説明

消防用梯子

【課題】強度を確保しながら振動を抑制し、低コストで軽量な消防用梯子の提供。
【解決手段】この梯子は、複数段編成の梯子組立体を構成する。この梯子組立体は、各梯子が順次伸縮自在に嵌め合わされて構成されている。梯子は、上親骨材と、下親骨材と、両者をつなぐ斜骨材と、下親骨同士を連結する横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有する。各部材が溶接により連結されている。下親骨材は、角形管2,3と、これらのあいだに挟まれて、折り曲げ板材4とを有する。折り曲げ板材4は、その高さが角形管2、3の高さよりも高く、角形管2、3の上方向に突出している。折り曲げ板材4は、角形管2、3の下方に突出しないように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮自在な消防用梯子に関する。
【背景技術】
【0002】
特公平7−103761には、消防用梯子の下親骨材に少なくとも三つの空洞を有する閉鎖体で互いに溶接された梯子構造に係る発明が記載されている。この発明は、梯子の強度を高めることを目的としている。
【0003】
特公平8−26738には、消防用梯子の最上段の梯子の上親骨材同士を最短距離でつなげるような新たな駆動可能な上親骨材用横桟を付与した梯子構造に係る発明が記載されている。この発明の目的は、最も剛性の小さい最上段の梯子を四角断面を呈する閉構造とすることにより、横方向やねじり振動を小さくすることにある。
【0004】
【特許文献1】特公平7−103761号公報
【特許文献2】特公平8−26738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特公平7−103761号公報に記載された梯子構造では、下親骨材が四つの折り曲げ加工された鋼板が溶接された構造となっている。強度の大小を決めるのは溶接箇所の多さである。しかしながら、溶接箇所が多ければ、その部位における応力集中、残留応力による疲労強度の低下、検査のしずらさ、溶接後の梯子の変形が極めて大きくなる。さらに長期使用することにより溶接未溶着部から水などが浸入し内部から腐食を発生する危険がある。溶接部が下親骨材の内部にもあるため、欠陥検査は困難である。また、製作時にロボット溶接を使用するにしても、きわめて多数箇所の溶接を行う必要があり、製造コストの増大を引き起こす。
【0006】
特公平8−26738号公報に記載された梯子構造では、最上段の上親骨材同士を取り外し可能な横桟でつないだとしても、当該梯子構造の利点である「振動の抑制」が実現されるためには、横桟を強固に、たとえば溶接などによって締結されていないと微小変形を抑えられない。さらに、梯子全体の振動の抑制は、最上段の変形を抑えることよりも、最下段の変形を抑制した方が効果的である。また、上親骨材同士をつなぐ部材が設けられた場合には、消防隊員にとって梯子を地上から上り下りする際に障害となってしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、強度を確保しながら振動を抑制し、低コストで軽量な消防用梯子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記目的を達成するため、本発明に係る消防用梯子は、複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、下親骨材は、少なくとも1本の多角形断面を有する角形管と、この角形管に沿って配置され、隣り合う梯子を嵌合支持する板材とを有し、この板材は、角形管の上方に突出し且つ角形管の下方に突出しないように当該角形管に結合されていることを特徴とするものである。
【0009】
上記板材は、平板状部材が折曲形成されることにより構成されていてもよい。この板材は、矩形に屈曲形成され且つ上記横桟側に沿って延びるように上記斜骨材に溶接されているのが好ましい。
【0010】
上記斜骨材は、上記板材の側面及び下親骨材を構成する角形管の上面に溶接されているのが好ましい。また、上記横桟は、下親骨材を構成する角形管の上記斜骨材が結合されていない方の側面に溶接されているのが好ましい。
【0011】
