説明

消化態経口栄養剤

【課題】麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の経口摂取によって手術時の体温低下を防止することのできる無脂肪かつ消化態である栄養剤を提供するものである.
【解決手段】蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱殺菌された液状の消化態栄養剤であって,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の摂取によって手術時の体温低下を防止する消化態経口栄養剤である.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,消化態の栄養剤に関し,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の経口摂取によって手術時の体温低下を防止する無脂肪かつ液状の消化態栄養剤に関するものである.
【背景技術】
【0002】
体温調節中枢は,視床下部に存在するが,全身麻酔下では中枢神経抑制によって体温調節機能が低下し,体温(中枢温)は急激に低下する.麻酔下における手術時の体温低下は,血小板機能を阻害し出血を増大させること,外科的創傷の感染を亢進させることから,術後の合併症を増加させ,予後に悪影響がある.したがって,手術時の体温低下の防止は,患者の周術期管理に非常に重要になる.
このような麻酔下における手術時の体温低下を防止するため,輸液の加温,温水循環マットレスや温風式加温装置による体温の保温や加温,アミノ酸輸液が行われている(非特許文献1,非特許文献2).しかしながら,輸液の加温は,熱損失を防止することはできるが,体温を上昇させることはできない.温水循環マットレスは,加温効果は十分得られない.温風式加温装置は,術野(消毒野)に室内の塵を飛ばす可能性がある.アミノ酸輸液は,麻酔下における手術時の体温低下を防止すると報告されているが,麻酔下でのアミノ酸輸液はインスリン分泌が増大することから,低血糖が起こる可能性がある.体温低下が中枢温の閾値を越えて低下した場合,従来の保温または加温対策を行っても,体温回復には長時間を必要とする.
一般的に食物を摂取すると,体温が上昇すると報告されている(非特許文献3).しかし,全身麻酔下では喉頭反射が消失するため,麻酔刺激や気管内挿管,抜管の際,嘔吐が生じたときに誤飲の恐れがあることから,麻酔下で手術を行う患者に対して,手術12時間前から絶食となる.また,アミノ酸輸液を経口摂取すると想定した場合,浸透圧が非常に高いので,下痢の発生が問題となる.さらに,アミノ酸は独特の苦味を有するため,経口摂取に耐えられるものではない.このように,術前の経口摂取によって手術時の体温低下を防止する具体的な成分と含量を設定した栄養剤は,これまで開示されていない.
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sellden E,Branstrom R,Brundin T.Preoperative infusion of amino acids prevents postoperative hypothermia,Br J Anaesth,76,227−234(1996).
【非特許文献2】神谷和男,吉田 仁,高木麻里,南 雅美,徳竹美紀,岸 理歩,堀川英世,樋口昭子,開腹術におけるアミノ酸製剤投与による低体温予防効果,麻酔,55,1216−1221(2006).
【非特許文献3】溝部俊樹,中島康文,dietary-induced thermogenesisと周術期体温,麻酔,56,305−316(2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は,上記の状況を鑑みてなされたもので,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の経口摂取によって手術時の体温低下を防止することのできる無脂肪かつ消化態の栄養剤を提供するものである.
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は,上記の状況を鑑みて,前記目的を達成すべく様々な食物素材とその配合量について鋭意研究を重ねた結果,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱滅菌された液状の消化態栄養剤であって,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の経口摂取によって手術時の体温低下を防止する栄養剤が得られることを見出だし,この知見に基づき本発明を完成するに至った.
【0006】
すなわち,本発明は,以下の(1)〜(3)に示したものである.
(1)蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱殺菌された液状の消化態栄養剤であって,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の摂取によって手術時の体温低下を防止する消化態経口栄養剤.
(2)前記乳清ペプチドが,チーズホエイ由来,スイートホエイ由来,脱乳糖ホエイ由来,脱塩ホエイ由来のいずれかである上記(1)に記載の消化態経口栄養剤.
