説明

海苔の雑藻駆除及び病害防除のための海苔処理方法及び海苔処理剤

【課題】 養殖海苔に着生または混生するケイ藻類、アオノリ類等の雑藻駆除、及びスミノリ症等、病原菌によって引き起こされる各種病害を効果的、効率的に防除若しくは予防し、かつ、海洋環境に対する負荷のできるだけ少ない海苔処理方法、海苔処理剤を提供する。
【解決手段】 有機酸の海水溶液を電気分解して得られる電気分解液(海苔処理剤)を用いて行う海苔の雑藻駆除及び海苔の病害駆除のための海苔処理方法であって、上記有機酸が、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなることを特徴とする海苔処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖海苔に着生するリクモフォーラ、タベラリア等の付着ケイ藻をはじめとする雑藻類、及び、海苔葉体表面に着生してスミノリ症の原因とされる針状細菌等の細菌類の駆除、また、海苔葉体細胞に感染し、甚大な被害をもたらす緑班病、擬似しろくされ病、赤腐れ病、壺状菌病等の細菌症を、効率よく効果的に防除でき、健全な養殖海苔の育成を目的とする、海苔の雑藻駆除及び病害防除のための海苔処理方法及び海苔処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、養殖海苔には、ケイ藻類に属するリクモフォーラ(Licmophora flabellate)、タベラリア(Synedra sp.)、緑藻類に属するスジアオノリ(Enteromorupha prolofera)、ヒラアオノリ(E.compressa)等の雑藻類、フハイカビ(Pythium)属菌を病原菌とする、赤腐れ病、フクロカビ(Olpidiopsis)属菌を病原菌とする壺状菌病、及びFlavobacterium属またはVibrio属細菌類を病原菌とする針状細菌症(スミノリ症)、緑斑病、擬似しろぐされ病等の細菌症等多くの雑藻、病害がある。
これらの雑藻、病害の駆除、防除方法として、潮の干満周期を利用して海苔網を空中へ一定時間吊り上げて乾燥を行い、雑藻類及び病原菌と海苔の乾燥に対する抵抗性の差を利用して、雑藻駆除、病害防除が行われている。
【0003】
しかしながら、潮の干満を利用した干出操作のできないベタ流式養殖では、海苔網の乾燥処理による雑藻、病原菌の駆除が困難である。また、潮の干満を利用した干出操作ができる支柱式養殖においても、病害の種類又は程度によっては干出操作だけでは病害防除が完全にできない場合もある。この解決策として酸処理技術が開発され(例えば、特許文献1参照)、広く普及し利用されている。
【0004】
現在普及利用されている酸処理技術は、有機酸を主成分とし、現場海水でpH2ほどに希釈した溶液として使用する製剤であるが、海洋環境に対する有機物負荷の原因となると問題にされることもある。また、これらの酸処理では、駆除が困難な雑藻、病害も存在する。
【0005】
このような現状の問題点を回避、解決するため、環境にやさしく、かつ効果の高い処理技術の開発研究が鋭意続けられている。その方向の一つとして電気分解液を利用する試みがある。いずれも海水又は塩化物水溶液を電気分解して得られる電気分解液を海苔の付着ケイ藻、付着細菌の駆除、洗浄処理に利用するもの等(例えば、特許文献2〜9参照)であるが、未だ完成された実用技術とはなっていないのが現状である。
このため、業界では、海洋環境への負荷ができるだけ少なく、かつ有効性の高い海苔処理技術の実用化が切望されている。
【0006】
一方、電解殺菌法という確率された技術が存在しながら、何ゆえ海苔養殖分野ではその技術を応用した雑藻、雑菌処理技術の実用化が成功していないのか、その大きな理由の一つは、その処理対象物が1.8m×18mの海苔網の如く大きく、かつ有機物存在量が大きいこともその一つの原因と考えられている。
電気分解液を利用して殺菌消毒を行う場合、その電気分解液は通常、隔膜式の電解槽を用いて陽極室で生成される強酸性水が使用される。その電解槽に使われる隔膜とは、電気分解によって生じたある種のイオンや電子は透過するが、水をはじめとする多くの分子は自由に通過しにくい微妙な構造の膜である。
【0007】
