説明

液体吐出ヘッドの駆動方法および液体吐出装置

【課題】液体吐出ヘッドから高粘度インクを吐出させるとともに駆動周波数を高くする。
【解決手段】複数の吐出口2、各吐出口2と連通する複数の流路3、各流路3に設けられた第一のアクチュエータ5、各流路3の第一のアクチュエータ5より吐出口2から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータ6および各流路3が連通する共通液室4を備えた液体吐出ヘッドの駆動方法であって、次の工程を含む。第一のアクチュエータ5による流路収縮させた後に流路3を膨張させて、吐出口2から液体を吐出させる工程。第二のアクチュエータ6の近傍で生じている共通液室4から吐出口2へ向かう液体の流動が消失する前に、第二のアクチュエータ6による流路収縮を開始して、吐出口2よりも内側に位置する液体のメニスカスを吐出口2の外側に突き出させる工程。液体のメニスカスが吐出口2の外側に突き出た状態で、第二のアクチュエータ6による流路膨張を開始する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一つは、アクチュエータを液体吐出エネルギーの発生源とする液体吐出ヘッドの駆動方法に関する。本発明の他の一つは、アクチュエータを液体吐出エネルギーの発生源とする液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関する。本発明は、紙、布、革、不織布等に文字や画像などを印刷する印刷装置や、基板、板材、固体物等に液体を付着させるパターニング装置や塗装装置等に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に代表される液体吐出装置に搭載される液体吐出ヘッドついては種々の提案がなされている。その中でも、アクチュエータを液体吐出エネルギーの発生源とする液体吐出ヘッドは、吐出させる液体(インク)の種類を選ばないというメリットを有している。
【0003】
近年、液体吐出ヘッドから吐出されるインクに含まれている水分による被記録媒体の変形(カールやコックリングなど)を低減するために、インクの水分量を減らした高粘度インクの使用が検討されている。
【0004】
一方、液体吐出エネルギーの発生源として用いられるアクチュエータの代表例であるピエゾヘッドの使用方法には「引き打ち」と「押し打ち」がある。前者は、個別液室を膨張させてから収縮させる吐出方法であり、後者は、個別液室を収縮させてから膨張させる吐出方法である。
【0005】
高粘度インクを吐出させる場合、吐出エネルギーの損失低減の観点から「押し打ち」が好適である。
【0006】
押し打ち方式を採用しながら、第2の圧電素子を設けることによりリフィル性を向上させるとともに吐出効率を向上させ、高粘度インクの高周波吐出を可能とすることを目的とする技術が特許文献1に開示されている。
【0007】
また、押し打ち方式を採用しながら、第2の圧電素子を設けることによりリフィルに要する時間の短縮を図ることを目的とする技術が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−155537号公報
【特許文献2】特開2001−253071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の記載内容を詳細に検討すると、リフィル性が向上するか否か不明な点が多い。すなわち、特許文献1に開示されている技術では、まず、第1の圧電素子に印加する電圧を上げて個別液室を収縮させて液滴を吐出させている。その後、第1の圧電素子に印加した電圧を初期値に戻して、収縮していた個別液室を膨張させて共通液室からのリフィル(インクの引き込み)を発生させている。しかし、共通液室からのリフィルを発生させるときに、吐出口付近のメニスカスが共通液室方向に引き戻されてしまう。さらに、特許文献1によれば、個別液室を膨張させる工程の開始とともに第2の圧電素子に印加する電圧を下げて流路断面を膨張させて共通液室からのリフィル(インクの引き込み)の効率を上げる、とのことである。
【0010】
しかしながら、この直後には第2の圧電素子に印加した電圧を初期値に戻して、膨張させていた流路断面を収縮させている。この点について特許文献1には、流路断面を収縮させることによって個別液室側へインクを押し込むので効果的であると説明されている。
【0011】
本件発明者らの検討によれば、上記第2の圧電素子は流抵抗が小さい共通液室に近い位置に設けられているので、流路断面を収縮させる工程によって個別液室方向よりも共通液室方向へ大部分のインクが押し戻されてしまう。そのため個別液室へのリフィルの効率アップは期待できないと考えられる。
【0012】
さらに、特許文献1に開示されている技術では、メニスカスが吐出口内の初期位置に早期に復帰できるか不明である。メニスカスの早期復帰が成されなければ、駆動周波数の高速化は実現されない。