(3)前記デキストリンが,とうもろこしデキストリン,馬鈴薯デキストリン,甘藷デキストリン,ワキシーコーンデキストリン,ワキシーライスデキストリン,タピオカデキストリンのいずれかである上記(1)または(2)に記載の消化態経口栄養剤.
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように,本発明の消化態経口栄養剤は,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱殺菌された液状の消化態栄養剤であって,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の摂取によって手術時の体温低下を防止する消化態経口栄養剤を提供することができる.蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱殺菌された液状の消化態栄養剤であるため,消化管に負担が少なく,残渣がなく,アミノ酸組成に優れ,栄養学的に価値があり,加熱滅菌されているにもかかわらず凝集等の変質のおそれがなく,低粘度であるので,簡便,安価,および安全に経口摂取によって手術時の体温低下を防止することが可能である.
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,本発明の消化態経口栄養剤を詳細に説明する.
本発明の消化態経口栄養剤で使用する蛋白源としては,従来から食品に慣用される平均分子量300〜1500ダルトン,好ましくは300〜1200ダルトン,より好ましくは300〜1000ダルトンの乳清ペプチドであれば特に限定されるものではない.また,平均分子量の異なる乳清ペプチドを組み合わせて使用しても良い.なお,本発明において平均分子量とは,重量平均分子量を意味する.
乳清ペプチドの平均分子量が300ダルトンより小さいと,アミノ酸に近くなり,消化を必要とせず直接吸収されるジおよびトリペプチドの割合が少なくなるので消化吸収性に劣る.また,特有の苦味を有し,経口摂取できる液状の消化態栄養剤が提供できない.ペプチドの平均分子量が1500ダルトンより大きいと,摂取後にジおよびトリペプチドまでの消化を必要とし,残渣を生じる.また,殺菌後に凝集し,沈澱を生じる.
本発明において,乳清ペプチドの平均分子量を求める方法としては,当該技術分野における慣用技術ならびに知識がそのまま,もしくは適宜変更を加えた形で適用され,代表的にはゲルろ過クロマトグラフィーが挙げられる.すなわち,高速液体クロマトグラフィー装置に紫外可視分光検出器を連結し,ペプチドをゲルろ過カラムに供し,溶離液を流すことによって溶離したペプチドを分析する方法である.この方法を用いた場合,ペプチドの平均分子量は,紫外可視分光検出器の検出信号を高速液体クロマトグラフィーのデータ処理装置に従って計算することにより,求めることができる.
【0009】
本発明の消化態経口栄養剤で使用する乳清ペプチドの原料となる乳清(ホエイ)は,従来の方法によって製造されるものが使用できる.例えば,乳清ペプチドは,チーズやカゼインの製造工程で副生成物として得られた乳清をスプレードライ,真空濃縮法,浸透膜法,逆浸透(RO)法,限界濾過(UF)法,極微濾過法,電気透析法,イオン交換法,結晶化等の加工法でタンパク成分を分離し,これをペプシンやトリプシン等の酵素を用いて加水分解することによって得ることができる.また,原料となる乳清は,チーズホエイ(酸ホエイ),スイートホエイ,脱乳糖ホエイ,脱塩ホエイなどから適宜選択することができる.また,乳清蛋白濃縮物(WPC),乳清蛋白単離物(WPI),α−ラクトアルブミン,β―ラクトグロブリン,ラクトフェリン等乳清から加工・製造されたものを乳清タンパクとして用いることができる.
本発明の消化態経口栄養剤の乳清ペプチドの配合量としては,2.8〜6.0重量%,好ましくは3.0〜5.8重量%,より好ましくは3.0〜5.5重量%の範囲内である.乳清ペプチドの配合量が2.8重量%より少ないと,蛋白源として体温低下を防止する効果を発揮するには不十分である.乳清ペプチドの配合量が6.0重量%より多いと,血清尿素窒素の上昇が問題となる.
