説明

液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置

【課題】カラムで分離される各試料成分を高精度で定量するのに最適な励起光波長及び蛍光波長といった分析条件を、容易に且つ短時間で見い出す。
【解決手段】所定の励起光波長及び蛍光波長に固定した状態で目的試料をLC分析し(S1、S2)、強度値が閾値以上になってその変化量が小さくなったときに試料成分が出現したとみなし(S3〜S6)、そのときの保持時間を取得するとともにカラムへの送液を一時停止させる(S7、S8)。そして、フローセルに試料成分を含む溶出液が滞留した状態で、励起光波長、蛍光波長の高速走査をそれぞれ行って概略的な3次元スペクトルを取得し、保持時間とともに記憶する(S9〜S10)。カラムで分離された試料成分が出現する毎にこれを繰り返し、各試料成分に対応する3次元スペクトルを求める。そして、3次元スペクトルの中で強度最大のピークトップを探索し、そのピークを与える励起光波長及び蛍光波長を見い出し、保持時間とともに表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフのカラムで時間方向に成分分離された試料中の各成分を順次検出するための分光蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分光蛍光分析法は蛍光性を有する又は蛍光性を付与された物質しか検出できないという制約はあるものの、光の吸収を利用した吸光分析法に比べて格段に高感度の分析が可能であるという特徴を有しており、液体クロマトグラフの検出器として広く利用されている。図8は例えば特許文献1などにおいて従来知られている一般的な分光蛍光検出装置の概略構成図である。
【0003】
この分光蛍光検出装置1においては、紫外域から近赤外域まで幅広い連続スペクトルを有するキセノンランプ等の光源10から発せられた光が励起側分光器11に導入され、特定の波長(励起光波長EX)を持つ単色光が取り出され、試料溶液13が貯留された試料セル12に励起光として照射される。この励起光の照射により試料溶液13から放出された微弱な蛍光は蛍光側分光器14に導入され、特定の波長(蛍光波長EM)を持つ蛍光のみが取り出され光電子増倍管15に入射される。光電子増倍管15は入射光の強度に応じた電流信号を出力し、電流/電圧(I/V)変換部16で変換された電圧信号がA/D変換部17でデジタル値に変換され、データ処理部18に入力される。データ処理部18は、この検出データを解析処理することにより、試料溶液13中の特定成分の定量値を計算する。
【0004】
分光蛍光分析において高精度の定量を行うには、試料の種類に応じて適切な励起光波長EX及び蛍光波長EMを分析条件として決める必要がある。一般に、こうした分析条件の決定には十分な経験や熟練が必要であり、経験の乏しいオペレータは設定波長条件を変えながら何回も予備測定を行って最適な波長条件を見い出さなければならない。そのため、分析に時間が掛かり、効率が悪い。また、予備測定のために多量の試料が余分に必要になる。
【0005】
液体クロマトグラフのカラムで成分分離した試料を分光蛍光検出装置で検出する際には、上記のような分析条件の決定は一層面倒で手間が掛かる作業となる。何故なら、通常、分析対象の試料には多数の試料成分が含まれており、試料成分毎に適切な励起光波長と蛍光波長とが相違するからである。また、液体クロマトグラフでは1回の測定に短くても数分程度、長ければ数十分もの時間が掛かり、予備測定を何回も繰り返して最適な分析条件を決めるような作業は実用的でない。そのため、結局のところ、オペレータの経験や勘などに頼らざるを得ないのが実状であり、それによって分析の精度も左右されることになる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−300632号公報(段落0002、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、経験の乏しい者であっても、各試料成分に対して適切な励起光波長及び蛍光波長を容易に且つ効率よく決めることができる液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明は、液体クロマトグラフのカラムで分離された試料成分を検出する分光蛍光検出装置であって、光源と、該光源からの出射光を分光して所定波長の光を取り出す励起側分光手段と、該励起側分光手段により取り出された励起光に対して試料から得られる蛍光を分光して所定波長の光を取り出す蛍光側分光手段と、該蛍光側分光手段により取り出された蛍光を検出する光検出器と、前記励起側分光手段及び前記蛍光側分光手段のそれぞれについて取り出される光の波長を変更する波長変更手段と、を具備する液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置において、
