液体光学素子
【課題】低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる液体光学素子を提供する。
【解決手段】撥水膜13を有するセル電極基板10と対向電極基板20との間に、透明な極性液体30および不透明な無極性液体40が互いに分離された状態を保ち封入されている。極性液体30は、水およびアルコールの混合液である。これにより、低温環境下に曝されても極性液体30が凝固しにくくなり、セル電極12と対向電極11との間に駆動電圧を印加した際およびそののち無印加の状態に戻した際に、速やかに極性液体30および無極性液体40が変形および変位する。
【解決手段】撥水膜13を有するセル電極基板10と対向電極基板20との間に、透明な極性液体30および不透明な無極性液体40が互いに分離された状態を保ち封入されている。極性液体30は、水およびアルコールの混合液である。これにより、低温環境下に曝されても極性液体30が凝固しにくくなり、セル電極12と対向電極11との間に駆動電圧を印加した際およびそののち無印加の状態に戻した際に、速やかに極性液体30および無極性液体40が変形および変位する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電的に塗れ性を制御するエレクトロウェッティングにより液体が変形および変位する現象を利用した液体光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電的に塗れ性を制御するエレクトロウェッティングにより液体が変形および変位する現象が知られている。この現象は、例えば、図9に示したように電極210の表面に形成された絶縁膜211と電極212との間に、導電性の液滴213が配置された場合において、電源214により電極210および電極212との間に電圧を印加すると、その電圧に応じて絶縁膜211の塗れ性が変化することにより生じる。すなわち、絶縁膜211の塗れ性が変化することにより、絶縁膜211に対する液滴213の接触角θが変化し、液滴213が変形および変位するものである。この場合には、絶縁膜211の塗れ性と絶縁膜211に対する液滴213の接触角θとの関係は、数1に示した式により説明されている。
【0003】
(数1)
γLVcosθ=γSV−γSL+γEW・・・(1)
γEW=(d×σL2)/(2×ε0 ×εr )・・・(2)
σL =ε0 ×εr ×V/d・・・(3)
(γLVは液体と気体との界面張力を表し、γSVは固体と気体との界面張力を表し、γSLは固体と液体との界面張力を表し、γEWは電界の強さによる界面張力を表す。ε0 は真空の誘電率を表し、εr は絶縁膜111の誘電率を表す。また、Vは印加電圧の大きさを表し、dは電極110および112の間の距離を表す。)
【0004】
このようなエレクトロウェッティングを利用した現象は、導電性が異なり、かつ混合しない2種類の液体を用いた場合においても生じることが知られている。この2種類の液体を用いる場合には、一般的に、絶縁膜として撥水膜が用いられ、2種類の液体として水を含む極性を有する液体と、シリコンオイルや炭化水素系の材料を含む無極性の液体とが用いられている。この撥水膜および極性が異なる2種の液体を用いる技術は、様々な分野において適用可能であるため注目されている。
【0005】
具体的には、2種類の液体の屈折率の差を利用してズームレンズや表示装置に設けたマイクロレンズとして用いる技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、2種類の液体のうちの一方に染料等を溶解あるいは分散させて、2種類の液体における光の透過率の差を利用して表示装置に用いる技術が知られている(例えば、特許文献3,4参照)。
【特許文献1】特表2006−504132号公報
【特許文献2】特開2006−267386号公報
【特許文献3】特開2000−356750号公報
【特許文献4】特表2007−500876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1〜4の技術では、低温環境においても使用可能にするために、極性を有する液体に無機塩が含まれている。このため、電極に電圧を印加した場合に、無機塩が電離して撥水膜の表面に蓄積あるいは吸着される不純物イオンとなることにより、電極間の電圧保持性が低下しやすいという問題があった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる液体光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体光学素子は、表面に絶縁膜が形成された第1の電極と、第1の電極の絶縁膜の側に対向配置された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に封入されて互いに分離した状態を保つ、透明な極性液体および不透明な無極性液体とを備えたものである。極性液体は水およびアルコールの混合液であり、かつ、混合液中の不純物イオン濃度は、第1の電極と第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下に設定される。この「電圧保持率」とは、電極間に電圧を印加した際に充電された電荷の量に対して、所定の時間を経過したのちに保持されている電荷の量の割合のことである。さらに、「不純物イオン」とは、電圧保持率を低下させる要因となる無機系あるいは有機系のイオンのことであり、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、または隔壁あるいは染料などの構成材料が分解しイオン化したものなどのことである。上記した絶縁膜は、例えば、無電界下において上記した極性液体よりも無極性液体との親和性が高いものであることが好ましい。
【0009】
本発明の液体光学素子では、第1の電極および第2の電極の間に駆動電圧が印加されると、第1の電極の表面に形成された絶縁膜の塗れ性が静電的に変化することによって、光の透過率が高くなるように極性液体および無極性液体が変形および変位する。よって、極性液体が水およびアルコールの混合液であることにより、低温環境下に曝された場合に、極性液体が凝固しづらくなり、両電極間に駆動電圧を印加した際およびそののち無印加の状態に戻した際に、速やかに極性液体および無極性液体が変形および変位する。また、極性液体中の不純物イオン濃度が第1の電極と第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であることにより、両電極間に駆動電圧を印加した場合に、絶縁膜の表面に蓄積あるいは吸着される不純物イオンの量が僅かとなるため、電圧保持率の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液体光学素子によれば、極性液体が水およびアルコールの混合液であり、かつその混合液中の不純物イオン濃度が第1の電極と第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であるので、低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る液体光学素子の断面構成を表している。また、図2は図1に示した液体光学素子が備えた1つのセルを拡大して表しており、図3は図2に示した液体光学素子のセルの平面構成を表している。図2(A)および図3(A)は、駆動電圧が印加されていない状態を表し、図2(B)および図3(B)は駆動電圧が印加されている状態を表している。この液体光学素子は、図1に示したように、対向配置されたセル電極基板10および対向電極基板20と、セル電極基板10と対向電極基板20との間に封入された透明な極性液体30および不透明な無極性液体40とを備えて構成されている。この液体光学素子は、図2に示したセルを複数備え透光量を制御する、いわゆる透過型の液体光学素子であり、表示装置や、カメラのシャッタあるいは絞りなどに用いられるものである。
【0013】
セル電極基板10は、透明基板11の対向電極基板20の側の面に、マトリックス状に分割されて複数形成されたセル電極12と、各セル電極12の表面を覆うように形成された撥水膜13と、撥水膜13の上に各セルを囲むように形成された隔壁14とを有して構成されている。なお、セル電極12は本発明の「第1の電極」の一具体例に対応し、撥水膜13は本発明の第1の電極の表面に形成された「絶縁膜」の一具体例に対応する。
【0014】
このセル電極基板10は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により洗浄されたものが好ましい。極性液体40中の不純物イオン濃度が低く抑えられるからである。
【0015】
透明基板11は、例えば、ガラス、シリコンまたはプラスチックなどの透明(光透過性)材料により構成されている。
【0016】
セル電極12は、セル電極基板10および対向電極基板20の間に駆動電圧を印加し、撥水膜13の塗れ性を制御するための一方の電極である。セル電極12は、例えば、光透過性を有する透明電極であり、例えば、酸化インジウム錫(ITO;Indium Tin Oxide)あるいは酸化亜鉛などの透明電極材料により構成されている。
【0017】
