説明

液体中の有機物の除去のための方法及びシステム

本発明は、液体中の有機物、特に水中の希薄な毒性有機物の除去のための方法であって、光触媒膜と組み合わせた酸化剤を含有するマイクロカプセルに液体を接触させる方法に関する。本発明はまた、液体中の有機物の除去のためのシステムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中、特に飲用水中の、有機物の除去のための、効果的な水処理方法に関する。この方法は、有機物質を酸化するための光触媒特性を有する、又は粒子形態の光触媒を有するセラミック多孔質膜を、該膜表面に強酸化剤を送達するマイクロカプセル及びナノカプセルと組み合わせる。
【背景技術】
【0002】
塩素は、今日、飲用水の処理において広く使用されている。毒物学上の研究及び報告によると、いくつかの消毒副生成物(例えば、トリハロメタン(THM)、ハロ酢酸(HAA)、亜塩素酸塩(chlorite)、塩素酸塩(chlorate)、臭素酸塩(bromate))は、ヒト発癌性物質となり得る。非汚染飲料水における塩素要求量のほとんどは、天然有機物質(NOM)に起因する。
【0003】
有機物を除去するための処理法の最適な選択は、存在する有機物の特性及び処理された水に必要となる最終品質に依存する。一般に、従来のpH条件下(6〜7)でのNOM、色度及び濁度除去においては、ミョウバン(alum)が最も性能の良い無機凝集剤である。しかしながら、一部の有機物質は凝集プロセスにより除去することができず、追加的な処理を必要とする。処理後に残留したNOMは、消毒剤要求量、消毒副生成物の形成及び分配システムにおける生物膜形成に影響する。生分解性有機物の除去は、分配システムにおける消毒剤の分解及び生物膜成長を低減する。
【0004】
有機物を除去するための処理法の選択は、有機物の特性及び必要な除去の程度に依存する。凝集のみにより達成され得る水質より高く水質を改善するためにNOMを除去することが必要な場合、追加的な処理が必要となる。飲用水用途のための水処理では、いくつかの高度な処理技術が世界中で開発されている。これらは、一般に、酸化プロセス、吸着剤(adsorbent)及び膜濾過の3つのカテゴリーに分類される。
【0005】
酸化プロセス:
NOMのUV処理は、分子量、有機炭素の要求量、及び最終的な無機化の漸減をもたらす。VUV/BACプロセスからの生産水は、THM、HAA、亜硝酸塩、過酸化水素、臭素酸塩、細胞毒性及び変異原性の点で、低い潜在的健康リスクを呈する。
【0006】
鉄を組み込んだポリマー吸着樹脂を用いるプロセスは、飲料水からのDOCの除去用に特別に設計された(モラン(Morran)ら、1996年)。粉末活性炭(PAC)及び凝集剤処理と組み合わされたこのプロセスは、除去されるDOCの量を82〜96%改善し、塩素要求量を低減し、またTHMを大きく低減することが判明した。しかしながら、細菌の再成長が増加し、NOM濃度を低下させるための処理を使用することと、NOM特性を変化させることとの間の重大な差異を浮き彫りにした。
【0007】
吸着剤:
味覚及び臭気化合物、藻類毒素又は殺菌剤等の、問題となる微小汚染物質の除去に活性炭が適用される場合、NOMはその有効性に大きく影響する。吸着部位への競合が激しいと、粉末活性炭(PAC)の所要用量がより高くなり、また粒状活性炭(GAC)フィルタの寿命がより短くなる。NOMの特性もまた競合効果において役割を担っており、標的化合物と類似した分子量範囲にあるNOMは、最も激しい競合をもたらし、したがって吸着に最も大きい影響を与える。
【0008】
膜濾過:
精密濾過/限外濾過膜は、分子のサイズが通常、膜の細孔サイズよりも小さいため、NOMをほとんど除去しない(表1を参照されたい)。しかしながら、NOMは低圧膜を汚染し、流束(flux)を回復するには化学洗浄が必要である。NOMの組成は、汚染速度に大きく影響し、高い分子量を有する親水性中性化合物が汚染速度に大きく影響するようである。
【表1】

【0009】
凝集剤は、ほぼ常に、膜汚染の速度を低下させる。凝集剤と共にマグネタイト等の粒子を添加すると、濾過ケーキの空隙を増加させることにより、膜性能を改善することができる。膜の前にNOMをUV分解すると、膜の汚染速度が低下する。
【0010】
