説明

消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法

【課題】短絡を伴うグロビュール移行溶接及び短絡を伴うスプレー移行溶接においても、溶滴のくびれの発生を高制度に検出すること。
【解決手段】短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれの発生を検出し、このくびれの発生を検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させてアークを再発生させるように出力制御する消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法において、短絡状態中の溶滴移行をCCDカメラCMによって所定周期ごとに撮像し、撮像された溶滴移行画像を画像処理回路GCによって処理してくびれの発生を検出する。撮像された溶滴移行画像に同一の判別領域を設定し、この判別領域における溶滴像が占める面積を算出し、この面積が基準値未満になったことを判別することによってくびれの発生を検出する。画像によってくびれを直接的に検出するので、高精度なくびれの検出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中の溶滴のくびれ現象を検出して溶接電流を急減させることによって溶接品質を向上させることができる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、短絡期間Tsとアーク期間Taとを繰り返す消耗電極アーク溶接におけるくびれ検出制御方法を示す波形図である。同図(A)は溶滴のくびれ検出信号Ndを示し、同図(B)は溶接電圧Vwを示し、同図(C)は溶接電流Iwを示し、同図(D)は溶滴部の抵抗値の変化率Δr=dr/dtを示し、同図(E1)〜(E3)は溶滴の移行状態を示す。同図はサイリスタ位相制御溶接電源を使用した場合であり、同図(B)及び(C)に示すように、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwには全波整流制御の場合商用周波数(50Hz又は60Hz)の6倍の周波数を有する大きなリップルが重畳している。以下、同図を参照して説明する。
【0003】
時刻t1〜t2のアーク期間Ta中は、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となり、同図(C)に示すように、溶接電流Iwはワイヤ送給速度に対応した平均電流値となる。
【0004】
時刻t2において、同図(E1)に示すように、アーク期間Ta中に溶接ワイヤ1の先端に形成された溶滴1aが母材2の溶融池2aと接触すると短絡期間Tsが開始する。短絡期間Tsが開始すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値となり、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは時間経過に伴い増加する。この電流通電による電磁的ピンチ力が溶滴1aに作用して、同図(E2)に示すように、溶滴1aにくびれ部1bが発生する。このくびれ1bが進行して、同図(E3)に示すように、溶滴1aは溶融池2aへと移行し、時刻t3にアーク3が再発生する。したがって、くびれ1bの発生はアーク再発生の前兆現象であり、くびれ1b発生から300〜1000μs後にアークが再発生することが多い。
【0005】
上述したように、くびれ1bが発生すると、溶接電流Iwの通電路がくびれ部分1bで狭くなるために、通電路の抵抗値rが大きくなる。この抵抗値rはくびれ1bの進行に伴い急速に大きくなる。同図(D)は、この抵抗値rの変化率Δr=dr/dt=d(Vw/Iw)/dtの波形を示す。くびれ1bの進行に伴って抵抗値変化率Δrが急上昇する。この値Δrが予め定めたくびれ検出基準値rtを超えたことを時刻t21に判別すると、同図(A)に示すように、くびれ検出信号NdがHighレベルになる。これに応動して、同図(C)に示すように、溶接電流値Iwを急減させる。この急減のための特別な回路については図7で後述する。そして、時刻t3においてアークが発生した時点における溶接電流値Iwは低い値であるために、スパッタの発生が大幅に減少する。これは、スパッタのほとんどはアーク再発生時に発生し、その発生量はアーク再発生時の電流値の大きさに比例するためである。したがって、消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法とは、短絡期間中の抵抗値変化率Δrによってくびれ1bの進行を検出し、溶接電流Iwを急減させてアーク再発生時の電流値を低い値にして、スパッタ発生を大幅に減少させるものである。上記のくびれ検出信号Ndは、時刻t21のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までのくびれ検出期間Tnの間Highレベルになる。
【0006】