撥水膜13は、セル電極基板10および対向電極基板20の間に印加される駆動電圧により静電的に塗れ性が変化する絶縁膜である。絶縁膜である撥水膜13の塗れ性に応じて、撥水膜13と極性液体30および無極性液体40との接触する面積が変化する。撥水膜13は、無電界下において極性液体30よりも無極性液体40との親和性が高いものが好ましく、極性液体30および無極性液体40よりも表面の疎水性が高いものが好ましい。撥水膜13の材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系ポリマーが挙げられ、具体的には、比誘電率が2程度であるテフロンAF(AF1601S系;デュポン社製(テフロンは登録商標))や、サイトップ(旭硝子社製)などが挙げられる。なお、撥水膜13は、絶縁性を高めるために絶縁層の上に撥水層を積層した構造のものでもよい。この場合に用いられる絶縁層の材料としては、例えば、シリカ系のものなどが挙げられる。
【0018】
隔壁14は、不透明であり、無極性液体40が撥水膜13の表面を移動する領域を制限するためのものである。隔壁14は、各セルを囲むように各セルの間、すなわち各セル電極12の間に沿って撥水膜13の上に設けられている。この隔壁14は、例えば、フォトリソ法により形成されるものであり、その材料としては、ブラックレジストなどの不透明なレジスト材料などが挙げられる。なお、隔壁14は、各セル電極12の間の光の透過を遮るものであれば任意であり、不透明な層の上に透明な層を積層した構造のものでもよい。この場合に用いられる透明な層の材料としては、例えば、SU8(化薬マイクロケム社製)などの透明なレジスト材料が挙げられる。
【0019】
対向電極基板20は、透明基板21のセル電極基板10側の表面に対向電極22が形成された構成を有するものである。対向電極基板20は、セル電極基板10と同様に、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により洗浄されたものが好ましい。極性液体40中の不純物イオン濃度が低く抑えられるからである。なお、対向電極基板20は、対向電極22の表面に撥水膜13よりも疎水性の低い絶縁性の膜を形成したものでもよい。透明基板21は、例えば、透明基板11と同様の材料により構成されている。対向電極22は、セル電極基板10および対向電極基板20の間に電圧を印加するためのもう一方の電極であり、例えば、セル電極12と同様の材料により構成されている。
【0020】
極性液体30は、無極性液体40と混じり合わない(すなわち、互いに分離した状態を保つ)透明な液体である。極性液体30は、水およびアルコールの混合液であり、かつ、その混合液中の不純物イオン濃度は、セル電極12と対向電極22との間の電圧保持率が90%となる濃度以下のものである。これにより、水の他にアルコールを含むため、低温環境下に曝されても凝固が抑制される。また、不純物イオン濃度が低いため、撥水膜13の表面に蓄積あるいは吸着する不純物イオンの量を僅かにすることが可能になり、セル電極12および対向電極22の間に駆動電圧を繰り返し印加しても、電圧保持率の低下が抑制される。よって、低温特性が確保されると共に電圧保持性が向上する。
【0021】
極性液体30中の水とアルコールとの混合比は、後述する無極性液体40中に含まれる染料あるいは顔料が極性液体30に溶出しなければ任意である。但し、極性液体30中のアルコールが占める割合を大きくしたほうが、極性液体30の凝固および電圧保持率の低下をより抑制するうえ、後述するように、駆動電圧を印加していない状態(図2(A)および図3(A)に示した状態)における撥水膜13に対する無極性液体40の接触角が小さくなるため、駆動電圧を印加した場合の応答速度が速くなる。その一方で、極性液体30中のアルコールが占める割合が大きすぎると無極性液体40が含む染料あるいは顔料が極性液体30に溶出するおそれがある。このため、極性液体30中のアルコールが占める割合は10重量%以上60重量%以下であること、すなわち、極性液体30中の水が占める割合が40重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
【0022】
極性液体30は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水と、純度99.5%以上のアルコールとの混合液であることが好ましい。電圧保持率の低下が抑制されるからである。この純水としては、例えば、比抵抗値が18MΩ・cm以上のものが挙げられ、具体的には、ミリポア社製超純水製造システムにより製造される精密機器洗浄用の純水が挙げられる。また、アルコールは、不純物イオンの含有量が極微量であるものが好ましく、高い極性を有することから、低級アルコールであることが好ましい。低級アルコールとしては、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、イソプロピルアルコール(iPrOH)、あるいはエチレングリコールなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。中でも、メタノール、あるいはエタノール、またはメタノールおよびエタノールを混合したものが好ましい。メタノールを用いた場合には極性を高くすることが可能となり、エタノールを用いた場合には安全性を高めることが可能となるからである。
【0023】
無極性液体40は、極性液体30と混じり合わない(すなわち、互いに分離した状態を保つ)不透明な液体であり、例えば、無極性の溶媒あるいは分散媒と、染料あるいは顔料とを含むものである。無極性な溶媒あるいは分散媒としては、例えば、オクタン(C8 H18)、デカン(C10H22)、ウンデカン(C11H24)、ドデカン(C12H26)あるいはヘキサデカン(C16H34)などの飽和炭化水素や、シリコンオイルなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。また、顔料あるいは染料としては、例えば、カーボンブラックあるいはズダンブラックなどが挙げられる。
【0024】
この液体光学素子では、駆動電圧を印加してない状態(図2(A)および図3(A)に示した状態)において撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、撥水膜13の疎水性、ならびに極性液体30および無極性液体40の組成によって異なるが、その接触角は小さい(接触角の余弦値は1に近い)ほうが好ましい。駆動電圧が低くても、極性液体30および無極性液体40が図2(A)および図3(A)から、図2(B)および図3(B)に示した状態になるまでの応答時間が短縮され、その結果、応答速度が速くなるからである。
【0025】
なお、上記した撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、例えば、図4に示す測定方法により求めることできる。すなわち、図4に示したように、極性液体30Aにより満たされた容器100と、撥水膜13Aが形成された基板101とを撥水膜13Aの表面が下向きになるように容器100の中に配置し、鉤型シリンジ102により無極性液体40Aを撥水膜13Aの表面に配置する。この場合の撥水膜13Aに対する無極性液体40Aの角度を測定することにより接触角θを求めることができる。但し、図4に示した場合における極性液体30Aとは極性を有する液体のことであり、無極性液体40Aとは極性液体30Aと混じり合わない液体のことである。また、図4は、無極性液体40Aの比重が極性液体30Aの比重よりも小さい場合に接触角θを求める測定方法の一例である。
【0026】
また、上記した撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、例えば、後述する参考データにより推側することが可能である。次に、この参考データについて詳細を説明する。
【0027】
(参考データ1−1〜1−8)
図4に示した測定方法により接触角θを求めた。その際、極性液体30Aとして水およびメタノール(MeOH)を表1に示した割合で混合した混合液と、無極性液体40Aとしてドデカン(C12H26)と、サイトップ(旭硝子社製)よりなる撥水膜13Aが形成された基板101とを用いて、接触角θを求めた。なお、本参考データでは、無極性液体40Aとして染料あるいは顔料を含まないものを用いている。
【0028】
(参考データ1−9〜1−13,1−14〜1−18)
無極性液体としてドデカンの代わりにデカン(C10H22;参考データ1−9〜1−13)あるいはオクタン(C8 H18;参考データ1−14〜1−18)を用いたことを除き、参考データ1−1,1−2,1−4,1−6または1−8と同様にして接触角θを求めた。
【0029】
(参考データ2−1,2−2)
極性液体30Aとして水と、エタノール(EtOH;参考データ2−1)あるいはイソプロピルアルコール(iPrOH;参考データ2−2)との混合液を用いたことを除き、参考データ1−6と同様にして接触角θを求めた。
【0030】