他方、処理対象となる海苔網は、そのボリュームが大きく、かつ有機物存在量が大きいこと、及び駆除したい雑藻類と、傷つけてはならない海苔が共存していて、選択的駆除を行う必要があるため、電解液の塩素濃度等殺菌成分はあまり高濃度にすることはできないという課題がある。
そのため、処理には多量の電解液が必要になることなどから、使用する電解液は一回使用で廃棄するのではなく、繰り返し循環使用することが好ましいが、多量の汚れが付いている海苔網を処理した電解液を循環させた場合、隔膜式電解槽では隔膜の目詰まり、破損が心配され、設備化が困難である。
【0008】
電気分解の方式には、隔膜のない無隔膜式も知られているが、無隔膜式は、一般に殺菌力が劣るといわれている。殺菌力が低い原因は、電解液のpHにあると考えられる。無隔膜電解液は、遊離有効塩素濃度が高いにもかかわらず、pHが弱酸性〜弱アルカリ性にあるためであると考えられる。この欠点を補うため、塩酸を添加した無隔膜電解水の検討もなされている(例えば、特許文献10〜14参照)。
しかしながら、塩酸を添加した溶液を電気分解した場合、添加された塩酸も電解されるため、電解途中でpHが変動し、その殺菌作用は不安定であるという課題を有するものである。
【0009】
また、電解液のpHを低下させるために、被電解液に各種有機酸を添加することも知られているが(例えば、特許文献15〜18参照)、酸解離指数(pKa)4未満の酸、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸等を使用した場合、電気分解によって生成した塩素等の酸化力の強い物質はこれら電離の大きな酸と反応し、電解液の酸化還元電位及び有効塩素濃度はなかなか上昇せず、また、一旦上昇しても、電解電力の印加を中止すると、酸化還元電位及び遊離有効塩素濃度は速やかに低下し、殺菌力のある電解液を安定して供給することができないという課題がある。
【特許文献1】特公昭56−12601号公報
【特許文献2】特開平7−313007号公報
【特許文献3】特開平8−140512号公報
【特許文献4】特開2003−174828号公報
【特許文献5】特開2003−235373号公報
【特許文献6】特開2004−33195号公報
【特許文献7】特開2004−81186号公報
【特許文献8】特開2004−97042号公報
【特許文献9】特開2004−155706号公報
【特許文献10】特公平4−94785号公報
【特許文献11】特許第2619756号公報
【特許文献12】特許第2627100号公報
【特許文献13】特開平10−128336号公報
【特許文献14】特開平11−266733号公報
【特許文献15】特開平7−313982号公報
【特許文献16】特開平8−299961号公報
【特許文献17】特開平10−314746号公報
【特許文献18】特開2003−170167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、養殖海苔に着生するケイ藻類等の雑藻類、スミノリ症等の原因となる細菌症等の各種病害に対し、効果的、効率的に防除若しくは予防でき、かつ、海洋環境に対する負荷のできるだけ少ない海苔の雑藻駆除及び病害防除のための海苔処理方法及び海苔処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記従来の課題等を解決するために、鋭意検討した結果、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を行う手段として、特定の有機酸を添加した海水を電気分解して得られる特定性状の電解液により海苔網を処理することにより、上記目的の海苔処理方法、海苔処理剤が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(8)に存する。
(1) 有機酸の海水溶液を電気分解して得られる電気分解液を用いて行う海苔の雑藻駆除及び海苔の病害駆除のための海苔処理方法であって、上記有機酸が、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなることを特徴とする海苔処理方法。