図7は、上述したくびれ検出制御方法を採用した溶接装置のブロック図である。溶接電源PSは、一般的な消耗電極アーク溶接用のサイリスタ位相制御溶接電源である。トランジスタTRは出力に直列に挿入され、並列に抵抗器Rが接続されている。この抵抗器Rの抵抗値は短絡期間の負荷抵抗値数十mΩの10倍以上の値に設定される。トランジスタTRは、上述した図6(A)においてくびれ検出信号NdがHighレベルの期間(くびれ検出期間Tn)のみオフ状態となり、電流通電経路に抵抗器Rが挿入される。くびれ検出期間Tn中は溶接電源の出力が停止された上で抵抗器Rが挿入されると、通電経路の抵抗値が10倍以上に大きくなるために、電源内部の大きなリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電されて溶接電流Iwが急減する。この急減速度は、抵抗器Rを挿入していない通常の場合の10倍以上の速さである。
【0007】
電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。抵抗値変化率算出回路ΔRは、これら電圧検出信号Vd及び電流検出信号Idを入力として、抵抗値変化率信号Δr=d(Vd/Id)/dtを算出する。くびれ検出回路NDは、この抵抗値変化率信号Δrと予め定めたくびれ検出基準値rtとを比較して、Δr>rtのときにHighレベルとなるくびれ検出信号Ndを出力する。駆動回路DRは、このくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがLowレベルのときに上記のトランジスタTRをオン状態にする駆動信号Drを出力する。トランジスタTRがオン状態のときは抵抗器Rは短絡されるので溶接電源PSだけの通常の動作となる。
【0008】
上述したくびれ検出制御方法では、くびれの発生を正確に検出することが重要である。このくびれ検出の精度を決める重要な要因の1つが、上記のくびれ検出基準値rtが適正値に設定されているかにある。くびれ検出基準値rtの適正値は、溶接法、溶接ワイヤの種類、ワイヤ送給速度等の溶接条件に応じて変化する。このために、種々の溶接条件ごとに予め溶接試験を行いその適正値を求めておく必要がある。このくびれ検出基準値rtの設定を自動的に行う方法が従来から提案されている。この従来技術では、図6(A)で上述したくびれ検出期間Tnが目標値になるようにくびれ検出基準値rtを変化させて自動設定する。くびれ検出期間Tnが短くなりすぎると溶接電流Iwが低い値まで下がりきらない内にアークが再発生してスパッタ削減効果が小さくなる。逆に、くびれ検出期間Tnが長くなりすぎるとくびれ検出の誤検出の可能性が高くなり、この状態で電流を急減させると却って溶接状態が不安定になる。したがって、くびれ検出期間Tnが適正値(数百μs)になることは、くびれ検出の誤検出もなくアーク再発生時の電流値も低くなるので、スパッタが大幅に減少する。上述した従来技術については、特許文献1を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−75827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
溶接電流平均値が180A程度以下の範囲では、溶滴移行形態は短絡移行形態になる。この短絡移行形態では、図6で上述したように、略一定のアーク期間Taと略一定の短絡期間Tsとが規則正しく繰り返される。このために、アーク期間Ta中に形成される溶滴のサイズは略一定となり、この形成された溶滴が短絡期間Ts中に略完全に溶融池に移行することになる。したがって、くびれの進行状態は略一定となるために、くびれの進行状態を抵抗値の変化率によって正確に検出することができる。
【0011】
溶接電流平均値が180〜220A程度の範囲では、溶滴移行形態は上記の短絡移行形態とグロビュール移行形態とが混在した形態となる。このために、アーク期間Ta中に形成される溶滴サイズが大小ばらつくことになる。また、この電流範囲は溶滴移行形態が混在するために溶接状態がやや不安定であるので、溶滴形状も球状から変形した形状になっている。このために、くびれの進行状態が一定ではなく変動することになるために、抵抗値の変化率が短絡ごとに変動することになる。したがって、抵抗値の変化率によってくびれの進行状態を正確に検出することが困難であった。溶接電流平均値が220A程度以上になると、溶滴移行形態はグロビュール移行形態になり、溶滴は短絡することなく自由落下によって移行する。しかし、この電流範囲においても、溶接速度を速くする場合には、溶接ビードにアンダーカットが形成されることを防止するために、溶接電圧平均値を低く設定する。このようにすると、アーク長が短くなり、アンダーカットの形成を防止することができる。アーク長が短くなると、アーク期間Ta中に大きく成長した溶滴が溶融池と短絡して移行するようになる。この移行形態は、上記の短絡移行形態とは異なり、短絡状態になる前にくびれが発生している場合もある。したがって、このような短絡を伴うグロビュール移行形態では、抵抗値の変化率が変動するために、くびれの進行状態を正確に検出することは困難であった。消耗電極パルスアーク溶接においても、上記と同様に、溶接速度を速くして溶接する場合には、溶滴は短絡を伴うスプレー移行形態によって移行する。この場合も、短絡が発生する前にくびれが発生しているために、抵抗値の変化率は変動することになる。したがって、この場合にも、くびれの進行状態を正確に検出することは困難であった。すなわち、典型的な短絡移行形態の場合を除き、短絡移行とグロビュール移行とが混在する移行形態の場合、短絡を伴うグロビュール移行形態の場合及び短絡を伴うスプレー移行形態の場合には、従来技術によってはくびれの発生を正確に検出することが困難であった。