これら参考データ1−1〜1−18について接触角θの余弦値(cosθ)を算出したところ、表1および図5に示した結果が得られた。また、参考データ2−1および2−2について接触角θの余弦値を求めたところ、表1に示した結果が得られた。なお、図5は、極性液体中の水が占める割合(重量%)と、無極性液体の接触角θの余弦値(cosθ)との関係を表している。図5では、参考データ1−1〜1−8と、参考データ1−9〜1−13と、参考データ1−14〜1−18をそれぞれ一つのデータ系列として示している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1および図5に示したように、参考データ1−1〜1−8の結果から、無極性液体40Aとしてドデカンを用いた場合には、極性液体30A中の水の占める割合が40重量%以上90重量%以下の範囲において、余弦値が0.8程度あるいはそれ以上となり良好な接触角θとなる傾向を示すことが確認された。また、参考データ1−9〜1−13、および参考データ1−14〜1−18の結果から、無極性液体40Aとしてデカンあるいはオクタンを用いた場合においても、参考データ1−1〜1−8と同様の傾向を示すことが確認された。すなわち、無極性液体の種類に関係なく、極性液体30A中の水の占める割合が40重量%以上90重量%以下の範囲において、余弦値が0.8程度あるいはそれ以上となり良好な接触角θとなることが判明した。
【0033】
また、参考データ1−6,2−1および2−2の結果から、極性液体30Aに混合するアルコールが低級アルコールであれば良好な接触角θとなり、そのアルコールがメタノールを含めばより良好な接触角θとなることが確認された。
【0034】
(参考データ3−1〜3−5)
無極性液体40Aとしてドデカンにズダンブラックを溶解させた液体を用いたことを除き、参考データ1−4と同様に接触角θを求めた。なお、この際、参考データ3−1では、10μm厚の無極性液体40Aの透過率が10%となるようにドデカンにズダンブラックを溶解させた。また、参考データ3−2〜3−5では、無極性液体40A中におけるズダンブラックの濃度が参考データ3−1に対して50%(参考データ3−2),33.3%(参考データ3−3),14%(参考データ3−4)あるいは2%(参考データ3−5)とした。
【0035】
これら参考データ3−1〜3−5について接触角θの余弦値を算出したところ、表2および図6に示した結果が得られた。なお、図6は、無極性液体中のズダンブラックの相対濃度(参考データ3−1を100%とする)と接触角θの余弦値(cosθ)との関係を表している。
【0036】
【表2】
【0037】
表2および図6に示したように、無極性液体中の染料等の含有量により接触角θは変化するが、その変化量は少なく、無極性液体が染料等を含まない場合と同程度であることが確認された。
【0038】
上記した表1,2および図5,6の結果から、本実施の形態における液体光学素子では、駆動電圧を印加してない状態において撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、無極性液体40の組成に関係なく、極性液体30中のアルコールが占める割合に影響を受けるものと考えられる。すなわち、撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、上記した本参考データにより推側可能であることが確認された。
【0039】
次に、上記した液体光学素子の製造方法ついて説明する。この液体光学素子は、例えば、以下の手順により製造される。
【0040】
まず、セル電極基板10を作製する。すなわち、透明基板11の表面に透明電極材料よりなる膜を形成したのち、その膜の上に感光性のレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンを形成する。そののち、混酸に浸すことによって透明電極材料よりなる膜をエッチングすることにより、マトリックス状のセル電極12を形成する。続いて、セル電極12が形成された透明基板11をLCD(Liquid Crystal Display)などのガラス基板などの洗浄工程にも用いられる洗剤等を用いて超音波洗浄したのち、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により洗剤を十分に除去する。そののち紫外線オゾン処理によりドライ洗浄する。続いて、スピンコート法などにより、透明基板11上のセル電極12を覆うように撥水膜13を形成する。続いて、紫外線オゾン処理法や酸素プラズマアッシング法により撥水膜13の表面を処理したのち、撥水膜13の上に感光性のレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンの隔壁14を形成する。続いて、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により、撥水膜13および隔壁14の表面の不純物イオンを除去する。最後に、紫外線オゾン処理法や酸素プラズマアッシング法により、撥水膜13および隔壁14の表面を処理することにより、それらの表面の撥水性を調整する。
【0041】
また、透明基板21の表面に透明電極材料よりなる対向電極22を形成したのち、セル電極12を形成したのちに行った洗浄方法と同様にして対向電極22の表面を洗浄することにより、対向電極基板20を作製する。
【0042】
次に、セル電極基板10および対向電極基板20を所定の間隔に保つための間隙形成材(図示せず)をセル電極基板10の外周部に配置する。この間隙形成材としては、例えばシール接着剤や、接着剤にシリカ球を混ぜたものなどが挙げられる。
【0043】
次に、セル電極基板10の撥水膜13の上に無極性液体40を塗布したのち、所定の速度で極性液体30を流し入れる。
【0044】
最後に、間隙形成材を介してセル電極基板10および対向電極基板20を貼り合わせたのちに、封止剤を用いてセル電極基板10および対向電極基板20の周縁部を封止する。これにより、図1〜図3に示した液体光学素子が完成する。
【0045】
次に、図2および図3を参照して、上記した液体光学素子の動作について説明する。
【0046】
上記した液体光学素子では、まず、駆動電圧が無印加の場合には、図2(A)および図3(A)に示したように無極性液体40が撥水膜13の全体を覆った状態となっている。このため、例えば、セル電極基板10側から光が照射されると、不透明な無極性液体40によって入射光は遮られる。一方、セル電極12および対向電極22の間に駆動電圧が印加された場合には、セル電極12および対向電極22の間の電位差に応じて撥水膜13の塗れ性が変化(疎水性が低下)し、撥水膜13の表面に対する無極性液体40の接触角が大きくなるように、極性液体30および無極性液体40が移動することとなる。その結果、図2(B)および図3(B)示したように無極性液体40が盛り上がった形状に変形した状態となる。このため、例えば、セル電極基板10側から光が照射されると、入射光は隔壁14と無極性液体40との間を透過して対向電極基板20の側に射出される。すなわち、駆動電圧に応じて撥水膜13が無極性液体40により覆われる面積が変化することにより、光の透過量が調整される。
【0047】
また、本実施の形態における液体光学素子では、上記したように、極性液体30が水およびアルコールの混合液であり、かつ極性液体30中の不純物イオン濃度がセル電極12と対向電極22との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であることにより、低温環境下に曝された場合には、極性液体30が凝固しづらくなると共に、駆動電圧を印加した場合には、撥水膜13の表面に蓄積あるいは吸着される不純物イオンの量が僅かであるため、著しい電圧保持率の低下が抑制される。すなわち、この液体光学素子によれば、低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0049】
(実施例1)
以下の手順により図1〜図3に示した液体光学素子を作製した。
【0050】
まず、セル電極基板10を作製した。すなわち、ガラスからなる透明基板11の表面に酸化インジウム錫(ITO)膜を形成したのち、そのITO膜の上に感光性のレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンを形成した。そののち、混酸に浸すことによってITO膜をエッチングすることにより、マトリックス状のセル電極12を形成した。続いて、洗剤を用いてセル電極12が形成された透明基板11を超音波洗浄したのち、純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)により洗剤を十分に除去した。そののち紫外線オゾン処理によりドライ洗浄した。続いて、スピンコート法により、サイトップ(旭硝子社製)からなる撥水膜13を形成した。続いて、紫外線オゾン処理法により撥水膜13の表面を処理したのち、撥水膜13の上に界面活性剤を含む感光性のブラックレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンの隔壁14を形成した。続いて、純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)により、撥水膜13および隔壁14の表面の不純物イオンを除去した。最後に、紫外線オゾン処理法により、撥水膜13および隔壁14の表面を処理することにより、それらの表面の撥水性を調整した。
【0051】
次に、対向電極基板20を作製した。すなわち、透明基板21の表面にITOよりなる対向電極22を形成したのち、洗剤を用いて超音波洗浄し、そののち純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)により洗剤を十分に除去した。そののち紫外線オゾン処理によりドライ洗浄した。
【0052】