a)前記波長変更手段により予め定められた励起光波長及び蛍光波長を設定した状態で前記カラムからの溶出液に対する検出を行い、その検出信号に基づいて試料成分の出現を検知する成分検知手段と、
b)前記成分検知手段により試料成分の出現が検知されるとカラムへの送液を一時的に停止するように指示を与える指示手段と、
c)前記指示手段による指示に応じて送液が停止した状態で、前記波長変更手段により励起光波長及び蛍光波長の走査をそれぞれ行い、励起光波長、蛍光波長及び信号強度をディメンジョンとする3次元スペクトルを取得するスペクトル取得手段と、
d)前記3次元スペクトルに対し、最大の信号強度を持つ又は相対的に大きな信号強度を持つピークを与える励起光波長と蛍光波長との組合せを探索する探索手段と、
e)前記探索手段により得られた励起光波長及び蛍光波長と、その3次元スペクトルが取得された試料成分が出現した時間情報とを併せて出力する出力手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
上記指示手段による指示に応じてカラムへの送液を一時的に停止するには、例えばカラムへ移動相を送給する送液ポンプの動作を停止させる、或いは、流路の切替えによりカラムへの移動相の流入を別の流路に迂回させる等の方法を採り得る。
【0010】
上記のようにカラムへの送液を一時的に停止すると、カラムからの溶出液の流れが一時的に滞留するから、本発明に係る分光蛍光検出装置では溶出液中の同じ試料成分を検出し続けることになる。波長変更手段による励起光波長と蛍光波長の走査には或る程度の時間が掛かるが、その間、同じ試料成分が検出位置に留まるため、その試料成分に対する3次元スペクトルを取得することができる。送液を停止すると、分離された成分が流路内で拡散し、分離能が下がるとともにピークの位置ずれも生じる。したがって、正確さを要求される測定には好ましくないが、ここでは、各試料成分毎に最適又はそれに近い励起光波長及び蛍光波長を見い出すことが目的であるため、分離能の低下やピークの位置ずれは殆ど問題とならない。
【0011】
本発明に係る分光蛍光検出装置において、成分検知手段は例えば、検出信号のレベルが予め定めた閾値以上になったときにその信号の時間的な変化量を観察し始め、その変化量が大きな状態から或る閾値以下に小さくなったときに、試料成分が出現したと判断する構成とすることができる。そして、送液を停止することで検知した試料成分を検出位置に滞留させた状態で3次元スペクトルを取得し、取得が終了すると送液を再開させて、次にカラムから溶出してくる試料成分の出現を待つ。こうした処理を繰り返すことで、試料中に含まれる複数の試料成分について、それぞれ別々に3次元スペクトルを作成し、最大の信号強度を持つ又は相対的に大きな信号強度を持つピークを与える励起光波長と蛍光波長との組合せを見い出すことができる。なお、送液を停止している時間は保持時間に含まれないのはもちろんである。
【0012】
目的試料について1回の液体クロマトグラフ測定を実行しさえすれば、その試料に含まれる全ての試料成分に対する適切な励起光波長、蛍光波長が判明するから、出力手段により提供される情報に基づいて、目的試料に対する2回目の、詳細な液体クロマトグラフ測定の条件設定を行うことができる。もちろん、そうした条件設定がユーザの手を煩わせることなく自動的に行われるようにしてもよい。但し、3次元スペクトル上に複数のピークが存在する場合、最大の信号強度を示すピークの励起光波長・蛍光波長が条件として最適であるとは限らない場合もあるから、複数の候補を提示してユーザが選択できるようにしておくのもよい。
【0013】
