説明

液体吐出ヘッドとその製造方法及び画像形成装置

【課題】アミド系水溶性有機溶剤を含む水溶性有機溶剤を用いたインクなどの液体に対しても耐性を持ち、ノズル板と流路板との接合に接着強度低下などの問題を生じない液体吐出ヘッドとその製造方法、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置の提供。
【解決手段】液滴を吐出する吐出口が形成されたノズル板を、前記吐出口が連通する液室を形成した流路板に接合した液体吐出ヘッドであって、前記ノズル板と流路板とがフッ素系エポキシ接着剤で接合されており、該フッ素系エポキシ接着剤の硬化物と、20〜60重量%のアミド系水溶性有機溶剤、水、着色剤、及び界面活性剤を含有するインクとの接触角が60°以上である液体吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドとその製造方法及び該液体吐出ヘッドを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像記録装置(画像形成装置)として用いるインクジェット記録装置において使用するインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する液室(加圧室、吐出室、圧力室、加圧液室等ともいう)と、この液室内のインクを加圧する圧力発生手段(駆動手段、或いはエネルギー発生手段)とを備え、圧力発生手段を駆動することにより液室内のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるものである。
従来、インクジェットヘッドとしては、圧電素子を用いて液室の壁面を形成する振動板を変形させインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献1参照)、発熱抵抗体を用いて液室内でインクを加熱して気泡を発生させることによる圧力でインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献2参照)、液室の壁面を形成する振動板と電極とを平行に配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることでインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献3等参照)などが知られている。
【0003】
ところで、インクジェットヘッドは、液室、この液室にインクを供給する流体抵抗部、流体抵抗部を介して液室に供給するための共通インク液室、インク滴を吐出するためのノズル孔或いはノズル溝などの各種流路を形成する必要があり、例えば、液室などの流路を形成するための流路基板(液室基板)とノズルを有するノズル板などの部材を接合してヘッドが形成される。
従来、インクジェットヘッドを構成する部材の接合は、一般的に湿式の接着剤やフィルム接着剤などを用いて行われているが、この他に、液室基板やノズル板としてシリコン基板を用いた場合には、直接接合や金属材料を介した共晶接合、金属材料を用いた場合には陽極接合なども行われている。
【0004】
インクジェットヘッドは接着部の端部がインクに曝されており、またインク吐出の圧力が部材間にかかる。これらの吐出サイクルは数kHzであり、高周波の圧力変動を受けるため接着部の劣化が進みやすい。そのため一般的な接着よりも耐液性が求められる。
ところで、一般的に2つの部材の接合を行う場合には、部品精度を保ち、信頼性の高い接合を実現しなければならないという要請がある。ところが、インクジェットヘッドにおいては、接合される部位はインクと接触する部位が多く、このインクとの接触は、接合剤自体を劣化させたり、接合界面に浸透し剥離を生じさせたりするため、信頼性に関して大きな問題を引き起こすことになる。
そのため接着剤はインクに対して耐性を持ち、かつ接合界面への浸透乖離を極力抑えて十分な接合強度を持つものが望まれているが、全てのインクに対して有効な接着剤は存在せず、特定のインクに対する低劣化な接着剤の選定も極めて困難であった。
【0005】
近年、家庭用インクジェットプリンタや産業用インクジェットプロッタが普及したため水系インクや油系インクを吐出する機会が増えており、これらのインクに対応する接着剤も見出されている。
しかし最近は、紙媒体への印字におけるカールの抑制や非吸収性フィルム媒体への印字のためのインクが開発されており、従来の水系インクや油系インクとは異なる特性を有している。すなわち特許文献4に示されるようにカール抑制インクはインク中の水分を抑え溶剤を増やした組成を有しており、従来の水系インクのように水の特性が強く出たものではなく水溶性有機溶剤の特性がより強く表れたインクとなっている。また特許文献5に示されるような非吸収性フィルム媒体への印字インクは、メチルピロリドンのような溶解性の高い溶媒を多く用いたインクとなっており、従来の水性インクに比べて有機物への攻撃性が高くなっている。
これらのインクは、水を伴ったインクでありながら有機溶剤の特性が強く出ているため従来の水系インクよりも有機構造体への浸透性が増している。そのため水系インクに対して用いていた接着剤を用いると接着剤にインクが浸透しやすく、また界面への水分の浸透が有るため、金属や酸化膜のように接着表面が親水性であるものの場合に接着強度を著しく低下させるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アミド系水溶性有機溶剤を含む水溶性有機溶剤を用いたインクなどの液体に対しても耐性を持ち、ノズル板と流路板との接合に接着強度低下などの問題を生じない液体吐出ヘッドとその製造方法、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 液滴を吐出する吐出口が形成されたノズル板を、前記吐出口が連通する液室を形成した流路板に接合した液体吐出ヘッドであって、前記ノズル板と流路板とがフッ素系エポキシ接着剤で接合されており、該フッ素系エポキシ接着剤の硬化物と、20〜60重量%のアミド系水溶性有機溶剤、水、着色剤、及び界面活性剤を含有するインクとの接触角が60°以上であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
2) 前記アミド系水溶性有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び下記一般式(1)の化合物から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする1)に記載の液体吐出ヘッド。
【化1】

