭10aと該ガイド杭10aから適宜な距離を隔てて海底地盤に植設されたガイド杭10bとを主体として構成されている。なお、図面上では2本のガイド杭10a、10bを示してあるが、後述するように、浮遊橋台の昇降を確実に案内することができるのに必要な本数が配設される。
【0025】
前記ガイド杭10a、10bは鉛直方向に伸長させたレールとして機能するようにしてあり、例えばH形鋼やI形鋼等の形鋼や鋼管杭等を用いることができる。そして、これらガイド杭10a、10bに案内されて昇降可能に浮遊橋台11が設けられている。この浮遊橋台11は、その浮力を調整できるようにしてある構造が好ましく、例えば中空の箱体としてあり、鋼板等の溶接により形成した鋼構造や鋼材とコンクリートとの複合構造として成形することができる。この浮遊橋台11の上面に、連絡橋1の固定端部を、支承部4aを介して支持させる。また、満潮時の海水面Lの高さを基準高さとし、浮桟橋2に掛け渡された連絡橋1がほぼ水平となる状態で固定端部を支持させるように浮遊橋台11の位置(初期高さ)を設定し、浮遊橋台11がこの初期高さよりも下降することを阻止する停止手段としてのストッパ12が設けられている。なお、この場合に、ストッパ12の位置は、満潮時の潮位で浮上した浮遊橋台11が該ストッパ12から僅かに浮上する位置とすることが好ましい。当該位置としてあれば、満潮時には浮遊橋台11がストッパ12から離隔した状態となり、満潮時にも離隔しない構造とする場合に比べて、経年変化により浮遊橋台11がストッパ12に固着してしまうことを防止できる。なお、ストッパ12に代えて、例えば当該位置から下側にはガイド杭10a、10bにレールを形成せずに、あるいはガイド杭10a、10bの外形寸法を当該位置で大きくする等して停止手段とすることができ、浮遊橋台11が当該位置よりも下降することを防止する構造であればよい。
【0026】
以上により構成されたこの発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造の作用を、以下に説明する。
【0027】
図1に示すように、満潮時には浮桟橋2が最も高い位置まで上昇して、連絡橋1は水平に近い姿勢となり、浮桟橋2と岸壁3との間を往来できる。海水面Lが干潮により下降すると、乾舷が一定である浮桟橋2も図3に示すように下降する。他方、浮遊橋台11は前記ストッパ12により下降することが阻止されてその位置が基準高さ時の高さに維持されるため、連絡橋1は同図に示すように浮桟橋2側の自由端部側を下位にして傾斜した姿勢となる。この状態で、浮桟橋2と岸壁3とを連絡橋1により往来できる。なお、この干満による海水面Lの昇降に応じた連絡橋1の姿勢の変化は、従来の連絡橋1の場合と同様であり、連絡橋1が支承部4aを中心として揺動し、該連絡橋1の自由端部側はガイドローラ2aの転動によって浮桟橋2との連繋位置が変更することによる。
【0028】
台風による高潮や地震に伴われて津波が到来した場合には、海水面Lが岸壁3の上面31や近傍の土地の標高よりも高い位置まで上昇する場合がある。図4には、このような場合の状態を示している。すなわち、海水面Lが岸壁3の上面31よりも高位に達した場合であり、この場合には浮遊橋台11が海水面Lに伴われて上昇する。このとき、浮遊橋台11は前記ガイド杭10a、10bに案内されて上昇するため、このガイド杭10a、10bから離脱することがない。このため、連絡橋1が漂流してしまうことがない。また、浮遊橋台11は海水面L上に位置しているため、該浮遊橋台11に固定端部が連繋している連絡橋1も海水面L上に浮遊した状態となり、揚水圧や波圧の影響が抑制されて破損等を回避できる。
【0029】
ところで、浮遊橋台11と連絡橋1との重量の合計とこれらが海水から受ける浮力との関係を、満潮時の水位近傍では合計重量を浮力よりも大きく、岸壁3の上面31よりも水位が上昇した場合には、浮力の方が合計重量よりも大きくなるように、浮遊橋台11の形状や寸法、構造等を採用することが好ましい。特に、箱体状の浮遊橋台11としてあれば、内部に水を充填することによって重量を調整できるので好ましい。
【0030】
また、浮遊橋台11と海底とをロープ等で連結させてあれば、不測の高さまで潮位が上昇して浮遊橋台11がガイド手段10から離脱した場合でも、該浮遊橋台11と連絡橋1とが漂流してしまうことを極力防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明に係る浮体用連絡橋の昇降支持構造によれば、高潮や津波が到来した場合、連絡橋を海水面の上昇に応じて上昇させることができるため、連絡橋が損傷したり漂流したりすることを防止でき、海水面が通常高さに復帰した際に当該連絡橋や浮桟橋の迅速な利用を図ることに寄与する。
【符号の説明】
【0032】
L 海水面
1 連絡橋
2 浮桟橋
3 岸壁
31 上面
4 橋台
4a 支承部
10 ガイド手段
10a、10b ガイド杭
11 浮遊橋台
12 ストッパ(停止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水面に設置されて水位の昇降に応じて昇降することが許容されている浮体と陸地との間に掛け渡されて、該浮体と陸地との間の往来に用いられる浮体用連絡橋の前記陸地側と連繋させる端部の支持構造において、
前記連絡橋の陸地側の端部を支持させると共に、海水面に浮遊する浮遊橋台と、
陸地に連繋させて設けた、前記浮遊橋台を水位の変動に応じた昇降を案内するガイド手段と備えたことを特徴とする浮体用連絡橋の昇降支持構造。
【請求項2】
前記浮遊橋台は内部を中空とした箱体として、浮力によって海水面に浮遊することを特徴とする請求項1に記載の浮体用連絡橋の昇降支持構造。
【請求項3】
一定の潮位以下に前記浮遊橋台を低下させない停止手段が、前記ガイド手段に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の浮体用連絡橋の昇降支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−36208(P2013−36208A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172331(P2011−172331)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】