説明

液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィー

【課題】
体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーにおいて、分離に伴う分離カラム内でのピーク巾の増大を抑制し、分離性能および検出感度を向上する手法を提供することを課題とする。
【解決手段】
グラフィーグラジエント(不均一場)カラムと移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせることで、ピーク巾の増大を抑制することが可能であるクロマトグラフィーを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合試料の分離・精製のための液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーでは、試料成分が分離カラム内を出口側へと向かって移動する際に、試料成分が存在する領域の巾(以下、ピーク巾と記す)が広がることが避けられない。ピーク巾が広がりすぎると、隣接する異なった試料成分同士が混ざり合い、分離が阻害されてしまう。また、ピーク巾が広がることで試料成分の濃度低下が生じ、これは検出感度の低下をもたらす。
【0003】
通常の液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーで用いられているカラムは、流れ方向において固定相の化学的・物理的性質、流速が一定である。これに対して、我々は流れ方向により固定相の化学的性質、流速、もしくはその両者が異なる新規カラム(グラジエント(不均一場)カラム)を開発している。
【特許文献1】特開2006-159148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とすることは、液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーにおいて、分離に伴う分離カラム内でのピーク巾の増大を抑制し、分離性能および検出感度を向上する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、流れ方向の部位により試料の保持能力および移動相流速の両者もしくはどちらか一方が異なることを特徴とするクロマトグラフィー用カラム(グラジエント(不均一場)カラム)と、移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせた液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーにある(請求項1)。
【0006】
グラジエント(不均一場)カラムと移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせることで、ピーク巾の増大を抑制することが可能なクロマトグラフィーとなる。これにより、従来の均一場カラムよりも、分離性能が向上する。
【0007】
第2の発明は、カラム入口よりも出口側の保持が大きくなるグラジエント(不均一場)カラムと、時間と共に試料の保持が小さくなる移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせたことを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー又は電気クロマトグラフィーにある(請求項2)。
【0008】
試料が存在する領域(以下、試料ゾーンと記す)のカラム出口側での試料移動速度が、保持の増大に伴い相対的に小さくなるため、試料ゾーンがカラム内を移動するに従い、ピーク巾は小さくなる。同時に、移動相のグラジエントにより、ピーク巾が小さいまま試料は溶出され、分離能力の向上が得られる。
【0009】
第3の発明は、カラム入口よりも出口側での試料の移動相流速が小さいグラジエント(不均一場)カラムと、時間と共に試料の保持が小さくなる移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせたことを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー又は電気クロマトグラフィーにある(請求項3)。
【0010】
試料ゾーンのカラム出口側での試料移動速度が小さくなるため、試料ゾーンがカラム内を移動するに従い、ピーク巾は小さくなる。同時に、移動相のグラジエントにより、ピーク巾が小さいまま試料は溶出され、分離能力の向上が得られる。

【0011】
第4の発明は、請求項2および請求項3の両者を組み合わせた液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーにある(請求項4)。
【0012】
第2の発明および第3の発明の効果が同時に得られるため、より効果的にピーク巾の低減が行われ、分離能の向上が得られる。

【0013】
第5の発明は、流れ方向の部位により試料の電気泳動速度が異なることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気クロマトグラフィーにある(請求項5)。
【0014】
試料ゾーンのカラム出口側での試料の電気泳動移動速度が小さくなるため、試料ゾーンがカラム内を移動するに従い、ピーク巾は小さくなる。同時に、移動相のグラジエントにより、ピーク巾が小さいまま試料は溶出され、分離能力の向上が得られる。
【0015】
第6の発明は、流れ方向の部位により分離カラムの温度を異なることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気クロマトグラフィーにある(請求項6)。
【0016】
試料の電気泳動速度および保持は温度により変化するため、前記第2の発明乃至第4の発明の効果を得ることができ、また、温度を動的にコントロールすることが可能であるため、より効果的な分離能の向上が得られる。