(上記式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

3) 液滴を吐出する吐出口が形成されたノズル板を、前記吐出口が連通する液室を形成した流路板に接合した液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記流路板に、溶剤を含んだフッ素系エポキシ接着剤を塗布した後、乾燥させ、半硬化状態(Bステージ状態)とする第1のステップ、該フッ素系エポキシ接着剤が塗布された流路板と前記ノズル板とを位置合わせして接合し固定する第2のステップ、該位置合わせして接合した流路板とノズル板を加圧しつつ加熱する第3のステップを順に行うことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
4) 1)又は2)に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アミド系水溶性有機溶剤を含む水溶性有機溶剤を用いたインクなどの液体に対しても耐性を持ち、ノズル板と流路板との接合に接着強度低下などの問題を生じない液体吐出ヘッドとその製造方法、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】液体吐出ヘッドの構成の一例を示す液室長手方向の部分断面図。
【図2】液体吐出ヘッドの構成の一例を示す液室短手方向(ノズルの並び方向)の部分断面図。
【図3】液体吐出ヘッドを搭載した画像形成装置(インクジェット記録装置)の一例を示す斜視説明図。
【図4】画像形成装置(インクジェット記録装置)の機構部の側面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
<接着剤に関して>
インクの成分である親水性有機溶剤や水分が、接着剤や接着界面に浸透することにより剥離を促進し接着強度を低下させる原因となっている。そのため接着剤へのインクの浸透を抑えることが重要となる。インクの浸透を抑制するには、硬化後の構造面からは接着剤の密度を向上させて接着剤の膨潤を押さえ込むことが必要であり、化学面からはインクと交わりにくい材料組成とし浸透を防ぐことが必要となる。
エポキシ接着剤は複数のエポキシ基が3次元架橋を行うことで接着するため、他の接着剤に比べて架橋密度が高く膨潤しにくいことが特徴となっている。そのため従来の水系インクに対して効果的な接着剤となっている。しかし、カールの抑制インクや非吸収性フィルム媒体用のインクのような親水性有機溶剤が多いインクでは、従来のエポキシ接着剤だけでは接着強度の低下を抑制できない。
しかし、エポキシ接着剤にフッ素系の構成成分を添加すると、接着剤へのインクの浸透を抑制することが可能となり、接着剤の膨潤を防ぐことが出来る。そのため接着強度の低下を抑制することが出来るため、従来では使用できなかった親水性有機溶剤の多いインクや高溶解性溶媒を添加したインクに対して耐性を持つ接着剤を作製することが出来る。
【0011】
本発明では、液滴を吐出する吐出口が形成されたノズル板を、前記吐出口が連通する液室を形成した流路板に接合して液体吐出ヘッドを作製するに際し、接合に用いるフッ素系エポキシ接着剤の硬化物と、20〜60重量%のアミド系水溶性有機溶剤、水、着色剤、及び界面活性剤を含有するインクとの接触角が60°以上であるようなフッ素系エポキシ接着剤を選択して用いる。なお、フッ素系エポキシ接着剤は塗布性がよくないため、実際に液体吐出ヘッドの作製に用いられたことはないと思われるが、本発明ではインクとの関係で最適な接着剤となる。
上記組成のインクとの接触角が60°以上であれば、ノズル板と流路板との接合部において接着強度低下などの問題は生じない。インク成分の接着剤への浸透はインクと接着剤との親和性を低くすることにより抑制できる。親和性が高い場合はインクと接着剤との接触角が低くなり、親和性が低い場合は接触角が高くなる。接触角が60°未満ではインクと接着剤の親和性が高くなり過ぎ、接着剤内にインク成分が浸透し、接着剤樹脂部が軟化するため接着強度を保持することが出来なくなってしまう。また浸透したインクにより接着剤と基材との界面が腐食してしまい強度を保持することが出来なくなる。したがって、接着剤内部へインクが浸透しないように接触角を60°以上とする必要がある。
【0012】
上記物性を満足するエポキシ接着剤に用いることが可能なフッ素系化合物は、エポキシ接着剤の硬化反応において反応に関与する官能基を持っているものが好ましく、より好ましいものとして次のようなエポキシ基を有するフッ素化合物が挙げられる。
1,2−エポキシ−1H,1H,2H,3H,3H−ヘプタデカフルオロウンデカン、ヘキサフルオロエポキシプロパン、3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン、3−(2,2,3,3−テトラフルオロエポキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H,1H,5H−オクタフルオロペンチロキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチロキシ)−1,2−エポキシプロパン、1,4−ビス(2′,3′−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ブタン、1,6−ビス(2′,3′−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ヘキサン、ビスフェノールヘキサフルオロアセトンジグリシジルエーテル、1,3−ビス(ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼンジグリシジルエーテルなど。
【0013】
またエポキシ基が付与されたものでなくても、活性水素をもつフッ素化合物からエポキシ基をもつ化合物を誘導することは可能であり、一例として、水酸基やアミノ基を持つフッ素化合物とエピクロルヒドリンとの反応物が挙げられる。水酸基に対して等モルのエピクロルヒドリンを反応させれば単分子のエポキシ基含有化合物が主生成物として得られ、等モル未満の場合は分子間架橋が進みオリゴマーやポリマーが得られる。
これらの反応に用いられるフッ素化合物としては、水酸基やアミノ基を複数持つものの方がエポキシ樹脂として使用したときの硬化物の分子量が大きくなりやすく、3次元架橋を起こすことにより堅くなり、溶剤による膨潤を引き起こしにくくなるので、耐インク性の高い接着剤となる。
【0014】
次に、水酸基やアミノ基を持つフッ素化合物の具体例を示すが、これらに限定されるわけではない。
<水酸基が一つのもの)
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,2−トリフルロエタノール、4,4,4−トリフルロ−1−ブタノール、4,4,5,5,5−ペンタフルロ−1−ペンタノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、3−(2−パーフルオロヘキシルエトキシ)−1,2−ジヒドロキシプロパン、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール、2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロパノール、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブタノール、2H−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘキサノール、1H,1H,3H−テトラフルオロプロパノール、6−(パーフルオロ−1−メトキシエチル)ヘキサノール、1H,1H−2,5−ジ(トリフルオロメチル)−3,6−ジオキサウンデカフルオロノナノール、6−(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、3−(パーフルオロヘキシル)プロパノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、2−パーフルオロプロポキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノール、6−(パーフルオロブチル)ヘキサノール、3−(パーフルオロブチル)プロパノール、2−(パーフルオロブチル)エタノール、1H,1H−ヘプタフルオロブタノール、6−(パーフルオロエチル)ヘキサノール、1H,1H−ペンタフルオロプロパノール、1H,1H−トリフルオロエタノールなど。
【0015】
<水酸基が二つのもの:ジオール>
2−ヒドロキシ−2−フェニル−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−ビス(ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロ−1,8−オクタンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールなど。

