説明

海藻由来の免疫賦活剤及び抗炎症剤

【課題】安全性の高い、天然物由来の抗炎症剤を提供する。
【解決手段】褐藻類に属する海藻由来の、マグネシウムを含有する分子量250〜500のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害物質を含む、医薬組成物。褐藻類に属する海藻は、ダービリア属、モズク属、マツモ属、レッソニア属、カジメ属、マクロシスティス属、ヒバマタ属、又はアスコフィラム属に属する海藻であることが好ましく、特に、ダービリア属、モズク属が好ましい。
【効果】ダービリア属に属する海藻由来の成分は、COX-2を選択的に阻害するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褐藻類より得られる低分子化合物を有効成分とする、免疫賦活剤及び抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
褐藻類に含まれるフコイダンについては、多岐に渡る学術的研究が成されている。フコイダンに関する研究においては、抗炎症作用、基礎免疫賦活化作用、抗癌作用等、フコイダンの構造からは考えられ得ない活性も報告された。しかし、目的の作用が、粗精製のフコイダンでは追試・確認できるものの、精製したフコイダンでは確認できなくなるものもあり、当初フコイダンの作用と信じられていた重要な活性の幾つかは、被験試料に混在しているフコイダン以外の成分によるものであることが明らかにされつつある。
【0003】
例えば、抗癌作用に関しては、動物実験や培養細胞系で検討されている癌細胞や腫瘍細胞のアポトーシスを誘導できる成分はフコイダンではなく、フコキサンチンであることが証明されている。また、フコイダンは細胞増殖周期のG0→G1期を停止させることにより、癌細胞や腫瘍細胞の増殖を阻害する作用を有すると報告されたが、これもフコイダン以外の成分に起因することが明らかにされている。抗炎症作用に関しては、フコイダンがホスホリパーゼA2(PLA2)を阻害することによりアラキドン酸カスケードを停止させ、抗炎症作用を示すことが報告された(特許文献1)が、これもフコイダン以外の成分に起因することが明らかにされている。
【0004】
また、本発明者らは各種の褐藻類に由来する生理学的/薬理学的作用を有する物質を研究してきたが、インスリン抵抗性改善作用を示す成分はフコイダンではなくフコキサンチンであることを明らかにした(特許文献2)。さらに本発明者らは、モズク由来のフコキサンチンとも異なる低分子画分にアポトーシス誘導効果を見出し(非特許文献1)、またその画分を精製してマウス肺癌細胞を足掌に移植したマウスに経口投与したところ、肺への転移巣及び原発部の腫瘍の大きさが低下し、かつ末梢血中のナチュラル・キラー細胞(natural killer cell; NK細胞)細胞及びリンホカイン活性化キラー細胞(lymphokine activated killer cell; LAK細胞)の割合が増加しうることを明らかにした(非特許文献2)。これらの各細胞の活性化にはプロスタグランジン類の濃度が関与していることが知られている。
【0005】
プロスタグランジン類はアラキドン酸カスケードにより産生される炎症の代表的なメディエーターである。アラキドン酸カスケードは、細胞外から種々の刺激に反応して、生体膜のリン脂質がホスホリパーゼA2 (PLA2)によりアラキドン酸に変換されることにより開始する。次いでアラキドン酸は、シクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase; COX)の作用により、2種類のプロスタグランジン類(PGG2、PGH2)に変換され、さらに各種細胞に存在する特異的な合成酵素により、生理的に重要な4種類のプロスタグランジン類(PGD2, PGE2, PGF2a, PGI2)とトロンボキサン(thromboxane; TX)A2が合成される。
【0006】
COXとしては、COX-1及びCOX-2という2種類のアイソザイムが知られている。COX-1は胃や腸などの消化管、腎臓、血小板等に構成的に発現している酵素であり、胃液分泌、利尿、血小板凝集等の生理的な役割を担っている。他方、COX-2は、通常ではどの細胞にもほとんど発現していないが、サイトカインや発ガンプロモーター等の刺激により、マクロファージ、線維芽細胞、血管内皮細胞、ガン細胞等で誘導され、炎症反応、血管新生、アポトーシス、発癌に関与する。アスピリンのような非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal antiinflammatory drug, NSAID)はCOX活性を阻害することにより炎症惹起性プロスタグランジン類産生を抑え、抗炎症作用を発揮することが知られている。しかしながら、アスピリンはCOXに対する選択性がなく、COX-1及びCOX-2の両方を阻害するので、主に消化器系への副作用が問題になることがある。
