説明

海藻種苗の生産方法

【課題】種々の海藻類の幼体を種苗として効率的に育成することが可能な、全く新規な種苗生産方法を提供することを課題とする。
【解決手段】海水の比重と実質的に同じ比重を有し、上面に凹部を有した小ブロック状の海藻育成基質を複数個準備し、当該凹部に海藻の幼胚を播種する工程Aと、前記基質を平面状に配列し、幼体になるまで培養する工程Bと、培養後の基質をそのまま、海水の入った水槽の中に移し、各幼体単独での浮遊状態を維持できるように海水注入及びエアレーションにより水槽内を撹拌しながら培養する工程Cと、培養後の基質を一定間隔をあけた状態で基質固定手段に取り付け、藻場造成のための海藻種苗の移植または海面養殖のための海藻種苗の沖出しを行う工程Dとを含む。上記基質の材質としてはABS樹脂が好ましく、基質固定手段としてはロープやプラスチック製ブロック等が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体攪拌法を用いて海藻を増養殖するための種苗を生産する方法に関し、特にヤツマタモクやホンダワラ等の固着性褐藻類の幼体を効率的に種苗として培養養成する方法に関するもので、海洋での褐藻類の養殖や藻場造成などに適用できる。
【背景技術】
【0002】
ホンダワラ、アラメなどに代表される褐藻類は、その優れた栄養価などにより、近年は特に現代人の健康増進食材として着目されて需要が高まりつつある。さらに褐藻類の繁茂した藻場には、海水中の栄養塩を吸収する環境浄化機能があるが、埋め立てなどによって藻場が減少し、近年藻場を増やす藻場造成が積極的に行われている。従来よりこのような褐藻類の増養殖を目的として種苗の生産が行われており、例えばブロック、石、ロープ、網などの平板状もしくは紐状の基盤の上に胞子を播いた後、静止培養にて継続的に幼体を種苗として育成することが行われていた。また、中間育成後にブロック等に種苗が固着した状態のまま天然海域に出して養殖が行われていた。
褐藻類の幼体を培養する方法としては、例えば下記の特許文献1〜3に記載されている方法が挙げられる。
【特許文献1】特開平06−62690号公報
【特許文献2】特開平10−178947号公報
【特許文献3】特開2002−176866号公報
【0003】
上記特許文献1は褐藻類の種苗育成に関するもので、この特許文献1には、初期の胞子体に一定強度の紫外線を照射し、培養することにより種苗を育成する方法が開示されている。又、上記特許文献2は海藻類の養殖装置および養殖方法に関するもので、この特許文献2には、基盤上に付着させ静止状態で培養した海藻の幼芽に特定波長の光を照射することにより、幼芽の生育を促進させる方法が開示されている。更に、上記特許文献3は海藻の養殖に関するもので、この特許文献3には、胞子集塊や発芽集塊を形成させて培養する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1および特許文献2に記載の方法はいずれも種苗生産を種苗糸や基盤上で実施しているため、種苗の生長に伴って基盤上で過密状態に陥るという根本的な問題を解消できないという問題点があった。又、前記特許文献3は基盤を用いないで培養する方法であるが、培養開始前に胞子どうしを連結させて集塊を形成させるという煩雑な工程を必要としている。しかもこのような集塊は、複数の個体が過密に結合している状態なので、各個体の生長および生存に最も影響する個体間の競合を排除できないという問題がある。さらに、この方法は生殖細胞の連結が不可能な海藻(例えばホンダワラ科の海藻)には適用できないという決定的な不都合がある。
【0005】
更に、下記の特許文献4においては、褐藻類の幼体を種苗として効率的に養成することを可能とする培養育成方法として、褐藻類の胞子または幼胚を基盤上に播種し幼体に培養する工程と、前記幼体を基盤から剥離する工程と、剥離された幼体を水槽に移し、各幼体単独での浮遊状態を維持できるように海水注水およびエアレーションにより水槽内を攪拌しながら培養する工程とを含む方法(立体撹拌法)が提案されている。
【特許文献4】特開2004−187574号公報
【0006】
