説明

消泡剤組成物

【課題】 液面に乾燥による固化を生じさせ難く、又、発生した場合においても、サービスタンク等における新しい消泡剤の継ぎ足しで固化物が溶解により消失し、かつ、乳化安定性及び消泡効果に優れたワックスエマルション型消泡剤を提供すること。
【解決手段】 油相がエマルション構成成分の5〜60質量%を占める水中油型エマルションをベースとした消泡剤組成物において、乳化剤として下記一般式(1)で示される化合物の1種または2種以上を使用することを特徴とする消泡剤組成物。 R−O−(CO)/(CO)−H (1)式中、Rは炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アシル基又は置換もしくは非置換のアリール基又はロジン類残基を表す。mは1〜10の整数、nは20〜80の整数を示す。「/」は付加形態がランダム状であってもブロック状であってもよいことを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中油型エマルション消泡剤組成物に関し、詳しくはその液面に乾燥による固化を生じさせ難くし、かつ、乳化安定性及び消泡効果に優れた消泡剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中油型エマルション消泡剤には、その代表的なものとして、高級アルコールを主成分としたワックスエマルション型消泡剤が挙げられる(特許文献1〜3参照)。ワックスエマルション型消泡剤は、パルプスラリー中に介在する微気泡に対する消泡効果が良好であり、且つ、サイズ効果への影響が殆どない等の優れた特徴から、製紙工業では使用が拡大している。しかしながら、従来のワックスエマルション型消泡剤は使用に際しサービスタンク等が開放系で使用されることで製品表面に生じる乾燥による固化物が定量ポンプ等を詰まらせることで使用が困難になる傾向にあった。このような問題の解決を課題としたものとして特許文献4、5が挙げられるが、消泡効果及び乳化安定性において改善の余地があった。すなわち、固化の抑制を重視するあまり、消泡効果や乳化安定性を損なう場合があり、バランスのとれた消泡剤組成物が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−156516
【特許文献2】特表2002−522657
【特許文献3】特開2001−62204
【特許文献4】特開平11−76703
【特許文献5】特開2003−164707
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような状況を考慮してなされたものであり、従来のワックスエマルション型消泡剤が有する種々の問題点を解決するものである。すなわち本発明の目的は、液面に乾燥による固化を生じさせ難く、又、発生した場合においても、サービスタンク等における新しい消泡剤の継ぎ足しで固化物が溶解により消失し、かつ、乳化安定性及び消泡効果に優れたワックスエマルション型消泡剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水中油型エマルション用の乳化剤として特定の非イオン界面活性剤を使用することにより固化の抑制、乳化安定性及び消泡効果の全てにおいてバランスのとれた消泡剤組成物が得られることを見出し本発明を完成した。
即ち本発明は、油相がエマルション構成成分の5〜60質量%を占める水中油型エマルションをベースとした消泡剤組成物において、乳化剤として下記一般式(1)で示される化合物の1種または2種以上を使用することを特徴とする消泡剤組成物である。

R−O−(CO)/(CO)−H (1)

式中、Rは炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アシル基又は置換もしくは非置換のアリール基又はロジン類残基を表す。mは1〜10の整数、nは20〜80の整数を示す。「/」は付加形態がランダム状であってもブロック状であってもよいことを示す。
【発明の効果】
【0006】
本発明の消泡剤組成物は、製品表面におけるエマルション粒子の分散状態が制御され、液面に乾燥による固化を生じさせ難く、又、発生した場合においても、サービスタンク等における新しい消泡剤の継ぎ足しで固化物が溶解により消失する効果を有している。加えて、乳化安定性及び消泡効果が損なわれることのない点で実用上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明において使用する乳化剤は、下記一般式(1)で示されるものである。

R−O−(CO)/(CO)−H (1)

式中、Rは炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アシル基又は置換もしくは非置換のアリール基又はロジン類残基を表す。mは1〜10の整数、nは20〜80の整数を示す。「/」は付加形態がランダム状であってもブロック状であってもよいことを示す。
一般式(1)において、mはプロピレンオキサイドの付加モル数を表し、1〜10の整数であるが、好ましくは2〜4の整数である。nはエチレンオキサイドの付加モル数を表し、20〜80の整数であるが、好ましくは40〜60の整数である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加モル数の合計(m+n)は25〜75が好ましく、40〜60がより好ましい。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加モル数の比は、n:m=20:1〜8:1であれば好ましく、20:1〜15:1であればより好ましい。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態はランダム状であってもブロック状であってもよい。
【0009】
本発明に係る乳化剤の中でも、特に下記一般式(2)で示される化合物を使用することが固化の抑制及び消泡効果等の点で特に好ましい。

R−O−(CO)(CO)(CO)−H (2)

