説明

浮遊選鉱による銅の回収方法

【課題】 浮遊選鉱による銅の回収量を著しく増加させる回収方法を提供する。
【解決手段】 造かん期にて白かわの生成反応が終了した後、オーバーブローを抑制し、酸素の供給量を削減し、次いで銅転炉を傾動して転炉からみを排出し、転炉からみを選鉱設備へ送給し、選鉱設備にて浮遊選鉱を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬を行なう際に用いる転炉(以下、銅転炉という)で発生する転炉からみに含まれる銅を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に銅製錬においては、図1に示すように、乾燥した銅精鉱を自熔炉1で溶錬してかわ6(いわゆるマット,銅含有量55〜70質量%程度)とからみ5(いわゆるスラグ)に分離し、さらにかわ6を銅転炉2に装入して吹精を行なう。なお自熔炉1で生じるからみ5を、後述する銅転炉で生じるからみと区別するために、自熔炉からみ5と記す。
この自熔炉からみ5は水砕設備へ送給され、水砕からみとして処分される。
【0003】
自熔炉1で得られた溶融状態のかわ6を銅転炉2に収容して、吹精を行なうにあたって、炉体に設けられた複数の羽口(図示せず)から、空気あるいは酸素富化空気等の酸素含有ガスを吹き込む。このようにして造かん期においてかわ6中の不純物を酸化して、SO2 ガス,からみ7および白かわに分離し、さらに造銅期において白かわを精製して粗銅8(銅含有量98〜99質量%程度)が得られる。なお銅転炉2で生じるからみ7を、上記の自熔炉からみ5と区別するために、転炉からみ7と記す。
【0004】
粗銅8は、精製炉4にてさらに純度を高めた後、鋳銅機(図示せず)にて鋳型に注入されて陽極板となる。
一方、転炉からみ7は、造かん期が終了した後、造銅期の製錬を開始する前に銅転炉2を傾動させて、炉口9から排出される。銅転炉2から排出された転炉からみ7は、選鉱設備3にて浮遊選鉱を行ない、銅精鉱と鉄精鉱に分離される。
【0005】
選鉱設備3は、液体の浮力を利用して銅精鉱と鉄精鉱を分離する(すなわち浮遊選鉱を行なう)設備である。銅精鉱と鉄精鉱を分離する液体(以下、分離液という)には起泡剤および捕収剤が添加されており、常に気泡が分離液中を浮上している。その分離液に転炉からみ7を投入すれば、捕収剤により硫化銅鉱の粒子は気泡に付着して分離液面に浮上する。一方、それ以外の粒子は分離液底に沈降する。このようにして分離液面に浮上した粒子は銅の含有量が大きい銅精鉱であり、分離液底に沈降した粒子は鉄の含有量が大きい鉄精鉱である。
【0006】
銅精鉱は、乾燥した後、再び自熔炉1に装入されるので、銅精鉱に含まれる銅は陽極板の原料として有効に回収できる。
ところが鉄精鉱は所外へ販売され、主にセメントの原料として使用されるので、鉄精鉱に含まれる銅は回収できない。
たとえば特許文献1には、起泡剤に加えて捕収剤を添加した分離液を使用する技術が開示されている。この技術によれば、捕収剤によって転炉からみ7の(特にメタル銅)粒子が気泡に付着しやすくなり、銅精鉱の回収量が増加する。しかしながら特許文献1に開示された技術は、原鉱に含まれるメタル銅の抑制は行なっていないことから、浮遊選鉱による銅(特にメタル銅)の回収量の大幅な増加は期待できない。
【特許文献1】特開昭52-65104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題を解消し、浮遊選鉱による銅の回収量を著しく増加させる回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、銅転炉における製錬反応について研究し、造かん期後にて排出された転炉からみの冷却によりメタル銅が生成されることを見出した。すなわち、造かん期の製錬反応は下記の (1)式で表わされる。ここで、 Cu2S・2FeSがかわであり、 Cu2Sが白かわである。またO2 は、空気あるいは酸素富化空気等の酸素含有ガスによって供給される。
Cu2S・2FeS+3O2 →2FeO+2SO2 + Cu2S ・・・ (1)
この造かん期の製錬反応が終了すると、銅転炉を傾動させて、炉口から転炉からみを排出する。このとき、転炉からみの粘性が低いほど、炉口から容易に排出できる。そのため、造かん期の製錬反応が終了した後さらに酸素含有ガスを供給(以下、オーバーブローという)して酸素を燃焼させ、転炉からみを昇温することによって、転炉からみの粘性を低下させるのが一般的である。
【0009】
ところがオーバーブローを行なうと、転炉からみにマグネタイトが発生し、下記の (2)式に示すようにマグネタイトと、転炉からみと同時に排出されてしまった一部の白かわとが反応して、メタル銅が生成される。ここで Fe34 がマグネタイトである。
Fe34 +1/2 Cu2S→Cu+3FeO+1/2SO2 ・・・ (2)