【0010】
本発明の消化態経口栄養剤には,本発明の主旨を逸脱しない範囲内でアミノ酸を配合させても良い.アミノ酸としては,必須アミノ酸または非必須アミノ酸などの各種アミノ酸が挙げられる.具体的には,例えば,イソロイシン,ロイシン,バリン,リジン,メチオニン,フェニルアラニン,トレオニン,トリプトファン,アルギニン,ヒスチジン,グリシン,アラニン,プロリン,アスパラギン酸,セリン,チロシン,グルタミン酸,システイン,タウリン,カルニチン,オルニチンなどが挙げられる.これらのアミノ酸は,必ずしも遊離アミノ酸の形で含有されている必要はなく,無機酸塩(例えば,L−リジン塩酸塩等),有機酸塩(例えば,L−リジン酢酸塩,L−リジンリンゴ酸塩等),生体内で加水分解可能なエステル体(例えば,L−チロシンメチルエステル,L−メチオニンメチルエステル,L−メチオニンエチルエステル等),N−置換体(例えば,N−アセチル−L−トリプトファン,N−アセチル−L−システイン,N−アセチル−L−プロリン等)などの形で配合されていても良い.
【0011】
本発明の消化態経口栄養剤で使用する糖質源としては,従来から食品に慣用されるDE10〜30,好ましくはDE10〜25,より好ましくはDE10〜20のデキストリンであれば特に限定されるものではない.デキストリンのDEが10より小さいと,摂取後に消化を必要とし,消化管に負担をかけることになる.デキストリンのDEが30より大きいと,消化態経口栄養剤の浸透圧が高くなり,下痢の発生の頻度が高くなる可能性がある.また,これらの中から1種類以上ないし数種類のデキストリンの組み合わせでも良い.
ここで,デキストリンのDEとは,Dextrose Equivalentの略称で,デキストリンの加水分解の程度を意味し,次の式で表される.
DE=直接還元糖(グルコース換算)/固形分×100
デキストリンのDEを求める方法は,当該技術分野における慣用技術ならびに知識がそのまま,もしくは適宜変更を加えた形で適用され,代表的にはソモジ法が挙げられる.
本発明の消化態経口栄養剤のDE10〜30のデキストリンの配合量としては,15〜30重量%,好ましくは18〜28重量%,より好ましくは20〜25重量%の範囲内である.DE10〜30のデキストリンの配合量が15重量%より少ないと,糖質として栄養学的に不十分である.DE10〜30のデキストリンの配合量が30重量%より多いと,熱量が過多となる.
本発明の消化態経口栄養剤で使用するデキストリンは,従来の方法によって製造されるものが使用できる.すなわち,澱粉を酸分解して得られるデキストリンや,α−アミラーゼなどの酵素で処理することにより得られるデキストリンのいずれでも良い.デキストリンの原料となる澱粉は,いずれの由来でも良いが,とうもろこし,馬鈴薯,甘藷,ワキシーコーン,ワキシーライス,ワキシーミロ,タピオカなどの澱粉が利用でき,これらの中から1種類以上ないし数種類の原料の組み合わせでも良い.
本発明の消化態経口栄養剤には,本発明の主旨を逸脱しない範囲で,DE10〜30以外のデキストリン,または,デキストリン以外の糖質,例えば,単糖類,二糖類,オリゴ糖類を配合させても良い.具体的には,単糖類としては,ブドウ糖,果糖,ガラクトース,糖アルコール,マンニトール,キシリトール,イノシトール,ソルビトールなどが挙げられる.二糖類としては,ショ糖,乳糖,麦芽糖,トレハロースなどが挙げられる.オリゴ糖としては,3〜6単位程度の上記の単糖類の重合体が挙げられる.
【0012】
本発明の消化態経口栄養剤には,本発明の主旨を逸脱しない範囲で,増粘多糖類等の増粘剤を配合させても良い.具体的には,従来から食品に慣用される増粘多糖類であれば特に限定されるものではない.また,ゼラチンでも良い.増粘多糖類としては,カラギーナン,ペクチン,ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウム,寒天,グァーガム,サイリウムシードガム,タマリンドガム,マンナン,およびタラガムなどが挙げられ,これらの中から1種以上ないし数種類の組み合わせでも良い.
