説明

消臭材

【課題】 酸性およびアルカリ性の臭気のみならず、ペット臭や介護臭などに含まれる中性の臭気も効果的に且つ安全に消臭することができると共に、消臭以外の機能も付加した高機能消臭材を提供する。
【解決手段】 植物抽出物からなる消臭成分に有機酸を加えてpHを4.5〜5.4の範囲に調整すると共に、天然の芳香物質を包接させたシクロデキストリン包接体を混合する。これにより、消臭成分,有機酸およびシクロデキストリン包接体の相乗的作用によって酸性およびアルカリ性の臭気のみならず中性の臭気も消臭することができる。また、芳香物質としてヒバ油を用いることで、芳香による臭気のマスキング効果のみならず、室内に居るヒトやペットに対するリラックス効果,抗菌効果および害虫の忌避効果などを与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内でペットを飼育する際、あるいは老人や病人を介護する際に生じる室内の臭気を効果的に且つ安全に解消することが可能な消臭材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のペットブームにより室内でイヌやネコなどのペットを飼う家庭が増えており、これに伴い室内に漂うペット臭の解消が望まれている。また、高齢化社会の到来が現実的な問題となってきており、要介護人の増加に伴い老人や病人の介護の際に生じる介護臭の解消が望まれている。
【0003】
ここで、従来より室内に漂う臭気(すなわち室内臭)を消臭する消臭材として様々なものが提案されており、その1つとして、植物抽出物と、有機酸またはこのアルカリ塩と、ケトン酸とをアルコールに分散させてなる消臭材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
かかる技術によれば、当該消臭材を散布するだけで室内臭の主因である硫化水素などの酸性臭気とアンモニアなどのアルカリ性臭気等とを安全にしかも効率よく同時に消臭することができる。
【特許文献1】特許第3458808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、室内臭のうちペット臭や介護臭の中には酸性およびアルカリ性の臭気の他にアルデヒド類、例えばアセトアルデヒドや加齢臭の原因となるノネナールなどが発する中性の臭気も含まれており、上述した従来の消臭材では、このような中性の臭気を消臭するのが困難であった。
【0006】
また、上述した従来の消臭材では消臭機能以外の機能がなく、付加価値に乏しいという問題もあった。
【0007】
それゆえ、この発明の主たる課題は、酸性およびアルカリ性の臭気のみならず、ペット臭や介護臭などに含まれる中性の臭気も効果的に且つ安全に消臭できると共に、消臭以外の機能も付加した高機能消臭材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載した発明は、「植物抽出物からなる消臭成分に有機酸を加えてpHを4.5〜5.4の範囲に調整すると共に、天然の芳香物質を包接させたシクロデキストリン包接体を混合してなる」ことを特徴とする消臭材である。
【0009】
この発明では、植物抽出物からなる消臭成分が主として硫化水素やメチルメルカプタンなどの酸性の臭気を消臭し、有機酸が主としてアンモニアなどのアルカリ性の臭気を消臭するが、特に消臭材のpHが5前後の弱酸性となるように有機酸を添加しているので、尿臭や汗臭の原因となるアンモニアなどのアルカリ性の臭気に対して強い消臭効果を発揮することができる。
【0010】
そして、これらの成分に天然の芳香物質を包接させたシクロデキストリン包接体を混合しているので、消臭材を長期保存する際の芳香物質の揮発を抑えることができる一方、消臭材を散布するとシクロデキストリン包接体から芳香物質が徐放されるようになる。このため、シクロデキストリンから徐放された芳香物質が消臭成分あるいは有機酸で消臭できなかった臭気(例えば中性の臭気など)の分子をマスキングし、これらの臭気を消臭することができる。
【0011】
また、芳香物質を放出したシクロデキストリンはその内部に水の分子を取り込むことになるが、このシクロデキストリンに臭気の分子が接触すると、シクロデキストリンに取り込まれた水の分子が臭気の分子に置き換わる。つまり、臭気の分子がシクロデキストリンに閉じ込められて脱臭されるようになる。
【0012】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の消臭材において「芳香物質がヒバ油である」ことを特徴とするものである。
