説明

液体クロマトグラフ質量分析計

【課題】ESIプローブの先端に印加されている高電圧によるイオン化の際、試料の上流側へ該高電圧がリークしイオン化が阻害され分析が停止することを解決し、またESIプローブの上流側に配設されている金属配管部品を介して感電する可能性を解決する。
【解決手段】ESIプローブ1の入口に配設されたジョイント2は金属製とし内部を通る試料が装置本体のアースに導通される手段を備え、ESIプローブ1の出口に配設されたキャピラリ4と前記ジョイント2の間は樹脂製のチューブ3を含む配管部品で配管し絶縁する。また、前記チューブ3は内部の試料の電気抵抗を大きくするためコイル状に形成し全長を長くする。したがって、ESIプローブ1の上流側での感電の可能性はなく、高電圧のリークが減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ質量分析計(以下、LC/MSという)に関し、さらに詳しくは液体クロマトグラフと質量分析計とのインターフェース部に関する。
【背景技術】
【0002】
LC/MSでは、液体クロマトグラフで分離された成分を大気圧下でイオン化して質量分析計に導入する方法が用いられることがある。この場合、液体クロマトグラフのカラムにより分離された成分をイオン化するインターフェースが必要であり、LC/MSで用いられているインターフェースとして、エレクトロスプレイインターフェースや大気圧化学イオン化インターフェース(APCI)等、いくつかの種類がある。
【0003】
図3はインターフェース部にESI法を用いたLC/MSの一般的な構成を示す図である。20は液体クロマトグラフ、30は質量分析計であり、40はインターフェース部でエレクトロスプレイイオン化部42が配設され、エレクトロスプレイイオン化部42にはESIプローブ43が配設されている。また、エレクトロスプレイイオン化部42の後方に配設された細管44には図示しないヒータ機構が取り付けてあり、これはエレクトロスプレイイオン化部42で生成された荷電液滴の脱溶媒化を促進するための脱溶媒化手段として機能する。液体クロマトグラフ20において、試料導入部23より注入された被検液は、送液ポンプ22によって送られてくる移動相21の流れに乗って、カラム24内で分離され、試料パイプ41を通ってESIプローブ43に入る。
【0004】
ESIプローブ43に入った試料は、ESIプローブ43の出口に配設された細いノズル(キャピラリ)の先端でネブライザーガス(例えばN2ガス)と合流して、大気圧領域に霧化されつつ噴射される。
また、ESIプローブ43の先端には数kV程度の高電圧が印加されており、該先端に強い不平等電界が形成され、この強い電界により霧化されつつ噴射された液滴の一部は荷電液滴となり、さらに、荷電液滴内でのイオンのクーロン反発力により液滴の分裂が進行してイオン化が行われ、その一部が細管44に入る。
【0005】
荷電液滴は細管44内でヒータにより加熱されることにより溶媒が蒸発し、他の粒子との衝突等を経ることによりさらに微小化してイオン化が促進され、生成されたイオンが細管44から引き出されて質量分析計30に送られる。
【0006】
質量分析計30はロータリーポンプ33により減圧状態にされ、さらにターボ分子ポンプ34、35により、より減圧状態に保たれている。このような減圧状態に保たれた質量分析計30に導入されイオン化された試料は、収束レンズ31および四重極ロッド32によるレンズ効果により収束され、質量に応じて分離され質量分析される。
【0007】
以上の説明で分かるように、LC/MSにおける分析感度は、液体クロマトグラフから出る試料の内どれだけをイオン化して質量分析計に導入できるか、その効率よって決定され、該効率は、ESIプローブの性能をはじめエレクトロスプレイイオン化部全体の能力による。これに鑑み、ESIプローブ周辺の構成についての工夫が種々なされている。例えば、ESIプローブの先端より試料が霧化するための条件、或いは霧化された試料が細管に達するまでの条件を安定に保つことによってIon Evaporationを促進させ、検出する試料分子のイオンピークの感度を向上させる。(例えば特許文献1参照)
【特許文献1】特開平6−76789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2は従来のESIプローブの構成を示す図である。11はESIプローブ、12は試料パイプ41とチューブ13を接続するジョイントであり、チューブ13は樹脂製の絶縁物であって例えば長さ100mmで直径0.16mm、14はESIプローブ11の出口に配設されたキャピラリである。チューブ13とキャピラリ14はカプラー15で接続されており、試料パイプ41は液体クロマトグラフで分離された試料をESIプローブ11に導入するための試料導入用配管である。ESIプローブ11に入った試料は、チューブ13を通り、キャピラリ14の先端でネブライザーガス(例えばN2ガス)と合流して、大気圧領域に霧化されつつ噴射される。また、ESIプローブ11の先端には噴射された液滴をイオン化するために数kV程度の高電圧が印加されている。この構成の場合、ESIプローブ11の先端に印加した高電圧が試料の上流側にリークしてイオン化ができなくなることがあり、分析が停止することがあった。また、試料を通して上流側に電流がリークすると、ESIプローブ11の上流側に配設されている金属配管部品を介して感電する可能性がある。本発明の目的は、高電圧のリークにより分析が停止することがなく、また感電が生起しないESIプローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、液体クロマトグラフと質量分析計との間に、液体クロマトグラフから溶離する液体試料をイオン化して質量分析計に導入するインターフェース部を備えたLC/MSに関し、前記インターフェース部に備えられたESIプローブにおいて、ESIプローブの入口に配設された試料導入用配管のジョイントとESIプローブの出口に配設された試料を噴霧するためのキャピラリとの間に配設され絶縁物にて構成されるチューブは、コイル状に形成され全長を長くし内部の試料の電気抵抗を大きくしたものである。したがって、キャピラリの先端に印加された高電圧のリークが減少し試料のイオン化が効率よく行われ分析が停止することはない。