次に、極性液体30および無極性液体40を後述する表3に示した組成となるように調整した。すなわち、純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)と、メタノール(純度99.9%以上)とを重量比で75:25となるよう混合し、極性液体30とした。また、10μm厚の無極性液体40の透過率が10%となるようにドデカン(C12H26)にズダンブラックを溶解させて無極性液体40とした。
【0053】
次に、シール接着剤からなる間隙形成材をセル電極基板10の外周部に配置したのち、撥水膜13の上に無極性液体40を塗布したのち、所定の速度で極性液体30を流し入れた。
【0054】
最後に、間隙形成材を介してセル電極基板10および対向電極基板20を貼り合わせたのちに、封止剤を用いてセル電極基板10および対向電極基板20の周縁部を封止することにより、図1〜図3に示した液体光学素子が完成した。
【0055】
(比較例1)
純水で洗浄していないセル電極基板10および対向電極基板20と、極性液体30として純水とを用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。
【0056】
(比較例2)
極性液体30として純水を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。
【0057】
(比較例3)
極性液体30として塩化リチウム(LiCl)水溶液(0.5mol/dm3 )を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。
【0058】
上記のように作製した実施例1および比較例1の液体光学素子について、応答時間の温度依存性を調べた。具体的には、実施例1では−40℃以上60℃以下の範囲において、また比較例1では0℃以上60℃以下の範囲において、10℃間隔で温度を変化させた雰囲気中における応答時間を以下の要領により測定することにより評価した。まず、各温度雰囲気中において、セル電極基板10を基準電位とし、20Vの正極性直流電圧を駆動電圧として印加し、光の透過率が10%から90%になるまでの応答時間(Ton)を測定した。続いて、その駆動電圧を無印加の状態に戻し、光の透過率が90%から10%になるまでの応答時間(Toff )を測定した。
【0059】
また、実施例1および比較例1〜3の液体光学素子について、電圧保持率を調べた。具体的には、駆動電圧の印加および無印加(ONおよびOFF)の繰り返しを60Hzとして、以下の要領によりセル電極12および対向電極22の間にかかる電圧をモニターし、電圧保持率を求めた。まず、約8.3m秒間の駆動電圧が印加された状態(ON状態)の中で、その20%の時間(約1.66m秒)だけセル電極基板10を基準電位として20Vの正極性直流電圧を印加し、残りの80%の時間(約6.64m秒)を開回路となるようにし、その電圧をモニターした。続いて、約8.3m秒間の駆動電圧が無印加の状態(OFF状態)の中で、その20%の時間(約1.66m秒)だけセル電極基板10を基準電位として0Vになるように直流電圧を印加し、残りの80%の時間(約6.64m秒)開回路となるようにし、その電圧をモニターした。最後に、ON状態において、初めの20%の時間に印加された電圧が開回路となっている時間もそのまま保持された場合の積分値を100%として、ON状態において開回路となっている時間に保持された電圧の積分値から、電圧保持率(%)を算出した。
【0060】
これら実施例1および比較例1の各温度雰囲気において測定した応答時間(TONおよびTOFF)をまとめて図7に示す。また、実施例1および比較例1〜3のセル電極12および対向電極22の間にかかる電圧をモニターした結果を図8に示すと共に、その際の電圧保持率を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
図7に示したように、実施例1では、比較例1よりもTonおよびToffの双方が短く、特に10℃以下において実施例1と比較例1との差が顕著となった。また、実施例1では、0℃以下において温度の低下に従ってTonおよびToffの双方が長くなる傾向を示したが、低温環境下であるにもかかわらず良好であった。すなわち、この液体光学素子では、極性液体30が水とメタノールとの混合液であることにより、低温特性を確保することができることが確認された。しかも、図7と、参考データとして示した図6との結果から、極性液体30がメタノールを含むことにより、撥水膜13に対する無極性液体40の接触角が、メタノールを含まない場合よりも小さくなり、応答時間が短縮されることが確認された。
【0063】
また、図8および表3に示したように、ON状態において、実施例1では、比較例1〜3よりも開回路時の電圧が高くなり、その電圧保持率は95%であった。特に比較例1,3では、比較例2よりも電圧保持率が著しく低くなった。一方、OFF状態において、実施例1では、比較例1〜3よりも開回路時の電圧が低くなった。特に比較例1〜3では、駆動電圧が印加されていないにもかかわらず、開回路時に3V程度の電圧がかかっていた。この結果は、極性液体30中に無機イオンが含まれると、撥水膜13にその無機イオンが蓄積あるいは吸着されることにより、駆動電圧が印加されても、その電圧が保持されづらくなることを表している。すなわち、極性液体30中の不純物イオン濃度が少ないほうが、電圧保持率が高くなるものと考えられる。
【0064】
このことから、上記した液体光学素子では、極性液体30が水およびアルコールの混合液であり、かつ極性液体30中の不純物イオン濃度がセル電極12と対向電極22との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であることにより、低温特性が確保されると共に電圧保持性が向上することが確認された。
【0065】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明の液体光学素子を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、透過型の液体光学素子について説明したが、本発明では必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、反射型ものとしてもよい。反射型とした場合には、セル電極がアルミニウムなどの光反射性を有する電極材料により構成される。
【0066】
また、上記した実施の形態および実施例では、使用用途として表示装置やカメラのシャッタあるいは絞りを挙げたが、本発明の液体光学素子の使用用途は、必ずしもそれらの用途に限らず、他の用途であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液体光学素子の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した液体光学素子のセル部分を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した液体光学素子のセル部分の平面図である。
【図4】撥水膜に対する無極性液体の接触角を測定する方法を表す図である。
【図5】参考データにおける極性液体中の水が占める割合と接触角との間の相関を表す図である。
【図6】参考データにおける無極性液体中の染料の濃度と接触角との間の相関を表す図である。
【図7】実施例において作製した液体光学素子における温度と応答時間との相関を表す図である。
【図8】実施例において作製した液体光学素子における時間に対する電圧の変化を表す図である。
【図9】エレクトロウェッティング現象を説明するための図である。
【符号の説明】
【0068】
10…セル電極基板、11,21…透明基板、12…セル電極、13,13A…撥水膜、14…隔壁、20…対向電極基板、22…対向電極、30,30A…極性液体、40,40A…無極性液体、100…容器、110…基板、120…鉤型シリンジ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電的に塗れ性を制御するエレクトロウェッティングにより液体が変形および変位する現象を利用した液体光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電的に塗れ性を制御するエレクトロウェッティングにより液体が変形および変位する現象が知られている。この現象は、例えば、図9に示したように電極210の表面に形成された絶縁膜211と電極212との間に、導電性の液滴213が配置された場合において、電源214により電極210および電極212との間に電圧を印加すると、その電圧に応じて絶縁膜211の塗れ性が変化することにより生じる。すなわち、絶縁膜211の塗れ性が変化することにより、絶縁膜211に対する液滴213の接触角θが変化し、液滴213が変形および変位するものである。この場合には、絶縁膜211の塗れ性と絶縁膜211に対する液滴213の接触角θとの関係は、数1に示した式により説明されている。
【0003】
(数1)
γLVcosθ=γSV−γSL+γEW・・・(1)
γEW=(d×σL2)/(2×ε0 ×εr )・・・(2)
σL =ε0 ×εr ×V/d・・・(3)
(γLVは液体と気体との界面張力を表し、γSVは固体と気体との界面張力を表し、γSLは固体と液体との界面張力を表し、γEWは電界の強さによる界面張力を表す。ε0 は真空の誘電率を表し、εr は絶縁膜111の誘電率を表す。また、Vは印加電圧の大きさを表し、dは電極110および112の間の距離を表す。)
