説明

液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】個別電極と液体加圧室との間に位置ずれが生じても、液滴の吐出特性の変動が少ない液体吐出ヘッドおよび、それを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】複数の液体吐出孔8にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室10が開口している流路部材4と、セラミック振動板521a上に、共通電極534、圧電セラミック層521bおよび複数の個別電極本体535aがこの順で積層されている圧電アクチュエータユニット21とが積層されている液体吐出ヘッド13であって、セラミック振動板521aには、複数の液体加圧室10と対向する流路部材4側の面に、平面形状が液体加圧室10を内包する形状で、共通電極534が露出しない深さで開口している凹部521cがそれぞれ設けられているとともに、個別電極本体534aの平面形状は、それぞれ凹部521cより小さい液体吐出ヘッドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出させる液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタやインクジェットプロッタなどの、インクジェット記録方式を利用した印刷装置が、一般消費者向けのプリンタだけでなく、例えば電子回路の形成や液晶ディスプレイ用のカラーフィルタの製造、有機ELディスプレイの製造といった工業用途にも広く利用されている。
【0003】
このようなインクジェット方式の印刷装置には、液体を吐出させるための液体吐出ヘッドが印刷ヘッドとして搭載されている。この種の印刷ヘッドには、インクが充填されたインク流路内に加圧手段としてのヒータを備え、ヒータによりインクを加熱、沸騰させ、インク流路内に発生する気泡によってインクを加圧し、インク吐出孔より、液滴として吐出させるサーマルヘッド方式と、インクが充填されるインク流路の一部の壁を変位素子によって屈曲変位させ、機械的にインク流路内のインクを加圧し、インク吐出孔より液滴として吐出させる圧電方式が一般的に知られている。
【0004】
また、このような液体吐出ヘッドには、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に液体吐出ヘッドを移動させつつ記録を行なうシリアル式、および記録媒体より主走査方向に長い液体吐出ヘッドを固定した状態で、副走査方向に搬送されてくる記録媒体に記録を行なうライン式がある。ライン式は、シリアル式のように液体吐出ヘッドを移動させる必要がないので、高速記録が可能であるという利点を有する。
【0005】
シリアル式、ライン式のいずれの方式の液体吐出ヘッドであっても、液滴を高い密度で印刷するには、液体吐出ヘッドに形成されている、液滴を吐出する液体吐出孔の密度を高くする必要がある。
【0006】
そこで液体吐出ヘッドを、マニホールドおよびマニホールドから複数の液体加圧室をそれぞれ介して繋がる液体吐出孔を有した金属の流路部材と、前記液体加圧室をそれぞれ覆うように設けられた複数の変位素子を有する圧電アクチュエータユニットとを積層して構成したものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この液体吐出ヘッドでは、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がった液体加圧室がマトリックス状に配置され、それを覆うように設けられた圧電アクチュエータユニットの変位素子を圧電体の変形により変位させることで、各液体吐出孔からインクを吐出させ、主走査方向に600dpiの解像度で印刷が可能とされている。また、変位素子は、流路部材側から、振動板、共通電極、圧電セラミック層、液体加圧室に対向した位置にある個別電極が積層された構造をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−305852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているような液体吐出ヘッドでは、変位素子の変位量を大きくするため、平面視したときの個別電極の大きさをを液体加圧室よりも小さい所定の大きさに
することが行なわれている。しかし、個別電極の大きさをそのようにすると、個別電極と液体加圧室との位置がずれると変位が低下し、液滴の吐出速度が低下したり、液滴量が少なくなるなどの問題があった。液体吐出ヘッドにおいて、各液体吐出孔から吐出される液滴の吐出特性にばらつきがあると、記録精度が劣化するという問題になる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、個別電極と液体加圧室との間に位置ずれが生じても、液滴の吐出特性の変動が少ない液体吐出ヘッドおよび、それを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体吐出ヘッドは、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材と、セラミック振動板上に、共通電極、圧電セラミック層および複数の個別電極がこの順で積層されている圧電アクチュエータユニットとが積層されている液体吐出ヘッドであって、前記セラミック振動板には、前記複数の液体加圧室と対向する前記流路部材側の面に、平面形状が前記液体加圧室を内包する形状で、前記共通電極が露出しない深さで開口している凹部がそれぞれ設けられているとともに、前記個別電極の平面形状は、それぞれ前記凹部より小さいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の液体吐出ヘッドは、複ミック振動板上に、共通電極、圧電セラミック層および複数の個別電極がこの順で積層されている圧電アクチュエータユニットとが積層されている液体吐出ヘッドであって、前記セラミック振動板には、前記複数の液体加圧室と対向する前記流路部材側の面に、平面形状が前記液体加圧室と略相似で、前記共通電極が露出しない深さで開口している凹部がそれぞれ設けられているとともに、前記個別電極の平面形状は、それぞれ前記液体加圧室および前記凹部より小さいことを特徴とする。前記凹部の内面の表面粗さRaが1μm以下であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の記録装置は、前記液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記液体吐出ヘッドおよび前記搬送部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