<アミノ基が一つのもの)
p−フルオロアニリン、3,4−ジフルオロアニリン、1H,1H−ヘプタフルオロブチルアミン、1H,1H−トリデカフルオロヘプチルアミンなど。
【0016】
<多官能のもの>
5−トリフルオロメチルウラシル、2,2−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなど。
また官能基を有するフッ素樹脂オリゴマーを利用することも可能であり、同様の反応を用いてエポキシ基を導入して使用することが出来る。このようなオリゴマーとしては、OMNOVA社のPolyfox PF−636、PF−6320、PF−656、PF−6520などが挙げられる。
【0017】
上記フッ素化合物は、Dupont、ダイキン、旭硝子、セントラル硝子、OMNOVA、東ソーエフテック、ユニマテック、三菱マテリアル電子化成から購入できる。
上記フッ素化合物の中で、ビスフェノールヘキサフルオロアセトンジグリシジルエーテルがエポキシ接着剤の混和性に優れており、接着剤としての機能を阻害せずに効果を示すため望ましい。
上記フッ素化合物の添加量は、エポキシ接着剤硬化物に対してフッ素原子が18〜50重量%含まれているようにすることが好ましく、より好ましくは20〜40重量%である。フッ素原子が50重量%を超えると接着界面にフッ素原子が配向するため、接着界面への接着剤の密着力が低下し接着強度が低下してしまう。そのため界面強度を高めるためにカップリング剤が多量に必要となる。逆に18重量%よりも少ないと接着剤の撥インク性が低くなり、接着剤へのインク浸透が起こって接着強度が低下してしまう。
【0018】
接着強度を高めるためには、接着界面にアンカー剤を作用させてイオン結合や共有結合により接着剤と部材を強固に固定することが効果的である。接着部材が金属である場合、油性インクでは水素結合により強固に固定されるが、水性インクでは接着界面に浸透した水によって水素結合が切られてしまうため接着強度が著しく低下してしまう。そこで接着剤と部材間で共有結合を持たせることが望ましい。
金属とエポキシ接着剤を共有結合で結合させるには、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤を用いることが効果的である。その方法としては、接着される金属部材表面をカップリング剤で直接処理しても良いし、カップリング剤との結合性を高める表面処理を行ってからカップリング剤処理をしても良く、これにより強固な結合が得られる。
カップリング処理の前に行う表面処理としては、シランカップリング剤に対してはSiOやSiCスパッタ処理が非常に効果的であり、また、TiOやTiN処理はチタネート系カップリング剤だけでなくシランカップリング剤に対しても効果的である。これらの前処理は厚く処理を行うと処理層の強度が接着強度に影響してしまうため、極力薄層であることが望ましい。
【0019】
これらの処理に用いるカップリング剤の例を以下に示す。
・シランカップリング剤
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(3−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−トリエトキシシリル−1−プロパンアミン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、N−(2−ビニルベンジンアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、1,2−エタンジアミン、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−N−(エテニルフェニルメチル)誘導体・塩酸塩、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなど。
シランカップリング剤の有機性基に関してはエポキシ樹脂と反応する官能基を有するものが好ましく、上記のカップリング剤はその一例である。これらは信越化学、東レダウコーニング、チッソなどから購入できる。
【0020】
・チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤
テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ポリ(ジ−i−プロポキシ・オキシチタン)、ポリ(ジ−n−ブトキシ・オキシチタン)、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(トリエタノ−ルアミネ−ト)チタン、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなど。
チタネート系、アルミネート系カップリング剤は無機表面に高分子有機被膜を形成することにより接着剤の濡れ性を向上させて接着強度を向上させる。上記したのは一例でありこれらに限定されるものではない。これらのカップリング剤は三菱ガス化学、日本曹達、味の素ファインテクノなどから購入できる。
上記カップリング剤のうち、エポキシ基又はアミノ基をもつカップリング剤が好ましく、カップリング剤をエポキシ接着剤に添加して効果を発揮させるためには、接着剤の有効期間及び常温で反応が進まないことから、エポキシ基のカップリング剤が望ましい。
【0021】
また、エポキシ接着剤を使用する際には、半硬化状態(Bステージ状態)を取ることが出来る接着剤の方が、部材接着を精密に微調整してから接着することができるため望ましい。なお、「Bステージ状態」とは、エポキシ樹脂と硬化剤の反応の中間的な段階のことで、硬化の途中で未だ反応性を保持している状態であり、塗布に適した溶液の初期状態に比べて、溶剤成分の飛散や一次的な反応によりゲル状〜固体となって、エポキシ樹脂の流動性が著しく低下した状態を指す。
このBステージ状態を得るにはエポキシ接着剤の硬化温度を高温に引き上げる必要があり、硬化剤の種類によって選択可能である。このような硬化剤は熱潜在性硬化触媒あるいは熱潜在性硬化促進剤と呼ばれることもあり、その種類は特に制限されず、混合した際に室温ではエポキシ基を重合させる能力が低く、加熱によりエポキシ基を重合させる能力を発揮する化合物であればよい。
【0022】
具体的には脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミノアミド等の1級、2級アミン類、酸無水物類、カルボン酸、フェノール類、メルカプタン類、イソシアネート類等の硬化剤、3級アミン類、イミダゾール類等のアニオン重合触媒、ルイス酸類等のカチオン重合触媒、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド類、N,N−ジメチル尿素誘導体、アミンアダクト類、メラミン類、アミンイミド類、ハロゲン化ホウ素錯体、ブロックカルボン酸類、及びそれらの変性物、それらのアダクト化物、それらのマイクロカプセル化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの熱潜在性硬化剤は、単独で又は2種類以上を混合して使用することができる。
これらの中で好ましいのは、ジシアンジアミド、N,N−ジメチル尿素誘導体、室温で固体のイミダゾール、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化剤、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン−エポキシアダクト系)、アミン化合物とイソシアネート化合物又は尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)である。
これら潜在性硬化促進剤は、三菱化学、四国化成工業、味の素ファインテクノ、アデカ、旭化成ケミカルズ、富士化成工業などの会社から購入することができる。
【0023】
エポキシ接着剤を構成するエポキシ樹脂については、エポキシ基を有する多官能化合物を使用することにより、三次元架橋した硬化物が得られる。エポキシ樹脂としては、グリシジル基の結合部位によって、グリシジルエ−テル系、グリシジルエステル系、グリシジルアミン系などに分けることができ、また結合母体となる化合物によっても幅広い化合物が得られている。接着剤に用いるエポキシ樹脂の種類は特に制限されず、結合材料とインクの特性に応じて最適なものを選択することが可能である。
インクに対する浸透性を抑制し膨潤を無くすためには、エポキシ樹脂の親水性を低減させて三次元架橋を増やす必要がある。そのため膨潤に対してはグリシジルアミン系のような多官能エポキシ樹脂や、ノボラック樹脂のグリシジルエーテル化合物などが好ましい。ただし部材への濡れ性や吸着性の面を考慮する必要があり、複数の混合物としても良い。また金属への水素結合性からビスフェノールAのグリシジルエーテルが好ましく、分子量も大きいほど弾性に富む樹脂構成となり得るが、インクに対する膨潤や水素結合の切断もあるため、適切に混合して使用することが好ましい。
これらのエポキシ樹脂は、三菱化学、四国化成工業、アデカ、DICを含め多数の会社から発売されており、何れからも購入することが出来る。
【0024】
エポキシ接着剤としては無溶剤でも良いが、適度な粘度になるように溶剤で希釈することもできる。希釈溶剤としてはエポキシ基と反応性を有する活性水素を持つ溶剤よりも、活性水素のない溶剤の方が接着剤の保存性の面から好ましいが、部材への濡れ性や乾燥速度、粘度等の面から自由に選択することが可能であり、完全に溶解した状態ではなく分散した状態であっても乾燥時に接着剤層が形成されるなら、問題なく使用可能である。
溶剤の乾燥に関しては、室温でよいが、反応しない範囲で加温してもよい。また減圧乾燥を行うことも可能であり、減圧乾燥により高沸点の溶剤を使用してもエポキシ樹脂を反応させずに乾燥させることができる。
使用する溶剤は、エポキシ樹脂、硬化剤、その他の添加剤に応じて自由に選択することができるが、硬化反応を安定的に進めるためにも不純物が管理された溶剤が望ましい。
エポキシ接着剤には、上記エポキシ樹脂や硬化剤、溶剤、カップリング剤以外に、フィラーやその他のバインダー樹脂、粘度調整剤などを含有させてもよい。フィラーとしてはシリカやアルミナのような無機粒子でも、メラミン樹脂やアクリル樹脂のような樹脂微粒子でも良い。また粘度調整剤として高級脂肪酸アマイドなどを添加し、接着剤の塗工に適した粘度に調整することも可能である。また泡による塗布斑が塗膜に発生しないようにするために抑泡剤や消泡剤を添加しても良い。
【0025】
<インクに関して>
本発明が解決しようとする課題に関連する、ノズル板と流路板の接着剤や接着強度に悪影響を与えるインク(インクジェット用インク)は、少なくともアミド系水溶性有機溶剤、水、着色剤及び界面活性剤を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。アミド系水溶性有機溶剤は水溶性有機溶剤の一部として用いるものであるが、その割合は水溶性有機溶剤全体の20〜60重量%とする。
【0026】
・水溶性有機溶剤(湿潤剤)
アミド系水溶性有機溶剤の例としては水溶性アミド化合物が挙げられる。水溶性アミド化合物は一般に多くの有機化合物や無機塩を溶解することが可能な極性溶媒であり、水から有機溶剤まで幅広い溶剤と混合することができる。そのため記録媒体に対する濡れ性や溶解性、他の成分の混和安定性などを向上させる効果が得られる。
このような水溶性アミド化合物の例としては、環状アミド化合物として、2−ピロリドン(bp250℃)、N−メチル−2−ピロリドン(bp202℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(bp226℃)、ε−カプロラクタム(bp270℃)、γ−ブチロラクトン(bp204−205℃)など、非環状アミド化合物として、ホルムアミド(bp210℃)、N−メチルホルムアミド(bp199−201℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(bp153℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(bp176−177℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(bp165℃)などが挙げられる。
【0027】
また非環状アミド化合物の一種である下記一般式(1)で示されるアミド化合物も含まれる。
【化2】