【0012】
そこで、本発明では、溶滴移行形態が典型的な短絡移行形態でないときでも、くびれの発生を正確に検出することができ、この検出に基づいて溶接電流をアーク再発生前に減少させることによってスパッタの発生を抑制することができる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、消耗電極と母材との間でアーク発生状態と短絡状態とを繰り返す消耗電極アーク溶接にあって、短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれの発生を検出し、このくびれの発生を検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させてアークを再発生させるように出力制御する消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法において、
前記短絡状態中の溶滴移行をCCDカメラによって所定周期ごとに撮像し、撮像された溶滴移行画像を処理して前記くびれの発生を検出する、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【0014】
第2の発明は、前記溶滴移行画像の処理が、前記溶滴移行画像に同一の判別領域を設定し、各溶滴移行画像ごとに、この判別領域における溶滴像が占める面積を算出し、この面積が基準値未満になったことを判別することによってくびれの発生を検出する処理である、ことを特徴とする第1の発明記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【0015】
第3の発明は、前記溶滴移行画像の処理が、前記溶滴移行画像に同一の判別領域を設定し、各溶滴移行画像ごとに、この判別領域における溶滴像が占める面積を算出し、この面積と短絡状態が開始されたときの前記面積との比率が基準比率未満になったことを判別することによってくびれの発生を検出する処理である、ことを特徴とする第1の発明記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CCDカメラによって短絡状態における溶滴移行画像を撮像し、この撮像された溶滴移行画像を処理することによって、くびれの発生を正確に検出することができる。この方法は、溶滴移行形態が短絡移行形態ではないときでも画像処理によりくびれの発生を直接的に検出するので、高精度の検出が可能となる。すなわち、短絡移行形態とグロビュール移行形態とが混在する場合、短絡を伴うグロビュール移行形態の場合又は短絡を伴うスプレー移行形態の場合においても、高精度にくびれの発生を検出することができる。そして、この高精度なくびれの発生の検出に基づいて、溶接電流を減少させてアーク再発生時の電流値を低くすることができるので、短絡移行形態ではない移行形態のときでもスパッタの発生を低減することができる。したがって、本発明は、炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接及びミグ溶接だけでなく、パルスアーク溶接及び交流パルスアーク溶接にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【図2】図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【図3】図1の画像処理回路GCにおける溶滴移行画像からくびれの発生を検出するための画像処理を説明するための図である。
【図4】溶滴移行画像の各コマにおける判別領域内の溶滴像の面積の推移を示す図である。
【図5】溶滴移行画像の各コマにおける判別領域内の溶滴像の面積と短絡開始時点での面積との比率の推移を示す図である。
【図6】従来技術において、短絡期間Tsとアーク期間Taとを繰り返す消耗電極アーク溶接におけるくびれ検出制御方法を示す波形図である。
【図7】従来技術のくびれ検出制御方法を採用した溶接装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明の実施の形態は、短絡状態中の溶滴移行をCCDカメラによって所定周期ごとに撮像し、撮像された溶滴移行画像を処理してくびれの発生を検出し、このくびれの検出によって溶接電流を減少させた状態でアークを再発生させるものである。以下、この実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図において、上述した図7と同一のブロックには同一符号を付している。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0021】