またさらに、セラミック振動板となる第1のグリーンシートと、共通電極となる導体層と、圧電セラミック層となる第2のグリーンシートとを、この順に積層して積層体を作製する工程と、該積層体を焼成し、圧電アクチュエータユニット素体を得る工程と、該圧電アクチュエータユニット素体の前記圧電セラミック層側の表面に、複数の個別電極を形成する工程と、前記複数の個別電極が形成された前記圧電アクチュエータユニット素体の前記セラミック振動板の前記共通電極が積層された面と反対の面の、前記個別電極と対向する位置に、前記共通電極が露出しない深さの複数の凹部をそれぞれ形成して、圧電アクチュエータユニットを作製する工程と、該圧電アクチュエータユニットと、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材とを前記凹部と前記液体加圧室がそれぞれ対向するように積層する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
さらにまた、セラミック振動板となる第1のグリーンシートと、共通電極となる第1の導体層と、圧電セラミック層となる第2のグリーンシートと、複数の個別電極となる第2の導体層とを、この順に積層して積層体を作製する工程と、前記第1のグリーンシートの前記第1の導体層が積層された面と反対の面の、前記複数の第2の導体層と対向する位置に、前記第1の導体層が露出しない深さの複数の凹部をそれぞれ形成する工程と、前記凹部の形成された前記積層体を焼成し、圧電アクチュエータユニットを得る工程と、該圧電アクチュエータユニットと、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材とを前記複数の凹部と前記複数の液体加圧室が対向するように積層する工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
またさらに、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、セラミック振動板と、共通電極と、圧電セラミック層と、複数の個別電極とが、この順に積層されている圧電アクチュエータユニットを得る工程と、孔が開口しており、複数枚積層することで、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材を構成する複数のプレートのうち、少なくとも前記液体加圧室となる孔が開口しているプレートを、前記圧電アクチュエータユニットの前記セラミック振動板の側に、前記個別電極と前記液体加圧室となる孔とが対向するように積層して中間積層体を得る工程と、前記中間積層体の前記セラミック振動板の前記液体加圧室となる孔が開口している位置に、前記液体加圧室となる孔を通して、前記共通電極が露出しない深さの複数の凹部をそれぞれ形成する工程と、前記複数の凹部を形成した中間積層体に、前記流路部材を構成する残りのプレートを積層する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液体吐出ヘッドによれば、変位素子の変位は主に凹部の内側で生じるため、圧電アクチュエータと流路部材との積層ずれが、液体吐出特性に影響し難くさせることができる。
【0017】
また、本発明の記録装置によれば、記録精度をよくすることができる。
【0018】
さらに、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法によれば、圧電アクチュエータ製造する際に、個別電極および凹部のいずれか一方のを形成した後、形成した方に位置合わせして、他方を形成することが容易になるため、個別電極と凹部との相対位置精度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録装置であるプリンタの概略構成図である。
【図2】図1の液体吐出ヘッドを構成する第1の流路部材および圧電アクチュエータユニットの平面図である。
【図3】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図4】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図5】(a)は、図3のV−V線に沿った縦断面図であり、(b)は、(a)と直交する方向の縦断面の要部であり、(c)は(a)の平面図である。
【図6】(a)〜(e)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を示した図である。
【図7】(a)〜(d)は、本発明の他の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を示した図である。
【図8】(a)〜(c)は、本発明の他の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を示した図である。
【図9】(a)は、本発明の他の実施例の液体吐出ヘッドの部分縦断面図であり、(b)は、(a)と直交する方向の縦断面の要部であり、(c)は(a)の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
【0021】
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
【0022】
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
【0023】
