説明

液体収納容器

【課題】保存安定性に優れ、かつ耐衝撃性にも優れた、ニトログリセリン、蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤等の注射液のソフトバッグ製剤にも使用可能な液体収納容器を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有するバリア層とポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなるシール層を含む多層フィルムおよび/またはシートからなり、当該バリア層と当該シール層が隣接していることを特徴とする液体収納容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニトログリセリンや蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤などの樹脂吸着性または樹脂透過性の薬剤の注射用液剤への使用に適した液体収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、点滴静注用の製剤として注射用の薬剤を予め希釈調製し、プラスチック樹脂など可堯性容器に充填したソフトバッグ製剤が開発され、使用時の利便性や迅速性に加え、ガラス製の瓶やアンプルと比べて廃棄性に優れることからも有用であるとされている。ニトログリセリンの注射液についても、手術時の血圧調整、慢性心不全の急性増悪期を含む急性心不全、不安定狭心症を目的として点滴静注として使用されることがあり、ソフトバッグ製剤の開発が期待されている。また蛋白質であるヒト血漿由来アルブミン、遺伝子組み換え由来のアルブミン、ホルモンやビタミン類、ヒアルロン酸等の薬剤においても破損の危険性軽減や環境問題からガラス製容器からソフトバッグ化が期待されている。
【0003】
ところで、ニトログリセリンやアルブミンやホルモンなどの蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤を始めとする一部の薬物は、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂や塩化ビニルなど、医薬容器や医療用機器の材質として一般的に使用される樹脂を成型したフィルムに吸着あるいは透過することが知られており、ソフトバッグ製剤を開発する上での課題となっている。現在、薬物の吸着性や透過性がない材料として環状ポリオレフィン系樹脂が知られており、例えば、特許文献1や特許文献2に環状ポリオレフィン系樹脂からなる外筒を有するシリンジが、樹脂吸着性の薬物のプレフィルドシリンジ製剤に有用であることが示されている。
【0004】
環状ポリオレフィン系樹脂はポリエチレンなどと比較し、高密度で3次元的な構造を形成するため、フィルムとして成形した場合、硬くて脆いフィルムとなりやすい。そのため、ソフトバッグに加工するためにはポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などと張り合わせた積層フィルムとするのが一般的である。特許文献3には、外層にポリオレフィン系樹脂を、内層に環状ポリオレフィン系樹脂を有する積層フィルムからなる包装袋が開示され、高圧蒸気滅菌処理が可能な点や薬剤吸着性が抑えられることから、樹脂吸着性の薬物の注射製剤への使用に適していることが記載されている。また、特許文献4には環状ポリオレフィン系樹脂またはこれを含む混合樹脂からなる層とポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂を積層したソフトバッグが記載されている。これらの多層フィルムを用いたソフトバッグは、薬剤吸着性の観点から環状ポリオレフィン系樹脂層を最内層とするのが良いとされている。これらのソフトバッグにおいては、樹脂同士の相溶性や接着性から、薬液の排出を行うポート部材として、同じく環状ポリオレフィン系樹脂で形成されたポート部材を使用する必要がある。しかし、環状ポリオレフィン系樹脂製のポート部材は高価である上、落下時に破損しやすいなどの問題があり、より安価で落下などの衝撃にも破損しくいポリエチレン製やポリプロピレン製のポート部材の使用が望まれる。
【0005】
ポリエチレン製やポリプロピレン製のポート部材を使用するためには、積層フィルムの環状ポリオレフィン系樹脂層のさらに内側にポリエチレン系樹脂層やポリプロピレン系樹脂層を設ければよいが、その場合、ポリエチレン系樹脂層やポリプロピレン系樹脂層がニトログリセリン、アルブミンやホルモンなどの蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤などを含有する薬液と直接接触し、吸着や透過による薬効成分含量の変化を生じることとなる。これについて、特許文献5には、環状ポリオレフィン系樹脂と特定のポリエチレン系樹脂からなる混合樹脂のバリア層を有する多層フィルムからなる薬剤容器が開示されており、この薬剤容器の多層フィルムは薬剤の溶液と接触するシール層としてポリエチレン系樹脂からなる層を有するが、当該シール層の厚みを5〜80μmと薄く設定し、さらにシール層の外側表面にバリア層を設けることで薬剤の吸着を抑えることができるとしている。しかし、特許文献3には、環状ポリオレフィン系樹脂をポリエチレンで挟んだ3層フィルムとポリエチレン製のポート部材を備えるソフトバッグの例が示されており、これは上記シール層に相当する厚さ50μmのポリエチレン層の外側表面に上記バリア層に相当する環状ポリオレフィン系樹脂層を有するが、滅菌後40℃1ヶ月の保存により7.0%のニトログリセリン含量の低下があったことが示されている。また、環状ポリオレフィンを他の樹脂との混合樹脂として用いた場合には、薬剤の保存安定性などが低下する場合があり、前記特許文献5の容器についても、滅菌後60℃2週間の保存により3.0%から7.0%のニトログリセリン含量の低下が認められることから、保存安定性においては十分ではない。