(2) 有機酸がプロピオン酸、酢酸、コハク酸から選ばれる少なくとも1種である上記(1)記載の海苔処理方法。
(3) 有機酸の海水溶液のpHが2〜5の範囲である上記(1)又は(2)に記載の海苔処理方法。
(4) 電気分解の方式が、陽極、陰極の間に隔膜を設けない無隔膜式とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の海苔処理方法。
(5) 電気分解液のpHが3〜5の範囲であり、かつ、酸化還元電位が1140mv以上で、遊離有効塩素濃度が1ppm以上である上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の海苔処理方法。
(6) 上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の条件で調製した電気分解液を用いて、海苔網を浸漬処理又は散布処理で処理する海苔処理方法。
(7) 電気分解液の調製は、海苔作業船上に設置された電気分解槽で行うと共に、海苔作業船上に設置された処理槽内で海苔網の処理を行い、かつ、電気分解槽と処理槽とはポンプを用いて電気分解液の循環を行い、海苔処理中は上記(5)に記載した処理液の性状を保持すべく電気分解が行われることを特徴とする海苔処理方法。
(8) 上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の条件で調製した電気分解液からなることを特徴とする海苔処理剤。
【0013】
本発明において、「海苔処理」とは、養殖海苔に着生し海苔の生育を阻害したり品質低下の原因となるケイ藻類等の雑藻類駆除、海苔葉体表面に着生または寄生してスミノリ症等の原因となる細菌類、および緑班病、擬似しろぐされ病等病害菌の駆除、または、防除、もしくは予防または海苔活性化を目的として、本発明を用いて、海苔網を処理液に浸漬したり、処理液を散布して施用するこという。
ここで、上記「雑藻類の駆除」とは、海苔に着生または混生するケイ藻類等の雑藻類を選択的に殺藻除去することを意味する。また、「病原細菌類の駆除、防除」とは、スミノリ症の原因となる針状細菌をはじめとして、緑斑病、擬似しろぐされ病等の原因となる細菌類の殺菌除去することを意味する。更に、「病害の防除もしくは予防」とは、海苔病害の治療または海苔が病害に冒されるのを予防することを意味する。また、「海苔の活性化」とは、海苔の生長促進、海苔の色、艶などの品質を向上させることを意味する。
また、本発明において、浸漬(液浸)処理とは、海苔の生育着生している海苔網をローラー等を用いて処理槽内へ手繰りこみ一定時間浸漬、または処理液中を通過させることをいう。また、散布処理とは、推進装置を備えた海苔処理船(潜り船ともいう)、または箱舟で海苔網の下を潜って海苔網を空中に持ち上げ、シャワーまたは散液ノズル等を用いて海苔網の下または上から処理液を散布することをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリアが効果的に駆除でき、かつ、スミノリ症等の原因となる有害細菌類もあわせて短時間で、効率的に駆除でき、また、従来の処理剤に比べ海洋環境に対する負荷が少ない海苔処理方法、海苔処理剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の海苔処理方法は、有機酸の海水溶液を電気分解して得られる電気分解液を用いて行う海苔の雑藻駆除及び海苔の病害駆除のための海苔処理方法であって、上記有機酸が、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明において、電気分解液を調製するための被電解液(原液)は、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなる有機酸の海水溶液からなり、かつ、そのpHが2〜5の範囲にあるものが望ましい。
用いることができる有機酸は、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸、例えば、プロピオン酸(pKa4.87)、酢酸(pKa4.76)、コハク酸(pKa4.21)、酪酸(pKa4.8)、吉草酸(pKa4.8)カプロン酸(pKa4.8)などの少なくとも1種(各単独、又は2種以上の混合物)が挙げられる。好ましくは、異臭が少なく使用し易い等の点から、コハク酸、酢酸、プロピオン酸の少なくとも1種望ましい。
