説明

液体収容容器の液体充填方法、液体充填システム、および液体収容容器の製造方法

【課題】圧電装置に気泡が付着することによる液体の充填不良を防ぐことができる液体収容容器の液体充填方法、液体充填システム、および液体収容容器の製造方法を提供すること。
【解決手段】真空容器内のカートリッジ台にインクカートリッジをセットして、アクチュエータと制御装置とを接続し(ステップS100)、真空容器内を減圧する(ステップS110)。次に、インク供給口を閉じ(ステップS120)、インク供給装置のインク供給チューブをインクカートリッジの空気導入口に接続してから(ステップS130)、アクチュエータを駆動して振動部を振動させながら、インクカートリッジ内のインクタンクに液体を供給することにより、インクを充填する(ステップS140)。アクチュエータは振動しているのでインク充填中に気泡が付着し難くなり、アクチュエータに気泡が付着してしまうインク充填不良を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体収容容器の液体充填方法、液体充填システム、および液体収容容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタ用の液体収容容器の液体流路に圧電装置を取り付けて、圧電装置により液体の消費状態を検知するようにしたものが知られている。液体の状態を検知する方法としては、液体の消費状態に応じた液体の音響インピーダンスの変化を利用する方法があり、例えば、圧電装置を振動させて液体に振動を加え、圧電装置に液体の残留振動による音響インピーダンスの変化を検知させることによって、液体の消費状態を判定することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−328280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の判定方法では、圧電装置、特に圧電装置内のキャビティに気泡が付着した場合にも音響インピーダンスに変化が生じてしまうので、液体収容容器に液体が残っていたとしても液体の残量なしと誤判定することがある。このため、液体収容容器の製造工程において圧電装置に気泡が付着すると液体収容容器として不良品になってしまい、液体収容容器の製造工程、特に、液体収容容器に液体を充填する工程においては圧電装置に気泡が付着しないように確実に管理する必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、圧電装置に気泡が付着することによる液体の充填不良を防ぐことができる液体収容容器の液体充填方法、液体充填システム、および液体収容容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、液体噴射装置に着脱可能とし、液体を収容する液体収容部と、液体収容部に連通するキャビティと、キャビティ内の液体と接することで液体収容部内の液体の状態を検知可能とする圧電装置と、を備えた液体収容容器の液体充填方法であって、圧電装置を駆動して振動させながら液体収容部に液体を供給することにより、液体収容部に液体を充填することを特徴とする。
【0007】
本発明の液体充填システムは、液体噴射装置に着脱可能とし、液体を収容する液体収容部と、液体収容部に連通するキャビティと、キャビティ内の液体と接することで液体収容部内の液体の状態を検知可能とする圧電装置と、を備えた液体収容容器に液体を充填する液体充填システムであって、圧電装置を制御する制御装置と、液体を供給する液体供給装置とを備え、制御装置が圧電装置を駆動して振動させながら、液体供給装置が液体収容部に液体を供給することにより、液体収容部に液体を充填させることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、圧電装置を振動させながら液体収容容器に液体を供給することにより、圧電装置に気泡が付着し難くなるので、液体充填時に圧電装置に気泡が付着することによる充填不良を防ぐことができる。
【0009】
また、本発明の液体充填システムにおいて、液体収容部内の気圧を減圧する減圧装置をさらに備え、液体供給装置は、減圧された液体収容部に液体を供給することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、減圧された液体収容部に液体を供給することにより、圧電装置には気泡がさらに付着し難くなるので、圧電装置への気泡の付着がより少ない液体の充填が可能である。
【0011】