【0013】
このように芳香物質としてヒバ油を用いることによって、芳香による臭気のマスキング効果のみならず、室内に居るヒトやペットに対するリラックス効果,抗菌効果および害虫の忌避効果などを消臭材に与えることができる。
【0014】
また、ヒバ油の抗菌効果により、腐敗による悪臭の発生を防止することができ、シクロデキストリンの臭気吸着作用と相俟って極めて長い間消臭効果を持続することができる。
【0015】
なお、本発明の消臭材は実質的に天然由来の成分で構成されているので、ヒトやペットに対する安全性は極めて高いものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植物抽出物からなる消臭成分,有機酸およびシクロデキストリン包接体の相乗的作用によって酸性およびアルカリ性の臭気のみならずアセトアルデヒドやノネナールなど中性の臭気も消臭することができ、ペット臭や介護臭などを含む室内臭を効果的に消臭することができる。
【0017】
また、天然の芳香物質としてヒバ油を用いた場合には、室内に居るヒトやペットに対してのリラックス効果,抗菌効果および害虫の忌避効果などを与えることができると共に、長期間に亘る消臭効果を付与することができる。
【0018】
したがって、酸性およびアルカリ性の臭気のみならず、ペット臭や介護臭などに含まれる中性の臭気も効果的に且つ安全に消臭することができると共に、消臭以外の機能も付加した高機能消臭材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について具体例を示しながら詳述する。
【0020】
本発明の消臭材は、大略、消臭成分,有機酸および芳香物質を包接させたシクロデキストリン包接体などで構成されている。
【0021】
消臭成分は、植物抽出物によって構成された天然由来の成分である。この消臭成分となる植物抽出物が抽出可能な原料植物としては、レンギョウ,ヒイラギモクセイ,キリ,フキ,ツワブキ,ライラック,カキノキ,コナラ,ヤマナラシ,シダおよびコバノトネリコなどが挙げられる。
【0022】
また、消臭成分となる植物抽出物は、先に例示した原料植物の葉,花,実,茎,根および樹皮などの各器官から抽出されたものであり、その抽出方法としては、親水性有機溶媒を用いたソックスレー抽出や水蒸気蒸留法など公知の方法を採用することができる。なお、得られた植物抽出物は水溶液の形で使用することもできるし、後述するように固形物の形で使用することもできる。
【0023】
かかる方法で抽出された植物抽出物は、特に硫化水素などの酸性の臭気に対して優れた消臭効果を発揮することが知られている。
【0024】
有機酸は、上述した消臭成分では消臭が困難なアンモニアやトリメチルアミンなどのアルカリ性の臭気を中和して消臭するものである。この有機酸としては、クエン酸,リンゴ酸,アジピン酸,フマル酸,乳酸,グルコン酸,マレイン酸およびコハク酸などが挙げられ、これらのうち少なくとも1種が用いられる。ここに挙げた各有機酸は天然に存在し、また、食品添加物としても使用されていることから、ヒトやペットにとって極めて安全なものである。
【0025】
ここで、この有機酸は、消臭材のpHが4.5〜5.4の範囲(すなわち5前後)の弱酸性となるよう前記消臭成分に添加される。消臭材のpHをこのような値に調整することによって、消臭成分による酸性の臭気の消臭効果を維持しつつ、尿臭や汗臭の原因となるアンモニアなどのアルカリ性の臭気に対して特に強い消臭効果を発揮することができるようになるからである。つまり、消臭材のpHが4以下の酸性となった場合には、アルカリ性の臭気に対する消臭効果は優れたものとなるが前記消臭成分による酸性の臭気の消臭効果を阻害する恐れがあり、逆に消臭材のpHが6以上の中性〜アルカリ性となった場合には、有機酸の添加によるアルカリ性の臭気の消臭効果が発揮されなくなるからである。
【0026】
なお、消臭成分に有機酸を添加して消臭材のpHを5前後に調整する際には、トリエタノールアミンなどpH調整用の緩衝剤を所定量添加するのが好ましい。このような緩衝剤を添加することによって消臭材の劣化を抑え、長期保存を可能にできるからである。
【0027】
シクロデキストリン包接体は、シクロデキストリンと、これに包接させた天然の芳香物質とで構成されている。
【0028】
