説明

液体収容容器および液体吐出カートリッジ

【課題】 小型化を可能とし、液体保持手段に吸収保持可能な液体量の増加を図り、液体漏れに対する信頼性を向上する。
【解決手段】 筐体11の内壁面に設けられた側面リブ12によって、第2のインク保持部材51と筐体11の内壁面との間には、大気連通口15まで連続する空間が形成されている。そして、第1のインク保持部材50と第2のインク保持部材51との当接領域内には、筐体11の内壁面に設けられた空間に連通する溝状空隙18が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット記録装置に装着されるインクタンクとして用いられ、外部部材に当接されて外部部材側に液体を供給するための液体収容容器、および液体を吐出する液体吐出カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インク滴を吐出することによって記録を行うインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドとインクタンクとを別体として形成し、使用時にこれらを一体化して用いる構成が知られている。このインクジェット記録装置に用いられるインクタンクには、インクを安定的に保持し、かつ、記録時には安定してインクジェットヘッドにインクを供給するために、インクに適切な背圧(負圧)を発生させるための機構が求められる。このように負圧を発生させるための方法としては、ウレタンフォーム等の多孔質体を負圧発生部材(インク吸収体)として用い、この多孔質体の毛管力を利用する方法が一般的である。
【0003】
一般的に、この多孔質体に保持されたインクはインク供給口から吐出部へ共通液室を介して吐出部のインク消費に応じたノズルの毛管力によってインクタンク内から導出される。このとき、インク漏れを防止するためにインクタンク内にリブが立設された構成が開示されている(特許文献1参照。)。
【0004】
この毛管力を利用する従来のインクタンクの一例として、模式的に示す図8および図9を参照して説明する。
【0005】
図8はインクタンクを示す外観斜視図、図9(a),(b)はインクタンクを示す断面図である。図9(a)は図8中のC−C断面図であり、図9(b)は図8中のD−D断面図である。なお、説明を分かりやすくするためにホルダ31とインクタンク10とを分離させた状態で示している。
【0006】
図8および図9(a)に示すように、インクタンク100は、インク用のインク収容部を構成する筐体を有している。この筐体は、上端が開口された本体111aと、この本体111aの開口を塞ぐ蓋部材111bとからなる。蓋部材111bには、筐体内に大気を導入するための大気連通口115と、バッファ用の空間を確保するための蓋リブ113が設けられている。筐体の本体111aの底面部には、インクジェットヘッド(不図示)にインクを供給するためのインク供給口114が形成されている。
【0007】
筐体の内部には、インクを含浸保持する第1のインク保持部材150および第2のインク保持部材151が装填されている。第1のインク保持部材150は、第2のインク保持部材151とインクタンク110の底面部との間に位置し、一端面が第2のインク保持部材151に密着されて、インク供給口114を筐体の内側から塞ぐように設けられている。
【0008】
また、筐体の本体111aの内側壁には、図9(a),(b)に示すように、側面リブ112が第2のインク保持部材151を取り囲むように複数形成されている。第2のインク保持部材151が筐体内に装填された状態で、この側面リブ112には、第2のインク保持部材151が押圧されており、側面リブ112の周囲に第2のインク保持部材151が充填されていない隙間が構成されている。この隙間は、大気連通口115まで連通されている。
【0009】
また、インクタンク100には、インク供給口114に、物流時のインク漏れやインク蒸発を抑えるためにキャップ117が装着されている。
【0010】
第1のインク保持部材150および第2のインク保持部材151は、共にインクを含浸保持するものであるが、第1のインク保持部材150のインク保持力(毛管力)は第2のインク保持部材151のインク保持力よりも大きくされている。これによって、第2のインク保持部材151に保持されているインクが第1のインク保持部材150に効率良く導かれ、第2のインク保持部材151に保持されたインクの消費効率が向上する。
【0011】
次に、上述した構成によるインク漏れを抑制するメカニズムについて図10、図11を参照して説明する。
【0012】
図10、図11は共にインクタンクの物流時のキャップ付き状態での断面図であり、インクタンクの大気導入用開口である大気連通口を下向きにした状態を示している。図10は、インクタンク内部にリブが形成されていない構成を示す断面図である。図11は、インクタンク内部にリブが形成されている構成を示す断面図である。
