説明

消火性組成物及びそれを用いた建材又は塗料組成物

【課題】火災時の燃焼熱により二酸化炭素を発生する消火性組成物において、該消火性組成物が人体にとってより安全なものを提供する。
【解決手段】本発明の消火性組成物は炭酸よりも強い酸と炭酸塩とを含有している。被施工体としての天井に本発明の塗料組成物を塗装する。数日後、塗料組成物は乾燥し消火性塗膜を形成する。天井に消火性塗膜が形成されている室内で火災が発生すると、該塗膜の内部温度がクエン酸の融点である100〜157℃に達するとクエン酸が融解する。該クエン酸の表面を被覆しているメラミン樹脂は軟化するとともに熱膨張して薄くなるため、内部に収容している融解したクエン酸が流出する。該融解したクエン酸は炭酸カルシウムに接触して二酸化炭素を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁、天井等に用いられ、火災時の燃焼熱により消火性の気体を発生する消火性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火災の消火方法としては、一般的にスプリンクラー等から水を放水して消火することが行われている。また、二酸化炭素を放出し、大気中の酸素と火炎を遮断することによる消火設備もある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、二酸化炭素を発生する消火剤としては例えば、炭酸リチウム粒子と酸化ジルコニウム粒子とからなる混合粉末を消火剤として用い、両粒子を反応させた時に生成される二酸化炭素で消火を行うものがある。(例えば特許文献2参照。)。この消火剤によれば、設置された場所の温度が反応温度以上になると自然と二酸化炭素を放出して消火を行うことができる。
【0004】
しかし、水や二酸化炭素を放出する消火方法においては、複雑な設備が必要であるという問題点があった。また、二酸化炭素を発生する消火剤においては、炭酸リチウムと、この炭酸リチウムと反応してリチウム複合酸化物を生成する酸化物が必要であるため、使用できる薬剤が高価であるとともに、用いられる炭酸リチウムの毒性がLD50で525mg/kg(ラット、経口)であり、皮膚に接触した場合には発赤するという問題点があった。特に塗料等で現場施工を行う場合や、人が直接接触するような部位に用いられる建材においてはより安全な消火性組成物が求められていた。
【0005】
さらに、前記炭酸リチウムを使用する消火剤においては、200〜800℃という比較的高温にならないと二酸化炭素を発生しないため、火災の初期消火性能が十分でないという問題点があった。
【特許文献1】特開2003−38673号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】特開2001−178842号公報(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、火災時の燃焼熱により二酸化炭素を発生する消火性組成物において、該消火性組成物が人体にとってより安全なものにする点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、火災時の燃焼熱により二酸化炭素を発生する消火性組成物において、該消火性組成物が炭酸よりも強い酸と炭酸塩とを含有していることを最も主要な特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記炭酸よりも強い酸が常温で固体であることを最も主要な特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方が常温で非水溶性であることを最も主要な特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記炭酸よりも強い酸又は炭酸塩が常温で水溶性である場合において、該炭酸よりも強い酸及び炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方の表面が被覆してあることを最も主要な特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、塗料組成物において、該塗料組成物が請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の消火性組成物を含有することを最も主要な特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、建材において、該建材が請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の消火性組成物を含有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、火災時の燃焼熱により二酸化炭素を発生する消火性組成物において、人が直接接触しても安全な消火性組成物を提供することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、消火性組成物を合成樹脂、セメント、石膏等を結合剤として成型することが容易になる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加え、消火性組成物を水性塗料等の水を媒体とする形態で提供する場合において、常温における酸と炭酸塩との酸塩基反応を抑制することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加え、消火性組成物を水性塗料等の水を媒体とする形態で提供する場合において、常温における酸と炭酸塩との酸塩基反応を抑制することができる。