光触媒の液体処理への適用は、液体中の光触媒と反応物質との間の効率的接触をもたらすこと、及び光触媒に十分な光を供給することが困難であることから、制限を受けている。微細粉末形態を有する光触媒を液体中に分散させると、液体中の光触媒と反応物質との間の接触が増加する。しかしながら、数ナノメートルからサブミクロンのサイズを有し得る微細光触媒を液体から分離するのは、困難である。さらに、液体中の粉末は、深さ方向の光強度を急速に低下させる。したがって、光触媒の大部分は、光供給が不足し得る。光触媒活性は光パワーに依存するため、光触媒を分散させる構成は、光触媒材料の最適な酸化性能を提供しない可能性がある。約10μmから約200μmのサイズの光触媒微小球体(microsphere)は、膜濾過による微小球体のリサイクルを改善するだけでなく、粉末形態の光触媒よりも光触媒能を改善し得る(国際公開公報WO2008/076082)。
【0011】
固定化された触媒は、プロセスが触媒を分離するための余分な設備を必要としないという点で好ましい。また、処理中の触媒損失が無視でき、これはシステムに高価な触媒が使用されている場合重要となる。さらに、液体中の光触媒の位置とは無関係に、光が光触媒に均一に供給される。そのような固定化触媒系において、液体は、触媒上を(米国特許第5779912号を参照されたい)、及び触媒層を通って(「多孔質酸化チタン膜を使用した光触媒膜反応器(Photo−catalytic membrane reactor using porous titanium oxide membranes)」、Tsuru,T;Toyosada,T;Yoshioka,Tら、J.Chem Eng.Japan、第36(9)巻、1063〜1069頁(2003年))流動することができる。膜を使用することにより、追加の気体を反応領域に添加することができる(光−水触媒酸化(photo−WaterCatox)、国際公開公報WO02/074701)。
【0012】
液体が触媒上で並流により触媒層に供給される場合、液体中の反応物質と光触媒との間の接触を促進するため、及び光パワーを可能な限り強力に維持し、触媒/反応物質比を増加させるために、乱流及び触媒層上の狭い液体層厚が好ましい。一方、液体が触媒層を通過する場合、反応物質は、拡散により、及び流動により触媒に輸送される。この構成は、輸送に有益である。しかしながら、これはまた、透過経路が触媒層においてナノメートルオーダーのサイズを有し、ある特定の動作時間後に経路が液体中の粒子又は分子で閉塞する可能性があるという問題を引き起こし得る。閉塞は、液体側での圧力増加及び層を通過する流束の低減をもたらす。さらに、触媒層及び多孔質担体層の抵抗の両方により透過が低減されるため、触媒層を通過する十分な流束を得るためには、5〜100バール等のより高い圧力が必要である。
【0013】
光触媒(例えばTiO)のカプセル化は、多くの場合、光学特性/光触媒特性を向上させることができる。光触媒はまた、光触媒と密接に接触する基材(base material)の分解を防止するために、例えば多孔質シリカ層で被覆されていてもよい(特開平9−225321)。
【発明の概要】
【0014】
しかしながら、本発明の発明者らは、TiOカプセル内へのH等の酸化剤のカプセル化が、光触媒特性をさらに向上させることができることを見出した。酸化剤の制御された放出は、光触媒の効率を大幅に改善することができる。
【0015】
酸化剤の光カプセル内へのカプセル化の利点として、以下のような点を挙げることができる:
1)プロセス中に適用される場合、光触媒への酸化剤の組み込みの手順を単純化する。
2)酸化剤の周りにバリア層を提供し、これにより、制御された様式で酸化剤を放出することにより、酸化剤の寿命を改善する。
3)制御された様式で酸化剤を放出することにより、光触媒の効率及び耐久性を改善する。
4)還元された種(もし有れば、)を光触媒膜に固定化することにより、閉塞を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、光触媒膜3と組み合わせた酸化剤を含有するマイクロカプセル2に液体を接触させることによる、液体中の有機物、特に水中の希薄な毒性有機物、の除去のための方法を提供する。
【0017】
本発明はさらに、酸化剤を含有するマイクロカプセル2と組み合わせた光触媒膜3を備える、液体中の有機物、特に水中の希薄な毒性有機物、の除去のためのシステムを提供する。
【0018】
マイクロカプセルは、多孔質材料、例えばメソ多孔質又はミクロ多孔質材料で作製されてもよく、又は緻密な材料で作製されてもよい。
【0019】
さらに、マイクロカプセルは、光触媒材料、例えばTiOで作製されてもよい。特開2003−096399は、TiOの光触媒マイクロカプセルの使用を記載している。コアシェル構造を有する光触媒被覆粒子をベースとした水処理における使用のための光触媒担体が、特開2006−247621に報告されている。
【0020】
マイクロカプセルはまた、金属酸化物等の無機材料又は有機及び無機ハイブリッド複合材料又は有機材料で作製されてもよい。
【0021】