(2) 上記目的が達成されるため、本発明に係る消防用梯子は、複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、伸縮式梯子組立体を構成する最上段梯子及び最下段梯子以外の中間梯子の長手方向所定部位に配置された下親骨材と斜骨材とを連結する板材が設けられており、当該長手方向所定部位は、伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに、当該中間梯子と隣り合う下段の梯子の先端部に対応する位置であることを特徴とするものである。
【0012】
上記板材は、平板状部材からなり、下親骨材と斜骨材とを連結するように屈曲形成されていてもよい。この板材は、平板状部材からなり、下親骨材及び隣り合う一対の斜骨材を相互に連結するように屈曲形成されているのが好ましい。
【0013】
上記長手方向所定部位に配置された斜骨材と上親骨材とを連結する板材がさらに設けられていてもよい。この板材は、平板状部材からなり、上親骨材と斜骨材とを連結するように屈曲形成されているのが好ましい。また、この板材は、平板状部材からなり、下親骨材及び隣り合う一対の斜骨材を相互に連結するように屈曲形成されているのが好ましい。
【0014】
(3) 上記目的が達成されるため、本発明に係る消防用梯子は、複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに隣り合う梯子同士が重なり合う領域では、上記横桟斜骨材が密に配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
上記横桟斜骨材は、隣り合う梯子同士が重なり合う領域では、隣り合う横桟間に左右対称に配置され、上記重なり合う領域以外の領域では、隣り合う横桟間にひとつおきに左右対称に配置されているのが好ましい。
【0016】
(4) 上記目的が達成されるため、本発明に係る消防用梯子は、複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、上記斜骨材は、上親骨材と下親骨材とを最短距離でつなぐ仮想線に対して角度θ(0°<θ<90°)だけ傾いていることを特徴とするものである。
【0017】
伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに隣り合う梯子同士が重なり合う領域に配置された斜骨材の断面形状と、当該重なり合う領域以外の領域に配置された斜骨材の断面形状とは異なっており、上記重なり合う領域に配置された斜骨材の引張り強さは、上記重なり合う領域以外の領域に配置された斜骨材の引張り強さよりも大きく設定されているのが好ましい。また、上記横桟を構成する材料の引張り強さは、他の部材を構成する材料の引張り強さよりも小さく設定されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製造しやすい低コストな、しかも強度信頼性の高い、軽量な梯子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る消防用の梯子組立体の横断面図である。
【0021】
この梯子組立体Aは、4つの梯子を備えており、最下段(第4段)の梯子の内側に順次略相似形の梯子(第3段、第2段及び第1段の梯子)が嵌め込まれている。一般に梯子組立体を構成する梯子のうち、最も上段に配置されたものは「最上段梯子」と称され、最も下段に配置されたものは「最下段梯子」と称され、これらの中間に配置された梯子は、「中間梯子」と称される。この梯子組立体Aは、図示されていない梯子伸縮装置が連結されている。この梯子伸縮装置は既知の構造であり、これにより、第3段梯子が第4段梯子(最下段梯子)に対してスライドし、第2段梯子が第3段梯子に対してスライドする。第2段梯子及び第1段梯子(最上段梯子)も同様にスライドする。その結果、この梯子組立体Aは、その長手方向に伸縮することが可能である。梯子組立体Aを構成する梯子の数は何ら制限を受けるものではないが、梯子組立体Aは、一般に3本〜6本の梯子を備えている。
【0022】
同図において最下段梯子は、角形管を使用した上親骨材1と、角形管2、角形管3及びこれらの間に挟まれた折り曲げ板材4により構成される下親骨材7と、上親骨材1と角形管2を結合する斜骨材5と、左右の角形管3同士を結合する横桟6とを備えている。本実施形態では、各梯子の構造の説明を簡略化するために最下段梯子について説明するが、中間梯子についも最下段梯子と同様の構造である。
【0023】