【0013】
まず、図10(a)〜(c)を参照してインクタンクの内部にリブが形成されていない場合について説明する。
【0014】
インクタンク110の運搬時の荷物取扱い等で、インクタンク110に図中下向き(大気連通口115の形成面に向かう方向)に衝撃が加わった場合、インク供給口114側に含浸保持されていたインク保持部材中のインク19は大気連通口115側へ衝撃により移動する。このとき、第1のインク保持部材150は、第2のインク保持部材151に対しインク保持力が大きいため衝撃によるインク移動がし難いため、主に第2のインク保持部材151中のインクが、このインク保持部材151中を大気連通口115側へ移動するように作用する。
【0015】
したがって、図10(b)に示すように、第1のインク保持部材150と第2のインク保持部材151との境界付近には、インク119の移動に伴って、インク119が保持されていない空間120が形成された状態となる。この状態で温度や気圧の変動を受けたとき、空間120は、周囲がインク119で包囲された閉塞空間であるために、図10(c)に示すように、閉塞空間内の空気の膨張に伴って、第2のインク保持部材151中のインク119を図中矢印方向に押し出し、最終的に大気連通口115からインクタンク100の外方へのインク漏れが発生してしまう。
【0016】
次に、図11を参照してインクタンク内部にリブが形成されている構成の場合について説明する。
【0017】
インクタンク100の輸送時の荷物取扱い等で、インクタンク100に図中下向き(大気連通口形成面に方向)に衝撃が加わった場合、図10(b)と同様に図11(b)に示すように、第1のインク保持部材150と第2のインク保持部材151との境界付近には、インク119の移動によってインク119が保持されていない空間120が形成された状態になる。しかし、インクタンク100内にリブが形成されている場合には、この状態で温度や気圧の変動を受けた場合であっても、空間120は速やかに側面リブ112周囲の隙間と連通されて大気連通口115までつながり、図11(c)に示すように、破線矢印で示したエアパス123を通じて空気が流れるため、殆どインク119を押し出すことが無くなる。
【0018】
また、一方、インクジェット記録装置の普及に伴い、携帯性に優れた小型の記録装置も開発されており、そのような小型の記録装置では、記録装置本体が小型化されるとともに、インクタンクも小型化される。
【0019】
従来のインクタンクとしては、このようなインクタンクの小型化に対して、タンク内の空間使用効率の向上と、安定的な供給動作を可能にする構成が開示されている(特許文献2参照。)。
【0020】
以下、模式的に示す図12および図13を参照して説明する。図12は従来のインクタンクとインクジェットヘッドおよびホルダの接合前の外観を示す分解斜視図であり、図13は一部を切り欠いて示す分解斜視図である。
【0021】
図12および図13に示すように、インクジェットカートリッジ130は、インクタンク100と、このインクタンク100を着脱可能に保持するホルダ131と、このホルダ131に一体に設けられてインクを吐出するインクジェットヘッド132とを備えている。
【0022】
インクジェットヘッド132は、インクを吐出する使用状態で、ホルダ131の底面部に位置されており、インクタンク100から供給されたインクを吐出する吐出口群(不図示)を有している。ホルダ131には、インクタンク100との接続部にインク受入管(外部部材)133が突出して設けられており、このインク受入管133がインク供給路(不図示)を介してインクジェットヘッド132の吐出口群に連通されている。
【0023】
図12に示すように、インクタンク100は、インク用のインク収容部を構成する筐体111を有している。この筐体111は、上端に開口を有する本体111aと、この本体111aの開口を塞ぐ蓋部材111bとからなる。蓋部材111bには、大気連通口115と、バッファ用の空間を確保するための蓋リブ113が設けられている。
【0024】
図13に示すように、筐体111の本体111aの底面部には、インクタンク100をホルダ131に装着した際にホルダ131のインク用のインク受入管133と対向する位置にインク供給口114が形成されている。筐体111の内部には、インクを含浸保持する第1のインク保持部材150および第2のインク保持部材151が装填されている。
【0025】
この第1のインク保持部材150は、第2のインク保持部材151とインクタンク100の底面部との間に位置され、第2のインク保持部材151に密着されて、インク供給口114をインクタンク100の内側から塞ぐように設けられている。第1のインク保持部材150は、筐体111のインク供給口114が設けられている部分(底面部)の内面形状に実質的に沿う形状にされている。第1のインク保持部材150のインク保持力(毛管力)は、第2のインク保持部材151のインク保持力よりも大きく構成されている。