本発明の消化態経口栄養剤に用いる電解質およびミネラルとしては,ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リン,微量元素としては,鉄,銅,亜鉛,マンガン,セレン,ヨウ素,クロム,およびモリブデン等が挙げられ,これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい.これらは,無機電解質成分として配合されていても良いし,有機電解質成分,として配合されていても良い.無機電解質成分としては,例えば,塩化物,硫酸化物,炭酸化物,リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる.また,有機電解質成分としては,有機酸,例えばクエン酸,乳酸,アミノ酸(例えば,グルタミン酸,アスパラギン酸など),アルギン酸,リンゴ酸またはグルコン酸と,無機塩基,例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる.また,微量元素については,高濃度の微量元素化合物を含有する培地内で培養して得られる微量元素蓄積性を有する微生物由来の微量元素含有微生物菌体を用いても良い.
【0013】
電解質,ミネラル,および微量元素の配合量としては,栄養剤100mLあたり,下記の範囲が適当である.
ナトリウム 5〜6000mg,好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg,好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg,好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg,好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg,好ましくは25〜1500mg
鉄 0.1〜55mg,好ましくは1〜10mg
銅 0.01〜10mg,好ましくは0.1〜6mg
亜鉛 0.1〜30mg,好ましくは1〜15mg
マンガン 0.01〜11mg,好ましくは0.1〜4mg
セレン 0.1〜450μg,好ましくは1〜35μg
クロム 0.1〜40μg,好ましくは1〜35μg
ヨウ素 0.1〜3000μg,好ましくは1〜150μg
モリブデン 0.1〜320μg,好ましくは1〜25μg
【0014】
本発明の消化態経口栄養剤に用いるビタミンとしては,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ナイアシン,パントテン酸,ビオチン,葉酸,ビタミンC,ビタミンA,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンKなどが挙げられ,これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい.ビタミンとして,ビタミン誘導体を使用しても良い.
ビタミンの配合量としては,栄養剤100mLあたり,下記の範囲が適当である.
ビタミンB1 0.1〜40mg,好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg,好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg,好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg,好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg,好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg,好ましくは1.65〜30mg
ビオチン 1〜1000μg,好ましくは14〜500μg
葉酸 10〜1000μg,好ましくは60〜200μg
ビタミンC 10〜2000mg,好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg,好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg,好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg,好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg,好ましくは2〜700μg
【0015】
本発明の消化態経口栄養剤としては,実質的に脂質を含まないものである.この実質的に脂質を含まないとは,各原料由来の夾雑物や脂溶性ビタミンなど,少量の脂質の配合を排除するものではない.同様に,従来栄養剤として使用されているものはいずれも本発明の主旨を逸脱しない範囲で含有されることが許容される.
【0016】
本発明の消化態経口栄養剤の1mLあたりの熱量としては,0.8〜1.2kcal,好ましくは0.9〜1.1kcalである.1mLあたりの熱量が0.8kcalより低いと,体温低下を防止するには十分な熱量が得られない.1mLあたりの熱量が,1.2kcalより高いと,水分量が少なくなり,脱水の可能性がある.
本発明の消化態経口栄養剤は加熱殺菌されたものであるが、その粘度としては,30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下,より好ましくは15mPa・s以下である.粘度が,30mPa・sより高いと,粘性が高くなり,経口摂取しにくい.
本発明の消化態経口栄養剤で使用されるペプチドの含有量とDE10〜30のデキストリンの含有量の比率としては,特に限定されるものではないが,非蛋白熱量/窒素比から設定することができ,好ましくは80〜200である.非蛋白熱量/窒素比が80より低いと,侵襲時において最も効率よく窒素源を利用できない.非蛋白熱量/窒素比が200より高いと,正常時において最も効率よく窒素源を利用できない.
ここで,非蛋白熱量/窒素比は,次の式で表される.