【0013】
次に、特許文献2の記載内容を詳細に検討すると、リフィル時間が短縮されるか否か不明な点が多い。すなわち、特許文献2に開示されている技術では、共通液室に近い側の第2の圧電素子に印加する電圧を先に上げて流路断面を収縮させている。続いて、第1の圧電素子に印加する電圧を上げて個別液室を収縮させて液滴を吐出させた後に、第2の圧電素子に印加した電圧を初期値に戻して、収縮していた流路断面を膨張させて共通液室からのリフィル(インクの引き込み)を発生させている。さらに、流路断面を膨張させる工程の後に第1の圧電素子に印加した電圧を初期値に戻して、収縮していた個別液室を膨張させている。特許文献2によれば、上記のような工程によって第2の圧電素子によるリフィル流動に対して第1の圧電素子によるリフィル流動が加えられるのでリフィル(インクの引き込み)の効率を上げられる、とのことである。
【0014】
しかし、最後の第1の圧電素子による膨張工程では、吐出方向への復帰過程にあるメニスカスを共通液室側へ引き戻す流動を発生させるので、結果的には個別液室へのリフィルの効率アップは期待できないと考えられる。
【0015】
さらに、メニスカスが吐出口内の初期位置に早期に復帰できるか不明である。メニスカスの早期復帰が成されなければ、駆動周波数の高速化は実現できない。
【0016】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体吐出後のメニスカスを早期に初期位置に復帰させて駆動周波数の高速化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の液体吐出ヘッドの駆動方法の一つは、吐出口、吐出口と連通する流路、流路に設けられた第一のアクチュエータ、流路の第一のアクチュエータよりも吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータおよび流路が連通する共通液室を備えた液体吐出ヘッドの駆動方法であって、次の工程を含む。
(1)第一のアクチュエータによって流路を収縮させた後に流路を膨張させて、吐出口から液体を吐出させる工程
(2)流路の、第二のアクチュエータの近傍で生じている共通液室から吐出口へ向かう液体の流動が消失すると同時にまたは以前に、第二のアクチュエータによる流路の収縮を開始して、吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを吐出口の外側に突き出させる工程
(3)液体のメニスカスが吐出口の外側に突き出た状態で、第二のアクチュエータによる流路の膨張を開始する工程
本発明の液体吐出ヘッドの駆動方法の他の一つは、吐出口、吐出口と連通する流路、流路に設けられた第一のアクチュエータ、流路の第一のアクチュエータよりも吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータおよび流路が連通する共通液室を備えた液体吐出ヘッドの駆動方法であって、次の工程を含む。
(1)第一のアクチュエータによって流路を収縮させた後に流路を膨張させて、吐出口から液体を吐出させる工程
(2)第一のアクチュエータによる流路の膨張開始より後であって、かつ、膨張終了と同時にまたは以前に、第二のアクチュエータによる流路の収縮を開始して、吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを吐出口の外側に突き出させる工程
(3)液体のメニスカスが吐出口の外側に突き出た状態で、第二のアクチュエータによる流路の膨張を開始する工程
本発明の液体吐出装置の一つは、液体が吐出される吐出口、吐出口と連通する流路、流路に設けられた第一のアクチュエータと、流路の、第一のアクチュエータよりも吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータ、流路が連通する共通液室を備えた液体吐出ヘッドと、制御手段とを有する。制御手段は、第一のアクチュエータによって流路を収縮させた後に、第一のアクチュエータによって流路を膨張させて吐出口から液体を吐出させ、流路の、第二のアクチュエータの近傍で生じている共通液室から吐出口へ向かう液体の流動が消失すると同時にまたは以前に、第二のアクチュエータによる流路の収縮を開始させて、吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを吐出口の外側に突き出させ、液体のメニスカスが吐出口の外側に突き出た状態で、第二のアクチュエータによる流路の膨張を開始させる。
【0018】