【0026】
以上のような構成によれば、第1のインク保持部材150が、インクタンク100の筐体111のインク供給口114が設けられている部分の内面形状に実質的に沿う形状にされているため、インクタンク100内部のインク充填領域が増大して、小型のインクタンクであっても比較的大量のインクを保持することができる。また、高速でインクが供給される場合であっても、使われずにインクタンク100内に残留してしまうインクを抑え、インクの使用効率を高めることができる。
【0027】
さらに、第1のインク保持部材がシート状の部材からなる場合には、外部部材との当接時に生じるインク保持部材の局所的な変形を全体で吸収でき、第1のインク保持部材が座屈することで生じる周囲の空間を極力小さく抑えることができる。また、毛管力が比較的大きい第1のインク保持部材の内部容積を小さくすることによって、その内部に残留するインクを少なくして、インクの使用効率を高めることができる。
【特許文献1】特開平7−148937号公報
【特許文献2】特開2004−230702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
近年、インクジェット記録装置の普及に伴い、携帯性に優れた小型の記録装置も提案されており、そのような小型の記録装置では、記録装置本体が小型化されると共に、インクタンクも小型化が図られている。そのため、小型化されたインクタンクでは、いかに空間使用効率を低下させずにインク漏れを回避するかが重要なポイントとなる。
【0029】
しかし、従来の構成では、インク漏れの対策として、インクタンクの筐体の内壁面に多数のリブが設けられ、これらのリブによって、インク保持部材と筐体の内壁面との間に空間を形成しているため、これらの空間が占める体積分だけインク保持部材によるインク保持空間を減少させてしまう。
【0030】
また、上述の特許文献2に開示されたように、面全域に第1のインク保持部材を配置することで、インク使用効率を向上させた構成が採られたインクタンクでは、第1のインク保持部材の領域が広く、第1のインク保持部材と第2のインク保持部材との間に形成された密閉エア空間も大きくなるため、インク漏れを招く可能性も高くなる傾向にある。この場合、従来の構成でインク漏れに対する耐性を向上するためには、より一層多数のリブを配置する必要があり、インク保持空間を更に減少させてしまう傾向にある。
【0031】
そこで、本発明は、液体を吸収保持可能な液体保持手段を収容し、小型化が可能で、液体保持手段に吸収保持可能な液体量の増加を図り、かつ、液体漏れに対する信頼性を向上することができる液体収容容器、液体吐出カートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上述した目的を達成するため、本発明に係る液体収容容器は、液体を含浸保持可能な液体保持手段を収容する筐体と、この筐体に設けられ筐体内の液体を外部部材へ供給するための液体供給用開口と、筐体に設けられ筐体内に大気を導入するための大気導入用開口とを備える。また、液体保持手段は、外部部材が当接可能に設けられた第1液体保持部材と、この第1液体保持部材に当接して設けられ第1液体保持部材に液体を供給するための第2液体保持部材とを有し、第1液体保持部材の液体保持力が第2液体保持部材の液体保持力よりも大きくされている。また、筐体の内壁面に設けられた凹部または凸部によって、第2液体保持部材と筐体の内壁面との間には、大気導入用開口まで連続する空間が形成されている。そして、第1液体保持部材と第2液体保持部材との当接領域内には、筐体の内壁面に設けられた空間に連通する空隙が設けられている。
【発明の効果】
【0033】
上述したように本発明によれば、第1液体保持部材と第2液体保持部材との当接領域に、空間を介して大気導入用開口まで連通する空隙が設けられることによって、第2液体保持部材内で液体によって包囲された閉塞空間を効率良く大気に開放することが可能になり、比較的少ない空間によって液体漏れを防ぐことができる。このため、本発明によれば、液体収容容器内の空間使用効率を実質的に向上させ、比較的小型の液体収容容器であっても、液体保持手段に吸収保持可能な液体量を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に詳細に説明する。なお、図はあくまでも本発明の各実施形態を模式的に説明するための図であり、実際の構造とは寸法の割合が異なる部分がある。