【0017】
請求項5又は請求項6に記載の発明によれば、スプリンクラー等の複雑な消火設備がなくとも初期消火性に優れた建築物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を説明する。
本発明は炭酸より強い酸が常温で固体である場合には、該酸が火災時の燃焼熱により溶融し、炭酸塩と酸塩基反応によって、炭酸塩の分解温度よりも低い温度で二酸化炭素を発生させることができるという技術的思想に基づくものである。
【0019】
また、炭酸より強い酸が常温で液体であるか固体であるかにかかわらず、該酸を被覆材により被覆することによって、炭酸塩と酸との接触温度を制御することが容易になるという技術的思想にも基づいている。
【0020】
本発明において炭酸より強い酸とは電離度が炭酸の電離度より大きい酸を言う。
【0021】
本発明の消火性組成物は炭酸よりも強い酸と炭酸塩とを含有していることが必要である。その組成は、例えば以下のようなものである。
【0022】
消火性組成物の組成例:メラミン樹脂で被覆された炭酸よりも強い酸としてのクエン酸100質量部、炭酸塩としての炭酸カルシウム100質量部。
【0023】
前記炭酸よりも強い酸としては例えば、蟻酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、コハク酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、クエン酸、リンゴ酸、アミノ酸、酒石酸、フミン酸等のカルボン酸、スルホン酸、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合させて用いても良い。
【0024】
前記炭酸よりも強い酸は常温で固体であることが好ましい。常温で固体であることにより、消火性組成物を合成樹脂、セメント、石膏等を結合剤として成型することが容易になる。常温で固体である炭酸よりも強い酸としては例えば、クエン酸(融点100〜157℃)、マレイン酸(融点133℃)、フマル酸(融点300℃)、アセチルサリチル酸(融点135℃)、ラウリン酸(融点43℃)、ステアリン酸(融点68℃)、パルチミン酸(融点63℃)、無水フタル酸(融点132℃)、アジピン酸(融点153℃)、アコニット酸(融点195℃)、アセチル安息香酸(融点114〜206℃)、アセチルサリチル酸(融点135℃)、アセチレンジカルボン酸(融点178℃)、アセトアミド安息香酸(融点185〜256℃)、アセトキシコハク酸(融点129〜130℃)、アセト酢酸(融点36〜37℃)、アゾキシ二安息香酸(融点240〜320)、アゾ二安息香酸(融点237〜340)、アトロパ酸(融点107〜108℃)、アトロラクチン酸(融点95℃)、アニス酸(融点106〜185℃)、アビエチン酸(融点175℃)、アマリン酸(融点246℃)、アミノ安息香酸(融点178〜187℃)、アミノケイ皮酸(融点158〜185℃)、アミノサリチル酸(融点150〜283℃)、サリチル酸(o−安息香酸、融点153℃)、酒石酸(融点120〜205℃)、シュウ酸(融点182〜190℃)等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、好ましくは融点が80〜220℃であり、より好ましくは90〜200℃であり、最も好ましくは100〜180℃である。この範囲にあるとき、火災時の燃焼熱により融解して炭酸塩と酸塩基反応を生じやすく、十分な二酸化炭素を発生することができる。融点が80℃未満である場合には、比較的低温で融解してしまうため、ボヤ程度の消火が容易な火災であっても二酸化炭素を発生してしまおそれがあり、塗料や建材等の形態で提供される場合には、補修をする必要がある。逆に融点が220℃を超える場合には、火災がある程度大きくならないと二酸化炭素を発生しないため、火災の初期消火が十分でない。常温で固体である炭酸よりも強い酸の融点が90〜200℃の範囲にある場合には、初期消火に対応可能であり、また、消火に必要な二酸化炭素の発生が遅すぎることにもならない。
【0026】
さらに、常温で固体である炭酸よりも強い酸の融点が100〜180℃の範囲にある場合には、水の沸点である100℃以上になってから二酸化炭素を発生させることができる。このため、火災を生じている室内にスプリンクラー等の水を使用する消火設備が併設してある場合には、スプリンクラーの消火能力範囲の火災では二酸化炭素を発生させることがないため、火災の消火後に部屋を再利用することが容易であるとともに、スプリンクラーの消火能力を超える火災が生じた場合にもスプリンクラーと本発明の消火性組成物との二段階で消火をすることができる。
