説明

消弧装置および気中開閉器

【課題】 ライフサイクル中、高いアーク電流遮断性能を維持することができ、安全性および環境性に優れた消弧装置を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる消弧装置120は、消弧筒124とアークホーン122とを含んで構成される。消弧筒124は、アーク104によりアブレーションする材料で形成され、一対の固定電極112a、112bを収容する固定電極収容室126、および固定電極収容室126へと連続する狭まった通路でありその内部を可動電極114が移動可能な細筒部128からなる。アークホーン122は、棒状の耐熱合金製の部材であって、固定電極収容室126に収容され一対の固定電極112a、112bよりも細筒部128側に突出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いが対向して配置される一対の固定電極の間に可動電極を抜き差しすることで発生するアークを消弧する消弧装置、および気中開閉器に関する。
【背景技術】
【0002】
配電用変電所には、落雷や短絡などの事故発生時に事故電流(短絡電流)を遮断して安全を保つために、遮断器が備えられている。かかる遮断器としては、油入遮断器(OCB)、真空遮断器(VCB)、磁気遮断器(MBB)、気中遮断器(ACB)、空気遮断器(ABB)、ガス遮断器(GCB)等が提案されている。特許文献1には、消弧性能を向上するために、アークによってアブレーションする被着部(消弧筒)を設けたガス遮断器について記載されている。
【0003】
配電系統には、正常動作時の電路の負荷電流を開閉するために開閉器が備えられている。かかる開閉器としては、気中開閉器(AS)、真空開閉器(VS)、ガス開閉器(GS)等が提案されている。特許文献2には、一対の固定電極の先端に平行に、銅合金の丸棒からなる一対の補助電極を接続することで、接点開放時にアークが直ちに補助電極へ移行するように構成したガス開閉器について記載されている。なお、開閉器は正常動作時の電路の負荷電流を開閉するためのものであり、原則として、遮断器のように事故電流(短絡電流)を遮断することを目的としていない。
【0004】
特許文献3には、遮断器や開閉器で用いられる電極について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−42618号公報
【特許文献2】特許3672070号公報
【特許文献3】特公平6−54626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるガス遮断器のように電極間にアークが発生する電力機器では、そのアークによって電極が溶損し雰囲気中に金属蒸気が放出されることが問題となる。金属蒸気が放出されると、雰囲気の絶縁状態が低下するため、アーク電流遮断性能が低下してしまう。また、金属蒸気が電極の接点部周辺に付着して、その後のアーク電流遮断性能に影響をおよぼすおそれもある。
【0007】
特許文献3に記載されるような、導電性の高い銅部材の先端に耐熱合金としての銅-タングステン合金をろう付けした電極であれば、アークによる電極の溶損(金属蒸気の発生)を抑制する一定の効果を奏する。しかし、特許文献2の段落0003に記載のように、この構造を可動電極に採用することは可能であるが、この構造を固定電極に採用することは困難である。
【0008】
特許文献2では、一対の固定電極の先端に平行に銅合金の丸棒からなる一対の補助電極を接続することで、金属蒸気の発生を抑制可能としているが、物性的に銅はタングステンよりも耐熱性が劣る(概して、銅:融点1083℃、沸点2570℃、タングステン:融点3410℃、沸点5700℃)。したがって、銅-タングステン合金(耐熱合金)を使用した場合のように、金属蒸気の発生の抑制を図れないおそれがある。
【0009】
また、特許文献2では、固定電極の先端に平行に補助電極が接続されていて、補助電極のどの位置にでもアークが移行し得るので、アークの位置を限定できない。
【0010】
また、特許文献2では、固定電極の先端に平行に補助電極を接続するので、レイアウト上の制約を生じる。特許文献2は、ガス開閉器であるため、消弧性ガスを発生させる消弧筒を必要としないため、固定子電極の先端に取り付けることができたが、気中開閉器では、引用文献2のような補助電極を取り付けるスペースはない。さらに、特許文献2ではガス開閉器であるため、絶縁ガスとしてSFガスを使用する。SFガスは温室効果が高く(COの23900倍)排出規制の対象にされているため、なるべくその使用を避けた構成が望まれている。なお、ガス開閉器は、通常、気中開閉器と比べるとコストが高くなる問題もある。