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
【0024】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
【0025】
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0026】
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
【0027】
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
【0028】
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端に液体吐出ヘッド本体13を有している。液体吐出ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図4、5および6参照)。
【0029】
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は、液体吐出孔面に開口しており、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、液体吐出ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
【0030】
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成する液体吐出ヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
【0031】
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
【0032】
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
【0033】
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成する液体吐出ヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示された液体吐出ヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、液体吐出ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かり易いように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5(a)は図3のV−V線に沿った縦断面図であり、図5(b)は図5(a)と直交する方向の部分縦断面図であり、主要部分を拡大した図である。
【0034】
液体吐出ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
【0035】
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
【0036】
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接して液体吐出ヘッド本体13の長手方向に延在している。
【0037】
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、圧電アクチュエータユニット21は複数の液体加圧室10を覆うように積層されるので、各液体加圧室10の開口は、圧電アクチュエータユニット21で閉塞されている。
【0038】
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
【0039】
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
【0040】
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように液体吐出孔8を投影すると、図3に示した仮想直線のRの範囲に、各副マニホールド5a繋がっている4つの液体吐出孔8、つまり全部で16個の液体吐出孔8が600dpiの等間隔になっている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である
)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
【0041】
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。すなわち、個別電極35は、圧電アクチュエータユニット21の上面に、第1の方向および第1の方向とは異なる方向にわたって形成されている。個別電極35は、個別電極本体35aと個別電極35aから引き出された引出電極35bとを含む。個別電極本体35aは、液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
【0042】
流路部材4の下面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
【0043】
液体吐出ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。液体吐出ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0044】
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
【0045】
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。
【0046】
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホ
ールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
【0047】