【0007】
COX-2により選択性の高い阻害剤が人工的に合成され、抗炎症剤や抗癌剤として使用され始めているが、このようなCOX-2選択的阻害剤においてもプロスタグランジン類とロイコトリエン類のアンバランスから心臓関係に重篤な副作用が報告されている。
【特許文献1】特開平8-92103号公報
【特許文献2】特願2006-144854号
【非特許文献1】第58回 日本栄養・食糧学会大会(平成16年5月21〜23日開催) 講演要旨集、2J-5p
【非特許文献2】第59回 日本栄養・食糧学会大会(平成17年5月12〜15日開催) 講演要旨集、2I-6a
【発明の開示】
【0008】
より安全性の高い、好ましくは天然物由来の抗炎症剤が求められている。
【0009】
本発明者らは、褐藻類抽出物について検討を進めた結果、ある画分にCOX-2に対する阻害活性を見出した。このような活性は、フコイダンやフコキサンチン等の既知の褐藻類由来の成分には認められておらず、新規物質である可能性がある。従って、この物質の特定を試み、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、すなわち、以下のものを提供する:
1)褐藻類に属する海藻由来の、マグネシウムを含有する分子量250〜500のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害物質を含む、医薬組成物。
2)褐藻類に属する海藻が、ダービリア属、モズク属、マツモ属、レッソニア属、カジメ属、マクロシスティス属、ヒバマタ属、又はアスコフィラム属に属する海藻である、上記1)の医薬組成物。
3)褐藻類に属する海藻が、ダービリア属に属する海藻であり、COX-2阻害物質が、COX-2を選択的に阻害するものである、上記2)の医薬組成物。
4)免疫賦活及び/又は炎症抑制のために用いる、上記1)〜3)のいずれかの医薬組成物。
5)大腸ガン、胃ガン、食道ガン、肺ガン、肝ガン、膵ガン、皮膚ガン、前立腺ガン、乳ガン、子宮ガン、慢性関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、炎症性疾患、又は術後疼痛の処置のために用いる、上記4)の医薬組成物。
6)褐藻類に属する海藻由来の、マグネシウムを含有する分子量250〜500の物質を有効成分とする、COX-2阻害剤。
7)褐藻類に属する海藻が、ダービリア属に属する海藻であり、COX-2を選択的に阻害するものである、上記6)のCOX-2阻害剤。
8)褐藻類に属する海藻を原料とすることを特徴とする、COX-2阻害剤の製造方法。
9)褐藻類に属する海藻が、ダービリア属に属する海藻であり、COX-2阻害剤が、COX-2を選択的に阻害するものである、上記8)に記載の製造方法。
【0011】
本明細書で「褐藻類」というときは、特別な場合を除き、褐藻綱(Phaeophyceae)に分類される藻類をいう。褐藻類には、ナガマツモ目(Chordariales)、コンブ目(Laminariales)、ウイキョウモ目(Dictyosiphonales)、アミジグサ目(Dictyotales)、ヒバマタ目(Fucales)、イソガワラ目(Ralfsiales)、カヤモノリ目(Scytosiphonales)、シオミドロ目(Ectocarpales)、クロガシラ目(Sphacelariales)、ウルシグサ目(Desmarestiales)、ムチモ目(Cutleriales)、ケヤリ目(Sporochnales)、ウスバオウギ目(Syringodermatales)に属する藻類が含まれ、またダービリア属、モズク属、マツモ属、レッソニア属、カジメ属、マクロシスティス属、ヒバマタ属、又はアスコフィラム属に属する藻類が含まれる。褐藻類には、具体的には、ダービリア属ではダービリア アンタークティカ(Durvillea antarctica)、モズク属ではモズク(Cladoshiphon caredoniae)、マツモ属ではマツモ(Nemacystis decipiens)、レッソニア属ではレッソニア ニグレッセンス(Lessonia nigrescens)、カジメ属ではカジメ(Ecklonia cava)、マクロシスティス属ではジャイアントケルプ(Macrocystis pyrifera)、ヒバマタ属ではヒバマタ(Fucus evanescens)やフカス ベシキュロサス(Fucus vesiculosus)、アスコフィラム属ではアスコフィラム ノードスム(Ascophyllum nodosum)等を挙げることができる。
【0012】