ただし、本実施形態では、梯子組立体Aを構成する最上段梯子については、その下親骨材8は、単一の角形管のみで構成されている。本実施形態では、同図が示すように、第3段梯子、第2段梯子は、その断面形状がそれぞれ第4段梯子の断面形状に対して相似形を呈しており、上段側に向かうにしたがってこれらの断面形状が相似的に小さくなっている。
【0024】
図2は、上記下親骨材7の斜視図である。同図において、横桟9は、下親骨材7を構成する角形管3の内側側面に溶接されている。なお、同図における横桟9は、図1における横桟6と同一の部材である。また、斜骨材5は、角形管2の上面2aと折り曲げ板材4の外側側面4aに溶接されている。折り曲げ板材4の下面4bの位置は、角形管2と角形管3の下面よりも下方に位置することはない。角形管2、角形管3及び折り曲げ板材4のそれぞれの下面は、溶接によって互いに結合されている。角形管2と折り曲げ板材4とは、溶接によって結合されている。角形管3と折り曲げ板材4とは、溶接によって結合されている。
【0025】
上記折り曲げ板材4は、平板状部材が屈曲形成されることによって構成されている。この平板状部材は、高張力鋼又は一般構造用炭素鋼が採用され得る。本実施形態では、折り曲げ板材4は、主体部4cと頭部4dとを有する。主体部4cは矩形平板であり、梯子の長手方向に沿って配置され且つ上方に延びている。頭部4dは、主体部4cに連続し、略三角形状に屈曲形成されている。
【0026】
本実施形態によれば、下親骨材7は、非常に安価な角形管2、3と板材(折り曲げ板材4)とにより構成される。そして、角形管2、3及び折り曲げ板材4の三つの部材は、それらの下部において単一の溶接作業で結合されるので、下親骨材7が安価に製造される。また、ロボットによる自動溶接も容易であり、顕著な低コスト化が可能である。しかも、角形管2と角形管3が左右に配されているため、梯子の左右方向の曲げ剛性が高められるうえに、折り曲げ板材4が角形管2と角形管3の高さよりも大きくとってあることで、上下方向の曲げ剛性も高められる。
【0027】
ところで、下段側の梯子は、上段側の梯子を支持するのであるが、下段側の梯子の先端には、上段側の梯子を支持するための先端ローラーが一般に設けられている。したがって、梯子組立体Aの伸縮時に、上段側の梯子の下親骨材の下面が先端ローラーに強く押圧される場合がある。しかし、前述のように、梯子の上下方向の曲げ剛性も高められていることから、当該下親骨材が塑性変形しにくくなる。
【0028】
さらに、溶接箇所もすべて外表面に露出することになるので、溶接部の欠陥検査もきわめて容易に行えるという利点がある。
【0029】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明される。図3は、本実施形態の梯子の下親骨材の断面図である。本実施形態に係る梯子が上記第1の実施形態に係る梯子と異なるところは、下親骨材の構造である。なお、その他の構成については、上記第1の実施形態に係る梯子と同様である。
【0030】
この梯子の下親骨材は、長方形断面の角形管30と、折り曲げ部材4とを備える。斜骨材5は、角形管30の短辺側側面31に溶接され、横桟9は、角形管30の長辺側側面32に溶接されている。そして、折り曲げ板材4は、斜骨材5と角形管30と横桟9とのすべてに接触する形で溶接される。なお、本実施形態では、特に折り曲げ板材4は、横桟9と接する部分でL字型になっている。したがって、梯子の上下方向と左右方向の断面二次モーメントが増加し、強度信頼性が高まっている。
【0031】
図4は、本実施形態の第1の変形例に係る下親骨材の断面図である。この変形例に係る梯子では、下親骨材は、長方形断面の角形管30と、折り曲げ部材4とを備える。斜骨材5は、角形管30の長辺側側面33に溶接され、横桟9は、角形管30の短辺側側面34に溶接されている。そして、折り曲げ板材4は、斜骨材5と角形管30と横桟9とのすべてに接触する形で溶接される。本変形例においても折り曲げ板材4は、横桟9と接する部分でL字型になっているため、梯子の上下方向と左右方向の断面二次モーメントが増加し、強度信頼性も高まる。また、角形管30の長辺側側面33が上方に向き、角形管30が梯子に対して水平方向を向いているため、梯子全体の高さを小さくできるという利点がある。
【0032】