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21の圧電セラミック層21a、21bの積層体の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電アクチュエータユニット21は、流路部材4の液体加圧室10の開口している平面状の面に積層されており、圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。セラミック振動板である圧電セラミック層21aの流路部材と対向する面には、平面形状が液体加圧室と略相似の凹部21cが形成されている。凹部21cは、その底部で共通電極34が露出しない深さで形成されている。凹部21cについては後で詳述する。
【0048】
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35、個別電極35の上に形成されているAu系などの金属材料からなる接続電極を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている個別電極本体35aと、個別電極本体35aから液体加圧室10のない位置まで引き出されている引出電極35bとを含んでいる。引出電極35bの液体加圧室10のない位置には、接続電極36が形成されている。個別電極35の厚さは、0.3〜1μmである。接続電極36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚さが5〜15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed
Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0049】
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に、外部配線60内の別の電極と接続されている。
【0050】
なお、以上は、圧電アクチュエータユニット21が2層の圧電セラミック層の場合の構造であるが、3相層以上の圧電セラミック層を積層して、個別電極35と共通電極34が交互になるように配置してもよい。
【0051】
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21において
は、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
【0052】
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置するセラミック振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
【0053】
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21の液体吐出時の駆動方法の一例を、個別電極35に供給される駆動電圧(駆動信号)に関して説明する。個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
【0054】
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0055】
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、圧力波がしぼり12から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的であ
る。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
【0056】
以上のような液体吐出ヘッド2においては、変位素子50の変位を大きくするために個別電極35、より詳しくは、個別電極35のうち平面視した際に液体加圧室10と重なっている部分で、個別電極35aから引き出されている引出電極35を除いた個別電極本体35aの大きさを液体加圧室10より小さい所定の大きさにする。液体加圧室10の形状や、他の部分の流路の構造によって多少の違いが生じることもあるが、個別電極本体の面積を液体加圧室10の面積の6割程度にすることで、変位を極大し、ひいては、液滴の吐出速度を速くしたり、液適量を多くしたりできる。
【0057】
その反面、個別電極本体35aと液体加圧室10との間に位置ずれが生じると変位が小さくなる。個別電極35は圧電アクチュエータユニット21上に形成され、液体加圧室10は流路部材4上に形成されており、別々の部材上に形成されているので、それぞれの位置が合うように形成するのは難しい。さらに個別には精度よく形成できたとしても、積層する設備などに起因する位置ずれが生じることもあるし、温度を加えた状態で積層を行なえば、材質の熱膨張係数差による位置ずれが生じる。
【0058】
図5(a)(b)に示した液体吐出ヘッドでは、セラミック振動板21aに、液体加圧室10と対向する流路部材4側の面に、平面形状が液体加圧室10と略相似で、共通電極34が露出しない深さで開口している凹部21cがそれぞれ設けられているとともに、個別電極本体35aの平面形状は、液体加圧室10および凹部21cより小さくなっている。個別電極35と凹部21cとは、圧電アクチュエータユニット上の構造になるので、位置合わせして、精度よく作製しやすいので、変位素子50の変位ばらつきを小さくできる。そして、圧電アクチュエータユニット21と流路部材4との積層ばらつきなどが、従来の構造と同程度のであっても、液体吐出特性にばらつきは生じ難い。これは、凹部21cと液体加圧室10の位置がずれていたとして、その部分は、充填されている液体の圧力波が伝わるだけなので、大きな液体吐出特性の変動とはならないためである。また、このように加工できるのも、圧電アクチュエータユニット21として、セラミック振動板21aと圧電セラミック層21bとが一体になっていることによる。
【0059】
