説明

海水中金属の回収船および回収方法

【課題】 海水中に係留した捕集材の回収が容易な海水中金属の捕集装置の効率的な回収方法と回収船を提供する。
【解決手段】 浮力を有する金属捕集材13の一端を切り離し可能に複数接続したチェーン11の両端に、耐圧ブイ12を水中切離装置16を介してチェーン巻揚用先取索15の途中に止めて海中に浮遊させ、海上から水中切離装置16で切り離すとチェーン巻揚用先取索15が延びて海面に向かって浮上させるようになっている海水中金属捕集装置10を回収する回収船であって、チェーン巻揚用先取索15を巻き上げる先取索捲込ウィンチ38とチェーン11を巻き上げるチェーン巻揚機36とチェーン11を巻き下ろすチェーン巻降機37と、1回の作業で回収する分に余裕を加えただけの金属捕集材13を巻き取る数の捕集材格納ドラム32を少なくとも収納する船倉とを備えた海水中金属捕集材回収船。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中金属回収のため海中に投入した捕集材の係留方法および回収方法に関し、特に海中ウランの回収に用いる捕集材の係留・回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海水には約7割の元素が溶存しており、各種の有用希少金属も大量に含有されている。海水中の希少金属を効率よく回収できれば、稀少金属の優良鉱山を所有したに等しい。
ウランについてみると、海水全量中には約45億トンもの膨大な量が含有され、世界中の原子力発電所で1年間に消費されるウランの1000倍にもなる。日本近海においても、黒潮により運ばれるウラン量は年間約520万トンとされ、これは、陸ウランの経済的可採埋蔵量にほぼ匹敵する。
エネルギーの長期安定供給法の1つの可能性として、海水中に溶存するウラン資源の回収技術の開発が求められている。
【0003】
従来、不織布に放射線グラフト重合法を適用しさらに化学反応を行わせて金属捕集能を有する官能基を導入して、海水中の有害または有用金属を捕集する方法が開発されていた。金属捕集能を有する官能基として、アミドキシム基、イミドジ酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、2−ピロリドン基などが用いられる。液中の金属を捕集するためには、不織布製捕集材の間にスペーサを入れたものを積層して使用しているが、液と捕集材の接触が効率的でない。
【0004】
これに対して、特許文献1には、モール状の高分子合成繊維を基材とした捕集材を直接水中に投入し、経時後回収して金属類を捕集する方法が開示されている。
開示された捕集材は、ポリエチレンやポリプロピレンなどの高分子合成繊維糸を太く撚り合わせたものを芯の回りに放射状に引き出してモール状に形成した上で、電子線またはγ線を照射線量10〜200kGy照射し、この照射繊維基材に重合性モノマーをグラフト重合させてグラフト側鎖を形成させ、さらにこのグラフト側鎖にキレート基を導入することにより作製されるものである。
【0005】
高分子合成繊維基材にグラフト重合される重合性モノマーとして、アクリロニトリル、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、アクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、またはこれらの混合物が使用される。
本開示の捕集材は、任意の長さに形成して、片端または両端を固定して放置するだけで水中の金属を捕集するとことができる。
【0006】
開示された実施例によると、モール状の合成繊維素材に電子線を照射した後、アクリロニトリルとメタクリル酸の混合溶液中に浸漬してグラフト反応させ、さらに3%塩酸ヒドロキシルアミンの水/エタノール溶液中でアドキシム化反応させて、アドキシム基4〜5mmol/gの金属捕集材を得ることができ、この捕集材を海水中に浸漬してウランの捕集を行ったところ、20日間で1kgの捕集材に付きそれぞれ1gの捕集ができた。なお、ウランの理論捕集量は開示された捕集材1kgに対して約10gになる。
【0007】
このように、ウランに対しては、アミドキシム基を有する吸着材が極めて高い吸着性能を有し、現状では、さらに1kgの捕集材に対してウラン1.5gまでの回収実績があり、将来的には4gあるいは6g程度まで性能向上が見込まれる。