図5は、本実施形態の第2の変形例に係る下親骨材の断面図である。この変形例に係る梯子では、下親骨材は、長方形断面の角形管30と、折り曲げ部材35とを備える。斜骨材5は、角形管30の長辺側側面33に溶接され、横桟9は、角形管30の短辺側側面34に溶接されている。そして、折り曲げ板材35は、斜骨材5の側面36に溶接されている。
【0033】
この折り曲げ板材35は、平板状部材が屈曲形成されることによって構成されている。この平板状部材は、高張力鋼又は一般構造用炭素鋼が採用され得る。本実施形態では、折り曲げ板材35は、「コ」の字状に(矩形状に)屈曲形成されている。このため、折り曲げ板材35の折り曲げ加工の工数は、上記第1の実施形態に係る折り曲げ板材4の折り曲げ加工の工数よりも低減でき、製造コストが削減される。
【0034】
また、折り曲げ板材35が斜骨材5に溶接されることから、折り曲げ板材35と角形管30との距離が自由に決定される。したがって、たとえばこの距離が大きく設定されることにより、梯子の上下方向の剛性が、質量の増加なしに大きくすることが可能である。なお、折り曲げ板材35は、角形管により構成されていてもよいことはもちろんである。本変形例においても、角形管30の長辺側側面33が上方に向き、角形管30が梯子に対して水平方向を向いているため、梯子全体の高さを小さくできるという利点がある。
【0035】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明される。図6は梯子付き消防自動車の斜視図である。
【0036】
同図において、消防自動車に備えられた梯子(伸縮式梯子組立体)は全伸長状態になっている。伸縮式梯子組立体は4段編成であり、最上段梯子(第1段梯子)の先端にはバスケット10が駆動可能なように取り付けられている。最下段梯子(第4段梯子)は、その下面が梯体フレーム11に結合され、梯体フレーム11は、支持フレーム12によって支持されている。梯体フレーム11は、支持フレーム12に対して起立又は倒伏が可能となっており、これにより、伸縮式梯子組立体が起伏動作することができる。支持フレーム12は、サブフレーム13に回転自在に取り付けられている。伸縮式梯子組立体の上下方向の起伏は油圧シリンダ14によって行われる。
【0037】
伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときは、最下段梯子とその上方の第3段梯子との重なり部15、第3段梯子とその上方の第2段梯子との重なり部16、及び第2段梯子とその上方の最上段梯子との重なり部17が形成される。これらの重なり部15〜17では、隣り合う梯子同士が接触し合い、大きな力の伝達が行われている。
【0038】
図7は、梯子の後部の拡大斜視図である。本実施形態では、上親骨材と下親骨材とを最短距離でつなぐ部材は存在しない。すなわち、上親骨材と下親骨材とは、斜骨材のみで連結されており、後述される各斜骨材5、18、19は、上親骨材と下親骨材とを最短距離でつなぐ仮想線Pに対して角度θ1、θ2で交差している。これら角度θ1とθ2とは同一であってもよい。各角度θ1、θ2は、0°(degree)よりも大きく、90°よりも小さい。
【0039】
本実施形態では、中間梯子の長手方向所定部位に配置された斜骨材に折り曲げ板材20が取り付けられている。この折り曲げ板材20が取り付けられているのは、斜骨材18及び斜骨材19であり、これらの間に折り曲げ板材20が溶接されている。この斜骨材18、19は、伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに、当該梯子の下の段の梯子の先端に最も近い位置に配置された斜骨材である。また、斜骨材18と上親骨材1との結合部に、折り曲げ板材21が溶接されている。折り曲げ板材21は一箇所あたりひとつ、あるいは最大3つ取り付けられる。折り曲げ板材20によって、斜骨材18、19及び下親骨材2とが相互に連結され、折り曲げ板材21によって、斜骨材18及び上親骨材1とが相互に連結される。
【0040】
図8は、下親骨材の斜視図である。同図が示すように、斜骨材18と斜骨材19との間及び斜骨材19と角形管2との間に、それぞれ折り曲げ板材20が溶接されている。これらの折り曲げ板材20、21が設けられることによって、上下親骨材1、2に発生する応力が低減される。
【0041】
図9は、図8におけるIX−IX断面図である。折り曲げ板材20は、特にL字状に屈曲形成され、折り曲げ板材4の側面と、角形管2の上面に被せられるようにして溶接されている。この場合、折り曲げ板材20は、折り曲げ板材4と同様に、平板状部材が屈曲形成されることによって構成されている。この平板状部材は、高張力鋼又は一般構造用炭素鋼が採用され得る。