なお、酸解離指数(pKa)4未満(電離定数が1×10超過)の酸、例えば、乳酸(pKa3.86)、リンゴ酸(pKa3.40)、クエン酸(pKa3.16)、酒石酸(pKa3.06)、フマル酸(pKa3.02)等を使用した場合には、電気分解によって生成した塩素等の酸化力の強い物質はこれら電離の大きな酸と反応し、電解液の酸化還元電位(ORP)及び遊離有効塩素(ACC)濃度はなかなか上昇せず、また、一旦上昇しても、電解電力の印加を中止すると、酸化還元電位及び遊離有効塩素濃度は速やかに低下し、殺菌力のある電解液を安定して供給することができないという課題が生じ、好ましくない。
本発明では、有機酸として、上記酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種を用いる場合には、電解液との反応性が低く、酸化還元電位及び有効塩素濃度の低下は起こりにくく、従って、安定した電解液が供給されるものとなる。
【0017】
また、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸、例えば、コハク酸、酢酸、プロピオン酸の中で比較すると、酢酸が若干反応性が高く、コハク酸とプロピオン酸はほぼ同等で電解液との反応性は低い性質を持っているものと推察される。これら二つの有機酸の他の物性を比較すると、コハク酸には常温での揮発性は殆んどないが、酢酸とプロピオン酸には高い揮発性があり、電解液使用現場で臭気を放つため、開放条件で使用する海苔処理剤として多量に使用するには若干使用性に劣ることとなる。一方、コハク酸は電解液の安定性及び常温での不揮発性では好ましい性質を有しているが、水に対する溶解性があまりよくなく、この点、電解補助剤として水溶液の原液を調製する場合少し不便である。
従って、本発明では、更なる使用性等の点から、特に好ましくは、コハク酸を主成分(有機酸中に50重量%以上)とし、更にプロピオン酸及び/又は酢酸を含有せしめることが望ましい。これにより、更により望ましい被電解液が供給できるものとなる。
【0018】
本発明において、被電解液の溶媒は、天然海水をそのまま用いることができ、更に天然海水に食塩、塩化カルシウム等の電解質成分を適宜量(1〜10重量%)添加してもよく、また塩濃度が海水と同様の食塩水からなる人工海水も用いることができる。
【0019】
また、上記被電解液(原液)のpHは、2〜5の範囲に調整されているものが好ましい。このpHの調整は、用いる有機酸種、使用量などにより調整され、上記有機酸等の酸の濃度は通常、海水溶液全量に対して、0.01〜0.5重量%(0.00001〜0.1モル)程度である。
このpHが2未満であると、電解液中に分子状塩素(Cl)の含有比率が高くなり、塩素ガス発生の危険性が高くなり、一方、pHが5を越えると、殺藻殺菌効果の低下が見られ、好ましくない。
【0020】
本発明において、電気分解液(電解液)は、上記酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなる有機酸が溶解され、かつpHが2〜5の範囲にある海水溶液(被電解液)に、陽極及び陰極からなる電極により直流電流を通電して得られるものである。また、電気分解の方式としては、装置の保守管理の容易性の点から、陰陽両極の間に隔膜を設けない無隔膜式とすることが好ましい。
本発明の効果が更に有効に作用するためには、得られる電気分解液は、pHが酸性であればよいが、pH3〜5であることが好ましい。この電気分解液のpHが3未満であると、電解液中に塩素化合物は分子状塩素(Cl)の含有比率が高くなり、塩素ガス発生の危険性が高くなり、一方、pHが5を越えると、殺菌力に劣る次亜塩素酸イオン(OCl)の比率が高くなり、殺藻殺菌効果の低下が見られ、好ましくない。従って、有害ガスの発生が防げ、かつ、殺菌、殺藻効果の高い次亜塩素酸(HOCl)の比率が高くなるpH3〜5の範囲にすることが好ましい。
