説明

液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置

【課題】負圧領域を備えたことにより液体中に在る物体表面に密着し且つ物体表面に沿って移動可能な装置において、該負圧領域が気体で満たされている装置を提供する。
【解決手段】環状の面Aを備える立体形状の第1領域と、面Aの内側に在る面Bを備える立体形状の第2領域と、面Aの外側に在る面Cを備える立体形状の第3領域とを具備する、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置において、面Aの外側および内側には外側および内側シール部材が、また面Cの外側には最外側シール部材が具備されており、該第1領域は該第1領域より気体を吸引する手段と連結され、該第2領域は該第2領域へ気体を供給する手段と連結され、該第3領域は該第3領域へ気体を供給する手段と連結されており、該第1領域の圧力は該第2領域の圧力よりも低く、該第1領域の圧力は該第3領域の圧力よりも低く、該第3領域の圧力は本発明の装置を包囲する液体の圧力よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に在る物体表面に密着しかつ物体表面に沿って移動することのできる、物体表面に密着し移動可能な装置に関する。
本発明は、さらに上記の装置において、物体表面を気体のみに接触せしめる気体領域を具備し、該気体領域において物体表面に対して作用を施す装置を具備する、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置に関する。
本発明は、さらに上記の装置の気体領域が不活性ガスで満たした気体領域である、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置に関する。
本発明の装置に具備される物体表面に対して作用を施す装置として、先ずアーク溶射装置を考えることができる。ただし、アーク溶射装置に限定されることはない。アーク溶射装置は、種々あるサーマルスプレー装置の中のひとつの装置である。一般に、サーマルスプレー装置とは、金属のごとき溶融材料としてのワイヤまたは粒子を溶融して微細化しかつ噴霧して物体表面にコーティングを形成する装置である。サーマルスプレー装置においては、1または2本のワイヤまたは粉末が送給材料に使用されることができ、そして加熱はアークまたは燃焼炎によっている。
本発明の装置に搭載される物体表面に作用を施す装置としては、サーマルスプレー装置の他にも、溶接装置のように溶融した材料を付着させる装置、プラスチックシートの貼付け装置、塗料や接着剤の吹付け装置、あるいは物体表面に熱処理を施す装置など種々の装置を適用することができる。これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が気体と接することにより、液体と接する場合と比較して、優れた作用効果を発揮する。
また、これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が不活性ガスから成る気体と接することにより、さらに優れた作用効果を発揮する。
【背景技術】
【0002】
内部に負圧が生成されることによって物体表面に吸着し且つ物体表面に沿って移動する装置としては、以下に記載の装置を一例として挙げることができる。
船舶、ビルディング等の傾斜した又は実質上垂直な種々の物体表面に吸着して移動することができる装置として、例えば特公昭60−26752号公報(米国特許第4,095,378号明細書及び図面)に開示された装置を挙げることができる。
かかる装置は、メインケーシングと、該メインケーシングに装着された移動手段としての車輪と、該メインケーシングに連結されその自由端部が物体表面に接触せしめられるシール部材と、該メインケーシング、物体表面及び該シール部材によって規定された負圧領域の内部の流体を外部に排出するための負圧生成手段とを具備している。かかる装置においては、負圧生成手段が付勢されると負圧領域の内部の流体が外部に排出され、負圧領域内外の流体圧力差に起因してメインケーシングに作用する流体圧力は車輪を介して物体表面に伝達され、かかる流体圧力によって装置が物体表面に吸着される。また、かかる吸着状態において電動モ−タの如き駆動手段によって車輪を回転駆動せしめると、上記車輪の作用によって装置は物体表面に沿って移動する。また、かかる装置には、負圧領域の内部の物体表面に向け研掃材を噴射する研掃材噴射手段の如き作業装置が装着されており、物体表面上における種々の作業をリモートコントロールにて安全にかつ効率的に行うことができる。
次に、液体中に在る物体表面に密着しかつ物体表面に沿って移動しながら該物体表面に作用を施す装置としては、本発明者が、特許公開2003−285782号公報にて提案した下記の装置を挙げることができる。
かかる装置は、物体表面を気体のみに接触せしめる二つの気体領域を具備し、かつ該気体領域に物体表面に作用を施す装置を具備している。
かかる装置の構成について述べると、外側のケーシングと内側のケーシングとを少なくとも具備したメインケーシングと;該外側のケーシングの開口部に装着されその一部分が物体表面に接触せしめられる外側シール部材と;該内側のケーシングの開口部に装着されその一部分が物体表面に接触せしめられる内側シール部材と;該メインケーシングと物体表面との距離を任意の距離に維持しかつ物体表面に沿って移動可能な手段;とを具備する、液体中に在る物体表面に密着しながら物体表面に沿って移動可能な装置において、少なくとも該外側のケーシングと該外側シール部材と該内側シール部材とが物体表面と協働して第1領域を規定し、また、少なくとも該内側のケーシングと該内側シール部材とが物体表面と協働して規定した第2領域を具備している。
【特許文献1】特公昭60−26752号公報
【特許文献2】特許公開2003−285782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
而して、特公昭60−26752号公報に開示された装置を液面下で使用する場合には次の通りの解決すべき問題が存在する。
第1の問題として、液面下に在る物体表面に対し、例えば圧縮空気を利用して研掃材を噴射し、よって物体表面に粗面を形成したのち、使用済みの研掃材を陸上に設置された回収容器まで空気流を利用して吸引回収する場合においては、研掃材の噴射領域に液体の侵入は禁物である。また、研掃材の噴射作業と同じく、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う種々の作業がある。例えば、サーマルスプレー装置、溶接装置のように溶融した材料を付着させる装置、プラスチックシートの貼付け装置、塗料や接着剤の吹付け装置、あるいは物体表面に熱処理を施す装置などの装置を使用した作業は、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う。これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が気体と接することにより、液体と接する場合と比較して、優れた作用効果を発揮するものである。
以上のような、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う作業を液面下で実施する装置においては、液体が侵入することが無く且つ気体で満たされた領域を具備する必要がある。
第2の問題として、以上のように、液面下に在る装置が気体で満たされた領域を具備する場合、深度が深くなるにつれ液圧が増大するので、該液圧が増大しても該気体で満たされた領域の圧力と該液圧との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力を制御する必要がある。仮に、該液圧が該気体で満たされた領域の圧力より非常に大きいと、該気体で満たされた領域を該液圧が物体表面へ非常に強く押し付けるので、装置が物体表面に沿って移動するために非常に大きな力を必要とする。
第3の問題として、研掃材の噴射など該気体で満たされた領域へ圧縮気体を噴出する場合においては、該気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が一定になるように圧縮気体の圧力を制御する必要がある。仮に、該気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が小さくなると圧縮気体の流量が減少するので、該圧縮気体を利用して物体表面に作用を施す場合においては該作用が不完全となる。
次に、特許公開2003−285782号公報に開示された装置を液面下で使用する場合には次の通りの解決すべき問題が存在する。