【特許文献1】特開2003−024415号公報
【特許文献2】特開2004−298220号公報
【特許文献3】特開2005−254508号公報
【特許文献4】特開2006−081898号公報
【特許文献5】特表2005−525952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、保存安定性に優れ、かつ耐衝撃性にも優れた、ニトログリセリン、アルブミンやホルモンなどの蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤などを含有する注射液のソフトバッグ製剤にも使用可能な液体収納容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ソフトバッグを形成するための積層フィルム組成について種々検討した結果、全く意外なことに、ガラス転移温度(Tg)が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とするバリア層を隣接して設けることにより、好ましくはガラス転移温度が130℃以上である環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とするバリア層を隣接して設けることにより、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂をシール層として配置した場合にもニトログリセリン、アルブミンやホルモンなどの蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤などの薬物の吸着や透過が抑えられる上に保存安定性に優れ、かつこれとポリエチレン製やポリプロピレン製のポート部材と組み合せることにより耐衝撃性に優れたソフトバッグ製剤用の容器を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有するバリア層とポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含有するシール層を含む多層フィルムおよび/またはシートからなり、当該バリア層と当該シール層が隣接していることを特徴とする液体収納容器を提供するものである。
また、本発明は、ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有するバリア層とポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含有するシール層を含む多層フィルムおよび/またはシートからなり、当該バリア層と当該シール層が隣接していることを特徴とする液体収納容器に、樹脂吸着性の薬液を充填してなる医薬製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体収納容器は、ニトログリセリン、アルブミンやホルモンなどの蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤等の吸着や透過等の問題がなく、薬剤の保存安定性に優れ、かつ耐衝撃性にも優れている。また、高圧蒸気滅菌処理などに代表される熱処理によってもスティッキングなどの発生が抑えられており、実用性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においてシール層とは、液体収納容器を形成するための多層フィルムおよび/またはシートにおいて、容器の最内層となって当該容器に収容される薬剤と直接に接触する層を示す。
【0011】
本発明において多層のフィルムおよび/またはシートとしては、ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有するバリア層であり、好ましくはガラス転移温度が130℃以上である環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有するバリア層とポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含有するシール層を含み、当該バリア層が当該シール層に隣接していれば特に制限はなく、シール層とバリア層の間に接着剤層や接着性樹脂層を用いることも出来る。このような接着剤としては二液硬化型のポリエステルウレタン系接着剤やポリエーテルウレタン系接着剤を用いることが好ましく、接着性樹脂層としては、樹脂として異種材質との接着性に優れるものであれば従来公知の樹脂を用いることができ、例えば、三井化学製のアドマー、三菱化学製のモディック、東ソー製のDLZや密度0.91以下のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンなどがあげられる。またシール層とは逆側のバリア層表面に、液体収納容器として必要な強度または柔軟性やガスバリア性、水蒸気バリア性を調整するため、さらに幾つかの層を積層してもよい。前記バリア層に積層する方法は、ドライラミネーションや押出コーティング、押出しラミネーション、共押出インフレーション法や共押出Tダイ法等の共押出ラミネーション、共押出水冷インフレーション、ヒートラミネーションなどの従来公知の方法を単独または組み合わせて用いることが出来る。またガスバリア性や水蒸気バリア性を与える材料として、シリカあるいはアルミナの蒸着PETフィルムや蒸着ナイロンフィルム、アルミ蒸着PET、アルミ蒸着ナイロン、アルミ箔、EVOH、PVA、PVDC、MXDナイロンなどを使用することができる。
【0012】