式中、Rおよびmは前記一般式(1)のものと同じ。p、qはそれぞれ1〜30、20〜60の範囲にあり、かつ、p+q=n(nは前記一般式(1)のものと同じ)の関係を満たす正の整数である。中でも、pが2〜5の整数、qが40〜55の整数であるものが特に好ましい。
【0010】
前記一般式(1)、(2)におけるRが炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和のアルキル基である場合の具体例として、1−オクチル基、1−デシル基、1−ウンデシル基、1−ドデシル基、1−トリデシル基、1−テトラデシル基、1−ペンタデシル基、1−ヘキサデシル基、1−ヘプタデシル基、1−オクタデシル基、1−ノナデシル基、1−エイコシル基、1−ヘンエイコシル基、1−ドコシル基、1−トリコシル基、1−テトラコシル基、オレイル基、エライジル基、リノレイル基、リノレニル基等の1級アルキル基、2-オクチル基、2−デシル基、2−ウンデシル基、2−ドデシル基、2−トリデシル基、2−テトラデシル基、2−ペンタデシル基や、日本触媒社製C12〜14第2級アルコール「ソフタノール」(登録商標)由来の2級アルキル基を挙げることができるが、乳化後の経日で乳化物の増粘がない点で2級アルキル基が好ましい。
【0011】
前記一般式(1)、(2)におけるRが炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和のアシル基である場合の具体例として、1−オクタノイル基、1−デカノイル基、1−ドデカノイル基、1−テトラデカノイル基、1−ペンタデカノイル基、1−ヘキサデカノイル基、1−ヘプタデカノイル基、1−オクタデカノイル基、1−ノナデカノイル基、1−エイコサノイル基、1−ヘンエイコサノイル基、1−ドコサノイル基、1−トリコサノイル基、1−テトラコサノイル基、オレオイル基の他、エライジン酸残基、リノール酸残基、リノレイン酸残基、ステアロール酸残基、リシノール酸残基等の直鎖脂肪酸残基、イソオクタデカン酸残基、イソエイコサン酸残基、イソドコサン酸残基、イソテトラコサン酸残基等の分枝を有する脂肪酸が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0012】
置換又は非置換のアリール基としては、下記一般式(3)で示される基又は置換又は非置換のナフチル基が挙げられる。

但し、Rは水素原子またはフェニル基またはベンジル基またはスチリル基または炭素数1〜12のアルキル基またはモノベンジルフェニル基またはジベンジルフェニル基またはモノスチリルフェニル基またはジスチリルフェニル基またはクミル基またはモノベンジルクミル基またはジベンジルクミル基またはモノスチリルクミル基またはジスチリルクミル基を示す。nは1〜3の整数であり、nが2または3の場合はRの種類は上記のものからそれぞれ独立に選ばれる。
【0013】
前記ロジン類には、松に含まれる樹脂から得られるロジンそのものおよびその誘導体が含まれる。ロジンそのものとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンに大別でき、その主成分は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸、ヒドロアビエチン酸、ピマル酸、デキストロピマル酸等である。ロジンの誘導体には、不均化ロジン、水添ロジン、脱水素化ロジン、重合ロジンが含まれる。
【0014】
前記一般式(1)、(2)で表される化合物は公知の方法で得ることができるが、例えば炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和アルコール、飽和もしくは不飽和脂肪酸に必要に応じ塩基性触媒の存在下エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加することにより得ることができる。
【0015】
乳化剤の使用量は特に限定されるものではないが、水中油型エマルション中に0.1〜5質量%が好ましい。
【0016】
本発明に係わる水中油型エマルションの油相成分として、具体的には、(a)炭素数26以上のα−オレフィン、(b)炭素数12〜32の高級アルコール、(c)炭素数12〜32の高級アルコールと炭素数12〜32の高級脂肪酸とからなる高級脂肪酸エステルなどが挙げられ、その合計量が水中に5〜60質量%、好ましくは15〜35質量%含有する。5質量%未満では、経済的ではなく、60質量%を超えるとエマルションが固化しやすくなり好ましくない。
【0017】
本発明は、エマルシヨンの分離防止剤として公知の水溶性高分子を用いることができる。水溶性高分子はたとえば澱粉、マンナガラクタン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガントガム、アラビヤゴム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチル澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド等のものが挙げられる。
【0018】
本発明の水中油型エマルシヨンは、貯蔵に対する防腐を目的に公知の防腐剤が用いることができるが、これら防腐剤の使用にはなんら制限を加えるものではない。
【0019】
本発明に係わる水中油型エマルションの製造方法は、特に限定されるものではなく、従来の水中油型エマルションの製造において慣用されている方法(例えば特開2001−113104号に記載されている方法)を用いることができる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
下表に示す乳化剤を常法により合成し、後記の評価に供した。
【表1】