【0004】
このようなエレクトロウェッティングを利用した現象は、導電性が異なり、かつ混合しない2種類の液体を用いた場合においても生じることが知られている。この2種類の液体を用いる場合には、一般的に、絶縁膜として撥水膜が用いられ、2種類の液体として水を含む極性を有する液体と、シリコンオイルや炭化水素系の材料を含む無極性の液体とが用いられている。この撥水膜および極性が異なる2種の液体を用いる技術は、様々な分野において適用可能であるため注目されている。
【0005】
具体的には、2種類の液体の屈折率の差を利用してズームレンズや表示装置に設けたマイクロレンズとして用いる技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、2種類の液体のうちの一方に染料等を溶解あるいは分散させて、2種類の液体における光の透過率の差を利用して表示装置に用いる技術が知られている(例えば、特許文献3,4参照)。
【特許文献1】特表2006−504132号公報
【特許文献2】特開2006−267386号公報
【特許文献3】特開2000−356750号公報
【特許文献4】特表2007−500876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1〜4の技術では、低温環境においても使用可能にするために、極性を有する液体に無機塩が含まれている。このため、電極に電圧を印加した場合に、無機塩が電離して撥水膜の表面に蓄積あるいは吸着される不純物イオンとなることにより、電極間の電圧保持性が低下しやすいという問題があった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる液体光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体光学素子は、表面に絶縁膜が形成された第1の電極と、第1の電極の絶縁膜の側に対向配置された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に封入されて互いに分離した状態を保つ、透明な極性液体および不透明な無極性液体とを備えたものである。極性液体は水およびアルコールの混合液であり、かつ、混合液中の不純物イオン濃度は、第1の電極と第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下に設定される。この「電圧保持率」とは、電極間に電圧を印加した際に充電された電荷の量に対して、所定の時間を経過したのちに保持されている電荷の量の割合のことである。さらに、「不純物イオン」とは、電圧保持率を低下させる要因となる無機系あるいは有機系のイオンのことであり、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、または隔壁あるいは染料などの構成材料が分解しイオン化したものなどのことである。上記した絶縁膜は、例えば、無電界下において上記した極性液体よりも無極性液体との親和性が高いものであることが好ましい。
【0009】
本発明の液体光学素子では、第1の電極および第2の電極の間に駆動電圧が印加されると、第1の電極の表面に形成された絶縁膜の塗れ性が静電的に変化することによって、光の透過率が高くなるように極性液体および無極性液体が変形および変位する。よって、極性液体が水およびアルコールの混合液であることにより、低温環境下に曝された場合に、極性液体が凝固しづらくなり、両電極間に駆動電圧を印加した際およびそののち無印加の状態に戻した際に、速やかに極性液体および無極性液体が変形および変位する。また、極性液体中の不純物イオン濃度が第1の電極と第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であることにより、両電極間に駆動電圧を印加した場合に、絶縁膜の表面に蓄積あるいは吸着される不純物イオンの量が僅かとなるため、電圧保持率の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液体光学素子によれば、極性液体が水およびアルコールの混合液であり、かつその混合液中の不純物イオン濃度が第1の電極と第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であるので、低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る液体光学素子の断面構成を表している。また、図2は図1に示した液体光学素子が備えた1つのセルを拡大して表しており、図3は図2に示した液体光学素子のセルの平面構成を表している。図2(A)および図3(A)は、駆動電圧が印加されていない状態を表し、図2(B)および図3(B)は駆動電圧が印加されている状態を表している。この液体光学素子は、図1に示したように、対向配置されたセル電極基板10および対向電極基板20と、セル電極基板10と対向電極基板20との間に封入された透明な極性液体30および不透明な無極性液体40とを備えて構成されている。この液体光学素子は、図2に示したセルを複数備え透光量を制御する、いわゆる透過型の液体光学素子であり、表示装置や、カメラのシャッタあるいは絞りなどに用いられるものである。
【0013】
セル電極基板10は、透明基板11の対向電極基板20の側の面に、マトリックス状に分割されて複数形成されたセル電極12と、各セル電極12の表面を覆うように形成された撥水膜13と、撥水膜13の上に各セルを囲むように形成された隔壁14とを有して構成されている。なお、セル電極12は本発明の「第1の電極」の一具体例に対応し、撥水膜13は本発明の第1の電極の表面に形成された「絶縁膜」の一具体例に対応する。
【0014】
このセル電極基板10は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により洗浄されたものが好ましい。極性液体40中の不純物イオン濃度が低く抑えられるからである。
【0015】
透明基板11は、例えば、ガラス、シリコンまたはプラスチックなどの透明(光透過性)材料により構成されている。
【0016】
セル電極12は、セル電極基板10および対向電極基板20の間に駆動電圧を印加し、撥水膜13の塗れ性を制御するための一方の電極である。セル電極12は、例えば、光透過性を有する透明電極であり、例えば、酸化インジウム錫(ITO;Indium Tin Oxide)あるいは酸化亜鉛などの透明電極材料により構成されている。
【0017】
撥水膜13は、セル電極基板10および対向電極基板20の間に印加される駆動電圧により静電的に塗れ性が変化する絶縁膜である。絶縁膜である撥水膜13の塗れ性に応じて、撥水膜13と極性液体30および無極性液体40との接触する面積が変化する。撥水膜13は、無電界下において極性液体30よりも無極性液体40との親和性が高いものが好ましく、極性液体30および無極性液体40よりも表面の疎水性が高いものが好ましい。撥水膜13の材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系ポリマーが挙げられ、具体的には、比誘電率が2程度であるテフロンAF(AF1601S系;デュポン社製(テフロンは登録商標))や、サイトップ(旭硝子社製)などが挙げられる。なお、撥水膜13は、絶縁性を高めるために絶縁層の上に撥水層を積層した構造のものでもよい。この場合に用いられる絶縁層の材料としては、例えば、シリカ系のものなどが挙げられる。
【0018】
隔壁14は、不透明であり、無極性液体40が撥水膜13の表面を移動する領域を制限するためのものである。隔壁14は、各セルを囲むように各セルの間、すなわち各セル電極12の間に沿って撥水膜13の上に設けられている。この隔壁14は、例えば、フォトリソ法により形成されるものであり、その材料としては、ブラックレジストなどの不透明なレジスト材料などが挙げられる。なお、隔壁14は、各セル電極12の間の光の透過を遮るものであれば任意であり、不透明な層の上に透明な層を積層した構造のものでもよい。この場合に用いられる透明な層の材料としては、例えば、SU8(化薬マイクロケム社製)などの透明なレジスト材料が挙げられる。
【0019】
対向電極基板20は、透明基板21のセル電極基板10側の表面に対向電極22が形成された構成を有するものである。対向電極基板20は、セル電極基板10と同様に、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により洗浄されたものが好ましい。極性液体40中の不純物イオン濃度が低く抑えられるからである。なお、対向電極基板20は、対向電極22の表面に撥水膜13よりも疎水性の低い絶縁性の膜を形成したものでもよい。透明基板21は、例えば、透明基板11と同様の材料により構成されている。対向電極22は、セル電極基板10および対向電極基板20の間に電圧を印加するためのもう一方の電極であり、例えば、セル電極12と同様の材料により構成されている。
【0020】
極性液体30は、無極性液体40と混じり合わない(すなわち、互いに分離した状態を保つ)透明な液体である。極性液体30は、水およびアルコールの混合液であり、かつ、その混合液中の不純物イオン濃度は、セル電極12と対向電極22との間の電圧保持率が90%となる濃度以下のものである。これにより、水の他にアルコールを含むため、低温環境下に曝されても凝固が抑制される。また、不純物イオン濃度が低いため、撥水膜13の表面に蓄積あるいは吸着する不純物イオンの量を僅かにすることが可能になり、セル電極12および対向電極22の間に駆動電圧を繰り返し印加しても、電圧保持率の低下が抑制される。よって、低温特性が確保されると共に電圧保持性が向上する。