このような捕集材を使って海水中の金属を回収する方法として、たとえば、ポンプでくみ上げた大量の海水を捕集材にかけたり、捕集材を籠に入れて海水中に係留して海流によって大量の海水と接触させる方法が考えられる。
【0008】
しかし、原子力発電所1基分の核燃料は年間約200トンであり、年6回回収するとしても2万トンの捕集材を必要とする。したがって、多数の原子力発電所の需要を満たそうとすれば、ポンプ能力や籠を吊す機構が過大になり実用的でない。
また、浅海では、捕集材などに海中生物が付着して除去処理にコストが掛り、浮遊する捕集材などが航行する船舶などと干渉して破損したり航行に障害を与えたりする怖れがある。
【0009】
特許文献2には、捕集材を海水中に係留させる方法について開示されている。開示方法は、錘を内蔵した組紐状の着底部と浮きを内蔵した組紐状の浮遊部を交互に配置し、浮遊部に海水中金属吸着材からなる捕集材を多数設けたものを、海中に投入することにより、浮遊部を浮き上がらせて捕集材を海水中に漂わせるようにしたものである。
本開示発明により捕集材を40mより深いところに浮遊させるようにすれば、船舶航行に障害を与えず、また太陽光が及ばないため海中生物の付着を抑制することができる。
【0010】
開示方法では、着底部と浮遊部が直列に繋がって1本のロープ状になっているため漁網巻上げ装置などを利用して簡単に巻上げることができる。しかし、捕集材を分離して化学処理によりウランなどを溶離して回収したあとで海中に再投入するときには、分断された着底部と浮遊部を再び繋げる必要がある。また、投入された着底部の海底における位置を制御することが難しいため、多数の捕集装置を投入するときには、相互の間隔を十分大きくとって、多少の狂いが生じても干渉しないようにする必要がある。
【特許文献1】特開2002−045708号公報
【特許文献2】特開2002−119801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、海水中に係留した捕集材の回収が容易な海水中金属の捕集装置の効率的な回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の海水中金属捕集材回収船は、浮きを両端に設けたチェーンに捕集材を結ぶ所定数の結索装置を所定の間隔を開けて設置したもので、浮きは、耐圧ブイをチェーン巻揚用先取索でチェーンと繋ぎ、さらに海上から操作可能な水中切離装置を介してチェーン巻揚用先取索の途中に止めて海中に浮遊させ、水中切離装置で切り離すとチェーン巻揚用先取索が延びて耐圧ブイを海面に向かって浮上させ海面上あるいは海面直下に浮かばせるようになっている海水中金属捕集装置を回収する回収船であって、チェーン巻揚用先取索を巻き上げる先取索捲込ウィンチとチェーンを巻き上げるチェーン巻揚機とチェーンを巻き下ろすチェーン巻降機と、1回の作業で回収する金属捕集材に余裕を加えた数の金属捕集材を巻き取ることができる捕集材格納ドラムを収納できる船倉とを備えることを特徴とする。
なお、チェーンの端部にはチェーンを海底に固定するためのアンカー錘を設けても良い。
【0013】
金属捕集材は、芯の回りに合糸した高分子合成繊維糸を放射状に編み出してモール状に形成したもので、高分子合成繊維糸は放射線グラフト重合したグラフト基に金属捕集能を有する官能基を導入してある。また、芯の一端には結索装置と結合するクイックカップリングなどの結合機構を備えている。捕集材は浮力を持ち、着底部のチェーンから上に伸びて海水中に漂うようになる。なお、芯の中に浮力を増大するための浮きが仕込まれていても良い。
【0014】
海水中金属捕集材回収船は、海水中金属捕集装置の海中への係留・回収を行う。回収船は、側舷にチェーン巻揚機とチェーン巻降機を備えて、甲板に捕集材格納ドラムを収納するスペースを備え、1回の作業で回収する捕集材と同じ数の新しい捕集材を巻いた捕集材格納ドラムと若干数の空の捕集材格納ドラムを搭載して、海水中金属捕集装置を配置した位置に運行されてくる。
海水中金属捕集装置1基分の捕集材が回収された後では、回収した捕集材を巻いた捕集材格納ドラムと若干の空の捕集材格納ドラムが回収船に搭載されている。
【0015】