【0042】
図10は、親骨材の後端からの距離と親骨材の応力との関係を示す図である。同図において実線は、折り曲げ材20、21が設けられている場合の応力分布を示しており、点線は、折り曲げ材20、21が設けられていない場合の応力分布を示している。この図から、梯子は、当該梯子の下段の梯子の先端が位置する部位において、高い応力が発生することが分かる。しかし、同図の実線が示すように、折り曲げ材20、21が存在する場合には、この部位の応力が低下している。
【0043】
伸縮式梯子組立体では、上段の梯子を支持するために下段の梯子の先端部に先端ローラなどが取り付けられている。伸縮式梯子組立体が全伸長状態のときには、この先端ローラが上段の梯子の下親骨材に上方向に強く押圧されている。つまり、梯子の下親骨材は、上向きに大きな押圧力を受ける。この対策として一般には、上下の親骨材間を最短距離でつなぐ補強用の部材が取り付けられる。これによって、先端ローラからの突上力が上親骨材にも伝達され、下親骨材の変形が防止されている。
【0044】
ただし、本実施形態では、上記折り曲げ板材20、21が設けられているので、上記上下の親骨材間をつなぐ補強用部材が不要である。つまり、きわめて簡単な構造である上記折り曲げ板材20、21のみで、全伸長時の親骨材の応力が抑えられている。すなわち、本実施形態では、上記折り曲げ板材20、21が採用されることにより、親骨全体を太くするなどの強度向上策が講じられなくとも、効果的な補強が実現され、しかも、低コストでかつ質量の増加が最小限に抑えられる。
【0045】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について説明される。図11は、本発明の第4の実施形態に係る梯子の側面図である。
【0046】
この梯子は、4段編成の伸縮式梯子組立体の第3段梯子を構成する。図において伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに、中間梯子が他の梯子と重なり合う部位は、前述の図6と同様に領域15と領域16である。本実施形態では、いずれの梯子とも重なり合わない領域22に配置された斜骨材23の断面形状と、上記領域15、16に配置された斜骨材24の断面形状とは異なっており、斜骨材23の方が斜骨材24の断面積よりも小さい。要するに、斜骨材24よりも斜骨材23の方が機械的強度が低く、低コストな材料で構成されている。たとえば斜骨材24は、引張り強さの大きい高張力鋼から構成され、斜骨材23は一般構造用炭素鋼から構成され得る。
【0047】
なお、本実施形態では、上記梯子は、第3段梯子として構成されているが、これに限定されることはなく、上下に隣り合う中間段梯子として構成されていればよい。すなわち、n段編成の梯子組立体において、第2段梯子ないし第(n−1)段梯子として構成されていればよい。
【0048】
伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときには、上記領域22に存在する斜骨材23には大きなせん断力が作用せず、この斜骨材23には大きな応力が発生しないが、斜骨材24には大きなせん断力が作用する。したがって、この斜骨材24には大きな応力が発生する。このことから、上記領域22に存在する斜骨材23の外形寸法を小さくするなどして、斜骨材23に発生する応力と斜骨材24に発生する応力とを均一にすることができる。つまり、本実施形態では、上記領域22に存在する斜骨材23の断面二次モーメント、断面極二次モーメントが、上記斜骨材24の断面二次モーメント、断面極二次モーメントよりも小さく設定されており、したがって、本実施形態によれば、梯子の強度設計上の自由度を低下させることなく、軽量かつ低コストの梯子が製作され得る。
【0049】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態について説明される。図12は、本発明の第5の実施形態に係る梯子の平面図である。
【0050】
この梯子は、4段編成の伸縮式梯子組立体の第3段梯子を構成する。図において伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに、当該梯子が他の梯子と重なり合う部位は、上記第4の実施形態と同様に、領域15と領域16であり、いずれの梯子とも重なり合わない部位は、領域22である。