(上記式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【0028】
上記一般式で示される水溶性アミド化合物は、アルキル基の長さによって親水性が異なり、水や有機溶剤への混和性が異なる。アルキル基がメチル基のものは、沸点が216℃と高く、温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量も39.2重量%高く、しかも液粘度が25℃環境で1.48mPa・sと非常に低い。さらに、他の水溶性有機溶剤及び水に非常に溶解し易いので、インクの低粘度化が可能となり、インクに用いる水溶性有機溶剤としては非常に好ましい。この水溶性アミド化合物を含有させたインクは、保存安定性、吐出安定性が良好であり、且つインク吐出装置の維持装置に優しいインクとなる。
またアルキル基がブチル基のものは水へ自在に溶解し、流動パラフィンやn−ヘキサンへの溶解性もあり、沸点が252℃と高く、インクへの浸透向上剤や可溶化剤として添加することができる。
【0029】
上記環状及び非環状アミド化合物は何れも溶解性が高く、従来の接着剤に対しても溶解性が高いためインクへの添加量を増やすことが困難であった。そのため積層型ヘッドのような接着剤を用いているインクジェットヘッドでは、使用するインクへのアミド化合物の添加量は10重量%以下であり、多量に添加すると積層間の接着剤を攻撃してしまい接着強度の低下を招くという問題点があった。
これに対し、本発明の液体吐出ヘッドの場合は、インク中に水溶性アミド化合物を20重量%以上添加することが可能となる。インク中の水溶性アミド化合物の添加量は、印字画像のベタ均一性の面から20重量%以上が好ましいが、60重量%を超えると、紙面上での乾燥性に劣り更に普通紙上の文字品位が低下することがあるので好ましくない。
【0030】
また上記水溶性アミド化合物と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量が30重量%以上である多価アルコールを少なくとも1種含み、平衡水分量及び沸点がかなり高い湿潤剤A(温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量が30重量%以上、好ましくは40重量%以上、沸点が250℃以上のもの)、及び、平衡水分量は高いが沸点が比較的低い湿潤剤B(温度23℃、相対湿度80%での平衡水分量が30重量%以上で、沸点が140℃以上250℃未満のもの)を含有することが好ましい。
前記多価アルコール中、常圧で沸点250℃を越える湿潤剤Aとしては、1,2,3−ブタントリオール(bp175℃/33hPa、38重量%)、1,2,4−ブタントリオール(bp190〜191℃/24hPa、41重量%)、グリセリン(bp290℃、49重量%)、ジグリセリン(bp270℃/20hPa、38重量%)、トリエチレングリコール(bp285℃、39重量%)、テトラエチレングリコール(bp324〜330℃、37重量%)等が挙げられ、沸点140℃以上250℃未満の湿潤剤Bとしては、ジエチレングリコール(bp245℃、43重量%)、1,3−ブタンジオール(bp203〜204℃、35重量%)等が挙げられる。中でも好ましいのは、グリセリンと1,3−ブタンジオールである。
【0031】
これら湿潤剤A、湿潤剤Bは、いずれも温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量が30重量%以上の吸湿性が高い材料であるが、湿潤剤Bは、湿潤剤Aよりも蒸発性が比較的高い。
湿潤剤Aと湿潤剤Bを組合せて用いる場合の両者の含有重量比B/Aは、他の添加剤の種類や量にも少なからず依存するので一概に云えないが、10/90〜90/10の範囲が好ましい。
なお、上記平衡水分量は、塩化カリウム/塩化ナトリウム飽和水溶液を用いたデシケーター内を温度23±1℃、相対湿度80±3%に保ち、この中に各水溶性有機溶剤を1gずつ秤量したシャーレを保管し、飽和する水分量を次の式により求めたものである。
飽和水分量(%)=〔有機溶剤が吸収した水分量/(有機溶剤量+有機溶剤が吸収
した水分量)〕×100
上記多価アルコールを水溶性有機溶剤全体の50重量%以上用いると、吐出安定性確保やインク吐出装置の維持装置での廃インク固着防止に優れるので好ましい。
【0032】
またインクには、上記湿潤剤A、B以外にも、必要に応じて湿潤剤A、Bの一部に代えて、又は湿潤剤A、Bに加えて、その他の水溶性有機溶剤(湿潤剤)を併用することができる。
併用可能な水溶性有機溶剤(湿潤剤)としては、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の水溶性有機溶剤(湿潤剤)が含まれる。
前記多価アルコール類としては、例えば、ジプロピレングリコール(bp232℃)、1,5−ペンタンジオール(bp242℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(bp203℃)、プロピレングリコール(bp187℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(bp197℃)、エチレングリコール(bp196−198℃)、トリプロピレングリコール(bp267℃)、ヘキシレングリコール(bp197℃)、ポリエチレングリコール(粘稠液体 0固体)、ポリプロピレングリコール(bp187℃)、1,6−ヘキサンジオール(bp253〜260℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(bp178℃)、トリメチロールエタン(固体、mp199〜201℃)、トリメチロールプロパン(固体、mp61℃)などが挙げられる。
【0033】
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(bp135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(bp171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(bp197℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(bp231℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(bp229℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(bp132℃)などが挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル(bp237℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン(bp170℃)、ジエタノールアミン(bp268℃)、トリエタノールアミン(bp360℃)、N,N−ジメチルモノエタノールアミン(bp139℃)、N−メチルジエタノールアミン(bp243℃)、N−メチルエタノールアミン(bp159℃)、N−フェニルエタノールアミン(bp282〜287℃)、3−アミノプロピルジエチルアミン(bp169℃)などが挙げられる。
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(bp139℃)、スルホラン(bp285℃)、チオジグリコール(bp282℃)などが挙げられる。
【0034】
その他の固体湿潤剤としては、糖類などが好ましい。
糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類、などが挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などが挙げられる。
ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。
また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖{例えば、糖アルコール〔一般式:HOCH(CHOH)CHOH、ただし、nは2〜5の整数〕で表わされる。}、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸などが挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどが挙げられる。
【0035】
・着色剤
着色剤については、耐候性の面から主として顔料が用いられるが、耐候性を劣化させない範囲内で色調調整のため染料を併用しても構わない。好ましい染料は酸性染料及び直接性染料である。
無機顔料としては、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロ−、カドミウムレッド、クロムイエロ−に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、特に水と親和性の良いものが好ましく用いられる。
【0036】
顔料としては、少なくとも1種の親水基が直接又は他の原子団を介して結合するように表面改質された自己分散型のものが好ましい。この顔料を得るには、顔料の表面に、特定の官能基(スルホン酸基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、又は、次亜ハロゲン酸及び/又はその塩を用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。中でも好ましいのは、顔料の表面にカルボキシル基が結合し水中に分散されている形態である。この場合、顔料の表面に結合したカルボキシル基により、分散安定性が向上し、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
また、この形態のインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間印字を休止し、インクジェットヘッドのノズル付近のインクの水分が蒸発した場合でも目詰まりを起こさず、簡単なクリーニング動作で容易に良好な印字が行えるようになる。また、この自己分散型の顔料は、後述する界面活性剤及び浸透剤と組み合わせた時に、特に相乗効果が大きく、より信頼性の高い、高品位な画像を得ることが可能となる。
【0037】
上記形態の顔料に加え、ポリマー微粒子に顔料を含有させたポリマーエマルジョンを使用することも可能である。顔料を含有させたポリマーエマルジョンとは、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、及び/又はポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものである。この場合、全ての顔料が封入及び/又は吸着している必要はなく、該顔料の一部がエマルジョン中に分散にしていてもよい。
ポリマーエマルジョンを形成するポリマーとしてはビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー等が挙げられるが、特に好ましいのはビニル系ポリマー及びポリエステル系ポリマーであり、その例としては特開2000−53897号公報、2001−139849号公報に開示されているポリマーが挙げられる。
インク中の着色剤の添加量は1〜15重量%程度が好ましく、より好ましくは3〜12重量%程度である。
【0038】
・界面活性剤
界面活性剤としてはアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤が用いられる。色材の種類や湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。具体例として以下に挙げるものが好適に使用されるが、これらに限定されるわけではない。ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
このような界面活性剤は日光ケミカルズ、日本エマルジョン、日本触媒、東邦化学、花王、アデカ、ライオン、青木油脂、三洋化成などの界面活性剤メーカーから容易に入手できる。
【0039】
また、上記以外のノニオン性界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤がある。その例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられ、市販品としてエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485、TGなどがあるが、特にサーフィノール465、104、TGが良好な印字品質を示す。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー及びこの硫酸エステル塩、フッ素系脂肪族系ポリマーエステルが挙げられる。市販品としては、サーフロンS−111、S−112、S−113、S121、S131、S132、S−141、S−145(旭硝子社製)、フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431、FC−4430(住友スリーエム社製)、FT−110、250、251、400S(ネオス社製)、ゾニールFS−62、FSA、FSE、FSJ、FSP、TBS、UR、FSO、FSO−100、FSN N、FSN−100、FS−300、FSK(Dupont社製)、ポリフォックスPF−136A、PF−156A、PF−151N(OMNOVA社製)などがあり、メーカより容易に入手できる。
【0040】
前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では記録液中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
界面活性剤総量として浸透性の効果を発揮するためには、インク中に0.01〜5.0重量%含まれていることが望ましい。界面活性剤総量が0.01重量%未満では添加した効果が無く、5.0重量%より多いと記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。更に、多くの物性の普通紙に対応するために0.5〜2.0重量%がより好ましい
【0041】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、浸透剤、水分散性樹脂、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、消泡剤などが挙げられる。
【0042】
・浸透剤
浸透剤としては、20℃の水に対する溶解度が0.2〜5.0重量%のポリオールの少なくとも1種を含有することが望ましい。
このようなポリオールのうち、脂肪族ジオールとしては、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。中でも最も望ましいものは2−エチル−1,3−ヘキサンジオール及び2、2、4−トリメチル−1、3−ペンタンジオールである。
その他の併用できる浸透剤としては、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類などが挙げられるが、インク中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば、これらに限らない。
【0043】
水への溶解度が低いものであっても、前述の水溶性アミド化合物により可溶化されてインクから析出しないものであれば、浸透剤として利用可能である。
従来のインクでは水溶性アミド化合物の添加量が少なかったため可溶化効果が小さかったが、本発明のインクでは水溶性アミド化合物を多く添加できるため、従来では使用できなかった難溶性有機物も添加することができる。そのため浸透が困難であった印刷用コート紙などにも浸透させることが可能となる。
浸透剤の添加量はインク全体の0.1〜4.0重量%の範囲が望ましい。浸透剤の添加量が0.1重量%よりも少ないと、速乾性が得られず滲んだ画像となる。逆に、添加量が4.0重量%よりも多いと着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりしやすくなったり、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。
【0044】
・水分散性樹脂
水分散性樹脂としては、縮合系合成樹脂(ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、珪素樹脂など)や、付加系合成樹脂(ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂など)、天然高分子(セルロース類、ロジン類、天然ゴムなど)を用いることができる。
これらの樹脂はホモポリマーでもコポリマーでも良く、単相構造型、コアシェル型、パワーフィード型エマルジョンの何れも使用できる。
水分散性樹脂としては、樹脂自身が親水基を持ち自己分散性を有するもの、樹脂自身は分散性を持たず界面活性剤や親水基を持つ樹脂により分散性を付与したものを使用する。特にポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂のアイオノマーや不飽和単量体の乳化及び懸濁重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンが最適である。
【0045】
不飽和単量体の乳化重合の場合、不飽和単量体、重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤、キレート剤、pH調整剤などを添加した水中で反応を行って樹脂エマルジョンを得るため、容易に水分散性樹脂を得ることができ、樹脂構成を容易に替えやすいため目的の性質を作りやすい。
使用可能な不飽和単量体としては、不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリル酸エステル単量体類、(メタ)アクリル酸アミド単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ビニル単量体類、アリル化合物単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類、不飽和炭素を持つオリゴマー類などを単独及び複数組み合わせて用いることができる。これらの単量体を組み合わせることにより柔軟に性質を改質することが可能であり、オリゴマー型重合開始剤を用いて重合反応、グラフト反応を行うことで樹脂の特性を改質することもできる。
【0046】
不飽和単量体を単独で又は複数組み合わせて用い、重合開始剤を用いて樹脂化することにより、柔軟に水分散性樹脂の性質を改質することが可能である。またこのような水分散性樹脂は強アルカリ性、強酸性下では分散破壊や加水分解などの分子鎖の断裂が引き起こされるため、pHは4〜12が望ましい。特に水分散性着色剤との混和性の点からpHが6〜11が好ましく、pHが7〜9がより好ましい。