捕集材を回収するときは、対象の海水中金属捕集装置の水中切離装置に切離指令信号を発し、切り離された耐圧ブイが浮上してきたらこれを掬い上げ先取索をたぐりよせてチェーンをチェーン巻揚機とチェーン巻降機に架けて、チェーンを引き上げながら、揚がってくる捕集材を順次外して空の捕集材格納ドラムに移し巻上げて回収し、新しい捕集材を巻いた捕集材格納ドラムの新しい捕集材を取り付けてチェーン巻降機で連続的に投下する。
この間、回収船は、海水中金属捕集装置が敷設されている方向に引き上げ速度に合わせて航行している。
【0016】
なお、チェーンの先端部を投下するときには、水中切離装置と耐圧ブイを元の状態にもどし、チェーンの端部に付けたアンカー錘により海底における位置を決めるようにして投下する。
チェーンのもう一方の端には水中切離装置で切り離されていない状態の浮きが付いているので、そのままアンカー錘の位置を決めるようにして海中に投下する。
なお、チェーンが十分重い場合は、アンカー錘を付けなくても回収船の真下の希望の位置に敷設することができる。
【0017】
このような回収係留方法によれば、捕集材は回収と投下を連続して行うことができ、高速な処理が可能である。
なお、チェーンに連結する捕集材の数は、回収船が1日の作業で回収できる数量にすることが好ましい。
また、海水中金属捕集装置は回収前にあった海底位置より、水深の約2倍の距離だけ離れた位置に係留されることになる。すなわち、水深が100mあれば200m程度、水深200mならば約400m前方にずれて敷設される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて、本発明の海水中金属捕集材の係留・回収方法を詳細に説明する。
図1は海水中金属捕集装置の概念的な構成図、図2は捕集材の係留概念図、図3は海底における海水中金属捕集装置の一部について配置例を示す斜視図、図4は回収船のデッキ上配置図、図5は捕集材格納ドラムの例を示す正面図および断面図、図6〜図8は捕集材回収の要領を説明する図面である。
【0019】
本実施例の海水中金属捕集装置10は、図1に示すように、両端に耐圧ブイ12を取り付けたチェーン11に簡単に取り外し取り付けできるクイックカップリングなどの結索装置14を介してほぼ等間隔に多数の金属捕集材13を取り付けたものである。
耐圧ブイ12は、チェーン巻揚用先取索15でチェーン11の端部に繋がっていて、さらに水中切離装置16および予備水中切離装置17を中間に繋いだワイヤ18で先取索15の中間に繋がれている。水中切離装置16は海上の回収船から放射される超音波指令信号により遠隔操作でワイヤ18を切り離すことができる。予備水中切離装置17は、水中切離装置16に不具合が発生したときにバックアップする予備機である。
また、耐圧ブイ12には先取索15の弛み分を巻き取るドラム19が付設されている。なお、チェーンの両端部には、錘20を付けておいても良い。
【0020】
本実施例の捕集材13は、ウランを捕集する目的で、ポリエチレン繊維を放射線グラフト重合させグラフト基にウランとよく結合するキレート基であるアミドキシム基を導入したもので、芯21の回りに放射状にアミドキシム基化した多数縒りの繊維糸22を撚出させたモール状捕集材である。
捕集材13の一端に結合機構を備え、図2に示すように、チェーン11に設けた結索装置14に結合機構を係合し、チェーン11の重みで海底に沈められる。捕集材13は比重が海水より小さいため、上に延びて海水中に漂い、海水中のウランがアミドキシム基に接触するとアミドキシム基に固定して捕獲する。なお、捕集材13の浮力が不足するときは、捕集材13の芯21に浮き23を仕込んで浮力を増強することができる。
【0021】
結索装置14とこれに結合する捕集材13の結合機構は、短時間で簡単に取り付け取り外しができるクイックカップリングとして構成されることが好ましい。
捕集材13が浅いところにあると、航行する船舶と接触して破損したり、海水中の生物が捕集材13に付着して除去処理に手数や費用が掛ることになるので、船舶の喫水より大きくかつ日光が届かず海洋生物の付着が少ない40m以深に存在するように設置することが好ましい。
【0022】
なお、捕集材13の長さや太さ、また捕集材13の数量や取付間隔、チェーン11の長さは、ウランの回収率と回収量、回収船の容量などを勘案して決定する。本実施例では、モール状の捕集材13の1m当たり1kgのアミドキシム基化繊維が使用されるとして、捕集材13の長さを60m、間隔を8mとし、1本のチェーン11について、240本の捕集材3を使用するものとした。