溶接電源PSは、一般的な消耗電極アーク溶接用の溶接電源であり、インバータ制御方式、サイリスタ位相制御方式、チョッパ制御方式等のものを使用することができる。トランジスタTRは出力に直列に挿入され、並列に抵抗器Rが接続されている。この抵抗器Rの抵抗値は短絡期間の負荷抵抗値数十mΩの10倍以上の値に設定される。トランジスタTRは、後述するくびれ検出信号NdがHighレベルの期間(くびれ検出期間Tn)のみオフ状態となり、電流通電経路に抵抗器Rが挿入される。くびれ検出期間Tn中は溶接電源の出力が停止された上で抵抗器Rが挿入されると、通電経路の抵抗値が10倍以上に大きくなるために、電源内部の大きなリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電されて溶接電流Iwが急減する。
【0022】
電圧検出回路VDは、溶接トーチ4とワーク2との間の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、この電圧検出信号を入力として、その値によって短絡状態とアーク発生状態とを判別して、短絡状態のときにHighレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。駆動回路DRは、後述するくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがLowレベルのときに上記のトランジスタTRをオン状態にする駆動信号Drを出力する。トランジスタTRがオン状態のときは抵抗器Rは短絡されるので溶接電源PSだけの通常の動作となる。
【0023】
溶接トーチ4から溶接ワイヤ1が送給され、溶接トーチ4とワーク2との間に上記の溶接電源PSからの出力が供給される。溶接ワイヤ1とワーク2との間にアーク3が発生して、溶接が行われる。CCDカメラCMは、所定周期ごとにアーク発生部を撮像し、その画像を画像処理回路GCに出力する。このCCDカメラCMのレンズにはフィルタが装着されている。このフィルタは、アーク光をカットして、短絡状態の溶滴移行画像を撮像することができるようにするためのものである。例えば、このフィルタとして、赤外干渉フィルタを使用することができる。また、フィルタを装着しないでも、短絡状態では当然にアークは消弧しているので、溶滴移行画像を撮像することができる。撮像する所定周期としては、1万コマ/秒のCCDカメラが市販されているので、100μs程度に設定する。上述したように、くびれ発生からアーク再発生までの時間は、300〜1000μs程度であるので、100μsごとの溶滴移行画像によってくびれの進行状態を検出することができる。
【0024】
上記の画像処理回路GCは、上記のCCDカメラCMからの溶滴移行画像及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡状態)の期間中は図3〜図5で後述する画像処理によってくびれの発生を検出してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク発生状態)になるとLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。
【0025】
図2は、上記の溶接装置の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwを示し、同図(B)は溶接電圧Vwを示し、同図(C)は短絡判別信号Sdを示し、同図(D)はくびれ検出信号Ndを示し、同図(E)は駆動信号Drを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0026】
同図において、時刻t1〜t3の短絡期間Ts中は、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは低い値になっているので、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベルになる。また、同図において、時刻t2〜t3のくびれ検出期間Tn以外の期間は、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdはLowレベルであるので、同図(E)に示すように、駆動信号DrはHighレベルになる。この結果、トランジスタTRはオン状態になるので、通常の消耗電極アーク溶接用の溶接電源と同一の動作となる。
【0027】
時刻t2において、短絡期間Ts中の画像処理によって溶滴にくびれが発生したことを検出すると、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdがHighレベルになる。これに応動して、同図(E)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、トランジスタTRはオフ状態になる。この結果、抵抗器Rが溶接電流Iwの通電路に挿入される。この抵抗器Rの値は短絡負荷(数十mΩ)の10倍以上大きな値に設定されるために、同図(A)に示すように、溶接電源内の直流リアクトル及びケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電されて溶接電流Iwは急激に減少する。時刻t3において、短絡が開放されてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルになるので、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdはLowレベルになり、同図(E)に示すように、駆動信号DrはHighレベルになる。この結果、トランジスタTRはオン状態になり、通常の消耗電極アーク溶接の制御となる。この動作によって、アーク再発生時(時刻t3)の電流値を小さくすることができ、スパッタの発生を抑制することができる。