非蛋白熱量/窒素比=蛋白源以外の成分の総熱量(kcal)/蛋白源の窒素含量(g)
【0017】
以上,本発明の消化態経口栄養剤について説明したが,本発明は,これらに限定されるものではなく,必要に応じて,他の成分類や添加剤などを添加しても良い.例えば,クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,コハク酸,乳酸,グリセリン,プロピレングリコール,グリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,アラビアゴム,色素,香料,保存剤など,通常の食品原料として使用されている添加剤などを適宜添加しても良い.
【0018】
本発明の消化態経口栄養剤は,容器などに充填された状態にあるものも含まれる.容器に充填した場合,あらかじめ加熱殺菌した後に,無菌的に容器に充填する方法,例えば,UHT殺菌法とアセプティック充填法を併用する方法や、容器に充填した後に,容器と一緒に加熱殺菌する方法,例えば,レトルト殺菌法などを採用することができる.なお,UHT殺菌法では,間接加熱方式および直接加熱方式のどちらでも行うことができる.加熱殺菌処理方法では,高圧蒸気殺菌,熱水殺菌,熱水シャワー殺菌などの公知の方法を適宜採用することができる.また,殺菌方法の操作条件,例えば,殺菌時間,殺菌温度などは通常のこの種の殺菌操作条件などと同様のものとすることができる.例えば,レトルト殺菌を採用する場合は,110〜120℃,10〜30分程度の加熱処理が好適である.UHT殺菌法を採用する場合は,130〜150℃,2〜120秒程度の加熱処理が好適である.さらに,上記加熱殺菌は,必要に応じて窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことができる.
本発明の消化態経口栄養剤を収容する容器としては特に限定されない.例えば,プラスチックボトル,ペットボトルやカート缶,テトラパックなどの紙製容器,または,アルミパウチ,もしくは,金属缶などが挙げられる.
容器の材質としては,食品用容器などに通常使用されている軟質合成樹脂,例えば,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリブタジエン,エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン類に,スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体,プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH),ポリ塩化ビニリデン(PVDC),ポリアクリロニトリル,ポリビニルアルコール,ポリアミド,ポリエステルなど,およびこれらの少なくとも1つを含むフィルムシートなどからの構成包装材,またこれらの素材に酸化ケイ素,酸化アルミ,アルミニウムなどのガスバリアー性物質を蒸着処理した包装材およびこれらの素材を組み合わせた多層フィルムなどが挙げられる.
容器への充填,収容は常法に従って行うことができ,例えば,各液を不活性ガス雰囲気下で充填し,施栓し,加熱殺菌する方法が挙げられる.
このようにして得られた本発明の消化態経口栄養剤は,手術時の体温低下を防止する経口栄養剤として使用できる.
【実施例】
【0019】
次に,実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない.
(実施例1)
表1および表2に示す配合で消化態経口栄養剤を後述する調製法1の方法により調製した.
【0020】
【表1】

【0021】
なお,表中※1の乳清ペプチドは,Lacprodan DI−3065(商品名),アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社製であり,※2のデキストリンは,TK−16(商品名),松谷化学工業株式会社製である.※3のビタミンミックスは表2に示す組成である.
【0022】
【表2】

【0023】
(調製法1)
約65℃の温水を撹拌しながら,乳清ペプチド,デキストリンを少しずつ投入した.その後,約70℃に昇温し,クエン酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウムを投入した.グリセロリン酸カルシウム,クエン酸鉄,グルコン酸亜鉛,グルコン酸銅を一部のデキストリンと粉体混合して,投入した.次に,約20℃まで冷却した後,ピーチフレーバー,ビタミンミックス,ビタミンCを投入して撹拌保持した.その後,温水を加え,全量を規定量にした.この溶液をUHT殺菌(142℃,4秒)後に200mL容量のテトラ・ブリック・アセプテッィク200スリム容器(日本テトラパック株式会社)にアセプティック充填を行い,放冷した後に,消化態経口栄養剤を得た.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した消化態経口栄養剤の粘度は,10mPa・sであった.