本発明の液体吐出装置の他の一つは、液体が吐出される吐出口、吐出口と連通する流路、流路に設けられた第一のアクチュエータと、流路の、第一のアクチュエータよりも吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータと、流路が連通する共通液室を備えた液体吐出ヘッドと、制御手段とを有する。制御手段は、第一のアクチュエータによって流路を収縮させた後に、第一のアクチュエータによって流路を膨張させて吐出口から液体を吐出させ、第一のアクチュエータによる流路の膨張開始より後であって、かつ、膨張終了と同時にまたは以前に、第二のアクチュエータによる流路の収縮を開始させて、吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを吐出口の外側に突き出させ、液体のメニスカスが吐出口の外側に突出した状態で、第二のアクチュエータによる流路の膨張を開始させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液体吐出後のメニスカスを早期に初期位置に復帰させて駆動周波数の高速化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用可能な液体吐出装置を示す図であって、(a)は破断斜視図、(b)はブロック図である。
【図2】液体吐出ヘッドを示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図3】(a)は第一のアクチュエータに印加される電圧波形を示す図、(b)は第二のアクチュエータに印加される電圧波形を示す図、(c)は液滴吐出後のメニスカスの突出し高さを示す図である。
【図4】流路内の流動を模式的に示す断面図である。
【図5】液体のメニスカスの位置を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明を適用可能な他の液体吐出ヘッドを示す断面図である。
【図7】本発明を適用可能なさらに他の液体吐出ヘッドを示す断面図である。
【図8】第二の流路の効果を説明するための図である。
【図9】本発明を適用可能なさらに他の液体吐出ヘッドにおける流路内の流動を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の液体吐出ヘッドの駆動方法の実施形態の一例について図面を参照して詳細に説明する。図1(a)は、本発明を適用可能な液体吐出装置の斜視図である。図示されている液体吐出装置に供給された被記録媒体Pは、送りローラ109、110によって液体吐出ヘッドユニット100の記録可能領域へ搬送される。液体吐出ヘッドユニット100は、2つのガイド軸102,107によって、それらの延在方向に沿って移動可能にガイドされており、記録領域を往復走査する。液体吐出ヘッドユニット100の走査方向が主走査方向であり、被記録媒体Pの搬送方向が副走査方向となる。液体吐出ヘッドユニット100には、複数色のインク液滴を吐出するため液体吐出ヘッド1と、それぞれの液体吐出ヘッド1にインクを供給するためのインクタンク101が搭載されている。本実施形態では、ブラック(Bk)用のインクタンク101B、シアン(C)用のインクタンク101C、マゼンタ(M)用のインクタンク101M、イエロー(Y)用のインクタンク101Yの4つが搭載されている。なお、これらインクタンク101の位置は順不同である。
【0022】
図1(b)は、本発明を適用可能な液体吐出装置の構成を説明するためのブロック図である。マイクロプロセッサ形態のCPUはインタフェースを介してホストに接続されており、メモリに格納された情報に基づいて記録動作を制御する。CPUは、出力ポート及びキャリッジモータ制御回路を介してキャリッジモータを動作させることによりキャリッジを移動させる。またCPUは、出力ポートおよび紙送りモータ制御回路を介して紙送りモータを動作させることにより搬送ローラなどの搬送機構を動作させる。さらにCPUは、メモリに格納されている記録情報に基づき制御回路および駆動回路を介して液体吐出ヘッド1の第一のアクチュエータ5および第二のアクチュエータ6を駆動することにより被記録媒体上に所望の画像を記録することができる。
【0023】
液体吐出ヘッドユニット100が移動可能な領域の一端の下部には、回復系ユニット112が配備されており、非記録動作時に液体吐出ヘッド1の吐出口部を回復処理したりする。
【0024】
図2(a)は、液体吐出ヘッド1の平面図である。図2(b)は、液体吐出ヘッド1の断面図であり、図2(a)のA−A線に沿った断面を示している。すなわち、吐出口2を含む断面を示している。
【0025】
図示されている液体吐出ヘッド1では、各吐出口2に連通する流路3に、例えば圧電素子を含む第一のアクチュエータ5と第二のアクチュエータ6が配置されている。この液体吐出ヘッド1は、各々のアクチュエータ5、6に独立して駆動電圧が印加されることによって吐出口2から液滴を吐出させる。なお、各アクチュエータ5、6には駆動電圧を供給するための電極配線(不図示)が設けられている。
【0026】