水分散性樹脂の粒径は分散液の粘度と関係しており、組成が同じものでは粒径が小さくなるほど同一固形分での粘度が大きくなる。インク化した時に過剰な高粘度にならないためにも水分散性樹脂の平均粒子径は50nm以上が望ましい。また粒径が数十μmになるとインクジェットヘッドのノズル口より大きくなるため使用できない。ノズル口より小さくても粒子径の大きな粒子がインク中に存在すると吐出性を悪化させることが知られており、インク吐出性を阻害しないために平均粒子径は500nm以下が望ましく、150nm以下がより好ましい。
水分散性樹脂は水分散性着色剤を紙面に定着させる働きを持ち、常温で被膜化して着色剤の定着性を向上させることが望まれている。そのためには最低造膜温度(MFT)が常温以下で、特に20℃以下であることが望ましい。しかしガラス転移温度が−40℃以下になると、樹脂被膜の粘稠性が強くなり印字物にタックが生じるため、ガラス転移温度が−30℃以上の水分散性樹脂が望ましい。
【0047】
・pH調整剤
pH調整剤としては、インクに悪影響を及ぼさずにpHを7〜11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。
pHが7未満又は11を超えるとインクジェットヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きく、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
前記アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオール等が挙げられる。
前記アルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
前記アンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物などが挙げられる。
前記ホスホニウム水酸化物としては、例えば、第4級ホスホニウム水酸化物などが挙げられる。
前記アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0048】
・防腐防黴剤
防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。
・キレート剤
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等がある。
・防錆剤
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0049】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤などが挙げられる。
・消泡剤
消泡剤としては、シリコーン消泡剤、ポリエーテル消泡剤、脂肪酸エステル消泡剤などが挙げられる。また一般的な消泡剤を併用し、破泡効果を高めるため無機微粒子を多量に含むものを使用する場合は、該消泡剤を用いたインクにおける、粒径0.5μm以上の粗大粒子の含有量を3.0×10(個/5μL)以下とし、かつ粒径が1〜5μmの粒子の前記粗大粒子における量を1個数%以下とする必要があるため、前記無機微粒子を適宜除去する必要がある。
【0050】
上記インクは、着色剤、水溶性有機溶剤(湿潤剤)、界面活性剤、浸透剤、水分散性樹脂、水、及び必要に応じて他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造する。
前記分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシャイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
【0051】
インクの物性には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えばインクの25℃での粘度は3〜20mPa・sが好ましい。粘度を3mPa・s以上とすることにより、印字濃度や文字品位を向上させる効果が得られる。また、粘度を20mPa・s以下に抑えることにより、吐出性を確保することができる。なお、粘度は、例えば粘度計(RL−550、東機産業社製)を使用して測定することができる。
インクの表面張力は、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。表面張力が35mN/mを超えると、記録媒体上のインクのレベリングが起こり難く、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
インクの色には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどが挙げられる。
種々の色のインクを2種以上組み合わせたインクセットを使用して記録を行うと、多色画像を形成することができ、全色併用したインクセットを使用して記録を行うと、フルカラー画像を形成することができる。
【0052】
インクは、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2−51734号公報参照)、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61−59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることによりインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6−71882号公報参照)などのいずれのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも使用できる。
【0053】
<ヘッド構成>
図1、図2は、画像形成装置における記録ユニットを構成する液体吐出ヘッド1の構成を示したものであり、図1は液室長手方向に沿う部分断面図、図2は液室短手方向(ノズルの並び方向)の部分断面図である。
液室吐出ヘッド1は、例えば単結晶シリコン基板を異方性エッチングして形成した流路板11と、流路板11の下面に接合した例えば金属材料層と樹脂材料層で形成した振動板12と、流路板11の上面に接合したノズル板13とを接合して積層し、これらによって、液滴(インク滴など)を吐出するノズル14が連通する流路であるノズル連通路15と液室16と、液室16にインクを供給するための共通液室17に連通するインク供給口18などを形成してある。流路板11と振動板12及びノズル板13は、それぞれ位置決め孔を持っており、これらに接着剤を塗布したのちに同一の位置決めピンに挿入することで位置決め接合される。
ここで、流路板11は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることによりノズル連通路15と液室16となる凹部や穴部を形成したものであるが、単結晶シリコン基板に限られるものではなく、その他のステンレス基板や感光性樹脂などを用いることもできる。
【0054】
振動板12は、ニッケルの金属プレートから形成したもので、例えばエレクトロフォーミング法(電鋳法)で作製しているが、この他に、金属板や金属と樹脂板との接合部材、多結晶シリコン板をエッチングしたものなどを用いることもできる。
ノズル板13は各液室16に対応して直径10〜30μmのノズル14を形成し、流路板11に接着剤で接合してある。このノズル板13としては、ステンレス、ニッケルなどの金属、金属とポリイミド樹脂フィルムなどの樹脂との組み合せ、シリコン、及びそれらの組み合わせからなるものを用いることができる。
ノズル板のノズル面には撥水処理を施している。この撥水処理により、ノズル面の汚れ、吐出曲がり、不吐出等の吐出不良を防止することができる。この撥水処理による撥水膜の形成手段は、真空蒸着でも良いし、適当な溶媒に溶解させて塗布しても良い。
真空蒸着は、例えば、真空雰囲気下でRFグロー放電を起こさせ、プラズマ雰囲気下に前記液体吐出ヘッドのオリフィス面を表面処理して、ノズル面上に撥水膜を形成することができる。なお、材料及び真空槽内の真空度によっては、常温〜200℃程度の低温で撥水膜を形成することもできる。
【0055】
また、塗布については、例えば、撥水性材料を有機溶剤に溶解させ、ワイヤーバーやドクターブレードなどの治具でコーティングする方法、スピンコーターによって回転塗布する方法、スプレー塗布する方法、塗工液を満たした容器に浸漬し塗工(ディッピング)する方法などがある。
撥水性材料としては、フッ素原子を有する有機化合物、特にフルオロアルキル基を有する有機物、ジメチルシロキサン骨格を有する有機ケイ素化合物等が使用できる。また、別の撥水性材料として、シリコン原子を有する有機化合物、特にアルキルシロキサン基を有する有機化合物が使用できる。
撥水膜の膜厚は5μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。膜厚が5μmを超えると、塗膜の乾燥が遅くなり、生産性が悪くなったり機械的耐久性が損なわれたりする場合があり、ワイピングしたときに剥がれが生じるおそれがある。
【0056】
更に液体吐出ヘッド1は、振動板12を変形させて液室16内の液を加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての2列(図2では1列のみ図示)の積層型圧電素子19と、この圧電素子19を接合固定するベース基板20とを備えている。なお、圧電素子19の間には支柱部21を設けてある。この支柱部21は圧電素子部材を分割加工することにより、圧電素子19と同時に形成した部分であるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。また、圧電素子19には、図示しない駆動回路(駆動IC)を搭載したFPCケーブル22を接続してある。
そして、振動板12の周縁部をフレーム部材23に接合し、このフレーム部材23には、圧電素子19及びベース基板20などで構成されるアクチュエータユニットを収納する貫通部24及び共通液室17となる凹部、この共通液室17に外部から液を供給するための液供給孔25を形成してある。このフレーム部材23は、例えばエポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂又はポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成する。
圧電素子19は、圧電材料26と内部電極27とを交互に積層した積層型圧電素子(ここではPZT)である。この圧電素子19の交互に異なる端面に引き出された各内部電極17には個別電極28及び共通電極29が接続されている。また、1つの基板20に1列の圧電素子19が設けられる構造とすることもできる。
【0057】
上記液体吐出ヘッド1においては、例えば圧電素子19に印加する電圧を基準電位から下げることによって圧電素子19が収縮し、振動板12が下降して液室16の容積が膨張することにより液室16内に液が流入し、その後、圧電素子19に印加する電圧を上げて圧電素子19を積層方向に伸長させ、振動板12をノズル14方向に変形させて液室16の容積/体積を収縮させることにより、液室16内のインクが加圧され、ノズル14からインク滴が吐出(噴射)される。そして、圧電素子19に印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板12が初期位置に復元し、液室16が膨張して負圧が発生して共通液室18から液室16内にインクが充填される。そこで、ノズル14のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き−押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与え方によって引き打ちや押し打ちなどを行うこともできる。
【0058】
<画像形成装置>
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドをインクジェットヘッドとして搭載した画像形成装置(インクジェット記録装置)の一例について図3及び図4を参照して説明する。なお、図3は該記録装置の斜視説明図、図4は該記録装置の機構部の側面説明図である。
このインクジェット記録装置は、記録装置本体111の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明に係るインクジェットヘッド、該ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部112等を収納し、装置本体111の下方部には前方側から多数枚の用紙113を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)114を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙113を手差しで給紙するための手差しトレイ115を開倒することができ、給紙カセット114又は手差しトレイ115から給送される用紙113を取り込み、印字機構部112によって所望の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ116に排紙する。
【0059】
印字機構部112は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド121と従ガイドロッド122とでキャリッジ123を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ123にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するヘッド124を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
また、キャリッジ123にはヘッド124に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ125を交換可能に装着している。
インクカートリッジ125は、上方に大気と連通する大気口、下方にインクジェットヘッドにインクを供給する供給口、内部にインクが充填された多孔質体を有し、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
なお、ここでは各色のヘッド124を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ123は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド121に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド122に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ123を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ127で回転駆動される駆動プーリ128と従動プーリ129との間にタイミングベルト130を張装し、このタイミングベルト130をキャリッジ123に固定しており、主走査モータ127の正逆回転によりキャリッジ123が往復駆動される。
【0060】
一方、給紙カセット114にセットした用紙113をヘッド124の下方側に搬送するために、給紙カセット114から用紙113を分離給装する給紙ローラ131及びフリクションパッド132と、用紙113を案内するガイド部材133と、給紙された用紙113を反転させて搬送する搬送ローラ134と、この搬送ローラ134の周面に押し付けられる搬送コロ135及び搬送ローラ134からの用紙113の送り出し角度を規定する先端コロ136とを設けている。
搬送ローラ134は副走査モータ137によってギヤ列を介して回転駆動される。そして、キャリッジ123の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ134から送り出された用紙113をヘッド124の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材139を設けている。この印写受け部材139の用紙搬送方向下流側には、用紙113を排紙方向へ送り出すために回転駆動する搬送コロ141、拍車142を設け、さらに用紙113を排紙トレイ116に送り出す排紙ローラ143及び拍車144と、排紙経路を形成するガイド部材145、146とを配設している。
【0061】
記録時には、キャリッジ123を移動させながら画像信号に応じてヘッド124を駆動することにより、停止している用紙113にインクを吐出して1行分を記録し、用紙113を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙113の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙113を排紙する。
また、キャリッジ123の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド124の吐出不良を回復するための回復装置147を配置している。回復装置147はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ123は印字待機中にはこの回復装置147側に移動されてキャッピング手段でヘッド124をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0062】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド124の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、このインクジェット記録装置では本発明に係るインクジェットヘッドを搭載しているので、コストの低減を図ることができる。
なお、上記実施形態においては、本発明に係る液体吐出ヘッドをインクジェットヘッドとして用いたが、インク以外の液滴、例えば、パターニング用の液体レジストを吐出する液体吐出ヘッド、遺伝子分析試料を吐出する液体吐出ヘッドなどにも適用可能である。
また、上記実施形態では、振動板を有する電気機械変換素子を駆動手段に用いたヘッドについて説明したが、その他の静電型ヘッド、サーマル型ヘッド(但し、振動板はない)にも適用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
(エポキシ樹脂の調製例)
<フッ化エポキシ樹脂1>
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンとエピクロルヒドリンを常法に従って反応させ、融点75℃のエポキシ当量232(g/eq.)のビスフェノールヘキサフルオロアセトンジグリシジルエーテルを得た。