【0011】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、ライフサイクル中、消弧装置を大きくすることなく高いアーク電流遮断性能を維持することができ、安全性および環境性に優れた消弧装置、並びにこの消弧装置を利用した気中開閉器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、互いが対向して配置される一対の固定電極の間に可動電極を抜き差しすることで発生するアークを消弧する消弧装置であって、アークによりアブレーションする材料で形成され、一対の固定電極を収容する固定電極収容室およびこの固定電極収容室へと連続する狭まった通路でありその内部を可動電極が移動可能な細筒部を備える消弧筒と、固定電極収容室に収容され一対の固定電極よりも細筒部側に突出する棒状の耐熱合金製のアークホーンと、を有することを特徴とする。
【0013】
かかる構成では、一対の固定電極から可動電極を引き抜く際には、発生したアークが固定電極から速やかに細筒部側に突出するアークホーンへと移行する。そのため、固定電極の溶損による金属蒸気の発生を抑制することができる。また、アークホーンは耐熱合金製であるため、アークホーンの溶損による金属蒸気の発生を抑制することができる。また、アークホーンは棒状であるため、アークの位置がその先端に限定され、安定的に良好な消弧性能を発揮させることができる。
【0014】
また、棒状のアークホーンが固定電極収容室に収容(固定)される構成としたため(特許文献2のように固定電極の先端に平行に補助電極を接続するわけではないので)、レイアウト上でもある程度の融通をきかせることができる。さらに、アブレーションする材料で形成される消弧筒によりアークを消弧する構成を採用しているので、SFガスを使用する必要がない。上記より、ライフサイクル中、消弧装置を大きくすることなく高いアーク電流遮断性能を維持することができ、安全性、環境性に優れたものとなる。
【0015】
上記棒状のアークホーンが、上記一対の固定電極から上記可動電極を引き抜く際に可動電極が最後に離脱する側に配置されているとよい。可動電極が最後に離脱する側にアークが発生するためこちら側にアークホーンを配置することで、アークをより迅速且つ確実に固定電極からアークホーンへと移行させることができ、固定電極の溶損による金属蒸気の発生をより抑制することができる。
【0016】
上記棒状のアークホーンが、タングステンを含んだ合金で形成されているとよい。タングステンは耐熱性が極めて高い金属であるため、アークホーンの材質としてタングステンを含んだ合金を採用することで良好な効果を得ることができる。
【0017】
当該消弧装置を気中開閉器が備えるとよい。上記消弧装置をガス開閉器等の他の開閉器と比べコストがかからない構造である気中開閉器に備えつけることで、コストを抑えつつ高い消弧性能を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ライフサイクル中、消弧装置を大きくすることなく高いアーク電流遮断性能を維持することができ、安全性および環境性に優れた消弧装置、並びにこの消弧装置を利用した気中開閉器を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態にかかる気中開閉器としてのセンサ内蔵自動開閉器が適用される長亘長の配電線路について説明する図である。
【図2】図1に示すセンサ内蔵自動開閉器の外観図である。
【図3】図2に示すセンサ内蔵自動開閉器に備えられる消弧装置を示す図である。
【図4】図3に示す消弧装置の消弧過程について説明する図である。
【図5】図3に示す消弧装置の消弧過程について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本実施形態にかかる気中開閉器としてのセンサ内蔵自動開閉器110が適用される長亘長の配電線路100について説明する図である。図2は、センサ内蔵自動開閉器110の外観図である。図1に示すように、長亘長の配電線路100では、遠方での短絡事故の短絡電流が小さくなる。そのため、変電所104の過電流継電器(OCR)では、検出できないおそれがある。本実施形態では、センサ内蔵自動開閉器110に後述の消弧装置120を備え付けて短絡電流を遮断できるように改造し、これを長亘長の配電線路100の中途に設置する。
【0022】