【0021】
極性液体30中の水とアルコールとの混合比は、後述する無極性液体40中に含まれる染料あるいは顔料が極性液体30に溶出しなければ任意である。但し、極性液体30中のアルコールが占める割合を大きくしたほうが、極性液体30の凝固および電圧保持率の低下をより抑制するうえ、後述するように、駆動電圧を印加していない状態(図2(A)および図3(A)に示した状態)における撥水膜13に対する無極性液体40の接触角が小さくなるため、駆動電圧を印加した場合の応答速度が速くなる。その一方で、極性液体30中のアルコールが占める割合が大きすぎると無極性液体40が含む染料あるいは顔料が極性液体30に溶出するおそれがある。このため、極性液体30中のアルコールが占める割合は10重量%以上60重量%以下であること、すなわち、極性液体30中の水が占める割合が40重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
【0022】
極性液体30は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水と、純度99.5%以上のアルコールとの混合液であることが好ましい。電圧保持率の低下が抑制されるからである。この純水としては、例えば、比抵抗値が18MΩ・cm以上のものが挙げられ、具体的には、ミリポア社製超純水製造システムにより製造される精密機器洗浄用の純水が挙げられる。また、アルコールは、不純物イオンの含有量が極微量であるものが好ましく、高い極性を有することから、低級アルコールであることが好ましい。低級アルコールとしては、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、イソプロピルアルコール(iPrOH)、あるいはエチレングリコールなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。中でも、メタノール、あるいはエタノール、またはメタノールおよびエタノールを混合したものが好ましい。メタノールを用いた場合には極性を高くすることが可能となり、エタノールを用いた場合には安全性を高めることが可能となるからである。
【0023】
無極性液体40は、極性液体30と混じり合わない(すなわち、互いに分離した状態を保つ)不透明な液体であり、例えば、無極性の溶媒あるいは分散媒と、染料あるいは顔料とを含むものである。無極性な溶媒あるいは分散媒としては、例えば、オクタン(C8 H18)、デカン(C10H22)、ウンデカン(C11H24)、ドデカン(C12H26)あるいはヘキサデカン(C16H34)などの飽和炭化水素や、シリコンオイルなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。また、顔料あるいは染料としては、例えば、カーボンブラックあるいはズダンブラックなどが挙げられる。
【0024】
この液体光学素子では、駆動電圧を印加してない状態(図2(A)および図3(A)に示した状態)において撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、撥水膜13の疎水性、ならびに極性液体30および無極性液体40の組成によって異なるが、その接触角は小さい(接触角の余弦値は1に近い)ほうが好ましい。駆動電圧が低くても、極性液体30および無極性液体40が図2(A)および図3(A)から、図2(B)および図3(B)に示した状態になるまでの応答時間が短縮され、その結果、応答速度が速くなるからである。
【0025】
なお、上記した撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、例えば、図4に示す測定方法により求めることできる。すなわち、図4に示したように、極性液体30Aにより満たされた容器100と、撥水膜13Aが形成された基板101とを撥水膜13Aの表面が下向きになるように容器100の中に配置し、鉤型シリンジ102により無極性液体40Aを撥水膜13Aの表面に配置する。この場合の撥水膜13Aに対する無極性液体40Aの角度を測定することにより接触角θを求めることができる。但し、図4に示した場合における極性液体30Aとは極性を有する液体のことであり、無極性液体40Aとは極性液体30Aと混じり合わない液体のことである。また、図4は、無極性液体40Aの比重が極性液体30Aの比重よりも小さい場合に接触角θを求める測定方法の一例である。
【0026】
また、上記した撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、例えば、後述する参考データにより推側することが可能である。次に、この参考データについて詳細を説明する。
【0027】
(参考データ1−1〜1−8)
図4に示した測定方法により接触角θを求めた。その際、極性液体30Aとして水およびメタノール(MeOH)を表1に示した割合で混合した混合液と、無極性液体40Aとしてドデカン(C12H26)と、サイトップ(旭硝子社製)よりなる撥水膜13Aが形成された基板101とを用いて、接触角θを求めた。なお、本参考データでは、無極性液体40Aとして染料あるいは顔料を含まないものを用いている。
【0028】
(参考データ1−9〜1−13,1−14〜1−18)
無極性液体としてドデカンの代わりにデカン(C10H22;参考データ1−9〜1−13)あるいはオクタン(C8 H18;参考データ1−14〜1−18)を用いたことを除き、参考データ1−1,1−2,1−4,1−6または1−8と同様にして接触角θを求めた。
【0029】
(参考データ2−1,2−2)
極性液体30Aとして水と、エタノール(EtOH;参考データ2−1)あるいはイソプロピルアルコール(iPrOH;参考データ2−2)との混合液を用いたことを除き、参考データ1−6と同様にして接触角θを求めた。
【0030】
これら参考データ1−1〜1−18について接触角θの余弦値(cosθ)を算出したところ、表1および図5に示した結果が得られた。また、参考データ2−1および2−2について接触角θの余弦値を求めたところ、表1に示した結果が得られた。なお、図5は、極性液体中の水が占める割合(重量%)と、無極性液体の接触角θの余弦値(cosθ)との関係を表している。図5では、参考データ1−1〜1−8と、参考データ1−9〜1−13と、参考データ1−14〜1−18をそれぞれ一つのデータ系列として示している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1および図5に示したように、参考データ1−1〜1−8の結果から、無極性液体40Aとしてドデカンを用いた場合には、極性液体30A中の水の占める割合が40重量%以上90重量%以下の範囲において、余弦値が0.8程度あるいはそれ以上となり良好な接触角θとなる傾向を示すことが確認された。また、参考データ1−9〜1−13、および参考データ1−14〜1−18の結果から、無極性液体40Aとしてデカンあるいはオクタンを用いた場合においても、参考データ1−1〜1−8と同様の傾向を示すことが確認された。すなわち、無極性液体の種類に関係なく、極性液体30A中の水の占める割合が40重量%以上90重量%以下の範囲において、余弦値が0.8程度あるいはそれ以上となり良好な接触角θとなることが判明した。
【0033】
また、参考データ1−6,2−1および2−2の結果から、極性液体30Aに混合するアルコールが低級アルコールであれば良好な接触角θとなり、そのアルコールがメタノールを含めばより良好な接触角θとなることが確認された。
【0034】
(参考データ3−1〜3−5)
無極性液体40Aとしてドデカンにズダンブラックを溶解させた液体を用いたことを除き、参考データ1−4と同様に接触角θを求めた。なお、この際、参考データ3−1では、10μm厚の無極性液体40Aの透過率が10%となるようにドデカンにズダンブラックを溶解させた。また、参考データ3−2〜3−5では、無極性液体40A中におけるズダンブラックの濃度が参考データ3−1に対して50%(参考データ3−2),33.3%(参考データ3−3),14%(参考データ3−4)あるいは2%(参考データ3−5)とした。
【0035】
これら参考データ3−1〜3−5について接触角θの余弦値を算出したところ、表2および図6に示した結果が得られた。なお、図6は、無極性液体中のズダンブラックの相対濃度(参考データ3−1を100%とする)と接触角θの余弦値(cosθ)との関係を表している。
【0036】
【表2】
【0037】
表2および図6に示したように、無極性液体中の染料等の含有量により接触角θは変化するが、その変化量は少なく、無極性液体が染料等を含まない場合と同程度であることが確認された。
【0038】
上記した表1,2および図5,6の結果から、本実施の形態における液体光学素子では、駆動電圧を印加してない状態において撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、無極性液体40の組成に関係なく、極性液体30中のアルコールが占める割合に影響を受けるものと考えられる。すなわち、撥水膜13に対する無極性液体40の接触角は、上記した本参考データにより推側可能であることが確認された。