<フッ化エポキシ樹脂2>
1,3−ビス(ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼンとエピクロルヒドリンを常法に従って反応させ、液状のエポキシ当量271(g/eq.)の1,3−ビス(ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼンジグリシジルエーテルを得た。
【0065】
(フッ素系エポキシ接着剤の調製例)
表1の調製例1〜4の各欄に示す材料を用いて、以下の手順でフッ素系エポキシ接着剤を調製した。なお、表1中の数値は重量部である。
まずエポキシ樹脂、フィラー、及び溶剤を混合し、超音波洗浄機で30分間プレ分散した後、一時間攪拌を行って均一に混合した。この混合液に対して溶剤に溶かした硬化剤を添加し、15分間攪拌した。この分散液を細口径5μmのPTFEメンブランフィルターにより加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して調製例1〜4のフッ素系エポキシ接着剤を得た。
なお、表1中の材料の詳細は次のとおりである。
・三菱化学製 エピコート828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂
・三菱化学製 エピコート152:フェノールノボラック型エポキシ樹脂
・三菱化学製 エピキュアDICY15:ジシアンジアミド
・四国化成工業 キュアゾール2Pz:2−フェニルイミダゾール
・EVONIK製 AEROSIL RY200:疎水性コロイダルシリカ
・信越化学製 KBM−403:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0066】