例えば、特許公開2003−285782号公報に開示された装置のように、第2領域に物体表面に対してブラストクリーニングを施す装置を具備し、かつ第1領域に物体表面に対してサーマルスプレーイングを施す装置を具備したことにより、ブラストクリーニングを実施したあと直ちにサーマルスプレーイングを実施する装置においては、ブラストクリーニングの処理速度とサーマルスプレーイングの処理速度を同一にする必要がある。一般に、ブラストクリーニングの処理速度はサーマルスプレーイングの処理速度の約5分の1であるので、ブラストクリーニングの処理速度とサーマルスプレーイングの処理速度を同一にするのは不可能ではないが装置の調整が非常に困難である。
よって、ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置は別々の装置にしたほうが装置の調整が簡単であり、よって再現性の向上に起因して実用性が向上した装置を提供することが出来る。
なお、ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置を別々の装置にした場合においては、サーマルスプレーイングを施される物体表面は該施工の直前に完全に清浄化される必要がある。ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置を別々の装置にした場合においては、例えば海面下に在る物体表面は装置によりブラストクリーニングを施された後に海水と接することになるが、該ブラストクリーニングを施された物体表面が別の装置によりサーマルスプレーイングを施される場合においては、該物体表面は該施工の直前に例えば清水の噴射により塩分を除去されかつ乾燥される必要がある。
特許公開2003−285782号公報に開示された装置においては、かかる装置の第2領域に清水の噴射により物体表面の塩分を除去しかつ乾燥させる装置を具備し、かつ第1領域にサーマルスプレーイングを施す装置を具備することが可能であるが、該塩分を除去しかつ乾燥させる装置と該サーマルスプレーイングを施す装置との相対的な位置関係を工夫する必要があるために装置の設計上の制約が大きい。該設計上の制約を具体的に述べると、ブラストクリーニングを施された物体表面において塩分を除去しかつ乾燥させる装置が通過した後にサーマルスプレーイングを施す装置が通過するように装置を設計する必要があり、特許公開2003−285782号公報に開示されているように、サーマルスプレーイングを施す装置の移動機構が複雑となる。
また、特許公開2003−285782号公報に開示された装置においては、かかる装置の第1領域においてサーマルスプレーイングが実施されるために、サーマルスプレーイングの際に発生する粉塵の一部が装置の外部に漏洩し、装置を包囲する液体を粉塵汚染する。例えば、原子力施設における核燃料貯蔵プールの水面下の壁面に対してサーマルスプレーイングを施す場合においては、該粉塵が純水中に漏洩するので好ましくない。
【0004】
従って、本発明の技術的解決課題は次のとうりである。
先ず、特公昭60−26752号公報に開示された装置に関わる上述の第1の問題について、その技術的解決課題は、気体で満たされた領域を具備する液面下の物体表面に密着し移動可能な装置を提供することである。
次に、特公昭60−26752号公報に開示された装置に関わる上述の第2乃び第3の問題について、その技術的解決課題と該課題を解決するための手段については特許公開2003−285782号公報に開示されているので説明を省略する。
次に、特許公開2003−285782号公報に開示された装置に関わる問題について、その技術的解決課題は、
かかる装置の第1領域の外側に第3領域を配置し、該第3領域の気体の圧力を装置を包囲する液体の圧力よりも高圧にせしめ、該第1領域の気体の圧力を装置を包囲する液体の圧力よりも低圧にせしめ、該第1領域の気体の圧力を該第2領域の気体の圧力よりも低圧にせしめ、該第2領域の気体の圧力を装置を包囲する液体の圧力よりも低圧にせしめ、而して、該第1領域と該第2領域の気体の一部が、最外側シール部材と物体表面との間の隙間を通って装置の外部へ流出しないように構成した、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置を提供することである。
以上に、物体表面に密着し移動可能な装置において、従来技術の問題点を指摘し、本発明が解決しようとする課題を述べた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
先ず、特公昭60−26752号公報に開示された装置に関わる上記の技術的解決課題と、特許公開2003−285782号公報に開示された装置に関わる上記の技術的解決課題を達成するために、本発明によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載されているように、
環状の面Aを備える立体形状の第1領域と、面Aの内側に在る面Bを備える立体形状の第2領域と、面Aの外側に在る面Cを備える立体形状の第3領域とを具備する、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置において、
面Aは該物体表面と該第1領域との境界面であり、面Bは該物体表面と該第2領域との境界面であり、面Cは該物体表面と該第3領域との境界面であり、
面Aの外側の境界線を規定する部分には外側シール部材が具備されており、面Aの内側の境界線を規定する部分には内側シール部材が具備されており、面Cの外側の境界線を規定する部分には最外側シール部材が具備されており、
該第1領域は該第1領域より気体を吸引する手段と連結されており、該第2領域は該第2領域へ気体を供給する手段と連結されており、該第3領域は該第3領域へ気体を供給する手段と連結されており、
該第1領域の圧力は該第2領域の圧力よりも低くすなわち該第1領域は該第2領域の下流側に位置しており、該第1領域の圧力は該第3領域の圧力よりも低くすなわち該第1領域は該第3領域の下流側に位置しており、該第3領域の圧力は本発明の装置を包囲する液体の圧力よりも高くすなわち該第3領域は本発明の装置を包囲する液体の上流側に位置しており、
該第2領域へ供給された気体は該第1領域に至り、該第3領域へ供給された気体は該第1領域及び本発明の装置を包囲する液体の領域に至り、該第2領域及び該第3領域より該第1領域へ流入した気体は該吸引手段まで吸引移送される、ことを特徴とする、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置が提供される。
また、特許請求の範囲の請求項2に記載されているように、該外側シール部材は、該第3領域に在る気体の圧力と該第1領域に在る気体の圧力との差圧により物体表面に押し付けられる形状を具備しており、また、該内側シール部材は、該第2領域に在る気体の圧力と該第1領域に在る気体の圧力との差圧により物体表面に押し付けられる形状を具備しており、該最外側シール部材は、装置を包囲する液体の圧力と該第3領域に在る気体の圧力との差圧により物体表面に押し付けられる形状を具備している、ことを特徴とする、請求項1に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置が提供される。
また、特許請求の範囲の請求項3に記載されているように、該第2領域へ不活性ガスを流入せしめる手段を備えた、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項2に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置が提供される。
また、特許請求の範囲の請求項4に記載されているように、該第2領域もしくは該第3領域において、物体表面を洗浄するための水などの洗浄材料を噴射する手段を備えた、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置が提供される。
【0006】
本発明において、第3領域の気体の圧力は装置を包囲する液体の圧力よりも高い圧力に維持されており、第1領域の気体の圧力は装置を包囲する液体の圧力よりも低い圧力に維持されており、第1領域の気体の圧力は第2領域の気体の圧力よりも低い圧力に維持されており、第2領域の気体の圧力は装置を包囲する液体の圧力よりも低い圧力に維持されているので、負圧の作用により装置は物体表面へ密着し、しかも、装置の外部の液体が第1領域、第2領域及び第3領域へ侵入するのが阻止されるとともに、第1領域と第2領域の気体の一部が、最外側シール部材と物体表面との間の隙間を通って装置の外部へ流出することも阻止される。