また、本発明に係る分光蛍光検出装置の一態様として、前記スペクトル取得手段により取得された3次元スペクトルを描出するとともに前記探索手段により見い出されたピークを認識可能に表示する表示手段と、該表示手段に表示された3次元スペクトル上でユーザがピークの選択指示を行う操作手段と、該操作手段による選択指示に応じて指定されたピークを与える励起光波長及び蛍光波長を次の分析条件として設定する分析条件設定手段と、をさらに備える構成としてもよい。
【0014】
この構成によれば、ユーザは3次元スペクトルを目視で確認しながら操作が可能であるので、操作ミスが軽減される。また、例えば測定に何らかの不具合が生じた(例えば意図しない夾雑物が多量に混入している)ことを容易に認識することができ、無駄な詳細測定を実行することを回避できる。
【0015】
なお、スペクトル取得手段による3次元スペクトル取得はあくまでも分析条件決めが目的であるので、可能な限りそれに要する時間を短縮することが望ましい。そこで、例えばスペクトル取得手段による3次元スペクトル取得の際の励起光波長及び蛍光波長の波長範囲をそれぞれユーザが設定するための波長設定手段をさらに備えるようにし、必要に応じてユーザが波長範囲を限定することで測定時間を短縮できるようにするとよい。また、走査の際の波長ステップもユーザが設定できるようにしておくとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置によれば、目的試料について1回の液体クロマトグラフ測定を実行するだけで、その目的試料に含まれる各種の成分をそれぞれ高い精度で定量分析するために最適な励起光波長及び蛍光波長の情報を自動的に収集することができる。これにより、経験の浅いオペレータでも効率よく、且つ高い精度で分析を実行することができる。また、多数回の予備的な測定を実行せずに済むので、目的試料の量も少なくて済み、装置の消耗品(例えば液体クロマトグラフのカラムなど)の無駄な消耗も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る分光蛍光検出装置を利用した液体クロマトグラフの一実施例について、図を参照して詳細に説明する。図1は本実施例の液体クロマトグラフの要部の構成図である。なお、図8により説明した構成と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を略す。
【0018】
この液体クロマトグラフでは、送液ポンプ3により移動相容器2に貯留されている移動相が吸引されて、略一定流量でインジェクタ4を経てカラム5に送給される。インジェクタ4により移動相中に試料が注入されると、その試料は移動相の流れに乗ってカラム5に導入され、カラム5を通過する間に試料に含まれる各種成分が分離され、時間的に差がついてカラム5の出口端から溶出し、フローセル6を通過した後に排出される。分光蛍光検出装置1はフローセル6を通過する溶出液中の試料成分を検出する。送液ポンプ3の動作やインジェクタ4による試料注入動作は分析制御部7により制御される。
【0019】
分光蛍光検出装置1において、A/D変換部17からの検出データを受けるデータ処理部18は、走査タイミング決定処理部181、データ記憶部182、ピーク探索部183などを含む。走査タイミング決定処理部181による制御信号は、励起側分光器11において回折格子111を回動させるモータ112と蛍光側分光器14において回折格子141を回動させるモータ142とを制御する走査制御部19、及び分析制御部7に入力される。また、データ処理部18には、ユーザが操作する操作部20や表示部21が付設されている。なお、データ処理部18の機能の全て又は一部、操作部20、表示部21などはパーソナルコンピュータにより具現化するようにしてもよい。
【0020】
次に本実施例の液体クロマトグラフにおける特徴的な分析動作を説明する。この液体クロマトグラフでは、まず目的試料に含まれる各種成分を適切に定量分析するための条件を決めるために、1回目の測定を行い、その条件が決まった後に、同じ目的試料に対し詳細測定を実行する。図2はその1回目の測定の際の手順及び処理を示すフローチャートである。
【0021】