図2に示すように、センサ内蔵自動開閉器110は、近隣に設置される制御子局108によって制御される。制御子局108は、制御所に設置された親局と通信してセンサ内蔵自動開閉器110を開閉したり、計測データを伝送したりすることが可能である。また、制御子局108には、各種設定を行うことができる。本実施形態では、変電所104の過電流継電器では検出できない短絡電流等(過電流継電器が検出可能な短絡電流等よりも小さいもの)を検出し、自動的にセンサ内蔵自動開閉器110が電路を遮断するように、制御子局108を設定する。
【0023】
図3は、センサ内蔵自動開閉器110に備えられる消弧装置120を示す図である。図3(a)、(b)はそれぞれ消弧装置120の構造について説明する図であり、図3(b)は図3(a)のA−A断面図に相当する。以下、かかる消弧装置120について具体的に説明する。
【0024】
図3(a)、(b)に示すようにセンサ内蔵自動開閉器110では、一対の固定電極112a、112bが互いに対向して配置されていて、その間に可動電極114が抜き差しされることで電路が開閉される。一対の固定電極112a、112bおよび可動電極114は、導電性(IACS%)の高い銅部材で形成される。消弧装置120は、この抜き差しに伴い発生するアーク102(図4、図5参照)を消弧する。
【0025】
消弧装置120は、消弧筒124およびアークホーン122を含んで構成される。消弧筒124は、アークによりアブレーションする材料(例えばナイロン6、ポリオキシメチレン等のポリアミド系合成樹脂)で形成される。消弧筒124は、一対の固定電極112a、112bおよびアークホーン122を収容する固定電極収容室126と、この固定電極収容室126へと連続する狭まった通路であって、その内部を可動電極114が移動する細筒部128とからなる。細筒部128は、可動電極114の挿入端114aが出入り可能な開口部128aを有する。なお、可動電極114の不図示の非挿入端は、周方向R1に回動可能に軸支(連結)される。
【0026】
一対の固定電極112a、112bは固定電極用板ばね130a、130bとともに、固定電極収容室126の内部に進入した固定電極取付金具132に、その根元をボルト134、ナット136で締結される。固定電極用板ばね130a、130bは固定電極112a、112bの外側に配置され、可動電極114としっかりと接点を持つように固定電極112a、112bを内側(閉方向)へと押圧する。
【0027】
アークホーン122は棒状の耐熱合金製の部材であって、ここではタングステンを含んだ合金で形成される。具体的には、アークホーン122は、銅-タングステン合金または銀-タングステン合金で形成するとよい。タングステンは耐熱性が極めて高い金属であるため、タングステンの含有率が高いほどアークホーン122の耐熱性が高まる。
【0028】
アークホーン122はその根元が固定電極取付金具132に固定され、その先端が一対の固定電極112a、112bよりも細筒部128側に突出する。具体的には、一対の固定電極112a、112bよりも4〜5mm細筒部128側に突出させる。
【0029】
図4、図5は、消弧装置120の消弧過程について説明する図である。図4(a1)、(b1)、図5(a1)、図5(b1)は、図3(a)に対応する図であり、図4(a2)、(b2)、図5(a2)、図5(b2)は、図3(b)に対応する図である。
【0030】
図4(a1)、(a2)は、一対の固定電極112a、112bから可動電極114を引き抜く際に、可動電極114が最後に離脱する直前の状態を示したものである。図4(a1)、(a2)に示すように、可動電極114の挿入端114aの外周側が固定電極112a(または固定電極112b)から最後に離脱する。この可動電極114が最後に離脱する側(外周側)に、上記アークホーン122が配置される。
【0031】
図4(b1)、(b2)に示すように、図4(a1)、(a2)に示す状態から可動電極114を引き抜くと、一対の固定電極112a、112bと可動電極114との間にアーク102が発生する。詳細には、このアーク102は、一方の固定電極112a(または固定電極112b)の先端と、可動電極114の挿入端114aの外周側(最後に離脱する側)との間に発生する。すなわち、アーク102は、固定電極112a(または固定電極112b)よりも細筒部128側に突出するアークホーン122に近接した位置で発生する。
【0032】
そのため、図5(a1)、(a2)に示すように、アーク102は迅速且つ確実に固定電極112aからアークホーン122へと移行する。アークホーン122はタングステンを含んだ合金(耐熱合金)で形成されているので、アークホーン122にアーク102が移行しても、アークホーン122の溶融による金属蒸気の発生を抑制することができる。