流路3のうち、吐出口2の中心軸と同じ方向に延びている部分は、長さ6000μm、幅100μm、高さ200μmの直方体(角柱)の形状を有する。また、流路3のうち、吐出口2の中心軸と直交する方向に延びている部分は、長さ800μm、幅100μm、高さ200μmである。なお、吐出口2の中心軸と直交する方向に延びている部分の長さとは、曲がり部から共通液室4の接続部までの長さを意味する。また、この部分には、幅15μmの狭窄部(不図示)が設けられている。
【0027】
図2(b)より、第一のアクチュエータ5が、流路3のうち、吐出口2の中心軸と同じ方向に延びている部分に、その長手方向に沿って設けられていることは明らかである。換言すれば、第一のアクチュエータ5は、角柱の長手方向に沿って設けられている。また、第二のアクチュエータ6が、流路3のうち、吐出口2の中心軸と直交する方向に延びている部分に、その長手方向に沿って設けられていることも明らかである。換言すれば、第二のアクチュエータ6は、角柱の長手方向に垂直な面に沿って設けられている。
【0028】
(実施例1)
本発明について実施例を示してより詳細に説明する。本実施例では、図2に示す液体吐出ヘッド1を作製した。吐出口2は直径10μmの丸穴で、オリフィスプレートの厚みは15μmある。吐出させた液体はクリアインク(PEG600を66%、純水を33%、界面活性剤を1%)であって、粘性40×10-3[Ps・s]、表面張力38×10-3[N/m]である(いずれも室温での値)。
【0029】
本実施例では、高粘度インクの吐出を目的としている。そこで、吐出エネルギーの損失を可及的に低減すべく押し打ち方式を採用した。図3(a)は、第一のアクチュエータ5に印加される電圧の波形図、同図(b)は、第二のアクチュエータ6に印加される電圧の波形図である。また、図3(c)は、液滴が吐出口2から吐出された後に、一旦は吐出口2内に引き込まれた液体のメニスカスが、その後外界側へ突出した高さを示すグラフである。
【0030】
図3(a)(b)の波形図における横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。電圧が上昇すると図2(b)に示す流路3は収縮し、電圧が降下すると流路3はその時点の状態に比べて膨張する。図3(a)(b)の波形図において、電圧が初期位置から立ち上がっている期間(TI期間)では流路3が収縮されており、立ち下がっている期間(T3期間)では流路3が膨張されている。
【0031】
また、図3では、アクチュエータと流体の連成運動による細かな振動は省略してあり、流路3が収縮しているか、膨張しているかにのみ注目して示してある。
【0032】
まず、図2(b)に示す第一のアクチュエータ5への印加電圧を上げることによって、図3(a)中のT1期間で流路3を収縮させて、外界に向けて液柱を突き出す。その後、第一のアクチュエータ5への印加電圧を保持することによって図3(a)中のT2期間にあるような、流路3を収縮させない工程を実行すると、液柱が切断される。切断された液柱は、高粘度が故に複数の液滴にならずに1個の液滴のみを生成する場合もあるし、複数の液滴を生成する場合もあった。吐出量は1ピコリットルであった。
【0033】
また、液柱の切断が、図3(a)中のT3期間での流路3を膨張させる工程中に行われるように制御しても構わない。
【0034】
T1期間〜T2期間の間における流路3内の液体の大まかな流動を図4(a)に示す。第一のアクチュエータ5(図2(b))によって流路3が収縮されるので、吐出口2の方向への流動と、共通液室4の方向への流動が形成される。そして、吐出口2の方向への流動が、液滴の吐出に寄与する。
【0035】
液柱が切断された後は、図5(a)に示すように、流路3内に引き込まれた状態で液体のメニスカスMが形成される。この時点のメニスカスMの位置は流路3内であるために深さは測定できない。従って、図3(c)では鎖線で示した。
【0036】
次に、第一のアクチュエータ5(図2(b))への印加電圧を初期状態に戻す。これによって、図3(a)中のT3期間で流路3を膨張させる。
【0037】
T3期間における流路3内の大まかな流動を図4(b)に示す。第一のアクチュエータ5(図2(b))によって流路3が膨張されるので、吐出口2の方向からの流動と、共通液室4の方向からの流動(図4(b)中の矢印B1)が形成される。
【0038】
このT3期間では、図5(b)に示すように、メニスカスMはさらに流路3内に引き込まれる。
【0039】