マイクロカプセルは、ナノメートルからマイクロメートルのサイズの細孔及びmmの厚さを有する、多孔質担体よりもはるかに小さい輸送抵抗を有するメッシュフィルタ上に分散されているか、又は固定されてもよい。メッシュフィルタは、疎水性又は親水性であってもよく、液体中の反応物質に対する親和性を有する。
【0022】
液体中のカプセルは、反応物質の触媒表面への全般的な輸送を増加させる。さらに、反応器における圧力降下は、流れが膜を通過している場合と比較して小さく、高圧が必要ないため、より単純で安価な装置設計が提供される。さらに、光源とカプセルが固定化されるネットとの組合せは、カプセルの表面に存在する光触媒へのより良い光供給を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】触媒膜フィルタの1つの可能な構成を示す。
【図2】光触媒マイクロカプセル又はナノカプセルの3つの典型的な構造を示す。
【図3】本発明の一実施形態を示す。
【図4】本発明の別の実施形態を示す。
【図5】本発明の別の実施形態を示す。
【図6】光触媒を含まず、通常の膜と組み合わされた、カプセルを含有するメッシュフィルタ9を備えるシステムを示す。
【図7】形成されたカプセルからのKMnO放出の一例を示す。
【図8】形成されたカプセルからのNa放出の一例を示す。
【図9】形成されたカプセルからのKMnO放出の一例を示す。
【図10】形成されたカプセルからのKMnO放出の一例を示す。
【図11】市販の中空粒子及びTiO粉末を混合することにより調製された、改質後の中空粒子及び表面のEDX分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、触媒膜フィルタの1つの可能な構成を示す。光触媒12は、1μmから1cmの範囲内の細孔サイズ、及び数μmから1cmの範囲内の厚さを有するメッシュ/フィルタ13上に、固定化/固定される。ファイバ、電球又はその他の方法14を用いて、光が導入され得る。いくつかの光触媒メッシュ/フィルタ13、15及び光源14は、図1における図解に示されるように組み合わされてもよい。この構成において、液体は、片側16から導入され、組み合わされた構造を通過し、ユニット17から出る。
【0025】
この構成の利点は、より小さい輸送抵抗、反応物質(単数又は複数)の触媒表面へのより良好な集団輸送、固定された触媒、光源から触媒までの短い距離、カプセルからの酸化剤の供給である。
【0026】
図2は、光触媒マイクロカプセル又はナノカプセルの3つの典型的な構造を示す。
左:中空の光触媒(18)。粒子は、緻密又は多孔質であってもよい光触媒層(シェル)からなる。カプセルは中空である。
中:カプセル(18)のコア(19)は、それ自体酸化特性を有するか、光触媒作用により酸化剤を生成する、液体、固体又は気体で充填されている。カプセルはまた、還元剤又は他の化学物質で充填されてもよい。
右:シェルの中央の空洞は、2種又は複数種の気体、液体及び/又は固体の混合物を有する。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態を示す。カプセル2は、多孔質膜3上に固定化される。多孔質膜は、アルミナ、チタニア、シリカ等の酸化物、ステンレススチール等の金属、炭素、粘土等の吸着剤、又は他の材料により作製され得る。細孔サイズは、例えば、1nmから100μmであってもよい。処理される分子1を含有する液体は、膜3の片側から供給される。供給液体ライン4は、透過物ライン6よりもある程度過度の圧力を有する。反応は、光5により触媒カプセル2上で生じる。多孔質膜3は、カプセル2の担体としてだけではなく、篩としても機能し、より大きな分子は膜を通過しない。
【0028】
図4は、本発明の別の実施形態を示す。カプセル2は、多孔質膜3及びメッシュフィルタ9上に固定化されている。メッシュフィルタは、水透過の抵抗を低減するために、10〜10000μm等の大きな細孔サイズを有する。処理される分子1を含有する液体が膜の片側に供給され(7)、膜上を流動し、膜ユニットから出る(10)。反応は、膜3及び/又はフィルタ9上に固定化されたカプセル2上又はその近くで生じる。酸素、オゾン、空気、富化空気、水素、メタン、塩素等の気体、又は過酸化水素等の液体が、膜の反対側から供給され得る(8)。この追加的な気体又は液体が、酸化反応を向上させる。
【0029】