なお、装置の外部より第3領域へ、気体の圧力制御機構とフレキシブルホースを介して、気体が送気されており、また、装置の外部より第2領域へ、気体の圧力制御機構とフレキシブルホースを介して、気体が送気されており、一方、第1領域には、フレキシブルホースを介してルーツ式真空ポンプなどの負圧生成手段が連結されている。
また、例えば、装置の外部より第3領域へ、フレキシブルホースを介して、物体表面の塩分を洗浄するための清水が圧送されている。
第3領域へ流入した気体と清水の一部は最外側シール部材と物体表面との間の隙間より装置の外部へ流出するのでこの際に装置の外部の液体が第3領域へ流入するのを阻止し、第3領域へ流入した気体と清水の残りの全量は外側シール部材と物体表面との間の隙間より第1領域へ流入し、第2領域へ流入した気体は内側シール部材と物体表面との間の隙間より第1領域へ高速にて流入するのでこの高速気体の作用により物体表面に付着した液体を乾燥せしめ、第1領域へ流入した気体と清水は、フレキシブルホースを通って負圧生成手段へ至る気体の流れに乗り、続いて負圧生成手段まで吸引移送される。
また、装置と物体表面との距離を任意の距離に維持しかつ物体表面に沿って移動する手段により、装置は液体中に在る物体表面に密着しながら物体表面に沿って移動する。
また、深度が深くなるにつれ装置を包囲する液体の圧力が増大しても、該液体の圧力と気体で満たされた領域の圧力との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力が制御される。
また、気体で満たされた領域へ圧縮気体を噴出する場合においては、該気体で満たされた領域の圧力と該圧縮気体の圧力との差圧が一定になるように該圧縮気体の圧力が制御される。
【発明の効果】
【0007】
本発明は下記の効果をもたらすものである。
液面下に在る物体表面に対し、例えば圧縮空気を利用して研掃材を噴射し、よって物体表面に粗面を形成したのち、使用済みの研掃材を陸上に設置された回収容器まで空気流を利用して吸引回収する場合においては、研掃材の噴射領域に液体の侵入は禁物である。また、研掃材の噴射作業と同じく、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う種々の作業がある。例えば、サーマルスプレー装置、溶接装置のように溶融した材料を付着させる装置、プラスチックシートの貼付け装置、塗料や接着剤の吹付け装置、あるいは物体表面に熱処理を施す装置などの装置を使用した作業は、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う。
以上のような、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う作業を液面下で実施する装置においては、液体が侵入することが無く且つ気体で満たされた領域を具備する必要があるが、本発明の装置においては、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を阻止する機構を具備した。
これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が気体と接することにより、液体と接する場合と比較して、優れた作用効果を発揮するものである。
また、これらの装置の一部においては、作用を施す対象の物体表面が酸素濃度の低い不活性ガスから成る気体と接することにより、さらに優れた作用効果を発揮する。
例えば、サーマルスプレー装置や溶接装置においては、不活性ガスから成る気体の中で溶融作業が実施されることにより溶融物質の酸化が抑制されるので、品質が向上するといった利点がある。
また、液面下に在る装置本体が気体で満たされた領域を具備する場合、深度が深くなるにつれ液圧が増大するので、該液圧が増大しても該気体で満たされた領域の圧力と該液圧との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力を制御する必要がある。仮に、該液圧が該気体で満たされた領域の圧力より非常に大きいと、該気体で満たされた領域を該液圧が物体表面へ非常に強く押し付けるので、装置が物体表面に沿って移動するために非常に大きな力を必要とする。
本発明の装置においては、深度が深くなるにつれ液圧が増大しても該気体で満たされた領域の圧力と該液圧との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力を制御した。
また、研掃材の噴射など該気体で満たされた領域へ圧縮気体を噴出する場合においては、該気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が一定になるように圧縮気体の圧力を制御する必要がある。仮に、該気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が小さくなると圧縮気体の流量が減少するので、該圧縮気体を利用して物体表面に作用を施す場合においては該作用が不完全となる。
本発明の装置においては、気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が一定になるように圧縮気体の圧力を制御した。
本発明のさらなる効果について述べると、ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置は別々の装置にしたほうが装置の調整が簡単でありよって再現性の向上に起因して実用性が向上するが、ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置を別々の装置にした場合においては、サーマルスプレーイングを施される物体表面は該施工の直前に完全に清浄化される必要がある。例えば海面下に在る物体表面は装置によりブラストクリーニングを施された後に海水と接することになるが、該ブラストクリーニングを施された物体表面が別の装置によりサーマルスプレーイングを施される場合においては、該物体表面は該施工の直前に例えば清水の噴射により塩分を除去されかつ乾燥される必要がある。
本発明においては、洗浄材料の噴射により物体表面の塩分を除去しかつ乾燥させる装置を具備しており、その装置の構成も簡単であるので、より実用性の高い装置を提供することができる。
また本発明においては、サーマルスプレーイングの際に発生する粉塵の一部が装置の外部に漏洩することが無いので環境保全にも寄与する。
【実施例】
【0008】
以下、本発明に従って構成された装置の好適実施例について、添付図を参照して更に詳細に説明する。
図1、図2、図4および図5を参照して説明すると、図1と図2に図示の装置は、水深がごく浅い水中に在る物体表面1に密着しており、図1において図の左方向もしくは右方向に移動する。
図示の装置はメインケーシングを具備しており、該メインケーシングは剛性材料を素材とし、外周側の円筒状パーティション21と、内周側の円筒状パーティション22と、背面側の円板状パーティション23と、円筒状パーティション21の開口部の外周縁部に溶着された環状の円板部212と、円筒状パーティション22の開口部の外周縁部に溶着された環状の円板部222、により構成されている。
外周側の筒状パーティション21の対向する両側面には、それぞれ2個の車輪41を備えた一対の剛性材料を素材とする走行フレーム4が固定されている。
環状の円板部212の外周縁部には、例えばポリウレタンゴム、プラスチック等の比較的柔軟な材料を素材とする最外側シール部材33がボルト、ナットにて装着されている。最外側シール部材33は、全体の形状が略円環状を成し、その自由端部が物体表面1に沿って装置の内側へ延びた形状をしている。この形状により、最外側シール部材33は該シール部材の内側に在る流体の圧力により物体表面1に押し付けられる。すなわち、最外側シール部材33の形状はいわゆるセルフシールの形状を成している。
環状の円板部212の内周縁部には、例えばポリウレタンゴム、プラスチック等の比較的柔軟な材料を素材とする外側シール部材31がボルト、ナットにて装着されている。外側シール部材31は、全体の形状が略円環状を成し、その自由端部が物体表面1に沿って装置の外側へ延びた形状をしている。この形状により、外側シール部材31は外側シール部材31の外側に在る流体の圧力により物体表面1に押し付けられる。すなわち、外側シール部材31の形状はいわゆるセルフシールの形状を成している。
環状の円板部222には、例えばポリウレタンゴム、プラスチック等の比較的柔軟な材料を素材とする内側シール部材32がボルト、ナットにて装着されている。内側シール部材32は、全体の形状が略円環状を成し、その自由端部が物体表面1に沿って装置の内側へ延びた形状をしている。この形状により、内側シール部材32は内側シール部材32の内側に在る流体の圧力により物体表面1に押し付けられる。すなわち、内側シール部材32の形状はいわゆるセルフシールの形状を成している。