次に、第二のアクチュエータ6(図2(b))への印加電圧を上げることによって、図3(b)中のT4期間で流路3を収縮させる。このタイミングは、第一のアクチュエータ5(図2(b))による流路3の膨張による共通液室4の方向からの流動(図4(b)中の矢印B1)が形成されている間であることが好ましい。すなわち、第二のアクチュエータ6の近傍で生じている共通液室4から吐出口2へ向かう流動が消失と同時にまたは以前に、第二のアクチュエータ6による流路3の収縮を開始することが好ましい。こうすることで、共通液室4の方向からの流動(図4(b)中の矢印B1)に、第二のアクチュエータ6による流動を便乗させることができるので(図4(c))、図5(c)に示すように、メニスカスMを早急に吐出口2へ復帰させることが可能となる。
【0040】
このときの第二のアクチュエータ6(図2(b))の収縮は数十〜数百nmのオーダーなので、図4(b)中に矢印B1で示される流動は消失せず、図4(c)中の矢印B2で示す流動として、吐出口2へ向かう流動を維持可能であることを確認している。この確認は、3次元非定常流体シミュレーションによって行った。
【0041】
本実施例では、図3中のT3期間中であって、T3期間終了の5μs前からT4期間を開始した。すなわち、図2(b)に示す第一のアクチュエータ5による流路3の膨張開始より後であって、かつ、膨張終了以前に、第二のアクチュエータ6による流路3の収縮を開始した。
【0042】
第二のアクチュエータ6(図2(b))によって、図3(b)中のT4期間で流路3を収縮させていくことで、図5(d)に示すように、吐出口2よりも内側に位置していたメニスカスM(液柱)を大きく外側(外界)に突き出させる(図3(c))。本実施例では、高粘度のインクを使用しているために、このような操作をしても液柱が千切れたり、液柱から液滴が千切れて飛び出したりはしなかった。
【0043】
最後に第二のアクチュエータ6(図2(b))への印加電圧を初期状態に戻す。これによって、図3(b)中のT5期間で流路3を膨張させる。これにより吐出口2の方向からの流動と、共通液室4の方向からの流動が形成される(図4(d))。吐出口2では図5(d)に示すように、高粘度のメニスカスM(液柱)が外側に突き出ていて、流抵抗が極めて大きいので高粘度のメニスカスM(液柱)がゆっくり流路3の方へ引き込まれる。このため、相対的に流抵抗が小さい共通液室4側から効率良く高粘度インクがリフィルされる。
【0044】
以上の結果、メニスカスMの初期位置への復帰時間は、図3(a)の工程を開始してから80μs後であった(駆動周波数12.5kHz)。
【0045】
以上では、図2(b)に示した位置に、すなわち液体が流路を流れる方向に沿う様に吐出口2があるヘッドを例に説明をした。しかし、図6に示すように、吐出口2が下側にある、すなわち液体が流路を流れる方向に直交する様に吐出口2があるヘッドであっても同様の結果が得られる。
【0046】
(実施例2)
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例で使用した液体吐出ヘッド1は、実施例1で使用したものと同一のものである。吐出させたクリアインクも同じである。よって、以下の説明では、実施例1と共通する事項については説明を省略する。
【0047】
本実施例では、図3(a)中のT3期間終了と同時に図3(b)中のT4期間を開始した。すなわち、図2(b)に示す第一のアクチュエータ5による流路3の膨張開始より後であって、かつ、膨張終了と同時に、第二のアクチュエータ6による流路3の収縮を開始した。
【0048】
第二のアクチュエータ6(図2(b))によって、図3(b)中のT4期間で流路3を収縮させていくことで、図5(d)に示すように、メニスカスM(液柱)を大きく外側(外界)に突き出させる(図3(c))。本実施例では、高粘度のインクを使用しているために、このような操作をしても液柱が千切れたり、液柱から液滴が千切れて飛び出したりはしなかった。
【0049】
最後に第二のアクチュエータ6(図2(b))への印加電圧を初期状態に戻す。これによって、図3(b)中のT5期間で流路3を膨張させる。これにより吐出口2の方向からの流動と、共通液室4の方向からの流動が形成される(図4(d))。吐出口2では図5(d)に示すように、高粘度のメニスカスM(液柱)が外側に突き出ていて、流抵抗が極めて大きいので高粘度のメニスカスM(液柱)がゆっくり流路3の方へ引き込まれる。このため、相対的に流抵抗が小さい共通液室4側から効率良く高粘度インクがリフィルされる。
【0050】
以上の結果、メニスカスMの初期位置への復帰時間は、図3(a)の工程を開始してから85μs後であった(駆動周波数11.8kHz)。
【0051】
これまで説明した液体吐出ヘッドの動作、特に、第一のアクチュエータおよび第二のアクチュエータの動作は、液体吐出ヘッドが搭載された液体吐出装置が備えている制御手段によって制御される。
【0052】
(実施例3)
次に本発明のさらに他の実施例について説明する。本実施例で吐出させたクリアインクは実施例1で使用したものと同一のものである。図7は本実施例に係る液体吐出ヘッド1の概略図である。吐出口2は直径10μmの丸穴で、オリフィスプレートの厚みは15μmある。以下の説明では、実施例1と共通する事項については説明を省略する。