しかしながら、このような立体攪拌法を用いた海藻の種苗生産では、平面育成法で生育させた種苗を一度基質から剥離して育成させるので、高密度で種苗を育成できるが、基質から離れた状態で種苗が育成されるため、藻場造成のための種苗移植や海面養殖のために種苗を沖出しする際に、網地や育成具に種苗を固定する必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の如く、従来の平面育成法では、幼体が生育するに伴い基盤上で次第に過密となるため、光条件、栄養条件等が悪化することによる個体数の減少や生育不良という問題があった。このため、初期段階の種苗を天然海域に沖出しせざるを得なくなり、それゆえウニや貝類などの他の生物の捕食対象となる危険性が高く、その後の生残率は低くなるという問題も生じていた。また、生残率を向上させるために大型種苗まで生育させる場合、基盤上での密度を予め低く設定する必要があり、ゆえに面積当たりの種苗の生産効率が非常に悪くなるという問題があった。さらに、基盤に固着したままの種苗を天然海域に持ち出すので、種苗の搬出および設置に多大な量力を要していた。
【0008】
現在行っている立体攪拌法を用いた海藻の種苗生産では、平面育成法で生育させた種苗を一度基質から剥離して育成している。この方法では高密度で種苗を育成できるが、基質から離れた状態で種苗が育成される。そのため、藻場造成のための種苗移植や海面養殖のために種苗を沖出しする際に、網地や育成具に種苗を固定する必要があった。
本発明は、あらゆる褐藻類の幼体を種苗として効率的に養成することを可能とする、全く新規な種苗生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、小ブロック状の基質表面に幼胚を着生させ、1cm程度の大きさの幼体になるまで平面育成して、幼体を剥離せずに基質ごと水槽の中に入れ、海水中で基質が浮遊した状態で培養を行い(立体攪拌培養)、その後、紐状や板状の固定手段に基質を取り付けて種苗の培養を行うことで、網地や網状育成具を用いる場合に比べて、より小型の種苗でも移植や沖出しが可能となることを見い出して本発明を完成した。さらに、従来の方法で作られた種苗を網地に取り付ける際には、複数の主枝が伸長した種苗しか用いることができなかったが、本発明の方法の場合では主枝が1本だけの海藻種や種苗の形態でも沖出しが可能となった。
【0010】
すなわち、本発明は、海藻種苗を生産するための方法であって、当該方法が、以下の工程A〜D:
海水の比重と実質的に同じ比重を有し、かつ、海藻の幼胚を着生させるための凹部が形成された上面を有した小ブロック状の海藻育成基質を複数個準備し、前記海藻育成基質の前記凹部に海藻の幼胚を播種する工程Aと、
前記工程Aにて海藻の幼胚が播種された海藻育成基質を平面状に配列し、静止培養にて幼体に培養する工程Bと、
前記工程Bにて得られた海藻育成基質を、海藻の幼体が固着した状態のまま、海水の入った水槽の中に移し、各幼体単独での浮遊状態を維持できるように海水注入及びエアレーションにより水槽内を撹拌しながら前記幼体を培養する工程Cと、
前記工程Cで得られた複数個の海藻育成基質を一定間隔をあけた状態で基質固定手段に取り付け、藻場造成のための海藻種苗の移植または海面養殖のための海藻種苗の沖出しを行う工程D
とを含むことを特徴とする。
【0011】
又、本発明の海藻種苗の生産方法は、上述の特徴を有する方法において、前記海藻育成基質がアクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂より成り、当該海藻育成基質の上面に、前記凹部として線状溝が設けられていることを特徴とするものでもある。
【0012】
更に、本発明の海藻種苗の生産方法は、上述の特徴を有する方法において、前記工程Dにて使用される基質固定手段がロープであり、当該ロープに前記海藻育成基質が一定間隔をあけて取り付け固定されることを特徴とするものでもある。
又、本発明の海藻種苗の生産方法は、上述の特徴を有する方法において、前記工程Dにて使用される基質固定手段がコンクリートブロック又はプラスチック製ブロックであり、当該ブロックの表面に前記海藻育成基質が一定間隔をあけて取り付け固定されることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の海藻種苗の生産方法は、移植時に種苗を固定する必要がないという平面育成法の長所と、高密度に育成が可能で、海藻同士の競合による生長障害が起こりにくいという立体撹拌法(水槽内で自由に浮遊する各幼体に対して、光照射や栄養を均一条件で提供しながら培養を行う方法)の長所を兼ね備えた方法であり、種苗の生産効率に非常に優れ、全ての褐藻類に適用できるという利点がある。