シクロデキストリンは、複数のD−グルコースが環状につながった糖質であり、デンプン類に微生物酵素を作用させて製造されている。このシクロデキストリンは、分子の中心に空洞を有しており、物理的な引力によってこの空洞に化合物を取り込む(すなわち包接する)機能を有する。なお、このシクロデキストリンは、包接する芳香物質のサイズに応じて、D−グルコースが環状に6個つながったα−シクロデキストリン、同7個つながったβ−シクロデキストリン、同8個つながったγ−シクロデキストリンおよびこれらの誘導体のいずれかが用いられている。
【0029】
天然の芳香物質は、ヒバ油,ヒノキ油,ユーカリ油などの樹木精油、ジャスミン,ラベンダーなどのハーブ抽出成分およびフラボノイドなどの茶葉抽出成分から選ばれる少なくとも1種の植物由来成分で形成されている。このように芳香物質として植物由来成分を用いることにより、ヒトやペットに対する安全性が極めて高いものとなる。
【0030】
また、この芳香物質として天然のヒノキチオールを高い割合で含有するヒバ油を用いた場合には、芳香による臭気のマスキング効果のみならず、室内に居るヒトやペットに対するリラックス効果,抗菌効果および害虫の忌避効果などを与えることができる。
【0031】
シクロデキストリンに芳香物質を包接させてシクロデキストリン包接体を製造する際には、まず、所定量のシクロデキストリンを水に分散させたものに前記芳香物質を添加し、あるいはシクロデキストリンと芳香物質とを混合したものに水を加えてホモジナイズする。そして、これらをスプレードライ,凍結乾燥,真空乾燥など公知の方法で乾燥することによってシクロデキストリン包接体が完成する。
【0032】
ここで、消臭材に混合するシクロデキストリン包接体の混合割合は、特に限定されないが、上述した植物抽出物(消臭成分)1重量部に対して0.5〜100重量部の範囲であることが好ましい。シクロデキストリン包接体の混合割合が0.5重量部未満の場合にはシクロデキストリン包接体の添加効果が現れず、逆に100重量部より多い場合には、添加効果は十分なものとなるが、消臭材の粘度が上昇し取扱いが困難になるからである。
【0033】
次に、本発明の消臭材を製造する際には、植物抽出物の水溶液すなわち消臭成分に有機酸と必要に応じてトリエタノールアミンなどの緩衝剤とを加えてpHを5前後に調整する。そして、これに所定量のシクロデキストリン包接体を混合・分散させることによって消臭材が完成する。
【0034】
なお、本発明の消臭材の使用形態は特に限定されるものではなく、液剤,エアゾール製剤,固形剤および担体への含浸など、用途に応じて様々な形態で用いることができる。このうち、消臭材をタブレットなどの固形剤の形態にするのが以下の点で好ましい。すなわち、消臭材をタブレットのような固形剤とすることによって、携帯性や保管性に優れ、長期保存が可能になると共に、水に溶解して散布する際、溶解するタブレットの数を調節するだけで使用者自らが消臭材の消臭効果を調整することができる。また、消臭材の水分を除去し、これにデキストリンなどの賦形材を加えて所定形状のタブレットを成形する際には、当該タブレットを水に溶解した時のpHが4.5〜5.4となる範囲で炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を加えるのがより好ましい。このような炭酸塩を加えることによって、タブレットを水に溶解させる際、炭酸塩と有機酸とが反応して発泡し、当該タブレットを素早く水に溶解させることができるようになるからである。
【0035】
本発明の消臭材によれば、植物抽出物からなる消臭成分が主として硫化水素やメチルメルカプタンなどの酸性の臭気を消臭し、有機酸が主としてアンモニアなどのアルカリ性の臭気を消臭するが、特に消臭材のpHが5前後の酸性となるように有機酸を添加しているので、尿臭や汗臭の原因となるアンモニアなどのアルカリ性の臭気に対して強い消臭効果を発揮することができる。
【0036】
そして、これらの成分に天然の芳香物質を包接させたシクロデキストリン包接体を混合しているので、消臭材を長期保存する際の芳香物質の揮発を抑えることができる一方、消臭材を散布するとシクロデキストリン包接体から芳香物質が徐放されるようになる。このため、シクロデキストリンから徐放された芳香物質が消臭成分あるいは有機酸で消臭できなかった臭気(例えば中性の臭気など)の分子をマスキングし、これらの臭気を消臭することができる。
【0037】
また、芳香物質を放出したシクロデキストリンはその内部に水の分子を取り込むことになるが、このシクロデキストリンに臭気の分子が接触すると、シクロデキストリンに取り込まれた水の分子が臭気の分子に置き換わる。つまり、臭気の分子がシクロデキストリンに閉じ込められて脱臭されるようになる。