【表1】

【0067】
上記調製例1〜4のエポキシ接着剤の固形分の割合(重量%)及び乾燥固形分中のフッ素含有率(重量%)を表2に示す。
【表2】

【0068】
(インクの調製例)
<ポリマ−溶液の調製>
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。
次にスチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけてフラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50重量%のポリマー溶液800gを得た。
【0069】
<顔料含有ポリマー微粒子水分散体の調製>
上記ポリマー溶液28gとC.I.ピグメントブルー15:3を26g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、顔料分20重量%のシアンポリマー微粒子の水分散体を得た。
【0070】
<顔料樹脂分散液の調製>
ジョンクリル679(BASF社製、分子量7000、酸価200)を7.7g、トリエタノールアミン22.5g、2−プロパノール0.8gと水331gを混合攪拌し溶解した均一な状態とした。そこに、C.I.ピグメントブルー15:3を155g撹拌しながら混合して、ビーズミルにより顔料を2時間分散した。純水483gを添加して超遠心分離機で粗大粒子を除去し、顔料分15.5重量%のシアン顔料樹脂分散液を得た。
【0071】
<インクの調製>
表3の調製例5〜13の各欄に示す材料を用いて、以下の手順でインクを調製した。
まず湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、及び水を混合し、一時間攪拌して均一に混合した。この混合液に対して着色剤を添加し一時間攪拌した。この分散液を0.8μmセルロースアセテートメンブランフィルターにより加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して調製例5〜13のインクを得た。なお、表3中の数値は重量部である。
また、表3中の材料の詳細は次のとおりである。
・花王ケミカル製エマルゲンLS−106:ポリオキシアルキレンアルキルアルコール
エーテル(ノニオン性界面活性剤)
・ビックケミー製BYK−348:ポリエーテル変性シロキサン
(ノニオン性界面活性剤)
【0072】
【表3】