又、本発明の方法は、高度な施設やバイオテクノロジー技術を必要としないので、低コストで効率的な種苗の大量培養を可能とする。その上、本発明の海藻種苗の生産方法によれば、従来の網地や網状育成具を用いる方法の場合に比べて、より小型の種苗でも移植や沖出しが可能となる。更に、従来の方法では、種苗を網地に取り付ける際、複数の主枝が伸長した種苗しか用いることができなかったが、本発明の方法の場合には主枝が1本だけの海藻種や種苗の形態でも沖出しができる。即ち、主枝(茎)が1本しか伸びない形態の海藻(アカモク)は、従来の立体撹拌法で育成しても、沖出し時に固定することが困難であったが、本発明の方法では沖出し時の種苗の固定に海藻の形態が影響しなくなったので、海藻の種類が限定されず、全てのホンダワラ科海藻の種苗生産が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の海藻種苗の生産方法における各工程について説明する。
まず最初の工程Aにおいては、海藻の幼胚を着生させるための凹部が形成された上面を有した小ブロック状の海藻育成基質を複数個準備するが、この海藻育成基質は、エアレーションによって海水中で撹拌されやすいように、海水の比重(1.02〜1.03)と実質的に同じ比重を有するか、あるいは、それに近い比重(例えば1.00〜1.05)を有する。尚、海藻育成基質の素材に関しては、海水比重に近い単一の合成樹脂素材や天然素材、または複数の素材を組み合わせて比重を上記の範囲内に調節したものがいずれも使用でき、数ヶ月〜数年間継続して海水に浸漬されるため、その間変性しないものが良い。又、撹拌を伴った培養中に海藻に当たる光を減衰させないために、無色透明の素材が好ましく、表面加工の施しやすい素材が好ましい。本発明では、海藻育成基質の好ましい材質として、海水の比重に近い比重を持つアクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂(比重1.05)が挙げられ、ABS樹脂は、加工がしやすく、十分な強度を有しており、耐久性も優れているので使用後に回収して再使用が可能である。
【0015】
図1は、本発明の方法において適した海藻育成基質の外観形状の一例を示す図である。この図1の海藻育成基質4はABS樹脂製で、縦1cm×横1.5cm×高さ1cmの大きさのブロック状であり、1cm×1.5cmの側壁面の中央には対向する側壁面に向かって貫通した孔(内径約5mm)が設けられている。この貫通孔の形状は、図1に例示したような円形穴に限定されるものではない。又、本発明の方法で使用される海藻育成基質の外観は、図1のような穴あきブロック状の外観に限定されるものではなく、貫通孔を有しない円柱状又は角柱体状の外観であっても、角柱状ブロック体の側面又は底面に嵌め込み凹部や凸部が設けられた構造を有するものであってもよく、沖出し時にコンクリートまたは樹脂ブロックやロープに取り付けることが可能な形状・構造を有していればよい。尚、海藻を付着させるための上面(海藻着生面)は、1cm程度の面積があればよく、多年生の海藻を着生させる場合は、沖出し時に小片基質の海藻着生面と基質を埋め込んだ固定具の表面が段差無く連続する形状が好ましい。
【0016】
そして、本発明における海藻育成基質にあっては、その上面に、海藻の幼胚を着生させるための凹部が形成されており、図1の海藻育成基質の上面には、上面中央部に海藻の幼胚が着生しやすいように2本の直線状の溝(凹部)が刻設されている。しかし、本発明では、海藻の幼胚を着生させるための凹部の形状及び構造はこれに限定されるものではなく、例えばプラスチック製のメッシュ織物体を海藻育成基質の上面に接着することによって形成された凹部等であっても良い。一般的には、本発明では、海藻が着生しやすいように、海藻着生面に深さ1mm程度の溝、へこみ、凹凸を付けるなどの表面加工を施す。表面加工方法には、ハンダゴテなどを用いて熱変性させる方法やノコギリなどを用いて物理的に傷つける方法、凹凸のある素材を貼り付ける方法などがある。小片状の海藻育成基質の縁辺部に海藻が着生すると、小片基質を別の平板な固定具に取り付ける際に、海藻の付着部を傷付ける恐れがあるので、海藻は基質の着生面の中央部に着生させることが好ましく、表面加工は中央部に施すことを基本とする。また育成中に他の小型海藻が着生しやすいので、海藻着生面以外には加工を施さないことが好ましい。
【0017】