【0027】
前記炭酸より強い酸はラットにおける経口毒性がLD50値で好ましくは2000mg/kg以上、より好ましくは5000mg/kg以上のものを用いることが好ましい。この範囲にあるとき、人体への影響が少なく誤飲した場合にも安全である。ラットの経口毒性がLD50値が2000mg/kg以上のものとしては例えば、クエン酸(6730mg/kg)、酢酸(3310mg/kg)等が挙げられる。
【0028】
前記炭酸塩としては例えば、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸亜鉛、炭酸鉄、炭酸カリウム、炭酸マンガン等が挙げられる。これらのうち、金属塩を用いることが好ましく、アルカリ金属塩を用いることがより好ましい。炭酸塩として金属塩を用いることにより、常温で安定な消火性組成物を得ることができる。また炭酸塩としてアルカリ金属塩を用いることにより、酸との反応が良好な消火性組成物を得ることができる。
【0029】
前記炭酸塩はラットの経口毒性がLD50値で好ましくは2000mg/kg以上、より好ましくは5000mg/kg以上のものを用いることが好ましい。この範囲にあるとき、人体への影響が少なく誤飲した場合にも安全である。ラットの経口毒性がLD50値が2000mg/kg以上のものとしては例えば、炭酸カルシウム(6450mg/kg)等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウムは皮膚感作性がなく、常温で安定であることから最も好ましく用いられる。
【0030】
前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩は常温で非水溶性であることが好ましい。前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩が常温で非水溶性であることにより、消火性組成物を水性塗料等の水を媒体とする形態で提供する場合において、常温における酸と炭酸塩との酸塩基反応を抑制することができる。
【0031】
前記常温で非水溶性の炭酸よりも強い酸としては例えば、o−アセトアミド安息香酸、アミノ安息香酸、アミノケイ皮酸、安息香酸、サリチル酸等が挙げられる。
前記常温で非水溶性の炭酸塩としては例えば、炭酸カルシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガン等が挙げられる。
【0032】
炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方の表面が被覆してあることが好ましい。前記炭酸よりも強い及び炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方の表面が被覆してあることにより、消火性組成物を水性塗料等の水を媒体とする形態で提供する場合において、常温における酸と炭酸塩との酸塩基反応を抑制することができる。また、被覆材で被覆することにより、炭酸よりも強い酸又は炭酸塩に皮膚感作性があったとしても、人が直接触れても安全にすることができる。
【0033】
前記炭酸よりも強い酸又は炭酸塩の表面を被覆する被覆材としては例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂、ステアリン酸アルミニウム等の脂肪酸塩、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、シリカ、アルミナ等が挙げられる。これらのうち、合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂を用いることにより、被覆材の融点やガラス転移点を調整することが容易なため、目的とする温度で炭酸よりも強い酸と炭酸塩との接触反応を生じさせることが容易である。
【0034】
前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩の表面を被覆する被覆方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、界面重合法、in−site重合法、液中乾燥法、コアセルベーション法、噴霧乾燥法、乾式混合法等が挙げられる。
【0035】
前記炭酸よりも強い酸と炭酸塩との混合比率は炭酸よりも強い酸の価数をa、該酸のモル数をMaとし、炭酸塩のモル数をMcとした場合、a×Ma=1Mc〜3Mcとすることが好ましい。この範囲にあるとき、炭酸よりも強い酸と炭酸塩とが完全に反応することができるため、単位体積当たりの二酸化炭素放出量を最大にすることができる。a×Maが1Mc未満の場合には、炭酸塩の絶対量が少ないために火災時の燃焼熱による二酸化炭素の発生量が少なくなる。逆に3Mcを超える場合には、炭酸よりも強い酸の絶対量が少ないため、火災時の燃焼熱による二酸化炭素の発生量が少なくなる。
【0036】