このような捕集装置を用いる場合、深さ100m以上の海底に設置することになる。
【0023】
本実施例の海水中金属捕集装置10は、たとえば、図3に一部を示したように、平坦な海底に行列状に並べて配置される。なお、ウラン捕集量は、海水温度が高いほど、また海流速に比例して、向上することが分かっているので、これらの条件を満たす海域を選択して海水中金属捕集装置を敷設することが好ましい。
1本のチェーン11の長さは、回収船が1日の作業で回収・係留する数の捕集材13を接続できるだけの長さとし、その両端に耐圧ブイ12が取り付けられている。
チェーン11は所定数を直列に配置し、この1列ごとに1隻の回収船が担当するものとし、1本のチェーン11を投下してから回収するまでの日数が経過したときに、再びそのチェーン11の回収・投下作業を行えるようにしたい。このため、たとえば回収までの日数を60日としたときに、稼働率を勘案して32本の海水中金属捕集装置10を1列に配置するようにした。
【0024】
海水中金属捕集装置10の回収位置と係留位置には敷設する深さに応じたずれが生じるため、直列に配置される海水中金属捕集装置10の間はたとえば100m海深に対して200mなど、海深に応じた一定の間隔を開けるようにする。
また、チェーン列同士の間隔は、隣の列の捕集材13が倒れているときにチェーン11の投下をしても捕集材13がチェーン11の下敷きになったり絡んだりしないように、70m程度開けるようにした。
海水中金属捕集装置10に60m、60kgの捕集材13を240本装着するとし、捕集材を海中に60日滞在させて年6回回収するものとすると、1年で1200tの金属ウランを回収するためには、1列に32本の海水中金属捕集装置10を並べたものを218列敷設すれば足りるとの試算結果を得ている。
【0025】
回収船は、海水中金属捕集装置が敷設されている海域と捕集材を処理して金属を溶離させるプラントがある港の間を往復して、金属を捕集した後の捕集材を回収し新しい捕集材を供給する作業を行う。
図4に示した甲板上の配置から分かるように、回収船31は図5に示したような新しい捕集材を装着した捕集材格納ドラム32を格納する投下捕集材用船倉33と、回収した捕集材を巻き取った捕集材格納ドラム32を格納する捕集材回収船倉35を備える。捕集材格納ドラム32は回転ドラムの径がほぼ2.5mあって、捕集材13を1本ずつ巻き取るように設計されている。
【0026】
また、少なくとも1つの舷側にチェーン巻揚機36とチェーン巻降機37、および先取索巻込ウインチ38が並置され、耐圧ブイ12を取り扱うクレーン39が設置されている。また、この舷側には、捕集材を一時的に巻き取って捕集材格納ドラム32に移すために使用する捕集材一時巻取ドラム40と、チェーン終端を海中の指定位置に投下するチェーン投下用ウインチ41も配設されている。
【0027】
図6,図7,図8は、本実施例における金属捕集材の回収・係留手順を説明する図面である。
図6は、海底に敷設された海水中金属捕集装置の回収工程の初めの部分を説明する図面である。
海水中金属捕集装置10のチェーン11の先端部には、耐圧性の水中ブイ12、水中切離装置16、予備水中切離装置17、およびチェーン巻揚用先取索15が付いていて、ブイ12により水中に立ち上がっている。
【0028】
図6(1)は捕集材回収の最初の工程を示す図面である。
回収船31が対象の海水中金属捕集装置10の端部上の海面に達して回収の準備が整うと、回収船31は水中切離装置16に対して切離指令信号を送信する。水中切離装置16は、切離指令信号を受信するとチェーン巻揚用先取索15と結合するワイヤ18を離す。
なお、ワイヤ18の切り離しに失敗すると、海水中金属捕集装置10の回収は潜水艇やダイバーを使った深海作業が必要になるなど極めて困難になるので、予備水中切離装置17が準備されており、水中切離装置16が作動しなかったときには、別の指令信号により予備水中切離装置17を作動させてワイヤ18を確実に切離せるようにした。
【0029】
図6(2)は水中ブイ12を拾い上げる工程を示す図面である。