本発明においてバリア層に用いる環状ポリオレフィンとしては、ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィンであり、好ましくはガラス転移温度が130℃以上であれば特に制限はないが、130〜170℃がより好ましく、132〜150℃であるのが最も好ましい。本発明においてガラス転移温度とは、JIS K7121(DSC)にて測定した値を意味する。ガラス転移温度は、環状ポリオレフィン系樹脂を規定する物性値の一つとしてよく知られるが、薬剤の吸着性や透過性との関係は、これまで知られていない。例えば、上記特許文献3にはシーラント層に用いられる環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が100〜170℃であるとし、120℃以上であることが特に好ましいとしているが、これは110℃以上の高圧蒸気滅菌を行った場合に包装袋が変形・破袋することを防ぐ目的であることが記載されており、薬剤の吸着性や保存安定性や熱処理や高圧蒸気滅菌処理などと環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度との関係については、記載されていない。また、上記特許文献5には、シール層とバリア層に用いられる環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が80〜150℃であるのがより好ましいとしているが、当該ガラス転移温度とシール層における薬剤の吸着性や保存安定性との関係については、記載されていない。このような状況において、本発明者らは、環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が高いほど薬剤の吸着を抑制する効果や保存安定性への効果が高く、特にガラス転移温度が130℃以上のとき、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなるシール層に隣接するバリア層として用いた場合に薬剤の保存安定性を向上させる上で高い効果を示すことを見出したものである。この効果は特に製剤工程において60℃以上の熱処理や105℃以上の高圧蒸気滅菌処理を行う薬剤の場合に薬剤の保存安定性を向上させる上で高い効果を示すことを見出したものである。ここで、60℃以上での熱処理は主にウィルスの不活性化のために行われる処理であり、105℃以上の高圧蒸気滅菌処理は菌の滅菌のために行われる処理である。
また、バリア層には環状ポリオレフィン系樹脂以外を混合すると、薬剤の吸着または透過を防御する効果が低下し、保存安定性への効果が低下することを見出した。
【0013】
このような環状ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、種々の環状オレフィンモノマーの重合体や、環状オレフィンモノマーとエチレンなどの他のモノマーとの共重合体およびそれらの水素添加物などが挙げられる。環状オレフィンモノマーとしては、例えばノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、塩素化ノルボルネン、クロロメチルノルボルネン、トリメチルシリルノルボルネン、フェニルノルボルネン、シアノノルボルネン、ジシアノノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、ピリジルノルボルネン、ナヂック酸無水物、ナヂック酸イミドなどの二環シクロオレフィン;ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの三環シクロオレフィン;ジメタノヘキサヒドロナフタレン、ジメタノオクタヒドロナフタレンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの四環シクロオレフィン;トリシクロペンタジエンなどの五環シクロオレフィン;ヘキサシクロヘプタデセンなどの六環シクロオレフィンなどが挙げられる。また、ジノルボルネン、二個のノルボルネン環を炭化水素鎖またはエステル基などで結合した化合物、これらのアルキル、アリール置換体などのノルボルネン環を含む化合物が挙げられる。本発明の環状ポリオレフィン系樹脂としては、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、テトラシクロドデセンといった、分子骨格中にノルボルネン骨格を含むノルボルネン系モノマーの1種または2種以上を重合して得られるポリノルボルネン系樹脂、またはその水素添加物、およびそれらを1種または2種以上を混合したものが、液体収納容器として成型した際の強度および柔軟性の観点から好ましい。
【0014】
なお、本発明における環状ポリオレフィン系樹脂のモノマー分子の重合方法や重合機構としては、開環重合であっても、付加重合であっても良い。また、複数種のモノマーを併用する場合の重合方法や重合機構としては、公知の方法を用いることができ、モノマー時に配合して共重合を行っても良いし、ある程度重合した後に配合してブロック共重合しても良い。
【0015】
上記環状ポリオレフィン系樹脂の具体的な構造としては、例えば、下記一般式(1)または(2)で表される構造式を示すことができる。このうち特に下記一般式(1)で示される環状ポリオレフィン系樹脂で構成される場合に、特に薬剤の保存安定性を向上させる上でより高い効果を示すことを見出したものである。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R1、R2、R3およびR4は互いに同一または異種の炭素数1〜20の有機基を示し、また、R1とR2、および/またはR3とR4は互いに環を形成していてもよい。m、pは0または1以上の整数を示す。l、nは1以上の整数を示す。)
【0018】