まず、オペレータは適宜の励起光波長EX及び蛍光波長EMを操作部20から測定条件として入力する。この波長はそれほど厳密なものでなくてよいので、目的試料の種類などに応じて適宜決めておけばよい。走査制御部19はこの指示に応じた波長がそれぞれ選択されるように、各分光器11、14のモータ112、142を制御する(ステップS1)。次に分析制御部7は、送液ポンプ3を作動させてカラム5に一定流量で移動相を送給し、インジェクタ4により所定のタイミングで目的試料を移動相中に注入する。これにより液体クロマトグラフ(LC)分析が開始される(ステップS2)。LC分析の開始とともに、分光蛍光検出装置1においては、走査タイミング決定処理部181が入力される検出データの強度値のモニタを開始する(ステップS3)。
【0022】
走査タイミング決定処理部181では、フローセル6を通過する溶出液に対する検出データが得られると、その強度値が予め設定された閾値TH1以上であるか否かを判定する(ステップS4)。強度値が閾値TH1未満であればステップS4からS13へ進み、分析終了でなければステップS3へと戻る。例えば図5に示すように、或る試料成分がカラム5出口から溶出してフローセル6に導入されると、強度値は上昇し始め閾値TH1を超える(図5でt1の時点)。すると、ステップS4からS5へ進み、今度は強度値の時間的変化量を繰り返し計算し始める。時間的変化量は、図5に示すように、一定の微小時間Δt中の強度値の変化量ΔIである。
【0023】
一般的に、クロマトグラムにおいて或る成分によるピークが出現したときに、ピークの立ち上がり部分では時間的変化量が大きく、ピークトップが近づくに従い時間的変化量が小さくなる。そこで、この時間的変化量が所定の閾値以下になったか否かを判定し(ステップS6)、時間的変化量が閾値以下になったならば(図5でt2の時点)、試料成分の出現が検知されたとみなし、そのときの保持時間(リテンションタイム)を求める(ステップS7)。また、分析制御部7に対して制御信号を送出し、送液ポンプ3の動作を一時的に停止させる(ステップS8)。それにより、カラム5への移動相の供給が停止され、フローセル6内にその直前に導入された溶出液がそのまま保持される。
【0024】
なお、送液ポンプ3のオン・オフ制御の代わりに、流路の切替えを行ってカラム5に送給される移動相を別の流路に流すようにすることで、カラム5での試料の送りを一時停止させるようにしてもよい。なお、このように送液が停止されている期間には、保持時間を計測するタイマの計時も停止し、保持時間がずれることを回避する。
【0025】
上記のようにフローセル6内に溶出液が滞留した状態で、走査制御部19は走査タイミング決定処理部181からの指示に基づいて、励起側分光器11及び蛍光側分光器14でそれぞれ波長走査を行う(ステップS9)。データ処理部18はこの波長走査に伴って得られる検出データを収集することで3次元スペクトルを取得する(ステップS10)。これについては後で詳述する。得られた3次元スペクトルデータと保持時間とは対応付けてデータ記憶部182に格納される(ステップS11)。
【0026】
その後、分析制御部7は送液ポンプ3による移動相の送給を再開し、再びLC分析が先の続きから行われる(ステップS12)。そして、例えば予め定めた終了時間が経過する等、分析終了の条件が満たされたか否かを判定し(ステップS13)、未だ分析終了でない場合にはステップS3へと戻る。したがって、分析終了まで、検出データの強度値が閾値TH1を超えるような変化を生じる毎に3次元スペクトルが取得され、その3次元スペクトルが保持時間とともにデータ記憶部182に格納される。即ち、試料成分の時間的な重なりがない限り、或いは、始めに設定された励起光波長及び蛍光波長では出現検知できない試料成分がない限り、試料成分の数だけ3次元スペクトルが作成されることになる。
【0027】
次に、上記ステップS9、S10における波長走査に伴う3次元スペクトルの取得の手順について図3により説明する。この例では、200〜750nmの波長範囲(紫外域〜可視域)を1nmの波長ステップで波長走査を行うものとする。
【0028】