凹部21cは、液体加圧室10の開口部とほぼ同一形状で平面方向に平行な底部を有し、側面が平面方向と直交する形状で作製すればよいが、開口部の形状が液体加圧室10と略相似であれば他の形状であってもかまわない。ここで略相似とは、相似形から角部の曲率などを少し変えたもので、相似形からの外形のずれが大きさの10%以内程度であることをいい、そのようにすることで、圧力波が凹部21cから液体加圧室10にスムーズに伝わるようになる。そして、変位素子50、あるいは液体吐出素子の形成効率(面積の利用効率)を高くするためには、凹部21cの開口部の面積と液体加圧室10の面積の割合が±10%以下程度であることが好ましく、実質的に同じ形状であることがより好ましい。なお、後述するように、凹部の大きさを液体加圧室より大きくすることで変位素子の変位量を大きくすることもできる。
【0060】
凹部21cは、凹んでいることにより、変位素子50の周囲の固定される点(変位の基点)を液体加圧室10とセラミック振動板21aとが接する点から、凹部21c開口の端にすることができるが、この効果をよりはっきり生じさせやすいように、凹部21cの深さは、圧電アクチュエータユニット21の厚さの10%以上であることが好ましい。また凹部21cの底部と共通電極34との間に残されるセラミック振動板21aの厚さは、セラミック振動板21aの材質にもよるが、共通電極34にまで液体が滲入し信頼性を低下させないように5μm以上にすることが好ましい。
【0061】
また、凹部21cの形成されている部分は変位素子50の厚さ(凹部21cの部分のセラミック振動板21a+共通電極34+圧電セラミック層21b+個別電極35の厚さ)
を薄くできるので、変位素子50の変位量を大きくすることもできる。
【0062】
さらに、凹部21cの内面は、表面粗さRaが1μm以下であることが好ましい。ここでいう内面とは内部の面全てのことであり、凹部21cが側面と底面とを有するような構造であれば、側面と底面との両方のことである。表面粗さRaが1μm以下であることにより、液体を充填する際に、表面粗さの大きい部分で気泡が保持され難いので、液体の充填が容易になり、液体吐出ヘッドを使用している際に、残った気泡により液体が吐出されなくなることも抑制できる。
【0063】
また、表面粗さRaが1μm以下の内面を得るためには、レーザー加工することによりが考えられる。レーザー加工することにより、例えば、焼成前のグリーンシートを打ち抜き加工して焼成する工程よりの表面粗さを小さくできる。凹部21cを焼成後の機械的な加工により作製することもできるが、研磨などを行なうこと表面粗さを小さくすることもできるが工数が非常にかかってしまう。
【0064】
さらに、レーザー加工を行なう場合においても、例えば、YVOレーザーの542nmの波長のレーザーで加工することでRaが0.6〜1.0μmの内面が得られるが、長波長のレーザーで加工すると表面粗さが大きくなることがある。表面粗さが1μmを超えると前述の気泡の件に加えて、レーザー加工のダメージによりクラックが生じるおそれもあるため、表面粗さは1μm以下にするのがよい。
【0065】
続いて、本発明の他の液体吐出ヘッドの実施形態を図9を用いて説明する。図9(a)〜(c)に示す液体吐出ヘッドは、基本構造は図1〜5で示したものと同じであるが、圧電アクチュエータユニット521の構造が、主に凹部521cと液体加圧室10との関係において異なっている。以下、主に圧電アクチュエータユニット21との相違点について説明する。
【0066】
個別電極535は、平面形状が凹部521cと略相似で凹部521cより小さい個別電極本体535aと、個別電極535aから凹部521cのない位置まで引き出されている引出電極535bとを含んでいる。引出電極535bの、下部に凹部521cのない部分に接続電極536が形成されている。
【0067】
凹部521cの平面形状は、液体加圧室10の開口が内包される形状にされる。この場合、内包するとは、しぼりや液体吐出孔に向かう流路などの開口の一部が凹部521cの外にまで繋がっている場合も含む。
【0068】
また、凹部521cと液体加圧室10の開口の平面形状は、略相似にされ、液体加圧室10の面積は凹部521cの50〜90%程度、その面積重心は、凹部521cの面積重心とほぼ同じ位置となっている。ここで略相似とは、相似形から角部の曲率などを少し変えたもので、相似形からの外形のずれが大きさの10%以内程度であることをいう。また、面積重心がほぼ同じ位置にされるとは、面積重心のずれが、そのずれの方向の凹部521cの長さに対して20%以下、さらに好ましくは10%以下であることをいう。
【0069】
以上のような構成を有することにより、変位素子550は、変形の基点が凹部521cの端となるため、変形の基点が液体加圧室10の開口の端であった場合と比較して、変位量を大幅に大きくできる。また、このような変位素子550では、変位量は、変位素子550中央部分で0.05〜0.3μm程度であるため、凹部521cの深さは1μm程度であっても、流路部材4が変位素子550と接触して、変位を阻害することはない。なお、もし、流路部材4が変位素子550と接触したとしても、変位量を大きくする効果はある程度得られる。
【0070】
個別電極本体535aの平面形状は、凹部521cと関係して変位量に影響を与える。変位量を大きくするため、上述のように変位の可能な領域である凹部521cに対して個別電極本体535aの平面形状は略相似にされ、その面積は約6割程度にされる。
【0071】
また、変位素子550の変位量は中央部で大きくなるため、液体加圧室10の開口がその中央で50〜90%程度面積であれば、その大きくなった変位量を、液体加圧室10内に発生する圧力波として有効に利用することができる。また、凹部521cと液体加圧室10との間に位置ずれが生じても、液体流路の位置ずれになるため、変位素子550の変形の基点となる端部の位置ずれが生じる場合と比較して、吐出特性に与える影響は少なくなる。
【0072】
さらに、凹部521cの深さを、流路部材4で構成される液体加圧室10の深さの30%以下、好ましくは20%以下、特に10%以下とすることで、液体加圧室10の流路特性を大きく変えないで、変位素子550の変位量を大きくすることができる。これにより、設計の自由度が大きくなる。例えば、従来は変位量を大きくするために、液体加圧室10の平面形状を大きくすると、ALが長くなり、高周波駆動に向かなくなることがあったが、上述のような構成によれば、ALをほとんど変えずに変位量を大きくすることも可能である。