【0035】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1(a)はインクジェットカートリッジを示す分解斜視図、図1(b),(c)はインクタンクを示す断面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面図であり、図1(c)は図1(a)のB−B断面図であり、図2は図1(c)の物流形態を説明する断面図である。なお、説明を分かりやすくするためにホルダ31とインクタンク10とが分離した状態で図示している。
【0036】
図1および図2に示すように、インクジェットカートリッジ30は、液体収容容器であるインクタンク10と、このインクタンク10を着脱可能に保持するホルダ31と、このホルダ31に一体に設けられてインクを吐出するインクジェットヘッド32とを備えている。
【0037】
インクタンク10には、インクジェットヘッド32に供給する液体であるインク(例えばブラックインク)が収容されている。なお、図1では、構成を説明する都合上、インク保持部材内に保持されているインクを図示していない。
【0038】
インクジェットヘッド32は、インクを吐出する使用状態で、ホルダ31の底面部に位置されており、インクタンク10から供給されたインクを吐出する吐出口群(不図示)を有している。ホルダ31には、インクタンク10との接続部にインク受入管(外部部材)33が突出して設けられており、このインク受入管33がインク供給路(不図示)を介してインクジェットヘッド32の吐出口群に連通されている。インク受入管33の先端には、インク受入管33内へ異物が侵入するのを防止するためのフィルタ34が取り付けられている。ホルダ31にインクタンク10が装着されることで、インクタンク10内のインクがインク受入管33およびインク供給路を経由してインクジェットヘッド32に供給され、吐出口群からインクが吐出される。
【0039】
図1(a)に示すように、インクタンク10は、インク用のインク収容部を構成する筐体11を有している。この筐体11は、上端が開口された本体11aと、この本体11aの開口を塞ぐ蓋部材11bとからなる。蓋部材11bには、図1(c)に示すように、筐体11内に大気を導入するための大気導入用開口である大気連通口15と、バッファ用の空間を確保するための蓋リブ13が設けられている。
【0040】
図1(c)に示すように、筐体11の本体11aの底面部には、インクタンク10がホルダ31に装着された際にホルダ31側のインク用のインク受入管33と対向する位置に、インク供給口14が形成されている。インク受入管33の外周部には、インクタンク10からインク受入管33を通じて供給されるインクがホルダ31内へ漏れるのを防止するとともにインクの蒸発を防ぐためのOリング(不図示)が設けられている。
【0041】
筐体11の内部には、インクを含浸保持する第1のインク保持部材50および第2のインク保持部材51が装填されている。第1のインク保持部材50は、第2のインク保持部材51とインクタンク10の底面部との間に位置し、一端面が第2のインク保持部材51に密着されて、インク供給口14をインクタンク10の内側から塞ぐように設けられている。第1のインク保持部材50は、筐体11のインク供給口14が設けられている部分(底面部)の内面形状に実質的に沿う形状にされている。また、図2に示すように、通常インクタンクは、物流時のインク漏れやインク蒸発を抑制するためにインク供給口14を塞ぐようにキャップ17が装着されている。
【0042】
本実施形態では、第1のインク保持部材50のインク保持力(毛管力)を、第2のインク保持部材51のインク保持力よりも高く設定した。これによって、第2のインク保持部材51に保持されているインクが第1のインク保持部材50側に効果的に導かれ、第2のインク保持部材51に保持されたインクの消費効率が向上する。
【0043】
具体的には、第1および第2のインク保持部材50,51は、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂からなる積層繊維集合体であり、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂からなる繊維をほぼ一方向に配列したウェブを積層し、これを積層方向に圧縮した繊維集合体を用いた。第1のインク保持部材50は、繊度が2.2dtex(直径:約18μm)程度の繊維を用い、圧縮後の密度を0.20g/cm3程度とした。第2のインク保持部材51は、繊度が6.7dtex(直径:約54μm)程度の繊維を用い、圧縮後の密度を0.08g/cm3程度とした。また、インク保持部材50,51のインク受入管33との当接方向の厚み寸法は、第2のインク保持部材51が12.5mm程度に形成されているのに対し、第1のインク保持部材50が1.5mm程度に形成されている。すなわち、第1のインク保持部材50はシート形状をなしている。
【0044】