上記炭素数1〜20の有機基として、より具体的には、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、t−オクチル(1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル)、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等のシクロアルキル基;1−メチルシクロペンチル、1−メチルシクロヘキシル、1−メチル−4−i−プロピルシクロヘキシル等のアルキルシクロアルキル基;アリル、プロペニル、ブテニル、2−ブテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル等のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ビフェニル基、フェノキシフェニル基、クロロフェニル基、スルホフェニル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基(フェネチル基)、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基等のアラルキル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を併用しても良い。
【0019】
このような環状ポリオレフィンのガラス転移温度は、上記一般式(1)、(2)中のl、m、n、pの値、あるいは置換基を適宜選択することにより適宜調整することが可能である。上記一般式(1)、(2)以外の環状ポリオレフィンのガラス転移温度についても、用いるモノマー種、モノマー種の配合割合、モノマー配列、置換基の種類などを適宜設定することにより、任意に調整することができる。
【0020】
上記一般式(1)で示される環状ポリオレフィンとしては市販品を用いることができ、例えば日本ゼオン株式会社製のゼオネックス、ゼオノアを好適に用いることができる。上記一般式(2)で示される環状ポリオレフィンとしては市販品を用いることができ、例えば三井化学株式会社製のアペル、TICONA社製のTOPASを好適に用いることができる。
【0021】
本発明の環状ポリオレフィンとしては、上記一般式(1)で示されるものを用いるのが最も好ましく、また上記一般式(1)で示される樹脂単独で構成され、他の樹脂が含有されないことがより好ましい。
【0022】
高分子材料では内容薬剤が吸着あるいは透過、逸散することで本来目的とする含有量を保持できないことがしばしば起こる。これは内容薬剤が収納容器に使用されている高分子材料の高分子鎖に取り込まれてしまうため発生する現象である。高分子材料では分子レベルでミクロブラウン運動をして高分子鎖の回転運動が起こっている。ガラス転移温度以上になると、この分子鎖のミクロブラウン運動が活発に起こるため、柔らかくなり、比較的低分子の薬剤を簡単にその内部に取り込み易くなり、吸着や透過、逸散という現象が起こり、有効成分の含有量の低下を起こす。特にガラス転移温度は高分子鎖のミクロブラウン運動のはじまる温度であり、これはつまり高分子鎖の動きやすさを反映しており、このガラス転移温度に着目した容器材質の設計を行うことが、薬剤の容器への吸着や透過、逸散により発生する有効成分の含有量低下という問題を解決し、防止する最良の方法であることを新たに見出したものである。高分子の動きは高分子鎖の内部回転と立体障害によるから、このような内部回転障壁の高いものほどガラス転移温度が高くなり、薬剤の吸着や透過、逸散という物質の移動現象を防止することが可能である。したがってこの内部回転に高い障壁を有する芳香環や複素環を多く主鎖に多く取り組むことでガラス転移温度の高い高分子材料とすることが出来る。このような高分子材料として、上記一般式(1)が挙げられる。より好ましくはR1、R2に更に複素環をつけ、更にn=3以上とすることで内部回転障壁が非常に高くなり、ガラス転移温度130℃以上の環状ポリオレフィンを容易に合成することが可能である。この骨格には上記一般式(2)のように(−CH2CH2−)mのエチレン基の繰り返し単位を含まないため立体障害がより大きく、より高い内部障壁を得ることが可能である。一般にポリエチレンのようにエチレン基の繰り返し単位で構成される分子構造は最も立体障害が小さく、分子の回転運動が低温度で活発に起こり易い。このような分子構造をもつ高分子を単独で容器構成に使用すると簡単にその分子鎖中に内容薬剤が吸着あるいは透過、逸散を起こし有効含有量の低下を起こす。上記一般式(2)ではノルボルネン環の原子団と原子団の間にこのエチレンの繰り返し単位を導入し、その長さによりガラス転移温度をコントロールしているが、短くすることによりガラス転移温度を上昇させることが可能である。しかしノルボルネン環の複素環主鎖中にこのようなエチレン基の繰り返し単位が入ることは、立体障害の低下を起こし、同じガラス転移温度であってもその部分から高分子鎖中へ薬剤が進入をする可能性があるため、上記一般式(1)がより好ましい構造であると言える。
【0023】
また容器は薬剤を充填した後に、好ましくは60℃以上の温度で熱処理または105℃以上、より好ましくは121℃の温度で高圧蒸気滅菌処理されるため、この温度で上記ミクロブラウン運動が起こらないように分子構造を設計し、ガラス転移温度を決定することが非常に重要であり、少なくとも容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度よりガラス転移温度が5℃以上高いことが必要である。この滅菌処理付近またはそれ以下の温度の場合には、熱処理や高圧蒸気滅菌処理中に前記ミクロブラウン運動が起こり、分子鎖が回転運動を行うため、使用した容器中への内容薬剤の吸着や侵入・逸散を防止することが出来なくなり、有効成分の含有量の低下を起こす。このような現象を防止する最適な環状ポリオレフィンのガラス転移温度としては、容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い必要があり、好ましくは環状ポリオレフィンのガラス転移温度が130℃以上であることが最も効果的であることを見出したものである。
【0024】