【0039】
次に、上記した液体光学素子の製造方法ついて説明する。この液体光学素子は、例えば、以下の手順により製造される。
【0040】
まず、セル電極基板10を作製する。すなわち、透明基板11の表面に透明電極材料よりなる膜を形成したのち、その膜の上に感光性のレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンを形成する。そののち、混酸に浸すことによって透明電極材料よりなる膜をエッチングすることにより、マトリックス状のセル電極12を形成する。続いて、セル電極12が形成された透明基板11をLCD(Liquid Crystal Display)などのガラス基板などの洗浄工程にも用いられる洗剤等を用いて超音波洗浄したのち、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により洗剤を十分に除去する。そののち紫外線オゾン処理によりドライ洗浄する。続いて、スピンコート法などにより、透明基板11上のセル電極12を覆うように撥水膜13を形成する。続いて、紫外線オゾン処理法や酸素プラズマアッシング法により撥水膜13の表面を処理したのち、撥水膜13の上に感光性のレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンの隔壁14を形成する。続いて、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水により、撥水膜13および隔壁14の表面の不純物イオンを除去する。最後に、紫外線オゾン処理法や酸素プラズマアッシング法により、撥水膜13および隔壁14の表面を処理することにより、それらの表面の撥水性を調整する。
【0041】
また、透明基板21の表面に透明電極材料よりなる対向電極22を形成したのち、セル電極12を形成したのちに行った洗浄方法と同様にして対向電極22の表面を洗浄することにより、対向電極基板20を作製する。
【0042】
次に、セル電極基板10および対向電極基板20を所定の間隔に保つための間隙形成材(図示せず)をセル電極基板10の外周部に配置する。この間隙形成材としては、例えばシール接着剤や、接着剤にシリカ球を混ぜたものなどが挙げられる。
【0043】
次に、セル電極基板10の撥水膜13の上に無極性液体40を塗布したのち、所定の速度で極性液体30を流し入れる。
【0044】
最後に、間隙形成材を介してセル電極基板10および対向電極基板20を貼り合わせたのちに、封止剤を用いてセル電極基板10および対向電極基板20の周縁部を封止する。これにより、図1〜図3に示した液体光学素子が完成する。
【0045】
次に、図2および図3を参照して、上記した液体光学素子の動作について説明する。
【0046】
上記した液体光学素子では、まず、駆動電圧が無印加の場合には、図2(A)および図3(A)に示したように無極性液体40が撥水膜13の全体を覆った状態となっている。このため、例えば、セル電極基板10側から光が照射されると、不透明な無極性液体40によって入射光は遮られる。一方、セル電極12および対向電極22の間に駆動電圧が印加された場合には、セル電極12および対向電極22の間の電位差に応じて撥水膜13の塗れ性が変化(疎水性が低下)し、撥水膜13の表面に対する無極性液体40の接触角が大きくなるように、極性液体30および無極性液体40が移動することとなる。その結果、図2(B)および図3(B)示したように無極性液体40が盛り上がった形状に変形した状態となる。このため、例えば、セル電極基板10側から光が照射されると、入射光は隔壁14と無極性液体40との間を透過して対向電極基板20の側に射出される。すなわち、駆動電圧に応じて撥水膜13が無極性液体40により覆われる面積が変化することにより、光の透過量が調整される。
【0047】
また、本実施の形態における液体光学素子では、上記したように、極性液体30が水およびアルコールの混合液であり、かつ極性液体30中の不純物イオン濃度がセル電極12と対向電極22との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であることにより、低温環境下に曝された場合には、極性液体30が凝固しづらくなると共に、駆動電圧を印加した場合には、撥水膜13の表面に蓄積あるいは吸着される不純物イオンの量が僅かであるため、著しい電圧保持率の低下が抑制される。すなわち、この液体光学素子によれば、低温特性を確保すると共に電圧保持性を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0049】
(実施例1)
以下の手順により図1〜図3に示した液体光学素子を作製した。
【0050】
まず、セル電極基板10を作製した。すなわち、ガラスからなる透明基板11の表面に酸化インジウム錫(ITO)膜を形成したのち、そのITO膜の上に感光性のレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンを形成した。そののち、混酸に浸すことによってITO膜をエッチングすることにより、マトリックス状のセル電極12を形成した。続いて、洗剤を用いてセル電極12が形成された透明基板11を超音波洗浄したのち、純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)により洗剤を十分に除去した。そののち紫外線オゾン処理によりドライ洗浄した。続いて、スピンコート法により、サイトップ(旭硝子社製)からなる撥水膜13を形成した。続いて、紫外線オゾン処理法により撥水膜13の表面を処理したのち、撥水膜13の上に界面活性剤を含む感光性のブラックレジスト材料を塗布し、フォトリソ法によって所定のパターンの隔壁14を形成した。続いて、純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)により、撥水膜13および隔壁14の表面の不純物イオンを除去した。最後に、紫外線オゾン処理法により、撥水膜13および隔壁14の表面を処理することにより、それらの表面の撥水性を調整した。
【0051】
次に、対向電極基板20を作製した。すなわち、透明基板21の表面にITOよりなる対向電極22を形成したのち、洗剤を用いて超音波洗浄し、そののち純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)により洗剤を十分に除去した。そののち紫外線オゾン処理によりドライ洗浄した。
【0052】
次に、極性液体30および無極性液体40を後述する表3に示した組成となるように調整した。すなわち、純水(不純物イオン濃度が50ppm以下)と、メタノール(純度99.9%以上)とを重量比で75:25となるよう混合し、極性液体30とした。また、10μm厚の無極性液体40の透過率が10%となるようにドデカン(C12H26)にズダンブラックを溶解させて無極性液体40とした。
【0053】
次に、シール接着剤からなる間隙形成材をセル電極基板10の外周部に配置したのち、撥水膜13の上に無極性液体40を塗布したのち、所定の速度で極性液体30を流し入れた。
【0054】
最後に、間隙形成材を介してセル電極基板10および対向電極基板20を貼り合わせたのちに、封止剤を用いてセル電極基板10および対向電極基板20の周縁部を封止することにより、図1〜図3に示した液体光学素子が完成した。
【0055】
(比較例1)
純水で洗浄していないセル電極基板10および対向電極基板20と、極性液体30として純水とを用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。
【0056】
(比較例2)
極性液体30として純水を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。
【0057】
(比較例3)
極性液体30として塩化リチウム(LiCl)水溶液(0.5mol/dm3 )を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。
【0058】
上記のように作製した実施例1および比較例1の液体光学素子について、応答時間の温度依存性を調べた。具体的には、実施例1では−40℃以上60℃以下の範囲において、また比較例1では0℃以上60℃以下の範囲において、10℃間隔で温度を変化させた雰囲気中における応答時間を以下の要領により測定することにより評価した。まず、各温度雰囲気中において、セル電極基板10を基準電位とし、20Vの正極性直流電圧を駆動電圧として印加し、光の透過率が10%から90%になるまでの応答時間(Ton)を測定した。続いて、その駆動電圧を無印加の状態に戻し、光の透過率が90%から10%になるまでの応答時間(Toff )を測定した。
【0059】
また、実施例1および比較例1〜3の液体光学素子について、電圧保持率を調べた。具体的には、駆動電圧の印加および無印加(ONおよびOFF)の繰り返しを60Hzとして、以下の要領によりセル電極12および対向電極22の間にかかる電圧をモニターし、電圧保持率を求めた。まず、約8.3m秒間の駆動電圧が印加された状態(ON状態)の中で、その20%の時間(約1.66m秒)だけセル電極基板10を基準電位として20Vの正極性直流電圧を印加し、残りの80%の時間(約6.64m秒)を開回路となるようにし、その電圧をモニターした。続いて、約8.3m秒間の駆動電圧が無印加の状態(OFF状態)の中で、その20%の時間(約1.66m秒)だけセル電極基板10を基準電位として0Vになるように直流電圧を印加し、残りの80%の時間(約6.64m秒)開回路となるようにし、その電圧をモニターした。最後に、ON状態において、初めの20%の時間に印加された電圧が開回路となっている時間もそのまま保持された場合の積分値を100%として、ON状態において開回路となっている時間に保持された電圧の積分値から、電圧保持率(%)を算出した。