【0053】
図7に示す流路3のうち、吐出口2の中心軸と同じ方向の部分は、長さ6000μm、幅100μm、高さ200μmである。曲がり部から共通液室4の接続部までの流路3の長さは1200μm、幅100μm、高さ200μmであるが、一部に幅15μmの狭窄部が設けられている。第一の開口8の開口面積は600μm×100μmであり、第二の開口9の開口面積は100μm×100μmである。
【0054】
一般に、流路の断面積が急激に変化するような構造は流体ダイオードとしての機能を持つことが知られている。本実施例における第二の流路7に関しても第一の開口8の開口面積と第二の開口9の開口面積とに大きな差があるため、流体ダイオードとしての特性を示す。
【0055】
図8(a)に示したように、第二の流路7を通って、第一の開口8側から第二の開口9側へと液体が流れる場合には、液体は第二の開口9へと滑らかに導かれる。それに対し、図8(b)に示したように、第二の開口9側から第一の開口8側へと液体が流れる場合には、第二の開口9が細いために第二の開口9の周囲の壁面へと流れがぶつかり、それにより発生する乱流により、液体は第二の流路7へ流入し難くなる。この結果、第二の流路7は第一の開口8側からは流れやすいが、第二の開口9側からは流れにくいという流体ダイオード特性を示す。
【0056】
第二の流路7の効果について、図9を用いて説明する。尚、第一のアクチュエータ5および第二のアクチュエータ6はそれぞれ図3(a)および(b)に示すように駆動した。
【0057】
まず、第一のアクチュエータ5への印加電圧を上げることによって、図3(a)中のT1期間において流路3を収縮させて、外界に向けて液柱を突き出す。その後、印加電圧を保持することによって図3(a)中のT2期間にあるような、流路3を収縮しない工程を保持すると、液柱が切断される。吐出量は1ピコリットルであった。また、液柱の切断が、図3(a)中のT3期間での流路3を膨張させる工程中に行われるように制御しても構わない。
【0058】
T1〜T2期間での、各々の流路3、7内の液体の大まかな流動を図9(a)に示す。第一のアクチュエータ5によって流路3が収縮されるので、吐出口2の方向への流動と、共通液室4の方向への流動が形成される。吐出口2の方向への流動が、液滴の吐出に寄与する。
【0059】
第二の流路7は第二の開口9からは液体が流入しにくい構造になっているため、吐出口2の方向への流動にはそれほど影響を与えない。
【0060】
次に、第一のアクチュエータ5の印加電圧を初期状態に戻す。これによって、図3(a)中のT3期間で流路3を膨張させる。このT3期間での、各々の流路3、7内の大まかな流動を図9(b)に示す。第一のアクチュエータ5によって流路3が膨張されるので、吐出口2の方向からの流動と、共通液室4の方向からの流動(図9(b)中のC1)が形成される。第二の流路7は第一の開口8からは液体が流入しやすいため、共通液室4の方向からの流動(図9(b)中のC1)が強められる。この結果、図5(b)に示すようにメニスカスMはさらに流路3内に引き込まれるものの、第二の流路7を設けたことによりメニスカスMが引き込まれる量を実施例1に比べ軽減させることができる。
【0061】
次に、第二のアクチュエータ6への印加電圧を上げることによって、図3(b)中のT4期間で流路3を収縮させ、図5(d)に示すようにメニスカスM(液柱)を大きく外界に突き出させる。
【0062】
本実施例においても実施例1と同様に、図3中のT3期間中であって、T3期間終了の5μs前からT4期間を開始した。
【0063】
図9(c)に示したように、第二のアクチュエータ6による流動は、第一の開口8から第二の開口9へと滑らかに導かれるため、共通液室4の方向からの流動(図9(c)中のC2)が強まる。このため実施例1に比べさらに早急にメニスカスMを吐出口2へ復帰させることが可能となる。
【0064】
さらには、第二の流路7により吐出口2への流動を強めることができるので、メニスカスMを吐出口2へ復帰させるために必要な第二のアクチュエータ6への印加電圧を軽減することが可能となる。
【0065】
最後に第二のアクチュエータ6の電位を初期状態に戻す。これによって、図3(b)中のT5期間で流路3を膨張させる。これにより吐出口2の方向からの流動と、共通液室4の方向からの流動(図9(d))が形成される。吐出口2では図5(d)に示すように高粘度のメニスカスM(液柱)が突き出ていて、流抵抗が極めて大きいので高粘度のメニスカスM(液柱)がゆっくり流路3の方へ引き込まれる。このため、相対的に流抵抗が小さい共通液室4側から効率良く高粘度インクがリフィルされる。このとき第二の流路7は吐出口2に近い方の開口からは液体が流入しにくいため、第二の流路7中にはほとんど流動は生じない。よって、T5期間における第二の流路7によるメニスカスMの引き込みへの影響はほとんどない。