円板部212、最外側シール部材33、外側シール部材31は物体表面1と協働して環状の第3領域13を規定している。
円筒状パーティション21、円筒状パーティション22、外側シール部材31、内側シール部材32、背面側の円板状パーティション23は物体表面1と協働して環状の第1領域11を規定している。
また、円筒状パーティション22、内側シール部材32、背面側の円板状パーティション23は物体表面1と協働して第2領域12を規定している。
すなわち、立体形状の第3領域は、物体表面1と第3領域13との境界面である面Cを備えており、立体形状の第1領域は、物体表面1と第1領域11との境界面である面Aを備えており、立体形状の第2領域は、物体表面1と第2領域12との境界面である面Bを備えている。
【0009】
背面側の円板状パーティション23には、物体表面1に作用を施す装置の一例として、第2領域12の内部の物体表面1に溶射を施すためのアーク溶射ガン82が装着されている。
図3を参照して、公知であるアーク溶射ガン82の構成を以下に述べる。
亜鉛やアルミニウムなどの金属を素材とする2本の溶射用線材821(以下、ワイヤ821と呼称する)は、ワイヤリールを備えたワイヤ送給装置(図示せず)により、フレキシブルコンディット828(フレキシブル導管)の中を通ってアーク溶射ガン82へ送給され、アーク溶射ガン82の内部においては、ワイヤ821はワイヤノズル822へ送給される。ワイヤノズル822の一部に交流または直流を通電する通電端子を設け(図示せず)、それぞれのワイヤ821はワイヤノズル822を介して通電される。ワイヤ821はワイヤノズル822を出た所で交差接触してアークを発生させる。このとき、ワイヤ821はアーク熱により瞬間的に加熱溶融して細粒となり、二つのワイヤノズル822の中間にあるガスノズル823から噴出する圧縮空気などの圧縮気体の作用により微粒化し(霧状にされ)かつ冷却されながら飛散して物体表面1に衝突し、金属溶射被膜を形成する。
アーク溶射ガン82に連結された2本のフレキシブルコンディット828の上流側のそれぞれの端部に具備された圧縮空気入口829は、フレキシブルコンディット828の内部及びフレキシブルコンディット828に連通されたアーク溶射ガン82の内部を加圧するために、下流側から順に、流量調整弁(図示せず)及びエアコンプレッサ(図示せず)に連結されている。アーク溶射ガン82の内部の圧力は、第1領域11の圧力と同圧か、もしくはアーク溶射ガン82の内部の圧力が第1領域11の圧力より高めに維持されるように、リリーフ弁(図示せず)が具備されている。
アーク電流は、一般に、数百アンペア程度である。アーク溶射装置において、ワイヤ821及びワイヤノズル822と接触するガンケーシング826などの部材は硬いプラスチツクのごとき電気絶縁材料から形成される。ワイヤ送給機構(図示せず)の方式またはワイヤ送給装置(図示せず)の配置は本発明には重要ではなく、そして他の適切な通常のまたは他の所望の機構が使用され得る。また、ワイヤ送給機構は公知のようにアーク溶射ガン82の内部に配置することもできる。
本発明のための、アーク溶射装置の上述したような態様、構造上の詳細は重要でなくかつ本発明の実施例に限定される必要はない。他の形状が使用され得る。
なお、本発明の装置に搭載される物体表面1に作用を施す装置はアーク溶射装置に限定されない。アーク溶射装置は、種々あるサーマルスプレー装置(溶射装置)の中のひとつの装置である。一般に、サーマルスプレー装置とは、金属のごとき溶融材料としてのワイヤまたは粒子を溶融して微細化しかつ噴霧して物体表面にコーティングを形成する装置である。サーマルスプレー装置においては、1本または2本のワイヤまたは粉末が送給材料に使用されることができ、そして加熱はアークまたは燃焼炎によっている。
さらに、本発明の装置に搭載されて物体表面に作用を施す装置としては、サーマルスプレー装置の他にも、溶接装置のように溶融した材料を付着させる装置、プラスチックシートの貼付け装置、塗料や接着剤の吹付け装置、研掃材の噴射装置、あるいは物体表面に熱処理を施す装置など種々の装置を適用することができる。これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が気体と接することにより、液体と接する場合と比較して、優れた作用効果を発揮する。
また、これらの装置の一部においては、作用を施す対象の物体表面が酸素濃度の低い不活性ガスから成る気体と接することにより、さらに優れた作用効果を発揮する。
例えば、サーマルスプレー装置や溶接装置においては、不活性ガスから成る気体の中で溶融作業が実施されることにより溶融物質の酸化が抑制されるので、品質が向上するといった利点がある。
【0010】
背面側の円板状パーティション23に溶着された、第1領域11に連通する接続継手211はホース961を介して下流側に在るサイクロン963の入口に連結され、サイクロン963の出口は圧力調整弁92bの上流側弁室931の接続継手922に連結され、圧力調整弁92bの下流側弁室932の接続継手923はホース962を介してさらに下流側に在る真空ポンプ96の入口に連結されている。
ルーツ式真空ポンプ96は十分な吸引風量且つ十分な吸引圧力を具備しており、また、過大な真空の発生によりルーツ式真空ポンプ96が焼き付かないように、過大な真空が発生した場合には自動的に外気を吸入して真空度を低下させる機能を有するバキュームブレーカ863がルーツ式真空ポンプ96の入口に具備されている。
本発明の実施例の装置においては、使用される真空ポンプ96の最大吸込み圧力を絶対圧力にて約0.35kgf/cm2 と仮定する。また、第1領域11の絶対圧力:Pa kgf/cm2 については、気体がホース961を通って吸引移送される際に圧力損失が発生するためPaの値は約0.62と仮定する。
サイクロン963の下部には、サイクロン963の内部にて捕集された物質を外部へ排出するためのロータリフィーダ964が装着されている。
【0011】
背面側の円板状パーティション23に溶着された、第2領域12に連通する接続継手221はホース952を介して上流側に在る圧力調整弁92の下流側弁室932の接続継手923に連結され、圧力調整弁92の上流側弁室931の接続継手922はホース951を介してさらに上流側に在る可変容量形の気体供給ポンプ95の出口に連結されている。
気体供給ポンプ95の入口は、大気を取り込むために大気中に開放されているか、もしくは、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスなどの酸素濃度の低い不活性の気体を発生させる装置97に連結されている。
本発明の実施例の装置においては、使用される気体供給ポンプ95の最大吐出し圧力を絶対圧力にて約12kgf/cm2 と仮定する。また、上流側弁室931の絶対圧力:Pc kgf/cm2 については、気体が口径の小さいホース951を通って移送される際にかなりの圧力損失が発生するためPcの値は約4と仮定する。
【0012】
円板部212に溶着された、第3領域13に連通する接続継手213はホース952を介して上流側に在る圧力調整弁92cの下流側弁室932の接続継手923に連結され、圧力調整弁92cの上流側弁室931の接続継手922はホース951を介してさらに上流側に在る可変容量形の気体供給ポンプ95cの出口に連結されている。
気体供給ポンプ95cの入口は、大気を取り込むためにエアフィルタを介して大気中に開放されている。
本発明の実施例の装置においては、使用される気体供給ポンプ95cの最大吐出し圧力を絶対圧力にて約12kgf/cm2 と仮定する。また、上流側弁室931の絶対圧力:Pcckgf/cm2 については、気体が口径の小さいホース951を通って移送される際にかなりの圧力損失が発生するためPccの値は約4と仮定する。
物体表面1に付着する塩分を洗浄する目的のために物体表面1に向けて清水などの洗浄水を噴射する洗浄ノズル99は、第3領域13に在る円板部212に固定されており、洗浄ノズル99はホース(図示せず)を介して洗浄水ポンプ(図示せず)に連結されている。
【0013】
圧力調整弁92の詳細について述べると、圧力調整弁92のケーシング921は、大別すると、弁板収納室と弁板駆動室の2つの部屋に区分されている。該弁板収納室の内部においては、円板状の弁板927が駆動ロッド926により下降させられて直径Dacm の弁穴931を塞ぎ、上昇させられて弁穴931を開く。弁板927が弁穴931を塞いでいる時、該弁板収納室は上流側弁室931と下流側弁室932の2室に区分される。なお、本実施例の図面においては上流側弁室931と弁穴931は同一の部分である。