【0060】
これら実施例1および比較例1の各温度雰囲気において測定した応答時間(TONおよびTOFF)をまとめて図7に示す。また、実施例1および比較例1〜3のセル電極12および対向電極22の間にかかる電圧をモニターした結果を図8に示すと共に、その際の電圧保持率を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
図7に示したように、実施例1では、比較例1よりもTonおよびToffの双方が短く、特に10℃以下において実施例1と比較例1との差が顕著となった。また、実施例1では、0℃以下において温度の低下に従ってTonおよびToffの双方が長くなる傾向を示したが、低温環境下であるにもかかわらず良好であった。すなわち、この液体光学素子では、極性液体30が水とメタノールとの混合液であることにより、低温特性を確保することができることが確認された。しかも、図7と、参考データとして示した図6との結果から、極性液体30がメタノールを含むことにより、撥水膜13に対する無極性液体40の接触角が、メタノールを含まない場合よりも小さくなり、応答時間が短縮されることが確認された。
【0063】
また、図8および表3に示したように、ON状態において、実施例1では、比較例1〜3よりも開回路時の電圧が高くなり、その電圧保持率は95%であった。特に比較例1,3では、比較例2よりも電圧保持率が著しく低くなった。一方、OFF状態において、実施例1では、比較例1〜3よりも開回路時の電圧が低くなった。特に比較例1〜3では、駆動電圧が印加されていないにもかかわらず、開回路時に3V程度の電圧がかかっていた。この結果は、極性液体30中に無機イオンが含まれると、撥水膜13にその無機イオンが蓄積あるいは吸着されることにより、駆動電圧が印加されても、その電圧が保持されづらくなることを表している。すなわち、極性液体30中の不純物イオン濃度が少ないほうが、電圧保持率が高くなるものと考えられる。
【0064】
このことから、上記した液体光学素子では、極性液体30が水およびアルコールの混合液であり、かつ極性液体30中の不純物イオン濃度がセル電極12と対向電極22との間の電圧保持率が90%となる濃度以下であることにより、低温特性が確保されると共に電圧保持性が向上することが確認された。
【0065】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明の液体光学素子を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、透過型の液体光学素子について説明したが、本発明では必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、反射型ものとしてもよい。反射型とした場合には、セル電極がアルミニウムなどの光反射性を有する電極材料により構成される。
【0066】
また、上記した実施の形態および実施例では、使用用途として表示装置やカメラのシャッタあるいは絞りを挙げたが、本発明の液体光学素子の使用用途は、必ずしもそれらの用途に限らず、他の用途であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液体光学素子の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した液体光学素子のセル部分を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した液体光学素子のセル部分の平面図である。
【図4】撥水膜に対する無極性液体の接触角を測定する方法を表す図である。
【図5】参考データにおける極性液体中の水が占める割合と接触角との間の相関を表す図である。
【図6】参考データにおける無極性液体中の染料の濃度と接触角との間の相関を表す図である。
【図7】実施例において作製した液体光学素子における温度と応答時間との相関を表す図である。
【図8】実施例において作製した液体光学素子における時間に対する電圧の変化を表す図である。
【図9】エレクトロウェッティング現象を説明するための図である。
【符号の説明】
【0068】
10…セル電極基板、11,21…透明基板、12…セル電極、13,13A…撥水膜、14…隔壁、20…対向電極基板、22…対向電極、30,30A…極性液体、40,40A…無極性液体、100…容器、110…基板、120…鉤型シリンジ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に絶縁膜が形成された第1の電極と、
前記第1の電極の前記絶縁膜の側に対向配置された第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に封入されて互いに分離した状態を保つ、透明な極性液体および不透明な無極性液体と
を備え、
前記極性液体は、水およびアルコールの混合液であり、かつ、
前記混合液中の不純物イオン濃度は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下である
ことを特徴とする液体光学素子。
【請求項2】
前記絶縁膜が形成された状態の第1の電極および第2の電極は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水によって洗浄されたものであり、
前記極性液体は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水と純度99.5%以上のアルコールとを混合したものである
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項3】
前記アルコールは、エタノールを含む
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項4】
前記アルコールは、エタノールとメタノールとを混合したものである
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項5】
前記極性液体中のアルコールの占める割合は、10重量%以上60重量%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項6】
前記絶縁膜は、無電界下において前記極性液体よりも前記無極性液体との親和性が高いものである
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項1】
表面に絶縁膜が形成された第1の電極と、
前記第1の電極の前記絶縁膜の側に対向配置された第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に封入されて互いに分離した状態を保つ、透明な極性液体および不透明な無極性液体と
を備え、
前記極性液体は、水およびアルコールの混合液であり、かつ、
前記混合液中の不純物イオン濃度は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧保持率が90%となる濃度以下である
ことを特徴とする液体光学素子。
【請求項2】
前記絶縁膜が形成された状態の第1の電極および第2の電極は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水によって洗浄されたものであり、
前記極性液体は、不純物イオン濃度が50ppm以下の純水と純度99.5%以上のアルコールとを混合したものである
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項3】
前記アルコールは、エタノールを含む
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項4】
前記アルコールは、エタノールとメタノールとを混合したものである
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項5】
前記極性液体中のアルコールの占める割合は、10重量%以上60重量%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【請求項6】
前記絶縁膜は、無電界下において前記極性液体よりも前記無極性液体との親和性が高いものである
ことを特徴とする請求項1記載の液体光学素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−199013(P2009−199013A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43370(P2008−43370)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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