本発明におけるバリア層は、ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高く、好ましくはガラス転移温度が130℃以上である環状ポリオレフィン系樹脂を含有する。ここで、バリア層には前記環状ポリオレフィン系樹脂以外のその他の樹脂を効果を阻害しない範囲内で添加することは出来るが、含有しないことがより好ましい。
【0025】
本発明において、バリア層の厚みは5〜40μm、さらに10〜30μmであることが薬剤の保存性と容器の柔軟性の点から好ましい。
【0026】
本発明においてシール層に用いるポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂としては、通常医薬容器として用いることができる直鎖状低密度ポリエチレンおよび/または高密度ポリエチレンやエチレンとプロピレンのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリプロピレン系エラストマーを用いることができる。直鎖状低密度ポリエチレンの融点としては、JIS K7121(DSC)にて測定した融解ピーク温度の値として、105〜130℃であるのが好ましく、110〜130℃であるのが特に好ましい。高密度ポリエチレンの融点としては、JIS K7121(DSC)にて測定した融解ピーク温度の値として、120〜145℃であるのが好ましく、130〜140℃であるのが特に好ましい。このような直鎖状低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンとしては、東ソー株式会社製のペトロセン、ニポロンや株式会社プライムポリマー製のモアテック、エボリュー、日本ポリエチレン製のハーモレックス、ノバテックHDなどを好適に用いることができる。また、上記の直鎖状低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンを主成分とするポリマーのブレンドであってもよい。さらに、上記ポリエチレン系樹脂には、従来公知の酸化防止剤、光安定剤、中和剤、α晶核剤、β晶核剤、アンチブロッキング剤、滑剤等の各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。なお、本発明において主成分というときは、その成分の含有量が90重量%以上、特に95重量%以上であることが好ましい。シール層は薬剤が充填された状態で60℃以上の温度で熱処理または105℃以上の温度で高圧蒸気滅菌処理されるため、これにより容器内面が溶着するスティッキング現象が発生する場合があり、これを避けるためにシール層に用いられるポリエチレン系樹脂は、融点が110〜130℃の直鎖状低密度ポリエチレンおよび/または融点が120〜145℃の高密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0027】
本発明において、シール層の厚みは20〜120μm、さらに30〜80μmであることが容器の強度保持の点から好ましい。
【0028】
さらに、本発明において、バリア層のシール層とは逆側の表面には、容器として成形した場合の強度または柔軟性を調整する観点から、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する基材層を設けることが好ましい。このようなポリオレフィン系樹脂としては、前記シール層と同様のポリエチレン系樹脂に加えて、エチレンとプロピレンのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリプロピレン系エラストマー等のポリプロピレン系樹脂を用いることができ、前記ポリエチレン系樹脂が特に好ましい。基材層とバリア層との積層にあたり、接着剤層や接着性樹脂層を用いることも出来る。このような接着剤としては二液硬化型のポリエステルウレタン系接着剤やポリエーテルウレタン系接着剤を用いることが好ましく、接着性樹脂層としては、樹脂として異種材質との接着性に優れるものであれば従来公知の樹脂を用いることができ、例えば、三井化学製のアドマー、三菱化学製のモディック、東ソー製のDLZや密度0.91以下のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンなどがあげられる。
【0029】
本発明において基材層を設ける場合、該基材層の厚みは30〜200μm、さらに70〜160μmであることが容器の強度保持の点から好ましい。
【0030】
本発明において多層フィルムおよび/またはシートの全体として厚みは、医療用の液体収納容器として用いることから、100〜400μmとなることが好ましい。全体の厚みが100μm以下の場合は容器としての強度が低下するおそれがある。一方、全体の厚みが400μmを超えると容器の柔軟性が損なわれたり、取扱性が低下したりするおそれがある。
【0031】
本発明において多層フィルムおよび/またはシートとしては、シール層が融点110〜130℃の直鎖状低密度ポリエチレンおよび/または融点120〜145℃の高密度ポリエチレンまたはポリプロピレン系樹脂を主成分として含有してなり、バリア層がガラス転移温度130〜170℃のノルボルネン系樹脂からなり、さらに融点110〜130℃の直鎖状低密度ポリエチレンおよび/または融点120〜145℃の高密度ポリエチレンからなる基材層を備える3層以上のフィルムおよび/またはシートとするのが最も好ましい。また、この場合、バリア層、シール層、基材層の厚みは、それぞれ5〜40μm、20〜120μm、30〜200μmであることが好ましく、10〜30μm、30〜80μm、70〜160μmであることが特に好ましい。バリア層とシール層及び基材層の積層の際に接着層を設ける場合には0.1〜70μmであることが好ましく、0.5〜30μmであることが特に好ましい。
【0032】
本発明において多層フィルムおよび/シートは、ドライラミネーションや押出コーティング、押出ラミネーション、共押出インフレーション法や共押出Tダイ法等の共押出ラミネーション、共押出水冷インフレーション、ヒートラミネーションなど従来公知の種々の方法を単独または組み合わせて採用して製造することができる。