【0028】
図3は、上記の画像処理回路GCにおける溶滴移行画像からくびれの発生を検出するための画像処理を説明するための図である。上述したように、短絡状態における溶滴移行画像が、CCDカメラCMから100μsごとに入力される。同図(A)〜(D)に示す四角で囲まれた部分が1コマの溶滴移行画像である。同図(A)は短絡状態が開始した時点での溶滴移行画像を示し、同図(B)はくびれが発生する直前の溶滴移行画像を示し、同図(C)はくびれが発生した状態の溶滴移行画像を示し、同図(D)はくびれが非常に細くなりアークが再発生する直前の溶滴移行画像を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0029】
所定周期ごとに入力されてくる溶滴移行画像の1コマに対して以下のような画像処理を行う。
(1)溶滴移行画像に対して所定の判別領域を設定する。同図(A)〜(D)において、破線で囲んだ四角形の領域が判別領域を示している。この判別領域は、各コマで同一の位置及び大きさになるように設定される。判別領域は、溶接ワイヤの先端部であって、非溶融部の直下に設定される。
(2)判別領域内で溶滴像が占める面積を算出する。同図(A)〜(D)の場合、破線で囲まれた判別領域内で溶滴像(黒色の部分)が占める面積を算出する。
(3)この面積が基準値未満になったことを判別して、くびれの発生を検出する。この基準値は、CCDカメラCMの位置、レンズの倍率等の撮像条件に応じて適正値に設定される。さらに、この基準値は、溶接ワイヤの種類、ワイヤ送給速度、溶接法、溶接速度等の溶接条件に応じて適正値に設定される。
【0030】
同図(A)は短絡状態が開始した時点であるので、溶接ワイヤ1先端に形成されている溶滴1aが溶融池2aに接触した瞬間である。判別領域内の溶滴像の面積は、最大値となる。同図(B)はくびれが発生する直前の画像であり、溶融池2aの表面張力によって溶滴1aは下側に引っ張られて三角錐形状となる。このために、判別領域内の溶滴像の面積は、同図(A)よりも小さくなる。同図(C)は、くびれ1bが発生した状態の画像であり、溶滴1aを流れる溶接電流による電磁的ピンチ力が作用してくびれ1bが発生する。このために、判別領域内の溶滴像の面積は同図(B)よりもさらに小さくなる。同図(D)は、くびれ1bが非常に細くなりアークが再発生する直前の画像であり、判別領域内の溶滴像の面積は同図(C)よりもさらに小さくなる。同図(C)の場合が、面積が基準値未満になり、くびれの発生を検出したときである。
【0031】
図4は、溶滴移行画像の各コマにおける上述した判別領域内の溶滴像の面積の推移を示す図である。横軸は短絡状態が開始された時点からの経過時間(ms)を示し、縦軸は判別領域内の溶滴像の面積を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0032】
同図において、経過時間が0(左端)のときが上述した図2の時刻t1に相当し、右端のときが上述した図2における時刻t3に相当する。したがって、時刻t1が短絡開始時点となり、時刻t3がアークの再発生時点となる。同図に示すように、面積は時間経過と共に次第に小さくなる。同図において、破線は基準値Stを示す。時刻t2において、面積がS2となり、S2<Stとなるので、この時点をくびれの検出時点とする。すなわち、くびれ部分が基準レベルまで細くなったことを判別して、くびれの発生を検出している。同図において、時刻t1の溶滴移行画像が図3(A)となり、時刻t1とt2との間の溶滴移行画像が図3(B)となり、時刻t2の溶滴移行画像が図3(C)となり、時刻t3直前の溶滴移行画像が図3(D)となる。
【0033】
また、くびれの発生の検出を以下のようにしても良い。所定周期ごとに入力されてくる溶滴移行画像の1コマに対して以下のような画像処理を行う。下記の(1)及び(2)の処理は、上述した処理方法と同一である。
(1)溶滴移行画像に対して所定の判別領域を設定する。
(2)判別領域内で溶滴像が占める面積を算出する。
(3)この面積と短絡開始時点での面積との比率が基準比率未満になったことを判別して、くびれの発生を検出する。
【0034】
図5は、溶滴移行画像の各コマにおける判別領域内の溶滴像の面積と短絡開始時点での面積との比率の推移を示す図である。横軸は短絡状態が開始された時点からの経過時間(ms)を示し、縦軸は面積比率を示す。この面積比率は、短絡開始時点での判別領域内の溶滴増の面積をS1とし、それ以降の各コマにおける面積をSnとすると、Sn/S1で定義される。以下、同図を参照して説明する。