また、海苔処理に使用する電解液の酸化還元電位(ORP)は、水素電極換算値で1140mv以上の酸化状態で、1ppm以上の遊離有効塩素濃度(ACC)の発生がある性状を示すものであればよいが、好ましくは、酸化還元電位(ORP)は。1150mv以上とすることが望ましく、更に好ましくは、1150〜1220mvとすることが望ましく、有効塩素濃度(ACC)は3ppm以上、更に好ましくは3〜15ppmとすることが更に望ましい。
【0021】
本発明では、有効な海苔処理に好適な上記範囲の電気分解液のpH、酸化還元電位(OPR)状態を保つためには、好ましくは、海苔処理実施中も新たな酸を溶解した酸溶液の補給と電解のための印加(通電)は継続し続けることが望ましい。酸溶液はpHメーターに連動させた給液ポンプによりpHを指標にして補給することが好ましく、印加の継続は残留塩素計に連動させた電源装置により、遊離有効塩素濃度を指標に印加を行うか、または、酸化還元電位計に連動させた電源装置により、酸化還元電位を指標に印加を行うことが好ましい。
【0022】
本発明において、処理槽で用いる海苔処理剤(液)は、上記条件となるように調製した電気分解液からなるものである。この電気分解液が収容される処理槽で、養殖海苔を浸漬処理するか(浸漬法、浸漬処理)、または、該電気分解液を養殖海苔に散布すること(散布法、散布処理)により、海苔の処理が行われる。
これらの海苔処理では、電気分解液と海苔が接触する時間、つまり、処理時間は、調製された電解液の性状及び、対象とする雑藻、病原菌により異なるが、1秒〜1分の間であることが好ましく、更に好ましくは、5秒〜30秒であることが望ましい。
上記処理槽で処理した後、海苔網は直ちに海水中に戻し通常の養殖が継続される。
【0023】
本発明において、上記有機酸の海水溶液の電気分解は、海苔作業船上に設置された電気分解槽で行い、調製された電解液は循環ポンプを用いて、同様に海苔作業船上に設置された処理槽に供給し、当該処理槽で海苔の処理を行う。電解槽と処理槽の間は、循環ポンプを用い、運転中は常時電解液の循環を行う。電解槽と処理槽は隣接して一体化した構造でも、作業船上の別々の位置に設置し、循環ポンプ、循環パイプで接続するいずれの構造を用いてもよい。
本発明に用いる電気分解槽に用いる電極は、陽極にカーボン、白金、パラジウム、イリジウム等が用いられるが、電解効率等の面から白金又は白金被覆電極を使用することが好ましい。陰極には、鉄、ステンレス、又はチタン等が用いられるが、防食性等の点から、ステンレス又はチタンを用いることが好ましい。
【0024】
本発明において、連続的に海苔処理を行うための具体的な装置としては、例えば、図1に示す海苔処理船10に搭載した海苔処理装置20を用いることができる。
図中、21は処理槽、22は電解液貯槽、23は電気分解槽、24は電解用酸原液貯槽、25はpH制御器、26は遊離塩素濃度制御機又はORP制御機、27は電解液補給配管、28は電解液回収配管、29は海苔網である。
【0025】
処理槽21で使用する上記電解液は、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなる有機酸の海水溶液を電気分解して得られる電解液であるので、タベラリア等のケイ藻類に対する駆除効果、及び針状細菌などの病害菌類に対する駆除効果は高く、これらの雑藻類、病害菌類は電解液に5秒〜20秒間程度接触するだけで、ほぼ100%の駆除効果が得られる。
本実施形態では、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を短時間で連続的に行うことができる。すなわち、図1に示したシステムの構造の処理船が、例えば、約10〜20m/分の速度で前方へ移動するものであれば、処理槽21で処理された海苔網29は、5秒から30秒で海苔処理が行われる。
【0026】
本発明において、図1に示すように、処理槽21で使用する電解液の調製は、海苔作業船10上に設置された電気分解槽23で行い、設定された遊離有効塩素濃度又は還元電位(ORP)を維持するようにモニターの遊離塩素濃度計又は酸化還元電位計(遊離塩素濃度制御機又はORP制御機26)に連動させて電気分解を継続する。また、電解液のpHは、pHメーター(pH制御機25)に連動させた給液ポンプにより電解用酸原液貯槽24より酸原液を供給して設定pH値に常時調整することが望ましい。