【0051】
この梯子では、横桟9同士の間に横桟斜骨材25が設けられている。この横桟斜骨材25は、梯子の先端方向(図中左方)に向かって閉じるような方向に沿って傾いて配置され、横桟9間に溶接されている。そして、上記領域15、16では、上記領域22よりも横桟斜骨材25が密に配置されている。すなわち、上記領域15、16では、横桟斜骨材25は、各横桟9間に配置されているが、上記領域22では、横桟ひとつおきに横桟斜骨材25が配置されている。
【0052】
梯子が左右方向やねじり方向に周期的に振動した場合、この横桟斜骨材25は、梯子全体のせん断変形を防止するのに有効である。特に梯子同士が重なり合う領域15、16では、重なり合った部位に左右方向の大きなせん断力を受ける場合がある。しかし、この領域15、16には、横桟斜骨材25が上記領域22よりも密に配置されていることから、梯子の左右方向及びねじり方向の変形が抑えられる。
【0053】
横桟9及び横桟斜骨25は、梯子の左右方向の振動を抑制するために有効な部材であるが、梯子動作時や、全伸長停止時においては親骨材ほど高い応力を発生しない。そのため、これら横桟9、横桟斜骨25は、親骨材を構成する材料よりも低コストで機械的強度も小さい材料が採用されてもよい。たとえば一般構造用炭素鋼やアルミ合金材などが採用され得る。
【0054】
本実施形態では、梯子の左右方向やねじり方向の振動を、必要最小限の部材の付与で抑制することができる。また、材質の変更によって低コスト化も実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る消防用の梯子組立体の横断面図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態に係る消防用の梯子組立体を構成する梯子の下親骨材の斜視図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る梯子の下親骨材の断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る下親骨材の断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態の第2の変形例に係る下親骨材の断面図である。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態に係る梯子付き消防自動車の斜視図である。
【図7】図7は、本発明の第3の実施形態に係る梯子の後部の拡大斜視図である。
【図8】図8は、本発明の第3の実施形態に係る梯子の下親骨材の斜視図である。
【図9】図9は、図8におけるIX−IX断面図である。
【図10】図10は、親骨材の後端からの距離と親骨材の応力との関係を示す図である。
【図11】図11は、本発明の第4の実施形態に係る梯子の側面図である。
【図12】図12は、本発明の第5の実施形態に係る梯子の平面図である。
【符号の説明】
【0056】
A 伸縮式梯子組立体
1 上親骨材
2 角形管
2a 角形管2の上面2a
3 各形管
4 折り曲げ板材
4a 外側側面4a
4b 下面
4c 主体部
4d 頭部
5 斜骨材
6 横桟
7 下親骨材
9 横桟
15 第4段梯子と第3段梯子とが重なりあう領域
16 第3段梯子と第2段梯子とが重なりあう領域
17 第2段梯子と第1段梯子とが重なりあう領域
20 折り曲げ板材
21 折り曲げ板材
23 斜骨材
24 斜骨材
25 横桟斜骨材
30 角形管
31 短辺側側面
32 長辺側側面
33 長辺側側面
34 短辺側側面
35 折り曲げ板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、
下親骨材は、少なくとも1本の多角形断面を有する角形管と、この角形管に沿って配置された板材とを有し、
この板材は、角形管の上方に突出し且つ角形管の下方に突出しないように当該角形管に結合されている消防用梯子。
【請求項2】
複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、
下親骨材は、少なくとも1本の多角形断面を有する角形管と、この角形管に沿って配置された板材とを有し、
この板材は、矩形状に屈曲形成され且つ上記横桟側に沿って延びるように上記斜骨材に溶接されている消防用梯子。