本発明の海藻種苗の生産方法における工程Aでは、海藻育成基質の上面に設けられた凹部に海藻の幼胚を播種するが、図1のような貫通孔を有した海藻育成基質の場合には、貫通孔の内径よりも小さな直径を有した一定長さの針金を準備し、複数の海藻育成基質を直線状に並べて貫通孔に前記針金を通し、針金を通した状態の海藻育成基質を水槽内に並べて設置し、凹部の位置に海藻の幼胚を播種する。播種を行う際には、一般的にはスポイトを使用する。
播種する海藻の幼胚は、例えばホンダワラの場合、成熟期間である3月中旬から4月上旬頃に、生殖器床上に卵を付着させた雌の藻体(母藻)を採集し、流水下に静置しておき、数日程度で生殖器床上で卵が幼胚(長径約250〜300μm)となった後に落下するので、これらを回収してメッシュで不要物を除去し、数回清浄な濾過海水で洗浄したものが使用される。
【0018】
そして、本発明における工程Bでは、前記工程Aで海藻の幼胚が播種された海藻育成基質を平面状に配列し、従来の一般的な平面育成法と同様にして幼体になるまで培養する。
本発明では、市販の建築用コンクリートブロックを用いて屋外水槽内で育成を行う従来の平面育成法の欠点が解消され、大量の種苗を得るのにも大規模な施設が不要であり、海藻同士の競合による生長阻害が起こりにくく、移植時に種苗を固定する必要もない。
尚、育成条件については、生育させる海藻の種類によって適宜選択できるが、ホンダワラ科の藻類の場合、育成場所は、遮光幕により相対光強度(直射日光下での光量子量に対するその場の光量子量の割合)を約2%程度に調整し、この状態で約2〜3カ月育成させて幼体を得る。
【0019】
次の工程Cにおいては、前記工程Bにて平面培養された海藻の幼体が固着した状態の海藻育成基質を、1個1個の基質単位とし、海藻の幼体を剥離することなくそのままの状態で、海水の入った水槽の中に移した後、各幼体単独での浮遊状態を維持できるように海水注入及びエアレーションにより水槽内を撹拌しながら、幼体を少なくとも主枝が伸長する段階まで培養する。
この際に使用される水槽(攪拌培養装置)としては、図2に例示されるような構造を有するものが挙げられ、この図2の水槽1は、透明部材からなる円筒型の水槽(内容積:約50リットル)であり、この水槽1の底部2の中心付近にはエア供給部3が設けられ、水槽1内に入れられた、海藻の幼体が固着した状態の海藻育成基質4がエアレーションにより水槽1内全体で穏やかに攪拌されるようになっている。さらに、海水供給部5と海水排出部6が設けられており、水面上方より注水しながら流水下で幼体を育成できるように構成されている。この水槽1の底部2の形状は特に限定されないが、エアレーションによる攪拌効率を考慮すると中心方向に傾斜するすり鉢形状のものが望ましい。尚、本発明では、内容積が50リットルより大型の水槽を用いて培養することも可能であり、水槽の形状に関しても円筒形に限られず、立方体状や球状のものでもよい。又、全く透明な部材からなるものに限られず、光透過性を少なくとも有する部材を用いているものであればよい。
【0020】
攪拌培養条件については、生育させる海藻の種類によって適宜選択されるが、以下、ヤツマタモクの場合を例に挙げて説明する。
まず、海水で満たした水槽内に、前述の工程Bにより得られた海藻の幼体が固着した状態の海藻育成基質を海藻5〜10本/リットルの密度で収容し、遮光幕により相対光強度約5%程度に調整した状態でエアレーションを行いながら流水下にて攪拌培養する。このような相対光強度の条件を暫くの期間(約2カ月間)維持するのは、幼体の早い段階で相対光強度を約10%にすると、付着珪藻などの他の藻類が繁茂してしまうからである。
本発明では、海藻同士の競合による生長障害が起こらないようにするために、海藻の生育が進むにつれて海水の単位容積当たりの海藻育成基質の数(収容密度)を徐々に減らし、収容密度を段階的に低下させた条件(例えば海藻2〜3本/リットルの密度)で攪拌培養していくことが好ましく、種苗の成長に応じて相対光強度約10%の光条件に上げる。
このようにして、本発明の方法では、より小型の種苗を沖出しできることから、生産終了時の収容密度が従来の立体撹拌法より高くなり、水槽当たりの生産数が増加する。また、より大型の種苗が要求される場合でも、海藻の生長に伴い海藻に対する基質の容積割合が小さくなるために、従来の立体撹拌法と同程度の収容密度で育成することが可能である。
なお、撹拌培養装置における注水条件は特に限定しないが、水槽内の水温が外気条件の変動に影響されないように1回転/時間の条件(水槽内の海水が一時間で入れ替わる条件)が好ましい。培養装置を用いた攪拌培養は所定の光条件が得られる屋根付き屋外施設で実施するのが最適であるが、屋根がない場合でも遮光幕で光条件を調整することによって実施可能である。