このインクタンク10をホルダ31に装着することで、インク受入管33は、インク供給口14から第1のインク保持部材50に当接され、この第1のインク保持部材50に保持されているインクが、図1に示したインク受入管33、インク供給路(不図示)を経てインクジェットヘッド32の吐出口群に供給される。本実施形態では、インク受入管33と第1のインク保持部材50とが当接した際、インク受入管33による第1のインク保持部材50の押し込み量が0.5mm程度に設定されている。
【0045】
この第1のインク保持部材50と第2のインク保持部材51との当接面(境界面)には、この当接面の外周側に向かって直線状に延ばされた空隙である溝状空隙18がそれぞれ形成されている。具体的には、第2のインク保持部材51には、第1のインク保持部材50との当接面に相当する部位に空隙を設けるように直線状の溝部が切り欠かれて形成されている。また、これら溝状空間18は、第2のインク保持部材51の当接面の中心を間に挟んで互いに平行にそれぞれ形成されている。この溝状空隙18は、第2のインク保持部材51を形成する際に型での打ち抜き加工によって形成される。
【0046】
そして、第1のインク保持部材50と第2のインク保持部材51との間に位置する溝状空隙18を、大気連通口15に連通させるように、筐体11の本体11aの内壁の一側面には、第2のインク保持部材51の側面と筐体11の内壁面との間に空気が流れる空間である通路(エアパス)を形成するための側面リブ12が設けられている。また、各溝状空隙18は、図1(c)に示すB―B断面で、これら溝状空間18の間に側面リブ12が位置するように配置されている。
【0047】
また、本実施形態のインクタンク10の筐体11、すなわち本体11aと蓋部材11bは、第1のインク保持部材50および第2のインク保持部材51と同様にポリオレフィン系樹脂材料からなる。そのため、使用後にインクタンク10を分解して材料毎に分別廃棄することなく、容易にリサイクルやリユースすることが可能にされており、環境に配慮した構成にされている。
【0048】
次に、以上のように構成されたインクタンク10について、インク漏れを抑制するメカニズムを、図3を参照して説明する。
【0049】
図3は、インクタンクの物流時のキャップ付き状態を示す断面図である。図3(a)では、インクタンク10の大気連通口15を下向きにした状態を示している。
【0050】
図3(a)に示す状態で、輸送時のインクタンク10の荷物取扱い等でインクタンク10に図中下向きに衝撃が加わった場合、インク供給口14側に含浸保持されていた第1のインク保持部材50中のインク19は、衝撃によって大気連通口15側へ移動される。このとき、第1のインク保持部材50は、第2のインク保持部材51に比較してインク保持力が大きいので、衝撃によってインク19が移動し難い。このため、主に第2のインク保持部材51中のインク19がこの第2のインク保持部材51中を大気連通口15側へ移動するように作用する。したがって、図3(b)に示すように、第1のインク保持部部材50と第2のインク保持部材51との境界付近には、インク19の移動に伴って、インク19が保持されていない空間20が形成された状態となる。
【0051】
この状態で温度や気圧の変動を受けたとき、通常であれば空間20は、周囲がインクで包囲された閉塞空間であるために、閉塞空間内の空気の膨張・収縮によって、第2のインク保持部材中のインクが大気連通口側に押し出される。しかしながら、本実施形態の構成では、空間20が、速やかに溝状空隙18に連通されて大気連通口15までつながるため、図3(c)中に破線矢印で示すように、側面リブ12によって第2のインク保持部材51の側面と筐体11の内壁面との間に確保されたエアパス23を通って空気が流れて大気に開放されることで、殆どインク19が大気連通口15側に押し出されることが無くなる。
【0052】
上述のように構成することで、第2のインク保持部材51の側面と筐体11の内壁面との間に構成されるエアパス23は、溝状空隙18と大気連通口15とを連通させるように配置されればよく、図9(a)に示した構成と比較して、筐体11内に存在するエアパスの個数を最小限に減らせるので、比較的少ないエアパスでインク漏れを防ぐ信頼性を確保すると共に筐体11内の空間使用効率を実質的に向上を図ることができる。換言すれば、本実施形態のインクタンク10によれば、筐体11の内壁の一側面のみに側面リブ12が設けられて他の側面が筐体11の内壁面に当接されることで、小型化を図り、第2のインク保持部材51によって吸収保持されるインク量を増加させることができる。
【0053】
本実施形態では、インクタンクの物流時の形態として説明したが、インクジェット記録装置内部のキャリッジ(不図示)に搭載された状態でも同様の効果を発揮することは言うまでもない。
【0054】