本発明は、液体噴射装置に着脱可能とし、液体収容部に連通するキャビティと、キャビティ内の液体と接することで液体収容部内の液体の状態を検知可能とする圧電装置と、を備えた液体収容容器の製造方法であって、圧電装置に制御装置を接続するステップと、液体収容部に液体供給装置を接続するステップと、制御装置が圧電装置を駆動して振動させながら、液体供給装置が液体収容部に液体を供給することにより、液体収容部に液体を充填させるステップとを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、液体充填時における圧電装置への気泡の付着を防ぎ、液体収容容器の製造歩留りをより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態の一実施例について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施例に係るインク充填システムの構成を示した図である。図1に示すように、インク充填システム(液体充填システム)1は、インク充填対象とするインクカートリッジ(液体収容容器)100がセットされるカートリッジ台10と、カートリッジ台10およびこれにセットされたインクカートリッジ100を覆う真空容器20と、真空容器20内を減圧する真空ポンプ(減圧装置)30と、インク供給チューブ41を介してインクカートリッジ100にインクを供給するインク供給装置(液体供給装置)40と、これらの各構成を制御する制御装置50とを備えている。なお、インク充填システム1は、真空ポンプ30により真空容器内の気圧を減圧し、減圧された真空容器内で、インク供給装置40がインクカートリッジ100内のインクタンクにインクを供給することにより、インク充填されたインクカートリッジ100を製造するためのものである。
【0015】
次に、インクの供給対象であるインクカートリッジ100の構成について説明する。なお、インクカートリッジ100はインクジェットプリンタ(図示なし)に着脱可能に装着され、インクジェットプリンタの記録ヘッドにインクを供給するためのものである。図2は、インクカートリッジ100の構成を示した部分断面図である。図2に示すように、インクカートリッジ100は、カートリッジ形状のフレーム110と、フレーム外側側面に取り付けられた半導体記憶装置120とを有している。フレーム110の底部にはインク供給口111が形成され、フレーム110の上部には空気導入口112が形成されている。インク供給口111は、当該インクカートリッジがプリンタにセットされたときに、プリンタのインクジェット記録ヘッドにインクを供給するための供給口であり、インクの逆流やインク漏れを防ぐための弁機構が備えられている。半導体記憶装置120は、当該カートリッジの認証情報やインク残量情報が記録された半導体メモリや、カートリッジ外部より半導体記憶装置などにアクセスするための電極部を有する。
【0016】
また、図2に示すように、インクカートリッジ100の内部には、空気導入口112に連通するインクタンク(液体収容部)130と、カートリッジ底部に取り付けられたアクチュエータ(圧電装置)140とが設けられている。なお、アクチュエータ140の位置としてはこれに限られることなく、例えば、インクタンク130の底部にアクチュエータ140を設けるようにしてもよい。
【0017】
次に、アクチュエータ140について説明する。図3は、アクチュエータ140およびアクチュエータ取付位置付近の構成を示した図である。図3に示すように、アクチュエータ140は、インクタンク130およびインク供給口111に連通する流路Cのターン先端部分に取り付けられている。なお、アクチュエータ140は、少なくとも音響インピーダンスの変化を検知してインクタンク130内のインクの消費状態を検出するために用いられる。本実施例では、インクに振動を加えたときの残留振動の共振周波数を検出することで、音響インピーダンスの変化を検知してインクの消費状態を検出するものとする。
【0018】
アクチュエータ140を図3のAの方向から見たときの構成を図4に示す。図3,4に示すように、アクチュエータ140は、ほぼ中央に円形状の開口141を有する基板142と、開口141を被覆するように基板142の一方の面(図3の下側の面、以下「表面」という)に配置される振動板143と、振動板143の表面の側に配置される圧電層144と、圧電層144を両方から挟み込む上部電極145および下部電極146と、上部電極端子147と、下部電極146と電気的に接続する下部電極端子148と、上部電極145および上部電極端子147の間に配設され、両者を電気的に接続する補助電極149とを有する。圧電層144、上部電極145および下部電極146の各々はその主要部として円形部分を有している。