造かん期の製錬反応が終了した後のオーバーブローによって供給される酸素量を削減すれば、マグネタイトを減少させ、メタル銅の生成を抑制できる。したがってメタル銅が減少するので、転炉からみの浮遊選鉱を行なう際にメタル銅に対して回収能力のある捕収剤を使用しなくても銅の回収量を著しく増加できる。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、銅転炉を用いた銅の製錬によって発生する転炉からみに含まれる銅の回収方法において、造かん期にて白かわの生成反応が終了した後、オーバーブローを抑制し、酸素の供給量を削減し、次いで銅転炉を傾動して転炉からみを排出し、転炉からみを選鉱設備へ送給し、選鉱設備にて浮遊選鉱を行なうことによって転炉からみに含まれる銅を回収する回収方法である。
【0011】
なお、浮遊選鉱によって回収される銅とは、転炉からみから分離された銅精鉱に含有される銅を指す。つまり銅精鉱は乾燥して再び自熔炉に装入されるので、銅精鉱に含有される銅は陽極板の原料として有効に利用される。
本発明の銅の回収方法では、オーバーブローの所要時間を5分以内とすることが好ましい。
【0012】
さらに転炉からみの浮遊選鉱にて捕収剤を使用する場合には、捕収剤として、ドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアゾールとを使用することが好ましい。また、その混合比率は、ドデシルメルカプタンの使用量M1 (kg)と2−メルカプトベンゾチアゾールの使用量M2 (kg)の混合比率が、M1 /(M1 +M2 )の値に換算して、0.25〜0.75の範囲内を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅転炉を用いて銅を製錬する際に発生する転炉からみに浮遊選鉱を施して、銅の回収量を著しく増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の銅の回収方法について図1を参照して説明する。
かわ6を収容した銅転炉2に、羽口(図示せず)を介して酸素含有ガスを吹き込む。銅転炉2にて (1)式に示す造かん期の製錬反応が終了した後、さらにオーバーブローを行ない、転炉からみ7を昇温することによって、転炉からみ7の粘性を低下させる。ただしオーバーブローを行なう際には、マグネタイトの生成量を低減することによって (2)式によるメタル銅の生成を抑制するために、酸素の供給量を削減する必要がある。
【0015】
オーバーブローによって供給される酸素量は、酸素含有ガス中の酸素濃度とオーバーブローの所要時間とによって変化する。したがって下記の (a)または (b)の方法によって、オーバーブローの酸素の供給量を削減することが可能である。
(a) 酸素含有ガス中の酸素濃度を低減し、製錬反応が終了する時に目的温度に達するよう吹精する。
(b) 酸素含有ガス中の酸素濃度は従来と同様にする一方、オーバーブローの所要時間を短縮する。
【0016】
銅転炉2の操業では、酸素含有ガスの酸素濃度を操業中に変更するのは難しい。もし上記の (a)の方法を行なった場合、造かん期および造銅期においても酸素濃度の低い酸素含有ガスを使用せざるを得なくなる。その結果、銅転炉2における吹精時間が延長され、生産性の低下を招く。
したがって、上記の (b)の方法を採用するのが好ましい。従来は約20分程度のオーバーブローを行なっているが、銅転炉2内の保温性を維持すれば、オーバーブローを5分以内に短縮しても転炉からみ7を炉口9から支障なく排出できる。銅転炉2内の保温性を高い水準で維持できれば、オーバーブローの時間がゼロ(すなわちオーバーブローを行なわない)であっても転炉からみ7を排出することは可能である。
【0017】
ただし、銅転炉2の操業中に酸素含有ガスの酸素濃度を容易に変更できる場合は、上記の (a)の方法で、オーバーブローによる酸素の供給量を削減しても良い。
このようにして転炉からみ7にマグネタイトが発生するのを抑制すれば、 (2)式の反応によるメタル銅の生成を抑制できる。その転炉からみ7を選鉱設備へ送給して、選鉱設備にて浮遊選鉱を行ない、銅精鉱を回収することによって、従来の捕収剤の使用のみで、銅の回収量を著しく増加できる。つまり、メタル銅の生成を抑制することによって、銅精鉱の銅含有量が増加するのである。
【0018】
また、浮遊選鉱を行なう際に、分離液に従来使用していた捕収剤に新たな捕収剤を添加すれば、銅精鉱の回収量が増加するので、銅の回収量をさらに増加することが可能である。捕収剤を使用する場合は、従来から知られている捕収剤(たとえばザンセート類,ジチオフォスフェート類,ジチオカーバメイト類,メルカプタン類,ジサントゲン類等)を使用すれば良い。ただし、浮遊選鉱におけるメタル銅の回収量を増加させるためには、ドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアゾールとを併用することが好ましい。
【0019】
ドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアゾールとを併用する場合には、下記の (3)式で算出される混合比率が0.25未満あるいは0.75超えの場合、協同効果としての能力が抑制されるため、メタル銅の回収は困難である。したがって、混合比率は0.25〜0.75の範囲内を満足することが好ましい。
混合比率=M1 /(M1 +M2 ) ・・・ (3)
1 :ドデシルメルカプタンの使用量(kg)
2 :2−メルカプトベンゾチアゾールの使用量(kg)
転炉からみ7は、細かく粉砕(いわゆる磨鉱)された後、浮遊選鉱に供される。浮遊選鉱は、
(A) 予選:1次浮選を行なう工程
(B) 粗選:2次浮選を行なう工程
(C) 清掃:3次浮選を行なう工程
の3段階の工程からなる選別法であり、いずれの工程も分離液の浮力を利用する。ドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアロールは、 (A)〜(C) のいずれの工程においても捕収剤として使用できる。
【0020】
しかし、分離液に添加する捕収剤としてドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアゾールとを併用する場合は、メタル銅の比率が高い清掃工程で使用するのが好ましい。
【実施例】
【0021】
図1に示す一連の設備を用いて銅製錬を行なった。すなわち、乾燥した銅精鉱を自熔炉1で溶錬してかわ6と自熔炉からみ5に分離し、さらにかわ6を銅転炉2に装入して吹精を行ない、白かわを経て粗銅8を製造した。
自熔炉1で得られた溶融状態のかわ6を銅転炉2に収容して、吹精を行なうにあたって、炉体に設けられた複数の羽口(図示せず)から、酸素富化空気を吹き込んだ。このようにして造かん期においてかわ6中の不純物を酸化して、SO2 ガス,転炉からみ7および白かわに分離した。造かん期の吹精を行ないながら、作業員が鉄製のサンプル棒を銅転炉2内に挿入した後、鉄製のサンプル棒を抜き出し、鉄製のサンプル棒に付着した転炉からみ7の色や外観を目視で検査して、造かん期における白かわの生成反応(すなわち (1)式の反応)の終了を判定した。
【0022】
造かん期の反応が終了した後、さらにオーバーブローを5分間行なった。なお、オーバーブローに用いた酸素富化空気およびその供給条件は、造かん期の吹精と同じである。
次いで、造銅期の製錬を開始する前に銅転炉2を傾動させて、転炉からみ7を炉口9から排出した。この転炉からみ7を選鉱設備3に送給して浮遊選鉱を行ない、鉄精鉱と銅精鉱に分離した。
【0023】
浮遊選鉱の清掃工程では、捕収剤としてドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアゾールとを添加した。その混合比率(すなわち (3)式で算出した値)は0.50とした。
以上を発明例とする。
一方、比較例として、オーバーブローを20分間行なった。また、捕収剤はドデシルメルカプタンを使用した。その他の手順は、発明例と同様にして銅製錬を行なった。
【0024】
発明例と比較例の銅製錬によって得られた鉄精鉱の銅含有量を調査したところ、発明例では 0.5質量%,比較例では1質量%であった。このデータは、本発明を転炉からみ7の浮遊選鉱に適用することよって銅の回収量が増加することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】銅製錬の自熔炉,銅転炉,選鉱設備の工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0026】
1 自熔炉
2 銅転炉
3 選鉱設備
4 精製炉
5 自熔炉からみ
6 かわ
7 転炉からみ
8 粗銅
9 炉口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅転炉を用いた銅の製錬によって発生する転炉からみに含まれる銅の回収方法において、造かん期にて白かわの生成反応が終了した後、オーバーブローを抑制し、酸素の供給量を削減し、次いで前記銅転炉を傾動して転炉からみを排出し、前記転炉からみを選鉱設備へ送給し、前記選鉱設備にて浮遊選鉱を行なうことによって前記転炉からみに含まれる銅を回収することを特徴とする銅の回収方法。
【請求項2】
前記オーバーブローの所要時間を5分以内とすることを特徴とする請求項1に記載の銅の回収方法。
【請求項3】
前記浮遊選鉱で用いる捕収剤として、ドデシルメルカプタンと2−メルカプトベンゾチアゾールとを使用することを特徴とする請求項1または2に記載の銅の回収方法。
【請求項4】
前記ドデシルメルカプタンの使用量M1 (kg)と前記2−メルカプトベンゾチアゾールの使用量M2 (kg)の混合比率が、M1 /(M1 +M2 )の値に換算して、0.25〜0.75の範囲内を満足することを特徴とする請求項3に記載の銅の回収方法。


【図1】
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