【0021】
本発明の海藻種苗の生産方法における工程Dでは、前記工程Cで得られた複数個の海藻育成基質を一定間隔をあけた状態で基質固定手段に取り付け、これを藻場礁へ取り付けて藻場造成場所へ移植したり、例えば中層延べ縄方式により海面養殖を行う等して海藻種苗の沖出しを行う。
本発明において好ましい基質固定手段はロープであり、この場合には、図3に示されるように、プラスチック製の取り付け部材を介して前記工程Cで得られた海藻育成基質4をロープに一定間隔ごとに取り付け固定するのが一般的であるが、ロープへの取り付け方法は図面に例示したものに限定されるものではない。又、ロープの他、本発明では、基質固定手段としてコンクリートブロックやプラスチック製ブロック等を使用することも好ましく、例えばこの場合には、図4に示されるようにしてブロック7(例えば厚さ2cm程度の平板体)の表面に、海藻育成基質を埋め込むための基質収容部を複数箇所設け、この収容部のそれぞれに前記工程Cで得た海藻育成基質8を埋め込み(図4においては生育した海藻は示されていない)、そして、当該ブロック7の表面に設けられた棒状体収容溝に、海藻育成基質8に設けた貫通孔を貫通するようにして棒状体9を収容し、当該棒状体の両端側を固定具10によって固定し、沖出しした場合にも海藻育成基質8がブロック7から脱落することがないように固定する。又、ピンの先端に、海藻育成基質8に設けた貫通孔の内径よりも大きな膨大部(かえし部)を有する固定ピンにより、ブロック7内を当該固定ピンが貫通するようにして基質8が固定される構造であっても良く、本発明では基質のブロックへの固定構造が特に限定されるものではない。
このような本発明の海藻種苗の生産方法を用いた場合、海藻育成基質を固定したロープやブロックを天然海域に持ち出しても格段に高い生残率が得られる。
【0022】
本発明の方法にあっては、工程Dの時点で、海藻が海藻育成基質に強く着生しているため、沖出し後の固着力も強く、従来の立体撹拌法で生産された種苗に比べてより波当たりの強い海域にも沖出しすることが可能である。
又、海藻の大きさに関して、従来の立体撹拌法では、沖出し時に網地や育成具を用いて固定するために、種苗の枝の数が2本以上伸びて生長するまで長期間陸上で育成していたが、本発明の方法では、固定方法に枝の数や長さが影響しないので、海藻の生育段階に左右されずに沖出しすることが可能である。更に、本発明の方法の場合には、小型の種苗を沖出しできることから、従来の立体撹拌法より陸上での育成期間が短くなり、種苗生産に係わる経費が削減できる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例によって本発明が限定されるものではない。
〔実施例1〕
対象海藻種がヤツマタモクの場合の生産例
海藻育成基質として、比重1.05のABS樹脂製の直方体ブロック(長さ10mm×幅15mm×高さ10mm)を準備し、側面に直径5mmの貫通孔を設け、この基質の上面に、以下の4種類の方法で表面加工を施した。
表面加工1:ハンダゴテでブロック上面中央部に2本の縦溝(幅1mm、深さ0.5mm)を付けた。
表面加工2:ノコギリでブロック上面中央に2本の横溝(幅1mm、深さ1mm)を付けた。
表面加工3:目合い0.8mmのナイロンメッシュをブロック上面全体に接着剤で貼り付けた。
表面加工4:表面加工無し
【0024】
そして、上記4種類の海藻育成基質(各200個)をそれぞれ40個ずつを1単位として、基質に設けた貫通孔に針金を通して密接した状態に並べ、更に針金を通して整列させた基質を5列並べた。その後、各基質の上面にそれぞれ、ヤツマタモクの幼胚をスポイトを用いて播種し(工程A)、遮光幕を掛けた状態で71日間平面培養を行った(工程B)。
上記の平面培養後には、表面加工の違いに関係なく、種苗は約1.5〜18.2mm(平均4.9mm)にまで生長していた。
次に、生育した種苗が付着した状態の海藻育成基質200個を針金からはずし、図2に示される構造を有した水槽(内容積:50リットル)内に入れ、水槽内の海水が1時間で入れ替わる条件下で、基質を浮遊させながら42日間立体撹拌を行った(工程C)。立体撹拌42日後には、種苗は2.5〜69.2mm(平均16.7mm)にまで生長しており、立体撹拌42日後の生残率は、表面加工1の場合が54%、表面加工2の場合が55%、表面加工3の場合が38%、表面加工4の場合が17%であった。この実験データは、生残率を高めるには、海藻の基質への付着性を高めるための表面加工(凹部の形成)が必要であることを示している。
