説明

液体吐出ヘッド

【課題】簡易な構成で、液体吐出ヘッドの吐出量を広範囲に制御する。
【解決手段】液体吐出ヘッド100は、液体が充填される流路109と、該流路109に充填された液体を吐出する吐出口103と、を有している。そして、液体吐出ヘッド100は、吐出口103の開口面積を調整する開口面積調整手段である柱状部材112をさらに有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術は、パターニングを行う場所にインクを吐出して直接描画する技術である。そのため、材料の使用効率が極めて高く、画像形成の工程が少ないという利点がある。したがって、ランニングコストが低く、産業用のパターニング技術として有望視されている。
【0003】
インクジェット方式の液体吐出ヘッドとしては、特許文献1に記載されているカイザー型、あるいは特許文献2に記載されているサーマルジェット型が広く知られている。カイザー型の液体吐出ヘッドは、小型化が難しい。また、サーマルジェット型の液体吐出ヘッドは、インクを加熱して発砲することでインクを吐出する。そのため、インクの耐熱性に対する要求が必要とされている。また、産業用として安定的にコンパクトな液体吐出ヘッドを製造することは困難である。
【0004】
また、液体吐出ヘッドの別の例として、特許文献3に開示されているように、インクを吐出して記録媒体に記録を行う、グールド方式の記録ヘッドがある。図4は、特許文献3に記載のグールド方式の記録ヘッドの構成部品の構造を示す模式的断面図である。
【0005】
記録ヘッド400は、例えばガラスから形成された円筒状部材401を有する。円筒状部材401は、一方の端部に近づくとともに絞られた形状となっており、当該一方の端部近傍がノズル402になっている。円筒状部材401の一方の端部には、インクを吐出する吐出口(オリフィス)403が形成されている。また、円筒状部材401の他方の端部は、円筒状部材401の内部にインクを供給するための供給管411と連通している。
【0006】
この円筒状部材401の所定位置、つまり、供給管411と吐出口403との間の位置に、直径0.1〜1.0mm程度の細長い円筒形状の電気熱変換体404が設けられている。電気熱変換体404としては、圧電素子(アクチュエータ壁)が用いられる。圧電素子を加圧ポンプとして機能させることによって、ノズル402からインク滴が吐出する。
【0007】
円筒形状の圧電素子の内面には内面電極406が、圧電素子の外面には外面電極407が、設置されている。それぞれの電極406,407は、リード線を介して、駆動電圧を印加するパルス発生器に接続されている。
【0008】
内面電極406と外面電極407との間に電圧を印加すると、円筒形状の圧電素子は、内部の空間(圧力室)が小さくなるように変形する。これにより、円筒状部材401が収縮して、円筒状部材401の内部の圧力が増加する。この円筒状部材401の収縮によって、円筒状部材401の内部の空間である圧力発生部409に充填されているインクが、吐出口403から吐出される。また、圧電素子に印加されている電圧を除去すると、圧電素子は元の形状に戻る。
【0009】
特許文献3に記載されたグールド方式の記録ヘッドにおいては、吐出される液滴の量(以下、「吐出量」と呼ぶ。)の制御は、圧電素子に印加するパルス電圧(正電圧)の大きさの制御によって行われる。
【0010】
特許文献4では、複数の液体噴射ヘッドに対する吐出特性の差にかかわらず、吐出量の可変範囲を均一化し、安定した記録を行うことを目的とした液体噴射記録装置が開示されている。この目的のため、特許文献4では、複数の液体噴射ヘッドの吐出口(オリフィス)において、インクのメニスカス後退量を共通に生じさせることが記載されている。これを実現するため、各々の液体噴射ヘッドの吐出特性に応じて、圧力室を膨張させる負のパルス電圧(第1の信号)を圧電素子に印加した後、圧力室を収縮させる正のパルス電圧(第2の信号)を圧電素子に印加する。このような電圧の制御によって、吐出量が制御される。
【特許文献1】特公昭53−12138号公報
【特許文献2】特公昭61−59914号公報
【特許文献3】特公平03−040712号公報
【特許文献4】特公平06−077992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に記載の液体吐出ヘッドでは、正電圧の大きさを制御して、吐出量を調整している。しかし、正電圧の大きさの制御によって生じる圧電素子の形状変化には限界があるため、吐出量の制御範囲が狭いという課題がある。
【0012】
また、インクによる微細なパターニングを実現するためには、図4に示す構成の記録ヘッド400を複数個配列させる必要がある。しかし、複数の記録ヘッドからインクを吐出させる場合、各々の記録ヘッドの吐出特性にばらつきが発生し、各々の記録ヘッドからの液体の吐出量が変わってしまうという課題がある。この課題は、圧電素子の電気特性、圧電素子と円筒状部材401との接着状態のばらつき、ノズル径または吐出口径のばらつきなどに起因して生じる。
【0013】
特許文献4に記載の液体噴射ヘッドでは、正と負の二つの駆動電源が用いられている。そして、各々の液体噴射ヘッドの吐出特性に応じて、負のパルス電圧を圧電素子ごとに印加する必要があるために、駆動回路が複雑化してしまうという課題がある。また、各々の液体噴射ヘッドから液体を吐出させる場合、各々の液体噴射ヘッドで吐出特性にばらつきが発生し、吐出量にばらつきが生じるという課題がある。
【0014】