なお、電解液の少しくらいのpH値変動は、殺藻効果、殺菌効果に影響を与えないが、pHに影響を与える上述の有機酸の濃度は電解液の酸化還元電位に大きな影響を与え、ひいては、殺藻効果、殺菌効果に影響するため、運転中は常時pHを調整することが望ましい。
【0027】
本発明における海苔処理作業は、例えば、図1に示すように、海苔処理船10により、海苔網29の下を潜りながら行うことができる。海苔処理船10の推進移動により処理槽21に導入された海苔網29は電解液に浸漬された後、海苔網29は処理船10の進行にしたがって後方に空中を移動し、処理船10の後方で海面に戻される。この間、処理船の進行速度が10〜20m/分前後で、処理槽21の縦軸方向の長さが2〜4mであれば、処理槽21での浸液処理時間は6〜24秒の短時間となる。なお、海苔処理船上の処理槽は縦軸方向の寸法が約2〜4mである。
本発明では、処理槽21には、上述の条件で調製した電気分解液を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で海苔処理することができることとなる。
【0028】
このように構成される本発明では、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなる有機酸の海水溶液を電気分解して得られる電気分解液を用いて海苔の雑藻駆除及び海苔の病害駆除を行うものであり、電解中は速やかな酸化還元電位(ORP)と遊離有効塩素濃度(ACC)の上昇が見られ、pHの変動は小さく安定した電解液が得られると共に、印加中止後、24時間経過したものであっても電解液は優れた安定性を有するものとなるため、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリア等が効果的に駆除でき、かつ、スミノリ症をはじめとする病害菌類を短時間に、効率的に、かつ、連続的に防除でき、健全な養殖海苔を育成できる海苔処理方法、海苔処理剤が得られることとなる。
【実施例】
【0029】
次に、試験例となる実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
下記試験例1〜3は、図2に示す、処理槽1(総容量4リットル)と電気分解処理装置となる電気分解槽(総容量1リットル)2とを有する海苔処理装置を使用した。電気分解に使用する直流電流は、ケンウッドテイー・エム・アイ社製の直流定電圧・定電流電源PR36−3Aにより供給した。電解方式は、無隔膜式とし、電解電極は、下記試験例1〜3に示す電極を使用した。循環ポンプ3には、腐蝕を防ぐため液接部分には金属を使用しないケミカルポンプを使用し、3分間で全液量が1回転する循環量とした。
ORP及びpHの測定は、東興化学社製パーソナルpH/ORPメータで測定、有効塩素(ACC)は関東化学(株)製「残留塩素測定用ラピッドDPD試薬」で検出した。
【0031】
(試験例1)
塩酸、コハク酸、酢酸及びプロピオン酸のそれぞれにつき数段階のpHの海水溶液(被電解液)を調製し、それぞれにつき電気分解を行い、それぞれの電解液の性状を印加時間の経過と共にその経時変化を評価した。
また、印加開始30分経過後の電解液を用い、海苔の付着ケイ藻であるタベラリア及びリクモフォーラの殺藻試験、針状細菌の殺菌試験及び海苔葉体細胞に対する傷害性試験を行った。
電気分解は、陽極にカーボン、陰極に鉄を使用し、電解電力は6V×0.35Aとした。電解液の調製及び海苔葉体処理の温度は、11℃であった。
これらの試験結果を下記表1〜表4に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
上記表1の結果を見ると、塩酸添加海水では、電解前のpHが3.00の場合は、電気分解によりpHにさほど大きな変化は見られず、有利有効塩素(ACC)もよく発生し、ケイ藻類の殺藻効果も高いことが判った。しかし、pH4以上の被電解液ではpH上昇が大きく、ACCの発生濃度も低く、ケイ藻殺藻効果及び殺菌は著しく劣ることが判った。これは、塩酸も電気分解を受け、かつ、塩酸の緩衝作用が弱いためpH変動が大きく現れ、そのためケイ藻殺藻作用も弱くなったものと考えられる。