【0033】
本発明の液体収納容器は、例えば、上記多層フィルム2枚を通常の方法により裁断し、それぞれのシール層が内層となるように重ね合わせてその周縁部をヒートシールすることによって製造できる。また、多層フィルムのシール層を内側にしてチューブ状に成形した上で、周縁をヒートシールすることにより成形してもよい。多層フィルムのヒートシールは、150〜230℃の温度範囲で行えばよい。
【0034】
本発明の液体収納容器には、内容物の適切な排出を行う目的から、ポート部を設けるのが好ましい。このようなポート部材としては、落下などの衝撃により破損を生じやすいなどの問題がなく、上記の多層フィルムおよび/またはシートに対して良好な溶着性を示すものであれば特に制限はないが、例えばポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系からなるものを用いることができる。このようなポリエチレン系樹脂としては、融点が120〜145℃の高密度ポリエチレンが好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂をポート部材として用いる場合も、容器本体と比べた内表面積の違いなどによるものと考えられるが、吸着などに起因するとみられるニトログリセリン、蛋白質、ヒアルロン酸、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤等の薬剤の保存安定性への影響は認められない。ポート部材を融点120〜145℃の高密度ポリエチレン製とした場合の溶着条件としては、ポート部材を数秒間予備加熱した上で、180〜250℃で約2〜6秒間の範囲で1段または多段シール加熱し、その後5〜30℃で1〜5秒間の範囲で冷却すればよい。ポート部材を融点120〜165℃のポリプロピレン製とした場合の溶着条件としては、ポート部材を数秒間予備加熱した上で、180〜250℃で約2〜6秒間の範囲で1段または多段シール加熱し、その後5〜30℃で1〜5秒間の範囲で冷却すればよい。
【0035】
本発明の液体収納容器は薬剤の吸着などの問題がなく、保存安定性にも優れることから、種々の樹脂に吸着性の液体の薬剤に利用可能であるが、特にニトログリセリン含有薬剤、蛋白質含有薬剤、ヒアルロン酸含有薬剤、ビタミン類含有薬剤、微量元素含有薬剤、ラジカル捕捉剤含有薬剤等を充填した医薬製剤として用いる場合に好適である。より具体的には、点滴静注用ソフトバッグ製剤として用いるのが好ましい。また、このような医薬製剤とする場合には、このような液体収納容器は通常、熱処理または高圧蒸気滅菌処理されるが、本発明の液体収納容器は熱処理または高圧蒸気滅菌処理後もスティッキング(容器内部の溶着あるいはくっつき)が発生しない。ここで熱処理条件としては60℃10時間、高圧蒸気滅菌処理条件としては、105℃以上の条件で30分以上行うのが好ましい。より好ましくは110℃、40分の高圧蒸気滅菌処理である。
【0036】
本発明の液体収納容器をニトログリセリン注射液の医薬製剤に使用する場合、ニトログリセリンとしては医薬品原薬として通常使用されるものを用いることができ、例えばニトログリセリンのD−グルコース希釈末などが挙げられる。ニトログリセリン注射液としては、上記ニトログリセリンを通常の方法により調製すればよい。すなわち、例えば、上記ニトログリセリン希釈末を日本薬局方注射用蒸留水に溶解し、必要に応じ、D−グルコースや塩化ナトリウムなどの等張化剤、水酸化ナトリウムや塩酸などのpH調整剤を加えることで調製できる。本発明の製剤中のニトログリセリンの濃度としては特に限定されないが、0.001〜0.1w/v%とするのが好ましく、0.005〜0.05w/v%とするのがより好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0038】
[実施例および比較例]
表1に示す構成材料にて基材層、バリア層およびシール層を有する3層以上のフィルムを共押出し法およびドライラミネート法を組み合わせて作成した。また、表1に示す構成材料にてポート部を射出成形により作成すると共に、これらの3層以上のフィルムおよびポート部を用いて内容量100mLとなる液体収納容器を作成した。
【0039】
なお、フィルムを構成する樹脂としては下記a〜lおよびI〜VIを使用した。
a:融点120℃の直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製、モアテック)と融点105℃の直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製、ハーモレックス)を80:20の割合で混合したもの
b:融点120℃の直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製、モアテック)と融点105℃の直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製、ハーモレックス)を85:15の割合で混合したもの
c:融点120℃の直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー製、ペトロセン)
d:融点120℃の直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製、モアテック)
e:融点135℃の高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製)
f:アルミナ蒸着PETフィルム(凸版印刷製、GL)
g:融点136℃の高密度ポリエチレン(東ソー製、ニポロンハード)と融点120℃の直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製、モアテック)を80:20の割合で混合したもの