【0073】
またさらに、変位の基点となる変位素子550の端が、流路部材4と凹部521cの縁との接点付近になるように、流路部材4と圧電アクチュエータユニット521との接合を接着剤で行なう場合、接着剤の量を調整したり、凹部521aに対向する部分に接着剤を塗布しないようにし、凹部521cの中央に近い部分が接合しないようにすることが好ましい。また、凹部521cに対向する部分に接着剤が付いていない状態にすることで、接着剤の塗布量により流路の寸法のばらつきが生じることが抑制できる。さらに、使用する液体により接着剤の一部が剥がれるなどして、流路に詰まることを抑制できる。
【0074】
以上のような液体吐出ヘッドは、例えば次のように作製することができる。まず、凹部21cを焼成後に加工する一つの方法を、工程順に示した図6(a)〜(e)を用いて説明する。
【0075】
まず、圧電セラミック層に用いる圧電材料をチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)とし、PZT粉末とバインダと溶剤とを混合してスラリーを作成し、このスラリーから、成形方法としてロールコーター法を採用して、グリーンシートを作製する。
【0076】
図6(a)は、焼成後にセラミック振動板21aとなる第1のグリーンシート221aに共通電極34となる導体層234を導体ペートとして塗布し、乾燥したものと、焼成後に圧電セラミック層21bとなる第2のグリーンシート221bに図示しないビアホールとなる貫通孔を金型により打ち抜きなどで形成したものである。図6(b)は、第1のグリーンシート221aと第2のグリーンシート221bとを加熱加圧などにより積層したものである。図6(c)は、これを例えば1020℃の温度で焼成し、個別電極35を形成したものである。個別電極35は、スクリーン印刷により、Auを主成分とする導体ペーストを塗布し、800℃の熱処理によって形成できる。
【0077】
図6(d)は、レーザー加工により個別電極35に位置あわせて、凹部21cを形成したものであ。レーザー加工は、例えば、波長542nmのYVOレーザーで加工することができる。図6(e)は圧電アクチュエータ21を流路部材4に積層接合したものである(流路部材4は積層構造中央のプレートを省略してある)。流路部材4の作製と積層接合については次で説明する。
【0078】
流路部材4を、圧延法等により得られたプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
【0079】
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
【0080】
圧電アクチュエータユニット21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電焼結体や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータユニット21と流路部材4とを加熱接合することができる。このようにして、液体吐出ヘッド2を作製することができる。
【0081】
次に凹部21cを焼成前に加工する方法を、工程順に示した図7(a)〜(d)を用いて説明する。上述の工程と共通する部分については省略する。
【0082】
図7(a)は、焼成後にセラミック振動板21aの一部となる第1のグリーンシートの下部321a−1に凹部21aとなる貫通孔321cを金型による打ち抜きで作成しものと、焼成後にセラミック振動板21aの一部となる第1のグリーンシートの上部321a−2に共通電極34となる第1の導体層334を導体ペーストとして塗布し、乾燥したものと、焼成後に圧電セラミック層21bとなる第2のグリーンシート221bに、図示しないビアホールとなる貫通孔を金型により打ち抜きなどで形成し、個別電極35となる第2の導体層335を導体ペートとして塗布し、乾燥したものある。図7(b)は、第1のグリーンシートの上部321a−2と第2のグリーンシート321bとを加熱加圧などにより積層したものと、積層前の第1のグリーンシートの下部321a−1である。図7(c)は、第1のグリーンシートの上部321a−2と第2のグリーンシート321bとを積層したものに、さらに第1のグリーンシートの下部321a−1を積層したものである。このような順で積層することにより、一括で積層する場合と比較して貫通孔321cの部分についても積層圧力が加わり、積層が確実になる。図7(d)は、積層後の積層体を、例えば1020℃の温度で焼成し、圧電アクチュエータ21を作製し、流路部材4に積層したものである。なお、積層体として、焼成後にセラミック振動板21aとなる第1のグリーンシートと、焼成後に共通電極34となる第1の導体層と、焼成後に圧電セラミック層21bとなる第2のグリーンシートと、個別電極35となる第2の導体層とを積層したものを作製し、焼成前にレーザーで凹部を形成してもよい。このようにして、液体吐出ヘッド2を作製することができる。
【0083】
以上の製造方法は、凹部と液体加圧室とをそれぞれ任意の形状にできるため好ましい。次に説明する方法では、凹部421cの平面形状は、液体加圧室10の開口以下の大きさとなるが、液体加圧室10を構成するプレート22を接合した後で、凹部421cを形成するために、凹部421cの形成位置を、個別電極435および液体加圧室10の両方の位置と調整して決めることで、吐出特性のばらつきを少なくすることもできる。
【0084】
凹部を焼成後に加工する他の方法を、工程順に示した図8(a)〜(c)を用いて説明する。上述の工程と共通する部分については省略する。 まず、振動板421a、共通電極424、圧電セラミック層421および個別電極からなる圧電アクチュエータユニット
421を作製する。図8(a)は、圧電アクチュエータユニット421に、流路部材4のうち液体加圧室10を構成する貫通孔が形成されているプレート22を接着した中間積層体である。なお、ここではプレートを1枚積層しているが、次で説明するように液体加圧室10となる貫通孔を通して凹部421aを加工できれば、積層するプレートは複数でもよい。
【0085】