本明細書で「ダービリア アンタークティカ」というときは、特別な場合を除き、主に南極近海(チリ沖)に生息する、コンブに似た海洋植物ダービリア アンタークティカ(Durvillea antarctica)をいう。ダービリア アンタークティカは、単に「ダービリア」と称されることもある。
【0013】
本明細書で「モズク」というときは、特別な場合を除き、ナガマツモ目のナガマツモ科(Chordariaceae)、ニセモズク科(Acrohtricaeae)又はモズク科(Spermatochnaceae)に属する褐藻類をいい、これには、イシモズク、フトモズク、クロモ、マツモ、モズク(Nemacystus decipiens Okam)(通称:イトモズク)、オキナワモズク(Cladoshiphonokamuranus Tokida)(通称:フトモズク)、ニューカレドニア近海に生育するCladoshiphon novae-caledoniaeKylin)及びトンガ王国近海に生育するCladoshiphon caledoniae Kylinが含まれる。
【0014】
本発明の医薬組成物及びCOX-2阻害剤は、褐藻類に属する海藻由来のCOX-2阻害物質を含む。活性成分は比較的低分子の化合物であり、原料褐藻によって若干の分子量の差異を認めるが、その分子量は約250〜500である。最も特徴的な性質としてマグネシウムを構造中に結合していることである。活性成分は、水、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン等には容易に溶けるが、酢酸エチルアルコール等には不溶性である。
【0015】
本発明者らの検討によると、特に、ダービリア アンタークティカ由来の本発明の低分子化合物は、COX-2を選択的に阻害することにより、プロスタグランジン類の産生を抑制し、優れた基礎免疫賦活作用や抗炎症作用を発揮しうるものである。ある化合物がCOX-2阻害活性を有するか否か、及びある化合物がCOX-2選択的阻害活性を有するか否かは、当業者であれば適切な手法を用いて評価することができる。例えば、本明細書の実施例に記載されているように、市販のキットを用いて対象物質についてCOX-1阻害活性及びCOX-2阻害活性を評価することができ、COX-1をほとんど阻害しない(例えば、COX-1に対する阻害活性が15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは0%である)濃度においても、COX-2を阻害することができる場合に、COX-2選択的阻害活性を有すると判断することができる。また、対象物質についてlog[IC80ratio WHMA COX-1/COX-2]値を求め(ここで、WHMAとは、William Harvey Human Modified Whole Blood Assayをいう。)、その値が0よりも大きいときは、COX-2選択的阻害的であると判断することができる。
【0016】
本発明の医薬組成物及びCOX-2阻害剤は、COX-2が関連する疾患又は状態、具体的には、大腸ガン、胃ガン、食道ガン、肺ガン、肝ガン、膵ガン、皮膚ガン、前立腺ガン、乳ガン及び子宮ガン等のガン、並びに慢性関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、炎症性疾患及び術後疼痛等の炎症を伴う疾患又は状態の処置のために有用である。
【0017】
本明細書において疾患又は状態について「処置」というときは、特別な場合を除き、その疾患又は状態について、治療すること、予防すること、進行を遅延又は停止すること、良好な状態を維持することが含まれ、治療には、症状を抑える対処的治療と、根本的な治療とが含まれる。
【0018】
本発明の低分子化合物は腫瘍細胞の増殖を阻害するが(実施例参照)、本発明者らが細胞増殖周期への影響を調べたところによると、本発明の低分子化合物は、細胞周期のG0からG1への移行をブロックして細胞の増殖を阻害していること分かった。したがって、本発明の医薬組成物及びCOX-2阻害剤は、上述した大腸ガン、胃ガン、食道ガン、肺ガン、肝ガン、膵ガン、皮膚ガン、前立腺ガン、乳ガン及び子宮ガン等のガンの治療のためのみならず、予防のためにも用いうるものである。
【0019】
本発明の低分子化合物の急性毒性は経口で約2g/kg体重以上、腹腔内投与でLD50が約200mg/kgであった。また、本発明の低分子化合物は、121℃、15分の加熱で安定であり、pH2.0〜7.5の範囲で安定であった。また、室温、開封条件下であっても、1年以上酸化に対して安定であった。
【0020】
本発明の低分子化合物は、褐藻類の海藻より抽出・精製することにより、得ることができる。
【0021】