ワイヤ18が水中切離装置16で切り離されると、水中ブイ12はチェーン巻揚用先取索15を引いて浮き上がる。このとき、先取索15を巻き取る先取索巻取ドラム19が緩んで先取索15を繰り出すので、水中ブイ12は海面に浮上する。なお、先取索15が短いときなど、水中ブイ12が海面に姿を現わさない場合にも、回収船31に備えたソナーなど簡単に位置を知ることができることは言うまでもない。
【0030】
図6(3)は先取索15を引き揚げる工程を示す図面である。
水中ブイ12は、クレーン39を使って回収船31上に引き上げる。水中ブイ12に繋がっているチェーン巻揚用先取索15をチェーン巻揚機36とチェーン巻降機37に掛けて、先取索巻込ウインチ38で引き揚げる。チェーン巻揚用先取索15は、軽くて丈夫なナイロンロープで形成されている。
先取索15を巻上げると、先取索15に引かれてチェーン11が揚がってくる。なお、回収船31は、チェーン11を揚げる間は、チェーン11の敷設方向にチェーン11が揚がる速度に同期して前進する。
引き揚げた水中切離装置16、予備水中切離装置17は電源を補充し、先取索巻取ドラム19には先取索を巻上げておく。
【0031】
図6(4)は水中ブイ12をチェーン11の始端に付けて海中に投入する工程を示す図面である。
端部のチェーン部分11がチェーン巻揚機36とチェーン巻降機37に掛り逆方向に戻らなくなったら、チェーン11の始端に水中ブイ12、先取索巻取ドラム19、水中切離装置16、予備水中切離装置17、これらを繋いだワイヤ18、チェーン巻揚用先取索15などを海底にあるときと同じ状態に戻して、海中に投入する。
チェーン11の先端が沈むにつれて水中ブイ12も沈み、チェーン先端部が海底に着地すると水中ブイ12は引き揚げ前と同じ状態で水中に立ち上がり、水中金属捕集装置10の始点が設定される。
【0032】
図7は回収船上で捕集材を交換する工程を示す図面である。
ウランなどの海水中金属を十分吸収した捕集材42は、チェーン11がチェーン巻揚機36により回収船31の進行に合わせて引き揚げられるのに伴って上昇するので、結索装置14のところでチェーン11から外して捕集材一時巻取ドラム40に巻取り、捕集材格納ドラム32に移して、捕集材回収船倉35に収納する。捕集材一時巻取ドラム40は少なくとも2基設けられていて、交代で巻取り巻換えを行い、次々に揚がってくる捕集材13を効率よく回収する。
捕集材13をチェーン11に供給して空になった捕集材格納ドラム32は、捕集材回収船倉35に移動して、ウランを吸収した捕集材13を巻き取るために利用される。したがって、捕集材格納ドラム32は、1基の海水中金属捕集装置10に取り付ける捕集材の数にわずかな余裕を加えた数量があれば足りることになる。
【0033】
チェーン11は、捕集材格納ドラム32から供給される新しい捕集材13を結索装置14で接続した上で、チェーン巻降機37により海底の新しい係留位置に下ろされ、新しくウランを吸収する捕集材43となる。
チェーン11は海底から回収船31まで引き揚げられて、捕集材13を交換して再び海底に沈められるが、海底に敷設された状態のチェーン11が海底を引きずられないようにするためには、ほぼ垂直に引き揚げてほぼ垂直に降下させることが求められる。したがって、回収前に海水中金属捕集装置10が敷設されていた位置に対して、海深の約2倍の距離だけ前方にずれる。たとえば、100mの水深があるときは、200mずれることになる。
【0034】
図8は、チェーンの終端を投下する手順を説明する図面である。
チェーン11の最終端部が回収船31に揚がってくるまでチェーン巻揚機36で巻上げると、水中ブイ12と先取索15なども一緒に上昇してくる。
チェーン11の終端に結合された水中ブイ12、水中切離装置16、予備水中切離装置17、先取索巻取ドラム19は、水中にあったときと同じ状態で回収船31まで引き揚げられるので、水中切離装置の電源補充などを行えば、そのまま投下し海底に設置することができる。しかし、回収船31のチェーン巻降機37から外れた後は、規制がないため自由落下をさせれば勝手なところに降下する。
【0035】
そこで、本実施例では、チェーン11の終端のリングにチェーン投下用ウインチ41の鋼索44を通して端部を船上のアイプレートに固定し、チェーン11がチェーン巻降機37から外れる前に鋼索44に張力を掛けてチェーン11落下時の衝撃を和らげ、チェーン11が海中に没した後に鋼索44を繰り出して、チェーン11を徐々に海底まで降ろす。