図5は、本発明の別の実施形態を示す。カプセル2は、多孔質膜3上に固定化される。図4に記載されるようなメッシュフィルタを追加的に適用することができる。処理される分子1を含有する液体が膜の片側に供給され(7)、膜上を流動し、膜ユニットから出る(10)。カプセルが存在する、多孔質膜表面3及び図4に記載のようなメッシュフィルタへの、分子1の拡散を増加させるために、電場11が印加される。膜は導電性を有する必要があり、金属で作製され得るか、又は金属で被覆され得る。反応は、膜3及び/又はフィルタ9上に固定化されたカプセル2上又はその近くで生じる。光5が照射される。酸素、オゾン、空気、富化空気、水素、メタン、塩素等の気体、又は過酸化水素等の液体が、膜の反対側から供給され得る(8)。この追加的な気体又は液体は、例えば、酸化、水素化又は他の反応を増進することにより、反応を向上させる。
【0030】
図6は、光触媒を含まず、通常の膜と組み合わされた、カプセルを含有するメッシュフィルタ9を備えるシステムを示す。有機物を含有する液体が7から供給され、メッシュフィルタを通って流動し、10から出る。有機物は、メッシュ9上の光触媒により酸化される。光5により反応が生じる。底部の「通常の膜」3は、多孔質又は緻密であってもよい。多孔質膜の場合、他の箇所で説明されるように、通常の膜を通して追加的な酸化剤(単数又は複数)が添加され得る。
【実施例】
【0031】
(例1)
KMnO酸化剤のパラフィンワックス内へのカプセル化:
過マンガン酸カリウムKMnO(Carus Chemical Company製)及びパラフィンワックスを、それぞれ酸化剤及びカプセル材料として使用した。酸化剤の粉末を、連続的に撹拌及び加熱しながら少しずつ溶融ワックスに添加し、酸化剤45%を含有する均質な混合物を形成させた。しばらくの間混合物を撹拌した後、この酸化剤が分散した溶融ワックスを滴下により徐々に水に加えた。溶融ワックスは、ワックスの液滴が水と接触すると即座に固化した。
【0032】
形成されたカプセルを秤量し、所定体積の水に注いだ。
【0033】
図7は、形成されたカプセルからのKMnO放出の一例を示す。水0.2l中に分散させたカプセル0.17gの懸濁液を機械式撹拌器で撹拌し、KMnOの濃度を所定の時間間隔で測定した。
【0034】
KMnOは、室温で6.4g/水100mlの溶解度を有する。したがって、KMnOを粉末として分散させた場合、即座に溶解する。一方、カプセルを添加すると、KMnOの濃度は、徐々にではあるが経時的に連続的に増加した。この結果は、カプセル化によりKMnOの溶解を制御することができることを明確に示している。
【0035】
(例2)
Naのパラフィンワックス内へのカプセル化:
過硫酸ナトリウムNa(Sigma−Aldrich社製)及びパラフィンワックスを、それぞれ酸化剤及びカプセル材料として使用した。酸化剤の粉末を、連続的に撹拌及び加熱しながら少しずつ溶融ワックスに添加し、酸化剤37%を含有する均質な混合物を形成させた。しばらくの間混合物を撹拌した後、この酸化剤が分散した溶融ワックスを滴下により徐々に水に加えた。溶融ワックスは、ワックスの液滴が水と接触すると即座に固化した。
【0036】
図8は、形成されたカプセルからのNa放出の一例を示す。水0.1l中に分散させたカプセル0.13gの懸濁液を機械式撹拌器で撹拌し、Naの濃度を所定の時間間隔で測定した。
【0037】
Naは、室温で55.6g/水100mlの溶解度を有する。したがって、Naを粉末として分散させた場合、即座に溶解する。一方、カプセルを添加すると、Naの濃度は、徐々にではあるが経時的に連続的に増加した。この結果は、カプセル化によりNaの溶解を制御することができることを明確に示している。
【0038】
(例3)
酸化剤の有機樹脂内へのカプセル化
過マンガン酸カリウムKMnO(Carus Chemical Company製)又は過硫酸ナトリウムNa(Sigma−Aldrich社製)を、酸化剤として使用した。シルガード(Sylgard)樹脂(Aldrich社製)を、それぞれのカプセル材料として使用した。シルガード樹脂をシルガード硬化剤及び粉末の酸化剤と混合し、次いで激しく混合すると均一混合物が得られた。得られた樹脂と酸化剤との混合物を、特別な型(matrix)上に注いだ。型は、ステンレススチール箔から作製した。平坦な箔に、多くの半球状の窪み(直径数ミリメートル)を形成した。
【0039】
樹脂と酸化剤との混合物を型上に注いだ後、過剰の混合物を拭き取り、窪みの中に含有された混合物のみを残した。型を室温で24時間放置した。カプセルを回収して使用した。両方の酸化剤の場合において、混合物中の酸化剤の濃度は45%であった。
【0040】
図9は、形成されたカプセルからのKMnO放出の一例を示す。水3l中に分散させたカプセル0.15gの懸濁液を機械式撹拌器で撹拌し、KMnOの濃度を所定の時間間隔で測定した。
【0041】