該弁板駆動室の内部においては、円形の膜状のダイヤフラム929が該弁板駆動室をパイロット圧力室933と上流側圧力室934の2室に区分している。弁板927が弁穴931を塞いでいる時、ダイヤフラム929は直径Dbcm の円板状のピストン928を下方に押している。円板状のピストン928には駆動ロッド926が固定されている。
上流側弁室931の接続継手922と上流側圧力室934の接続継手925はホースにて連結されているので、上流側弁室931と上流側圧力室934の圧力は同一である。また、弁穴931の直径Dacmとピストン928の直径Dbcm が同一寸法の時、弁板927を上方へ押して弁穴931を開けようとする力Fcとピストン928を下方へ押して弁穴931を塞ごうとする力Fdは釣り合っている。
パイロット圧力室933の接続継手924はホース942を介してその上流側に在るリリーフ付き減圧弁943とさらにその上流側に在るエアコンプレッサ94に連結されている。
パイロット圧力室933の絶対圧力:Px kgf/cm2 は、減圧弁943により設定されるものであるが、Pxの値は0以上の任意の正の値を選択することができる。ただし、パイロット圧力室933の絶対圧力を大気圧(絶対圧力:1.0332kgf/cm2 )よりも低い圧力にしたい場合には、Pxの値は1.0332よりも小さい値でなければならない。
パイロット圧力室933の絶対圧力:Px kgf/cm2 はピストン928を上方へ押して弁穴931を開けようとする力Fxを発生させる。また、下流側弁室932すなわち第2領域12の絶対圧力:Pb kgf/cm2 は弁板927を下方へ押して弁穴931を塞ごうとする力Fbを発生させる。なお、本発明の実施例の装置においては、弁穴931の直径Dacmとピストン928の直径Dbcm は同一寸法である。よって、Pb<Pxの時に弁板927が開となり、Pb>Pxの時に弁板927が閉となる。
本発明の実施例の装置において、第2領域12の絶対圧力:Pb kgf/cm2 のPbの標準的な値を約0.65と仮定すると、第2領域12の絶対圧力を0.65 kgf/cm2 に維持するためにパイロット圧力室933の絶対圧力:Px kgf/cm2
は0.65 kgf/cm2 に設定される。すなわち、Pb<0.65の時に弁板927が開となり、Pb>0.65の時に弁板927が閉となる。
【0014】
圧力調整弁92cの詳細について述べる。
圧力調整弁92cは圧力調整弁92と同一の構造を有しているので図4を参照して説明を行う。
圧力調整弁92cのケーシング921は、大別すると、弁板収納室と弁板駆動室の2つの部屋に区分されている。該弁板収納室の内部においては、円板状の弁板927が駆動ロッド926により下降させられて直径Dacm の弁穴931を塞ぎ、上昇させられて弁穴931を開く。弁板927が弁穴931を塞いでいる時、該弁板収納室は上流側弁室931と下流側弁室932の2室に区分される。なお、本実施例の図面においては上流側弁室931と弁穴931は同一の部分である。
該弁板駆動室の内部においては、円形の膜状のダイヤフラム929が該弁板駆動室をパイロット圧力室933と上流側圧力室934の2室に区分している。弁板927が弁穴931を塞いでいる時、ダイヤフラム929は直径Dbcm の円板状のピストン928を下方に押している。円板状のピストン928には駆動ロッド926が固定されている。
上流側弁室931の接続継手922と上流側圧力室934の接続継手925はホースにて連結されているので、上流側弁室931と上流側圧力室934の圧力は同一である。また、弁穴931の直径Dacmとピストン928の直径Dbcm が同一寸法の時、弁板927を上方へ押して弁穴931を開けようとする力Fcとピストン928を下方へ押して弁穴931を塞ごうとする力Fdは釣り合っている。
パイロット圧力室933の接続継手924はホース942を介してその上流側に在るリリーフ付き減圧弁943cとさらにその上流側に在るエアコンプレッサ94に連結されている。
パイロット圧力室933の絶対圧力:Pxckgf/cm2 は、減圧弁943cにより設定されるものであるが、Pxcの値は0以上の任意の正の値を選択することができる。ただし、パイロット圧力室933の絶対圧力を大気圧(絶対圧力:1.0332kgf/cm2 )よりも低い圧力にしたい場合には、Pxcの値は1.0332よりも小さい値でなければならない。
パイロット圧力室933の絶対圧力:Pxckgf/cm2 はピストン928を上方へ押して弁穴931を開けようとする力Fxを発生させる。また、下流側弁室932すなわち第3領域13の絶対圧力:Pbckgf/cm2 は弁板927を下方へ押して弁穴931を塞ごうとする力Fbを発生させる。なお、本発明の実施例の装置においては、弁穴931の直径Dacmとピストン928の直径Dbcm は同一寸法である。よって、Pbc<Pxcの時に弁板927が開となり、Pbc>Pxcの時に弁板927が閉となる。
本発明の実施例の装置において、第3領域13の絶対圧力:Pbckgf/cm2 のPbcの標準的な値を約1.06と仮定すると、第3領域13の絶対圧力を1.06 kgf/cm2 に維持するためにパイロット圧力室933の絶対圧力:Pxckgf/cm2 は1.06 kgf/cm2 に設定される。すなわち、Pbc<1.06の時に弁板927が開となり、Pbc>1.06の時に弁板927が閉となる。
【0015】
次に、圧力調整弁92bの詳細について述べる。
圧力調整弁92bは圧力調整弁92と同一の構造を有しているので図4を参照して説明を行うが、圧力調整弁92bの各部の名称と各接続継手の接続先は圧力調整弁92とは多少異なっている。
圧力調整弁92bのケーシング921は、大別すると、弁板収納室と弁板駆動室の2つの部屋に区分されている。該弁板収納室の内部においては、円板状の弁板927が駆動ロッド926により下降させられて直径Dacm の弁穴931を塞ぎ、上昇させられて弁穴931を開く。弁板927が弁穴931を塞いでいる時、該弁板収納室は上流側弁室931と下流側弁室932の2室に区分される。なお、本実施例の図面においては上流側弁室931と弁穴931は同一の部分である。
該弁板駆動室の内部においては、円形の膜状のダイヤフラム929が該弁板駆動室をパイロット圧力室934と下流側圧力室933の2室に区分している。弁板927が弁穴931を塞いでいる時、ダイヤフラム929は直径Dbcm の円板状のピストン928を下方に押している。円板状のピストン928には駆動ロッド926が固定されている。
下流側弁室932の接続継手923と下流側圧力室933の接続継手924はホースにて連結されているので、下流側弁室932と下流側圧力室933の圧力は同一である。
また、弁穴931の直径Dacmとピストン928の直径Dbcm が同一寸法の時、弁板927を上方へ押して弁穴931を開けようとする力Fcとピストン928を下方へ押して弁穴931を塞ごうとする力Fdは釣り合っている。
パイロット圧力室934の接続継手925はホース942bを介してその上流側に在るリリーフ付き減圧弁943bとさらにその上流側に在るエアコンプレッサ94に連結されている。
パイロット圧力室934の絶対圧力:Px kgf/cm2 は、減圧弁943bにより設定されるものであるが、Pxの値は0以上の任意の正の値を選択することができる。ただし、パイロット圧力室933の絶対圧力を大気圧(絶対圧力:1.0332kgf/cm2 )よりも低い圧力にしたい場合には、Pxの値は1.0332よりも小さい値でなければならない。
パイロット圧力室934の絶対圧力:Px kgf/cm2 はピストン928を下方へ押して弁穴931を閉じようとする力Fdを発生させる。また、下流側弁室932すなわち第1領域11の絶対圧力:Pa kgf/cm2 は弁板927を下方へ押して弁穴931を塞ごうとする力Fbを発生させる。なお、本発明の実施例の装置においては、弁穴931の直径Dacmとピストン928の直径Dbcm は同一寸法である。よって、Pa<Pxの時に弁板927が閉となり、Pa>Pxの時に弁板927が開となる。
本発明の実施例の装置において、ホース961の圧力損失を無視した場合において、第1領域11の絶対圧力:Pa kgf/cm2 のPaの標準的な値を約0.62と仮定すると、第1領域11の絶対圧力を0.62 kgf/cm2 に維持するためにパイロット圧力室934の絶対圧力:Px kgf/cm2
は0.62 kgf/cm2 に設定される。すなわち、Pa<0.62の時に弁板927が閉となり、Pa>0.62の時に弁板927が開となる。
【0016】
次に、上述した本発明の好適実施例の装置の作用効果について説明する。