図8(b)は、レーザー加工により、液体加圧室10となる貫通孔を通して凹部421cを形成したものである。この場合、凹部421cの形成位置は、個別電極35に合わせたり、液体加圧室10の開口に合わせたり、その両者を考慮した位置にするなどして、吐出特性のばらつきを少なくすることなどができる。
【0086】
図8(c)は、中間積層体に、流路部材4の残りのプレートを積層したものである。液体加圧室10と他の流路との位置ばらつきは、プレート22の材質や大きさが、他のプレートと同じであれば起き難い。また、流路を、位置ずれが吐出ばらつきに影響を与え難い形状に設計にすることも可能である。
【符号の説明】
【0087】
1・・・プリンタ
2・・・液体吐出ヘッド
4・・・流路部材
5・・・マニホールド
5a・・・副マニホールド
5b・・・マニホールドの開口
6・・・個別供給流路
8・・・液体吐出孔
9・・・液体加圧室群
10・・・液体加圧室
11a、b、c、d・・・液体加圧室列
12・・・しぼり
13・・・液体吐出ヘッド本体
15a、b、c、d・・・液体吐出孔列
21・・・圧電アクチュエータユニット
21a、421a・・・圧電セラミック層(セラミック振動板)
21b、421b・・・圧電セラミック層
21c、421c・・・凹部
221a、321a、321a−1、321a−2、221b、321b・・・グリーンシート
22〜31・・・プレート
32・・・個別流路
34、534・・・共通電極
35、535・・・個別電極
35a、535a・・・個別電極本体
35b、535b・・・引出電極
36、536・・・接続電極
50、550・・・変位素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材と、セラミック振動板上に、共通電極、圧電セラミック層および複数の個別電極がこの順で積層されている圧電アクチュエータユニットとが積層されている液体吐出ヘッドであって、前記セラミック振動板には、前記複数の液体加圧室と対向する前記流路部材側の面に、平面形状が前記液体加圧室を内包する形状で、前記共通電極が露出しない深さで開口している凹部がそれぞれ設けられているとともに、前記個別電極の平面形状は、それぞれ前記凹部より小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材と、セラミック振動板上に、共通電極、圧電セラミック層および複数の個別電極がこの順で積層されている圧電アクチュエータユニットとが積層されている液体吐出ヘッドであって、前記セラミック振動板には、前記複数の液体加圧室と対向する前記流路部材側の面に、平面形状が前記液体加圧室と略相似で、前記共通電極が露出しない深さで開口している凹部がそれぞれ設けられているとともに、前記個別電極の平面形状は、それぞれ前記液体加圧室および前記凹部より小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記凹部の内面の表面粗さRaが1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記圧電ヘッドおよび前記搬送部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項5】
セラミック振動板となる第1のグリーンシートと、共通電極となる導体層と、圧電セラミック層となる第2のグリーンシートとを、この順に積層して積層体を作製する工程と、該積層体を焼成し、圧電アクチュエータユニット素体を得る工程と、該圧電アクチュエータユニット素体の前記圧電セラミック層側の表面に、複数の個別電極を形成する工程と、前記複数の個別電極が形成された前記圧電アクチュエータユニット素体の前記セラミック振動板の前記共通電極が積層された面と反対の面の、前記個別電極と対向する位置に、前記共通電極が露出しない深さの複数の凹部をそれぞれ形成して、圧電アクチュエータユニットを作製する工程と、該圧電アクチュエータユニットと、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材とを前記凹部と前記液体加圧室がそれぞれ対向するように積層する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
セラミック振動板となる第1のグリーンシートと、共通電極となる第1の導体層と、圧電セラミック層となる第2のグリーンシートと、複数の個別電極となる第2の導体層とを、この順に積層して積層体を作製する工程と、前記第1のグリーンシートの前記第1の導体層が積層された面と反対の面の、前記複数の第2の導体層と対向する位置に、前記第1の導体層が露出しない深さの複数の凹部をそれぞれ形成する工程と、前記凹部の形成された前記積層体を焼成し、圧電アクチュエータユニットを得る工程と、該圧電アクチュエータユニットと、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の液体加圧室が開口している流路部材とを前記複数の凹部と前記複数の液体加圧室が対向するように積層する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
セラミック振動板と、共通電極と、圧電セラミック層と、複数の個別電極とが、この順に積層されている圧電アクチュエータユニットを得る工程と、液体加圧室を構成するための複数の貫通孔が開口しているプレートを、前記圧電アクチュエータユニットの前記セラ
ミック振動板の側に、前記個別電極と前記貫通孔とが対向するように積層して中間積層体を得る工程と、前記貫通孔を介して露出する前記中間積層体の前記セラミック振動板の面に、前記共通電極が露出しない深さの凹部をそれぞれ形成する工程と、前記凹部を形成した中間積層体に、流路部材を構成するための孔を有する残りのプレートを積層する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106469(P2012−106469A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16744(P2011−16744)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】