【0024】
(実施例2)
表2および表3に示す配合で消化態経口栄養剤を後述する調製法2の方法により調製した.
【0025】
【表3】

【0026】
なお,表中※1の乳清ペプチドは,Lacprodan DI−3065(商品名),アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社製,※4のデキストリンは,サンデック#150(商品名),三和澱粉工業株式会社製である.※3のビタミンミックスは表2に示す組成である.
【0027】
(調製法2)
約70℃の温水を撹拌しながら,乳清ペプチド,デキストリン,グラニュー糖を少しずつ投入した.その後,クエン酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウムを投入した.グリセロリン酸カルシウム,クエン酸鉄,グルコン酸亜鉛,グルコン酸銅を一部のデキストリンと粉体混合して,投入した.次に,約20℃まで冷却した後,ウメエッセンス,ビタミンミックス,ビタミンCを投入して撹拌保持した.その後,温水を加え,全量を規定量にした.この溶液をUHT殺菌(142℃,4秒)後に200mL容量のテトラ・ブリック・アセプテッィク200スリム容器(日本テトラパック株式会社)にアセプティック充填を行い,放冷した後に,消化態経口栄養剤を得た.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した消化態経口栄養剤の粘度は,11mPa・sであった.
【0028】
(試験例)
全身麻酔下で予定された人工膝関節置換術患者に対して,実施例1の消化態経口栄養剤摂取群と水摂取群とに無作為に割り付けた.各群は13症例で,年齢,性別,Body Mass Indexに有意差はなかった.各群とも実施例1の消化態経口栄養剤または水を麻酔開始2〜3時前の間に400mL摂取し,手術室入室時の空腹感,術中の中枢体温変化,術後の寒気を検討した.
空腹感は,100mmのスケール上で,0を満腹,100を空腹とした場合,どのあたりになるかを患者に問診を行った.術中の中枢体温測定は,温度センサーを挿入して,10分,30分,60分,および120分の食道温を測定した.寒気は,有無を問診した.
手術室入室時の空腹感について,表4に示した.消化態経口栄養剤を摂取した患者群は,水を摂取した患者群に比べ有意に少なかった(Mann−Whitony検定,p<0.05).
【0029】
【表4】


術中の中枢体温低下について,表5に示した.術中10分から30分,60分,および120分において,消化態経口栄養剤を摂取した患者群は,水を摂取した患者群に比べ有意に少なかった(Tukey検定,p<0.05).
【0030】
【表5】

【0031】
術後の寒気について,表6に示した.術後30分において,消化態経口栄養剤を摂取した患者群は,水を摂取した患者群に比べ少なかった.
【0032】
【表6】

【0033】
以上のように,消化態経口栄養剤を用いることで,空腹感が少なく患者の満足度を上げ,低血糖も起こらず,安全に手術時の体温低下の防止が可能であった.
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱殺菌された液状の消化態栄養剤であって,蛋白源が平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを配合しているため,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の経口摂取によって周術期、特に手術時の体温低下を防止することができることから,産業上十分に利用できるものである.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜30のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が30mPa・s以下である加熱殺菌された液状の消化態栄養剤であって,麻酔下で手術を行う患者に対して,術前の摂取によって手術時の体温低下を防止する消化態経口栄養剤.
【請求項2】
前記乳清ペプチドが,チーズホエイ由来,スイートホエイ由来,脱乳糖ホエイ由来,脱塩ホエイ由来のいずれかである請求項1に記載の消化態経口栄養剤.
【請求項3】
前記デキストリンが,とうもろこしデキストリン,馬鈴薯デキストリン,甘藷デキストリン,ワキシーコーンデキストリン,ワキシーライスデキストリン,タピオカデキストリンのいずれかである請求項1または2に記載の消化態経口栄養剤.

【公開番号】特開2011−241149(P2011−241149A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111590(P2010−111590)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】