原料としては、例えばダービリア属、モズク属、マツモ属、レッソニア属、カジメ属、マクロシスティス属、ヒバマタ属、アスコフィラム属に属する海藻を用いることができ、より具体的には、ダービリア アンタークティカ、モズク、マツモ、レッソニア ニグレッセンス、カジメ、ジャイアントケルプ、ヒバマタ、フカス ベシキュロサス、アスコフィラム ノードスムを用いることができる。特に、COX-2に対するより高い選択性の観点からは、ダービリア属のダービリア アンタークティカ、並びにヒバマタ属のヒバマタ及びフカス ベシキュロサスが好適である。
【0022】
例えば、粗抽出液は細断した全藻を水、酸又は親水性有機溶媒を単独又は組み合わせて得られる溶媒を用いて抽出することができる。
【0023】
褐藻類の海藻からの、フコイダン抽出液又はフコキサンチン抽出液を利用することもできる。例えば、フコイダンの抽出液については、該抽出液の限外ろ過膜透過液を濃縮し、得られた濃縮液を最終濃度が85%以上のエチルアルコールで分画し、その上清から、本発明の低分子化合物得ることができる。フコキサンチンの抽出液については、該抽出液のアルコールを減圧等の方法で除去した後、酢酸エチルを用いた液/液分配法から得られる水層を最終濃度が85%以上のエチルアルコールで分画し、その上清から得ることができる。
【0024】
これらの各液にはヒ素も含まれている為、これを除去する目的で、最終濃度85%以上のアルコールで処理し、その上清を得る。これにより低分子化合物に含まれるヒ素濃度は1ppm以下にまで除去される。その後、ODS等の逆相樹脂を用いて精製する方法等がある。
【0025】
本発明の医薬組成物の用量、投与経路、剤形は、当業者であれば適宜設計することができる。
【0026】
用量は、例えば、成人一日当たり、好ましくは0.3〜15,000mg、より好ましくは3〜1500mg、さらに好ましくは30〜150mgとすることができる。予防、維持の目的では、より少ない量で効果的な場合もありうる。投与は一日分の量を、単回で投与してもよく、複数回(例えば、一日2回又は3回)に分割して投与してもよい。
【0027】
本発明の医薬組成物は、経口的に投与することができ、また腹腔内、皮下、静脈内に投与することができる。本発明の医薬組成物は、当業者であれば、投与経路に応じた種々の製剤形態とすることができる。例えば、本発明の低分子化合物は溶液又は凍結乾燥や噴霧乾燥等により乾燥粉末物としたり、ペースト状に調製してもよい。より具体的には、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、注射剤とすることができる。経口投与製剤は、好ましい例の一つである。
【0028】
本発明の医薬組成物は、医薬として許容される添加剤、例えば、賦形剤、結合剤、安定剤、保存剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、溶解剤、緩衝剤を用いることができる。また、本発明の低分子化合物又は本発明の医薬組成物は、目的とする疾患又は状態の処置のために有効な他の成分と組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0029】
次に、試験例、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[低分子化合物の抽出、精製]
海藻からの低分子化合物の抽出、精製は谷らの方法(前掲非特許文献2)に準じて行った。
【0031】
ダービリア・アンタークティカ(Durvillea antarctica)及びクラドシフォン カレドニア(Cladoshiphon caledoneae)について行った例を以下に示す。
【0032】
1) ダービリア アンタークティカ乾燥藻体(チリ産、株式会社 エフ・シーシー堀内)100gを細断し、20倍量の脱イオン水を加え、撹拌しながら85℃、20分間加熱抽出した。遠心分離により抽出液を得、排除限界分子量1,000の限外濾過モジュールを用いて限外濾過を行った。透過液を集め、減圧下にて濃縮後、エチルアルコールを加え、その最終濃度を85%(v/v)以上にした。遠心分離により上清を得、減圧下にて濃縮乾固した。これを50%(v/v)エチルアルコールに溶解し、50%(v/v)エチルアルコールで平衡化しているゲル濾過カラム(トーソーHW40S)に負荷し、精製した。収量180mg、収率0.18%。
【0033】
2) ダービリア アンタークティカ冷凍藻体(チリ産、株式会社 エフ・シーシー堀内)100gを細断し、等量の99.5%エチルアルコールを加え、室温下で48時間抽出した。遠心分離により抽出液を得、減圧下にてエチルアルコールを除去した。これに酢酸エチルを加え、分液ロートに入れ、激しく撹拌した。水層を集め減圧下にて濃縮乾固し、以下1)の方法に準じて精製した。収量68mg、収率0.068%。