【0035】
同図において、経過時間が0(左端)のときが上述した図2の時刻t1に相当し、右端のときが上述した図2における時刻t3に相当する。したがって、時刻t1が短絡開始時点となり、時刻t3がアークの再発生時点となる。同図に示すように、面積比率は、時刻t1で1.0となり、時間経過と共に次第に小さくなり、時刻t3において0.05程度となる。同図において、破線は基準比率Htを示す。時刻t2において、面積比率がH2となり、H2<Htとなるので、この時点をくびれの検出時点とする。すなわち、くびれ部分が短絡開始時点よりも基準レベルまで細くなったことを判別して、くびれの発生を検出している。
【0036】
上述した実施の形態では、短絡状態が開始された後に溶滴にくびれが発生する場合を説明した。しかし、短絡移行とグロビュール移行とが混在する移行形態の場合、短絡を伴うグロビュール移行形態の場合及び短絡を伴うスプレー移行形態の場合には、くびれが少し形成された状態で短絡状態が開始される場合がある。このような場合でも、本実施の形態のくびれ検出方法は、くびれが進行して基準レベルに達したことを高精度に検出することができる。
【0037】
上述した実施の形態によれば、CCDカメラによって短絡状態における溶滴移行画像を撮像し、この撮像された溶滴移行画像を処理することによって、くびれの発生を正確に検出することができる。この方法は、溶滴移行形態が短絡移行形態ではないときでも画像処理によりくびれの発生を直接的に検出するので、高精度の検出が可能となる。すなわち、短絡移行形態とグロビュール移行形態とが混在する場合、短絡を伴うグロビュール移行形態の場合又は短絡を伴うスプレー移行形態の場合においても、高精度にくびれの発生を検出することができる。そして、この高精度なくびれの発生の検出に基づいて、溶接電流を減少させてアーク再発生時の電流値を低くすることができるので、短絡移行形態ではない移行形態のときでもスパッタの発生を低減することができる。したがって、本実施の形態は、炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接及びミグ溶接だけでなく、パルスアーク溶接及び交流パルスアーク溶接にも適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 溶接ワイヤ
1a 溶滴
1b くびれ
2 ワーク、母材
2a 溶融池
3 アーク
4 溶接トーチ
CM CCDカメラ
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
GC 画像処理回路
H2 面積比率
Ht 基準比率
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PS 溶接電源
R 抵抗器
r 抵抗値
rt くびれ検出基準値
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
S1、S2、Sn 面積
St 基準値
Ta アーク期間
Tn くびれ検出期間
TR トランジスタ
Ts 短絡期間
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
ΔR 抵抗値変化率算出回路
Δr 抵抗値変化率(信号)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極と母材との間でアーク発生状態と短絡状態とを繰り返す消耗電極アーク溶接にあって、短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれの発生を検出し、このくびれの発生を検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させてアークを再発生させるように出力制御する消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法において、
前記短絡状態中の溶滴移行をCCDカメラによって所定周期ごとに撮像し、撮像された溶滴移行画像を処理して前記くびれの発生を検出する、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。
【請求項2】
前記溶滴移行画像の処理が、前記溶滴移行画像に同一の判別領域を設定し、各溶滴移行画像ごとに、この判別領域における溶滴像が占める面積を算出し、この面積が基準値未満になったことを判別することによってくびれの発生を検出する処理である、
ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。
【請求項3】
前記溶滴移行画像の処理が、前記溶滴移行画像に同一の判別領域を設定し、各溶滴移行画像ごとに、この判別領域における溶滴像が占める面積を算出し、この面積と短絡状態が開始されたときの前記面積との比率が基準比率未満になったことを判別することによってくびれの発生を検出する処理である、
ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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