また、本実施形態では、第1のインク保持部材50と第2のインク保持部材51との間に構成された空隙が溝形状に形成された一例を説明したが、空隙は直線状の溝形状に限定されるものではなく、例えば、第1のインク保持部材または第2のインク保持部材の当接面に突出部が設けられることで、この突出部によってエアパスの一部をなす空隙が形成されるように構成されても良い。
【0055】
さらに、本実施形態では、第1のインク保持部材50と第2のインク保持部材51との間のエアパスの一部をなす溝状空隙18は、第2のインク保持部材51側に設けられたが、第1のインク保持部材50側に設けられてもよく、また両方のインク保持部材50,51にそれぞれ設けられても良いことは勿論である。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るインクタンクについて図を参照して説明する。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同様な部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
図4は第2の実施形態のインクタンクを示す断面図である。本実施形態でも第1の実施形態と同様に、第1のインク保持部材50は、図4(a),(b)に示すように、第2のインク保持部材51とインクタンク10の底面部との間に配置され、第2のインク保持部材51に密着されて、インク供給口14をインクタンク10の内側から塞ぐように設けられている。第1のインク保持部材50は、筐体11のインク供給口14が設けられている部分(底面部)の内面形状に実質的に沿う形状にされている。また、第1のインク保持部材50のインク保持力(毛管力)は、第2のインク保持部材51のインク保持力よりも高くされている。
【0058】
次に、本実施形態における溝状空隙を形成する方法について、図5を参照して説明する。
【0059】
図5(a),(b)に示すように、第2のインク保持部材51には、外周面のうちで、第1のインク保持部材50との当接面に格子状部材22を押圧させて、この部分の第2のインク保持部材51を熱溶融によって熱変形させることで、第2のインク保持部材51の当接面に格子形状を転写することによって、格子状をなす溝状空隙28が形成されている。本実施形態でも第1の実施形態と同様に、この格子状をなす溝状空隙28のいずれか一端が、筐体11の側壁に設けられた側面リブ12によって構成されるエアパスを介して大気連通口15に連通されているので、インク漏れに対する耐性を向上することができる。
【0060】
本実施形態の製造方法を用いることで、第1の実施形態で述べた打ち抜き加工で溝状空隙を構成する場合に比べて、格子状形状等の比較的複雑な形状の溝状空隙も容易に形成することが可能であり、溝状空隙の形状の自由度を向上する点で望ましい。
【0061】
また、本実施形態では、第2のインク保持部材51を熱溶融することによって溝状空隙28が形成されることで、熱溶融されたインク保持部材51の溝状空隙28の構成箇所が、その他の部位に比較して微細孔の目が詰まった状態になるので、溝形状をしっかりと形成することができる。このため、インクジェットヘッド32をホルダ34に装着した際にインク受入管33がインク供給口から挿入される等によって、溝状空隙28が形成された部位が圧縮された場合であっても、溝状空隙28の形状がしっかりと良好に保たれて、エアパスの一部をなす機能を安定して果たすことができるので望ましい。
【0062】
さらには、上述したように第2のインク保持部材51を熱溶融することによって溝状空隙28が形成されることで、熱溶融されたインク保持部材51の溝状空隙28の構成箇所が、その他の部位よりも目が詰まった状態になっているので、この構成箇所の極表面のインク保持力は、その他の部位に対し高められた状態となる。そのため、溝状空隙28からインク保持部材51内に空気が進入するのを防ぐことができるので好ましい。
【0063】
なお、本実施形態では、第1、第2のインク保持部材50,51間に構成したエアパスを溝形状で説明したが、このエアパスは溝形状に限定されるものではなく、第1のインク保持部材50または第2のインク保持部材51の当接面に突出部を設けることで、エアパスの一部をなす空隙が形成されても良い。
【0064】
さらに、本実施形態では、第1のインク保持部材50と第2のインク保持部材51との間のエアパスの一部をなす溝状空隙28は、第2のインク保持部材51側に設けられたが、第1のインク保持部材50側に設けられてもよく、また両方のインク保持部材50,51にそれぞれ設けられても良いことは勿論である。
【0065】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について、図6を参照して説明する。なお、第3の実施形態において、第1の実施形態と同様な部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0066】