これに対して、上記表2〜4の結果から明らかなように、コハク酸電解液、酢酸電解液及びプロピオン酸電解液では、pH3〜5のいずれも電解液中のpH変化は軽微で、かつ、ACCの発生状況も良好であった。このため、ケイ藻類殺藻及び殺菌効果も高く性能の安定した電解液が生成されることが判明した。
【0037】
(試験例2)
コハク酸0.05重量%及び酢酸0.05重量%を添加した海水溶液と、塩酸0.007重量%添加した海水溶液、コハク酸0.05重量%及びプロピオン酸0.05重量%を添加した海水溶液、コハク酸0.05重量%と、酢酸0.025重量%とプロピオン酸0.025重量%を添加した海水溶液からなる被電解液を電気分解し、印加中及び印加中止後の電解液性状の経時変化を評価した。電気分解には、実施例1で使用した電解槽を使用したが、電気分解は、陽極に白金を、陰極にステンレスを使用し、電解電力は6V×0.5Aとした。また、印加開始30分経過後の電解液を用い、海苔の付着ケイ藻であるタベラリア及びリクモフォーラの殺藻試験、針状細菌の殺菌試験及び海苔葉体細胞に対する傷害性試験を行った。
電解液の調製及び海苔葉体処理の温度は、11℃であった。
これらの試験結果を下記表5及び表6に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
上記表5及び表6の結果を見ると、コハク酸0.05重量%及び酢酸0.05重量%を添加した被電解液、コハク酸0.05重量%及びプロピオン酸0.05重量%を添加した海水溶液、コハク酸0.05重量%と、酢酸0.025重量%とプロピオン酸0.025重量%を添加した海水溶液は、印加後速やかな酸化還元電位(ORP)と遊離有効塩素濃度(ACC)の上昇が見られ、pHの変動は小さく安定した電解液が得られた。この電解液の安定性は、印加中止後24時間経過しても保たれていた。このため、ケイ藻類殺藻及び殺菌効果も高く性能の安定した電解液が生成されることが判明した。
これに対して、塩酸を添加した被電解液は、印加後、ORP及びACCの上昇に時間がかかり、電解液が酸化力を示すようになるのに、20分間の印加時間を要した。また、ORPが高くなった時間頃からpHの上昇が起こり、印加30分後には1.0以上のpH上昇が見られた。このpH上昇は、印加中止後にも続き、24時間後には更に0.5以上のpH上昇が見られ、この試験においても塩酸よりはコハク酸、酢酸を添加した方が安定した性能の電解液が生成された。
【0041】
(試験例3)
モノカルボン酸であるプロピオン酸、酢酸、乳酸、ジカルボン酸であるコハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、トリカルボン酸であるクエン酸の海水溶液を電気分解し、印加中及び印加中止後の電解液性状の経時変化を測定した。
各有機酸の濃度は、0.1%、0.2%及び0.4%とし、電気分解は試験例1及び2で使用した実験装置を使用して実施した。電解電極は、陽極にカーボン、陰極にチタンを使用し、電解電力は6V×0.2Aとした。電解温度は11℃であった。
これらの試験結果を下記表7〜9に示す。
【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
【表9】

【0045】
上記表7〜9の結果を見ると、印加開始後、酸化還元電位(ORP)と遊離有効塩素濃度(ACC)が最も速やかに上昇し、かつ、高濃度酸溶液でもこれら有利有効塩素等の酸化物質が生成され、安定的に維持されるのはプロピオン酸とコハク酸であった。同様の性質を示してこれにつぐものは酢酸であったが、酢酸の場合は高濃度になるとORPの上昇及びACCの発生までに時間を要した。
これらプロピオン酸、コハク酸及び酢酸の酸解離指数(pKa)は、それぞれ4.87、4.21及び4.76であり、pKaはすべて4以上の酸である。