本発明の目的は上記背景技術の課題の少なくとも一つを解決できる液体吐出ヘッドを提供することである。その目的の一例は、簡易な構成で、吐出量を広範囲に制御することができる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題の少なくとも1つを解決するため、本発明の液体吐出ヘッドは、液体が充填される流路と、流路に充填された液体を吐出する吐出口と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、吐出口の開口面積を調整する開口面積調整手段をさらに有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で、液体吐出ヘッドの吐出量を広範囲に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明に係る液体吐出ヘッドは、液体を吐出する液体吐出装置に好適に用いることができる。このような液体吐出装置としては、電子装置や半導体装置の製造分野において、基板に液体を吐出して所望のパターンを形成するパターニング装置を挙げることができる。あるいは、記録用紙やプラスチックシートなどの記録媒体に、例えばインクのような液体を吐出して記録を行う記録装置にも本発明は適用可能である。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成を示すための模式的断面図である。本実施形態に係る液体吐出ヘッド100は、筒状部材101と、吐出エネルギー発生素子と、を有している。
【0019】
筒状部材101の一方の端部近傍は、先細りの形状となっており、ノズル102を構成している。また、筒状部材101の一方の端部には、吐出口103が形成されている。筒状部材101の内部は、例えばインクのような液体の流路109となっている。吐出口103は、流路109の内部に充填されている液体を吐出するための開口である。
【0020】
吐出エネルギー発生素子は、吐出口103から液体を吐出するためのエネルギーを発生する素子である。吐出エネルギー発生素子としては、圧電素子(アクチュエータ壁)104を用いることができる。圧電素子104は筒状であって、流路109を構成する筒状部材101の周囲を取り囲むように形成されている。圧電素子104は、例えば、チタン酸ジルコン酸亜鉛(PZT)から形成することができる。
【0021】
圧電素子104の内周面には第1の電極106が形成されており、圧電素子104の外周面には第2の電極107が形成されている。第1の電極106は、筒状部材101に接合されている。
【0022】
第1及び第2の電極106,107は、リード線108を介して、駆動電圧を印加するパルス発生器105に接続されている。パルス発生器105によって、第1及び第2の電極106,107に電圧を印加することで、圧電素子104の形状が変化する。
【0023】
筒状部材101の他方の端部は、液体供給管111と連通している。この液体供給管111を通って、流路109に液体が充填される。圧電素子104の形状変化にともなって流路109の内部圧力は増大する。これにより、流路109に充填された液体は吐出口103から吐出される。
【0024】
液体吐出ヘッド100は、吐出口103の開口面積を調整する開口面積調整手段をさらに有している。本実施形態において、開口面積調整手段は、流路109の内部に配された柱状部材112である。柱状部材112は、吐出口103の少なくとも一部を塞ぐように、流路内を移動可能に構成されている。
【0025】
本実施形態では、柱状部材112は、液体の流入側から吐出口側に向かって延びた形状となっている。そして、柱状部材112の他端部側に、柱状部材112の移動を制御する移動制御機構113が備えられている。
【0026】
柱状部材112の一方の端部は先細り形状112aとなっており、当該一方の端部は吐出口103側に向けられている。そして、柱状部材112は、流路109に沿った方向に移動可能に構成されている。具体的には、柱状部材112は、一方の端部が吐出口103よりも流路109の内部側に位置する状態と、一方の端部が吐出口103から突き出た状態と、の間を移動可能に構成されている。
【0027】
次に、液体吐出ヘッド100の各構成部の寸法や材料などについて、具体的な一例を挙げて説明する。流路109の長さは10.0mmである。ノズル102の吐出口103側の径は40μm、流路側の径は0.26mmであり、ノズルの長さは0.40mmである。筒状部材101は円筒形状であり、ガラス管から構成されている。このガラス管の外径は0.66mm、内径は0.56mmである。筒状部材101の周りに配されている圧電素子104は、PZTの層で構成されている。圧電素子104の長さは8.0mm、外径は1.15mm、内径は0.72mmである。
【0028】
柱状部材112の一方の端部は、先細り形状112aになっている。つまり、柱状部材112の一方の端部近傍は略円錐形状となっている。柱状部材112の一方の端部近傍以外の領域では、柱状部材112の径は30μmである。
【0029】
図2(a)〜(d)は、柱状部材112の移動の様子を説明するための概略図である。柱状部材112の一方の端部が、吐出口103よりも流路109の内部側に位置している場合(図3(a)参照。)、吐出口103の開口面積Sは最大値(S0)となる。本実施形態では、この最大値S0は1.26×10-92である。
【0030】
図2(b)または図2(c)に示されているように、移動制御機構113によって、柱状部材112の一方の端部が吐出口から突き出るまで移動した場合、吐出口103は中空の円形状(アニュラス)となる。柱状部材112の一方の端部は略円錐形状となっているため、注状部材が吐出口側に移動するほど、吐出口103の開口面積は小さくなる。図2(b)では、柱状部材112の一方の端部が吐出口103まで移動しており、吐出口103の開口面積S(=S1)が、最大値S0よりも若干小さくなっている(S1<S0)。
【0031】
さらに、図2(c)では、柱状部材112の一方の端部が吐出口103から突き出ている。この場合、吐出口103の開口面積S(=S2)は、図2(b)の場合における開口面積S1よりも小さくなっている(S2<S1)。
【0032】
また、図2(d)は、柱状部材112の一方の端部を、移動領域の最端部まで移動させた状態を示している。この場合、吐出口103の開口面積S(=S3)は、最小値をとる(S3<S2)。本実施形態では、吐出口103の開口面積の最小値S3が5.50×10-102となるように、液体吐出ヘッド100が構成されている。