第1および第2のインク保持部材60,51は、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂からなる積層繊維集合体であり、第1のインク保持部材60は、繊度が6.7dtex(直径:約54μm)程度の繊維からなり圧縮後の密度が0.05g/cm3程度であり、第2のインク保持部材51は、繊度が2.2dtex(直径:約18μm)程度の繊維からなり圧縮後の密度が0.15g/cm3程度である。第1のインク保持部材60および第2のインク保持部材51は、繊維方向、すなわち、これらの繊維体を構成する大部分の繊維の長手方向(主軸方向)が、いずれもインク受入管33への当接方向に対して実質的に垂直になり、かつこれらの繊維体のウェブの積層方向が、インク受入管33への当接方向と実質的に平行になるように、筐体11内に配置されている。
【0067】
本実施形態では、上述した第1、2の実施形態と異なり、第1のインク保持部材60がインク供給口14よりもやや大きく形成されて、この第1のインク保持部材60がインクタンク10の底面部の一部のみ、すなわちインク供給口14を閉じるように配置されている構成を採っている。本実施形態のように、外形が比較的小さい第1のインク保持部材60を備える構成であっても、第2のインク保持部材51に形成された溝状空隙18が良好に機能するので、上述した実施形態と同様にインク漏れに対する信頼性を向上することができる。
【0068】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について、図7を参照して説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同様な部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
インクタンク10の筐体11内には、インクを含浸保持する第1のインク保持部材50および第2のインク保持部材51が装填されている。第1のインク保持部材50は、第2のインク保持部材51とインクタンク10の底壁との間で、第2のインク保持部材51に密着し、かつインク供給口14を筐体11の内側から塞ぐように設けられている。
【0070】
また、図7に示すように、第2のインク保持部材51には、第1のインク保持部材50に当接される当接面から、大気連通口15に対向する対向面に向かって、略管状の貫通空隙38が、この第2のインク保持部材51の当接面の中心を間に挟んでそれぞれ設けられている。これら貫通空隙38は、両端が、第1のインク保持部材50との当接面と、大気連通口15との対向面とにそれぞれ開口されており、当接面および対向面の中央近傍を挟んで、互いに平行に形成されている。そして、この第2のインク保持部材51中に形成された貫通空隙38によって、第1のインク保持部材50との当接面から大気連通口15に向かってエアパスが形成されている。
【0071】
本実施形態の構成によれば、上述した各実施形態の効果に加えて、第2のインク保持部材51中に貫通空隙38を配置するだけでエアパスを構成できるため、上述した実施形態のように、インクタンクの筐体11の側面にエアパス構成用の凸部または凹部(側面リブ等)を設ける必要が無くなり、かつ、筐体11の側面のエアパスと空隙との接続位置の関係を考慮する必要がない点で優れている。
【0072】
以上説明した各実施形態では、第1および第2のインク保持部材50,51はポリオレフィン繊維体からなるものであるが、インク保持部材50,51の構成は繊維体に限らず、その材料もポリオレフィン系樹脂に限定されるものではない。第1および第2のインク保持部材50,51の密度、繊度、繊維の方向等も、上述した2つの実施形態に限定されるものではない。
【0073】
なお、本発明のインクタンクに保持される液体は、インクに限定されるものではない。また、インクが保持される場合であっても、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタなど、その色や種類は限定されない。
【0074】
当然、単色のインクタンク構成で説明したが多色の物、例えばシアン、イエロー、マゼンタの3色を一体としたカラータンクであってもよい。
【0075】
また、この第1のインク保持部材および第2のインク保持部材の当接部位に構成されるエアパス形状や配置は、インク供給性を低下させない範囲で任意に設定することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1の実施形態に係るインクタンクとインクジェットヘッドおよびホルダの接合前の外観を示す図であって、(a)が分解斜視図、(b)がA−A断面図、(c)がB−B断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るインクタンクを示す断面図である。