これに対して、乳酸、リンゴ酸及び酒石酸の低濃度電解液では、ORPのある程度の上昇、及び低濃度ではあるがACCの発生も認められる。しかしながら、印加時間が長くなると、ORPは逆に低下する傾向が見られマイナス電位を示すようになる。また、印加を中止してもこの変化は継続又は促進された。更に、これら有機酸の高濃度液では、ORPは上がることなく、印加時間と共に低下した。これらの酸の酸解離指数(pKa)は、それぞれ3.86、3.40、3.06であった。
また、フマル酸及びクエン酸では、遊離有効塩素の生成は、最も少なく、特にフマル酸では全く発生が認められなかった。塩素の生成が少ないため、ORPの上昇も低く、1000mv以上に達したのは、低濃度クエン酸区の一時期のみであった。これらの酸の解離指数(pKa)はフマル酸が3.02、クエン酸が3.16であった。
【0046】
以上の結果を総合すると、酸解離指数(pKa)4以上のコハク酸、酢酸、プロピオン酸から選ばれる有機酸の少なくとも1種からなる有機酸の海水溶液を電気分解して得られる海苔処理剤は、電解中は速やかな酸化還元電位(ORP)と遊離有効塩素濃度(ACC)の上昇が見られ、pHの変動は小さく安定した電解液が得られると共に、印加中止後、24時間経過したものであっても電解液は優れた安定性を有するものとなるため、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリア等が効果的に駆除でき、かつ、スミノリ症をはじめとする病害菌類を短時間に、効率的に、かつ、連続的に防除でき、健全な養殖海苔を育成できる海苔処理方法、海苔処理剤が得られることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態の一例であり、海苔処理方法に用いる海苔処理装置を搭載した海苔処理船を示すシステムの概略図面である。
【図2】海苔処理方法に用いる電気分解生成装置の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0048】
10 海苔処理船
21 処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸の海水溶液を電気分解して得られる電気分解液を用いて行う海苔の雑藻駆除及び海苔の病害駆除のための海苔処理方法であって、上記有機酸が、酸解離指数(pKa)4以上の有機酸の少なくとも1種からなることを特徴とする海苔処理方法。
【請求項2】
有機酸がプロピオン酸、酢酸、コハク酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の海苔処理方法。
【請求項3】
有機酸の海水溶液のpHが2〜5の範囲である請求項1又は2に記載の海苔処理方法。
【請求項4】
電気分解の方式が、陽極、陰極の間に隔膜を設けない無隔膜式とする請求項1〜3の何れか一つに記載の海苔処理方法。
【請求項5】
電気分解液のpHが3〜5の範囲であり、かつ、酸化還元電位が1140mv以上で、遊離有効塩素濃度が1ppm以上である請求項1〜4の何れか一つに記載の海苔処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の条件で調製した電気分解液を用いて、海苔網を浸漬処理又は散布処理で処理する海苔処理方法。
【請求項7】
電気分解液の調製は、海苔作業船上に設置された電気分解槽で行うと共に、海苔作業船上に設置された処理槽内で海苔網の処理を行い、かつ、電気分解槽と処理槽とはポンプを用いて電気分解液の循環を行い、海苔処理中は請求項5に記載した処理液の性状を保持すべく電気分解が行われることを特徴とする海苔処理方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一つに記載の条件で調製した電気分解液からなることを特徴とする海苔処理剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−151925(P2006−151925A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348713(P2004−348713)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000208787)第一製網株式会社 (24)
【Fターム(参考)】