例2及び3と同様に、カプセルを添加すると、KMnOの濃度は、徐々にではあるが経時的に連続的に増加した。この結果は、カプセル化によりKMnOの溶解を制御することができることを明確に示している。
【0042】
(例4)
酸化剤の無機シェル内へのカプセル化:
過マンガン酸カリウムKMnO(Carus Chemical Company製)又は過硫酸ナトリウムNa(Sigma−Aldrich社製)を、酸化剤として使用した。多孔質シリカシェルからなり、2〜5μmのサイズを有する中空粒子(和信化学工業株式会社(Washin Chemicals)製、日本)の内部空洞を、以下のように酸化剤で充填した。
【0043】
過硫酸アニオン及び過マンガン酸アニオンは陰性であるため、シリカカプセル内の酸化剤の吸着を促進するために、シリカ粉末をまず、2000ppmの濃度のPEI(ポリエチレンイミン、分子量70000、Polyscience社製)水溶液中で連続的に撹拌しながら1時間処理した。遠心分離によりカプセルを分離し、水で洗浄し、室温で乾燥させた。乾燥したシリカをナトリウム酸化剤の飽和溶液に24時間で注いだ。最後に、酸化剤を含むシリカ粉末を洗浄して乾燥させた。
【0044】
図10は、形成されたカプセルからのKMnO放出の一例を示す。水0.08l中に分散させたカプセル0.5gの懸濁液を機械式撹拌器で撹拌し、KMnOの濃度を所定の時間間隔で測定した。
【0045】
KMnOの溶解は、例1から3の場合よりも速い。これは、この場合カプセルのシェルが多孔質であり、一方実施例1から3においてはシェルは緻密であったためである。KMnOの溶解は制限されたが、これはシェル材料の細孔構造により放出を制御できる可能性を示している。
【0046】
例1から4の結果の比較はまた、カプセル材料の種類及びカプセル内の酸化剤の量を変化させることにより、酸化剤放出速度を効果的に制御することができることを示している。
【0047】
(例5)
光触媒カプセル調製
多孔質シリカシェルからなる中空粒子は、日本の和信化学工業株式会社から購入した。光触媒の一例として、TiOを2つの方法で表面上に堆積させた。第1の方法では、市販のTiO粉末(P25、Evonic社(旧Degussa社)製)及び中空粒子を水中又はエタノール中に分散させた。溶液のpHは、シリカ及びTiOが反対の表面電荷を有するように、2<pH<5に制御した。第2の方法では、中空シリカ粒子を、2%チタンイソプロポキシド及び98%エタノールの混合溶液中に分散させた。両方の場合において、分散液を1時間撹拌し、次いで粒子を溶液から取り出し、洗浄し、乾燥させ、250〜600℃で1時間焼成した。
【0048】
両方の方法でTiOを中空粒子上に堆積させた。図11は、市販の中空粒子及びTiO粉末を混合することにより調製された、改質後の中空粒子及び表面のEDX分析結果を示す。球状粒子の形状は、改質により変化しなかった。EDS分析は、粒子表面にケイ素及びチタンが存在することを示しており、これはTiOが中空粒子上に堆積されたことを示唆している。
【0049】
(例6)
酸化剤及び光触媒の組合せ:
フミン酸ナトリウム塩(HANa)を、50mg/lの濃度で水に溶解した。酸化剤及び光触媒をHANa溶液と混合し、混合溶液を可視光(VIS)又はUV光に1時間暴露した。Naを酸化剤として使用し、TiO(Degussa社製、P25)を光触媒として使用した。ハロゲンランプ及びキセノンランプを、それぞれVIS及びUV源として使用した。光照射前及び後のHANaの濃度を、UV−VIS分光分析により測定した。254nmでの吸収を使用して、HANa濃度を追跡した。
【0050】
表1は、結果を要約したものである。HANaは安定であり、酸化剤又はTiOが溶液中に存在しない場合、UV又はVIS照射により分解しなかった。表1に示されるように、酸化剤(Na)及び照射によりHANaは分解したが、ごく限られた量であった。HANaの濃度は、VIS光よりもUV光でより大きく減少したが、これは、UV下でのより強い酸化剤の形成に起因し得る。光触媒(TiO)単独でも、照射下でHANaが分解され得る。TiOはUV光で活性化されるため、この場合も除去率はVIS光より高い。溶液中に酸化剤のみ又はTiOのみが存在した場合、1時間でのHANaの分解は、可視光及びUV下において、それぞれ3%未満及び20%未満であり、これは、酸化剤及び光触媒によりHANaを酸化させることが困難であることを示している。
【0051】
一方、溶液に酸化剤及び光触媒の両方が添加された場合、HANa分解速度は劇的に増加した。溶液をUV光に1時間暴露した後、HANaの90%超が除去された。酸化剤及び光触媒の組合せはまた、VIS光下でもHANaを分解した。溶液をVIS光に1時間暴露した後、HANaの30%超が除去された。
【0052】