【0019】
振動板143は、基板142の表面に、開口141を覆うように形成される。そして、振動板143の開口141と面する部分と基板142の表面の開口141とに囲まれる空間にキャビティ150が形成される。振動板143は、圧電層144や上部電極145や下部電極146が配設された表面と反対側の面(図3の上側の面、以下「裏面」という)が流路Cに面しており、流路C内のインクがキャビティ150に流入するように構成されている。また、振動板143は、キャビティ150内にインクが流入しても基板142の表面側にインクが漏れないように基板142に対して液密に取り付けられる。
【0020】
下部電極146は振動板143の表面、すなわち流路Cとは反対側の面に位置しており、下部電極146の主要部である円形部分の中心と開口141の中心とがほぼ一致するように取り付けられている。この下部電極146の円形部分の面積は開口141の面積よりも小さくなるように設定されている。そして、下部電極146の表面側には、圧電層144が、その円形部分の中心と開口141の中心とがほぼ一致するように形成されている。圧電層144の円形部分の面積は、開口141の面積よりも小さく、かつ下部電極146の円形部分の面積よりも大きくなるように設定されている。さらに、圧電層144の表面側には、上部電極145が、その主要部である円形部分の中心と開口141の中心とがほぼ一致するように形成される。上部電極145の円形部分の面積は、開口141および圧電層144の円形部分の面積よりも小さく、かつ下部電極146の円形部分の面積よりも大きくなるように構成されている。
【0021】
したがって、圧電層144の主要部は、上部電極145の主要部と下部電極146の主要部とによって、それぞれ表面側と裏面側とから挟みこまれる構造となっていて、圧電層144を効果的に変形駆動することができる。圧電層144、上部電極145および下部電極146のそれぞれの主要部である円形部分がアクチュエータ140の圧電素子を形成し、この圧電素子と上述のように圧電素子に接する部分の振動板143とが振動部140aを構成する。
【0022】
インク充填システム1の構成の説明に戻る。インク充填システム1のカートリッジ台10は、制御装置50と電気的に接続された端子電極11や、図示していないが、インクカートリッジ100の空気導入口112およびインク供給口111を開閉する機構や、フィルムを貼り付ける機構、インク供給チューブ41を空気導入口112に着脱する機構などが設けられている。カートリッジ台10にインクカートリッジ100がセットされると、インクカートリッジ100の半導体記憶装置120の電極部が、カートリッジ台10の端子電極11に接触する。これにより、制御装置50は、半導体記憶装置120と電気的に接続されて、アクチュエータ140を制御可能となる。具体的には、制御装置50は、半導体記憶装置120の電極部を介して上部電極端子147、下部電極端子148間に電圧を印加することにより、アクチュエータ140を駆動させることができる。さらに、制御装置50は、アクチュエータ140を駆動して流路C内のインクに振動を加え、インクの残留振動による振動部140aの共振周波数を測定することにより、音響インピーダンスの変化を検出することができる。
【0023】
本実施例のインク充填システム1は、インク充填時にアクチュエータ140を駆動して、アクチュエータ140の振動部140aを振動させた状態でインクを充填することに特徴がある。次に、インク充填システム1によりインクカートリッジ100にインクを充填する製造工程の流れについて、図5のフローチャートに従って説明する。
【0024】
インク充填を行うため、まず、真空容器20内のカートリッジ台10にインクカートリッジ100をセットする(ステップS100)。次に、制御装置50が真空ポンプ30を動作させて、真空容器20内を減圧する(ステップS110)。真空容器内が十分に減圧されると、インクカートリッジ100のインク供給口111を閉じ(ステップS120)、インク供給チューブ41を空気導入口112に接続する(ステップS130)。
【0025】
次に、制御装置50はカートリッジ台10の端子電極11を介してインクカートリッジ100のアクチュエータ140に電圧を印加し、アクチュエータ140を駆動して振動部140aを振動させる。そして、振動部140aが振動した状態で、インク供給装置40にインク供給チューブ41を介してインクを供給させることにより、インクカートリッジ100にインクを充填する(ステップS140)。
【0026】