h:融点111℃の直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン製、ユメリット)
i:融点108℃の直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製、ハーモレックス)
j:融点165℃のポリプロピレン系エラストマー(三菱化学製、ゼラス)
k:接着性樹脂(三菱化学製 モディック)
l:融点160℃のポリプロピレン(日本ポリプロピレン製、ノバテック)
【0040】
I:ガラス転移温度が136℃の環状ポリオレフィン(日本ゼオン製、ゼオネックス69
0R)
II:ガラス転移温度が163℃の環状ポリオレフィン(日本ゼオン製、1600R)
III:ガラス転移温度が135℃の環状ポリオレフィン(三井化学製、アペルAPL50
14DP)
IV:ガラス転移温度が105℃の環状ポリオレフィン(日本ゼオン製、ゼオノア1020R)
V:ガラス転移温度が75℃の環状ポリオレフィン(日本ゼオン製、ゼオノア750R)
VI:ガラス転移温度が145℃の環状ポリオレフィン(三井化学製、アペルAPL6015T)と直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製エボリュー)を8:2の割合で混合したもの
【0041】
【表1】

【0042】
[試験例1]保存試験
実施例および比較例で得られた液体収納容器に0.05%ニトログリセリン注射液100mLを充填し、110℃、0.106MPaの条件で40分間高圧蒸気滅菌を施した。滅菌後、容器の外観を観察し、スティッキングの発生について評価した後、40℃で保存試験を実施した。保存開始から1ヶ月および3ヶ月の時点における各製剤中のニトログリセリン濃度を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で測定し、初期濃度に対する割合を残存率として求めた。結果を表2に示す。
【0043】
[試験例2]落下試験
本発明の液体収納容器について耐衝撃性を評価するため、落下試験を実施した。上記実施例および比較例の各液体収納容器について、試験例1と同様に薬剤を充填し、高圧蒸気滅菌処理を施した後、5℃で48時間保存した。その後、各容器を1.80mの高さより10回連続で落下させて外観を確認した後、さらに異物のない鉄板面に置いて手で押圧し、容器の割れや液漏れがないか確認した。各実施例についてそれぞれ100個の容器について試験を実施した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すとおり、本発明の液体収納容器では40℃で3ヶ月保存した場合も、ニトログリセリンの含量にほとんど変化がなかった。これに対し、バリア層としてガラス転移温度が105℃の環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例1、ガラス転移温度が75℃の環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例2、ガラス転移温度が145℃の環状ポリオレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンの混合樹脂を用いた比較例3においては、40℃1ヶ月の保存によりそれぞれ7%、10%、9%と大幅な含量の低下がみられた。
【0046】
また、本発明の容器は、落下試験においていずれも割れや液漏れがなく、落下衝撃に対して高い耐性を備えることが明らかとなった。一方、比較例4において、シール層をガラス転移温度が136℃の環状ポリオレフィン系樹脂を使用し、ポートもガラス転移温度が136℃の環状ポリオレフィン系樹脂でバッグを作成した場合には、薬剤の保存安定性は良好であったが、同様に落下試験を行うとポート部からの液漏れを確認した。
【0047】
[試験例3]
薬剤を20%アルブミン注射液とし、高圧蒸気滅菌処理に代えて、60℃で10時間の熱処理を施した以外は、試験例1および2と同様に試験した。結果を表3に示す。なお、実施例1の構成の容器にはヒト血漿由来のアルブミンを使用し、その他の実施例および比較例の構成の容器には遺伝子組み換え由来のアルブミンを使用した。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示すとおり、本発明の液体収納容器は、ニトログリセリンと同様にアルブミンに対しても、40℃で3ヶ月保存した場合、含量の変化がほとんどなかった。これに対し、バリア層としてガラス転移温度が75℃の環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例2、ガラス転移温度が145℃の環状ポリオレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンの混合樹脂を用いた比較例3においては、40℃1ヶ月の保存によりそれぞれ6%、7%と大幅な含量の低下がみられた。
【0050】
また、本発明の液体収納容器に60℃で10時間の熱処理を施した場合においても、いずれも割れや液漏れはなく、本発明の容器は落下衝撃に対して高い耐性を備えることが明らかとなった。
【0051】
[試験例4]
薬剤をビタミンD3含有製剤とし、高圧蒸気滅菌処理の条件を105℃、0.106MPaで30分間に変更した以外は試験例1および2と同様にして試験した。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4に示すとおり、本発明の液体収納容器は、ニトログリセリンやアルブミンと同様にビタミンD3に対しても、40℃で3ヶ月保存した場合、含量の変化がほとんどなかった。これに対し、バリア層としてガラス転移温度が105℃の環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例1、ガラス転移温度が75℃の環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例2、ガラス転移温度が145℃の環状ポリオレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンの混合樹脂を用いた比較例3においては、40℃1ヶ月の保存によりそれぞれ6.7%、7%、9%と大幅な含量の低下がみられた。