前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩の粒子径は、好ましくは15〜2000μmであり、より好ましくは30〜1500μmであり、最も好ましくは50〜1000μmである。この範囲にあるとき、炭酸よりも強い酸と炭酸塩との接触面積が最適となり、火災時の燃焼熱によって効率よく二酸化炭素を発生させることができる。前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩の粒子径が15μm未満の場合には表面を完全に被覆する被覆することが困難であり、逆に前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩の粒子径が2000μmを超える場合には、二酸化炭素の発生速度が低下するおそれがある。
【0037】
以上のように構成された消火性組成物は塗料組成物や建材として使用することができる。塗料組成物としては例えば以下のような組成が挙げられる。
塗料組成物の組成例:前記消火性組成物例100質量部、結合剤としての合成樹脂100質量部、増粘剤1質量部、造膜助剤5質量部。
【0038】
前記消火性組成物を塗料組成物や建材として用いることにより、スプリンクラー等の複雑な消火設備がなくとも初期消火性に優れた建築物を得ることができる。また、スプリンクラー等の既存の消火設備を併設すればより防災性に優れた建築物を得ることができる。
【0039】
前記結合剤は合成樹脂に限定されず、任意に設定することができる。例えば、セメント、石膏、水ガラス、たんぱく質等が挙げられる。
【0040】
前記合成樹脂としては例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、バーサティック酸ビニル樹脂等のカルボン酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等、またはそれらの変性樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、これらの樹脂を形成する単量体の2以上を共重合させて用いても良い。またエマルジョンとして用いても良い。
【0041】
以上のように構成された塗料組成物は以下のように作用する。被施工体としての天井に本発明の塗料組成物を塗装する。数日後、塗料組成物は乾燥し消火性塗膜を形成する。天井に消火性塗膜が形成されている室内で火災が発生すると、該塗膜の内部温度がクエン酸の融点である100〜157℃に達するとクエン酸が融解する。該クエン酸の表面を被覆しているメラミン樹脂は軟化するとともに熱膨張して薄くなるため、内部に収容している融解したクエン酸が流出する。該融解したクエン酸は炭酸カルシウムに接触して二酸化炭素を発生する。このとき予想される反応式は以下の通りである。
反応式:2C+3CaCO→Ca(C+3HO+3CO
前記発生した二酸化炭素は空気より比重が大きいため(空気の比重を1としたときの二酸化炭素の比重1.53)、室内の下方に沈んで消火することができる。
【0042】
以上のように、本発明の消火性組成物によれば、火災時の燃焼熱により二酸化炭素を発生させることができるため、特殊な装置を必要とすることなく消火することができるとともに、人が直接触れても安全な消火性組成物を提供することができる。また、220℃以下という炭酸カルシウムの分解温度(900℃)よりも低い温度で二酸化炭素を発生させることができるため、火災の初期消火に有効である。
【0043】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記炭酸よりも強い酸が常温で固体であることにより、消火性組成物を合成樹脂、セメント、石膏等を結合剤として成型することが容易になる。
【0044】
・前記炭酸よりも強い酸の融点が80〜220℃であることにより、火災時の燃焼熱により融解して炭酸塩と酸塩基反応を生じやすく、十分な二酸化炭素を発生することができる。
【0045】
・前記炭酸よりも強い酸の融点が100〜180℃の範囲にある場合には、水の沸点である100℃以上になってから二酸化炭素を発生させることができる。このため、火災を生じている室内にスプリンクラー等の水を使用する消火設備が併設してある場合には、スプリンクラーの消火能力範囲の火災では二酸化炭素を発生させることがないため、火災の消火後に部屋を再利用することが容易であるとともに、スプリンクラーの消火能力を超える火災が生じた場合にもスプリンクラーと本発明の消火性組成物との二段階で消火をすることができる。
【0046】
・前記炭酸より強い酸のラットにおける経口毒性がLD50値で2000mg/kg以上であることにより、人体への影響が少なく誤飲した場合にも安全である。
【0047】
・前記炭酸塩のラットにおける経口毒性がLD50値で好ましくは2000mg/kg以上であることにより、人体への影響が少なく誤飲した場合にも安全である。
【0048】
・前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩が常温で非水溶性であることにより、消火性組成物を水性塗料等の水を媒体とする形態で提供する場合において、常温における酸と炭酸塩との酸塩基反応を抑制することができる。