【0034】
3) クラドシフォン カレドニア冷凍藻体(トンガ王国産、タングルウッド株式会社)100gに等量の99.5%エチルアルコールを加え、室温下で48時間抽出した。遠心分離により抽出液を得、減圧下にてエチルアルコールを除去した。これに酢酸エチルを加え、分液ロートに入れ、激しく撹拌した。水層を集め減圧下にて濃縮乾固し、以下1)の方法に準じて精製した。収量4mg、収率0.004%。
【0035】
[物質の同定]
各海藻からの精製された低分子化合物(以下、CCKと称する。)の特徴を、次の表にまとめて示した。
【0036】
【表1】

【0037】
また、CCKをLC-MS及びFT-IRにより分析した。
【0038】
HPLCは、NANOSPACESI-2 (資生堂社)、マススペクトロメーターは、LCQ DEC XP(サーモエレクトロン社)を用いた。HPLCでは、Superdex Peptide PE7.5/300(ファルマシア社)をカラムとして使用し、移動相は50%(v/v)エチルアルコール、流速0.5ml/min、カラム温度は40℃とした。マススペクトロメーターは、SIM法により、測定モードはポジティブとした。キャピラリー温度、ESIスプレー電圧及びマルチプライヤー電圧は、それぞれ250℃、4.5kv及び1,100Vとした。そしてシースガスとして窒素(75psi)を用いた。
【0039】
LC-MSの解析から、Mgの存在の可能性が示唆されたため、Finnigan社(アメリカ合衆国)製のLCQ DecaXP MAX Revision 1.4 softwareを用いて詳細に解析した(データー示さず)後、CCKのMg量をマグネシウムB-テストワコー(和光純薬社)で測定した。CCKの濃度(分子量をLC-MS分析値である313として算出)1.58μmole/ml当たりMgの濃度が1.36μmole/mlであったことから、Mgは等モル比でCCKに結合していると判断した。
【0040】
FT-IRは、CCKをKBr錠剤にて調製後、Magna 860(Nicolet社)(分解能4cm-1)により透過法で測定した。
【0041】
ダービリア アンタークティカ乾燥藻体由来のCCK(以下、単に「ダービリア アンタークティカ由来CCK」というときはこれを指す。) について得られたLC-MSのスペクトルを図1に示した。
【0042】
また、同CCKのFT-IRのスペクトルを図2に示した。
【0043】
なお、HPLC及びLC-MSの結果から、精製物にはCCK以外の成分は実質的に含まれないことが分かった。
【0044】
[シクロオキシゲナーゼ阻害活性]
ダービリア アンタークティカ由来CCKとクラドシフォン カレドニア由来CCKとについて、colorimetric COX (ovine) inhibitor screening assay キット(cayman 社、アメリカ合衆国)を用い、COX-1又はCOX-2に対する阻害活性を測定した。測定は、同社の分析操作法に基づいて行った。すなわち、COX-1とCOX-2の阻害剤としてCCKを所定の緩衝液に溶解し、系に指定の量添加して反応後、590nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。結果を下表に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
いずれもCOX-2阻害活性を有した。特に、ダービリア アンタークティカ由来CCKはCOX-1にはほとんど作用せず、COX-2選択的であった。ダービリア アンタークティカ由来CCKのCOX-2に対するIC50は、約12μg(38.7 nM(CCKの分子量を310として算出))であった。
【0048】
なお、いすれにもPLA2阻害活性は認められなかった(データ示さず。)
[ナチュラルキラー細胞の活性化]
マウス(C57BL/6、♂、5週令、日本クレア社)を5匹を1群としステンレス製ケージに入れ、1週間予備飼育にて馴化した。1×105個の培養マウスルーイス肺癌細胞(2LL)をマウス右足掌に移植し、1週間飼育した後、本発明のダービリア アンタークティカ由来CCKを投与した。投与量は0〜80μg/kg体重になるように滅菌水道水に溶解し、自由摂取させた。ダービリア アンタークティカ由来CCKの投与量0を対照とした。さらに1ヶ月間、同一条件下で飼育した後、末梢静脈血のナチュラルキラー(NK)細胞とインターロイキン2誘導性キラー(LAK)細胞の割合をフローサイトメーターで測定した。4週間目における各々の結果を表 ナチュラルキラー細胞の活性化に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
[腫瘍細胞の増殖抑制]