真空ポンプ96が作動すると、第1領域11の内部の流体が下流側に吸引され、第1領域11が所要の通り減圧される(第1領域11の絶対圧力:Pa=0.62kgf/cm2 )。かく第1領域11が減圧されると、装置を包囲している水の圧力(絶対圧力:Po=1.0332kgf/cm2 )が第1領域11の内外の圧力差(Po−Pa=0.4132kgf/cm2 )に起因して第1領域11を物体表面1の方向に押し付け、該押し付け力は4個の車輪41を介して物体表面1に伝達され、かくして装置は物体表面1に吸着するとともに、車輪41をギヤードモータ(図示せず)などの駆動手段により回転駆動せしめると装置は物体表面1に沿って移動する。
なお、第3領域13の内部の圧力が所望の圧力に維持されている時、第3領域13の内部の気体が第3領域13の内外の圧力差に起因して最外側シール部材33の自由端部を物体表面1の方向に押し付け、装置を包囲する液体が第3領域13の内部に流入するのを阻止する。
また、第1領域11の内部の圧力が所望の圧力に維持されている時、第3領域13の内部の気体が該第3領域と該第1領域の圧力差に起因して外側シール部材31の自由端部を物体表面1の方向に押し付け、第3領域13の内部の気体が第1領域11の内部に流入するのを極力阻止する。
また、第1領域11の内部の圧力が所望の圧力に維持されている時、第2領域12の内部の気体が該第2領域と該第1領域の圧力差に起因して内側シール部材32の自由端部を物体表面1の方向に押し付け、第2領域12の内部の気体が第1領域11の内部に流入するのを極力阻止する。
しかしながら、外側シール部材31の自由端部と物体表面1との間の僅かな隙間、あるいは内側シール部材32の自由端部と物体表面1との間の僅かな隙間を通って第1領域11に流入する気体の全てを阻止しなくてもよい。むしろ、流入する気体をある程度許容したほうが、物体表面を吸引清掃あるいは乾燥させる機能が増大する。
【0017】
次に、圧力調整弁92の弁板927は第2領域12の絶対圧力:Pb kgf/cm2 がPb<0.65の時に弁板927が開となるように設定されてあるので、気体供給ポンプ95が作動すると供給された気体は開いた弁板927より第2領域12へ流入し、第2領域12の絶対圧力が0.65kgf/cm2 まで上昇すると弁板927が閉となる。次に、時間が少し経つと、第2領域12に在る気体は、内側シール部材32の自由端部と物体表面1との間の僅かな隙間を通って第1領域11に流入するので、第2領域12の絶対圧力は0.65kgf/cm2 未満まで減少し、よって再び弁板927が開となる。以下、弁板927は上記のように開、閉を繰り返して第2領域12の絶対圧力を一定の値に維持する。
第2領域12から第1領域11へ流入した気体は、外側シール部材31の自由端部と物体表面1との間の僅かな隙間を通って第1領域11へ流入した気体及び洗浄水と共にサイクロン963まで吸引移送され、該洗浄水はサイクロン963にて分離された後にロータリフィーダ964により外部へ排出され、サイクロン963にて該洗浄水を除去された気体は真空ポンプ96を経て大気中へ放出される。
【0018】
以下に、圧力調整弁92の動作の原理を図4と数式を使って説明する。
第2領域12及び下流側弁室932の絶対圧力をPbkgf/cm2、上流側弁室931及び上流側圧力室934の絶対圧力をPckgf/cm2、パイロット圧力室933の絶対圧力をPxkgf/cm2、下流側弁室932において弁板927を下方へ押す力をFbkgf、上流側弁室931において弁板927を上方へ押す力をFckgf、上流側圧力室934においてピストン928を下方へ押す力をFdkgf、パイロット圧力室933においてピストン928を上方へ押す力をFxkgf、弁板927の有効直径をDacm、ピストン928の有効直径をDbcm、Da=Dbとすれば、
弁板927を下方へ塞ぐ方向に押す力の合計Ft1kgfは、
Fb=Pb*Da*Da*3.14/4
Fd=Pc*Db*Db*3.14/4
Da=Db
Ft1=Fb+Fd
Ft1=(Pb+Pc)*Da*Da*3.14/4
弁板927を上方へ開く方向に押す力の合計Ft2kgfは、
Fc=Pc*Da*Da*3.14/4
Fx=Px*Db*Db*3.14/4
Da=Db
Ft2=Fc+Fx
Ft2=(Pc+Px)*Da*Da*3.14/4
弁板927が開く時の条件は、
Ft1<Ft2
(Pb+Pc)*Da*Da*3.14/4<(Pc+Px)*Da*Da*3.14/4
Pb+Pc<Pc+Px
Pb<Px
以上の式により、パイロット圧力室933の絶対圧力:Pxkgf/cm2 のPxの値と、第2領域12の圧力設定目標値である絶対圧力:Pbkgf/cm2
のPbの値とを同一の値にすれば、第2領域12の圧力を、上流側弁室931の圧力と無関係に、目標の圧力に容易に調整できることがわかる。
【0019】
以下に、圧力調整弁92の別の実施態様を図6を使って説明する。
図6の圧力調整弁92が図4の圧力調整弁92と比べて異なる点は、パイロット圧力室933の接続継手924が大気に開放されている点と、上流側圧力室934にピストン928を下方へ押すコイルスプリング935を備えている点の2点のみである。
以下に、図6の圧力調整弁92の動作の原理を数式を使って説明する。
第2領域12及び下流側弁室932の絶対圧力をPbkgf/cm2、上流側弁室931及び上流側圧力室934の絶対圧力をPckgf/cm2、パイロット圧力室933の絶対圧力(大気圧)を1.0332kgf/cm2、下流側弁室932において弁板927を下方へ押す力をFbkgf、上流側弁室931において弁板927を上方へ押す力をFckgf、上流側圧力室934においてピストン928を下方へ押す力をFdkgf、パイロット圧力室933においてピストン928を上方へ押す力をFxkgf、弁板927の有効直径をDacm、ピストン928の有効直径をDbcm、Da=Db、上流側圧力室934においてコイルスプリング935がピストン928を下方へ押す力をFskgfとすれば、
弁板927を下方へ塞ぐ方向に押す力の合計Ft1kgfは、
Fb=Pb*Da*Da*3.14/4
Fd=Pc*Db*Db*3.14/4
Da=Db
Ft1=Fb+Fd+Fs
Ft1=(Pb+Pc)*Da*Da*3.14/4+Fs
弁板927を上方へ開く方向に押す力の合計Ft2kgfは、
Fc=Pc*Da*Da*3.14/4
Fx=1.0332*Db*Db*3.14/4
Da=Db
Ft2=Fc+Fx
Ft2=(Pc+1.0332)*Da*Da*3.14/4
弁板927が開く時の条件は、
Ft1<Ft2
(Pb+Pc)*Da*Da*3.14/4+Fs<(Pc+1.0332)*Da*Da*3.14/4
Fs<(1.0332−Pb)*Da*Da*3.14/4
以上の式により、コイルスプリング935がピストン928を下方へ押す力:Fskgf は、第2領域12の圧力設定目標値である絶対圧力:Pbkgf/cm2 と弁板927の有効直径:Dacm の関数として表現されることがわかる。
すなわち、第2領域12の圧力を、上流側弁室931の圧力と無関係に、目標の圧力に容易に調整できることがわかる。
図6の圧力調整弁92は、図4の圧力調整弁92と比べて、パイロット圧力室933の圧力設定が要らない利点がある。なお、本発明の実施例の装置においては、どちらの圧力調整弁を用いてもよい。
【0020】
第2領域12を圧力調整弁92を用いて任意の圧力に調整することが重要である点について説明すると、第2領域12の圧力はより低い圧力に維持したほうが第2領域12より第1領域11へ流出する気体の量が少なくなるので好都合であり、また第2領域12の圧力が装置を包囲する液体の圧力より低ければ第2領域12が物体表面1へ吸着することも可能となる。一方、気体供給ポンプ95の圧力は、ホース951の長さによって圧力が変動し、且つホース951の圧力損失は大きい値であるので、気体供給ポンプ95は余裕をもたせて吐出圧力の大きいポンプを選定する必要がある。また、気体供給ポンプ95の吐出圧力が大きいと、ホース951の口径をより小さくすることもできる。よって、気体供給ポンプ95の下流側には、必然的に減圧機能を備えた圧力調整弁が必要となる。
本発明の実施例の装置の圧力調整弁92は、気体供給ポンプ95から供給された気体を、該ポンプの吐出圧力に関係なく、装置を包囲する液体の圧力より低い圧力にも減圧できる、といった優れた特徴を有するものである。
【0021】
次に、圧力調整弁92cの弁板927は第3領域13の絶対圧力:Pbckgf/cm2 がPbc<1.06の時に弁板927が開となるように設定されてあるので、気体供給ポンプ95cが作動すると供給された気体は開いた弁板927より第3領域13へ流入し、第3領域13の絶対圧力が1.06kgf/cm2 まで上昇すると弁板927が閉となる。次に、時間が少し経つと、第3領域13に在る気体は、その一部が最外側シール部材33の自由端部と物体表面1との間の僅かな隙間を通って装置の外部へ流出し、また一部は外側シール部材31の自由端部と物体表面1との間の僅かな隙間を通って第1領域11に流入するので、第3領域13の絶対圧力は1.06kgf/cm2 未満まで減少し、よって再び弁板927が開となる。以下、弁板927は上記のように開、閉を繰り返して第3領域13の絶対圧力を一定の値に維持する。