【0022】
(実施例1)
容器に炭素数30以上を95%含有するα−オレフィン(三菱化学社製ダイアレン30)60g、炭素数18〜22を92%以上含有する高級アルコール(CONDEA社製NAFOL1822)150g、ステアリルアルコールとステアリン酸のエステル81gおよび前記の乳化剤1を9g仕込み、85℃に昇温後、同温の熱水700gを加え撹拌混合後、ホモミキサー(日本精機製)を使用して8000rpmで1分間撹拌して水中油型エマルションを作り、その後30℃まで冷却して本発明に係る消泡剤組成物を調整した。
【0023】
(実施例2〜6、比較例1〜3)
乳化剤2〜9を用いた以外、配合処方及び製造方法は実施例1に準ずる。
【0024】
性能評価(1)
液面の乾燥による固化物発生状態の確認
前記消泡剤組成物20gをそれぞれ100ccビーカーにとり、オープン状態で静置して乾燥による固化物の発生状況を目視で観察した(5日間実施)。次に、5日間試験を実施したビーカーに、更に各消泡剤20gを追加して6時間後に100メッシュワイヤーでろ過を行ない、ワイヤー上の残渣(%)を未溶解の固化物として測定した(サービスタンクにおける消泡剤の継ぎ足しを想定)。結果を下表に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
性能評価(2)
消泡性能、乳化安定性試験
[発泡液製造方法]
段ボール古紙を卓上離解機で離解して濃度5%のパルプスラリーを得た。水道水で1%に希釈後65℃に加温し、サイズ剤(ペローザWS近代化学工業社製)5%(対パルプ、固形分として)、紙力増強剤(PS−117荒川化学工業社製)0.4%(対パルプ、固形分として)を添加し良く攪拌した後、硫酸バン土を加えpH5.0に調整した。40メッシュの金網を用いてパルプを濾過し得られた濾液を試験に供した。
【0027】
[消泡力試験方法]
a法(液面泡の確認)
内径80mm、高さ600mmのガラス製シリンダーに上記方法で作製した濾液1000mlを入れ40℃に保持する。次に水流ポンプを用いてシリンダー底部から上部へ10L/分の流量で液を循環して発泡させる。ポンプ循環開始5秒後に消泡剤2μlを添加し循環時間の経過に伴う液面の泡の高さを測定する。7分経過後ポンプを停止し同様に時間の経過に伴う泡の高さを測定する。消泡剤を添加し循環時間3分後、5分後、及び循環停止1分後の泡高(mm)を測定した。この結果を表3に示す。
【0028】
b法(液中泡の確認)
500mlのガラス製メスシリンダーに上記方法で作製した濾液200mlを入れ、消泡剤2μlを添加し次に40℃に保持する。次に振トウ機にて3分間振トウさせ微細繊維分の沈降に要する所要時間を測定した。この結果を表3に示す。
【0029】
[乳化安定性の試験方法]
40℃に温調した上記方法で作製した濾液にて100倍希釈した消泡剤(100ml)を、振とう機で2分間振とう後エマルション粒子の安定状態を次の方法で観た。この結果を表3に示す。
a)粒径の測定(島津製SALD−2100で測定)
b)40メッシュワイヤーで振トウ液を濾過して、消泡剤の付着状況を確認した。
【0030】
【表3】

【0031】
本発明の消泡剤組成物は、製品の液面に乾燥による固化を生じさせ難く、又、発生した場合においても、サービスタンク等における新しい消泡剤の継ぎ足しで固化物が溶解により消失することで実用上非常に有用である。また、乳化安定性及び消泡効果に優れるものでもある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相がエマルション構成成分の5〜60質量%を占める水中油型エマルションからなる消泡剤組成物において、乳化剤として下記一般式(1)で示される化合物の1種または2種以上を使用することを特徴とする消泡剤組成物。

R−O−(CO)/(CO)−H (1)

式中、Rは炭素数8〜24の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アシル基又は置換もしくは非置換のアリール基又はロジン類残基を表す。mは1〜10の整数、nは20〜80の整数である。「/」は付加形態がランダム状であってもブロック状であってもよいことを示す。
【請求項2】
乳化剤が下記一般式(2)で示される1種または2種以上である請求項1に記載の消泡剤組成物。

R−O−(CO)(CO)(CO)−H (2)

式中、Rおよびmは前記一般式(1)のものと同じ。p、qはそれぞれ1〜30、20〜60の範囲にあり、かつ、p+q=n(nは前記一般式(1)のものと同じ)の関係を満たす正の整数である。
【請求項3】
前記一般式(1)又は(2)において、Rが炭素数8〜24の2級アルキル基である請求項1又は2に記載の消泡剤組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)又は(2)において、Rが下記一般式(3)で示される基又は置換又は非置換のナフチル基である請求項1又は2に記載の消泡剤組成物。

但し、Rは水素原子またはフェニル基またはベンジル基またはスチリル基または炭素数1〜12のアルキル基またはモノベンジルフェニル基またはジベンジルフェニル基またはモノスチリルフェニル基またはジスチリルフェニル基またはクミル基またはモノベンジルクミル基またはジベンジルクミル基またはモノスチリルクミル基またはジスチリルクミル基を示す。nは1〜3の整数であり、nが2、または3の場合はRの種類は上記のものからそれぞれ独立に選ばれる。

【公開番号】特開2008−188480(P2008−188480A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22158(P2007−22158)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】