この結果は、酸化剤及び光触媒の混合の相乗効果を明確に示している。
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中の有機物、特に水中の希薄な毒性有機物、の除去のための方法であって、
光触媒膜(3)と組み合わせた酸化剤を含有するマイクロカプセル(2)に、該液体を接触させることを特徴とする上記方法。
【請求項2】
前記マイクロカプセル(2)が前記膜(3)上に固定化され、前記液体が圧力により膜に押し通される(pressed through)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メッシュフィルタ(9)が含まれ、前記液体が圧力により該メッシュフィルタに押し通される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロカプセル(2)が、前記膜(3)上及び前記メッシュフィルタ(9)上に固定化され、
前記液体が該膜に沿って流動し、
該液相と気相との間の接触器として機能する該膜の反対側から、気体が供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロカプセル(2)が前記膜(3)上に固定化され、該膜が該液相と気相との間の接触器として機能し、かつ、電場が印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記カプセルのシェルが、多孔質材料で作製されている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カプセルの前記多孔質シェルが、光触媒材料で作製されている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記光触媒が、好ましくは、酸化物、硝酸塩、硫化物、炭化物、金属錯体塩、有機半導体及び金属、これらの混合物、並びに、例えばN、S、Pt及び他のイオン及び金属によるこれらの材料のドーピングの中から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記カプセルが、O、空気、酸素富化空気、オゾン、H、過マンガン酸カリウム(KMnO)、過硫酸ナトリウム(Na)、ヨウ素(I)、又はその他の任意の酸化性物質で充填されている、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カプセルが、前記膜の細孔内又は前記膜の表面に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記カプセルが、前記液体中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記カプセルが、前記液体中及び前記膜上の両方に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
液体中の有機物、特に水中の希薄な毒性有機物、の除去のためのシステムであって、
酸化剤を含有するマイクロカプセル(2)と組み合わせた光触媒膜(3)を備えることを特徴とする上記システム。
【請求項14】
前記マイクロカプセル(2)が、前記膜(3)上に固定化される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記マイクロカプセル(2)が、前記膜(3)上及びメッシュフィルタ(9)上に固定化される、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記マイクロカプセル(2)が、メッシュフィルタ(9)上に固定化される、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記マイクロカプセル(2)が前記膜(3)上に固定化され、該膜が、前記液相と気相との間の接触器として機能し、かつ、電場が印加される、請求項13に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−500115(P2012−500115A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523762(P2011−523762)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【国際出願番号】PCT/NO2009/000291
【国際公開番号】WO2010/021552
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(508355068)
【Fターム(参考)】