チェーン11の終端が海底に到達したら、船上のアイプレートから鋼索44の一端を外し、チェーン投下用ウインチ41を巻上げると、鋼索44がチェーン11端部の連結金具から外れて船上に回収される。
こうした方法により、チェーン11の端部に至るまで海底に直線的に敷設することができる。
なお、チェーン11の端部には錘20を固定して、鋼索44による敷設位置を正確に指定できるようにしても良い。
【0036】
なお、上記実施例では、捕集材をドラムに巻き取って格納したが、船倉にバラ積みする方法や船倉に吊り下げておく方法なども利用することができる。
また、捕集材は陸上のプラントで処理するようになっているが、処理プラントを搭載した母船を海水中金属捕集装置の敷設海域の近傍に駐在させて、回収船から捕集材を集めてウラン回収処理および捕集材回復処理を行うようにしても良い。母船方式を採用すると、回収船が現場作業できる時間の割合が増加し、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の1実施例に係る海水中金属捕集装置の概念的な構成図である。
【図2】本実施例における捕集材の係留概念図である。
【図3】本実施例における海底における海水中金属捕集装置の一部について配置例を示す斜視図である。
【図4】本実施例における回収船のデッキ上配置図である。
【図5】本実施例に使用する捕集材格納ドラムの例を示す正面図および断面図である。
【図6】本実施例における捕集材回収工程の初めの部分を説明する図面である。
【図7】本実施例における回収船上で捕集材を交換する工程を示す図面である。
【図8】本実施例におけるチェーン終端の投下工程を説明する図面である。
【符号の説明】
【0038】
10 海水中金属捕集装置
11 チェーン
12 耐圧ブイ
13 金属捕集材
14 結索装置
15 チェーン巻揚用先取索
16 水中切離装置
17 予備水中切離装置
18 ワイヤ
19 先取索巻取ドラム
20 錘
21 芯
22 多数縒りの繊維糸
23 浮き
31 回収船
32 捕集材格納ドラム
33 投下捕集材用船倉
35 捕集材回収船倉
36 チェーン巻揚機
37 チェーン巻降機
38 先取索巻込ウインチ
39 クレーン
40 捕集材一時巻取ドラム
41 チェーン投下用ウインチ
42 ウラン捕集後の捕集材
43 新しい捕集材
44 鋼索

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を吸着し化学反応により金属を溶離する複数の金属捕集材であって一端に結合機構を備え浮力を持って海底のチェーンから上に伸びて海水中に漂う金属捕集材と、該金属捕集材の結合機構と着脱可能に結合する所定数の結索装置が所定の間隔で設けられ浮き部が両端に設けられて海底に設置されるチェーンであって該浮き部が耐圧ブイをチェーン巻揚用先取索でチェーンと繋ぐと共に海上から操作可能な水中切離装置を介して前記チェーン巻揚用先取索の途中に止めて海中に浮かせ前記水中切離装置で切り離すと前記チェーン巻揚用先取索が繰り出されて前記耐圧ブイを海面に向かって浮上させるようにしたチェーンと、で構成した海水中金属捕集装置における、前記チェーン巻揚用先取索を巻き上げる先取索捲込ウィンチと前記チェーンを巻き上げるチェーン巻揚機と該チェーンを巻き下ろすチェーン巻降機と、1回の作業で回収する前記金属捕集材と同じ数の金属捕集材を巻き取ることができる捕集材格納ドラムに余裕を加えた数の捕集材格納ドラムを少なくとも収納できる船倉とを備えた海水中金属捕集材回収船。
【請求項2】
前記金属捕集材は、放射線グラフト重合したグラフト基に金属捕集能を有する官能基を導入した高分子合成繊維糸を芯の回りに合糸したものを放射状に編み出してモール状に形成したもので、前記芯の一端に前記結合機構を備えたことを特徴とする請求項1記載の海水中金属捕集材回収船。
【請求項3】