【0073】
(エポキシ接着剤の評価)
上記調製例1〜4のエポキシ接着剤と、上記調製例5〜13のインクを表4に示すように組み合わせ、各エポキシ接着剤の特性を評価した。
【0074】
(i)インク膨潤性
エポキシ接着剤を1mm厚となるように型に流し込み、23℃で減圧(1000Pa)下、1時間乾燥させた。流し込みと乾燥のプロセスを4回繰り返したのち、80℃で減圧(1000Pa)下、24時間乾燥させた。その後、大気圧に戻し、180℃で5時間、反応硬化させて接着剤のブロックを作製した。型から取り外したブロックをインクに浸漬し、50℃で40時間、超音波照射して加速劣化させ、ブロックの膨潤率により次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:膨潤率が5%以下
×:膨潤率が5%を超える

【0075】
(ii)接触角
エポキシ接着剤の硬化物からなる平板に対してインクを3μL滴下し、インクとエポキシ接着剤とで形成される接触角を自動接触角測定装置(DataPhysics製OCA200H)により測定した。

【0076】
(iii)Bステージ性
接着剤を測定用のパンに入れ、乾燥後の乾燥物の200℃までのエポキシ硬化発熱量を計測して評価した。乾燥条件A〔23℃、減圧(1000Pa)、1時間〕と、乾燥条件B(50℃、大気圧、1時間)とのDSCによる発熱量を計測し、次の式により未反応率を算出した。評価基準は下記のとおりである。
未反応率(%)
=(乾燥条件Aの発熱量−乾燥条件Bの発熱量)÷乾燥条件Aの発熱量×100
〔評価基準〕
○:未反応率が90%以上
×:未反応率が90%未満

【0077】
(iv)初期接着性
以下のような剥離強度試験を行った。
幅140μm、長さ2000μmのスリットを150dpiピッチで形成し、このスリット群が4列に配列し、スリット位置が42.3μmずつずれて配置された、幅19mm、厚み40μmの圧延SUS304平板(接着面積率は64.7%)の接着面に対して、エポキシ接着剤を乾燥膜厚で0.5μmになるように塗布し、100℃で3分間、溶剤を揮発乾燥させた。次いで、幅19mm、厚み50μmの圧延SUS304平板と重ね合わせて240cN・mで加圧しつつ加熱し、180℃で5時間で接着硬化させた。
接着したサンプルについて、卓上型材料試験機(オリエンテック社製、テンシロンSTA−1150)により90°方向剥離強度測定20mm/minの速度で5mm剥離させたときの平均剥離強度を測定し、次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:1N以上
△:0.5N以上、1N未満
×:0.5N未満

【0078】
(v)接着信頼性
上記剥離強度試験における硬化接着後、サンプルを50℃で1ヶ月間インクに浸漬した
。次いで、剥離試験を行い、次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:1N以上
△:0.5N以上、1N未満
×:0.5N未満

【0079】
(インクジェットヘッド吐出評価)
図1、図2に示す構造の液体吐出ヘッドの流路板に、調製例1〜4の各接着剤を塗布した後、乾燥させ、半硬化状態(Bステージ状態)とした。次いで、前記流路板とノズル板とを位置合わせして接合し、位置合わせがずれないようにSUS製の治具によりノズル板側と流路板側の両側から加圧しつつ加熱して評価用のインクジェットヘッドを作製した。
これらのインクジェットヘッドについて、表4に示す接着剤とインクの組合せにより、以下のようにして、インク充填性と耐インク信頼性を評価した。

(a)インク充填性
インクジェットヘッドに対して、ヘッドにインクを供給できるように配管し、ノズル面側から50kPaで1分間吸引後、ヘッド面をメンテナンスし適切な負圧を形成して吐出させたときの、吐出率(吐出ノズル数/全ノズル数×100)を次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:吐出率98%以上
△:吐出率90%以上、98%未満
×:吐出率90%未満

(b)耐インク信頼性
インクを充填したインクジェットヘッドを、60℃で3ヶ月間放置し、放置後の吐出速度の状態を次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:全ノズルの吐出速度が放置前の平均に対して±10%未満の場合
×:全ノズルの吐出速度が放置前の平均に対して±10%以上の場合

【0080】
(カール評価)
上記ヘッドを印字装置に取り付け、A4用紙に対して印刷範囲ぎりぎりに設定したベタチャートを記録媒体に打ち出し、印字後、5秒以内に印字面を裏にして平らな面に置いたときの、記録媒体の4隅の平らな面からの高さを測定し、下記評価基準により判定した。記録媒体として、大王製紙社製リサイクルPPCを用い、評価は3回行って最も悪いものを判定値とした。
〔評価基準〕
○:20mm未満
△:20mm以上、40mm未満
×:40mm以上
【0081】
【表4】

【符号の説明】
【0082】
1 液室吐出ヘッド
11 流路板
12 振動板
13 ノズル板
14 ノズル
15 ノズル連通路
16 液室
17 共通液室
18 インク供給口
19 圧電素子
20 ベース基板
21 支柱部
22 FPCケーブル
23 フレーム部材
24 貫通部
25 液供給孔
26 圧電材料
27 内部電極
28 個別電極
29 共通電極
31 金属層
32 樹脂層
33 ダイアフラム部
34 位置決めピン孔
35 液供給孔
111 画像形成装置本体
112 印字機構部
113 用紙
114 給紙カセット
115 手差しトレイ
116 排紙トレイ
121 主ガイドロッド
122 従ガイドロッド
123 キャリッジ
124 ヘッド
125 インクカートリッジ
127 主走査モータ
128 駆動プーリ
129 従動プーリ
130 タイミングベルト
131 給紙ローラ
132 フリクションパッド
133 ガイド部材
134 搬送ローラ
135 搬送コロ
136 先端コロ
137 副走査モータ
139 印写受け部材
141 搬送コロ
142 拍車
143 排紙ローラ
144 拍車
145 ガイド部材
146 ガイド部材
147 回復装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開平2−51734号公報
【特許文献2】特開昭61−59911号公報
【特許文献3】特開平6−71882号公報
【特許文献4】特開2005−220296号公報
【特許文献5】特許第4277898号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出口が形成されたノズル板を、前記吐出口が連通する液室を形成した流路板に接合した液体吐出ヘッドであって、前記ノズル板と流路板とがフッ素系エポキシ接着剤で接合されており、該フッ素系エポキシ接着剤の硬化物と、20〜60重量%のアミド系水溶性有機溶剤、水、着色剤、及び界面活性剤を含有するインクとの接触角が60°以上であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記アミド系水溶性有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び下記一般式(1)の化合物から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【化3】

(上記式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【請求項3】
液滴を吐出する吐出口が形成されたノズル板を、前記吐出口が連通する液室を形成した流路板に接合した液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記流路板に、溶剤を含んだフッ素系エポキシ接着剤を塗布した後、乾燥させ、半硬化状態(Bステージ状態)とする第1のステップ、該フッ素系エポキシ接着剤が塗布された流路板と前記ノズル板とを位置合わせして接合し固定する第2のステップ、該位置合わせして接合した流路板とノズル板を加圧しつつ加熱する第3のステップを順に行うことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−10215(P2013−10215A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143331(P2011−143331)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】