【発明の効果】
【0017】
本発明は、従来の均一カラムを用いたクロマトグラフィーよりも、ピーク巾を低減することが可能であるクロマトグラフィーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、もとより本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
本発明に使用するグラジエントカラムとして、内径0.7 mm、充填長120 mmの多段(10段)グラジエント(不均一場)充填カラムの調整を行った。不均一場(試料保持の大きさがカラムの部位により異なる)を形成するために、疎水性の大きい充填材としてC18(SG120, SHISEIDO)、相対的に疎水性の小さい充填材として、C8(SG120, SHISEIDO)を用い、両者を適切な比率で混合し多段充填を行った(1ステップ長約12 mm)。調製したカラムは、(A)カラム入口から出口に向かい10段階で疎水性相互作用が大きくなるグラジエント(不均一場)カラム、また参照用として、(B)カラム内での保持が一定である均一場カラムの調製を行った。なお、グラジエント(不均一場)カラムと均一場カラムの平均的な試料保持能力は、同一となるように二種類の充填剤の混合比率を調製した。
【0020】
本発明に使用する分離条件としては、アセトニトリル−水混合移動相中のアセトニトリル濃度を、7分間で40から90%へ変化させるリニアグラジエントを用いた。また、検出方法としては、UV 210 nmの紫外線吸光検出方を用いた。試料としては、(1)ウラシル(t0: カラムに保持されない成分)、(2)ベンゼン、(3)ナフタレン、(4)フェナントレン、(5)ピレン、(6)クリセン、(7)ペリレンを用いて検討を行った。
【0021】
図1にグラジエント(不均一場)カラムと不均一場カラムの試料溶出時間の関係を示した。均一カラムの各試料の溶出時間に対してグラジエント(不均一場)カラムの各試料成分の溶出時間をプロットしたグラフは、ほぼ45°線(破線)上に乗っており、均一カラムとグラジエント(不均一場)カラムの各試料の溶出時間はほぼ同一である。これは、グラジエント(不均一場)カラムと均一場カラムの平均的な試料保持能力は、同一となるように二種類の充填剤の混合比率を調製したためである。
【0022】
さらに、各試料成分のピーク半値幅を測定し、均一場カラムと不均一場カラムにおけるピーク半値幅の比(相対半値幅:w1/2,不均一場/ w1/2,均一場)と、試料の溶出時間の関係を図2に示した。図2に示されるように、全ての試料について、相対半値幅は1より小さい値である。これは均一場カラムのピーク半値幅より不均一場カラムのピーク半値幅の方が小さいことを示している。すなわち、グラジエントカラムと移動相グラジエントを組み合わせる本発明を適用することで、従来の均一場カラムと移動相グラジエントを組み合わせる手法よりも、ピーク巾の増大を防ぐことが可能であるクロマトグラフィーの開発に成功した。また、溶出時間が遅く、保持の大きい試料ほどピーク半値幅の比の値が小さくなっていた。すなわち、保持の大きい試料ほど固定相との相互作用が強くなり、固定相による減速効果が大きくなることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0023】
混合試料を分離・精製するクロマトグラフィーの分野で利用され、大いに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のグラジエント(不均一場)カラムと均一場カラムにおける試料の保持挙動(溶出時間)を比較した図である。
【図2】実施例1のグラジエント(不均一場)カラムと均一場カラムにおける試料のピーク巾の比(相対半値幅:w1/2,不均一場/ w1/2,均一場)と溶出時間の関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ方向の部位により試料の保持能力および移動相流速の双方もしくはいずれか一方が異なることを特徴とするクロマトグラフィー用カラム(以下、「グラジエント(不均一場)カラム」という。)と、移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせた液体クロマトグラフィー又は電気クロマトグラフィー。
【請求項2】
カラム入口よりも出口側の保持が大きくなるグラジエント(不均一場)カラムと、時間と共に試料の保持が小さくなる移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせたことを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー又は電気クロマトグラフィー。
【請求項3】
カラム入口よりも出口側での試料の移動相流速が小さいグラジエント(不均一場)カラムと、時間と共に試料の保持が小さくなる移動相組成のグラジエント溶離手法を組み合わせたことを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー又は電気クロマトグラフィー。
【請求項4】
請求項2および請求項3の両者を組み合わせた液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィー。
【請求項5】
流れ方向の部位により試料の電気泳動速度が異なることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気クロマトグラフィー。
【請求項6】
流れ方向の部位により分離カラムの温度を異なることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−101795(P2010−101795A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274371(P2008−274371)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人科学技術振興機構「不均一場を利用する高性能分離カラムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)