前記海水中金属捕集装置は海水中のウランを回収するために使用することを特徴とする請求項1または2記載の海水中金属捕集材回収船。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の海水中金属捕集材回収船に前記金属捕集材を回収する方法であって、対象とする前記海水中金属捕集装置の前記水中切離装置に切離指令信号を発し、切り離された前記耐圧ブイが浮上してきたらこれを掬い上げ前記チェーン巻揚用先取索をたぐりよせて該先取索に連れて引き揚げられる前記チェーンを前記チェーン巻揚機と前記チェーン巻降機に架けて、前記耐圧ブイと前記水中切離装置を該チェーンの先端に設置し直して海中に投下し、さらに前記海水中金属捕集材回収船を前記海水中金属捕集装置に沿って進行させながら前記チェーン巻揚機により該チェーンを引き上げて、揚がってくる前記金属捕集材を次々に外して空の捕集材格納ドラムに移して巻上げ、新しい金属捕集材を巻いた捕集材格納ドラムの新しい金属捕集材を空いた前記結索装置に取り付けて前記チェーン巻降機で連続的に海中に投下することを特徴とする金属捕集材回収方法。
【請求項5】
前記海水中金属捕集装置はさらに予備水中切離装置を備えて、前記海水中金属捕集材回収船が対象とする前記海水中金属捕集装置の端部上の海面に達して回収の準備が整い、該海水中金属捕集装置の前記水中切離装置に切離指令信号を発したときに、該水中切離装置が作動しなかったときには別の指令信号により前記予備水中切離装置を作動させて前記ワイヤを確実に切り離せるようにしたことを特徴とする請求項4記載の金属捕集材回収方法。
【請求項6】
前記チェーン巻揚用先取索はナイロンロープで形成され、該チェーン巻揚用先取索を前記チェーン巻揚機と前記チェーン巻降機に掛けて前記先取索捲込ウィンチで前記耐圧ブイを引き上げることを特徴とする請求項4または5記載の金属捕集材回収方法。
【請求項7】
前記チェーンの端部が前記チェーン巻揚機と前記チェーン巻降機に掛かり逆方向に戻らなくなったときに、前記チェーンの始端に前記耐圧ブイ、前記水中切離装置、前記予備水中切離装置、これらを繋ぐワイヤ、前記チェーン巻揚用先取索を該チェーンが海底にあったときと同じ状態に取り付けて海中に投入することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の金属捕集材回収方法。
【請求項8】
前記海水中金属捕集材回収船はさらに捕集材一時巻取ドラムを備え、前記チェーンが前記チェーン巻揚機により前記海水中金属捕集材回収船の進行に合わせて引き揚げられるのに伴って揚げられた前記金属捕集材を、前記結索装置のところで該チェーンから外して前記捕集材一時巻取ドラムに巻き取り、その後さらに前記捕集材格納ドラムに移して前記捕集材回収船倉に収納することを特徴とする請求項4から7のいずれか一項に記載の金属捕集材回収方法。
【請求項9】
前記海水中金属捕集材回収船はさらにチェーン投下用ウインチを備え、前記チェーンの終端のリングに前記チェーン投下用ウインチの鋼索を通して該鋼索の端部を船上に設けたアイプレートに固定し、前記チェーンが前記チェーン巻降機から外れる前に前記鋼索に張力を掛けて該チェーン落下時の衝撃を和らげ、該チェーンが海中に没した後に該鋼索を繰り出して、該チェーンを徐々に海底まで降ろし、該チェーンの終端が海底に到達したら、前記アイプレートから前記鋼索の一端を外し、前記チェーン投下用ウインチを巻上げると、該鋼索が前記チェーン端部の前記リングから外れて船上に回収されることを特徴とする請求項4から8のいずれか一項に記載の金属捕集材回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−280615(P2008−280615A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161790(P2008−161790)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【分割の表示】特願2005−260970(P2005−260970)の分割
【原出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 【発行者名】社団法人日本原子力学会【刊行物名】日本原子力学会 2005年秋の大会 予稿集【発行年月日】平成17年8月12日
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(308007505)カワサキプラントシステムズ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】