【0033】
上記のように、柱状部材112の位置を調整することで、吐出口103の開口面積を高精度に制御することができる。したがって、柱状部材112の位置を制御することによって、所望量の液体を吐出することができる。このように、吐出口103の開口面積を直接制御することによって、簡易な構成で、液体吐出ヘッドの吐出量を広範囲に制御することができる。
【0034】
本実施形態では、柱状部材112は磁性体を含んでいる。さらに、移動制御機構113は、電磁石と、電磁石を駆動する手段と、を有している。本構成によれば、電磁石の磁力を制御することによって、磁性体である柱状部材112の位置を調整することができる。これにより、流路109の内部の柱状部材112を容易に制御することができる。
【0035】
次に、上記の液体吐出ヘッド100について、吐出口103の開口面積と、当該吐出口103から吐出される液体の吐出量と、の関係を測定した結果について説明する。この関係を測定するために、25℃における粘度が1.8mPa・s、表面張力が45mN/mである液体を使用して、実験を行った。
【0036】
図3は、上記の実験によって得られた、吐出口103の開口面積と液体の吐出量との関係を示すグラフである。なお、吐出量は、吐出口103から吐出した液滴の大きさから、体積に換算することによって測定した。グラフを参照すると、吐出口103の開口面積を制御することによって、液体の吐出量を4.2pl〜50plの範囲で制御することができた。このように、本実施形態の液体吐出ヘッド100は、非常に広範囲に吐出量を制御することができる。
【0037】
以上、本発明の一実施形態における液体吐出ヘッドに関して詳細に説明したが、本発明の液体吐出ヘッドは、上記の実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、流路109を構成している筒状部材101は円筒形状に限らず、例えば四角柱形状のような任意の筒状であって良い。
【0038】
また、本発明を、複数のノズルを有するマルチノズルタイプの液体吐出ヘッドに適用することも可能である。この場合、図1及び図2に示すヘッドを複数配列してなる液体吐出ヘッドを構成すれば良い。これによれば、ノズル毎に吐出量を制御することが可能となる。そのため、液体吐出ヘッド毎に吐出特性が異なっていたとしても、各々の吐出口103の開口面積を制御して、各々の液体吐出ヘッドから一定量の液体を吐出することができる。これにより、安定的な吐出を行なうことができる。
【0039】
上記の実施形態では、吐出エネルギー発生素子として圧電素子を用いた、グールド方式の液体吐出ヘッドについて説明したが、本発明の液体吐出ヘッドはこれに限定されない。例えば、吐出エネルギー発生素子として発熱素子を用いた液体吐出ヘッドであっても良い。この場合、流路109に充填されている液体は、熱による発泡によって、吐出口から吐出される。
【0040】
以上、本発明の望ましい実施形態について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成を示す模式的断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、図1の液体吐出ヘッドが有する柱状部材の移動を説明する概略図である。
【図3】図1の液体吐出ヘッドについて、吐出口の開口面積と吐出量との関係を示すグラフである。
【図4】特許文献3に記載の液体吐出ヘッドの構成を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0042】
100 液体吐出ヘッド
101 筒状部材
102 ノズル
103 吐出口
104 圧電素子
109 流路
111 液体供給管
112 柱状部材
112a 先細り形状
113 移動制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填される流路と、該流路に充填された前記液体を吐出する吐出口と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記吐出口の開口面積を調整する開口面積調整手段をさらに有していることを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記開口面積調整手段は、前記流路の内部に配されており、前記吐出口の少なくとも一部を塞ぐように、前記流路内を移動可能に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記開口面積調整手段は、一方の端部が先細り形状をした柱状部材であり、
前記柱状部材の前記一方の端部は前記吐出口の方へ向けられており、
前記柱状部材は、前記一方の端部が前記流路の内部側に位置する状態と、前記一方の端部が前記吐出口から突き出た状態と、の間を移動可能に構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記柱状部材は磁性体を含んでおり、
前記柱状部材の移動を制御する電磁石を有することを特徴とする、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記吐出口から前記液体を吐出するためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子をさらに有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記吐出エネルギー発生素子は、前記流路を構成する筒状部材の周囲に形成された圧電素子であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−143011(P2010−143011A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321034(P2008−321034)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】