この時点で、ヤツマタモク同士の競合による生長障害が起こらないようにするために、水槽内の海藻育成基質を半分にし(100個/海水50リットル)、更に1ヶ月間立体撹拌を行った。
そして、上記立体撹拌終了時の海藻育成基質をそれぞれ図3に示されるようにしてロープに取り付け、天然海域に持ち出して海面養殖を行ったところ、十分に生育したヤツマタモクが得られた(工程D)。
【0025】
〔実施例2〕
対象海藻種がアキヨレモクの場合の生産例
海藻育成基質として、前記実施例1と同じもの(側面に直径5mmの貫通孔あり)を準備し、この基質の上面に、ハンダゴテでブロック上面中央部に3本の縦溝(幅1mm、深さ0.5mm)を付けて表面加工を施した。
そして、前記実施例1と同様にして、アキヨレモクの幼胚をスポイトを用いて播種し(工程A)、平面培養を行い(工程B)、図2に示される構造を有した水槽を用いて、基質を浮遊させながら立体撹拌を行った(工程C)。
上記立体撹拌終了時の海藻育成基質を、図4に示されるようにしてプラスチック製ブロックに取り付け、天然海域に持ち出して海面養殖を行ったところ、十分に生育したアキヨレモクが得られた(工程D)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の方法において適した海藻育成基質の外観形状の一例を示す図である。
【図2】本発明の方法において適した撹拌培養装置(水槽)の構造の一例を示す図である。
【図3】本発明において好ましい基質固定手段(ロープ)への海藻育成基質の取り付け状態の一例を示す図である。
【図4】本発明において好ましい基質固定手段(プラスチック製ブロック)への海藻育成基質の取り付け状態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 水槽
2 水槽の底部
3 エア供給部
4 海藻育成基質
5 海水供給部
6 海水排出部
7 ブロック
8 海藻育成基質
9 棒状体
10 固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻種苗を生産するための方法であって、当該方法が、以下の工程A〜D:
海水の比重と実質的に同じ比重を有し、かつ、海藻の幼胚を着生させるための凹部が形成された上面を有した小ブロック状の海藻育成基質を複数個準備し、前記海藻育成基質の前記凹部に海藻の幼胚を播種する工程Aと、
前記工程Aにて海藻の幼胚が播種された海藻育成基質を平面状に配列し、静止培養にて幼体に培養する工程Bと、
前記工程Bにて得られた海藻育成基質を、海藻の幼体が固着した状態のまま、海水の入った水槽の中に移し、各幼体単独での浮遊状態を維持できるように海水注入及びエアレーションにより水槽内を撹拌しながら前記幼体を培養する工程Cと、
前記工程Cで得られた複数個の海藻育成基質を一定間隔をあけた状態で基質固定手段に取り付け、藻場造成のための海藻種苗の移植または海面養殖のための海藻種苗の沖出しを行う工程D
とを含むことを特徴とする海藻種苗の生産方法。
【請求項2】
前記海藻育成基質がアクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂より成り、当該海藻育成基質の上面に、前記凹部として線状溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の海藻種苗の生産方法。
【請求項3】
前記工程Dにて使用される基質固定手段がロープであり、当該ロープに前記海藻育成基質が一定間隔をあけて取り付け固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の海藻種苗の生産方法。
【請求項4】
前記工程Dにて使用される基質固定手段がコンクリートブロック又はプラスチック製ブロックであり、当該ブロックの表面に前記海藻育成基質が一定間隔をあけて取り付け固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の海藻種苗の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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