なお、圧力調整弁92cの動作の原理は圧力調整弁92の動作の原理と同一であるので説明を省略する。
【0022】
また、本発明の実施例の装置の圧力調整弁92、圧力調整弁92cおよび圧力調整弁92bは、本発明の装置が液面下に在る物体表面に密着し且つ該表面に沿って移動する場合において、深度が深くなるにつれ液体の圧力が増大しても、該気体で満たされた領域の圧力と該液体の圧力との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力を制御するものである。
圧力調整弁92、圧力調整弁92cおよび圧力調整弁92bにおける各々のパイロット圧力の設定方法について、該パイロット圧力はリリーフ付き減圧弁943、リリーフ付き減圧弁943cおよびリリーフ付き減圧弁943bにより出力される。
リリーフ付き減圧弁943、リリーフ付き減圧弁943cおよびリリーフ付き減圧弁943bについて電磁比例制御方式の減圧弁を使用し、且つ、深度に比例した電流もしくは電圧を出力する圧力センサーを本発明の装置に具備すれば、該減圧弁は深度に比例したパイロット圧力を出力することが出来る。
なお、該液圧が該気体で満たされた領域の圧力より非常に大きいと、該気体で満たされた領域を該液圧が物体表面へ非常に強く押し付けるので、装置が物体表面に沿って移動するために非常に大きな力を必要とする。
【0023】
図5に図示の装置には、接続継手221と接続継手211との間に、差圧調整弁820が設置されている。
差圧調整弁820は一般的に良く知られる公知の弁であるが、図7を参照して説明すると、差圧調整弁820のケーシング821は、大別すると、弁板収納室(831と832の両方の領域)と弁板駆動室834の2つの部屋に区分されている。ただし、図7においては、該弁板収納室と該弁板駆動室とは穴により連通されているので同一の圧力を備えた同一の領域である。該弁板収納室の内部においては、圧縮コイルバネ835と駆動ロッド826の作用により、円板状の弁板827が下降させられて弁穴831を塞いでいる。弁板827が弁穴831を塞いでいる時、該弁板収納室は上流側弁室831と下流側弁室832の2室に区分される。なお、本実施例の図面においては上流側弁室831と弁穴831は同一の部分である。
【0024】
以下に、図7の差圧調整弁820の動作の原理を数式を使って説明する。
第1領域11及び下流側弁室832の絶対圧力をPakgf/cm2、上流側弁室831の絶対圧力をPbkgf/cm2、弁板827の有効直径をDacm、下流側弁室832において弁板827を下方へ押す力をFakgf、上流側弁室831において弁板827を上方へ押す力をFbkgf、コイルスプリング835が弁板827を下方へ押す力をFskgfとすれば、
弁板827を下方へ塞ぐ方向に押す力の合計Ft1kgfは、
Fa=Pa*Da*Da*3.14/4
Ft1=Fa+Fs
Ft1=Pa*Da*Da*3.14/4+Fs
弁板827を上方へ開く方向に押す力の合計Ft2kgfは、
Fb=Pb*Da*Da*3.14/4
Ft2=Fb
Ft2=Pb*Da*Da*3.14/4
弁板827が開く時の条件は、
Ft1<Ft2
Pa*Da*Da*3.14/4+Fs<Pb*Da*Da*3.14/4
Fs<(Pb−Pa)*Da*Da*3.14/4
以上の式により、コイルスプリング835が弁板827を下方へ押す力:Fskgf は、第1領域11の圧力設定目標値である絶対圧力:Pakgf/cm2 と第2領域12の圧力設定目標値である絶対圧力:Pbkgf/cm2 と弁板827の有効直径:Dacm の関数として表現されることがわかる。
すなわち、第2領域12の圧力を任意の圧力に設定すれば第1領域11の圧力も目標の圧力に容易に調整できることがわかる。例えば、第1領域11の絶対圧力:Pa kgf/cm2 のPaの値を約0.62と仮定し、第2領域12の絶対圧力:Pb
kgf/cm2 のPbの値を約0.65と仮定すると、Pa<0.62の時に弁板827が開となり、Pa>0.65の時に弁板827が閉となるように、容易に差圧調整弁820をプリセットすることが出来る。すなわち、例えば、外側シール部材31と物体表面1との間の隙間が小さくなって圧力損失が増大することに起因して第1領域11の絶対圧力が0.62kgf/cm2 以下に減少しようとする時、弁板827が開となって第2領域12から第1領域11へ気体が移動するので第1領域11の絶対圧力は0.62kgf/cm2 に維持される。
【0025】
以上に、本発明の実施例の装置について説明したが、本発明の実施例の装置は該好適実例の他にも特許請求の範囲に従って種々の実施例を考えることができる。
本発明の技術的解決課題は、かかる装置の第1領域の外側に第3領域を配置し、該第3領域の気体の圧力を装置を包囲する液体の圧力よりも高圧にせしめ、該第1領域の気体の圧力を装置を包囲する液体の圧力よりも低圧にせしめ、該第1領域の気体の圧力を該第2領域の気体の圧力よりも低圧にせしめ、該第2領域の気体の圧力を装置を包囲する液体の圧力よりも低圧にせしめ、而して、該第1領域と該第2領域の気体の一部が、最外側シール部材と物体表面との間の隙間を通って装置の外部へ流出しないように構成した、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置を提供することであった。
上記の本発明の技術的解決課題が達成されることにより生成される本発明の効果について以下に述べる。
【0026】
本発明の効果について以下に述べる。
液面下に在る物体表面に対し、例えば圧縮空気を利用して研掃材を噴射し、よって物体表面に粗面を形成したのち、使用済みの研掃材を陸上に設置された回収容器まで空気流を利用して吸引回収する場合においては、研掃材の噴射領域に液体の侵入は禁物である。また、研掃材の噴射作業と同じく、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う種々の作業がある。例えば、サーマルスプレー装置、溶接装置のように溶融した材料を付着させる装置、プラスチックシートの貼付け装置、塗料や接着剤の吹付け装置、あるいは物体表面に熱処理を施す装置などの装置を使用した作業は、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う。
以上のような、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を嫌う作業を液面下で実施する装置においては、液体が侵入することが無く且つ気体で満たされた領域を具備する必要があるが、本発明の装置においては、物体表面に作用を施す領域への液体の侵入を阻止する機構を具備した。
これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が気体と接することにより、液体と接する場合と比較して、優れた作用効果を発揮するものである。
また、これらの装置の一部においては、作用を施す対象の物体表面が酸素濃度の低い不活性ガスから成る気体と接することにより、さらに優れた作用効果を発揮する。
例えば、サーマルスプレー装置や溶接装置においては、不活性ガスから成る気体の中で溶融作業が実施されることにより溶融物質の酸化が抑制されるので、品質が向上するといった利点がある。
また、液面下に在る装置本体が気体で満たされた領域を具備する場合、深度が深くなるにつれ液圧が増大するので、該液圧が増大しても該気体で満たされた領域の圧力と該液圧との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力を制御する必要がある。仮に、該液圧が該気体で満たされた領域の圧力より非常に大きいと、該気体で満たされた領域を該液圧が物体表面へ非常に強く押し付けるので、装置が物体表面に沿って移動するために非常に大きな力を必要とする。
本発明の装置においては、深度が深くなるにつれ液圧が増大しても該気体で満たされた領域の圧力と該液圧との差圧が一定になるように該気体で満たされた領域の圧力を制御した。
また、研掃材の噴射など該気体で満たされた領域へ圧縮気体を噴出する場合においては、該気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が一定になるように圧縮気体の圧力を制御する必要がある。仮に、該気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が小さくなると圧縮気体の流量が減少するので、該圧縮気体を利用して物体表面に作用を施す場合においては該作用が不完全となる。