まず、励起光波長EX、蛍光波長EMがともに開始波長(200nm)に設定されるように分光器11、14のモータ112、142が制御される(ステップS21)。次に、そのときの励起光波長EXが終了波長(750nm)以下であるか否かを判定し(ステップS22)、終了波長以下であればさらに次に蛍光波長EMが終了波長(750nm)以下であるか否かを判定する(ステップS23)。蛍光波長EMが終了波長以下であれば、そのときにA/D変換部17から得られる検出データを読み込んで記憶し(ステップS24)、蛍光波長EMを1nmだけ増加させて(ステップS25)ステップS23へ戻る。したがって、まず励起光波長EXが200nmである励起条件の下で、ステップS23〜S25の繰り返しにより、蛍光波長EMが200〜750nmである波長範囲を1nmずつ変化させながら検出データ、つまり蛍光強度値を収集する。
【0029】
蛍光波長EMが750nmを超えるとステップS23からS26へ進み、蛍光波長EMを開始波長に戻し、今度は励起光波長EXを1nmだけ増加させて(ステップS27)ステップS22へ戻る。したがって、励起光波長EX=200nmの次にはEX=201nmの励起条件の下で、200〜750nmの波長範囲を1nmステップで蛍光波長EMが走査され、検出データが収集される。こうして励起光波長EXを1nmずつ増加させながら200〜750nmの波長範囲の蛍光スペクトルデータを収集していき、励起光波長EXが750nmを超えるとステップS22からS28へ進み、励起光波長EX、蛍光波長EMを元の状態に戻して処理を終了する。
【0030】
以上のような波長走査を伴ったデータの収集により、波長範囲が200〜750nmである励起光波長EX、波長範囲が200〜750nmである蛍光波長EM、及び信号強度、の3つのディメンジョンを有する3次元スペクトルが得られ、これがデータ記憶部182に格納される。この3次元スペクトルの3次元表示の一例を図6に示す。前述したように、液体クロマトグラフのインジェクタ4で試料が注入された時点を基準とし、試料成分がカラム5から溶出してフローセル6に導入される毎に図6に示したような3次元スペクトルの取得が実行される。
【0031】
上記3次元スペクトルは専ら分析条件(励起光波長及び蛍光波長)を決めるための概略的な波形を得るためのものであるので、強度値や波長の分解能は重要ではなく、走査速度を重視することが好ましい。したがって、各波長における電荷蓄積時間は短くてよく、また波長ステップは大きくてもよいが、回折格子111、141を駆動するモータ112、142の動作とA/D変換部17における信号のサンプリングのタイミングとは同期させることが必要である。
【0032】
一例として、分光器11、14において回折格子111、141を回動させるモータ(ステッピングモータ)112、142の波長分解能が1ステップ=1nmであり、走査時にはモータ112、142を2000ppsで定速動作させる場合を想定する。この場合、蛍光波長EMの波長ステップを1nm、励起光波長EXの波長ステップを2nmとすると、蛍光波長EXを200〜750nmの範囲走査させるのに必要な時間は、
(1/2000[pps])×(750[step]−200[step]+1)=275.5[ms]
である。1回の蛍光波長走査の後に蛍光波長EMを200nmに戻し、励起光波長EXを2nmだけ増加させる必要があるから、それに要する時間を74.5msと仮定し、励起光波長EXを200〜750nmの範囲で2nm毎に走査すると、
(275.5[ms]+74.5[ms])×{(750[step]−200[step])/2+1)=96.5[s]
となる。これが1つの3次元スペクトルの取得に要する時間である。但し、実際の蛍光分析は、蛍光波長EM>励起光波長EXの範囲だけ行えば十分であるため、励起光波長EXに応じて蛍光波長EMの走査範囲を限定することができ、実際に掛かる時間は上記の概算値よりも短い時間となる。
【0033】
さて、上記のような3次元スペクトルが得られた後に、その3次元スペクトルに対しピーク探索部183でピークトップ判定処理が実行され、適切な励起光波長及び蛍光波長が探索される。このピークトップ判定処理は、図2に示したような1回のLC分析が終了した後に全ての3次元スペクトルに対して順に実行される(いわゆるバッチ処理)ようにしてもよいし、或いは、LC分析実行中に新たな3次元スペクトルが取得される毎にすぐに実行される(いわゆる)逐次処理)ようにしてもよい。波長走査とは異なりピークトップ判定処理は機械的な駆動を伴わないので、短時間で行うことができ、逐次処理でも時間的な問題はない。
【0034】
図4は1つの3次元スペクトルに対するピークトップ判定処理の手順を示すフローチャートである。