【0066】
以上の結果、メニスカスの初期位置への静定時間は、図3(a)の工程を開始してから70μs後であった(駆動周波数14.2kHz)。
【0067】
(比較例)
次に、実施例1乃至実施例3と対比される比較例について説明する。本比較例で使用した液体吐出ヘッド1は、実施例1で使用したものと同一のものである。吐出させたクリアインクも同じである。よって、以下の説明では、実施例1と共通する事項については説明を省略する。
【0068】
本比較例では、実施例1および実施例2とは逆に、図3(b)中のT3期間が終了して4μs後にT4期間を開始した。
【0069】
第二のアクチュエータ6(図2(b))への印加電圧を上げることによって、図3(b)中のT4期間で流路3を収縮させた。しかし、本比較例では、実施例1と同程度の電圧印加ではメニスカスMを早急に吐出口2へ復帰させることができなかった。
【0070】
ここでは、第一のアクチュエータ5(図2(b))による流路3の膨張に起因する共通液室4の方向からの流動(図4(b)中のB1)が勢いを消失してしまった後に、第二のアクチュエータ6(図2(b))で流路3を収縮させている。このため、第二のアクチュエータ6(図2(b))の収縮による流動の大部分が、流抵抗の小さい共通液室4の方向へ形成されてしまったためであると考えられる。
【符号の説明】
【0071】
1 液体吐出ヘッド
2 吐出口
3 流路
4 共通液室
5 第一のアクチュエータ
6 第二のアクチュエータ
7 第二の流路
8 第一の開口
9 第二の開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が吐出される吐出口と、前記吐出口と連通する流路と、前記流路に設けられた第一のアクチュエータと、前記流路の、前記第一のアクチュエータよりも前記吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータと、前記流路が連通する共通液室とを備えた液体吐出ヘッドの駆動方法であって、
前記第一のアクチュエータによって前記流路を収縮させた後に前記流路を膨張させて、前記吐出口から液体を吐出させる工程と、
前記流路の、前記第二のアクチュエータの近傍で生じている前記共通液室から前記吐出口へ向かう液体の流動が消失すると同時にまたは以前に、前記第二のアクチュエータによる前記流路の収縮を開始して、前記吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを前記吐出口の外側に突き出させる工程と、
液体のメニスカスが前記吐出口の外側に突き出た状態で、前記第二のアクチュエータによる前記流路の膨張を開始する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項2】
前記液体吐出ヘッドとして、前記流路に連通する様に前記第二のアクチュエータの近傍に設けられた第一の開口と、前記流路に連通するように前記第一の開口より前記吐出口に近い位置に設けられ、前記第一の開口より面積が小さい第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口とを連通させる第二の流路と、を有する液体吐出ヘッドを用いる請求項1に記載の液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項3】
前記第一のアクチュエータが設けられた前記流路の部分が直方体を含む角柱の形状を有し、前記第一のアクチュエータが前記角柱の長手方向に沿って設けられ、前記第二のアクチュエータが少なくとも前記角柱の、前記長手方向に垂直な面に沿って設けられた前記液体吐出ヘッドを用いることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項4】
液体が吐出される吐出口と、前記吐出口と連通する流路と、前記流路に設けられた第一のアクチュエータと、前記流路の、前記第一のアクチュエータよりも前記吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータと、前記流路が連通する共通液室とを備えた液体吐出ヘッドの駆動方法であって、
前記第一のアクチュエータによって前記流路を収縮させた後に前記流路を膨張させて、前記吐出口から液体を吐出させる工程と、
前記第一のアクチュエータによる前記流路の膨張開始より後であって、かつ、膨張終了と同時にまたは以前に、前記第二のアクチュエータによる前記流路の収縮を開始して、前記吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを前記吐出口の外側に突き出させる工程と、
液体のメニスカスが前記吐出口の外側に突き出た状態で、前記第二のアクチュエータによる前記流路の膨張を開始する工程と、を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項5】