本発明の装置においては、気体で満たされた領域の圧力と圧縮気体の圧力との差圧が一定になるように圧縮気体の圧力を制御した。
本発明のさらなる効果について述べると、
ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置は別々の装置にしたほうが装置の調整が簡単でありよって再現性の向上に起因して実用性が向上するが、ブラストクリーニングを実施する装置とサーマルスプレーイングを実施する装置を別々の装置にした場合においては、サーマルスプレーイングを施される物体表面は該施工の直前に完全に清浄化される必要がある。例えば海面下に在る物体表面は装置によりブラストクリーニングを施された後に海水と接することになるが、該ブラストクリーニングを施された物体表面が別の装置によりサーマルスプレーイングを施される場合においては、該物体表面は該施工の直前に例えば清水の噴射により塩分を除去されかつ乾燥される必要がある。
本発明においては、洗浄材料の噴射により物体表面の塩分を除去しかつ乾燥させる装置を具備しており、その装置の構成も簡単であるので、より実用性の高い装置を提供することができる。
また本発明においては、サーマルスプレーイングの際に発生する粉塵の一部が装置の外部に漏洩することが無いので環境保全にも寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
かくの通りの液面下の物体表面に密着し移動可能な装置は、液面下の物体表面において様々な作業を行う様々な装置を搭載し、且つ該装置を物体表面に沿って移動せしめる装置として好都合に用いることができる。例えば、海洋構造物の海面下にある物体表面に対し研掃材の噴射作業や溶射作業を実施する装置として好都合に用いることができる。本発明の装置に搭載される物体表面に作用を施す装置としては、サーマルスプレー装置、溶接装置のように溶融した材料を付着させる装置、プラスチックシートの貼付け装置、塗料や接着剤の吹付け装置、研掃材の噴射装置、あるいは物体表面に熱処理を施す装置など様々な装置を適用することができる。これらの装置においては、作用を施す対象の物体表面が気体と接することにより、液体と接する場合と比較して優れた作用効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に従って構成された装置の好適実施例を物体表面の方向から見た平面図。
【図2】図1に示す装置におけるA−Aの断面図。また洗浄ノズル99は図1に示す装置におけるB−Bの断面図。
【図3】本発明に従って構成された装置が備えるアーク溶射ガンの好適実施例を示す断面図。
【図4】本発明に従って構成された装置が備える圧力調整弁の好適実施例の第1例を示す断面図。
【図5】本発明に従って構成された装置の好適実施例の全体システムを示す図。
【図6】本発明に従って構成された装置が備える圧力調整弁の好適実施例の第2例を示す断面図。
【図7】図5に示す本発明に従って構成された装置が備える、第1領域11と第2領域12とを接続する差圧調整弁の好適実施例を示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の面Aを備える立体形状の第1領域と、面Aの内側に在る面Bを備える立体形状の第2領域と、面Aの外側に在る面Cを備える立体形状の第3領域とを具備する、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置において、
面Aは該物体表面と該第1領域との境界面であり、面Bは該物体表面と該第2領域との境界面であり、面Cは該物体表面と該第3領域との境界面であり、
面Aの外側の境界線を規定する部分には外側シール部材が具備されており、面Aの内側の境界線を規定する部分には内側シール部材が具備されており、面Cの外側の境界線を規定する部分には最外側シール部材が具備されており、
該第1領域は該第1領域より気体を吸引する手段と連結されており、該第2領域は該第2領域へ気体を供給する手段と連結されており、該第3領域は該第3領域へ気体を供給する手段と連結されており、
該第1領域の圧力は該第2領域の圧力よりも低くすなわち該第1領域は該第2領の下流側に位置しており、該第1領域の圧力は該第3領域の圧力よりも低くすなわち該第1領域は該第3領域の下流側に位置しており、該第3領域の圧力は本発明の装置を包囲する液体の圧力よりも高くすなわち該第3領域は本発明の装置を包囲する液体の上流側に位置しており、
該第2領域へ供給された気体は該第1領域に至り、該第3領域へ供給された気体は該第1領域及び本発明の装置を包囲する液体の領域に至り、該第2領域及び該第3領域より該第1領域へ流入した気体は該吸引手段まで吸引移送される、ことを特徴とする、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。
【請求項2】
該外側シール部材は、該第3領域に在る気体の圧力と該第1領域に在る気体の圧力との差圧により物体表面に押し付けられる形状を具備しており、
また、該内側シール部材は、該第2領域に在る気体の圧力と該第1領域に在る気体の圧力との差圧により物体表面に押し付けられる形状を具備しており、
該最外側シール部材は、装置を包囲する液体の圧力と該第3領域に在る気体の圧力との差圧により物体表面に押し付けられる形状を具備している、ことを特徴とする、請求項1に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。
【請求項3】
該第2領域へ不活性ガスを流入せしめる手段を備えた、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項2に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。
【請求項4】
該第2領域もしくは該第3領域において、物体表面を洗浄するための水などの洗浄材料を噴射する手段を備えた、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。
【請求項5】
該第1領域の圧力を任意の圧力に調整する調圧手段において、負圧生成手段に連結された下流側弁室と、該第1領域に連結された上流側弁室と、該下流側弁室と該上流側弁室とを連通する弁穴と、該弁穴を開閉する弁板と、該弁板を開閉駆動させるための弁駆動手段から構成された調圧手段において、該第1領域の実際の圧力の値と圧力調整目標である該任意の圧力の値との間に圧力差が発生することに起因して該弁板が開閉駆動されることにより該第1領域の圧力が該任意の圧力に調整されるように構成された調圧手段を備えている、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。
【請求項6】
該第2領域の圧力を任意の圧力に調整する調圧手段において、該第2領域に連結された下流側弁室と、圧縮気体生成手段に連結された上流側弁室と、該下流側弁室と該上流側弁室とを連通する弁穴と、該弁穴を開閉する弁板と、該弁板を開閉駆動させるための弁駆動手段から構成された調圧手段において、該第2領域の実際の圧力の値と圧力調整目標である該任意の圧力の値との間に圧力差が発生することに起因して該弁板が開閉駆動されることにより該第2領域の圧力が該任意の圧力に調整されるように構成された調圧手段を備えている、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。
【請求項7】
該第3領域の圧力を任意の圧力に調整する調圧手段において、該第3領域に連結された下流側弁室と、圧縮気体生成手段に連結された上流側弁室と、該下流側弁室と該上流側弁室とを連通する弁穴と、該弁穴を開閉する弁板と、該弁板を開閉駆動させるための弁駆動手段から構成された調圧手段において、該第3領域の実際の圧力の値と圧力調整目標である該任意の圧力の値との間に圧力差が発生することに起因して該弁板が開閉駆動されることにより該第3領域の圧力が該任意の圧力に調整されるように構成された調圧手段を備えている、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項6に記載の、液体中に在る物体表面に密着し移動可能な装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−143388(P2008−143388A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333901(P2006−333901)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(591004825)
【Fターム(参考)】