マウスルーイス肺癌細胞(2LL)を培養し、1.0×106個細胞/mlに調製した細胞を96穴マイクロプレートに100μl入れ、培養液中にダービリア アンタークティカ由来CCKを0〜15μg/mlになるように添加して、37℃、5%CO2雰囲気下で0〜48時間培養した。各細胞の増殖割合をMTTアッセイ法(渡邊 正己、富永 英之、脱アイソタイプ実験プロトコール(2)キット簡単編、秀潤社、302、(1994))で測定した。結果を下表に示した。
【0051】
【表5】

【0052】
腫瘍細胞の増殖は本発明のCCKの濃度上昇と逆相関し、阻害が顕著に認められた。48時間後の腫瘍細胞の増殖率は7.5μg/mlの添加では、0μg/ml(対照)に比して、約50%抑制されており、15μg/mlでのそれは約90%も抑制されていた。この時の細胞の状態をフローサイトメーターにて調べたところ、90%以上の細胞が生細胞であったので、種々の状態での細胞死を誘導しているのではなく、細胞の増殖を阻害していると考えられた。そこで、細胞増殖周期への影響をフローサイトメーターにて調べた(データは示さず)。
【0053】
その結果、本発明のCCKは細胞周期のG0からG1への移行をブロックして細胞の増殖を阻害していた。
【0054】
[考察]
以上のように、本発明の免疫賦活剤及び抗炎症剤はダービリア属、モズク属共にシクロオキシゲナーゼ活性を顕著に阻害する作用を有しており、特にダービリア属のそれはシクロオキシゲナーゼ-2に高い選択性を示した。この様なマグネシウムを構造中に持つシクロオキシゲナーゼ-2選択性阻害剤は従来知られておらず、全く新規の物質である。さらにこれらを経口的に投与するのみでNKやLAK等の基礎免疫担当細胞を活性化/賦活化できることも明らかにした。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、ダービリア アンタークティカ由来CCKのLC-MSスペクトルである。
【図2A】図2Aは、ダービリア アンタークティカ由来CCKのFT-IRスペクトルである。
【図2B】図2Bは、上から順に、ダービリア アンタークティカ由来CCK、水酸化マグネシウム、水、メタノールそれぞれのFT-IRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐藻類に属する海藻由来の、マグネシウムを含有する分子量250〜500のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害物質を含む、医薬組成物。
【請求項2】
褐藻類に属する海藻が、ダービリア属、モズク属、マツモ属、レッソニア属、カジメ属、マクロシスティス属、ヒバマタ属、又はアスコフィラム属に属する海藻である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
褐藻類に属する海藻が、ダービリア属に属する海藻であり、COX-2阻害物質が、COX-2を選択的に阻害するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
免疫賦活及び/又は炎症抑制のために用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
大腸ガン、胃ガン、食道ガン、肺ガン、肝ガン、膵ガン、皮膚ガン、前立腺ガン、乳ガン、子宮ガン、慢性関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、炎症性疾患、又は術後疼痛の処置のために用いる、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
褐藻類に属する海藻由来の、マグネシウムを含有する分子量250〜500の物質を有効成分とする、COX-2阻害剤。
【請求項7】
褐藻類に属する海藻が、ダービリア属に属する海藻であり、COX-2を選択的に阻害するものである、請求項6に記載のCOX-2阻害剤。
【請求項8】
褐藻類に属する海藻を原料とすることを特徴とする、COX-2阻害剤の製造方法。
【請求項9】
褐藻類に属する海藻が、ダービリア属に属する海藻であり、COX-2阻害剤が、COX-2を選択的に阻害するものである、請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2008−120738(P2008−120738A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306931(P2006−306931)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(506177796)ハイドロックス株式会社 (4)
【出願人】(500568941)株式会社エフ・シーシー堀内 (2)
【Fターム(参考)】