【図3】第1の実施形態に係るインクタンクのインク移動状態を順番に説明する断面図である。
【図4】第2の実施形態に係るインクタンクを示す断面図である。
【図5】第2の実施形態に係るインク保持部材に溝状空隙を形成する方法を説明する斜視図である。
【図6】第3の実施形態に係るインクタンクを示す断面図である。
【図7】第4の実施形態に係るインクタンクを示す断面図である。
【図8】従来のインクタンクを示す図であって、(a)がC−C断面図、(b)がD−D断面図である。
【図9】従来のインクタンクを示す断面図である。
【図10】リブが無い従来のインクタンクにおけるインク移動状態を順番に説明する断面図である。
【図11】リブが有る従来のインクタンクにおけるインク移動状態を順番に説明する断面図である。
【図12】従来のインクタンクとインクジェットヘッドおよびホルダの接合前の外観を示す分解斜視図である。
【図13】従来のインクタンクとインクジェットヘッドおよびホルダの接合前の外観を一部切り欠いて示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
10 インクタンク
11 筐体
11a 本体
11b 蓋部材
12 側面リブ
13 蓋リブ
14 インク供給口
15 大気連通口
18 溝状空隙
19 インク
20 空間
23 エアパス
30 インクジェットカートリッジ
31 ホルダ
32 インクジェットヘッド
50 第1のインク保持部材
51 第2のインク保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含浸保持可能な液体保持手段を収容する筐体と、前記筐体に設けられ前記筐体内の液体を外部部材へ供給するための液体供給用開口と、前記筐体に設けられ前記筐体内に大気を導入するための大気導入用開口とを備え、前記液体保持手段は、前記外部部材が当接可能に設けられた第1液体保持部材と、前記第1液体保持部材に当接して設けられ前記第1液体保持部材に液体を供給するための第2液体保持部材とを有し、前記第1液体保持部材の液体保持力が前記第2液体保持部材の液体保持力よりも大きくされ、
前記筐体の内壁面に設けられた凹部または凸部によって、前記第2液体保持部材と前記内壁面との間に、前記大気導入用開口まで連続する空間が形成された液体収容容器であって、
前記第1液体保持部材と前記第2液体保持部材との当接領域内には、前記筐体の内壁面に設けられた前記空間に連通する空隙が設けられていることを特徴とする液体収容容器。
【請求項2】
前記第1液体保持部材には、前記第2液体保持部材との当接面側に前記空隙が設けられている請求項1に記載の液体収容容器。
【請求項3】
第2液体保持部材には、前記第1液体保持部材との当接面側に前記空隙が設けられている請求項1に記載の液体収容容器。
【請求項4】
前記第1液体保持部材は、前記筐体の前記液体供給用開口が設けられている部分の内面形状に沿う形状に形成されている請求項2または3に記載の液体収容容器。
【請求項5】
前記筐体には、内壁の一側面のみに前記空間が設けられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体収容容器。
【請求項6】
前記空隙は、前記第1の液体保持部材と前記第2液体保持部材との前記当接面の中心を間に挟んで複数設けられている請求項1ないし5に記載の液体収容容器。
【請求項7】
液体を含浸保持可能な液体保持手段を収容する筐体と、前記筐体に設けられ前記筐体内の液体を外部部材へ供給するための液体供給用開口と、前記筐体に設けられ前記筐体内に大気を導入するための大気導入用開口とを備え、前記液体保持手段は、前記外部部材が当接可能に設けられた第1液体保持部材と、前記第1液体保持部材に当接して設けられ前記第1液体保持部材に液体を供給するための第2液体保持部材とを有し、前記第1液体保持部材の液体保持力が前記第2液体保持部材の液体保持力よりも大きくされた液体収容容器であって、
前記第2液体保持部材には、前記第1液体保持部材との当接領域内から前記大気導入用開口に向かって延ばされた空隙が貫通して設けられていることを特徴とする液体収容容器。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の液体収容容器と、
前記液体収容容器を着脱可能に保持するホルダ部材と、
前記液体収容容器から供給された液体を吐出する液体吐出ヘッドとを備える液体吐出カートリッジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−188256(P2006−188256A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1354(P2005−1354)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】