前記液体吐出ヘッドとして、前記流路に連通する様に前記第二のアクチュエータの近傍に設けられた第一の開口と、前記流路に連通する様に前記第一の開口より前記吐出口に近い位置に設けられ、前記第一の開口より面積が小さい第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口とを連通させる第二の流路と、を有する液体吐出ヘッドを用いる請求項4に記載の液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項6】
前記第一のアクチュエータが設けられた前記流路の部分が直方体を含む角柱の形状を有し、前記第一のアクチュエータが前記角柱の長手方向に沿って設けられ、前記第二のアクチュエータが少なくとも前記角柱の、前記長手方向に垂直な面に沿って設けられた前記液体吐出ヘッドを用いることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項7】
液体が吐出される吐出口と、前記吐出口と連通する複数の流路と、前記流路に設けられた第一のアクチュエータと、前記流路の、前記第一のアクチュエータよりも前記吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータと、前記流路が連通する共通液室とを備えた液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置であって、
前記第一のアクチュエータによって前記流路を収縮させた後に、前記第一のアクチュエータによって前記流路を膨張させて前記吐出口から液体を吐出させ、前記流路の、前記第二のアクチュエータの近傍で生じている前記共通液室から前記吐出口へ向かう液体の流動が消失すると同時にまたは以前に、前記第二のアクチュエータによる前記流路の収縮を開始させて、前記吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを前記吐出口の外側に突き出させ、液体のメニスカスが前記吐出口の外側に突き出た状態で、前記第二のアクチュエータによる前記流路の膨張を開始させる制御手段を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
前記液体吐出ヘッドとして、前記流路に連通する様に前記第二のアクチュエータの近傍に設けられた第一の開口と、前記流路に連通する様に前記第一の開口より前記吐出口に近い位置に設けられ、前記第一の開口より面積が小さい第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口とを連通させる第二の流路と、を有する液体吐出ヘッドを用いる請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
液体が吐出される吐出口と、前記吐出口と連通する流路と、前記流路に設けられた第一のアクチュエータと、前記流路の、前記第一のアクチュエータよりも前記吐出口から離れた位置に設けられた第二のアクチュエータと、前記流路が連通する共通液室とを備えた液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置であって、
前記第一のアクチュエータによって前記流路を収縮させた後に、前記第一のアクチュエータによって前記流路を膨張させて前記吐出口から液体を吐出させ、前記第一のアクチュエータによる前記流路の膨張開始より後であって、かつ、膨張終了と同時にまたは以前に、前記第二のアクチュエータによる前記流路の収縮を開始させて、前記吐出口よりも内側に位置する液体のメニスカスを前記吐出口の外側に突き出させ、液体のメニスカスが前記吐出口の外側に突き出た状態で、前記第二のアクチュエータによる前記流路の膨張を開始させる制御手段を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
前記液体吐出ヘッドとして、前記流路に連通する様に前記第二のアクチュエータの近傍に設けられた第一の開口と、前記流路に連通する様に前記第一の開口より前記吐出口に近い位置に設けられ、前記第一の開口より面積が小さい第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口とを連通させる第二の流路と、を有する液体吐出ヘッドを用いる請求項9に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−126266(P2011−126266A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209251(P2010−209251)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】