まず励起光波長EX、蛍光波長EMがともに開始波長(200nm)に設定されるとともに、最大強度値MAX、最大強度値を与える励起光波長EXmax、最大強度値を与える蛍光波長EMmaxがいずれもゼロに初期化される(ステップS31)。次にそのときの励起光波長EXが終了波長(750nm)以下であるか否かを判定し(ステップS32)、終了波長以下であればさらに次に蛍光波長EMが終了波長(750nm)以下であるか否かを判定する(ステップS33)。蛍光波長EMが終了波長以下であれば、3次元スペクトルの中でそのときの励起光波長及び蛍光波長に対する強度値Dをデータ記憶部182から読み出し(ステップS34)、その強度値Dが最大強度値MAXよりも大きいか否かを判定する(ステップS35)。
【0035】
強度値Dが最大強度値MAXよりも大きければ、最大強度値MAXを強度値Dに更新し、そのときの励起光波長EX及び蛍光波長EMをそれぞれEXmax、EMmaxに格納する(ステップS36)。一方、ステップS35で強度値Dが最大強度値MAX以下であれば、MAX、EXmax、EMmaxを更新する必要はないのでステップS36をパスし、いずれも蛍光波長EMを1nmだけ増加させて(ステップS37)ステップS33へ戻る。したがって、まず励起光波長EX=200nmの条件の下で、ステップS33〜S37の繰り返しにより、最大の強度値が探索され、その最大強度値を与える蛍光波長EMが求まる。
【0036】
蛍光波長EMが750nmを超えるとステップS33からS38へ進み、蛍光波長EMを開始波長に戻し、今度は励起光波長EXを1nmだけ増加させて(ステップS39)ステップS32へ戻る。したがって、励起光波長EX=200nmの次にはEX=201nmに対し、200〜750nmの波長範囲の蛍光スペクトルの中でそれ以前に求まった最大強度値を超えるものがあるか否かが探索される。励起光波長EXが750nmを超えるとステップS32でNOと判定されて処理を終了する。したがって、処理終了時点で3次元スペクトルの中で最大の強度値がMAXに、そのときの励起光波長EX及び蛍光波長EMがそれぞれEXmax、EMmaxに格納された状態となる。つまり、これが最大の信号強度を持つピークを与える励起光波長及び蛍光波長の条件であるから、これら波長の組合せとその3次元スペクトルを取得したときの保持時間とを表示部21に表示することでユーザに知らせる。
【0037】
各3次元スペクトルに対しそれぞれ上記のようなピークトップ判定処理が実行されるから、例えば図7に示すように、保持時間t、励起光波長EX、蛍光波長EMを組とする情報が作成され、これが表示部21より出力される。これに基づいて、励起光波長及び蛍光波長を設定するプログラムを組み、目的試料に対して2回目の詳細な分析を実行することで、目的試料に含まれる各種成分の含有量を正確に反映した強度値を得ることができ、この強度値から高精度の定量分析を行うことができる。また、図7に示したような分析条件情報に基づいて、各保持時間に対し励起光波長及び蛍光波長が自動的に変更されるようにしてもよい。
【0038】
なお、上記ピークトップ判定処理は、1つの3次元スペクトルに対して強度値が最大である1つのピークのみを探索していたが、同様の手法で、強度値が2番目に大きいもの、3番目に大きいもの、など複数のピークを探索して、そのピークを得るための励起光波長及び蛍光波長をユーザに知らせるようにしてもよい。この場合には、同一の保持時間に対し励起光波長及び蛍光波長の組が複数提示されるから、詳細分析を実行する際にどの組合せを利用するのかをユーザが選択する必要がある。したがって、そうした選択を促す表示を行ったり、選択が容易な態様での表示を行うとよい。
【0039】
例えば、表示部21の画面上に図6に示したような3次元スペクトルを表示させるとともに、強度値が大きなピークが識別可能である(例えば表示色の変更)ようにし、そうした複数のピークのいずれかをマウス等のポインティングデバイスで選択指示することで、指示されたピークに対応した励起光波長及び蛍光波長が自動的に分析条件として設定されるようにしてもよい。このようなグラフィカルなユーザインターフェースを利用することで、操作ミスを軽減することができる。
【0040】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加などを行っても、本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例による液体クロマトグラフの要部の構成図。