【0038】
このように、本発明の消臭材では、植物抽出物からなる消臭成分,有機酸およびシクロデキストリン包接体の相乗的作用によって室内臭を効果的に消臭することができる。
【0039】
さらに、芳香物質としてヒバ油を用いることによって、芳香による臭気のマスキング効果のみならず、室内に居るヒトやペットに対するリラックス効果,抗菌効果および害虫の忌避効果などを与えることができる。また、ヒバ油の抗菌効果により、腐敗による悪臭の発生を防止することができ、シクロデキストリンの臭気吸着作用と相俟って極めて長い間消臭効果を持続することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
[消臭材の調製]
複数種の植物抽出物にて構成された有効成分を含有する市販の液体消臭剤(有効成分含有率30重量%)を準備し、これを水で56倍に希釈して消臭成分とした。続いて、この消臭成分にクエン酸とトリエタノールアミンを加えて溶液のpHを5に調整した。そして、得られた溶液中に、植物抽出物1重量部に対して2重量部の割合にてヒバ油を包接させたシクロデキストリン包接体を混合し、これらを十分攪拌して消臭材(液剤)を得た。
【0042】
[効果の確認]
(1)アンモニアの消臭効果
1リットル容のガラス瓶容器に消臭材10mlを入れ、0.3質量%のアンモニア水溶液を1ml注入し、10分間放置後に熟練パネラー5名による官能評価を行なった。その結果、全てのパネラーにおいて悪臭防止法の6段階臭気強度表示法に準じた評価が0(無臭)であった。
【0043】
(2)硫化水素の消臭効果
1リットル容のガラス瓶容器に消臭材10mlを入れ、0.1質量%の硫化水素溶液を1ml注入し、1時間放置後に熟練パネラー5名による官能評価を行なった。その結果、悪臭防止法の6段階臭気強度表示法に準じた各パネラーの評価は0(無臭)もしくは1(やっと感知できる臭い)であり、その平均値は0.4であった。
【0044】
(3)ノネナールの消臭効果
1リットル容のガラス瓶容器に消臭材10mlを入れ,0.1質量%のノネナール溶液を100μl注入し、1時間放置後に熟練パネラー5名による官能評価を行なった。その結果、悪臭防止法の6段階臭気強度表示法に準じた各パネラーの評価は0(無臭)もしくは1(やっと感知できる臭い)であり、その平均値は0.2であった。
【0045】
(4)防虫効果
かび菌とダニとが生息する培地に消臭材を2mlを噴霧し、噴霧直後にルーペでダニ生存の有無を観察した。また、消臭材を噴霧した前記培地を外気に晒し4週間放置し、顕微鏡にてダニ発生の有無を観察した。その結果、消臭材噴霧直後にダニは死滅しており、4週間放置後におけるダニの発生も認められなかった。
【0046】
(5)抗菌効果
感性ディスク用培地に耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;MRSA株)を添加し、8mlシャーレに分注固化した測定用平板を準備した。そして、この測定用平板上に消臭材を吸着させたろ紙ディスクを載置し、36℃にて24時間培養後、その阻止円の大きさにより抗菌力を判定した。なお、比較例としてろ紙ディスクに蒸留水を吸着させたものを準備して同様の試験を行なった。その結果、比較例では阻止円の形成が認められなかったが、本実施例の消臭材を用いたものでは阻止円の形成が認められた。これにより、本実施例の消臭剤には耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果のあることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物抽出物からなる消臭成分に有機酸を加えてpHを4.5〜5.4の範囲に調整すると共に、天然の芳香物質を包接させたシクロデキストリン包接体を混合してなることを特徴とする消臭材。
【請求項2】
前記芳香物質がヒバ油であることを特徴とする請求項1に記載の消臭材。

【公開番号】特開2006−296807(P2006−296807A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124098(P2005−124098)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(591230480)フジライト工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】