【0049】
・前記炭酸よりも強い酸又は炭酸塩が常温水溶性である場合には、該炭酸よりも強い及び炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方の表面が被覆してあることにより、消火性組成物を水性塗料等の水を媒体とする形態で提供する場合において、常温における酸と炭酸塩との酸塩基反応を抑制することができる。また、被覆材で被覆することにより、炭酸よりも強い酸又は炭酸塩に皮膚感作性があったとしても、人体の接触に対して安全である。
【0050】
・前記炭酸よりも強い酸又は炭酸塩の表面を合成樹脂で被覆することにより、被覆材の融点やガラス転移点を調整することが容易なため、目的とする温度で炭酸よりも強い酸と炭酸塩との接触反応を容易に生じさせることができる。
【0051】
・前記炭酸よりも強い酸と炭酸塩との混合比率は炭酸よりも強い酸の価数をa、該酸のモル数をMaとし、炭酸塩のモル数をMcとした場合において、a×Ma=1Mc〜3Mcとすることにより、炭酸よりも強い酸と炭酸塩とを完全に反応させることができるため、単位体積当たりの二酸化炭素放出量を最大にすることができる。
【0052】
・前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩の粒子径が15〜2000μmであることにより、炭酸よりも強い酸と炭酸塩との接触面積が最適となり、火災時の燃焼熱によって効率よく二酸化炭素を発生させることができる。
【0053】
・前記炭酸よりも強い酸の溶融温度が炭酸塩の分解温度よりも低いことにより、低温で二酸化炭素を発生させることができるため、火災の初期消火に有効である。
【0054】
・前記炭酸塩として金属塩を用いることにより、常温で安定な消火性組成物を得ることができる。また前記炭酸塩としてアルカリ金属塩を用いることにより、酸との反応が良好な消火性組成物を得ることができる。
【0055】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記実施形態においては、炭酸よりも強い酸としてのクエン酸の表面を被覆材としてのメラミン樹脂で被覆しているが、被覆材による反応温度の調整が不要な場合には、必ずしも被覆する必要はない。
【0056】
・前記実施形態においては、クエン酸と炭酸カルシウムを別々に混合して消火性組成物をとしているが、両者を混合した後に合成樹脂、石膏、セメント等の結合材により成型体又は造粒粉としても良い。
このように構成した場合、炭酸よりも強い酸としてのクエン酸と炭酸塩としての炭酸カルシウムとの接触をより確実にすることができる。
【0057】
・前記実施形態においては本発明の消火性組成物を塗料の形態で使用したが、任意の形態で用いることができる。例えば粉末、造粒粉等の粉体、消火剤を合成樹脂、セメント、石膏等の結合材による成型体、板、シート、塗料、塗材等の形態で用いても良い。また、多孔質体に吸着させて用いても良いし、消火器の薬剤として使用しても良い。
【0058】
・前記実施形態においては本発明の消火性組成物を塗料の形態で使用したが、該消火剤を圧縮成型や結合材等により成型体とし、燃焼中の炎に直接投げ込んで使用しても良い。
【0059】
・前記実施形態においては本発明の消火性組成物を塗料の形態で使用したが、この場合には、増粘剤、造膜助剤、分散剤、湿潤剤、充填材、着色顔料、繊維等の通常の塗料に用いる添加剤を用いることができる。
【0060】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
(1)前記炭酸よりも強い酸の溶融温度が炭酸塩の分解温度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の消火性組成物。
このように構成した場合、低温で二酸化炭素を発生させることができるため、火災の初期消火に有効である。
【0061】
(2)前記炭酸よりも強い酸の融点が220℃以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の消火性組成物。
このように構成した場合、火災時の燃焼熱により融解して炭酸塩と酸塩基反応を生じやすく、消火に十分な二酸化炭素を発生することができる。
【実施例】
【0062】
以下、前記実施形態を具体化した実施例及び比較例について説明する。
試験は、高さ150mm×幅150mm×奥行150mmの箱(スレート板製)の床部中央に、ガーゼ20gにエタノール10mlをしみこませて設置し、該ガーゼに着火して鎮火するまでの時間を測定することにより行った。なお、着火のために箱壁の一面は床から高さ80mmまでとしてあり、その上部には壁がないため、着火及び消火の有無を目視確認することができる。
【0063】
(実施例1)
実施例1の試験は、箱の天井となるスレート板に以下の消火性塗料を厚さ10mmで塗布し、2週間室温で養生して試験体とした。