【0054】
また、内容液をビタミンD3とした場合においても、本発明の液体収納容器はいずれも割れや液漏れはなく、本発明の容器は落下衝撃に対して高い耐性を示した。
【0055】
[試験例5]
薬剤をラジカル捕捉剤含有製剤であるエダラボンとし、高圧蒸気滅菌処理の条件を105℃、0.106MPaで30分間に変更した以外は試験例1および2と同様にして試験した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
表5に示すとおり、本発明の液体収納容器は、ニトログリセリンやアルブミンと同様にラジカル捕捉剤であるエダラボンに対しても、40℃で3ヶ月保存した場合、含量の変化がほとんどなかった。これに対し、バリア層としてガラス転移温度が75℃の環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例2、ガラス転移温度が145℃の環状ポリオレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンの混合樹脂を用いた比較例3においては、40℃1ヶ月の保存によりそれぞれ11%、11.1%と大幅な含量の低下がみられた。
また基材層とシール層を融点120℃以下のポリエチレンを使用した比較例5ではスティッキングにより容器内部の部分的貼りつきが発生し、この他容器外面でも滅菌後のべたつき感が強く、他の容器に貼りつく問題が発生した。
【0058】
また、内容液をエダラボンとした場合においても、本発明の液体収納容器はいずれも割れや液漏れはなく、本発明の容器は落下衝撃に対して高い耐性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より5℃以上高い環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有するバリア層とポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含有するシール層を含む多層フィルムおよび/またはシートからなり、当該バリア層と当該シール層が隣接していることを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
環状ポリオレフィン系樹脂が、ガラス転移温度が130℃以上の環状ポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂が、融点110〜130℃の直鎖状低密度ポリエチレンおよび/または融点が120〜145℃の高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は2記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記多層フィルムおよび/またはシートが、前記バリア層の前記シール層と逆側に、融点110〜130℃の直鎖状低密度ポリエチレンおよび/または融点120〜145℃の高密度ポリエチレンを主成分として含有してなる基材層を備えるものである請求項1〜3のいずれか1項記載の液体収納容器。
【請求項5】
ポート部がポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂で形成されている請求項1〜4のいずれか1項記載の液体収納容器。
【請求項6】
前記環状ポリオレフィン系樹脂が次の一般式(1)で示されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の液体収納容器。
【化1】

(式中、R1およびR2は互いに同一または異種の炭素数1〜20の有機基を示し、また、R1とR2は互いに環を形成していてもよい。nは1以上の整数を示す。)
【請求項7】
前記バリア層が環状ポリオレフィン系樹脂のみで構成されていることを特徴とする請求項6記載の液体収納容器。
【請求項8】
前記液体収納容器が60℃以上の温度で熱処理または105℃以上の温度で高圧蒸気滅菌処理されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の液体収納容器。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の液体収納容器に樹脂吸着性および/または樹脂透過性の薬剤の溶液を充填してなる注射用医薬製剤。
【請求項10】
前記樹脂吸着性および/または樹脂透過性の薬剤がニトログリセリン含有薬剤である請求項9記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記樹脂吸着性および/または樹脂透過性の薬剤が蛋白質含有薬剤、ヒアルロン酸含有薬剤、ビタミン類含有薬剤、または微量元素含有薬剤、ラジカル捕捉剤含有薬剤である請求項9記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記蛋白質含有薬剤がヒト血漿由来アルブミン、遺伝子組み換え由来アルブミン、またはホルモンを含有する薬剤である請求項11記載の医薬製剤。

【公開番号】特開2008−29829(P2008−29829A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167162(P2007−167162)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【出願人】(000109831)トーアエイヨー株式会社 (25)
【Fターム(参考)】