また、ESIプローブの入口に配設され、試料導入用配管とチューブを接続するジョイントは、金属製とし、内部を流動する試料が質量分析計のアースに導通される手段を備えている。したがって、ジョイントより上流の試料にはキャピラリの先端に印加された高電圧の影響はなく、ESIプローブより上流の配管部品による感電の可能性はない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インターフェース部にESIプローブを備えたLC/MSにおいて、金属配管部品を介しての感電の可能性がなく、高電圧のリークの減少により常時効率よく試料のイオン化が行われ、質量分析の感度と効率を向上するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ESIプローブの出口に配設された試料を噴霧するためのキャピラリと該ESIプローブの入口に配設された試料導入用配管の金属製ジョイントの間は、PEEK樹脂製のチューブを含む配管部品で配管され絶縁されている。
【0012】
前記ESIプローブはLC/MSの全体構成上大きさに制約があり、ESIプローブ内部に配設された前記PEEK樹脂製のチューブは全長を長くするためESIプローブ内部で蛇行して載置されている。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を説明する。図1は本発明の構成を示す図である。1はESIプローブ、2は試料パイプ41とチューブ3を接続する金属製のジョイントで装置本体のアースに接続されている。チューブ3は樹脂製の絶縁物であってESIプローブ1内部に格納し、かつ全長を長くするためにコイル状に形成され、例えば全長400mmで直径0.08mmである。4はESIプローブ1の先端に配設されたキャピラリで、チューブ3とキャピラリ4はカプラー5で接続されている。試料パイプ41は液体クロマトグラフで分離された試料をESIプローブ1に導入するための試料導入用配管である。ESIプローブ1に入った試料は、チューブ3を通り、キャピラリ4の先端でネブライザーガス(例えばN2ガス)と合流して、大気圧領域に霧化されつつ噴射される。また、ESIプローブ1の先端には数kV程度の高電圧が印加されている。
【0014】
本発明は以上の構成であるから、従来のESIプローブ11と比較すると、長さでチューブ13の4倍、断面積で1/4となる。一般にチューブ中の試料の電気抵抗は長さに比例し断面積に反比例することから、チューブ3中の試料の電気抵抗はチューブ13の16倍である。ESIプローブ1における前記高電圧が試料の上流側にリークする量はESIプローブ11と比較し試料の電気抵抗の増大に伴い減少し、試料のイオン化が安定に行われる。また、ジョイント2は金属製であり、質量分析計のアースに接続されており、内部の試料は金属製のジョイント2に接触するところでアース電位となり、前記高電圧の影響はジョイント2より上流の試料に及ぶことはない。したがってESIプローブ1の上流側に配設されている金属配管部品を介しての感電は生じない。
【0015】
本発明のESIプローブ1は、LC/MSの構成部品として図3のESIプローブ43として配設され機能する。すなわち、液体クロマトグラフ20から試料パイプ41を経てESIプローブ43に導入される試料は、ESIプローブ43の先端のキャピラリでネブライザーガスと合流し、大気圧領域に霧化されつつ噴射される。また、ESIプローブ43の先端に印加されている高電圧により形成される強い不平等電界により霧化されつつ噴射された液滴の一部は荷電液滴となり、さらに、荷電液滴内でのイオンのクーロン反発力により液滴の分裂が進行してイオン化が行われ、その一部が細管44に入る。荷電液滴は細管44内でさらに微小化してイオン化が促進され、生成されたイオンが細管44から引き出されて質量分析計30に送られ、質量に応じて分離され質量分析される。
【0016】
図1に示す実施例においては、チューブが樹脂製であるが、絶縁物であれば樹脂以外の材料でも適用可能である。また、図示例では、チューブがコイル状に形成されているがESIプローブ内に格納できる長いチューブであれば折曲形でもよくその形状は限定されない。本発明はこれら変形例を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、LC/MSに関し、さらに詳しくは液体クロマトグラフと質量分析計とのインターフェース部に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の構成を示す図である。
【図2】従来のESIプローブの構成を示す図である。
【図3】LC/MSの一般的な構成を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ESIプローブ
2 ジョイント
3 チューブ
4 キャピラリ
5 カプラー
11 ESIプローブ
12 ジョイント
13 チューブ
14 キャピラリ
15 カプラー
20 液体クロマトグラフ
21 移動相
22 送液ポンプ
23 試料導入部
24 カラム
30 質量分析計
31 収束レンズ
32 四重極ロッド
33 ロータリーポンプ
34 ターボ分子ポンプ
35 ターボ分子ポンプ
40 インターフェース部
41 試料パイプ
42 エレクトロスプレイイオン化部
43 ESIプローブ
44 細管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフから溶離する液体試料をエレクトロスプレイプローブ(以下、ESIプローブ)によりイオン化して質量分析計に導入する液体クロマトグラフ質量分析計において、ESIプローブの入口に配設された試料導入用配管のジョイントとESIプローブの出口に配設された試料を噴霧するためのキャピラリとの間に配設されるチューブをコイル状に形成したことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析計。
【請求項2】
ESIプローブの入口に配設され試料導入用配管とチューブを接続するジョイントは、金属製とし、内部を流動する試料が質量分析計のアースに導通される手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフ質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−225454(P2007−225454A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47370(P2006−47370)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】