【図2】本実施例の液体クロマトグラフにおける分析条件決定を目的とした測定の際の手順及び処理を示すフローチャート。
【図3】波長走査に伴う3次元スペクトルの取得の手順を示すフローチャート。
【図4】1つの3次元スペクトルに対するピークトップ判定処理の手順を示すフローチャート。
【図5】試料成分の出現の検知動作を説明するための概略図。
【図6】3次元スペクトルの一例を示す図。
【図7】ピークトップ判定処理の結果の出力例を示す図。
【図8】一般的な分光蛍光検出装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0042】
1…分光蛍光検出装置
10…光源
11…励起側分光器
12…試料セル
14…蛍光側分光器
111、141…回折格子
112、142…モータ
15…光電子増倍管
16…I/V変換部
17…A/D変換部
18…データ処理部
181…走査タイミング決定処理部
182…データ記憶部
183…ピーク探索部
19…走査制御部
20…操作部
21…表示部
2…移動相容器
3…送液ポンプ
4…インジェクタ
5…カラム
6…フローセル
7…分析制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフのカラムで分離された試料成分を検出する分光蛍光検出装置であって、光源と、該光源からの出射光を分光して所定波長の光を取り出す励起側分光手段と、該励起側分光手段により取り出された励起光に対して試料から得られる蛍光を分光して所定波長の光を取り出す蛍光側分光手段と、該蛍光側分光手段により取り出された蛍光を検出する光検出器と、前記励起側分光手段及び前記蛍光側分光手段のそれぞれについて取り出される光の波長を変更する波長変更手段と、を具備する液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置において、
a)前記波長変更手段により予め定められた励起光波長及び蛍光波長を設定した状態で前記カラムからの溶出液に対する検出を行い、その検出信号に基づいて試料成分の出現を検知する成分検知手段と、
b)前記成分検知手段により試料成分の出現が検知されるとカラムへの送液を一時的に停止するように指示を与える指示手段と、
c)前記指示手段による指示に応じて送液が停止した状態で、前記波長変更手段により励起光波長及び蛍光波長の走査をそれぞれ行い、励起光波長、蛍光波長及び信号強度をディメンジョンとする3次元スペクトルを取得するスペクトル取得手段と、
d)前記3次元スペクトルに対し、最大の信号強度を持つ又は相対的に大きな信号強度を持つピークを与える励起光波長と蛍光波長との組合せを探索する探索手段と、
e)前記探索手段により得られた励起光波長及び蛍光波長と、その3次元スペクトルが取得された試料成分が出現した時間情報とを併せて出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置であって、前記スペクトル取得手段による3次元スペクトル取得の際の励起光波長及び蛍光波長の波長範囲をそれぞれユーザが設定するための波長設定手段をさらに備えることを特徴とする液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置であって、前記スペクトル取得手段により取得された3次元スペクトルを描出するとともに前記探索手段により見い出されたピークを認識可能に表示する表示手段と、該表示手段に表示された3次元スペクトル上でユーザがピークの選択指示を行う操作手段と、該操作手段による選択指示に応じて指定されたピークを与える励起光波長及び蛍光波長を次の分析条件として設定する分析条件設定手段と、をさらに備えることを特徴とする液体クロマトグラフ用分光蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−180706(P2009−180706A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22529(P2008−22529)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】