インクが充填されると、インク供給チューブ41を空気導入口112から取り外し、フィルムを貼り付けてインク供給口111および空気導入口112を閉じる(ステップS150)。次に、インクカートリッジ100をカートリッジ台10から取り外して、真空容器20内から取り出す(ステップS160)。これにより、インク充填されたインクカートリッジ100が得られる。
【0027】
以上に述べたように、本実施例のインク充填システム1では、インク充填時にアクチュエータ140を駆動して振動部140aを振動させた状態でインクを充填するようにして、インク充填されたインクカートリッジ100を製造している。振動部140aが振動することにより、インクの充填中にアクチュエータ140には気泡が付着し難くなる。また、インクカートリッジ100の内部を減圧して、液体を供給したことにより、アクチュエータ140には気泡がさらに付着し難くなる。こうして、アクチュエータ140への気泡の付着を防ぐことができるので、インクカートリッジ100の製造工程においてキャビティ150内にインクが付着した不良品の数が減少し、インクカートリッジ100の製造歩留りを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施例に係るインク充填システムの構成を示した図。
【図2】インクカートリッジの構成を示した部分断面図。
【図3】アクチュエータおよびアクチュエータ取付位置付近の構成を示した図。
【図4】アクチュエータの構成を示した図。
【図5】インクカートリッジにインクを充填する製造工程の流れを示したフローチャート。
【符号の説明】
【0029】
1…液体充填システムとしてのインク充填システム、10…カートリッジ台、11…端子電極、20…真空容器、30…減圧装置としての真空ポンプ、40…液体供給装置としてのインク供給装置、41…インク供給チューブ、50…制御装置、100…液体収容容器としてのインクカートリッジ、110…フレーム、111…インク供給口、112…空気導入口、120…半導体記憶装置、130…液体収容部としてのインクタンク、140…圧電装置としてのアクチュエータ、141…開口、142…基板、143…振動板、144…圧電層、145…上部電極、146…下部電極、147…上部電極端子、148…下部電極端子、149…補助電極、150…キャビティ、C…流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射装置に着脱可能とし、
液体を収容する液体収容部と、
前記液体収容部に連通するキャビティと、
前記キャビティ内の液体と接することで前記液体収容部内の液体の状態を検知可能とする圧電装置と、を備えた液体収容容器の液体充填方法であって、
前記圧電装置を駆動して振動させながら前記液体収容部に液体を供給することにより、前記液体収容部に液体を充填することを特徴とする液体収容容器の液体充填方法。
【請求項2】
液体噴射装置に着脱可能とし、
液体を収容する液体収容部と、
前記液体収容部に連通するキャビティと、
前記キャビティ内の液体と接することで前記液体収容部内の液体の状態を検知可能とする圧電装置と、を備えた液体収容容器に液体を充填する液体充填システムであって、
前記圧電装置を制御する制御装置と、
液体を供給する液体供給装置とを備え、
前記制御装置が前記圧電装置を駆動して振動させながら、前記液体供給装置が前記液体収容部に液体を供給することにより、前記液体収容部に液体を充填させることを特徴とする液体充填システム。
【請求項3】
請求項2に記載の液体充填システムにおいて、
前記液体収容部内の気圧を減圧する減圧装置をさらに備え、
前記液体供給装置は、減圧された前記液体収容部に液体を供給することを特徴とする液体充填システム。
【請求項4】
液体噴射装置に着脱可能とし、
前記液体収容部に連通するキャビティと、
前記キャビティ内の液体と接することで前記液体収容部内の液体の状態を検知可能とする圧電装置と、を備えた液体収容容器の製造方法であって、
前記圧電装置に制御装置を接続するステップと、
前記液体収容部に液体供給装置を接続するステップと、
前記制御装置が前記圧電装置を駆動して振動させながら、前記液体供給装置が前記液体収容部に液体を供給することにより、前記液体収容部に液体を充填させるステップとを備えることを特徴とする液体収容容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−238784(P2008−238784A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86793(P2007−86793)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】