実施例1の組成:クエン酸100質量部、炭酸カルシウム100質量部、合成樹脂としてのアクリル樹脂100質量部、増粘剤1質量部。
試験の結果、着火から6分で鎮火した。
【0064】
(実施例2)
実施例2の試験は、箱の天井となるスレート板に以下の消火性塗材を厚さ10mmで塗布し、2週間室温で養生して試験体とした。
実施例2の組成例:アクリル樹脂で被覆された炭酸よりも強い酸としてのクエン酸100質量部、炭酸塩としての炭酸ナトリウム100質量部、結合材としての石膏100質量部。
試験の結果、着火から7分で鎮火した。
【0065】
(実施例3)
実施例3の試験は、着火直後の炎に対して以下の消火性組成物をふりかけて行った。
実施例3の組成:酒石酸100質量部、炭酸水素ナトリウム100質量部。
試験の結果、着火から4分で鎮火した。
【0066】
(実施例4)
実施例4の試験は、着火直後の炎に対して以下の消火性組成物をふりかけて行った。
実施例4の組成:クエン酸100質量部、炭酸カルシウム100質量部。
試験の結果、着火から4分で鎮火した。
【0067】
(実施例5)
実施例5の試験は、箱の壁となるスレート板(3面)に以下の消火性塗材を厚さ5mmで塗布し、2週間室温で養生して試験体とした。
【0068】
実施例5の組成例:炭酸よりも強い酸としてのクエン酸100質量部、ステアリン酸アルミニウムで被覆された炭酸塩としての炭酸カルシウム100質量部、結合材としての石膏100質量部、結合材としての酢酸ビニル樹脂20質量部。
試験の結果、着火から5分で鎮火した。
【0069】
(実施例6)
実施例6の試験は、箱の壁となるスレート板(3面)及び天井に以下の消火性塗材を厚さ5mmで塗布し、2週間室温で養生して試験体とした。
実施例6の組成例:炭酸よりも強い酸としてのクエン酸20質量部、ステアリン酸アルミニウムで被覆された炭酸塩としての炭酸カルシウム100質量部、結合材としてのエチレン酢酸ビニル共重合樹脂100質量部。
試験の結果、着火から5分で鎮火した。
【0070】
(実施例7)
実施例7の試験は、箱の壁となるスレート板(3面)及び天井に以下の消火性塗材を厚さ5mmで塗布し、2週間室温で養生して試験体とした。
実施例7の組成例:ゼラチンで被覆された炭酸よりも強い酸としての塩酸20質量部、炭酸塩としての炭酸マグネシウム100質量部、結合材としての普通ポルトランドセメント100質量部。
試験の結果、着火から4分で鎮火した。
【0071】
比較例1の試験は、箱の天井となるスレート板のみで試験体とした。
試験の結果、着火から20分で鎮火した。
【0072】
比較例2の試験は、箱の天井となるスレート板に以下の消火性塗料を厚さ10mmで塗布し、2週間室温で養生して試験体とした。
比較例2の組成:酸化ジルコニウム100質量部、炭酸リチウム100質量部、合成樹脂としてのアクリル樹脂100質量部、増粘剤1質量部。
試験の結果、着火から14分で鎮火した。
【0073】
比較例3の試験は、着火直後の炎に対して以下の消火性組成物をふりかけて行った。
比較例3の組成:酸化ジルコニウム100質量部、炭酸カルシウム100質量部。
試験の結果、着火から15分で鎮火した。
【0074】
なお、本明細書に記載されている技術的思想は以下に示す発明者により創作された。
段落番号[0001]〜[0073]に記載されている技術的思想は加藤圭一により創作された。また、願書に添付した特許請求の範囲、明細書の著作者は加藤圭一である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時の燃焼熱により二酸化炭素を発生する消火性組成物において、該消火性組成物が炭酸よりも強い酸と炭酸塩とを含有していることを特徴とする消火性組成物。
【請求項2】
前記炭酸よりも強い酸が常温で固体であることを特徴とする請求項1に記載の消火性組成物。
【請求項3】
前記炭酸よりも強い酸及び炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方が常温で非水溶性であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の消火性組成物。
【請求項4】
前記炭酸よりも強い酸又は炭酸塩が常温水溶性である場合において、該炭酸よりも強い及び炭酸塩のうち、少なくともいずれか一方の表面が被覆してあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の消火性組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の消火性組成物を含有することを特徴とする塗料組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の消火性組成物を含有することを特徴とする建材。

【公開番号】特開2008−54734(P2008−54734A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231999(P2006−231999)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】