【0033】
なお、アークホーン122を針状に形成すれば、その先端にアーク102をより移行しやすくすることができる。しかし、アークホーン122を針状に形成すると、アーク102による溶損を防ぐための耐熱性を確保するのが難しく、アーク102による溶損の低減という根本的な目的を果たせなくなるおそれがある。そのため、アークホーン122は上記のように棒状に形成すべきであり、アークホーン122の太さはアーク102の強度(電流)に応じて決定するとよい。
【0034】
棒状のアークホーン122はその先端の表面積が小さいので、アークホーン122の先端にアーク102の位置が限定される。よって、アーク102が様々な位置に移行することはない。アークホーン122の先端と可動電極114との間のアーク102は可動電極114を引き抜くほど長くなり、そのアーク102が存在する細筒部128にはアブレーションにより発生したガスが高い圧力で吹き付けられる(進入する)。これより、図5(b1)、(b2)に示すように、安定的に、迅速且つ確実に、アーク102を消弧することが可能となる。
【0035】
上述した消弧装置120によれば、ライフサイクル中、消弧装置を大きくすることなく高いアーク電流遮断性能を維持することができる。なお、この消弧装置120では、アークホーン122を固定電極収容室126に固定する構成としたため、レイアウト上でもある程度の融通をきかせることができる。この消弧装置120では、アブレーションする材料で形成される消弧筒124によりアーク102を消弧する構成を採用し、SFガスを使用していないので、環境性にも優れたものとなる。また、この消弧装置120を、ガス開閉器等の他の開閉器と比べコストがかからない構造である気中開閉器(センサ内蔵自動開閉器110)に備えつけることで、コストを抑えつつ高い消弧性能を実現することができる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、互いが対向して配置される一対の固定電極の間に可動電極を抜き差しすることで発生するアークを消弧する消弧装置、および気中開閉器として利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
100…配電線路、102…アーク、104…変電所、108…制御子局、110…センサ内蔵自動開閉器、112a、112b…固定電極、114…可動電極、114a…挿入端、120…消弧装置、122…アークホーン、124…消弧筒、126…固定電極収容室、128…細筒部、128a…開口部、130a、130b…固定電極用板ばね、132…固定電極取付金具、134…ボルト、136…ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いが対向して配置される一対の固定電極の間に可動電極を抜き差しすることで発生するアークを消弧する消弧装置であって、
前記アークによりアブレーションする材料で形成され、前記一対の固定電極を収容する固定電極収容室および該固定電極収容室へと連続する狭まった通路でありその内部を前記可動電極が移動可能な細筒部を備える消弧筒と、
前記固定電極収容室に収容され、前記一対の固定電極よりも前記細筒部側に突出する棒状の耐熱合金製のアークホーンと、
を有することを特徴とする消弧装置。
【請求項2】
前記棒状のアークホーンが、前記一対の固定電極から前記可動電極を引き抜く際に該可動電極が最後に離脱する側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の消弧装置。
【請求項3】
前記棒状のアークホーンが、タングステンを含んだ合金で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の消弧装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の消弧装置を備えることを特徴とする気中開閉器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−204055(P2012−204055A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65715(P2011−65715)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000220907)東光電気株式会社 (73)
【Fターム(参考)】