【請求項3】
上記板材は、平板状部材が折曲形成されることにより構成されている請求項1又は2に記載の消防用梯子。
【請求項4】
上記斜骨材は、上記板材の側面及び下親骨材を構成する角形管の上面に溶接されている請求項1から3のいずれかに記載の消防用梯子。
【請求項5】
上記横桟は、下親骨材を構成する角形管の上記斜骨材が結合されていない方の側面に溶接されている請求項1から4のいずれかに記載の消防用梯子。
【請求項6】
複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、
伸縮式梯子組立体を構成する最上段梯子及び最下段梯子以外の中間梯子の長手方向所定部位に配置された下親骨材と斜骨材とを連結する板材が設けられており、
当該長手方向所定部位は、伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに、当該中間梯子と隣り合う下段の梯子の先端部に対応する位置である消防用梯子。
【請求項7】
上記板材は、平板状部材からなり、下親骨材と斜骨材とを連結するように屈曲形成されている請求項6に記載の消防用梯子。
【請求項8】
上記板材は、平板状部材からなり、下親骨材及び隣り合う一対の斜骨材を相互に連結するように屈曲形成されている請求項6又は7に記載の消防用梯子。
【請求項9】
複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、
伸縮式梯子組立体を構成する最上段梯子及び最下段梯子以外の中間梯子の長手方向所定部位に配置された上親骨材と斜骨材とを連結する板材が設けられており、
当該長手方向所定部位は、伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに、当該中間梯子と隣り合う下段の梯子の先端部に対応する位置である消防用梯子。
【請求項10】
上記板材は、平板状部材からなり、上親骨材と斜骨材とを連結するように屈曲形成されている請求項9に記載の消防用梯子。
【請求項11】
上記板材は、平板状部材からなり、下親骨材及び隣り合う一対の斜骨材を相互に連結するように屈曲形成されている請求項9又は10記載の消防用梯子。
【請求項12】
複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、
伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに隣り合う梯子同士が重なり合う領域では、上記横桟斜骨材が密に配置されている消防用梯子。
【請求項13】
上記横桟斜骨材は、隣り合う梯子同士が重なり合う領域では、隣り合う横桟間に左右対称に配置され、上記重なり合う領域以外の領域では、隣り合う横桟間にひとつおきに左右対称に配置されている請求項12に記載の消防用梯子。
【請求項14】
複数段編成の伸縮式梯子組立体を構成し、上親骨材と、下親骨材と、上親骨材及び下親骨材を連結する斜骨材と、下親骨材に掛け渡された横桟と、横桟同士をつなぐ横桟斜骨材とを有し、且つこれら各部材が溶接にて連結されている消防用梯子において、
上記斜骨材は、上親骨材と下親骨材とを最短距離でつなぐ仮想線に対して角度θ(0°<θ<90°)だけ傾いている消防用梯子。
【請求項15】
伸縮式梯子組立体が全伸長状態となったときに隣り合う梯子同士が重なり合う領域に配置された斜骨材の断面形状と、当該重なり合う領域以外の領域に配置された斜骨材の断面形状とは異なっており、上記重なり合う領域に配置された斜骨材の引張り強さは、上記重なり合う領域以外の領域に配置された斜骨材の引張り強さよりも大きく設定されている請求項14に記載の消防用梯子。
【請求項16】
上記横桟を構成する材料の引張り強さは、他の部材を構成する材料の引張り強さよりも小さく設定されている請求項14又は15に記載の消防用梯子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−118246(P2006−118246A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308172(P2004−308172)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000192073)株式会社モリタ (80)
【Fターム(参考)】